狼が斬る   作:hetimasp

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物語は本来の道から徐々にそれていく。
決して諦めなかった隻腕の狼の手によって。


08 疑念

最近のアカメはよく外へ出る。

狼はケガから復帰したてのアカメが外へ出てゴズキから行くなと呼ばれている場所を目にしていることを知っている。

オールベルグが現在の帝国の様子を教えたのだろう。

狼から見てもこの帝国の状況は酷いものであると言えた。

アカメは元来心優しい少女である。

そんな彼女が帝国の様子を見ればどうなるかなど、見ずにとも分かるというものだ。

「お前さん・・・」

ゴズキは帝都のとある屋根の上で佇む狼に声を掛けた。

「お前さんはどう思う。あんな風に葛藤する娘を見て、俺はどうすればいい」

そう聞きつつも、ゴズキは刀に手をかけたままである。

返答次第では狼を斬るといった雰囲気もある。

「・・・義父上の話をしたな・・・」

「・・・ああ」

「そうならなければいい・・・」

「・・・ああ。そうだな・・・」

ゴズキはその場から飛び降りてアカメの下へ歩みよって行った。

狼はその様子をしばらく眺めながら、強敵の記憶と向き合う。

 

心に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

ドラ

今はその残滓のみが残り、記憶は確かに狼の糧となった。

ドラは四本の腕を持つ女だった。

相棒のギルと仕える主メラを想い、常に動いていた。

彼女は己の掟を徹底したものであり、狼は深く共感した。

 

 

アカメやゴズキも、お互いに向き合うべきなのかもしれない。

戦うことしかできない狼は義父、梟の技を確かに吸収したが、親心などは吸収できなかったのかもしれない。

故に、狼にはゴズキの悩みに答えてやれることが出来なかった。

ゴズキとアカメ。

その場はどうにかなったらしい。

ゴズキが狼のいる屋根まで上がってくる。

「待たせたな。お前さん」

「・・・・・」

「眉間のしわが薄くなったみたいだな」

「・・・・・」

「悪かったよ。今度酒を奢ってやるからよ」

ゴズキは不愛想に、だが安堵した表情の狼に謝りながら去って行った。

狼は残されたアカメを見る。

彼女はまだ迷っているのだろう。

家族と己の心の声に、迷いがあるのだ。

羨ましく思った。

狼は何も言わず、ただその場を去るのであった。

 

 

「狼さん」

翌日、狼がいかにして一心へ報告を送ろうかと考えていると、グリーンがやってきた。

どうやら、昨晩の出来事をアカメ本人から聞いたらしい。

「アカメの力になってやりたいんです」

「・・・・・」

狼は眉間のしわを濃くする。

難しい頼みだった。

義父のように様々なことに長けているわけでもない狼は純粋に戦闘特化型だ。

このような繊細な悩みに対して答えを持ち合わせているわけでもない。

かといってただ単純にゴズキを説得すればなんてことは狼には無理だった。

「アカメを支えたいなら・・・」

「・・・・・」

「死なぬことだ・・・」

「・・・・・」

狼は自分が言っている助言が正しいものかわからなかった。

ただグリーンは真面目に聞いている。

「アカメは迷っている。迷えば敗れる・・・それが戦だ」

「戦?」

「それしか言えぬ・・・すまぬ・・・」

狼は謝罪した。

だがグリーンでは何か得たものがあったようで、考えるような素振りを見せていた。

今度はこちらの方なのか・・・。

グリーンも又迷っているのだ。

アカメの力になりたいが、今の自分で何ができるのか。

彼はアカメに恋心を抱いている。

これもまた狼にはどうしようもできない悩みの一つだ。

最近は悩んでばかりな気がするがどうしてなのだろうか。

しかし、悪くないと思える。

平和な時間だ。

かつて葦名を駆け回っていた狼は得難い物だろう。

「ここは少し・・・」

「?」

「いや・・・何もない・・・」

自分に合わない場所かもしれない。

狼はその言葉を飲み込んだ。

 

 

「よく来た狼よ」

「は」

しばらくぶりの主との邂逅である。

謁見の間ではなく陛下の私室だ。

外の兵士には内密に、気が付かれずに侵入する狼。

「帝国の敵を斬ったと聞いた。大儀である」

「・・・・・」

「ふむ。何か褒美をやらねばな」

不愛想な狼をみて苦笑いを浮かべつつ、陛下は何かしら考えるような素振りを見せる。

陛下はこの狼という男を大層気に入るようになっていた。

忌憚なく自分に忠言できる存在を、陛下は大臣の他にそう知らない。

それこそ大将軍ブドーやエスデスのような存在くらいだろう。

だが、狼は不愛想ながら陛下のために動き、陛下の知らない世情を教えてくれたりする。

それが何よりうれしく思うところだったのだろう。

「何か欲しいものはないか。狼よ」

「は・・・では人と会う許可をいただければ・・・」

「ふむ?人と?そのようなものに許可は必要ないのでは?」

「会う人物が革命軍の者でございます。老境とはいえ、葦名では剣聖といわれた人物がこの土地におります故・・・」

「革命軍・・・剣聖と申すと、狼の言っていた葦名一心か?」

「はい」

「まさか敵となっていたとは・・・して、何故今それを明かすのだ?そなたが革命軍と通じていると信じたくはないぞ」

「革命軍の内部に入ったときに・・・かの人物と偶然出会いました。その時に鼠、オールベルグを斬れと命じられ、承服したのです」

「オールベルグと革命軍は味方同士ではなかったのか?」

「あの組織はただ交渉が上手くいけばどのような者も殺す。そのような者たちでした。それ故に一心様は気に入らなかったのでしょう」

あの快活な老人と幼い陛下があったらどのようなことになるだろうか。

想像できない狼はただ頭をたれて陛下の言葉を待った。

「よし分かった。敵とはいえそのような人物を、ないがしろにできぬ。明日にでも偵察ということで任を与える。一心殿に会って参れ」

「ありがたく・・・」

「ふふ。いつか余もあってみたいものだな」

戦場であれば必ずまみえることが出来ようが、このような場所での邂逅は難しいだろうと狼は思った。

 

