狼が斬る   作:hetimasp

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ここに狼の斬る不死はいない。

しかし、忍びとして斬るべき者たちは多く存在する。


07 鼠狩り

狼は一心より任を受けてすぐに敵の本拠地を探りに出かけた。

無論、情報収集の苦手な狼である。

今回は相手が強敵ということもあり、情報を収集するためにゴズキたちと合流してから考えようとしていた。

その矢先だった。

不穏な気配と爆発。

爆心地はゴズキたちが宿泊しているらしい施設であった。

敵襲。

そう考えるのが妥当だろう。

狼は慎重に辺りを見渡し、それらしき人物を探し出す。

すると、爆心地近くの建物の屋上に人影が三人いるところを目撃できた。

三人とも強力な相手である。

特に黒く、長い髪をした女はこれまでにないほど強いだろうという気配を醸し出している。

全盛期の義父のような感覚だ。

恐らくオールベルグのものに違いない。

今仕掛けるのは得策ではないだろう。

ならば敵のアジトを突き止める。

狼は月隠の飴を噛みしめ、その後を追うことにした。

 

 

敵のアジトらしき場所を突き止めるのは容易かった。

相手が油断していたのか、それとも罠か、狼には判断がつかなかったが、そのまま内部に潜入することに成功した。

あまり近づきすぎるとバレるため、遠くから様子を窺っていたが、盗み聞きをしているうちに次のようなことが分かった。

まずゴズキたちが襲撃を受けたこと。

これは狼にも分かっていたが、簡単に襲撃を受けるような筈はない。

何かしら、からくりがあるのだろう。

次にダニエルという人間が殺されたかもしれないということ。

男にしては使えるとかなんとか言っていたが、敵の戦力が減るのは嬉しいことだった。

なにより良い情報は、四本腕の女と気の強そうな女の二人が襲撃に失敗したということだった。

そうこうしているうちに、黒髪の女、メラが何かを思いついてらしい。

別の場所へ移動し、施錠されていた部屋を開いた。

そこで見た光景は信じがたいものであった。

アカメともう一人、アカメに似た少女が捕らわれている。

状況を見るに、もうひとりの少女も味方だろう。

しかし、これはまずい。

敵に捕らわれているとなると情報が漏れる可能性があるだけでなく、それだけで戦力の低下を招いているということだ。

アカメほどの人間が捕らえられるとなると、いよいよこの組織は危険だということが身に染みてくる。

だが、どういうわけかアカメたちに手を出す気はないらしく、そのまま別の場所へと連れていかれてしまった。

狼は深入り無用と判断し、その場を後にした。

 

 

狼を待っていたのは信じたくない知らせであった。

狼がいない間、ゴズキたちはプトラの墓守たちと戦いを繰り広げたらしい。

その中、ガイとナハシュを失ったのだ。

ガイは捕らわれの身となったツクシを助けるために、ナハシュは重症のポニィを助けるために犠牲となったのだ。

狼は何度も感じてきた無力さを再び味わうことになった。

だが感傷に浸っている時間はない。

狼は先ほど敵のアジトで収集してきた情報を皆に伝達した。

強敵がいる最中で敵陣に乗り込んで堂々と情報を集めてきた狼に呆れつつ、アカメとクロメというらしい少女が無事であることを取りあえずは喜んだ。

どうやら二人は姉妹だったらしい。

「お前さん。なんだか空気が変わったな」

「むう・・・」

「なんだかいつもより柔らかい感じだ。何かあったのか?」

探りを入れてくるゴズキに、狼は決まった言葉を吐く。

「明かせぬ・・・」

「ハハッ。お前さんらしいぜ。まあいい。ここで戦力が増強されたのは嬉しい誤算だ」

他にも助っ人を要請しているとのことで、狼と入れ違いでアジトの方へ行ったらしい。

何でも、皇拳寺羅刹四鬼がこちらにいるらしい。

ゴズキの実力を鑑みるに、相当な実力者がいるのだろう。

 

 

