ガンダムビルドデューラーズ   作:ぬぬっしし

6 / 6
投稿期間が開くのが常態化している悪いぬぬっししですどうも

やっとのやっとで第五話でございます

長々と喋ってもアレですし
とりあえず本編へいきましょう





第五話 敗者の在り様は

「ねえ、勝ちたい?」

 

薄気味の悪い笑みを浮かべる男が問う。

 

「負けたのってやっぱり、悔しいよね?」

 

わざとらしく、フードの縁を深く引っ張り、続ける。

 

「強いってこと、証明しないといけないんだもんね」

 

すると男は、ポケットから小さな黒い箱のようなものを取り出した。

そこには『N.R.REACTOR』の文字が。

 

「……そろそろ出番だよ、ナンバー106」

 

男からそれを手渡された少年は、メガネのブリッジを軽く押さえる。

 

「……ありがとうございます。クロノさん」

「なんてことはないよ。ただ僕は、君たちみんなに勝利を掴み続けてほしい……そして、それを見せてほしいだけなんだ」

 

闘いに明け暮れる者たちの声をBGMに、薄暗い場所で交わされた、二人の会話。

どこまでも底が知れない微笑みが、口元にだけ表れていた。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

俺は昔からそうだった。

 

 

「それじゃあ、今日はみんなで自分の似顔絵を描いてみよっか!」

「はーい!」

『……!』

 

 

小さい頃から、そうだった。

 

 

「ソウタくん上手だね~!」

『……!』

「わあ、マリちゃんそっくり!すごいね」

『せんせいかけたよ!』

「おっ!ユウくんも描けたんだね……どれどれ…………」

『……?』

 

 

俺には、

 

 

「……ユウくんの顔はこんなのじゃないよ、これじゃヘルメットみたい」

『え……』

 

 

胸を張れるものなんて、なかった。

 

 

 

「投げろウチヤマ!!」

「次にかかってるぞーー!」

『……ッ!!』

 

 

体を動かすことが得意ではなかった。

 

 

『あっ──』

「どこ投げてんだよ!!」

「終わったよ!!これで」

 

 

自分の出来ないことで他人に責められることが、いつも納得できなかった。

 

 

 

『……大休憩だ、折り紙折っとこ』

「行こうぜ!ドッジボールするぞ!!」

「おう!」

「ちょっと待って!今行くから!!」

『……』

 

 

だから、俺は自ら孤立していた。

でもそれ自体は、苦痛ではなかった。

 

 

 

『……中学受験でもするか』

「え、どうしたんだ急に」

 

 

趣味という趣味がなかった。

かといって、退屈していた訳ではない。

 

 

『なんとなく、だよ』

 

 

ただ、もしかしたら世界が変わるかもしれない。

俺の目にも素晴らしく映る、そんな世界が待っているかもしれない。

そう思って、俺は違う環境を望んだ。

 

 

 

『……みんな、点数高いね』

「毎日毎日塾に通ってると、嫌でもこうなるさ」

「俺はもう勉強が恋人かもなぁ……」

『す、すごいなぁ……ほんとに』

「大したことじゃないよ、これくらい。ウチヤマもウチヤマで、誇れるものがあればそれでいい」

 

 

正直、俺と30も点数に差を空けている奴に言われたくなかった。

学力は最低限度……私立中学にいる身としては、ペーペーと言える。

誇れるものなんて、あるはずもなかった。

 

 

みんな自分の色を持っていた。

 

俺にはずっと、なかったように思う。

 

 

 

そんな俺が、出会ったもの。

 

 

 

「はいこれ、プレゼントだ」

『これ……ガンプラ?』

 

 

ガンダムブレイカー4というゲームが家にあったから、その存在を知らなかった訳ではない。

というより本当は、心のどこかで興味を持っていたに違いないだろう。

 

 

「イチから教えてやる。一緒に楽しもうぜ、ユウ」

 

 

だからこそ、初めて本物に触れた時。

 

 

『……!!!』

 

 

その楽しさ、自由度の高さ、可能性。

それを知った瞬間──

 

 

『うん……!やるよ、ガンプラ……!」

 

 

──俺の世界は、鮮やかに色づいた気がした。

 

 

 

 

「……!!」

 

響くアラーム。

朝日。

微かに鼻を掠める、トーストとバターの香り。

ウチヤマ・ユウはその全てによって、これまで回想していてことが夢であったことを理解した。

 

「ユウー、もう朝できてるぞー」

 

階段の下から、兄の呼ぶ声が聞こえる。

ユウは軽く返事をしてから起き上がり、一日を始めるのであった。

 

 

 

朝食をとってもなお眠い目を擦りつつ、パジャマを脱ぎ、制服へと着替えるユウ。

そんな隣でヒロも、カバンの中身を確認しながら、家を出る支度をしていた。

 

「ユウ、今日もやるのか?」

「もちろんさ」

「テスト期間……なのに?」

「も、もちろん……さ」

 

触れられたくないところに触れられたユウは、露骨に反応が渋くなる。

そう、ユウはいくらデューラーの端くれとはいえ、所詮はただの学生なのだ。勉強や成績に追われる身であることには何ら変わりない。

それでも、できる限りはバトルで良い戦績を残し続けていきたい……というのが、ユウの考えだった。

 

「学校にいる間はめちゃくちゃ頑張ってるから……さ、あはは……」

「そ、そうか。まぁ……できるだけのことはしておけよ?」

 

やれやれ、といった様子で立ち上がるヒロ。

それにつられて、ユウも重い腰を上げた。

 

自転車を漕ぎ、駅に着けばホームで別れ、二人各々の目的地へ向かう。

普段と変わらない、朝の光景だった。

 

 

 

 

 

「うんん…………」

 

ある日の昼休み。

ユウは酷く頭を悩ませていた。

明日はいよいよテスト当日。目の前の机に広げられているのは、数学の問題集。……なのだが、

 

(あ、頭の中がガンプラのことでいっぱいだ……ッ!!!)

