狼が斬る   作:hetimasp

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為すべきことを為すまで。


42 為すべきこと

「・・・・・・」

狼は沈黙の中にいる。

場所は帝都の、しかも宮殿内部。

傍らにはボルスが狼の様子を窺っている。

ここはイェーガーズの詰所。

狼は待ち人がいると言って中へ入り込むと黙って仏を彫り始めたのだ。

狼は何も言わないが、ウェイブとクロメが戻ってきていない。

それに関することなのだろう。

しばらくは狼の仏を彫る音が響くのみだった。

「今戻った」

素っ気のない言葉でやってきたエスデスは、仏を彫る狼の姿を見て驚愕する。

ランもどうやらエスデスと行動を共にしていたので、遅れてその姿を確認して同じように反応する。

「エスデス様・・・」

狼はエスデスの前に跪く。

「ウェイブ、クロメの両名はこの戦より脱落いたしました・・・」

「そうか。脱落ということは死んではいないのだろう?」

「は。エスデス様の望む恋。先に二人が果たしたようでございます」

エスデスはしばらく黙り込んだ。

「狼さんは何故ここに?」

ランは警戒をしながら狼に聞く。

「我が子の生きる様・・・伝えるため・・・」

「フン。相変わらず律儀な奴だ。隻狼よ。未だにお前は帝国と反乱軍を行き来しているのか」

「は」

「私がお前を見逃すとでも?」

「お望みならば、今ここで・・・」

狼は立ち上がり、刀に手を添える。

「・・・いや。やめておこう。決戦前にお前と相手をする等、私も愚かではない」

「は」

狼は再び跪く。

「・・・懐かしいな。いつもはお前と私だったが、今はランにボルスか。イェーガーズも随分と減った。死んだのはスタイリッシュとセリューか。あいつも逸材だった」

「・・・・・・」

「隻狼。私には分かっている。陛下がここにきて変化を見せている。私や大臣を押さえる程の強い意志を見た。それほどまでか?お前の生涯の主は」

「は。間違いなく。己の生涯の主です」

「・・・名を、聞いておこう」

「九朗様」

「九朗・・・か。お前の本当の主に出会えば、私も何かが変わったか?」

「分かりませぬ・・・」

「フフッ。そうだろうな。私も分からん。何故こんな話をしているのかさえ分からん。それほど、お前の主の影響は大きかったと見える。隻狼。お前を通してな」

「・・・・・・」

「陛下は、帝国を終わらせるつもりだろう?」

エスデスは核心をついた質問をした。

その質問にランとボルスは驚きを隠せなかった。

だが、狼は黙って頷いた。

「・・・やはりな。お前の子。グリーンを追放処分にした時からおかしいとは思っていた。この国も終わりか」

「・・・・・・」

「私との約定。忘れてはいまいな」

「は」

「ならいい」

エスデスは椅子に座り、珍しく疲れた表情を浮かべた。

「私は鬼になるのであろう?」

「おそらくは」

「ここ最近、高ぶって仕方がない。戦争に、戦いに焦がれてどうしようもないんだ。待ち遠しい。タツミやアカメ。一心。そして隻狼。お前との戦いがな」

「隊長・・・失礼ですが・・・話が見えません」

ボルスは不安げに聞く。

ランは帝国の終わりという言葉を聞いて一人、諦めた表情をしていた。

「もはや帝国に、反乱軍を撃退できるほどの力を持っていない。大臣には切り札があると言っていたが、果たしてそれが機能するかな。なあ隻狼」

「・・・・・・」

「恐らく、陛下が望み、隻狼がそれを手伝ったのだろうさ。途中まで隻狼が帝国にいたのは陛下にまだ帝国を存続させる意思があったから。そして今はそれがなく、逆に終止符を打とうとしている。違うか。隻狼」

「明かせませぬ・・・」

「お前は変わらないな。私たちが変わりすぎているのか。なんにせよ。次が最後の戦いという訳だ。決して忘れてくれるなよ?」

「御意」

狼はその言葉を最後に立ち去っていった。

狼のいた場所には木彫りの仏が落ちていた。

不格好だが、優しそうな表情をしているように見える仏。

「ラン。ボルス。今聞いた通りだ。帝国がどうあがこうが、明日が最後になる。一国を相手にした隻狼が敵に回った以上、勝ちの目はない。・・・好きにするといい」

「隊長・・・」

「ラン。お前は帝国内部から手を加えていたな。ククッ。無駄になってしまったな。後はどうしようがかまわん。ボルス。お前は家族がいたな。何も言わずとも守りに行くのだろう?」

「はい・・・でもエスデス隊長は」

「私は心置きなく鬼となる。修羅の鬼となり、戦場で殺戮の限りを尽くす。本能の赴くままにだ。殺して、殺して、殺して、そして、死ぬ」

それが私の生きがいだ。

エスデスは狼の立ち去った後に残された仏を手に取った。

それを机の上に置くと、そのまま部屋を後にした。

残された二人は沈痛な想いを抱きながら沈黙し、やがて己の意志で動き出す。

 

 

