狼が斬る   作:hetimasp

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国盗り戦の葦名衆、その名を刻め。


36 処刑台の戦い

「隻狼。タツミには恋人が出来ていたらしい」

エスデスは狼に漏らす。

「はっきり言って動揺した。だが、よく考えれば奪い取ればいいだけの事。いつも私がそうしてきたように」

「・・・・・・」

「つい先ほど、大臣の息子が死んだらしいな」

「は」

「そしてナイトレイドの一人が脱獄した」

「・・・・・・」

「堅い表情になるな。私は楽しみにしているのだ。お前と殺しあえる日が来ることを」

「それがお望みならば、その時に・・・」

「ああ。頼む」

ほんの短い間だけであったが、悪くない主従であったとエスデスは思った。

それは今まで思ったことのない感情であったが、どこか心地よいものだった。

「エスデス様・・・次は戦にて・・・」

「律儀な奴だ。だからかもな。お前を気に入ったのは」

「もったいなきお言葉・・・」

「さあ。行け。お前のことだ。他の面子にも挨拶をして回るのだろう。大臣の息子が死んだということはすぐにお前の仕業だと分かる。その前に済ませろ。後のことは私が何とかしてやる」

「は」

狼はそのまま月夜に消えていった。

「悪くなかった。また会おう」

エスデスは消えた狼に向けて礼を言った。

 

 

心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

シュラ。

今はその残滓のみが残り、記憶は確かに狼の糧となった。

彼は親であるオネストに認められ、いつか超えるために切磋琢磨したが、その方向は間違っていた。

彼は触ってはいけない逆鱗に触れ、狼に斬られた。

 

 

「狼さんが帝国を抜ける!?」

狼はイェーガーズの詰所にいた。

先ほどエスデスと会話した通り、帝国を抜けることにしていた。

それは陛下も認めているとも。

「先生・・・」

「クロメ。お前は正気を失っていたが、今また元に戻ろうとしている。こらえよ。そして仲間を頼れ。己の為すべきことを為すのだ」

狼は優しくクロメの頭に手を置くと、ウェイブらに目を向ける。

「大臣の息子、シュラは殺した。残るは二人だけだが油断するな。エスデス様とは・・・いずれ己が決着をつけることになるであろう」

「そんな。狼さんが悪いわけじゃ」

「己の掟故。陛下も我が生涯の主の忍びとして生きよと言ってくださった。己はそのようにするだけ」

「寂しくなりますね」

「はい。狼さんには返しきれない恩があります」

「己は本来ここにいない存在。淀み。感謝するのは己の方だ」

ありがとう。

狼はそういって素早く部屋を出て行く。

流石にグリーンたちのところへ向かう余裕はないと判断し、宮殿の屋根を鉤縄で伝いながら帝都を脱出した。

 

 

