狼が斬る   作:hetimasp

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教え子でも、子供は子供。


02 教え子

狼は例の出来事から実戦形式というものから外され、忍術剣術の教育係となっていた。

黒く長い髪と赤い目が特徴的なアカメと、仲間を雑魚といいながらも仲間想いなナハシュには天狗という偽りの身を持っていた葦名一心より伝授された葦名流の剣術や己の忍びの技。

チームの姉的な存在であるコルネリア、快活な少女ポニィ、力自慢のガイには仙峯寺拳法などの体術関連。

知的な雰囲気の少年のグリーンと心優しい少女のツクシには薬師のエマより教えられた薬の知識等。

それぞれに合った技を教えていた。

初めこそ不愛想な狼を警戒していた子供たちであったが、すぐに彼が優しい人物だと分かるとよく懐いた。

狼は昔、仏師がエマを拾ったときに懐かれたと少し嬉しそうに言っていたが、狼も悪くは思わなかった。

「先生」

そう呼ぶのはアカメとツクシである。

この声はアカメだなと思い、狼は薪を割る手を休める。

普段は子供たちの前で一通りの技を見せ、その後こうした作業を行っている。

「どうした・・・」

振り返るといつもとは違う装いのアカメがいた。

いつもは同じ服装だったが、今は可愛らしい服を着ている。

年ごろの少女はこんな格好をするのだろうと狼は思った。

「どうでしょうか」

「似合っている・・・」

不愛想に返す狼だが、アカメにはそれが狼なりの感情表現なのだと理解している。

「そうですか。村のマーサにいただいたんです」

はにかむように笑うアカメを見て、狼は眉間のしわを薄くする。

だが、彼女たちは近いうちに初の任務が来る。

ほんの一か月にも満たない時を過ごした狼だったが、悪くない時間だったと思っている。

九朗も同じように過ごしているのだろうか。

狼にはそれが気がかりだったが、手段のない今、できることをやるだけである。

彼の教え子たちは皆暗殺者となる。

出自が親から売られてしまった子や、親すらいなかった子供などだが、狼は彼らを好いている。

「アカメ・・・」

「はい?」

「迷えば敗れる・・・」

かつて一心より言われた言葉だった。

この混迷を極める世の中、近いうちに戦場となるであろうことは狼の目から見ても明らかであった。

「かつて、国盗りを為した剣聖の言葉だ」

「剣聖の?」

「・・・ああ」

剣聖、葦名一心。

竜胤の力を国のために使うことを厭い、狼を陰ながら助力してくれた存在である。

最期には葦名弦一郎の持つもう一振りの不死斬りで黄泉がえり、狼と死闘を繰り広げた。

「先生。それは一体」

「・・・話は終わりだ・・・」

狼は薪割を再開する。

既にゴズキより通達を受けているが、彼女、アカメの標的はマーサである。

心優しいアカメは必ず迷うだろう。

しかし、それでは死んでしまうのだ。

狼は、誰も死んでほしくないと思っている。

だが現実はそうはいかない。

「アカメ・・・」

「なんでしょう先生」

「死ぬな・・・」

「・・・はい」

 

 

「言いたいことがあるのか・・・」

薪割を再開した狼は虚空に向けて声を掛ける。

すると物陰からゴズキがやや不機嫌そうな顔をして出てきた。

「あるに決まっているだろ。もうそろそろ初陣だってのにあんなこと言われたら」

「・・・・・」

「やれやれ。まあ悪いアドバイスじゃなかったと思うぜ。狼」

ゴズキは頭をかきながら不愛想な狼の隣に座る。

ほんのわずかな時間を過ごしただけだが、この狼という人間はどこか憎めない性格をしていると思っていた。

「・・・乱れるぞ・・・」

「何?」

「戦が近い。この国には既に幾人ものネズミが入っていた・・・」

ネズミが入っていた。

狼が過去形で言ったということは既にそのネズミは存在しないのだろう。

つくづく面白い男だとゴズキは思った。

「だからこうして暗殺部隊を作ったのさ」

「・・・・・」

「いずれこの国も自浄作用で良くなっていくさ。大臣だってあんなだが、たった一人が出来ることなんてたかが知れている」

「・・・故にだ」

「?」

「この国は終わりを迎えようとしている。葦名と同じように、限界が来ているのだ」

「・・・今日はよくしゃべるな」

「・・・そうだな。ゴズキ殿」

狼は井戸から桶を上げて、中にあった瓶を掴む。

「酒だ・・・」

「・・・本当に」

面白い男だよ。

その言葉は虚空に去って行った。

 

 