開戦。

エスデスの用意した奥の手、氷騎兵は革命軍の兵力差を埋め、さらに一体一体が強力という。

革命軍の標的はオネストをはじめとした悪徳の限りを尽くした人間及び、帝都の陥落。

狼、アカメ、レオーネは帝都内部に侵入して暗殺を行い、一心、ナジェンダ、ラバックは戦場での指揮を執ることになっていた。

「カカカッ。氷の兵士とは・・・面白い!」

「一心殿。笑っている場合ではございませんよ。先の砲撃も全て撃ち落されたようです。エスデスは強くなっていると見るのが妥当でしょう」

「分かっておる。時にナジェンダ。隻狼はようやくその本懐を遂げられるようじゃな」

「本懐?」

「小童を操っておった・・・オネストと言ったか?そやつの首に手が届く」

「そうですか。それは安心です」

「儂も、ここで最後の戦いとしよう。既に終わったもの。そんな淀みがいても邪魔になるだけじゃろう」

「御冗談を」

「カカカッ。好きにとるといい」

一心は鋭い視線をエスデスの方へ向ける。

「さぁ!国盗り戦の葦名衆が筆頭!葦名一心の戦!しかと目に焼き付けい!」

一心は刀と十文字槍を携えて馬を駆った。

 

 

宮殿最上階。

「伝令によるとエスデス将軍たちは敵を良く防いでくれているそうです」

「流石将軍だな」

「油断は禁物です。準備だけはしておきましょう」

至高の帝具。

皇帝の血族でなければ使用できないという切り札。

「オネスト大臣」

「はい?」

「今戦ってくれているエスデス将軍たちや最後まで余に従ってくれていた兵たちには悪いが、この帝具。使用することは、もはやない」

オネストにしてみれば予想外の言葉であった。

帝国を守るためにはこの帝具の使用が必須。

いくらエスデスが強いといっても相手は猛者ぞろい。

「陛下・・・一体何を・・・」

「この国はとうの昔に終わりを迎えていたのだ。それをただ延命させていただけ」

陛下は帝具の鍵となる錫杖を捨てる。

「大臣よ。よく余に仕えてくれた。そして」

オネストの両の足が斬られる。

「余と共に死んでくれ」

「ぎ、ギャァァァァァ!」

突然のことに理解が追い付かないオネストは地面を這いつくばる。

「陛下・・・」

その声はオネストが一番聞きたくない声。

「狼よ・・・苦労をかけるな・・・」

戦国の世、葦名という国を一人で相手に取り、そして主を人へ返した忍び。

狼であった。

「陛下!何故!」

オネストは叫ぶ。

「オネスト大臣。余はそなたの。いや、そなたと行ってきた悪政の数々。既に証拠があがっている」

「悪政!?私は陛下の為をおもって」

「狼と出会えたのはまさに僥倖であった。でなければただの殺戮者として名を遺したであろう。狼、そしてその子らが全て教えてくれた。余を操り、悪政を敷いていた元凶はまさかそなたであったとは・・・」

「そんな・・・陛下はそのようなことを信じられるのですか!?」

「九朗殿の忍び。狼がそのように振舞ったのである。なれば余が間違っていたのであろう」

陛下の言葉は静かで、威厳に溢れていた。

「陛下・・・今しばらく・・・」

狼はオネストの両腕に刀を突き刺す。

ナジェンダより、オネストは生け捕りが良いと伝えられていたからである。

「狼!狼ぃ!お前さえいなければ!」

怨嗟の言葉を吐くオネストであったがもはや抵抗できることはない。

「狼。終わっていたか!」

レオーネが駆けつけてきたが、這いつくばるオネストを見て全て終わったと見た。

「そなたは?」

「ナイトレイドの一員。レオーネに御座います・・・」

陛下の前で跪き答える。

「そうか・・・そなたらにも苦労を掛けたようだ。礼を言う」

「あんたが陛下?」

「いかにも。この帝国で悪逆を尽くした皇帝である」

暗殺者を前にした陛下はそれでも堂々と立ち、己の役目を受け入れていた。

「ここで千年の帝国の終止符とする。狼よ。よく仕えてくれた。最後まで頼りきりであった」

「・・・・・・」

「狼?」

「陛下・・・己は・・・陛下の死を是としておりませぬ」

「なんと・・・」

「己は生涯の主、九朗様の願いを裏切った抜け忍。であるならば、陛下の生きる姿を望むのも道理」

狼は立ち上がり、レオーネに対峙する。

「済まぬ・・・陛下の首。お主たちに渡してやれぬ」

「・・・ここでまさかこうなるとは思っていなかったな。でも私としても皇帝の死ってのは必要だと思うんだよねぇ」

ゴキリと腕を鳴らして構える。

「幾度となく敗れようとも・・・」

狼は刀を抜いてレオーネを視線で射抜く。

「必ず主を取り戻す・・・それが己の掟であれば・・・」

凄まじい剣気が狼を取り巻く。

その様子に這いつくばるオネストも、対峙するレオーネも息を飲む。

「為すべきことを為すまで」

狼は後ろに立つ陛下に僅かにだけ済まないと思っていた。

本来、陛下はここで死を受け入れるつもりだったのだろう。

しかし、それは狼が阻んだ。

「参る・・・」

 

 

レオーネと狼の対決は、レオーネの根負けで終わった。

戦うまでもなかった。

結果、皇帝は死に、オネストという元凶を生け捕りにできたという偽りの結果で満足することにしたのだ。

「狼よ。何故余を生かそうとする。この国は終わり、余にはもはや為すべきことはない。いや、皇帝らしく死を受け入れるべきだ」

「・・・・・・」

狼は陛下を隠し通路へ案内しながらその言葉を聞いていた。

「帝国の兵も余が生きている可能性を知れば、今のような反乱を起こすかもしれぬのだぞ」

「申し訳ございませぬ・・・しかし」

狼は隠し通路の扉を開く。

「人として生きてくだされ・・・それが九朗様を裏切った忍びの願いに御座います」

そして言葉を聞くこともなく振り返ると、そのまま駆け出した。

残された陛下はしばらく立ち止まっていたが、やがて扉の向こうへ歩き出す。

「まこと、良き臣下を得られたようだ。九朗殿・・・」

 




人返りENDの狼さんであればこうしたでしょう。
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