ガンダムビルドデューラーズ   作:ぬぬっしし

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1年弱放置してしまって本当に申し訳ございません
お話自体は練りに練っておりましたが書く気が本当に起きず
今回も半分以上をこの冬休み中に書き上げた次第でございます

放置しすぎてしまったお詫びといってはなんですが
今回はなんと27000文字の大ボリュームになっております、2話分です
なのでかなり読みごたえがあるかと思われます
しかしながら
本当に文章を書くのがなかなか久しぶりでして、感覚が戻ってきてなかったりするので
お見苦しいところもあるとは思いますが
どうかよろしくお願いします
それでは、


第四話 真実、そして邂逅

「さすがにこれほど時間かかると、もう既に一戦ぐらいは終わってそうだな」

 

なんとか復旧した列車に乗り、最寄りの駅でヒロとカツラギは下車する。

 

「そうか……今からではもう遅いな。どこかで少し休憩してから向かうか?」

 

人身事故ということもあり、かなり時間をかけて到着した地の空は、もう既に日が落ちていた。

 

そんな空のように。

ヒロの表情は、だんだんと暗くなっていく。

 

「……いや、急がないといけないかもしれない」

「どうしてだ?」

「あいつ、普段はメッセージの返信とかやたら早いんだ。でもこれほど時間が経ってるっていうのに既読すら付かない」

「それがどうかしたのか?」

「マズいかもしれないんだよ……ッ!!」

 

仕事を終えた会社員達がうろつく改札口を、ヒロが全速力で駆け抜ける。

その後ろを、人の波をかき分けるようにカツラギも追いかける。

 

「どうしてだウチヤマ?単に苦戦してるとかそういうのじゃないのか?」

「そうじゃないかもしれないんだ……。可能性が、あるんだ……」

 

赤信号に捕まってしまうヒロ達。

マズいかもしれない可能性。

ヒロにはそれが、何となく察せられたのだった。

 

 

『変な輩?』

『そうそう、なんか今日対戦した人に言われたんだ』

 

『詳しいことはわかんないけど、なんか危なげっぽいよ。あくまで噂だけどさ』

 

 

いくつか見当がつく。

いつしか、ユウは言ったのだ。「変な輩が現れるらしい」と。

そして今までにユウの前に二度現れた、紫色の宝玉の指環を持つ者。

ああ、あれは間違いない。

 

(くそッ……!なんて浮かれていたんだ……?初めからユウには危険が迫っていたじゃないか……!俺だってそれを警戒して……)

 

思考が脳内でループし続ける。

恐れていなかったわけではない。

いや、むしろ最初から恐れていた。ユウが"それ"に出会うことを。

 

「いいかカツラギ、今からお前が見るものは真っ当なガンプラバトルなんかじゃない」

「……何だって?」

 

「俺は……アイツを助けに行く」

 

 

 

 

 

模型店にたどり着いた時に感じたその異常な暑さで、やはり予想は間違っていなかったのだとヒロは確信した。

 

「……やっぱりか」

「何だこれは……」

 

ソードビットが、まるで自らの意思かのごとく、空間ごと捻れ曲がる。さながら蜃気楼のように。

そんな光景を目の当たりにし、カツラギは絶句した。

 

 

「絶対こんなのに負けたくないんだよ……!!!」

 

 

悲痛な弟の声が聞こえる。

 

「……乱入エントリーしかないな」

 

躊躇をしている暇はない。

今、この瞬間。

助けないといけない。

俺が──

 

 

鞄の中からガンプラを取り出した。

 

「出番だ……俺のガンダム……ッ!!!」

 

 

ヒロはその取り出したそのガンプラを、全力でバトルフィールド上面に向かって投げる。

そして、同時に全速力で走って筐体へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「!?」

 

射撃と爆発の音。

 

曇り空に輝く一点の光。

そこから飛び降りてきたそれが地面に着地したと同時に、砂埃が一気に舞い上がる。

 

 

「ガン……ダム……?」

 

 

靄が晴れると、ユウはそれを見て呟いた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……よく持ち堪えてくれた、ユウ」

「その声……?」

 

傷ついてはいたが、アポロンは未だ健在。

そのことにヒロは僅かにホッとした。

 

間に合ったのだ。

 

 

「……聞きたいこと、山ほどあるんだけど」

「全部終わってからだ。わかるな?」

「……うん」

 

ユウにとっては、あまりにも理解し難い出来事の連続であろう。

それでも。

まずは、目の前の脅威を退けなければならない。

 

 

「さあいくぞ……プロメテウスガンダムッ!!」

 

ヒロの呼び声に呼応するかのように。

久々の戦いを喜ぶかのように。

 

プロメテウスの瞳は、緑を放った。

 

 

 

 

 

普通とは到底思えない、紫色のオーラを放つプロヴィデンス。

それに立ち向かうべく、プロメテウスガンダムが一歩を踏み出す。

 

「……気を付けて。この相手、あり得ない動きばかりするし、させてくる」

「だろうな……知ってるさ」

 

知ってる……?

言葉に少し疑問を覚えながら、やっと復旧したシステムによって機体を立ち上がらせるユウ。

 

「対抗する術なら……」

 

こちらを狙って加速を始めるプロヴィデンス。

 

「ある……ッ!!」

 

その直線上にいるプロメテウス。

両者の視線が重なる。

互いのモニターに相手を視認させる。

退かず、恐れず。

 

その足を、強く踏みしめ、勢いをつける。

 

「危ない──」

 

 

──ユウの声と同時に、プロヴィデンスの右腕が落ちる。

 

「うそ……!?」

 

プロメテウスが背部から引き抜いたビームサーベルにより、斬り裂いていた。

 

「向こうから突っ込んでくるなら、攻撃で受け流せばいいんだよ……!」

 

この場においてこれほどの適応力を見せるヒロに、ユウは驚きを隠せなかった。

 

「ほらユウ、ボサッとしてると次が来るぞ!」

「……わ、わかった!」

 

呆気に取られている間にも相手は動いている。

次に備えるべく、二人は行動を開始した。

 

しかしながら、ご自慢の機動力をうまく発揮できず、重い足取りとなるアポロン。

 

「なん……だよこれ……!!」

 

このまま全力疾走で、敵のプロヴィデンスのもとへ飛び込んでいきたいところではあるが、

 

「接近戦は無理だぞユウ」

「わかってるよ……ッ!!」

「……今はな」

 

今は……?

時間経過によって、状況が改善されるのだろうか。

それよりも先程から、ずっとヒロが何かを知っているような口振りで話していることを、ユウは不思議に思っていた。

 

「当たれよ……!」

 

右サイドアーマーのホルダーからビームピストルを取り出すアポロン。

 

「少しでもいいから、相手の戦力を疲弊させるんだ」

 

そうユウに伝えたヒロは、プロメテウスをビームサーベルからビームライフルに持ち替えさせた。

 

相手の戦力を疲弊させる。

ユウの持つのは、出力よりも取り回し重視のビームピストル。

これほど極端に出力が低下している今現在、これでは敵の本体にダメージを与えるのは難しいだろう。

それなら。

 

落ち着いて。

相手の動きを読んで。

 

目標の動き──止まった!

 

「兄ちゃんは本体を頼むよ……ッ!!」

 

背後から再びこちらに向かってくるプロヴィデンスをヒロに任せると、ユウのアポロンは不規則な動きを繰り返すドラグーンに、発砲した。

 

 

 

「了解だ。なら次は……」

 

敵本体に照準を合わせるプロメテウス。

 

(いいさ、あくまでこれは相手の行動パターンを読むだけ。

読みきったらあとは──)

 

「──そのあとは2分でケリつけきってやるよ……ッ!!」

 

緑色の光線が放たれた。

その行く先は、プロヴィデンスの頭部。

ビームを掠め、破壊とまでには至らなかったものの、GPDにおいては致命傷である。

 

「やっぱり直線の動きだけ……。下手なモン使ってる割にただのド素人じゃないか……!」

 

相手をある程度見切ったヒロ。

すると突如、プロヴィデンスがユウのアポロンの元へ接近する。

 

「ユウッ!!」

 

一方のアポロンは、残ったビームサーベルでドラグーンを仕留めきっていた。

 

「何……!?」

 

油断しきっていたユウは、背後に迫るプロヴィデンスに気づかず──

 

「出力設定4倍!範囲固定!!」

 

 

「G-Program起動!!!間に合え……ッ!!!!」

 

 

 

──プロヴィデンスの攻撃は、アポロンの元へ届かずにプロメテウスのシールドで防がれていた。

 

「兄ちゃん……?」

 

この状況で、プロメテウスの機動力が上回ったのだ。

 

「っは、はぁ、はぁ…………無事か?」

 

超加速で飛んできた白いボディは、熱で赤くなっていた。

以前のドーベルと同じように。

 

「……兄ちゃん、それは……?」

 

ダクトから熱気が一気に放たれ、そのシルエットに陽炎が重なる。

赤みを帯びた装甲は徐々に本来の色を取り戻していく。

──と同時に。

 

[02:00]

 

プロメテウスのディスプレイにカウントが表示される。

そして、引いていった赤の代わりに、青い光が灯った。

 

衝撃波と共に立ち上がったプロメテウスは、ゆらゆらと燃える青い炎に包まれている。

 