 

そう、ユウはガンプラバカである。

テスト期間だろうがテスト前日だろうが勉強中であろうが、構わず脳内では新たな武装や機体の構想、設定が浮かんでくるのだ。

……どちらかといえばむしろ、テスト期間の方が捗るかもしれない。

 

ユウを悩ませているもの。それはつまり問題の内容でも、試験に対する不安でもなく、心を揺るがすその誘惑であったのだ。

 

「なーにやってんの、ウチヤマくん」

 

一人、悶え苦しむユウに声をかけるツバキ。

 

「……!な、なんだアズマか……いや、何もないけど」

「ガンプラのことでしょ」

「まぁ…………うん、おおよそ合ってる。勘がいいな」

「ふふん、よく言われるよ」

 

大したことではないが、ツバキはどこか自慢気だった。

 

「テスト期間ぐらい我慢しなよ……って言いたいところだけど、それも難しいんだね」

「正直な……己の欲にはどうにも抗えない、というか」

「……というか?」

 

2秒、固まる。

直前まで笑っていたツバキと対称に、ユウはどこか、少々真剣な面持ちであった。

 

「……考えないといけないって、焦ってる」

 

ガンプラバトルも、製作も、所詮はただの遊びである。しかしながら、今のユウには2つの目標があるのだ。

 

1つは、自分だけのガンプラで、全国大会に出場すること。

もう1つは、実の兄であるヒロや、他の人が被害を受けた『N.R.REACTOR』問題の解決。

 

今ユウが特に焦っているのは、後者の方であった。

 

 

 

 

 

「ッ……!こいつまさか……」

「あぁ、間違いない。お前の言ってた、NRリアクターを使ってるんだろう」

 

立ち並ぶ、アポロンガンダムとプロメテウスガンダム。

その目の前にいたのは、ファントムガンダムであった。

しかし、その様子は明らかに異常なものであり、

 

「ユウ、避けろッ!!!」

「間に合わないって……っ!!!」

 

突如として、地面が割れ弾け飛び、紫色の炎が広がった。

ただのファントムライトではなく、システム自体に干渉を及ぼすほどの力……それが、『N.R.REACTOR』であった。

 

強い芯を伴った炎が、一直線にアポロンの脚部めがけて飛んでくる。ユウはそれを避けることができず、左脚が根本から欠落した。

 

「マズいな……ユウ、動けるうちに仕掛けるぞ」

「使うんだね……?わかったよ……!」

 

アポロンが満足に動けないと悟ったヒロは、右腕に装備された中遠距離射撃用複合兵装「ヘパイストス」をパージし、バックパックからビームサーベルを引き抜く。

それと同時に筐体のディスプレイをタッチ操作し、ある項目を選択する。

 

「なるべくすぐに済ませたい……よし、出力5倍!現段階での残りエネルギーから計算すれば、制限時間は1分半だ」

 

[G-Program 2nd function]

 

ウィンドウが表示されると同時に、プロメテウスから青い炎が広がった。

 

「出力同期!なんとか動けるよ、兄ちゃん」

 

そんなプロメテウスの炎と同調するかのように、アポロンの胸部に埋め込まれたクリアパーツが青く輝く。

二本の脚で立ち上がれない代わりに、射出したソードビットを左腕で抱え、松葉杖のようにして起き上がった。

 

[01:20]

 

軽快な動きを取り戻したプロメテウスが、ビームサーベルの出力を強め、ファントムに接近しようと試みる。しかし、不規則に揺らめき、時に拡散してくるファントムライトの炎に阻まれてしまった。

 

「厄介過ぎる……ッ!!俺が接近出来るように、ソードビットで道を作ってくれないか!!」

「難しいけど……やってみる!行って!!」

 

再度、ブースト全快で走り始めたプロメテウスが、ファントムの元へ向かう。

プロメテウスの動きを察知したファントムが、腰からフレイムソードを引き抜き、警戒しているようだ。

睨みつけるような瞳が、文字通りその形相を変える。二段階排熱モードとなり、フェイスオープンの形になったのだ。

 

[01:00]

 

その瞬間、プレッシャーにも似た緊張をヒロは覚える。操縦桿を握る手が固まる。刹那、プロメテウスは動きを止めてしまうと、その隙に大きく広がったフレイムソードの炎がプロメテウスを振り払おうと迫ってきた。

 

「ッ…………!!」

 

やってしまった。そう諦めかけたその時、

 

「やらせない……ッ!」

 

コードの繋がった1基のソードビットが、プロメテウスを庇うように現れる。

フレイムソードの炎を、さながら切り裂くように貫き、霧散させた。

 

[00:50]

 

「大丈夫!?兄ちゃん!!」

「ゆ、ユウ……?すまない、俺は──」

「いいっていいって、兄ちゃんがヤツに接近出来るように道を作るのが、今の俺の仕事なんだから。ここで終わりじゃないでしょ?」

 

ヒロははっとした。

まさかユウに、こんな風に助けられるなんて。

 

「──ありがとう。行こうか」

 

どこか嬉しそうに笑うと、ヒロは今一度、操縦桿を握りしめる。

止まっていた足でまた地面をしっかりと踏みしめ、走り出すと、驚いた様子の相手がバタフライバスターを手にし、ビーム刃を形成し始めた。

 

[00:47]

 

プロメテウスのビームサーベルも高出力のまま、敵へと飛び込んでいく。

ついにすぐそばまで来れた……あとは斬り込むだけ。プロメテウスは大きく振りかぶる。

 

「……ッ!!マトモにやり合おうなんて……甘いか、さすがに」

 

[00:38]

 

火花を散らしながら繰り広げられる鍔迫り合い。しかし、ファントムのバタフライバスターは露骨に威力を強めてきた。

押される──!

 

「がはァッ!!」

 

プロメテウスのビームサーベルが打ち消された。

直後、体勢を崩したプロメテウスに、ガンモードへと変形したバタフライバスターの光弾が降り注ぐ。

 

「マズい……!」

 

[00:30]

 

吹き飛ばされるプロメテウス。狼狽えるヒロにもお構いなく、再びサーベルモードの形を取ったバタフライバスターをその手に、ファントムが接近してくる。

蜃気楼を纏いながら。

 

「兄ちゃんッッ!!!!」

「!?」

 

突然の鈍い音。ヒロの手元のディスプレイに映ったのはアポロンだった。

なくなった片脚はそのままに、スラスターだけの力で飛び上がり、ファントムに勢いよく突進したのだ。

周囲のオーラによってその形を歪めながらも、アポロンは前を見据えていた。

 

「これを!!」

 

一瞬だけ手を伸ばしたアポロン。

何かを察知したヒロは、それに間に合わせるべくプロメテウスの手を伸ばさせる。

手に掴んだもの……真っ赤なグリップ。一筋の鋼。

 

[00:25]

 

「うぐ……っ!!」

 