革命軍本隊は剣聖葦名一心を筆頭に帝都へ向けて順調すぎる程の進軍を見せた。

国盗り戦の葦名衆が筆頭の一心によって率いられた軍は士気が高く、地方の帝国軍では相手になるわけもなかった。

さらには民から物資を進んで献上されたことによって兵站も強固なものとなっていた。

ナジェンダが早くから取り付けていた内応以外にも無血開城をする城が多く。

戦らしい戦はほとんどなかったという点もある。

こうして革命軍は残るは要害シスイカンを抜けば帝都というところまで来ていたが、そこに待っていたのはブドー率いる近衛兵による要塞だった。

相手は決して打ってでず、守りに徹しているため膠着状態に陥ってしまったのだ。

「こうして、共に肩を並べて戦うことになろうとはな。カカカッ。面白くなってきたな鼠!」

「チェルシーです。でも本当に信頼できるんですか。ついさっきまで帝国についていた人間ですよ」

「フン。こやつはそんなもので動いてはおらん。未だ消えぬ主従の絆に己を縛り付ける。それがお主よのう。隻狼」

「は」

狼は革命軍の筆頭となった葦名一心に跪いている。

チェルシーは未だに狼の殺気に恐怖しているのか、警戒をしているようだった。

「お主がひと時でも仕えていたというこの国の主に、命を受けてきたか」

「は。御子様の忍びであるように振舞えと」

「カカカッ。そうか。一度会ってみたいが、今はそうも言っていられぬか」

一心はチェルシーに促して報告を聞かせる。

「タツミが公開処刑されることになりました。当日の処刑担当は帝国の二大巨頭のエスデスとブドーです」

「聞いたか。タツミはこの軍にとって柱となるほどの活躍をしている。本来ならば士気の低下を見ても見捨てねばならんが・・・」

鋭い視線が狼を射抜く。

「お主がこうしてやってきた。ならば儂が命じるのは一つ。タツミを助けよ。かつて葦名という国を一つ相手にしたお主ならば何ということもなかろう。隻狼よ」

「御意」

「御意・・・か。カカカッ。帝国で面白い巡り合わせがあったと見える。よおし。儂も参ろう!エスデスとはまだ決着がついておらなかったからな!」

「ちょ、革命軍の筆頭が何を言っているのですか!あなたが万一倒れたら士気が下がるどころじゃなくなりますよ!」

「言ったであろう。儂と隻狼はこの世の淀み。本来はいてはならない存在。儂と隻狼が倒れたとしても対して結果は変わらぬであろうよ」

「変わります!」

「ええい!聞かん奴じゃ!隻狼!すぐにここを出るぞ!」

ドタバタとした革命軍の陣を抜け出した一心と狼はタツミの処刑場へと向かうのであった。

 

 

「ふむ?お主ら何をやっておる」

「それを言うのはこちらです。一心殿。何故、革命軍の筆頭であるあなたがここへ?それに狼も連れて」

狼たちは処刑場へ行く最中、ナイトレイドのメンバーと偶然出会った。

中にラバックとマインはいないようだったが、ナジェンダとレオーネ、アカメがその場に待ち構えるようにしていたのだ。

「決まっておろう。タツミを助けるため、エスデスとの戦いに決着をつけんがためよ」

「・・・はぁ。あなたは立場を分かっておられないのですか」

「何度も同じことを言わせるでない。じゃが、お主らも似たようなものではないか」

「・・・私たちがタツミを助けると?」

「違うか?」

「・・・かないませんね」

ナジェンダは諦めたように言うと同時に、マインがこちらへやってくるところを確認した。

「はーい。先回り成功!」

レオーネが冗談めかして言った。

「おう!遅かったな!小娘!」

「な、何で」

「ナイトレイドを脱退します・・・こんな手紙を書き残して帝都へ突撃とは豪快な思考だな」

「ふむ?小娘。お主一人で行こうとしていたのか?」

一心はタツミとマインが恋仲であることを知らない。

狼はタツミに恋の相手がいることは知っていたが、それがマインであったということまでは分かっていなかった。

「カカカッ。その意気!天晴!じゃが、その戦、儂らも参加させてもらおうか」

「!」

「既に決めたこと・・・」

狼は静かに言った。

「そういうことだ。覚悟はいいな」

ナジェンダが告げると、マインは笑みを浮かべて頷いた。

「よおし!では行くぞ!」

そういって馬を走らせる一心を先頭に、他の面々もついていくのであった。

 

 

処刑場。

タツミは中央に張り付けにされ、その横には破壊される手筈となっているインクルシオのカギがあった。

宮殿の警備はイェーガーズと近衛兵に任せて、この場はほぼエスデスとブドーが大きな戦力としているという状況である。

「まさか狼が帝国を離れるとはな」

ブドーは惜しいというように口にする。

「あいつは陛下の意を汲んで動いていた暗殺者だ。必要ならば帝国さえ敵に回すさ」

対して当たり前だと言わんばかりのエスデス。

そのエスデスの様子に意外そうな表情を浮かべるブドー。

「お前がそのようなことをいうとはな。随分と信頼をしていたようだな」

「まだ信頼しているのだ。隻狼はそういう奴だ」

「そうか。代々帝国を守り続けてきた私の家に、そのような柔軟な動きが出来るものがいればもう少し変わったのかもな」

「フン。だから堅物と言われるのだ。それに隻狼もお前に匹敵する堅物だぞ」

「言い返すこともできん」

一見穏やかに見える会話のやり取りだが、ここは処刑場。

二人とも殺気立っている。

「本当に来るのか?」

「ナジェンダの甘さから考えれば十分ありうる。それを抜いても隻狼は来るだろう。聞けば奴は主のために国一つを相手に戦ったと聞く。陛下がそのように振舞えと命じたのであれば、隻狼は来るだろうさ」