ただ呆然と見つめるユウ。

相手のプロヴィデンスも驚いた様子だ。

しかしそれも当然。

 

「次は俺の……ターンだ!!」

 

あれほど足取りが重かった先程までとは比べ物にならないほど、高機動の動きをしているのだ。

足を踏みしめる力も強く、勢い良く飛び出したプロメテウスは、後退しようとするプロヴィデンスを逃さない。

 

「行かせるかよ……ッ!!」

 

瞬間、背後に回り込んだプロメテウスがドラグーンユニットに蹴りを決める。

バランスを崩したプロヴィデンスにビームライフル先端の剣を突き刺し、動けなくしてから射撃を食らわそうとした。

……が、捕らえられても尚足掻く虫のように暴れたプロヴィデンスに隙を許してしまう。

 

[01:43]

 

「チッ……!ユウ!!そっちへ向かったぞ!!」

「……えっ、あ……うん!!」

 

完全に動きを止めていたユウが改めて操縦桿を握りしめる。

 

左腕は使い物にならない。機体はうまく動かない。今できる最大限のことは……

 

 

『向こうから突っ込んでくるなら、攻撃で受け流せばいいんだよ……!』

 

 

相手は目の前。

パワーは足りない。

ならば相手を──

 

「──利用するまで……!」

 

膝下のビームサーベルを展開すると同時に重く右脚を片足立ちで持ち上げる。

それだけで、

 

「っしゃァ!!!」

 

相手の脚を股関節ごと切り裂いた。

向こうから蹴られにくる状況を作ったのだ。

 

「ようしユウ!よくやった」

「へへっ」

 

ヒロが褒める。

ユウは素直に嬉しく思った。

とはいえ、戦いはまだ終わらない。

 

筐体の熱は覚めることがない。

額には汗が。

 

「そんなユウには、お裾分けをするとしよう」

「お裾分け……って?」

 

コマンド操作を実行するヒロ。

そうすると表示されていた[01:14]の数字が減っていき、「00:37」と変わる。

 

「……!!これって……」

 

それと同時に、ユウの目の前のディスプレイにも[00:37]の表示が現れた。

 

「これで……いつも通りに動けるようになったはずだ。いけるな?」

 

不思議なことに、先程まで最悪のレスポンスをしていた操縦系が息を吹き返したのだ。

操縦桿の動きになんのタイムラグもなく、すばやい機動をするアポロン。

重い動きをしていた姿は、もうない。

 

「っしゃァ!!かかってこい!!」

 

アポロンの瞳が輝く。

持ち前の運動性能を発揮し、複雑な動きを絡めた全力疾走で敵を狙う。

相手は困惑した様子だ。

 

「ユウあれだ。この前の戦いと同じ……あそこまで誘い込めばチャンスは掴める」

「……!オーケーわかったよ……やってみせるさ」

 

何かを目に留めた二人が、言葉を交わさずとも思考を共有した。

 

勝ち筋が、確かに見えた。

 

自棄に見えるほど闇雲に突進してくるプロヴィデンスを、難なく回避してゆく。

 

「さっきの通り、もうこいつに攻撃の正確性なんてない。勝手に突っ込んできたときにバイタルエリアを狙んだ」

「バイタルエリア……?」

「100%相手にダメージを与えられる有効範囲だ。相手が避けきれないような致命傷を与えてやればいい」

 

画面には[00:25]の表示。

何かの時間が迫っていることだけはわかる。ならばすぐに、決着をつけなければ。

 

「さあて……今そっちに行ってやるからな」

 

右手を腰の後ろに添えつつ加速。

ビームサーベルのグリップを握ったのを確認すると、ちょうど目の前にプロヴィデンスの頭部があった。

 

「これでも喰らいな……ッ!!」

 

ギリギリのタイミングで、既に焼けていた敵の頭をビームサーベルで吹き飛ばした。

相手はまだ動く。しかし入れ違ったところでアポロンは何かを拾い上げる。

 

[00:13]

「ドンピシャだ……これでッ!」

 

先程手放していた太刀を強く握りしめると、僅かに刀身が熱を帯びる。

そして案の定、相手はこちらに向かってきた。

 

烈 火 (バ ー ニ ン グ)──」

 

その熱が次第に炎へと変わった瞬間、その日一番のパワーで、また凄まじい速度で振り下ろす。

 

「── 一 閃 ( ス ト レ ー ト ォ ォ) ッ!!!!」

 

相手が無闇に飛び込んでくる勢いと、振り下ろされる刃のスピードが合わさって、抜群の切れ味を発揮する。

 

その太刀筋が紅く染まりきった後、アポロンの背後に回ったプロヴィデンスが上下真っ二つに裂けた。

 

「ん……?」

 

──その裂け目から、見たこともない物体が確かに見えて。

 

「『N.R.REACTOR』……?」

 

確かに、そう文字が刻まれているように見えたが……爆発に邪魔をされ、はっきりと視認することはできなかった。

 

 

[Battle Ended

 

  Winner

 

 Yu's Mobile Suit  Apollon Gundam

     &

 Hiro's Mobile Suit Prometheus Gundam]

 

 

「プロメテウス……ガンダム」

 

それが、兄の使う機体の名なのか。

 

「……ユウ、今の『 烈火一閃(バーニングストレート)』って……」

「い……ッ!?言ってみたかったんだよそういうの!!!いいでしょ?別に」

 

ホログラムが消えていくと同時に、ヒロは呑気なことを言ってくる。

必殺技名を叫んでみたかった……という、ユウのちょっとした夢。恥ずかしいが、一応叶えられた。

 

「……さて、と」

 

話を終え今一度、紫の指輪をした相手を睨む。

 

「……!?」

 

負けたのが悔しかったのか、状況が理解できなかったのか、真っ二つのプロヴィデンスを慌てて回収し、何やら声を上げながら走り出した。

 

「あっ!待て!!」

 

静止を無視し店を飛び出していく。とてもじゃないが、正常な人間とは思えなかった。

 

 

 

「……あの、ありがと」

「え、あぁ……どういたしまして」

 

ピンチのところを救われたユウは、改めてヒロに感謝の言葉を口にする。

と同時に、数々の疑問が生まれたのも事実だ。

 

「教えてくれる?いろいろ」

「……わかった、話そう。何から聞きたい?」

 

まず始めに、駆けつけたヒロが操ったガンプラについて、ユウが質問をする。

そのガンプラの存在。そして、ヒロの過去。

 

「兄ちゃんさ、何者なの?そしてそのガンプラも」

 

ユウはあえて、単刀直入に聞いた。

 

「こいつはプロメテウスガンダム。わかったとは思うが、俺の愛機だ。……かつてのな」

「かつて……?」

 

様々な意味を含ませたヒロの言葉を不思議に思っていると、この店の店長が姿を現す。

 

「……話すのかい、昔のことを」

「オオツカ、さん?」

「……はい。いずれにせよ、いつかは話すつもりでしたから」

 

どうやら、店長はヒロの過去を知っているようだった。

今まで深くは知らされていなかった事実。それがどんなものなのか、ユウには見当すらつかない。

ただ一つ、わかるのは。

 

「……」

 

あまりいい思いをしていなかったであろう表情。

 

「……俺はかつて、お前と同じようにガンプラバトルに憧れ、挑戦した。お前と同じように、高いトコ目指したんだ」

「ヒロくんは……次も開かれるあの全国大会の……第6回大会の優勝者だ」

「え……」

 

その事実は、予想もしていなかったことで。

 

 

 

 

 

ヒロがガンプラバトルに触れた経験があったであろうことは、ユウも理解していた。

しかしそれがどれほどのものだったのか、ユウは知らなかったのだ。

 

「ま……待ってよ兄ちゃん、なんで俺はそのことを知らなかったんだよ」

 

優勝したとなると、家族もその取り巻きも大騒ぎとなるはずだ。

8年前とはいえユウは7歳。そのことを覚えていても不思議ではない。

しかしながら、ユウはその事実そのものを知らなかった。

 

「いつか大きくなって、ユウ自身もガンプラバトルを始めたとして……もしそれで、ユウも大会で優勝できたら、その時にトロフィーを見せて、驚かせようとしたんだ。ただの思い付きさ」

「思い付き……って、そんな」

「でもほら、『実はずっと近くにいた人が超強いヤツでした』って後になってわかるの、なんかかっこよくないか?」

 

目を輝かせながら、どこか嬉しそうに語るヒロに、ユウは頷くしかできなかった。

 

「自分の弟の前で、いつかかっこいい登場をしてみたかった……かっこいい兄だと思われたかった。子供みたいだけど、それが黙ってた理由のひとつさ」

 

かっこよくありたいという、単純明快で、真っ直ぐな理由。

それが、かつてガンプラバトルに熱中していた少年を動かしたワケであった。

 

「ひとつ……ってことは」

 

それなら、もっと胸を張ればいい。

想像していたよりも早いネタバラしだったとしても、明らかにかっこいい登場であったし、本人の目指していたものなのではないのか。

やはり、他にも理由があるのではないのか。

ユウは、ヒロに目線を送る。

 

「……あぁ、まだあるよ」

 

砕けた表情が、次第に曇る。

 

「一度負けたんだ、バトルに」

「……うん」

「おかしなバトルだった……何も出来ずにバラバラにされたんだよ、プロメテウス」

 