その夜、シュテンといういかつい男が隠れ家を尋ねてきた。

皇拳寺羅刹四鬼の人いらしい。

確かにその風格を感じた。

「よもや、これほどの者が存在するとは・・・」

シュテンは狼を見るなりそう言った。

「敵であれば魂を解放してやったのだが、味方ではどうしようもない」

「・・・・・」

「やめやめ。味方同士だぞ。であって早々に仲間割れなんてよしてくれよ」

ゴズキは間に入って仲裁する。

狼もシュテンも初めからやる気がなかったのか、互いにその場に座り込んだ。

「酒だ・・・」

狼はシュテンに酒を差し出す。

それが意外だったのか、いかつい顔を僅かに驚きに染めていた。

「不愛想な奴だが、中々面白い奴だよ。狼は」

「狼と申すのか。なるほど、確かに狼だ」

シュテンは酒を受け取り、一気に飲んだ。

「うまい」

「・・・・・」

狼は黙ってゴズキにも酒を差し出す。

「変わらねぇな。あんまり時間がたってないのに、懐かしく感じられるぜ」

「敵は・・・」

「ああ。とんでもなく強い奴が一人。そいつは様々な虫を操って攻撃してくる厄介な奴だった」

「蟲憑き・・・」

「何?」

「蟲が憑いている故に死ねぬ存在。死なぬのではない。死ねぬのだ」

「・・・相手がそうだと?」

「分からぬ・・・」

「・・・そうだとしてどうやって相手をする?流石に人間をやめていると言われている俺達でも、そんな奴は相手にしてられないぞ」

「この不死斬りなら・・・」

狼は背中に背負った大太刀を少しだけ抜いて見せた。

赤黒い瘴気のようなものが立ち込め、見るものを恐怖に陥れるような刃だった。

「帝具か」

「否。葦名に存在したものだ・・・」

狼は刃を戻すと酒を飲んだ。

「蟲憑きとは幾度か戦った。いずれも尋常ならざる者たちだった・・・」

「それじゃあ狼さんしか倒せないんですか?」

「幾度か殺せば・・・すぐに回生しなくなる・・・」

竜胤がそうであるように、蟲憑きもその傾向がある。

首無し獅子猿がいい例だろう。一度は忍殺を決めた狼であったが、その後毒だまりで復活した首無し獅子猿と対決した。

「不死斬りで止めを刺せばよい。そういうことか?」

「ああ・・・。だがここは葦名ではない・・・。過信はしない方がいいだろう・・・」

「・・・ところでよ。お前さんが来てくれたのはいいが、援軍として来てくれたのか?俺は何も聞いていなかったからよ」

ゴズキは探るように狼を見つめるがすぐに無駄だと悟ると盃を飲み干す。

「鼠を狩りに来た・・・」

「・・・ネズミ?」

「オールベルグ・・・」

「オールベルグをネズミ扱いか。なかなかいうものだな」

「誰の指示だ」

「・・・葦名一心・・・」

「何?」

「一心様はオールベルグが気に入らない様子だった・・・」

「葦名っていうと、あんたの・・・」

「・・・・・」

「まあいいさ。それで、その一心さんは何をしようって気なんだ?」

「国盗り・・・」

「!?」

「再びそれを目指されている・・・」

ゴズキとシュテンの空気が変わる。

「するっていうと、お前さんは・・・」

「・・・・・」

「反乱軍に協力するきなのかい?」

「・・・否」

狼は酒を飲み干し、盃を置く。

「己は陛下をお守りするだけ・・・」

それが自分の定めた掟がゆえに。

「・・・まあ敵ではないんだろうな。お前さんは」

ゴズキは刀に伸ばしていた手を戻す。

「良いのか?」

「こいつは帝国の敵じゃない。味方でもないようだがな」

今は利害が一致しているだけさとゴズキは言ってまた酒を飲む。

「それに今はオールベルグを片付けるのが一番だ。スズカが薬を持ってくるまで数日、じっとしておくしかねぇがよ」

「?」

「ああ、お前さんは知らなかったな。アカメたちは今、蟲の卵を植え付けられているのさ。それを駆除する薬を用意している最中だ」

「蟲を?」

「そうだ。相手は好きな時に蟲を孵化させられるらしい。爆弾を体に入れられているのさ」

その裏で何を吹き込まれているか分からないが。

という言葉は決して面に出さなかった。

「だから今は待つだけってことだ。いくらお前さんでも不用意に手を出しちゃならないぜ」

「承知・・・」

「・・・全く不愛想だが、逆に助かるぜ。今はよ」

ゴズキが笑い、狼は黙り、シュテンは小さくため息をつく。

それを戦々恐々としながらグリーンたちがその様子を窺うのであった。

 

 