「・・・皮肉だな。帝国を守らんとするために存在する私が、その実、民を苦しめている存在になるとは」

「だからと言って今更心変わりするつもりはないのだろう?」

「ああ。私は帝国と陛下を守ることこそ使命」

だから堅物と言われるのだとエスデスは嘯き、それをブドーは肯定した。

「さて、そろそろ始める時間だが、タツミを殺すのは私だ。死体も貰うぞ」

ブドーは好きにしろと言った。

「タツミ。殺すと言ったが、私には確信めいたものがある」

「狼さんの事か」

タツミは狼がラバックを脱獄させたことを知っている。

エスデスから教えてもらった。

国ではなく、ただ一個人に仕える狼があのような行動をとったということは何かしらの変化があったと考える以外にない。

「不愛想だが、今まで会ったどんな奴よりも信を置くことが出来た。奴との殺し合い。今から楽しみで仕方がない」

剣をタツミに向け、狙いを定める。

タツミは笑っていた。

エスデスは僅かな躊躇もせずに突きを入れ込もうとした。

その瞬間、処刑場に爆音が広がった。

「隻狼?いや、ナジェンダか?」

爆煙の中から姿を現したのは帝具パンプキンを携えたマイン、そして剣聖、葦名一心であった。

「ま・・・マイン!」

その姿を確認したタツミは逃げろと叫ぶがマインは軽く受け流す。

そしてマインは高らかに名乗る。

「アタシはナイトレイドのマイン!おバカな恋人が捕まったって聞いてね。仕方ないから助けに来てあげたわ」

エスデスの目が冷たくなった。

「ふふ、フハハ!よう言った!小娘!儂は今更名乗るほどでもないが、葦名一心。小僧を助けに来たこの小娘に助太刀する数奇者よ!」

一心は刀を抜き軽く振る。

それだけで剣気が迸る。

「お前があの一心か。なるほど凄まじい気迫」

だがといってブドーは帝具を構える。

「反乱分子は一人残らず処刑する。アドラメレク」

ブドーが構えた瞬間、雷の玉がマインたちめがけて放たれた。

「パンプキン!」

マインの放ったパンプキンの射撃はブドーの放った雷球の威力を上回り、ブドーを処刑場の壁ごと吹き飛ばした。

「行くぞマイン!」

一心は残るエスデスへ向けて突撃。

エスデスは鋭く思い剣撃を受け流す。

「ほう!前よりやるではないか!何かあったと見る!」

「ああ一心!奴は私に修羅の影を見たと言っていたぞ!そして私が修羅に堕ちたのなら私を斬るとも!」

激しい剣撃とエスデスの冷気による攻撃をいなしながら一心は笑う。

「そうか。お主を斬るのは儂の役目と思っていたが、なるほど、修羅ではなくその鬼を斬ったあ奴の方が適任か」

一心は斬撃を飛ばし牽制しながらエスデスの攻撃を弾いていく。

その合間を縫ってマインのパンプキンによる援護が入る。

援護といっても直撃すればただでは済まない超火力の一撃だ。

エスデスの氷塊を容易く撃ち抜き、薙ぎ払う。

そしてそのついでと言わんばかりにタツミの拘束を解いて見せた。

「相変わらずスレスレだけど。助かったぜマイン」

タツミはそういってインクルシオを掴むが、一瞬手を放す。

だが気にせず掴み取る。

「変身しろ。タツミ。お前の全てを打ち込んで来い。私もそれにこたえよう」

それで生きていたのなら運命だと。

その言葉に憤慨したマインはエスデスへ向けて射撃するが、避けられてしまう。

タツミは絶対に渡さないとマインは決意し、エスデスはもらうと宣言する。

「インクルシオォォォォォォォ!」

力を寄越せと、願う少年の形に合わせてインクルシオの鎧が形を変えていく。

「ほう!よい気迫じゃ!儂らも負けてはいられんな!」

そういって一心は再度突貫する。

インクルシオの速さはいつもより速く、威力は桁違いだ。

空中へ飛んだエスデス目掛け、必殺の一撃をマインが放つ。

「摩訶鉢特摩」

エスデスが呟いた瞬間、世界が凍りつく。

「なかなか楽しかったが、詰みだ」

そういって動かないマインの方へ向かうが、そのエスデスにインクルシオを身に纏ったタツミの蹴りが強襲する。

「タツミ!」

一瞬であったが確かに動いたタツミ。

そのおかげもあってエスデスの凍り付いた世界が解けた。

空中にいたはずのエスデスがいなくなり、呆気に取られていたマインにエスデスが襲い掛かる。

しかし、寸のところまで迫っていたアカメの攻撃に気が付き、防御に回ってしまう。

「御免・・・」

エスデスは僅かに体を動かした。

本能的なものだったのだろう。

それ故に凶刃が体を貫かず、運よくかすめる程度におさめられた。

「隻狼!」

エスデスはアカメをマインの方へ蹴り飛ばし、氷の槍を無数に放つ。

だがレオーネが二人を担いで脱出したことで事なきを得る。

「気が付かなかった。流石といったところだな」

未だ気配が漠然としない狼に向けて笑みを向ける。

「運が良かったという他ない。そうでなければいまの一瞬で死んでいた」

「エスデス様・・・」

「こうも速く再会するとはな。私は修羅に堕ちたか?」

「いえ。しかしそれも時間の問題かと・・・」

「そうか・・・では今はただ楽しむとしよう」

そういってエスデスは攻撃を繰り出そうとするが、その間を縫うように鋭い刃が通り過ぎた。

「カカカッ!隻狼よ。お主と共に刃を振るうことになるとは!この世も中々捨てたものではないな!」

「一心様・・・」

「お主も国盗り戦の葦名衆の仲間。共に戦おうではないか!」

「御意」

一心が言い放った時、処刑場の壁、さらに言うならパンプキンによってブドーを吹き飛ばした場所から瓦礫が舞い上がった。

「貴様ら。よくもここまで荒らしてくれたな」

マインは渾身の一撃を受けてなお立ち上がってくるブドーに驚愕し、アカメはかつて修業をつけてもらったブドーを意識する。

「アカメ、ナイトレイド・・・そして狼よ」

ブドーは少しだけ悲しそうにしかし確固たる意志を込めて言った。

「お前たちをここで処刑する」

 

 