 

「聞きそびれた葦名一心について、聞く前に陛下が許可を出すとはな。意外とやり手なのか?お前さん」

ゴズキは苦笑いと共に狼のいる部屋へやってきた。

狼の部屋は忍具や武器の手入れ道具が置いてあるほか、義手忍具を仕込む台もあった。

常在戦場という言葉が当てはまる部屋に幾度か入ったことのあるゴズキは、真っ先に酒の置いてある棚に向かう。

こうして狼の部屋で飲むのも最近では珍しくない。

「一心様は己の研鑽に余念のない方だ・・・」

「その敵が偶々帝国だったってことか?」

「否・・・国盗り戦の葦名衆。国を盗るのが上手い・・・革命軍にいるのはそれが理由だろう・・・」

あるいは帝国の強者と戦ってみたいだけなのかもしれない。

「そこまでいうなら俺もあってみたいものだが、そうもいっていられねぇ。近々任務があるからな。ハクバ山にいって反乱軍の頭目を討たなければならない」

「そうか・・・」

「ああ」

「己も行こう・・・」

「何?陛下直々の命令を無視していいのか?」

ゴズキは柄になく心配そうな表情を浮かべる。

「陛下は革命軍の偵察を命じられた。その任に偽りはない」

「お前さんらしくないな。心配か?」

「・・・・・」

「まあ。お前さんが来てくれるならありがたい。人数はいた方が助かるからな」

「・・・不穏だ」

狼は切り出した。

最近見るようになった形代の数。

増えているのは帝都への怨嗟が増しているのか、狼の業が深いせいか。

それを見て狼は不穏と言ったのである。

この任務。おそらく一筋縄ではいかないだろう。

そう予感していた。

 

 

「ここでいったんお別れだな」

狼はハクバの街でゴズキたちと別れることになった。

アカメとグリーンの迷いは晴れているようだったが、未だに安心できない。

「迷うなよ・・・」

狼はそう言ってその場を後にした。

このハクバ山に葦名一心がいるか分からないが、どうにも気にかかる点が多かった。

形代の多さである。

これは業の深いものが見れるもので、狼はゴズキたちより業が深いがゆえに見えている。

多い。

それは一体どのようなものがあるか。

見ることはできないが、狼はより一層警戒心を強くした。

 

 

狼は厳重な警戒のハクバ山。

そこには一心の姿はなかった。

だが、狼にとって収穫はあった。

怨嗟の降り積もる先、それを見つけたのだ。

帝国の暗殺部隊を狙うプトラの残党、そしてオールベルグの生き残り、恋人を殺された者。

皆、怨嗟に身を焦がす者たちだった。

そしてそこに意外な人物を見つけた。

かつて死んだと思われていた。ナハシュである。

彼は今、傀儡の術のようなもので操られているのか、記憶が無いようであった。

それの情報を持ち帰るべく、その場を後にしようとしたところであった。

「そこにいる奴。降りてこい」

ナハシュは狼のいる方向に向けて言い放つ。

狼は失念していた。

彼は優秀な暗殺者であった。

それ故に狼の技を吸収していったことを。

観念して狼は姿を現す。

「帝国の密偵。いえ、暗殺部隊ですか?」

「明かせぬ・・・」

「まあそちらはそうでしょうね。でも私たちにとっては違うのですよ」

色の黒い肌をした男は復讐心を面に出していう。

「プトラの墓守たちは皆あなた方に殺されました。この復讐。必ず遂げさせてもらいます」

「コウガを殺した仇、ここで果たす」

「メラ様を良くも殺しましたわね」

「切り刻んでから殺してやりますわ」

「・・・・・」

狼は刀を構える。

「怨嗟の降り積もる先、鬼にならずとも・・・」

狼はかつての仏師の最期を思い出す。

『お前さんが斬ってくれ』

そういった仏師を本当に斬った。

怨嗟の鬼となった仏師を・・・。

なれば、この怨嗟。狼が斬らねばならないのだろう。

怨嗟の降り積もる先をなくさねばならない。

「再び斬ることになるとは・・・」

「何を訳の分からぬことを・・・」

悲し気な音が鳴りにひびいた。

銃を放とうとした女の動きが止まる。それだけではない。

何やら苦しげな様子で呻いた。

『泣き虫』。

燃える怨嗟の声を静める悲しく、美しい音色が復讐者たちを苦しめる。

「ナハシュ」

唯一苦しまず、状況の変化に僅かな動揺を見せていたナハシュに狼は構える。

「!?」

「己の掟、忘れていまいな」

「・・・掟」

「斬るぞ・・・ナハシュ・・・」

狼は駆け出した。

 




怨嗟の満ちるこの世界では『泣き虫』がかなり有効でしょう。
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