「さあお前たち。準備が整ったんでいよいよ初任務を与えるぜ!」

ゴズキはそう口火を切った。

その隣で狼はいつも通り不愛想にしているだけだった。

この短い期間で七人は成長をしている。

特にアカメとナハシュは狼の技術を真綿のように吸い取っていった。

奥義とまではいかないが、攻撃を流れる水のごとく流せるようになった。

しかし、アカメの心構えが未だに心配である。

彼女に親交のある人間を殺すことが出来るだろうか。

ちらりとアカメの様子を見るが、気を張っているようにしか見えない。

あのゴズキから渡された封を解いたとき、彼女はどう思うのだろうか。

心配は尽きなかったが、見送るしかない。

彼女は、暗殺者に向いているが向いていない。

まるで己のようであった。

初の任務に子供たちを送り出した後、ゴズキは眉間にしわを寄せる狼を見て苦笑いを浮かべる。

この男なりの心配の顔のようだった。

「俺たちは待っているだけだ。こいつはあいつらの任務。いわば試験なんだから手出しは無用だぜ」

「・・・・・」

不愛想な狼は何も言わずに酒瓶を取り出した。

次いで盃も。

どうやら飲めということらしい。

忍びだが、酒に毒を盛るような男ではないことを知っているゴズキはその盃を受け取った。

「アカメを引き取ったとき、あいつは妹と一緒だった」

「・・・・・」

「あいつの家族に対する熱意は本物だ。なにせ、危険種がいる森の中を妹かついで出てきたんだ」

「・・・そうか・・・」

「そうだよ。だからあいつは死なない」

「?」

「家族を一人にはしないってことさ。あいつはそんな奴じゃない」

「・・・そうか」

ようやく眉間のしわを薄くした狼はゴズキと一緒に酒を飲んだ。

葦名にいたころは振舞ってばかりだったが、こうして共に飲むのも悪くはない。

「斬った相手に」

狼は自然と口に出していた。

「葦名弦一郎という男がいた」

「葦名?」

「当時の、葦名の当主だ」

「へぇ」

「葦名の国のため、御子様を利用しようと画策し、一時、御子様を奪われてしまった」

葦名を守ろうとするがためになんでも利用しようと足掻いた男の顛末。

変若水を飲み、さらにはもう一振りの不死斬りを手に再度立ちふさがってきた宿敵。

だが、その最期は皮肉にも狼と同じものだった。

「死闘の果て、辿り着いた場所がこのような場所とは・・・思ってもいなかった」

「そうだろうな。俺だってそんな生涯送って別の国で忍びをやっているなんて思いもよらないぜ」

「・・・しゃべりすぎたな」

「はは。いいじゃねぇか。たまにはよ。お前さんはたまにそうして喋った方がいいんだよ」

「・・・そうか・・・そうだな」

しばらくゴズキと狼は飲み続け、そうしている間に全員帰ってきた。

アカメは負傷しているようだったが、大事に至るような傷ではなかった。

それを確認した狼はようやく安堵するのであった。

 

 

帰ってきたアカメは落ち込んでいるように見えた。

いや、間違いなく落ち込んでいたのだろう。

何せ、親しい人間に手をかけたのだから。

「アカメ・・・」

「先生・・・」

「よく生きて帰った・・・」

狼にはそれ以上の慰めの言葉が見当たらなかった。

もし、薬師のエマが人返りの方法を探してくれなければ狼は自らの主に手をかけなければならなかっただろう。

そう考えるとアカメの気持ちは非常に重いものだと予想はできた。

「私は・・・正しいことをしたんですよね」

「・・・・・」

「なのに、嬉しくないんです」

「・・・・・」

「私は・・・私は・・・」

唐突に笛の音が鳴った。

まるで悲しい、しかし落ち着くような不思議な音色だった。

「昔、仏師殿から仕込んでいただいた指笛『泣き虫』。どうだった・・・」

「えと。不思議な音でした」

「そうだな。仏師殿は怨嗟が降り積もる先であった・・・」

「怨嗟?」

「怨嗟の炎。己が斬った・・・」

「え?」

「仏師殿が望んでおられたのだ。怨嗟の鬼となった仏師殿は、もう一人に斬らせまいと、己に・・・」

「・・・・・」

「アカメ。お前が斬らねば、己が斬っていた」

「!?」

「結末は同じである。よく生きて帰った・・・」

狼は知っていた。

マーサはスパイではなく、しいて言うなら帝国側の人間であることを。

彼女は望んでいたのだ。

アカメに斬られることを。

狼はもう一度『泣き虫』を吹いた。

そして音色が響き終わるころにはその場を後にしていた。

 




狼さんは基本的に優しいと思います。
どこか抜けているとも・・・。
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