ナジェンダがそろそろ脱出用の危険種と共に来ることになっているはずだ。

撃ち落とされないためにはこの二人を何とかしなければならない。

黒雲が立ち込めてくる処刑場で動いたのはブドーであった。

彼は一瞬の溜めの後、雷撃をナイトレイドに向けて放った。

タツミが防御しようと前へ出たが、そのさらに前に跳んだ狼がその雷撃を刀に受ける。

「何!?」

狼は着地する前に刀を振り、雷で薙ぎ払う。

余程の威力だったのだろう。

その雷はブドーを

貫き、硬直させる。

その隙を逃さず一心は気迫を込めた一撃をブドーへ振るい、真空を裂く。

「グゥ」

しかし流石大将軍。

硬直した体を無理やり動かし、斬撃を防ぐ。

「滾ってきた!行くぞ!エスデス!ブドー!」

一心はさらに気迫を込めて剣を鞘へ納める。

すると所々で地面に火の跡が現れ始める。

「カッ!」

その一喝で炎の柱が上がり、エスデスやブドーどころか味方さえも困惑に陥れる。

炎をものともせずに、一心は近くにいたエスデスへ駆ける。

エスデスはやってきた一心を迎え撃とうと氷塊を繰り出したが、それ以上に一心は速かった。

一瞬で間合いを詰めた一心はその刃を見せることなく居合を放ち鞘に戻す。

剣で受け止めたエスデス僅かに傷を受ける。だが、それで終わりではなかった。

無数の剣撃が彼女を襲う。

それを弾き避け受け、ようやく終わったというところへ気合一閃の居合抜きが放たれる。

辛うじて防いだエスデスだったが体には切り傷があった。

「剣聖、一心!まさかここまでだったとは!」

驚愕と喜びを混ぜ込んだ声でエスデスは笑う。

「赤狼!」

居合を放った一心の後ろ、アカメが連撃を見舞う。

エスデスはそれを全て避けた。

顔には苦々しい表情が浮かんでいる。

「葬る」

『奥義・浮舟渡り』

その連撃はただの連撃にあらず。

鋭い斬撃によって相手の防御の上から斬撃を与える技。

狼は完全に極めることが出来なかったが、アカメはそれを自分用に昇華させていた。

アカメの持つ帝具『村雨』の呪毒とも相性がいい。

掠りさえすればそこで勝負がつくのだ。

避け切れないと判断したのか、エスデスは氷で斬撃を防ぐ。

しかし、その少しした合間にマインの射撃が来る。

「ムゥ・・・ハァァァァ!」

地面に刀を刺し、振り上げるとともに炎で襲い掛かってくる一心の攻撃も厄介である。

何しろ防御というものが出来ない代物だから。

「素晴らしい連携だ!」

「同じ釜の飯を食い続けている!」

「納得だ!」

アカメを突き放しながらエスデスは笑う。

突き放されたアカメを補うように一心の重い斬撃がやってくる。

窮地である。

しかしエスデスには楽しくて仕方がなかった。

 

 