容易く振り払われたアポロンは、岩壁に叩きつけられる。

直後、態勢を整えたファントムがまた紫色の炎を広げた。

向かってくる炎の嵐に、咄嗟に太刀で防御するプロメテウス。

 

[00:19]

 

「今!!」

 

耐えきり、その足をしっかりと大地に踏みしめ、また踏み込み、相手を捉えるプロメテウス。

次に来たファントム本体に、ヒロは動じない。

二度目の鍔迫り合い。しかし先程までと明らかに感触が違った。

 

「こ、これは……本当にすごいなアイツは……ッ!!」

 

僅かに熱を帯びる刀身が、なんと敵のビーム刃を切り裂く。

 

[00:14]

 

一歩だけ距離を取る。

そして、腰を落とし、肩を引き、

 

「これで……終いだ!!」

 

勢いよく、その刀を投げつけた。

ブレの一つもなく、まっすぐに。

 

敵が纏わせる炎も、バタフライバスターも、そして最後の抵抗のIフィールドをも貫く。

眩く光を反射するほどの刃先が、敵のバックパックから突き出る。

ファントムはそのまま崩れ落ちることすらせず、爆発した。

 

 

[Battle Ended

 

  Winner

 

 Yu's Mobile Suit  Apollon Gundam

     &

 Hiro's Mobile Suit Prometheus Gundam]

 

 

バトルフィールドのホログラムが消えていくと、戦いの惨状を改めて目の当たりにすることになる。意外にも、爆発に巻き込まれておきながら、プロメテウスの投げた太刀は無事であった。

……ほんの数ミリ、刀身が欠けていたことを除けば。

 

ユウ達は急いで相手デューラーのもとへ駆けつけるが、逃走の準備を始めているようだった。

焼け焦げたファントムを回収しようとしているところへ声をかけると、相手は肩をすくめる。どうやら手が届かないらしい。

次はメモリーカードスロットに手を伸ばしていたため、ユウがその手を掴んだ。

 

「待って」

 

声を荒らげることもなく、なんとか冷静に制止を試みるユウ。

しかし相手はその手を振り払い、最終的には、逃走されてしまった。

 

「また……逃げられちゃった」

「ここのところ、こんなケースばかりだ。バトルをふっかけられるにも、こっちが対戦相手を待つにも、NRリアクターを使われて大変なことになって……最後は逃げられる。ここまで俺達に集中してくるんだ。意図的に狙われている可能性もある」

「……」

 

ユウは悩んだ。どうして狙われるのだろうか。何か理由があるのだろうか。

 

「でも、今回はまた収穫があった。メモリーカードの置き土産2枚目と、相手の使っていたガンプラそのものだ。ここから何かが掴めるかもしれない。運営に提出できる材料にもなってくれるなら、ベストだがな」

「そう……だね、また解析頼んでもいい……?」

「もちろん。尽力しよう」

 

希望を探そうとしていたヒロだが、ふと戦闘中のことを思い出す。

ファントムライトを発現させたファントムガンダムの威圧感。それに、過去の記憶を重ね合わせていた自分。

背筋の凍るような、何とも形容し難いプレッシャーは、あの時と非常に似ていて……

 

「……弱さだな、俺の」

 

ユウのためにも、次は迷惑をかけないように……自分に負けないようにしよう。そう、ヒロは決意していた。

その一方。

 

「その、ごめん。油断してて脚がやられて」

「いや、俺こそ一瞬怯んでしまっていた。ユウが動けなくなったら、俺が前に出る。それで問題はないんだぞ」

 

アポロンが地に足をつけて立てなくなってから、ヒロはプロメテウスで近接戦をしかけるようにしていた。それはお互いでお互いのダメージを補い合うという、非常に理想的なタッグバトルの形だったはずなのだが。

 

「……うん。でも、次はもっとうまくやる」

 

ユウの表情は、どこか不安げに見えた。

 

実際、近頃NRリアクターを用いた相手と戦うことが多くなってきた。ヒロのことを思ってのユウの行動だということも、ヒロ自身は一応理解しているつもりだ。

それでも、手を引くことも、諦めることもできる。今でも本当に、大会に出ようと思っているのだろうか。

どこか根を詰め過ぎなのではないのだろうか。ヒロにはどうしても、そう思えてならなかった。

 

 

 

 

 

「ウチヤマくん、テストどーだった?」

 

声をかけるツバキに、無言で返却後のテストを見せる。

点数は…………良いとも悪いとも言い難い、なんとも言えないものだった。

 

「あ、あー……なるほど」

「どうもやる気にならなくてな……」

「大丈夫?成績下げすぎないようにしなきゃだよ」

「わかってる……んだけどなぁ」

 

わざとらしく不貞腐れるユウ。

高校への進学も控えている。不安に思うことが多いのは、自然なことだろう。

 

それに、今不安に思うことは、ひとつだけではない。

 

「ガンプラのことでしょ、今考えてるの」

「お前……俺が何か考えてるとき大体ガンプラのことだと思ってないか?」

 

不機嫌気味に問いかけるが、否定はしなかった。

というか否定できなかった。

やっぱり、ユウはガンプラバカなのだ。

 

 

 

 

 

「報告書は書き上がったか?」

「……?あぁ、カツラギか」

 

ヒロとカツラギ。休み時間の二人だ。

 

「もう少しのところだ。急ぎながらでもちょっと頭休ませないと……疲れる」

「ウチヤマ、お前近頃ガンプラバトルで忙しそうだもんな」

「……ちょっと、色々な」

 

ヒロが何やら表情を曇らせていたのを、カツラギは見逃さなかった。

 

「お前の研究テーマは、非常にみんなが注目しているものだ。それに完成度も。だが、だからこそだ」

「?」

「休憩はしっかり取らないとな……ということだ。ウチヤマ、今日は付き合ってくれないか」

「いいけど……何かするのか?」

「俺にガンプラを教えてくれ」

 

それは、カツラギなりの気遣いであった。

果たしてそれが、一番の休息になるのかどうかはわからないが……ずっと頭を使い続けるよりかは、こうして理由をつけてでも別のことをさせたほうが良いだろう。それが彼の考えだ。

 

「へ……?べ、別にいいけど……」

 

 

 

二人は、帰りにそのまま、ユウやヒロが普段行く模型店へ来ていた。

 

「一度、二人のバトルを見に来たとはいえ、こうしてじっくり見るのは初めてだな」

「あー、そういやそうか……多いだろ、ガンプラ」

 

