怪しい人物に話しかける。
ラクロウでの任務は順調に終わった。
だが、ゴズキが言うにはそろそろ帝国の暗殺部隊を狩りにでる敵が現れるかもしれないとのことだった。
狼もどことなく張り詰めた気配が近づいているのが分かる。
近いうちに強敵に出会うかもしれない。
今度の任務は革命軍の輸送部隊襲撃である。
だが狼の任務はその裏で存在するかもしれない暗殺者狩りを発見、仕留めることだった。
作戦の決行は河で、無人を装った船を接近させて襲撃するといったものであった。
念には念を入れて水中にはアカメと狼がいる。
狼とアカメは別任務だが、行動は残党狩りに近いものだ。
狼はもしかしたら本命もいるかもしれないと思っていた。
「狼さん。何で水中で呼吸できるんですか」
グリーンは呆れたように言った。
水生の呼吸術という術を持っている狼は水中でも呼吸しながら待機することが出来る。
それを言ったときの周りの反応は様々だったが、おおよそ、グリーンのような反応だった。
「・・・破戒僧より引き継いだ」
厳密にいえば破戒僧の幻影だが、何故自分にそのような術が備わったのかは全く理解していなかった。
「まあ今回の任務にはちょうどいいじゃないか」
ゴズキも苦笑いを浮かべている。
「狼さんも結構、人間やめてるよな」
ガイはまるで狼が人間ではないかのような言葉を吐き出すが、あながち間違いではないのかもしれない。
狼は竜胤の契約を受けた不死であり、背負う不死斬り以外の方法で死ぬことはまずない。
だが、現在はその不死斬りでも死ぬかどうか怪しいというのが狼の見解である。
一度刎ねた自分の首。
まさか繋がり、このような場所に来るとは思っていなかったからである。
「お前たち・・・」
狼は不愛想な顔にいつもより眉を寄せて言った。
「警戒しろ・・・今回は気配が違う・・・」
葦名ではずっと敵を斬り続けてきた狼である。
そういった気配には敏感になっていた。
「そうだぞ。そろそろ革命軍の奴らも手を打ってくる頃だ。全員気を付けていけ」
ゴズキもそれに賛同する。
子供たちは全員気を引き締めた表情を浮かべるのであった。
狼とゴズキの誤算があったとすれば、刺客が思った以上の手練れだったということだろう。
天狗党という傭兵たちが待ち受けており、それの殲滅という点では成功したが、肝心の暗殺者狩りに手が届かなかった点である。
中央にいた船がやられ始めたことを確認すると、すぐさま撤退に移ったのだ。
それに気が付いたアカメと狼はすぐさま追撃にかかったが、逃げられてしまった。
狼も相手の顔すら拝めていない。
「手練れか・・・」
狼はゴズキに状況を報告していた。
少なくとも敵は馬鹿ではなく、それも狼から逃げられるほどの実力を持っているということになる。
水中でなければ話が違ったかもしれないが、狼は思わず唸る。
「しばらくは近くの街で様子見だな。この辺だとトウシの街が一番近いだろう」
「心当たりは・・・」
狼は刺客について心当たりを聞いた。
「わからねぇ。だが、俺たちを相手にするならオールベルグかそれこそ、お前さんを雇うしかないだろうぜ」
「・・・オールベルグ」
数多くの暗殺に関与してきた暗殺結社オールベルグ。
狼もその名を聞いたことはある。
善悪問わず、依頼の交渉さえまとまればどんな暗殺も請け負うとの噂である。
その実力は確かであり、相手に取るならそれ相応の準備が必要だろうと狼は思っている。
「まあ革命軍に奴らを雇う金なんてないだろうけどよ」
「・・・・・」
ゴズキは分かっていて言っているが、もちろんないとは言えない。
偶々というのは一番厄介なのだ。
「お前さんは好きに動きな。まあ、あんたは町に出りゃすぐに忍びだってバレるだろうが、それもそれだ」
確かにこれほど怪しい、明らかな人物はいないだろう。
本来ならそういった方面に秀でていない狼は情報収集をゴズキに任せることにした。
普段の服装や立ち振る舞いを考えた方が良いかもしれない。
狼は密かにそう思った。
「やれやれ。どうにも厄介な相手がいるみたいだね」
襲撃からしばらくした後、老婆と少女がボロ小屋で落ち着いていた。
「あの水中で追ってくる相手は尋常の相手じゃないね。今回の仕事は骨が折れそうだよ」
「天狗党の人たちには悪いことをしましたね」
「あの連中も弱くはないんだけどねぇ。今回ばかしは相手が悪かったと思いな」
老婆はため息をつきながら先ほどの光景を振り返る。
天狗党の傭兵は襲撃者と交戦し始めたが瞬く間に壊滅していった。
そこですぐさま水中へ撤退したのだが、そこで厄介な相手がいた。
水中でよく顔が分からなかったが、他に水中へ逃げた天狗党を無視して真っ先にこちらへ向かってきた存在がいた。
途中で呼吸を継ぐことなくまっすぐにやってきたため、命からがら逃げたというのが感想である。
もし、天狗党の人間が邪魔になっていなければ危なかったかもしれない。
(天狗党をあっさりやったのと、あの水中の奴を考えれば、羅刹四鬼クラスの奴かね・・・)
老婆が考えているとフクロウが近くへとやってきた。
「どうだったいチェルシー?敵の顔は見られたかい?もし見ていないのならこのまま鶏肉だよ」
ナイフを持って脅すとフクロウは人間の少女へと変化した。