「狼よ。まさかこうして戦うことになるとは」

激しい攻防を見せるエスデスたちとは打って変わってこちらは静かなものだった。

「ブドー様・・・」

「言いたいことは分かっている。だが、こうして敵として出会った以上。私はお前を処刑せねばならん」

「・・・お覚悟を」

「フッ。お前は変わらずに律儀だ・・・行くぞ!」

狼は先手に飛び上がり空中で上段に構える。

それを見たブドーは葦名流だと悟ると避けようとするが、レオーネとタツミが連携してブドーに攻撃を仕掛ける。

その場に釘付けとなったブドーに狼は『一文字』を放つ。

体幹を著しく削る技だが、ブドーはがっしりと構えている。

「中々の連携。惜しい。お前たちほどの者が・・・いや、今は意味のないことか」

ブドーは雷撃を返す狼を警戒している。

それ故に軽々しく帝具を使えない。

狼はそれを利用してブドーの攻撃をいなし、時に強く叩き、タツミとレオーネの二人と連携しながら確実に追い詰める。

こうして狼と対峙するのは初めてのブドーだったが、思いのほか厄介であった。

正々堂々と狡猾な攻撃を繰り出すことが出来る暗殺者はそういない。

さらに言えば強者に対して強い弱者という矛盾した存在の狼を相手にするというのは全くの想定外。

攻撃すれば影のように消え、かと思えば先ほどのように正面から強力な面打ちを放ってくる。

他二人との連携も厄介だ。

素早い動きをするタツミとレオーネ。

隙をついて強力かつ防御の意味を失わせる攻撃を放とうとする狼。

一方的に攻撃を受け、ついにはタツミがブドーの背を斬った。

だがそれがブドーを怒らせた。

今まで封じていた雷を周囲に降らせる。

法則性のないその雷であれば狼も返しにくい。

「お前の相手は私だ!」

一瞬の隙をついてエスデスがタツミに襲い掛かる。

距離を離されてしまった狼たちは雷撃によって翻弄される。

「行くぞ!狼!」

『雷帝招来』

処刑場に降り注ぐ雷の嵐。

狼は自分に当たりそうな雷を受けて払うが、ブドーに届かない。

「鈍ったか!隻狼!」

飛び出したのは一心だった。

彼は雷を自分の下へ招くように寄せるとブドーに一閃する。

雷で攻撃するのはブドーだけの専売ではない。

葦名一心もまた雷を味方に戦う剣士なのだ。

『秘伝・大忍び落とし』

狼は一心の作った隙に秘伝の技を打ち込む。

ブドーへ一息に肉薄し胴体へ刀を突き入れる。

そして彼を踏み台に宙へ舞い上がり、回転斬りを叩きこむ。

鋭い斬撃を防いだところへ居合の構えをしていた一心が距離を詰めて一瞬で二撃、斬り放つ。

『奥義・葦名十文字』

その斬撃は恐ろしい程鋭く、守りを固めていたブドーの両の腕を斬り落とした。

「・・・ここまでか」

ブドーは斬り落とされた腕を見て、諦めたように笑った。

「狼。介錯を頼む」

「・・・御意」

ブドーはその場に座り込み、首を差し出す。

狼はかつてそうしたように『不死斬り』を抜き放ち、振り下ろした。

「・・・さらば」

 

 

心に息づく類稀な強者との戦いの記憶。

ブドー。

帝国の大将軍。かつて狼と志を共にし、帝国の平穏を願った将。

 

 