狼たちはアジトを見張る以外に準備することはなかった。

少なくとも薬が届くまではだったが。

狼はアジトを見張っているメズというゴズキの娘と交代で様子を窺っていた。

時折、アカメとメラが外に出て行くところが見えたが、追うことはしなかった。

アカメの様子が少々おかしいと感じていたが、彼女もまた一端の暗殺者。

己の掟を今、作っているのかもしれない。

狼は心中でそんな予感を感じながら遠めに見続けていた。

近いうちに、アカメは親に反抗する時が来るのかもしれない。

その時が来たら自分はどうしたらよいのだろうか・・・。

新たな悩みの種ができ、眉間のしわを濃くする狼は、交代にやってくるメズが来るまでじっと悩んでいるのであった。

 

 

アジト突入当日。

皇拳寺羅刹四鬼の残り一人、イバラが合流し、スズカは薬も指定の場所へ埋めておいたものが掘り起こされていたとの報告があった。

ゴズキのケガも治った。

グリーンたちも気を引き締めているようだ。

狼は忍び義手に不具合がないかガシャガシャ動かしながら確認する。

「本当に不思議な道具だよね。それって帝具じゃないの?」

メズが好奇心旺盛に尋ねるが、狼は何も言わない。

それにもう慣れたのか、メズは狼が動かす義手を面白そうに眺めていた。

そういったところは親に似ているといってもよかった。

「じゃあ行くぜ?お前さん。お前さんは好きにやりゃあいいさ」

「承知・・・己は鼠を狩るだけ・・・」

「まあ後でその葦名一心について聞かせてもらうから、死ぬんじゃないぞ?」

「ゴズキ殿も・・・」

狼はつぶやくと闇に消えていった。

先に仕掛けるためだ。

「無事でいろよ。お前さん」

誰に言うでもなくつぶやくと、ゴズキも戦闘の準備に入った。

 

 

狼が鼠狩りを初めて数分後のことだろう。

ゴズキたちが戦闘を開始したようだ。

ビリビリとしびれるようなさっきが当たりを支配する。

それに気が付いたオールベルグの鼠たちは武器を構えて動き出す。

その最後尾から狼は音もなく一人、また一人と忍殺していく。

ある程度やったところで、狼は武器を持って敵を屠るアカメたちと遭遇した。

アカメとクロメ。

クロメはナタラというもう一人の仲間を肩に担いでいた。

「先生!?」

「助けはいるか・・・」

初対面のクロメに聞くが首を振る。

「そうか・・・」

狼は懐から小さな包みを取り出す。

「丸薬だ・・・」

「え?」

「ナタラに飲ませろ・・・」

言葉少なに押し付け、狼はアカメと並ぶように走る。

「遅れた・・・」

「いえ・・・」

アカメは何か奥歯に挟まっているような返答をした。

「迷えば敗れる・・・忘れるな・・・」

「はい。先生」

アカメは吹っ切ったようだ。

狼はそれを見て少しだけ眉を薄くする。

好きにすればいい。

狼は悩み続けていたことの答えを今出した。

当時、御子様を捨てよと義父に命じられた際に断ち切ったように、アカメも何かを断ち切るつもりだろう。

己の掟に従って。

それでよいのだろう。

狼はそれを受け入れようと思った。

 

 