その事がよほど悔しかったのか、今になって熱が再燃してきたのか、声が上擦って聞こえた。

 

「訳もわからないまま恨み辛みを吐かれて、家に帰ってきて自分の手の中を見たら……信じられないほどに傷つけられたプロメテウスがいたんだ」

「……」

「なんか、そしたらどうでもよくなってさ。トロフィーも壊してしまったし、プロメテウスを戦いに出すのもやめて、全部引き出しにしまったんだ」

 

ヒロは、ガンプラバトルを棄てていたのだ。かつての夢も熱意も、栄光も一緒に。

 

「……でも、どうしても悔しくてさ。完全体に修復してから封印したんだよ。ユウみたく改造が得意だったわけじゃないから、パーツ総取っ替えだったけどな」

 

しかしその言葉の節々から、プロメテウスへの愛があったことは、確かに感じられた。

だからこそ、昔自分にガンプラを勧めてきたのだろうか。ユウは心のどこかで、そう思った。

 

「そう……だったんだ」

「あぁ。かっこよくありたかったのに、かっこ悪い幕引きをしたのさ。自分の手で」

 

ヒロのプロメテウスを握る力が、少し強まる。

ユウはそれを、きっちりと見ていた。

 

 

「……あの戦いは、僕も覚えてるよ。システム自体に異常が起こっているように見えたね」

 

オオツカが話に割って入る。よほど記憶に残るようなバトルだったのだろう。

 

「そうでしたね……恐らく意図的にパラメータが落とされていて」

「…………ちょっと待って?それって……」

 

聞いていると、心当たりしかないことに気がつく。

そう、つい先程まで戦っていた相手がまさにそれだった。

 

「その相手、指輪してた?」

「……ああ」

「じゃあ、やっぱりさっきのヤツが……!!」

 

予感は確信に変わる。

そうとわかっていたなら、一発殴りでもすればいいのに。

正当ではない理由で傷つけられるのは、納得できない。

再び現れたというのならなおのこと、自分は許せない。

 

「待てユウ」

「なんで!?」

「指輪をつけた人間は……一人じゃない。複数人いるんだ」

 

……と、ここで新たな事実が飛び出した。

 

「……集団ってこと?」

「確証はない……けど、俺が負けた相手の他にも、あの指輪をしていたヤツはいたんだ」

 

どうやらヒロ曰く、過去にも何度か挙動のおかしいガンプラと戦ったことがあるらしい。

プロメテウスの特性上、それらは何とか破ってこられたものの、最後に戦った相手には手も足も出なかった……ということのようだ。

 

「紫色の指輪をした人間は集団として存在していて、兄ちゃんはその親玉に当たった……ってことなのかな」

「そう予想されるな」

 

んん……と低く唸るユウ。

困ったような表情のヒロ。

この行き場のない憤りを、どうするべきか。

すると静まり返った二人に、オオツカが提案をしてきた。

 

「……現象として見るに、あれはどう考えても不正行為──即ちチートだ。決定的な証拠を集めて、月一で開催されてる公式の会議に提出すれば……何とかできるかもしれない」

 

ここで言う『公式の会議』と言うのは、東京のGPD運営本部にて毎月末に一度行われる、ルールや今後の方針等を定める会議のことだ。

普段は特別目立つ事柄はないものの、改善案やルール、機能の追加要望が直接提出されると、後々実装されていったりすることがある。

そしてそれは、不正報告等も同様であった。

 

「それをしたとして、事態は変化するでしょうか……」

「同様の不正を働いたガンプラが、バトルできなくなったりはすると思うよ」

「……やるだけやってみるなら、無駄じゃないってことですよね」

 

ユウの言葉に、ヒロが目を丸くする。

 

「ユウ、お前やる気なのか……?」

「うん」

 

驚いた様子のヒロであったが、ユウの視線によって次の言葉を押し止めた。

知っている。

今のこのユウの目は、本気の時の目だ。

 

「……他人事って思えないからさ。兄ちゃんは昔やられてるし、俺だって今被害を被った。これまでにもこれからも、そうして傷付いてしまう人はきっといるでしょ?」

「ユウ……」

「いっつも無謀なことばっかり……ごめん。でも、どうしてもね」

 

言い終わってから、ユウは筐体の奥へ走り出す。

 

「それにー!手がかりもないわけじゃないしー!!」

 

大きく手を振っているユウの元へ二人が駆け寄ると、そこには一枚のメモリーカードが。

GPDの筐体には、映像記録用のメモリーカードスロットが常備されている。ユウはそこを睨んだのだ。

 

「慌てて逃げてったから、多分回収を忘れたんだろうね。もしかするとこのメモリーカードから、不正行為をしているのかもしれないでしょ」

「よく見てたな……こんなとこ盲点だぞ」

「へへん、たまたまだよ」

 

自慢気に話すユウに、ヒロは素直に感心する。

 

「帰ってから解析だな……。任せとけ、こういうのは得意だから」

 

サムズアップをかまされると、ユウはそこに拳をこつんと当てて返す。

 

「……いいの?付き合わせちゃって」

「当たり前だ。俺はお前の兄だからな」

 

いつかユウに胸を張りたかった兄として。

ユウをガンプラへ引き込んだ者として。

かつて敗れた自分のためにも、今戦おうとしてくれている。そんなユウのために。

 

「全力を尽くそう。一緒にな」

 

謎多き闇に、二人の兄弟が立ち上がった。

 

 

 

「本当に仲がいいんだな、君ら兄弟は」

 

一部始終を後ろから眺めていたカツラギは、帰宅しようとする二人と合流し、呟く。

 

「あ、えっと……この人は?」

「あぁあれだよ、大学の友達」

「こんばんは。いつもよく話は聞いてるよ」

 

普段からどんなことをヒロに話されているのかはわからないが……少し不安になる。

が、悪い人ではなさそうだった。

 

「君は、無邪気でどこまでもまっすぐという印象だ。すごくいいものだね、ガンプラバトルとは」

「あなたは、ガンプラバトルをしないんですか?」

「俺は全然……ただ、正直興味は湧いたかな」

 

そうして少し話をしてから、ユウとヒロは、カツラギと別れた。

 

 

ユウは自転車があるため、駐輪場へ向かう。

すっかり真っ暗になった夜空を眺めながら、二人は歩き出した。

先頭を歩くヒロと、後ろで自転車を押すユウ。

五分ほど沈黙していたが、何かを思い出したかのようにユウが口を開いた。

 

「ひとつだけ、言い忘れてたー」

「何をー?」

 

テールランプの光と一緒に、すぐ隣を車が何度も通り過ぎて行く。

そんな中、前にいるヒロに、後ろにいるユウに届くように、車の走行音にかき消されないよう、お互い少し大きな声で話した。

 

「さっき『自分でかっこ悪い幕引きをした』って言ってたじゃんー」

「言ったけど、それがどうしたー?」

 

三秒の間。

そして、

 

「でも今日の兄ちゃん、めちゃくちゃかっこよかったと思うなあー!」

「……!」

 

とびきり大きな声で、ユウは叫んだ。

 

何も言えず、ヒロは思わず下を向いて立ち止まってしまう。

 

「…………ほんっっとによ……お前は」

「何ー?」

「いやー何にもないー!ありがとうな」

 

ヒロは、僅かに潤み霞んだ視界を手で拭った。

 

 

 

 

 

コンピュータのスロットに、先程回収したメモリーカードを差し込む。

 

「……どうだった?」

「ファイルは……お、3つ見つかったな」

 

素直に吐き出されたメモリーカードのデータを、今一度確認するユウとヒロ。

 

「『Alt-W 013-13.mp4』ってのが一番上にあるが……動画ファイルみたいだな。見てみるか?」

 

ユウは頷く。

ここまできておいて見ないわけもないだろう。

果たして、どのようなものが記されているのだろうか。

緊張と期待が混ざりながら、カーソルがファイル名のところへ重なるのを待った。

 

 

再生開始。

 

そこに映し出されたのは、ユウもよく見馴れた、ホログラムによって構成された世界。

 

「……あれ、もしかして普通にバトルの映像を記録してるだけだったり……」

「いや、そのバトルの様子からも、何かがわかるかもしれないぞ」

 

しばらく様子を伺う。

デューラー本人の腕と共に、先程戦ったプロヴィデンスガンダムのガンプラが移り込んできた。

どうやらバトル開始直前の映像らしい。

 

「……あれは何をしてるんだ」

「あれって?」

 

聞かれたヒロが画面を指差す。

そこには、バックパックのドラグーンユニットを外し、何かを行っている様子が移っていた。

 

そして胴体の中に、何かを差し込んでいて……

 

「N.R.リアクター……!?」

「え、えぬあ…………何のことだ?」

 

ユウが動画を一時停止する。

画面越しでは見えないが、ユウは確かに見た。

切断されたプロヴィデンスの胴体内部に、その文字があったことを。

 

「これが……あの現象を引き起こしてる原因かもしれない」

「……マジか」

 

そう理由付ける確かな証拠はないものの、予想としては十分考え得るものだ。

 

最後まで動画を見たが、やはり無茶苦茶な戦い方で勝利を修めていた。

残りの二つの動画ファイルも、同様である。

 

「こういうの記録するくらいガンプラバトルが好きなら、もっとマトモな戦いすればいいのに」

 