「処刑場に狼だけでなく葦名一心まで現れたと・・・」

大臣は大きなため息をついた。

「あの二人に勝てる奴らなのか?」

ドロテアの質問にオネストは少しだけ思案して答えた。

「葦名一心は反乱軍の中でも抜きんでた将。かつてエスデス将軍と互角に戦ったと聞きます。そのエスデス将軍の話では、狼は葦名一心に勝っていると」

「それほどの者であったか」

「しかし、人質に未来はありません」

なにせ帝具の柄に毒茨を巻き付けたのだからと。

「それよりもあの狼に気を付けなければなりません。陛下は何を思ってか狼を指名手配するようなことはしません。まあそれは陰で殺してしまえば問題ないとして、狼自身に強力な力とそれを隠す能力があることです。そちらもお気をつけてくださいよ」

「分かっておる。妾とて死にたくはないからの」

 

 

「タツミ!」

マインは崩れ落ちるタツミに駆け寄る。

タツミはエスデス相手に善戦し、彼女に一撃を叩きこみ、戦場から遠ざけるところまでに至っていた。

そして、ブドーに勝利したところまでは良かったが、タツミが毒にやられていたのだ。

今は空を飛ぶ危険種の上で狼の治療を受けていたが、容体はよろしくない。

「全員生還できたな。まさか、ブドーを討ち取るとは」

「あ奴自身、儂らとの相性が悪かった。何せ葦名流の忍びが二人いて、さらには雷を返す者が二人。隻狼と儂があの場にいれば万全も万全。当然の結果じゃな」

一心は早速酒を飲んでいるようだったが、最期のブドーの姿に思うことがあったのか、いつもより大人しい。

「マインの帝具はもう限界のようだな。これからは裏方として働いてもらうことになるだろう。タツミも毒で死ぬようなたまじゃない」

ナジェンダは後ろでタツミを抱きしめるマインを見遣る。

狼も心なしか心配そうにしているようだ。

レオーネとアカメは満身創痍といった様子だったが、狼と一心はまだ余力を残しているように見える。

「流石一心殿と狼といったところですか」

「一国を相手にした忍びと一国を奪った儂。そう易々とはやられぬ」

「心強いです」

「フン。それでここからどうする。既に儂にはこの戦の行く末が見え始めておるが」

「しばらくは他の将に進軍をお願いいたしましょう。いくら一心殿とて休養が必要でしょう。それはナイトレイドにも言えることですが」

「・・・そうじゃな。帰ったら小僧を何とかして、それから酒にするか」

一心はピリピリとした空気を感じていた。

恐らくこの先の戦は思っているより厳しいものになる。

一国を取ったからこそ分かる空気だ。

そしてそれは狼も感じていることだ。

「再び修羅を斬ると思っていたが、隻狼。此度はお主か・・・儂らはどうにも縁があるようじゃな・・・」

その呟きは空を舞って誰にも届くことはなかった。

 

 




剣聖、葦名一心とボス化した狼さん。

ソウルシリーズのボス、オーンスタインとスモウを相手にすると分かったときの絶望感がありますね。
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