ここは、個人経営の模型店としてはそこそこ規模が大きい方である。ユウが初めて来たときにそわそわしていたのも、そのスケールによるものだろう。

 

「そういや、カツラギは機体の種類とかわかるのか?」

「あまり詳しくは……だが、なんとなくはわかるぞ。これは……確かゼイドラだな」

「おお、正解」

 

指を差しながら、カツラギはどこか得意気な様子だ。

そんな彼を横目に見ながら、ヒロはビルダーズパーツ等を見ていた。ユウが使うかもしれないと思ったのだ。

『せっかくここに来たんだから、ついでに何か買っていこう』の思考。財布の紐が絶望的なまでに緩いタイプの人間のソレである。

ちなみに、ユウも同じような思考回路をしている。

 

数十分と眺めていると、カツラギが初めて、ひとつのパッケージに手を出した。SDガンダムのコーナーだった。

 

 

 

この模型店には売り場と、バトルの筐体があるブースの他に、簡単にプラモ製作等もできるフリースペースがあった。工具も貸し出してくれる。

 

「……意外だな。まさかガンダイバーに目をつけるとは」

 

カツラギが手にしていたのは、「SDガンダムフォース」に登場する水中型機体「ガンダイバー」。

ヒロは、はっきりと言えばかなりのマイナー機体だという第一印象を受けていたが……見るもの全てが新鮮な彼にとっては、野暮な話だ。

 

「もしかすると、中学まで水泳部だったからだろうか。どこか感じるものがあったのかもしれない」

「直感ってやつか?選んだのは」

「それもそうだ。だがキスギに──あ、いや……友人に『まずはSDから作ったらどうだ』と、以前言われたこともあってな」

 

机で向き合うヒロとカツラギ。まずは箱を開けるところから始まる。

数あるSDガンダムの中でも、またさらに価格の抑えられたガンプラだ。中に入っているランナーは少なく、簡単に組み立てられそうだ。

 

「これ、ニッパーなしで組めるっけな……あ、大丈夫そうだ」

「手で取れるのか?」

「取れるはずだ。けど、もしかすると色が足りていないかもしれない」

 

少し不安に思ったヒロであったが、組み立てる上での心配はいらないようだ。しかしながら、パーツ数の少なさゆえ、シールがかなり多くなっている。

仮に全て貼ったとしても、完璧な色再現とはいかないだろう。

 

「……やはり、塗らないといけないか」

 

少々落ち込んだ様子のカツラギ。そんな彼に、ヒロは優しい言葉をかけることにした。

 

「いや、最初はいいと思うぞ。まずは、楽しく作って楽しく遊ぶっていうのが重要だ。色は……そうだな、いつか自分から気にし始めてからでいい」

「塗装とか改造は、しなくてもいいのか」

「したくなればすればいいけど、まだそう思わないならそれでいいんだ。そういうもんだぞ」

「……そういうものか」

 

いつしか、誰かが言ったように、ガンプラは自由なのだ。

他人に迷惑さえかけなければ、どれだけ好きに楽しんだって構わない。

購買意欲を満たすために、ただ買い集めるのも。買ってそのままの状態で、ただ作るだけでも。ただ素組みをして、さながらアクションフィギュアのように遊び尽くすのも。簡単な加工を施したり、シールを貼ったりするのも。丁寧に気になる部分を処理し、くまなく塗装をし、模型としての完成度を高めるのも。好きな部分だけをかき集めて、好きな色に塗って、自分だけのオリジナルを作るのも。そのどれもが、ガンプラの楽しみ方であり、誰かに縛られるものではないのだ。

 

だがしかし、時にそんな「自由」という言葉だけを振りかざし、他者に迷惑をかける者もいる。

だからこそ、勘違いをしてはいけない。「自由」であるということは即ち、最低限のマナーを守った上での権利。他者の自由を侵害し、正しく在る者を傷つけてはいけない。

そこに、何らかの理由があったとしても。

 

「……」

 

ユウとヒロは今、そんな誰かと戦っている。

いつかそこに、矛盾や疑問を感じることがあるかもしれない。それでも、今は戦うべきなのだと、ヒロは思った。

ユウが戦うならば、今は自分が支えなければ、と。

 

 

 

パーツをもぎ取りながら、カツラギは実際にガンダイバーを組み始めた。

 

「やはり……変だろうか」

「……?何が」

「この歳にもなって、SDからだなんて。子供っぽすぎないだろうか」

 

カツラギは再び、不安そうな声を漏らす。

 

「正直言うと、俺はこういうのが結構好きなんだ。素直にかっこよくて、純粋に楽しいって思えるようなものが。もちろん、それ以外も好きではあると思うがな」

 

彼はどこか恥ずかしそうに、頭を掻きながら続けた。

確かにSDガンダムといえば、低年齢層向け というイメージがあるかもしれない。しかしながら──だからこそ、そんなイメージに縛られる必要性もないのだ。

 

「変なんかじゃないさ。俺も好きなんだ、そういうの。特にSDガンプラなんて、作ってるのがめちゃくちゃ楽しいからな」

「そう……だな、確かにそうだ」

「思うがままに手でもいで、直感的に組み立てる……多少の色不足も気にしないままなら、それだけで楽しいだろう。作りやすいし、わかりやすくかっこいい要素も、多く詰め込まれてるしな」

 

ヒロが初めて作ったガンプラはSDガンダムだった。それもあって、ヒロとしてはどこか思い入れもあるのだ。

幼い頃はただひたすら、SDガンダム三国伝の機体を一心不乱に作り、遊び続けていた。カツラギの気持ちはよく分かる。

作りやすい構成。多用されるメッキパーツやクリアパーツ。幼心にしてみれば、そんなもの楽しいに決まっている。

 

「俺な、時々変形合体のできるおもちゃとかに触れてるんだ」

「ガンプラ以外で?」

「ああ。結局のところ俺は、かっこいいロボットが好きなんだと思う。もちろんガンダムも同じ。子供っぽい、とか、それだけの理由で胸を張れないなんてことはないんだ。童心のままに、好きなことを好きなようにするっていうのが一番……だと思うぞ」

「好きなように……」

 

もしこれから、今日初めて手を出したことによって、ガンプラにどんどんとハマっていってくれるならば……忘れないでいてほしいこと。

それが、好きなように楽しんでほしい、ということだった。

 