ユウの素直な感想。

わかっている。

そうもできない理由があるのかもしれない。良くないことであったとしても、力に魅せられてしまうという気持ちも、理解できない訳でもない。

それでも、人間を──他人のガンプラを相手にする以上、それを肯定してはいけない。

そんな気がしていた。

 

 

「……あれ、そういえば兄ちゃんさ、『G-Program』ってやつ使ってたよね。あれは何?」

「そういえば話していなかったな……ほれ」

 

そう言うとヒロは動画プレイヤーのウィンドウを閉じ、何やら文章のようなファイルを開いた。

 

「う、うわ……何これ」

 

パソコン関係に疎いユウにとって、それは意味不明な文字列であり、さながら暗号のように思えた。

これが一体何を示しているのだろうか。

 

「プログラムだよ、俺が書いた」

「ぷ、プログラ……って何の?」

「プロメテウス用のプログラムさ」

 

今度はブラウザを開き、GPDのサイトからレギュレーションをまとめたページを見せてきた。

 

[ガンプラバトルにおける『ガンプラに搭載される特殊機能、特殊モード発動』について]

 

「これって……」

「ここに一応書いてんだけど、ガンプラに搭載できる特殊システムって、自分で作るんだよ。だから俺が書いたんだ」

 

トランザムやエグザムなど、既存作品のものも同様であるが、基本的にガンプラの使うシステムは各個人が作ることになる。

プログラムにそれなりに理解のある人間ならば、当然細かく設定を含ませ、オリジナリティを持たせたものを作り上げることが可能なのだ。

もちろん、プログラムなんて出来ない人間は多くいるし、その中でも自分のガンプラにシステムを搭載させたい者も存在する。

そんなデューラーのために、構造が簡略化され、子供でさえ作成することが可能なほどの、プログラムのテンプレートが公式から配布されていたりもする。

上記のようなトランザム、エグザム等ならば、条件さえ満たせば無条件でガンプラに搭載することもできる。

つまりは、特殊機能を作ること自体はさほど難しくもないのだ。

 

しかし、これらを実際に使用するには、運営からの認証が必要である。

基本的にAIによるシステムチェックと認証であるが、幅があるとはいえ許可が降りるまでに数日かかることがあった。

またその審査基準も少々厳しいものとなっており、テンプレートから作成したものはおおよそ申請が通るものの、ヒロのように一からプログラムを書いたものとなると、申請が通らないことが多くある。

ガンプラに特殊機能を搭載するにあたって一番難易度が高いのは、この認証、審査であろう。

 

「まあわかるとは思うけど……『ずっとめちゃくちゃ強くなる』とか『負けなくなる』とか、あからさまなシステムは作ったところで弾かれるだけだからな。強力でありながらも、良いバトルをするための力を構築する……そんな″いい″バランスが大事っていうか」

「な、なんかすごいね……ほんとに。何でもできちゃうんだ」

「んまあねぇ。こういうのは専門だから」

 

へへん、とドヤ顔のヒロ。

昔からパソコンをいじり慣れていたのも、今大学で同じようなことをしているのも、ユウは知っていた。

自分には到底出来ないことだ、と心の中で素直に尊敬している。

 

「それでさ、どういう機能なの?」

「大きく分けて3つあるんだが、まず1つは『機体全体の一時的な出力向上』だ」

「トランザムみたいな?」

「そ、実際トランザムをベースに作ったからな」

 

G-Programの1つ目の機能『機体全体の一時的な出力向上』

向上する出力の倍率を任意で定めることができ、倍率によって制限時間が異なる。

制限時間超過後は機体性能が著しく低下し、それは倍率が高ければ高いほど顕著になる。

 

2つ目は『機体出力の僚機への共有』

1つ目の機能によって増幅させた機体の出力を他の機体へ分け与えることが可能であり、複数機を同時に強化させることができる。

ただし1つ目の機能によって設定される制限時間がさらに短くなるため、ここぞというところでの秒単位の戦いが要求される。

 

「力の共有っていうのはなんだかいいね、オリジナリティもある」

「だろ?幼いながらよく考えてたもんだよ」

 

一人で戦うときも、誰かと戦うときも、強力な力を発揮させることができる。

ガンプラバトルにおいて、ここまで頼もしいシステムもそうそうないだろう。

 

「それで、3つ目は……?どんな隠し球があるの?」

 

目を輝かせながら──若干食い気味にユウが問う。

しかしヒロは、どこかバツの悪そうな顔で

 

「……内緒」

 

と、小さく呟いた。

 

「え、えぇ!?何で!?」

「隠し球だからだよ!必要なときになれば言うから」

 

今言ってくれてもいいだろう、と思いながらも、もしかすると今言ってはいけない理由もあるのかもしれない。……いや、兄ちゃんのことだし、また何かのサプライズのつもりなのかもしれない……などと、ユウはなんとか納得しようとした。ともあれ、結局詳細はわからず仕舞いだ。

 

「まあまああれだよ!なんにしたって、あの無茶苦茶な野郎共には確実に有効に働くだろ、G-Program」

「そ、そうだね……!!」

 

華麗?に話をすり替えられたが、G-Programが切り札になるというのは事実だ。

相手のチートによって強制的に性能が落とされるなら、こちらからまた性能を底上げすればいい。それだけのこと。

 

「ただし……」

「……制限時間を越えれば、確実に負ける……か」

 

まさに、一長一短と言えるだろう。

 

「まあ、今俺達にできるのは、次に備えることだ。頑張ろうぜユウ」

「……うん、もちろん」

 

目と目で、お互いの言いたいことはなんとなくわかる。

 

水曜日の夜11時。

ユウもヒロも、決意の目をしていた。

 

 

 

 

 

「うんん……」

 

昼の休憩時間。机の上に弁当箱を広げながら、ユウは一人唸っていた。

次に備えること……と一言に言っても、何をどうすればいいのか悩むものだ。

戦いの手数を増やすこと。単純に経験値を積みもっと強くなること。自分一人でもある程度対処できるようになること。

いずれにせよ、戦いをし続ける他ないだろう。今日も学校帰りにバトルをしなければ。

と、ここまで考えてから初めて弁当に箸を付けた。

 

「……それで、」

「?」

 

ひとつ、息を吐いてからユウは正面を向く。

 

「なんで俺の机でご飯食べてるワケ?」

「いつも一緒のみんな、部活の大会で揃って学校に来てないからさ。ヒマなのよね、アタシ」

 

ユウの向かいには、さも当然であるかのように机の上で弁当を広げているツバキが。

ユウとツバキは先日初めて話したばかりだ。

 

「ヒマって……まぁいいけどさ」

「なんとなく目に入ったから。んね?」

 

ユウは特に返事をしなかったが、わざわざ拒否する理由もなかったため、一応の了承とした。

 

「ぼーっとしてんね」

「考え事」

「ガンプラのことでしょ」

「う……」

 

図星だ。

 

「あんま調子よくない感じ?」

 

弁当箱の白飯を掬い上げ、ツバキが聞く。

こうしていると、意外と箸の持ち方は綺麗だな とか、机に肘とかつかないんだな とか、そんなところに目がいく。

 

「調子よくないっていうか、ちょっとした問題がな」

「ふーん……」

 

暫く、静寂が続いた後。

 

「……ウチ来る?」

「え」

 

突如ツバキから発せられた言葉は、ユウにとっては衝撃的であった。

同級生の女子の家に。

この自分が。

 

「それって……!?」

 

 

 

「それ……って…………?」

 

ユウの目の前にあったのは、彼女の家……というよりも。

 

「ウチさ、喫茶店やってるんだよね。入んなよ」

 

そう言われるがままに、ユウはツバキのあとについていき、入店する。

夕方ではあるが、たまたま店内に他の客はいなかった。

個人経営の、小さな喫茶店である。

 

「コーヒーとか好き?」

「……わりと」

 

カウンター席に座ると、ツバキはその向かいに立つ。

 

「そんじゃ淹れるね、800円」

「はっぴゃ……ッ!?」

 

自然に手渡される流れだと完全に思い込んでいたユウは、値段を提示され驚愕する。

そして単純に高い。

思わず声を出してしまったのを背に、ツバキは奥へ去っていく。

瞬間ちらりとこちらへ振り返り、

 

「……冗談♪」

 

と、笑った。

その事実に安心すると同時に、ユウは不思議とどこかどきりとしてしまった。

 

 

 

「ん、お待たせ」

 

カップをカウンター越しにテーブルへと置いたツバキは、こちらを覗きながらもたれかかっている。

 

「……なんか悪いな、わざわざ」

「いいよいいよ、なんだか結構な悩み事があったみたいだし。一杯飲んで、頭の中リフレッシュさせなよ」

 

昼に少し見せた素振りだけでここまでしてもらうというのも、正直どこか申し訳ない。ユウはそう思いながらもいただきます、と小声で呟き、コーヒーに口をつけた。

 

「あ……おいしい」

「ウチヤマくん、苦いのもイケちゃうタイプなんだ」

「まあ一応……昔からよく飲むし。ってか、自分でコーヒー挽けるのは凄いな」

 

こちらからあまりしっかりと奥の様子は見えなかったものの、かなり慣れた手つきだったように思えた。

 

「凄いでしょ?よく言われる」

 

ツバキは得意気な表情を見せ、話す。

 

「親がこういうのやってるのもあって、アタシも教えてもらってたんだ。たまに手伝ったりもするし」

 