「はぁはぁ・・・鳥は疲れる・・・。見ましたって」
そういうとチェルシーと呼ばれた少女は紙に似顔絵を描いた。
「子供じゃないか」
「・・・私よりも少し小さいぐらいだ・・・」
老婆ともう一人の少女はその似顔絵を眺め、老婆は他に見なかったかを尋ねたが、チェルシーはそれ以上は無理だったという。
「半端ない威圧感でしたもん。いくら帝具を使っているからって嫌ですよあれ以上調べるのは」
「その感覚は大事にするんだね。何より、今回はやばい奴がいそうだからね」
「うぇ。まじですか」
「マジもマジだよ。気を引き締めないと、こちらがやられるんだからね」
「はぁい。じゃあ早速密偵さんたちにこの顔がいないか調べてもらいますね」
そう言ってチェルシーは去って行った。
その後ろ姿を見ながら老婆は今後について考える。
(若い連中なら、内のタエコに勝てる連中はいないねぇ・・・でも、それ以外となるとちと厳しいかもしれない。やれやれ、貧乏くじを引かされたみたいだよ)
そんな老婆の心を知らずにか、少女はつぶやいた。
「今度はこっちが仕かける番だね」
狼は今単独行動中だった。
まず男子班はナハシュとグリーンの顔がばれていたためガイと一緒に留守番。
女子班は休養のために街へ繰り出してきたというところだった。
ゴズキは狼と話し合い、今後の対応を考えるのに時間が必要だということになったのだ。
そのため、狼は街へ出て情報を収集しようとしたというところだった。
ちなみに狼の情報収集は同業と思しき人物を見つけて声を掛けるという大胆なものだった。
「この街は・・・」
確かゴズキたちが宿泊している街だったはず。
狼はどうしようかと考えて、現況報告ついでに情報収集しようと考えた。
「ご老人・・・」
すぐに目が付いたのは老婆だった。
だが、狼の目には歴戦の忍びを窺わせる気配を感じている。
「はい。なんだい?」
「ここらで襲撃があったらしい・・・。何か知らないか・・・」
「・・・まあそんな話はきいたことがあるけどねぇ」
「ご老人。忍びであろう?」
狼がそう切り出すと老婆の気配が変わった。
昔、まぼろしのお蝶と戦ったときの雰囲気に似ている。
気配がつかみがたく、実力をぼかしている。
「それを知ってどうするってんだい。小僧」
「仲間が知りたがっている・・・」
そういうと老婆はしばらく狼を睨んだ後、はあとため息をついた。
「もうちょっとは情報の集め方を学ぶんだね。小僧」
「むう・・・」
「何が知りたいかは分からないが、この辺の河で傭兵がやられてたって話を聞くくらいだよ。そんなに堂々と、それも同業に聞くのもどうかと思うよ」
「そうか・・・」
「そうだよ。ところであんた名前は」
「・・・・・・」
「そんなところだけいっちょ前かい。その目、そうさね、狼といったところかい」
「・・・・・・」
皆にそう呼ばれ続けているが、そんなに自分は狼のような人間だろうか。
不思議そうに、だが不愛想にしているとまた老婆がため息をつく。
「あたしが教えたんだ。あんたからは何もないのかい?」
「ご老人も?」
「そうだよ。ちょっと探し人をね。うちの若いのにちょっかい掛けようとした奴を探しているのさ」
「特徴は・・・」
「分かんないよ。だからちょっとでも何か知っていればと思って聞いただけさ」
「むう・・・」
「・・・まあいいさ。しばらくこの街にいるから、なんかあったら教えな。場所は・・・」
狼は老婆と情報をやり取りすると、その場を去って行った。
老婆はその後ろ姿を見ながら懐に入れていたナイフから手を離した。
「なんだい。あいつは。熟達の暗殺者の癖に情報収集は素人かい。全く汗が出ちまったじゃないか」
まさに忍びと言った風情の男が近寄ってきたときには敵かと思い警戒したが、敵にしては大胆だった。
あらゆる意味で度肝を抜いてくれたが、何よりもあの隠している力の底知れなさに恐怖した。
どんな人生を送ったらあのようなことになるのだろうか、という尋常ならざる者の放つオーラのようなものを老婆、ババラは感じていた。
(もしかしたらあいつが追跡者だったのかね。にしてはちょいと間抜けすぎかい?)
狼は外で佇んでいるゴズキを見つけ、現在の情報を報告した。
報告といっても大した情報がなく、敵の現在位置すら不明ということだけだった。
「先ほど、余程の手練れと見えるご老人に出会った・・・」
「何?」
「ああ。宿泊施設がゴズキ殿たちと一緒の場所らしい・・・」
「・・・あの婆さんか。確かにただ者ではないみたいだな。・・・お前さん。どうやってそいつの宿泊施設を調べた?」
「直接聞いた・・・」
「・・・・・まあそれもありか」
呆れと同時に苦笑いを浮かべる。
狼のことだ。既にあきらめも入っている。
どうしてだか、こう才能のある奴っていうのは癖があるのだろうか。
アカメしかり、狼しかり。
「老婆も・・・」
「?」
「探し人がいるらしい・・・」
「で?」
「何か思い当たることがあったら教えてほしいそうだ・・・。若い子供にちょっかいを出されそうになったらしい・・・」
「・・・そうかい」
ゴズキは何も言うまいと心の中で呟いた。
隻狼に関わらず、ソウルシリーズでも怪しい人物に平気で話しかける。
逆に、あの世界では怪しい人物の方がまともに見える可能性が・・・。