「ガンプラももちろん同じ。自分の好きなようにしたいと思うから、その気持ちを突き詰めて改造したりする。ガンプラバトルでもそうだ。自分の「好き」を一途に追いかけようとするからこそ、先へ進める。……俺も、昔はそうだった」

「昔……?」

「あ……っ!なんか変に昔のことを思い出していたな……忘れてくれ」

 

自分の気持ちを伝えようとし過ぎるあまりに、つい自分のことを話しかけてしまうヒロ。

自ら進んで、「好き」を貫くために、戦った日々。

 

「……!」

 

(そうか……ユウもきっと、自分の「好き」を突き詰めて追いかけようとするために、戦ってるのか)

 

カツラギに話していると、昔のことを思い出した。

そしてその時の記憶が、今のユウと重なって。

 

(「好き」を追いかけるための道を整えるために、あいつ達と戦おうと決めてくれたのか)

 

ヒロのために。それと同時に、全国大会で戦いたいという強い意思があるのだとしたら。

 

(ユウは……)

 

ヒロは、今ここにいないはずのユウが、あまりにも眩しく見えた。

 

「ありがとう、カツラギ」

「え?」

「お前のおかげで、やっと気づけた」

「そ、そう……?か、ならいいんだが」

 

 

 

 

 

「とりあえず、色々調べた結果としては……メモリーカードに関しては以前とほぼ同じで、戦闘時の映像を記録しているのみ。でもって相手の使っていたガンプラ本体だが……」

「……!」

 

ボロボロになったファントムガンダムのバックパックを外して、その中から何かを取り出し、見せるヒロ。

 

「こいつが出てきた。やっぱり、ユウの言ってた通りだ」

「『N.R.REACTOR』……か。これが……」

 

黒い小箱のようなもの。そこには確かに『N.R.REACTOR』の印字があった。

 

「こいつの解析も一応試みてはみたが……俺が投げた太刀が見事にこいつを貫通していたらしくてな。完全なデータの吸い出しは出来なかった」

「仕方ないよ。ここを潰さないと、相手の暴走は止まらないし」

「そうなんだよな……厄介なことで」

 

二人向かい合って、困った表情をする。

 

「だが、"完全な"吸い出しはできなかったが……一部プログラムの残骸だけは確認できた」

「え、そんなことできるの……?」

「できる。俺はな」

 

ユウは、ヒロが大学で普段どういうことをしているかすらあまり知らないが……実は相当の実力者なのではないか、と思った。

第一、あれほどまでに機能と出力を詰め込んだG-Programを作ったほどなんだ。

 

「それでなんだが……」

 

ヒロは、ユウにパソコンのディスプレイを見せる。

プログラム言語の一部分だろうが……

 

「いや、わかんないって」

「わからないか」

 

何故わざわざユウにそれを見せようとしたかは、謎である。

 

「わかりやすく言うと、パラメータの上昇、下降を制御できる部分だと思われる」

「じゃあやっぱり、確定なんじゃ──」

「ほぼ確定ではあるけど、システムに直接干渉し得るものであるという部分が発見できないと、100%の黒とは言い難い。まぁそもそも、こんな外部デバイスを用いてシステムを使っている以上、かなり濃い目のグレーではあるがな」

 

GPデュエルの運営は、意外と厳しいんだ。とヒロ。

ここまで怪しいものが見つかっていながら、決定打にはならないというのが、悔しいところだ。

 

「そ、そっか……」

「でも大きな進歩ではある。たとえ僅かでも、相手のシステムがここに残っている ということがわかった以上、一番俺達が欲しい部分をいつか見つけられる可能性もあるということだ」

「……!そうだよね。だったら俺も……」

「あーー、NRリアクターを壊さずに勝とうって思うのはやめておけ。難易度が格段に上がってしまう。まずは、その場その場で戦いを収めるのを優先した方がいい。だから、その……」

 

ヒロは、難しそうな顔をした。

今自分達がやろうとしていることが、難しいことだとわかっているからだ。

それでも、

 

「……気負うなよ?あまり。俺がついてるってことを忘れないでいてくれ」

「兄ちゃん……」

 

ユウが目指す先に、大会という純粋な目標があり続けるのなら。

俺は、ユウを守る者となろう。

 

それが、ヒロの決意だった。

 

「……ありがとね」

 

 

 

 

 

いつもの放課後。ユウとヒロは模型店にいた。

今日の目的もガンプラバトル。大会の地区予選に進むためには、一定数の勝利ノルマが必要だ。

 

「あ……っ!」

「あの反応はまさか……NRリアクター!?」

 

たまたま目に入った、他人のバトル。

ストライクベースの機体と相対する機体が、突如紫色のオーラを纏い始めたのだ。

 

「マズいぞユウ……このままじゃあの人は」

「た、助けに行く?本人がめちゃくちゃ強いとかじゃなかったら、きっと……」

「そうだよねぇ、でも、本人がめちゃくちゃ強ければ……ね」

「そうだといいんですけ……ってエイジさん!?」

「え!?」

 

ユウとヒロは驚愕する。あまりにも当たり前のように会話に挟まってきたのは、かつてユウ達が一度戦ったノダ・エイジだった。

しれっと、ユウの隣に立っている。

 

「ふふー、こっちの地区の様子はどうかなぁって、なんとなーく見に来たところだったんだよ」

「そ、そういうことでしたか……エイジさんも気になりますか、あの戦い」

 

ユウは、さっきの危なげなバトルに目を向けた。

それに釣られるように、エイジも。

 

「気になる気になる!この地区でのトップランカーが、チーター紛いの相手と戦ったらどっちが勝つのかなぁ……」

「……トップランカー?」

 

気になる言葉が聞こえたため、ヒロが問う。

トップランカー……まさか。

 

「あれぇ、知らないの?彼が、君達のいるこの地区での上位成績者……"疾風(はやて)の猛獣"、ユウジン・ヤマト。ここらじゃ一番強いって噂だよぉ」

 

はっきり言うと、ユウもヒロも初耳だった。

ユウはガンプラバトルをまだ始めたばかりだし、今は目の前に現れる誰かと戦うので精一杯だ。

ヒロが現役で戦っていたのも、かなり前の話。今は誰が強いかなんて、知り得ないものだ。

 

「……いやしかし、いくらトップランカーとはいえ、あの力に対抗しようなんて──」

「に、兄ちゃんあれ!!」

「え、えええ嘘だろ……」

 