なるほど、と納得するユウ。

家族の影響で幼い頃から仕事道具に触れる、というのはよくあることだろう。手伝いをするなら尚更だ。

 

「……うん、本当に凄い」

 

ごく、と喉を鳴らしてから、ユウはまた感心した。

 

 

 

「……話聞こっか」

「え、」

 

じっと自分を見つめていたツバキが、不意に投げ掛けてくる。

 

「聞いてもわかんないでしょ?」

「んーまぁね。でもなんて言うかなぁ……的確なアドバイスとかが出せるわけじゃなかったとしても、ただ思い悩んでることを誰かにぽろっと溢すだけで、気が楽になったり、一回落ち着いてまた別のところから物事を見れたりするかもだよ」

 

遠慮せずに話してみなよ、とツバキは言った。

本人の言う通り、それで何か解決に向かうアドバイスが貰えるとは思えない。

でも、そうやって言ってくれる誰かがいるのは嬉しかった。

 

怪奇な力を操るガンプラ、またはその集団が現れつつあること。

自分の兄が、かつてその力に敗北していたこと。

今、自分がそれに立ち向かおうとしていること。

そのためにどうするべきかを考えていること。

 

いざ話し始めると、意外となんでも口にしてしまった。

できるだけ、詳しくなくても伝わるように話を噛み砕きながら話すと、ツバキはうんうんと静かに話を聞いてくれた。

 

「なんだかおっかない話だなぁ」

「まあな、」

 

無謀だと思われただろうか。それでも、一度やると決めたならそこは曲げたくない。

 

「……でも別にさ、難しく考えることはないんじゃない?」

 

どういうこと、と聞くより先に、ツバキは話を続ける。

 

「お兄さんのために頑張ろうとしてるってことは伝わったからさ。ウチヤマくんの思ってる通り、練習していろいろできるようになっていくのがいい……と思う」

「……やっぱそうだよな」

 

小難しいことを考えても仕方ない。

地道に進んでいって、その中で大きな収穫を探すのが良いのだろう。

 

「でも、多分もっと大事なのは″思い″だよ」

「……根性論?」

「ち、違うってば!思いが強ければ強い方が、モチベーションに繋がるでしょ?そしたら結果も追い付くんじゃないのかなぁって!」

「結局根性論な気もするけど……」

 

しかしながら、そう言われるとなんとなく納得はできる。

自分のやる気は、自分の行動に直接作用する。

何においても自分次第なのだ。

 

「……やらなきゃ、俺」

「ん、その気持ちで十分だと思うよ」

 

サムズアップを見せつけてくるツバキ。

それを見てユウは、微笑んだ。

 

「もしかして、普段から誰かの話聞いてたりするのか?」

「ん、どして?」

 

相手の話に耳を傾け、相手に寄り添って言葉を返す。

ユウはなんとなく、ツバキがそれに慣れている感じがした。

 

「話してて悪い感じがしなかったっていうか……第一、昼間の俺を見ただけでここに連れてきてくれたし」

「おせっかい……だった?」

「いや、世話焼きって感じ。当然いい意味でな」

 

ユウは今一度カップに口をつけようとしたところで、もう既にほとんど飲みきっていたことに気づく。

 

「……へへ、わかる?よく言われんの。友達思いなんだよアタシ」

「それ自分で言うのか……」

 

……いいやつだとは思っているが、どこかたまにムカつく。

だが、嫌な感じもしない。

知り合ったばかりではあるが、かなり心を開いてしまっている自分自身に、ユウは驚いた。

しかし、そりゃあ誰かに頼られるよな。そう思った。

 

 

 

店の奥から誰かがやってくる。

 

「あっ、お兄ちゃん……帰ってたんだ」

「ん、あぁ」

 

背の高い好青年といった出で立ちで、ツバキは彼のことをお兄ちゃんと言った。

そのまままっすぐ一直線に、ドアの方へ向かっていく。

 

「……」

「…………?」

 

振り返ったその青年に、ユウは何故かまじまじと見つめられる。

目を合わせているのも気まずくなり、軽めの会釈。

 

「……ふふっ、ツバキと仲良くしてやってくれてありがとう」

 

すると青年は爽やかに笑い、再びドアと向き合った。

 

「まさか家に男を連れ込むようになるとは、な」

「お……ッ!?」

 

一言を残し、青年は立ち去っていく。

一方のツバキは──

 

「そんなんじゃないし……!!!」

 

──大層、不服そうだった。

 

「……あの人は?」

「アズマ・マナト。アタシのお兄ちゃん」

「いたんだな、お兄さん。仲良さそうじゃないか」

 

内容はともかくとして、からかい合ったりできるならそれは仲の良い兄妹の証拠ではないだろうか。

ユウも、ヒロとそうしているように。

 

「……そう、見える?」

「え、」

 

ユウには何か、含みを持たせているかのように聞こえた気がした言葉。

だが彼女のことだ。特に意味もないんじゃないか。そう思ったユウは、軽く頷くのを返事とした。

 

「……そっか!」

 

思った通り、何事もなかったかのように笑顔で返される。

ユウはそのことに安堵し、そして飲みきったカップをツバキへ渡した。

 

「ご馳走さまでした」

「お粗末様でした」

 

それから軽く話し、感謝の言葉を述べた上で、ユウはガンプラバトルの練習をしてくる旨を伝える。

 

「ファイトだぞ、ウチヤマくん!!」

 

ツバキの力強い応援に見送られながら、ユウはいつもの筐体へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

「ッ……!!悔しいけど、単純に相手が強いなあ」

 

その日の相手は手強かった。

相手の駆るガンプラは「ビルドバーニングガンダム」。

ガンダムビルドファイターズトライにおける主人公機であり、近接格闘に特化した機体だ。

……そう、機体コンセプトがアポロンとおおよそ同じとも言える。

 

「近い近い……ッ!!」

 

普段なら自分から相手に接近したがるものの、逆に相手から近づかれると慣れない。

だが、ここで慣れなければいけない。

逃げてばかりいちゃいけない。

ユウにはわかっていた。

 

「悪いが次は俺の──」

 

右手は鞘に手をかけており、

 

「──ターンだ……ッ!!!」

 

兄のセリフを真似したユウはそのまま太刀を引き抜きつつ、回避行動にブレーキをかけ、踏み込む。

受けの態勢から、攻めの態勢へ。

 

ビルドバーニングの拳が空虚を突く。

その瞬間の動きのロスを、ユウは見逃さない。

 

「今……!!!」

 

ユウ命名、 烈火一閃(バーニング ストレート)

赤熱化し炎を纏った白銀の刃が、ビルドバーニングの曲面を形作った腰を切り裂く。

 

「よ、よし……」

 

正直ヒヤヒヤしていたユウだが、なんとか勝てた。

相手からの押しが強い場合は、自分からも攻めればいい。

そうしていれば必然的に、相手の弱い″隙″が見えてくる。

 

ユウは地道に、着実に、戦いのためのスキルを獲得していった。

 

 

 

 

 

数日後。

 

「おかえり、兄ちゃん」

「おーっす、はいこれ新発売」

「おおうっ!!最高だよ……」

 

金曜日の夕方、帰宅したユウとヒロは机の上にプラモデルを広げる。

 

「それ、もうすぐ始まるテレビシリーズの機体だよね」

「主役機だからな。確保しない理由はないだろ」

 

ニヤりと笑うヒロを横目に、ユウは自分の作業を続ける。

何度か続いたバトルによってすり減った関節や装甲を、修復させていたのだ。

 

ヒロは一通り箱の中身を確認したあと、一度箱を閉じ、しまう。

 

「ん、作らないの?」

「いや、作ってもいいんだけどさ……久しぶりに改造したくなって」

 

ユウは内心驚いた。

プロメテウスガンダムという、改造の結果自体は目にしているものの、ヒロ自身がガンプラを改造しようという姿は、これまで見たことがなかったからだ。

 

「どしたの?急に」

「なんか、突然頭に浮かんだことがあってな……手を動かさなきゃダメな気がしたというか、いてもたってもいられなくなったというか」

 

そう言うとヒロは、ガンプラのジャンクパーツを集めた箱を取り出してきて、早速漁り始めた。

取り出しているのは……ライフルのバレル?