殿。

足止め役。

そういった風情の四本腕の女、ドラ。

「アカメ・・・ひどいですね。恩知らず」

ドラは頬を赤らめさせ、アカメに言う。

「私は貴女とは戦いたくなかった・・・」

だがそんな揺さぶりにかからず、アカメは冷徹に葬ると宣言をした。

こちらは狼を入れて皇拳寺羅刹四鬼のイバラとスズカ、そしてアカメの4人。

対して相手は一人のように見えるが、誰も突っ込んでいかない。

「無闇に突っ込んでは来ませんか」

それを分かってか、指を鳴らすと蟲が大量に現れた。

「通しませんよ」

これだけの虫をドラに割いたのだから今、メラのところには少数の蟲しかいないだろう。

好機ではあったが、あまり油断はできない。

蟲が動き出した。

狼は『長火花』を撒いて音と爆音で蟲を四散させる。

敵はまずスズカに狙いをつけたらしく、暗器を持って彼女を刻む。

イバラは素手で蟲を倒していたが、その隙をついてワイヤーで腕を絡めとられて蟲に覆われる。

狼は距離を取り、本体めがけて手裏剣を放つが蟲に阻まれてしまい、届かない。

「アカメは・・・」

敵はこちら3人を脅威ではないと判断したのか、アカメを探すために動くが、こちらもそこまで弱いわけではない。

切り刻まれていたスズカは素早く復帰して相手に蹴りを浴びせる。

イバラは肉体を操作して蟲を一気に跳ねのける。

狼は相手との距離が開いているのをいいことに、鞘に刀をしまい、抜き放った刃が文字通り空中を裂く。

『秘伝・竜閃』。

葦名一心との死闘の果てに使えるようになった技であった。

これには相手も驚いたのか、蟲と暗器の両方を使って守りを固めた。

結果、無傷とはいかずともかすり傷で済ませてしまう。

「流石はオールベルグといったところだけど。こっちもこっちだね」

スズカは空を飛んで行った剣撃をみて関心をしたように言った。

「こっちだってタフさじゃ負けないがな」

イバラは蟲に覆われていたにも関わらずまだ十分に動けるようだ。

「とはいえ、このままじゃ敵の頭領に逃げられちまうぞぉ」

「誰かが追わないとね」

「誰一人通しません」

「・・・行くか・・・アカメ・・・」

狼は静かに問うた。

するとアカメは頷き、刀を構える。

「・・・ついてこい・・・」

狼は先陣を切って走り出した。

「特攻とは・・・!?」

蟲の触れた瞬間、羽のようなものを残して狼の姿がかき消えた。

「後ろっ!」

「・・・・・」

背後からの攻撃を受け止められた狼はそのまま『長火花』を撒く。

爆竹と分かった相手はとっさに距離を開けるが、その場所には既にイバラとスズカが先手を打っていた。

「アカメ・・・!?しまった・・・」

アカメを通してしまったドラは己の失策を悔いるが、すぐに構えなおす。

「クールな奴だ。最善の選択を分かっていやがる」

「きついけどやってもらうしかないね」

「・・・・・」

狼は再び刀を鞘にしまい、距離を詰める。

相手の僅かな動揺を見て詰めた距離。

後一息で詰められるその距離にドラと狼がいた。

「あなたのその剣さばき。妙な術。爆竹によるかく乱。どれをとっても厄介です」

「・・・・・」

「なので、先に始末します!」

蟲をけん制に狼から距離を取ろうとするが、既に狼の間合い。

僅かな負傷をものともせずに狼は踏み込んだ。

『奥義・葦名十文字』。

瞬く間もなく放たれた居合斬りをドラはガードするが、鋭いその刃はその上からダメージを与える。

「!?」

「・・・参る」

追撃に刃を振るうが避けられる。

狼もその場から素早く飛び去り、蟲をかわす。

「へっへっ。敵は一人じゃないぜぇ」

「放置プレイとか。ちょっと好みだったけど」

狼は隙を見て攻撃する二人を見て、葦名ではこういったことは少なかったなと思いを馳せた。

味方がいるというのは何とも心強いものか。

だが、そこに付け入る隙を生み出さない。

それが狼だった。

だが、相手も強い。

蟲がいるとはいえ、なんとも頑強で、逆境に強いことか。

「お前さん!」

どうやらゴズキたちがこちらにやってきたらしい。

相手の意識がそちらへそれる。

狼は再び距離を開け、『長火花』をまく。

爆竹の光と煙に紛れて背中に背負った大太刀に手をかける。

抜き放ったそれは禍々しい赤と黒の妖気を発していた。

狼は横薙ぎの構えをとる。

爆竹に目を取られていたドラはその動いた空気で己が窮地を知る。

『奥義・不死斬り』。

見た目よりも長く、そして強力な一撃を放つ不死斬りは距離を開けようとするドラを切り裂く。

「か・・・はぁ・・・」

何とか致命傷を避けたようだったが、それでも狼から逃げる余裕はないだろう。

ドラは最期のあがきで懐にしまっていた爆弾に手をかける。

しかし、そこに揃っているのは一流の暗殺者たちである。

それを見逃すはずがなかった。

 

 

心に息づく類稀な強者との戦いの記憶。

ドラ。

メラの忠臣であり、オールベルグの暗殺者であった。

 




スタミナの概念がない隻狼ではずっと走り続けられる。
その上、狼さんに至っては弾き続ける限りガードが崩れない。

ソウルシリーズでは垂涎の仕様ですね。

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