確かに、機体操作のレスポンスは異常なまでに劣悪になっているが……相手が飛び込んでくる勢いを利用して、いとも容易く相手を切断する。以前プロヴィデンスと戦ったときの、ヒロの戦い方と同じだった。

 

「ッたく……またこいつらか」

 

バトルが終わると同時に、うんざりといった様子で小言を吐く。事実として勝てはしているが、やはりNRリアクターを使う者に、嫌気は差しているようであった。

 

「ん……?おお、そこで見てる兄ちゃん達」

「へ……!?は、はいっ!!」

 

呆然としていると不意に声をかけられ、思わず返事が上擦ったユウ。

 

「君達、アポロンガンダムってのを使ってる二人組じゃないの?近頃ここらでブイブイ言わせてるって聞いたけど」

「……俺達って、噂になってるの?」

 

驚くべき事実に、ユウはきょとんとしてしまった。

 

「はは……っ、そうらしいな」

 

昂るものがあったのか、思わずニヤりと笑みを零すヒロ。

 

そんな二人を、一歩下がってエイジが見つめていた。

 

「どうだ、一戦やってみないか?近頃ろくでもないヤツと当たることが多くてなァ」

「……喜んで、受けましょう!」

 

ユウはヒロと目を合わせる。言葉を交わさず、ただ頷くと、二人は筐体のところへと向かう。

 

「……頑張れ、お二人さん」

 

二人の背を眺めながら、エイジは小声で呟いた。

 

 

 

 

 

[Yamato's Mobile Suit

   Metal Garuru Strike Gundam

    VS.

  Yu's Mobile Suit

     Apollon Gundam」

 

カードキーを挿入し、バトルの準備をする。

相手のガンプラはやはり、ストライクガンダムがベースらしい。

 

「……緊張するか?」

「してる。正直」

 

強い相手であるということがわかった以上、ユウが恐れるのも無理はない。

それに、G-Programのようなシステムがなくとも、NRリアクターの力を持つ相手を倒したほどだ。それほどの実力者なら、二つ名が付けられるのも納得がいく。

 

「さァて……ユウジン・ヤマト、メタルガルルストライク!!発進するッ!!」

 

相手方が先に飛び出した。ユウ達もそれに続く。

 

「ウチヤマ・ユウ、アポロンガンダムッ!!行きます!!!」

 

ガンプラの置かれていた台座から本体が勢いよく飛び上がると、そのままバトルフィールドへ。

今回のフィールド設定は、宇宙空間だ。

 

 

 

[BATTLE START]

 

合図と共に、スラスター全開で飛び出すアポロン。

幸い敵機は真正面。直線上に相手がいる。

 

「宇宙での戦い……どこから攻撃が飛んでくるかわからない。相手の攻撃手段も全て把握しているわけではないから、警戒しておけよ」

「うん。わかってる」

 

もちろん、ユウの隣にはヒロがいた。今回は久しぶりに、プロメテウスの出番はなさそうだ。

 

距離が近づいてきた。こちらから仕掛けるか。

そう思った瞬間、相手がライフルをこちらに構えてくる。すぐに射撃が飛んでくることを想定し、ユウは軌道を僅かに下げようとした……が、

 

「ユウやめろ!避けるなら左右だ!」

「え、なんで──」

 

目を離した隙に、緑色の光弾がアポロンを襲ってくる。

しかも一撃ではない。縦向きが交互に二撃だ。

 

「あれってもしかして……二連装のビームライフル……?」

「気をつけろ、回避の仕方にも気を配れ……いつも通りじゃ避けきれない」

 

強く操縦桿を握りしめるユウ。

その眼差しは、真剣ともとれるが……焦っているようにもとれる。

 

「要するに勢いつけて、ドンと避ければ問題ないってことでしょ」

「ま、まぁそうなるが……」

 

ユウはあえて余裕のある言い回しをして、自らに自信をつけようと試みた。

成果が出ているかどうかは……次の手応え次第だ。

 

さて、いよいよぶつかる寸前まできた。

アポロンの右手は、左腰の刀に添えられている。

一方の相手は、本当に余裕があるのか、あまり動じる様子はない。

 

「……舐められてる。やろォ……」

 

距離は詰めた。どこまで余裕ぶっているつもりだ。ユウは引き抜いた太刀をそのまま相手にかざした。

 

「ッ…………!!?」

「アーマーシュナイダー……だと!?」

 

しかし、それは難なく防がれる。

一瞬の隙に引き抜いたコンバットナイフ"アーマーシュナイダー"で、アポロンと鍔迫り合いをしてみせたのだ。

それも、到底押し切れそうにない。

 

「クソ……ッ!!」

 

パワーで押されたアポロン。素直に弾かれてしまった。

投げ出された機体を、手足の慣性で静止させる。そして、改めて相手のガンプラを目の当たりにした。

 

メタルガルルストライクガンダム。

ストライクガンダムをベースにした改造ガンプラ。全体的に青系の要素が強められており、爽やかな雰囲気でありながら、どこか獣のような豪快さも持ち合わせているように思える。

大型化したストライカーパックのウイングと、ブルーに発光した機体各部が目を惹いた。

 

「っへへ……好きですよ、そのガンプラ」

「それはどうも。俺も君の機体……非常に強く惹かれている。だからこそ、戦いたかった」

 

どこか満足そうなヤマトと、歯ぎしりするユウ。

相手のガンプラを褒め称えるのは本心ではあるが、それと同時にユウは、焦りも感じていた。

 

「……今回こそ、もうヘマはしないよ」

 

隣に並び立つヒロに、ユウが言う。

ヒロは、困ったように頭を掻いた。

 

周囲はデブリも、小さく浮かぶ岩などもなく、ただ純粋な無重力空間が広がっている。戦いやすいといえば戦いやすいが、それらを利用した戦術を取ることもできない。

打つ手は、かなり限られている。

 

「来た!」

「……ッ!!」

 

ガルルストライクの射撃。今度こそ相手を警戒し、見つめたまま回避行動を取った。

次にこちらから出来ることといえば……

 

「牽制!」

「わかってる!」

 

右腰からハンドガンを取り出し、数発。

もちろん相手には避けられるが、これは構わない。

 

「先行させてもらうぞ、ユウ」

 

ソードビットが射出される。ふわふわと周囲を漂ってから、たちまち攻撃性溢れる軌道をし始めると、目標のガルルストライクを目指して飛び始めた。

 

「3方向から攻めさえすれば……ッ!!」

 