 

「ユウさ、最近すごくバトル頑張ってるだろ」

「えっ、まあその……うん……?」

 

頑張ってるか頑張ってないかを自分で量るのは難しいが……頑張っていないというのも、嘘になるかもしれない。

疑問形になりつつも、ユウは答えた。

 

「やっぱりユウのそういうとこ見てるとな、俺も頑張りたい気がしてくるんだ」

 

細々としたパーツを集めながら、ヒロが続ける。

 

「言ったろ?一緒に全力を尽くそうって。だから俺は、ユウのサポートを全力でやるって決めた」

「兄ちゃん……」

「俺とプロメテウスが先制攻撃、それ以降のアポロンの後方支援、そしてG-Programによるエネルギー共有。例のチーター野郎が出てきた場合は、この3つを担わせてもらうぞ。問題ないか」

 

ヒロは真剣な眼差しで、ユウと目を合わせた。

答えは、言うまでもない。

 

「……うん、任せる」

 

ありがとう、と小声で呟いたのは、ヒロに届いただろうか。

 

「さてと……そんじゃ俺もやるぞ、改造を」

 

イスを少し横にずらし、ヒロが机を使うスペースを設けるユウ。

その日は一晩中、ユウもヒロも、ガンプラ改造に夢中になっていったのであった。

 

 

 

 

 

いつも通り、メッセージのやり取りで待ち合わせをする、学校帰りのユウ。

模型店の外で待ちぼうけをしていたが、改めて以前にも目にしたポスターを見つめる。

 

「全国大会、か」

 

実は先日、ユウはヒロと共に、最寄りである第11ブロック地区予選にエントリーしてきたところであった。

興味が沸いていた舞台が、近づこうとしている。

自分は、果たして大丈夫だろうか。

不安は間違いなくある。だが、それだけではないとも思っている。

微かな自信。数多の強敵と戦える希望。確かな興奮。

その全てが、ユウを掻き立てる。

アポロンガンダムを、一番かっこよくさせる舞台に連れて行ける。

 

「……!!!」

 

想像するだけで、そわそわした。

 

「悪い、待たせ……た?」

「……ん、あっごめん」

 

到着したヒロが、ぼーっと立ち尽くしているユウを見て戸惑う。

 

「何かあったのか……?」

「んーん、何にもないよ。行こっか」

 

ユウはヒロを引っ張って店内へ入っていく。

この日はヒロの腰からも、ガンプラのホルダーが提げられていた。

 

 

 

「さて……どこで戦おうかな」

 

筐体に囲まれながらユウが呟く。

初めから戦う気が満々なのには、理由があって。

 

「……地区予選に出るには、ある一定数以上、バトルに勝利した実績が必要……だったよね」

「その通りだ。例の集団を叩くことだけに目がいってると、ノルマ達成できなくなっちまうぞ」

「大丈夫だよ兄ちゃん。向かってくる相手みんなに勝てばいいんだから」

「フッ、その意気だ」

 

ここ数日、ユウは幾度となくガンプラバトルの経験を積み重ねてきた。

たとえ強力な敵が立ちはだかったとしても、簡単に負けるつもりはない。

 

「……っと、どうやら待ち構えているデューラーがいるぞ」

「行くよ、兄ちゃん」

「ああ……どこまでもついていってやる」

 

筐体の前で仁王立ちをしていたのは、これまでと違って二人。

しかし、ヒロとしては好都合であった。

N.R.リアクターを用いた違反行為を行う相手に対し、乱入をしかけて二人で戦うことはまだしも、普通のデューラー一人に対して、ユウとヒロの二人でかかるのはいささか腑に落ちない。

逆に、最初から相手が二人ならば、二対二の構図になるため、気兼ねなく戦うことができるのだ。

 

「……うまくサポートできるか、試してやりたいからな」

 

それにヒロのプロメテウスガンダムは、数年ぶりに新規武装を搭載しているのだ。

腕試しなら、誰だってしたくなるはずだろう。

 

相手と目を合わせ、ユウとヒロはカードキーを筐体に差し込む。

 

[Yu's Mobile Suit

   Apollon Gundam

     &

 Hiro's Mobile Suit

     Prometheus Gundam

      VS.

   Kenji's Mobile Suit

      Fawn Farsia

        &

    Jun's Mobile Suit

       XEKU-EINS(2nd type armed)]

 

どういう訳か、相手はなかなかアンバランスな組み合わせに見える。しかし、そんな油断が隙を生むのだろう。

そうさせてはならないとユウは心の中で、自らを戒める。

 

ホログラムが広がり、バトルフィールドが形成されていく。

相手の二人が機体を発進させていくのを見てから、ユウとヒロも、目の前の台座に各々のガンプラを乗せた。

ヘパイストス。そう名付けられた、中遠距離射撃用複合兵装を右腕に装備した、新たな装いのプロメテウスガンダム。

 

「ウチヤマ・ヒロ、プロメテウスガンダム出撃する……ッ!!」

 

何度も戦いを経験してきたことで、強い愛着が湧きつつあるアポロンガンダム。

 

「ウチヤマ・ユウ……アポロンガンダム!行きますッ!!!」

 

二つのガンプラが肩を並べながら浮き上がり、半球状のバトルフィールドへ、直進した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ステージ設定は森林。

開けた土地も少なく、視覚的に障害となりやすい木々が満ちている。

 

[READY?]

 

ふと思い返すと、バトルのはじめからプロメテウスと一緒なのは、今回が最初。

ユウはそれに気づくと同時に、この右隣の存在がやけに頼もしく感じた。

 

相手は、一体どう攻めてくるか。

第二種兵装のゼクアインを後方に配置し、フォーンファルシアが直進してくるか……これだ。

相手は恐らく自分達と同じ手を使うだろう。そう確信したところで──

 

[BATTLE START]

 

──バトル開始の無機質な効果音が、耳に届いた。

 

辺りを覆い尽くす木々の全長よりも、MSの全長の方が僅かに高く、一応の視界は確保できる。

……とはいえ、そこに映る情報量は僅かであった。

 

「まずは敵を炙り出す。位置が特定でき次第、急行するぞ」

「わかった」

 

胸を張って堂々と行う、数年振りのガンプラバトル。

ヒロはどこか、清々しい気持ちであった。

握りしめた操縦桿が、プロメテウスに命令をする。

 

「ヘパイストス、レディ」

 

勢いよく飛び上がったプロメテウスは、その森の全貌を目にする。

索敵モード──熱源の移動は、うまく感知できなかった。

ならば……!

 

GNソード宜しく折りたたまれていたヘパイストスのバレルが、前方を向くように展開する。

回転移動後、本体とバレルがドッキングすると、巨大なスナイパーライフルへと変貌を遂げた。

 

連続射撃モード──一点を狙わず、高出力のビーム砲撃を放ち続けることで、周囲にビームを撒き散らすモード。欠点として、エネルギー消費があまりにも激しいため、複数回の使用は考慮されていなかったりする。

 

「こいつはとびきりのォ……」

 

ヒロが手元のウィンドウ操作でそれを選択すると、銃口にエネルギーが充填されていく。

 

「……威嚇射撃ってやつだ……ッ!!!」

 

桃色の太い光線が地表を焼く。

そのまま機体は上空で旋回を始め、次第に射線は円を描いた。

炎と炎が一本に繋がった後、大爆発が巻き起こる。

 

射撃を終え、元いた場所に着地するプロメテウス。

 

「す、すっごいけど……敵に見つからないの?」

「それも一つの作戦さ」

「作戦……?」

 

ユウの疑問に対して、ヒロは人差し指を立てて得意気に答える。

 

「もしかしたら、敵がうっかり射撃に当たってくれるかもしれないし、当たらなくて逆にこっちが見つかったとしても、相手は向かってくるだけ……。そうなれば、こちらからお迎えに行く手間も省けるってもんだろ?」

 

ヘパイストスのバレルを元の形態に戻し、低出力モードで前方を撃つ。

木々の間に、道ができた。

 

「あと、一か八かではあるが……ビームで森を円形に焼けば、その円の中に敵がいた場合、簡単には外へ逃げられなくなる。俺達と一緒に、嫌でも中心に集まってくるっていう算段さ」

「……もし敵が円の外にいたら?」

「離脱できなければ俺達が燃えておじゃんだ」

「ほ、本当に一か八かなんだね……」

 

思ったよりも大胆な作戦を考えるなぁ……とユウは苦笑いをした。

……とはいえ。

 

「そういうの、嫌いじゃないかも」

「だろ?」

 

苦笑いは、本当の笑いに変わる。

口角が自然と上がる。ニヤつく。たまらない。

 

この瞬間がまた、楽しいと思えた。

 

「お膳立てはさせてもらったんだ。先導して、道を切り開き続けるのはお前の仕事だぞ。ユウ」

「わかってるよ……任せて」

 

待ってましたと言わんばかりに、ユウは操縦桿を強く握り直す。

スラスターが火を吹くと、アポロンは加速し、森の中を進み始めた。

プロメテウスも、アポロンの後ろに続く。

 

「うわ……すごいな」

 

敵の位置を探りつつ移動をする二機。

辺りを囲む炎が、徐々に広がっていくのが、確かにわかる。

 

「どう?見つかった?」

「いや、ちっとやらかしたかもしれないな」

「え、何が……?」

 

つい先程まで得意気だったヒロの態度が、目に見えて変わっている。

 

「……木燃やしまくったせいで、熱源の探知がアテにならない」

「何やってんの!?!?」

 

円形に照射されたビームにより燃えた地表と、敵機体の反応が混同するようになってしまった。

燃え広がるのもヒロの想定以上に速く、機体の移動と区別が少々つきづらい。

 

「……仕方ないなあ。森より機体の方がギリギリ背高いんでしょ?視覚的に見つからないかな」

「やってみる。あとそのまま直進すると炎にぶつかるぞ」

「ってことは……反対方向へ向かうよ!」

 

相手が炎を避ける行動を取っていると仮定すると、しばらくは燃え広がらないであろう円の中心方向へ向かうのが正解だ。

 

スラスターによるエネルギー消費を軽減させるため、アポロンは地に足をつけ、走り出した。

それでも、十分な速さだった。

 

 

「右斜め後方!!ゼクアインだ!!!」

「後方……!?」

 

かかとのブレードを展開し、急ブレーキをかける。

そのまま旋回し、加速の方向をゼクアインへ向けると、アポロンはハイジャンプをした。

 

「やっと見つけた……今そっちへ行ってやるッ!!!」

 

敵機捕捉。

すかさずリアアーマーからビームサーベルを引き抜き、その勢いのまま相手を切り裂こうとする。

……が。

 

「んな……ッ!?」

 

アポロンの突撃は、突如現れたもう一機によって防がれた。

 

「そんな……一体どこから!?」

「……頭頂高か」

「何……?」

 

改めて、敵機との邂逅を果たすアポロンとプロメテウス。

 

「フォーンファルシアの頭頂高は16m……小柄さを活かして、この森で気配を消してきたんだろう」

「盲点だった……ついゼクアインばかりに気を取られて」

 

話している間にも、ゼクアインがスマートガンを構え出す。

 

「反省するのは後だ……ゼクアインの射撃は速いぞ!次の手を打てッ!」

「了解ッ!!!」

 

スマートガンからのビームを二機同時のジャンプで避けると、プロメテウスは後退、アポロンは前方へ加速をかけた。

 

フォーンファルシアのバトンがビームを纏い、それらを細かく放ってくる。

アポロンはそれを全て回避……することができなかったものの、瞬間的にビームシールドを展開することで事なきを得た。

手に持っていたビームサーベルを起動させ、刀身を出現させる。

逆手持ちをし、相手へ突撃姿勢を取ると、スラスター最大加速でフォーンファルシアに飛び付く。

 

「……何ッ!?」

 

しかし、ビームサーベルは相手に防がれた。

というより、相手によって減衰させられている。

 

「電磁装甲か……厄介ではあるが……ッ!!」

 

当然、ビーム兵器が全てではない。

一度ビームサーベルをリアアーマーへ戻そうにも、腕をがっしりと掴まれており制御が効かない。

体格の割にパワーがあるなぁと敵ながら感心しつつも、自慢の脚で相手を蹴り飛ばす。

ビームサーベルを戻し、改めて太刀を取り出すと、切っ先を相手に向けて威嚇した。

 

「さて、お前から動くか、俺から行くか……」

 

対するフォーンファルシアは、バトンに纏うビームをしなやかさを持ったリボンのように変質させ、こちらを見つめている。

 

「なら……俺から行くぞッ!!!」

 

 

 

少々後退したプロメテウスは、予想外の動きを見せるゼクアインに驚かされていた。

 

「おま……ッ!!ビームサーベルで突っかかってくるとか聞いてないぞ!?」

 

第二種兵装ということもあり、てっきり後方支援に徹するかと思っていたが、全くもってそんなことはなかった。

 

「悪いがお前ばかり相手に……していられねえッ!!」

 

ヘパイストスのバレルを展開し、通常射撃モードで一発お見舞いしてみせる。

しかし直撃させたのはゼクアイン本体ではなく……その足元。

泥と砂埃を巻き上がらせ、目を眩ませた。

 

 

 

ビームリボンの不規則な動きに戸惑いながらも、アポロンは突撃をやめていなかった。

 

「悪いな……この刀身はビームの粒子すら切り裂くことができるんだ……ッ!!!」

 

すぐ目の前まで迫ってきたビームでさえ、アポロンの太刀がそれを無効化させる。

ユウは自ら作り上げたこの刀に、絶対的な信頼を置いていた。

 

目と鼻の先で繰り広げられる攻防戦は、激しさを増していく。

バトンの先から撃ち放たれた射撃に思わず不意を突かれ、頭部を掠めた。幸い致命傷にはならなかったものの、辺りどころが悪ければカメラが死んでいただろう。

しかし、その攻撃がユウに火をつけた。

 

「へっ……やってくれたなァ!!」

 

アポロンの太刀が赤熱化し始め、次第に炎を帯びる。

 

烈火 一閃(バーニング ストレート)ォッッ!!!!」

 

そのエフェクトにおののいたか、フォーンファルシアがバトンで攻撃を防ごうとしたその右腕ごと、大きく振りかぶった刀身が裂いた。

バランスを崩し、転倒直前のところでフォーンファルシアの胸部が光り始める。

 

「今度は何だ……!?」

「拡散ビーム砲だ!!ユウ、避けろッ!!!」

 

ヒロの通信が聞こえたとはいえ、完璧に回避することはまず不可能だっただろう。

完全にバイタルエリアを侵していたアポロンは、まさに直撃コースだ。

……だが、ここで簡単には終わらなかった。

 

「……!?」

 

フォーンファルシアのビーム砲の発射直前、二機の間に別の機体のビームが割り込む。

射線の先には、狙撃モードのヘパイストスを構えるプロメテウスの姿が。

この突然の射撃を回避するためにフォーンファルシアが動いたことで、拡散ビーム砲の射角が大きくずれ、アポロンへの被弾は免れた。

ヒロが、ユウを助けたのだ。

 

「ありがとう兄ちゃん……また助けられちゃった」

「いいっての。俺はお前をサポートするって決めたからな」

 

体勢を立て直してから一度距離を取ると、相手の姿がよく見える。

ビーム砲を当てられず、困惑した様子のフォーンファルシアに、全力疾走するアポロン。

相手を一度大きく飛び越え、機体の背後を取る。

反応が追い付かない間に、かかとのブレードを展開してから回し蹴りをした。

手応えは……一瞬だけだった。

 

「……ッ!」

 

掠めたのは敵のバックパックの一部であり、本体に大ダメージは食らわせられなかったのだ。

落ちたバトンを左手で掴み直してから大空に向けて跳び、逃げ始めたフォーンファルシアをアポロンが追いかける。

 

「逃がすかよ……ってうわっ!!」

 

相手の掌からビームの雨が降り注ぎ、アポロンの対応が遅れる。

しかしそこにプロメテウスの銃撃が援護に入った。

 

「兄ちゃん!!」

「ビームバルカンは気にするな!俺がお前の邪魔を全て消してやるッ!!」

 

腰を深く落とし、狙撃モードのヘパイストスは上空を彷徨うフォーンファルシアを捕捉した。

敵の攻撃が止んだと同時に、アポロンもフォーンファルシアを狙って飛び上がる。

しかしやはり小柄さが活かされ、プロメテウスの狙撃すら回避し続けていた。

 

「ちょろちょろと……俺より速いのは気に食わねえッ!!」

 

左手にビームピストルを取ったアポロンが、プロメテウスの射撃を回避した瞬間のフォーンファルシアを狙い、銃弾をばら撒く。

 

「頭を下げろユウ!!」

「ッ……!?」

 

すぐさま上空にて姿勢を下げると、背後からプロメテウスのそれとは違うビームが通りすぎていった。

 

「……ゼクアインの野郎か!」

 

プロメテウスがアポロンの援護をするように、ゼクアインもフォーンファルシアの援護をしていたのだ。

速射型スマートガンが、その名前の通りプロメテウス以上の充填速度でアポロンを狙い撃ちしてくる。

 

「ッ!!むしゃくしゃさせてくるなァ!!!」

 

ビームピストルの方向を180度変え、ゼクアインに向けるアポロン。

 

「当たらなくてもいいからこいつで少しはビビってくれ……!!!」

 

狙いはうまく定まらなかったが、何度か発砲したのをゼクアインが回避行動を取ったために、位置を変えることができた。

そして幸い、そのうちの一撃がスマートガンに直撃する。

 

「よくやった!!」

「っっしゃ!!!」

 

爆発を見て安堵するユウであったが、まさにその瞬間が″隙″であったことに、少々遅れて気がついた。

 

「がはァッ!!」

 

フォーンファルシアのビームリボンがアポロン全体を巻き付けるように纏わりつき、離れない。

ビームで機体が焼け、動けなかった。

再び胸部の拡散ビーム砲にエネルギーのチャージが行われ始めると、さすがのユウも焦りを見せる。

 

「なんの……これしき……ッ!!」

 

ユウは両腕からビームシールドを最大出力で展開し、敵のビームを相殺していく。

トドメと言わんばかりのプロメテウスによる掩護射撃で、相手の束縛を逃れた。

 

 

「……!?」

 

ヒロのモニターからアラートが響く。

ヘパイストスの照準をフォーンファルシアから外すと、すぐそばにビームサーベルを刺してこようとするゼクアインがいた。

 

「そうか、さっきの攻撃で射撃ができなくなって……」

 

相手のゼクアインは満身創痍であった。

一番のアイデンティティを失ったことで、目の前の敵を狙うことにシフトしたのだろう。

 

「だが、舐められたモノだな……」

 

すると突如ヘパイストスのバレル下部が、ゆらゆらと妖しく、青白く発光していく。

 

「俺は近接も……苦手ではないんだよッ!!!」

 

青い熱を帯びたのはブレード部分。

ヘパイストスの持ち方を変えると、完全に相手を斬り込む姿勢になる。

次にゼクアインがビームサーベルで突撃したその瞬間──

 

「はあッッ!!!」

 

──ゼクアインの胴体はさながらバターのように、意図も容易く切断された。

 

 

「兄ちゃんがゼクアインをやった……!なら俺は……ッ!!!」

 

拡散ビーム砲が発射されるもそれを回避し、コードを伸ばしたままソードビットを射出した。

アポロン本体よりも機動力の勝るソードビットが、避ける暇など与えずフォーンファルシアに直撃する。

二つのビットを突き刺し相手の動きを止めたまま、アポロンは地上に再び降下した。

背中を勢いよく振り下げ、敵を地面に叩きつける。

 