小型かつ、小回りの効くモノだ。いくら相手が強くとも、簡単にはやられない。

敵機の注目をソードビットに集中させてから、今度はアポロン本体のターン。

太刀の切っ先を相手に向けたまま、懐に飛び込もうとした。

しかし、

 

「掴まれた……だと!?」

 

その刀身が目指した先には、ガルルストライクの脇が。

胸とその間に挟まれ、身動きが取れなくなった。

 

「かなり見え見えな動きだ……その程度では落ちんッ!!!」

 

ストライカーパックに接続された、ビームサーベルを引き抜いてきた。咄嗟の判断でアポロンも腰からビームサーベルを引き抜き、応戦する。

一度急接近を狙った状態だ。距離があまりにも近い。

ビームとビームの交点から、眩い火花が散っているのが、モニターにもよく映っていた。

相手のガンプラの端正な顔立ちが、どこか狂気的にも見える。

 

「こっちを忘れんなよ……!」

 

ヒロが操るソードビットが、ニ機の間に割って入った。

余裕ができ、改めて距離を取るアポロン。

ガルルストライクは脇に挟んていた刀を、放り投げるように振り払った。

 

再度、睨み合う二人。

 

 

「君は、あのろくでもないヤツらと戦い続けているみたいだな」

「……!ええ、そうですけど」

 

突如、ユウはヤマト本人に声をかけられる。

そんなことまで噂になっているのか と、内心ユウは驚いた。

 

「君らが知ってるかは知らないが……小規模ながら救世主扱いすらされ始めてる。大したもんだと思うよ俺は」

「あ、ありがとうござい……ます?」

 

「だが、だからこそ聞きたい。何故君が、わざわざこんなことを続けるんだ」

 

ヤマトは、真剣そうな目つきで問いかけた。

どこか意味ありげな質問に、ユウは少し悩む。

 

「何故、とは……?」

「ただの……それもまだ期間的にはビギナーとも言える君が、こんな厄介事に首を突っ込み続ける必要はないはずだ。違うか?」

「それは……」

 

ユウは唸った。

確かに、自分じゃなくてもいいかもしれない。もっと強い誰かがいるなら、任せたっていい。

でも、ヒロの気持ちがある。他に傷ついた人もいる。誰も立ち上がらないなら、自分がやりたい。そう思う心はある。

もちろん、何もそう単純ではないし、うまくいかないことだって当然ある。

それでも、集団から狙われつつあることを思えば、もはや後戻りすら出来ないところに、ユウは既にいるのだ。

 

「……俺が、やらなきゃいけないことなんだ」

「ヒーロー気取りか?そんな切羽詰まった表情で」

「……!?」

 

そんなユウの言葉に対して、ヤマトが放った言葉は、嘲笑混じりの酷く冷たいものであった。

 

「初対面なのに悪いとは思うが、今の君は抜けかけの子供の歯みたいにグラグラだ。いつ崩れ落ちるかもわからないし、勝手に全部背負って勝手に潰れる、そんな未来が見えるぞ」

「何を……言ってんだよ!!!」

 

動きを止めていたことにしびれを切らしたユウが、アポロンを急加速させる。

消えかけていたビームサーベルは再び光を灯し、ガルルストライクの脚部めがけて飛び込む。

が、呆気なくその攻撃は躱されてしまった。

相手の機動力が高すぎるのか、はたまた練度の違いか。

 

「誰かのために戦おうというのなら、それを悪く言うつもりはない。だが、その根底にある本当の気持ちを忘れているようでは──!!!」

「ッ……!!!」

「──いけないんじゃないのか……?これはガンプラバトル……所詮はただの遊びに過ぎないはずだッ!!!このままじゃ勝利の女神は、君に微笑むことはないぞ!!」

 

向かっても、向かっても、躱され弾かれ。

ヒロは、ユウがどんどんとヤケになっていることに気づいていた。

 

「落ち着けユウ、興奮しすぎるな!」

 

ヒロの声は、果たして届いたのだろうか。

 

「わかってる、わかってるさそんなこと……!!だからこそ、これから俺が全力で戦うためにも……不安材料は消しておきたい……自分のためにも、みんなのためにも……!!」

 

浮かんでいた太刀を回収し、振りかざす。

荒く、ブレた太刀筋。以前の戦いでついたヒビが軋む。

 

「だから勝たなきゃいけない……最後に笑うのは……俺なんだッ……!!」

「調子に乗るなァ!!!!」

 

初めてその刀身が相手に触れたと思ったその瞬間、

 

「!!?」

 

ガルルストライクの簡単な肘打ちで、アポロンの刀は折れてしまった。

呆気にとられていると、打点の高い回し蹴りで、アポロンは吹き飛ばされる。

 

「ぐあぁぁっ!!」

「そんな、ユウの刀が……!」

 

咄嗟にヒロが飛ばしてきたソードビットが重なり、推力を全開にして、無理矢理アポロンを受け止めた。

 

 

「今からでも笑っていられないヤツが、最後に笑えるものかッ!!!!」

 

 

ヤマトの厳しい叱責。

ユウはハッとした。

 

「自分一人で重責を感じて、焦るくらいならやめてしまえばいい……これはゲーム……やめるのは簡単だし、誰にも文句を言う筋合いはない……だがッ!!!」

 

ビームサーベルを逆手持ちにしたガルルストライクが、回転をかけながらアポロンを襲う。

直撃の寸前、相手の手を腕で押さえ、なんとか軌道を逸らした。

ギリギリでビームの粒子が触れてしまったのか、アポロンのブレードアンテナが一本、宙を舞う。

 

「それでも自分が戦うべきと思うなら……その先を見据えて笑え……!」

「……!」

 

機体と機体の力比べ。腕力の攻防がアポロンを押していく。

 

「自分のために戦うなら笑え!誰かのために戦うならもっと笑え!!そうして自分を鼓舞してでも……自分の目指したものを見失うな」

 

見据えて笑え。

目指したものを見失うな。

 

哲学的でありながら、その言葉の本質を、ユウは直感的に感じた。

 

無理やりにでも笑って、目の前の困難を打ち破れるなら、

先にあるものにも、目指しているものにも……

手が、届くだろうか。

 

「……つけたい」

「ユウ……?」

 

「俺はアポロン(こいつ)で……カッコつけたい」

 

ユウの、そもそもの行動原理。

それは至ってシンプルで、単純明快で、子供っぽくて。

でも、だからこそ……笑うことなら容易い。

 