「残りはあいつだけだ」

「やれるか、ユウ」

「当然じゃん……!」

 

ソードビットを基部へと戻し、相手を今一度睨み付ける。

気がつけば、周囲の炎は思いの外すぐ側まで近づいていた。時間はもうそれほど残されていない。

次の攻撃で勝てる……勝たなくては。そう思ったユウであったが、

 

「何だ……?」

「……マズいなこれは」

 

立ち上がったフォーンファルシアが、何やら雄叫びを上げているように見えた。

 

ユウの額に汗が流れる。

その瞬間ユウは、全てを察した。

 

「この筐体の熱さ……もしかして」

「お前の言う、N.R.リアクターってやつを……あいつも使っているということだろうな」

 

始めから搭載していたものをここまで隠し通していて、ピンチとなったこのタイミングで起動させたのだろう。

見たところ、デューラー同士で口論を始めており、ゼクアインを使っていたデューラーはこのことを知らなかったようである。

 

ユウもヒロも、一気に機体のレスポンスが劣悪になっていくのがわかった。

 

「……とはいえ、だ。相手は既にギリギリの状態……時間稼ぎも要らない。すぐに決めるぞ」

「わかったよ……何秒?」

「待ってな……」

 

ヒロがディスプレイ操作を実行し始めると、待ちきれなかったかのようにフォーンファルシアはアポロンに突進をしかけてくる。

 

「ぐうッ……!!」

「ユウ!!!」

 

反撃のつもりだろうか。アポロンの右肩を掴み、そのままバトンを離した掌のビームバルカン──出力設定を勝手に変更したせいで、バルカンと言える出力をしていないが──を発射させた。

即座に右肩を切り離したものの、相手はこちらを逃がさない。

 

「一人あたり35秒だ!!G-Programを3倍で起動させるッ!!」

 

これまでの戦いで消耗してきたこともあり、エネルギー残量が乏しかった。

 

「厳しいねえ……でも、だからこそ燃える」

 

ユウの心臓はバクバクしていたが、それと同時に興奮もしていた。

プロメテウスが青い炎に包まれると同時に、アポロンの反応がどんどんと復活していく。

 

「パワー同期OK!動けるぞ」

 

フォーンファルシアをかわせるようになったのを確認する、相手の離したバトンを奪い投擲する。

相手もまたそれを回避したものの、その間に距離を取り、体勢を立て直す。

背中合わせになるアポロンとプロメテウス。

 

[00:28]

 

フォーンファルシアが再び雄叫びを上げると、今度はステージ設定を僅かにいじられた。

炎の燃え広がるスピードが、格段と速くなったのだ。

 

「迫ってきてる……俺達と心中するつもりってか」

「させるかよ……相手はまた拡散ビーム砲を撃ってくる。ユウ、こいつを借りるぞ」

「借りるって……?」

 

ヒロがウィンドウからある項目を選択すると、突如アポロンのソードビットが射出される。

 

「え……!?」

 

何も知らないユウは驚愕するが、そんなユウを気にもせずヒロは事を進めていく。

合体攻撃モード──バレルを展開せず、ヘパイストス本体の左右に、アポロンのソードビットを装着することで、刺撃または一度きりの高出力射撃を行えるモードだ。

 

[00:20]

 

「ヤツのエネルギー充填速度は明らかに速くなっている!!敵のビームはこっちが引き受けるから、お前はトドメをさしてくれッ!!!」

 

言い終わるより僅かに先に、フォーンファルシアが、超出力の拡散ビーム砲を放つ。

 

「間に合え……って!!!」

 

ソードビットと合体したヘパイストスから、艦主砲クラスのエネルギーを発射した。

出力に耐えきれず、僅かにプロメテウスの足が後ずさる。

だが、なんとか踏ん張って見せた。

 

[00:14]

 

フォーンファルシアのビームとプロメテウスのビームは、互いに同じ射線上にあり、真正面からビーム同士がぶつかる。

辺りに強い衝撃波と、甲高い音が鳴り響く。

 

[00:12]

 

「負ける……ものかァァッ!!!!!」

 

ユウが、思いきって攻撃をするために。

ユウが前を向くために。

ユウを支えるために。

 

様々な思いを秘めたビームが、フォーンファルシアの攻撃を押し退けていく。

 

「今だユウ!!トドメをさせェッ!!!!」

「ぬああああああッッ!!!!!!」

 

燃え広がる炎。

残りわずかなG-Program。

いずれにせよ時間がない。

 

力負けし、モロにヘパイストスの射撃をくらったフォーンファルシア。

 

[00:07]

 

焼け焦げながらも、まだ反撃をしようとする、その目の前には──

 

「やられてくれ……ッ!!!」

 

── 太陽神(アポロン)の顔が、迫っていた。

 

焦りの中、膝下のビームサーベルを展開したアポロンが、バイタルエリア内のフォーンファルシアを蹴り裂く。

 

最後まで反撃をやめなかった相手が、音を立てて爆散した。

 

 

[00:00]

 

タイムアップ。

最後までこの炎をモノにしていたのは、

 

[Battle Ended

 

  Winner

 

 Yu's Mobile Suit  Apollon Gundam

     &

 Hiro's Mobile Suit Prometheus Gundam]

 

ユウのアポロンと、ヒロのプロメテウスであった。

 

 

「っはァァ……」

 

ホログラムが消えていくと同時に、思わず座り込んでしまうユウ。

正直、危なかった。

 

なんとなく、ヒロが手を差し伸べてでもくれるかと期待していたユウであったが、

 

「は…………」

 

ヒロもまた、ユウと同じように姿勢を崩していた。

 

 

「……!そうだ、フォーンファルシアのデューラーは……!!」

 

何かを聞き出さなければ。

そう思い、慌てて立ち上がったユウは走っていく。

 

「お前!!いやキミ!というかあなたッ!!ケンジさんとか言いましたよね!?」

「な、なんだよ……!?」

 

思っていたよりも年上であったが故に、一応呼び方を変えたユウ。

ゼクアインを使っていた相方も、色々と聞きたそうな顔をしていた。

 

「あの無茶苦茶な、常軌を逸した能力!!あれは一体どうしたって言うんですか!!」

「んなこと知るかってんだよ!!」

「……N.R.リアクターか」

「な……ッ!?」

 

しらばっくれた様子に腹を立てたユウは、相手の図星を突いた。

 

「やっぱりそうか……あれは一体どこで手に入れた!?誰が主導でこんなことをしているんだ!!」

「お前ら勝てたんだから文句ねえだろうがよォ……!!」

「勝てずに無茶苦茶にされた人間だって、大勢いる筈だろう……!!!」

「やめておけユウ!!」

 

思わず掴みかかりそうになったところを、ヒロの制止で止められる。

 

「話してはもらえないですか。これ以上傷つく人を増やしたくない」

 

とはいえヒロも、その声色から静かに怒っていることが伝わる。

 

「わ、忘れたよそんなもん……!!」

 

しかし、相手はその一言を言い放ったと同時に、大急ぎで逃げていく。

 

「ッ!!待てよ!!!」

 

捕まえようとするも敵わず、結局逃がしてしまった。

相方は申し訳なさそうに深く頭を下げてから、追いかけていった。

 

 

「……収穫はナシか」

「″N.R.リアクターってのが現象の原因″ってことが確定しただけでも、よかったとしよう。ユウ」

 

落ち込むユウの肩に手を置き、慰めるヒロ。

 

「それにさ、見てみろよ」

「……?」

 

携帯電話を開き、筐体のカードキーと連動しているアプリを見せる。

 

「……お前が 決闘(デュエル)の末、確かに勝ち取った勝利だ」

 

そこには、勝利数に+1の文字が。

地区予選にエントリーした以上、その一回の勝利が、これまでより遥かに価値のあるような……そんな風に、ユウは思えたのだった。

 

 

 

 

 

「負けちゃったんだなぁ、ナンバー042……ケンジくんだっけ」

 

薄暗く、しかし暑くて、嫌な空気が立ち込める場所。

さながら、フィクションなんかによく出てくる地下闘技場のような。

 

「悲しいなぁ……みんな勝ってほしいのに」

 

あちらこちらに散らばる、型落ちの筐体。

そこで盛んに戦う者達。

それを一人椅子にもたれ掛かりながら、見つめるフードの男がいた。

その指には紫色の指輪が。

 

「勝ってほしいのに……勝ってくれよぉ……」

 

小さく聞こえる嗚咽。

涙は、落ちない。

 

「勝ってくれなきゃ……ユウが悲しむじゃないかァァッ!!!!!」

 

しかしすぐさま、その声は怒号に変わる。

 

息を切らしなから立ち上がる男。

 

「みんなは……代わりに頑張ってね?」

 

叫び散らしたばかりとは思えない気味の悪い笑顔が、目元の隠れたフードからチラりと、確かに見える。

 

 

闇は、既にすぐそこまで来ていた。

 




こんな長文をたらたらと書ききったわりにはめちゃくちゃお話が進んでいる感じがしないという
非常申し訳ないのですが
いかがだったでしょうか

特に書くこともないのでもう終わりにしますが
次こそは近い内に更新したいですね……

それでは


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