「このアポロンガンダムを、大きな舞台でかっこよく魅せたい……強い相手に勝ちたい……ああ、そうだとも……ッ!!!」

 

アポロンの瞳が、光り輝く。

それと同時に、アポロン側が徐々に力を強めてきた。

 

「せめて普通に戦う時くらいは……笑ってやるさ……!!!」

 

操縦桿を握るユウの口角は、気がつけば上がっていた。

そんなユウの様子に、ヒロはどこか安心する。

 

「言ったろ、気負うなって」

「兄ちゃん……?」

「お前はそうやって、全力で楽しんでいればいい。ずっと悩んでる必要はない。壁にブチ当たったときには……隣に俺がいるはずだ」

 

隣を見つめるユウ。

ヒロはそんなユウに、サムズアップをしてみせた。

 

「俺のやることは、これからも変わりませんよ」

「いいのか?あんなヤツらと戦い続けることになっても」

 

ヤマトの言葉に、ユウは落ち着いた言葉で返す。

 

「……それすらも、糧にしたいんです」

 

力を強めてきたアポロンが、ついにガルルストライクを振り切った。

 

「糧にできる……はずなんだ……ッ!!」

 

と同時に、右膝からビームサーベルを発振し、飛び膝蹴り。

今度こそ攻撃は、ガルルストライクに命中した。

 

「ッ……!!なんだよ……随分余裕あるじゃないか」

 

アポロンの膝蹴りは、防御しようとしたガルルストライクの左腕を切り裂いていた。

 

「根っこに持ってるモンは単純でありながらも、立ちはだかる壁すら糧にして進みたい……そう思えるような人間なら、最初から余裕ぶってても良かったんじゃないのか」

「……?」

「素質あるってことだよ。食らってるんだぜ、ほら」

 

ガルルストライクが、わざとらしく左腕の切断面をアポロンに見せてくる。

 

ユウは、迷いさえしなければ強いのだ。

 

「ずっと思ってましたけど……貴方の方は最初から随分と余裕ぶってますよね」

「当たり前だ。自信があるからな」

「いいんですか?今、当てたんですよ。俺は」

 

ニヤついた表情のユウ。機嫌を取り戻したと同時に調子に乗っている。

が、調子に乗ればこそだ。いくらでも調子に乗ればいい。ヒロはそう思っていた。

ヒロは、ユウの強みを知っているのだ。

 

「ユウ、今度こそお前の戦いに持ち込んでやれ」

「兄ちゃん……」

「カッコつけるんだろ?」

 

ヒロは、ユウの肩にそっと手を置いた。

 

「……ああ!」

 

もちろん、諸々の問題が解決したわけではない。

それでも、自分がどうあるべきかという心持ちは、確かに見えた。

今この場において、ユウの気持ちは晴れやかだ。

 

「持ち込んでやる……俺の領域に!」

 

アポロンは素手でガルルストライクに立ち向かう。

相手は当然こちらを警戒し、攻撃を仕掛けてきた。二連装のビームライフルの光弾が、立て続けにアポロンを襲う。だが、

 

「もうそれは……受けない!!」

 

華麗な身のこなしで、すべてを交わした。

直線で目の前に飛んできた攻撃は、ビームシールドを展開し相殺させる。

 

「今度は格闘で勝負ってね……!」

 

右拳を引き、構える。

ガルルストライクはアーマーシュナイダーを取り出した。

 

「……!!」

 

ほとんど衝突に近い形で、両者の攻撃は激突した。

 

 

「勘違いしないでくれ。一応言っておくが、今回は君に説教を垂れるつもりで戦ったんじゃあない。君と戦いたかったから戦った、ただそれだけだ。俺が言ったことはすべて、俺個人の興味に過ぎない」

 

ぶっきらぼうでもあるヤマトの喋り口だが、どこか楽し気でもあった。

 

「戦いたかった……光栄ですね、それは」

 

ビームシールドのビームが、アーマーシュナイダーを構える相手の右手に直撃。ナイフもろとも赤熱化していく。が、作り込みの凄さが故か、腕は破壊できそうにはない。

 

「期待しているぞ、君が目指す場所で、戦えることを……ッ!!」

 

我慢の限界、といったようにガルルストライクが蹴りを加えてくる。

反動が操縦桿に伝わる。が、アポロンもすぐさま構えていた右拳を相手に撃ち込んだ。

瞬時に避けるガルルストライク。だが、

 

「足癖の悪いのは……こっちも同じでなァ!」

 

アポロンが脚部スラスターだけを全力で点火させ、ビームサーベルを発振させた脚部で斬りつける。

 

「そんな見え見えの攻撃……効かぬと言ったハズだ……!」

「ならッ!!!」

 

躱された直後にかかとのブレードを展開し、同時に相手に掴みかかりながら逆噴射。

 

「……ッ!?」

 

そのブレードは、ガルルストライクの左肩を傷つけた。しかし、ダメージは浅い。

 

距離を取ろうとするアポロンに、ガルルストライクは無理やり接近してくる。

相手が接近してくるなら──

 

「こっちからも仕掛ける……!!」

 

以前の戦いは、確実に活かされている。

ちょうど目の前に、先程折られてしまった太刀の剣先があった。

それを無理やり掴んで、短剣として相手を切り裂こうと挑む。

一方の相手は、先程と同じように、うまい角度で力を加え、再び折ろうとした。

が、

 

「……硬い!?」

 

先程と打って変わって、簡単な肘打ちでは折れそうにないほど、強固。入ったヒビもぴしゃりと閉じきったままだ。

不可思議に思うも、とにかく相手ごと弾き返すガルルストライク。

結果的に距離を置くことになったアポロンは、その刀の一部分だったものを勢いよくガルルストライクに蹴飛ばした。

 

「そんなものを──」

「それが本命だなんて……誰が言った!!」

 

刀は適当に蹴ったのだ。相手に弾かれようと問題はない。

休む暇さえ与えず、アポロンは腰からハンドガンを取り出す。狙う先は、折れた刀身。

そう、アポロンの刀にはビームコーティングの効果を持った塗料を塗布している。

 

「何……ッ!?」

 

撃ち出した数発が鏡面に反射し、軌道が変わる。そのままガルルストライクの頭部に命中。メインカメラを使えなくさせた。

インパルスガンダムがフリーダムガンダムとの決闘の際に用いたテクニック。ユウは即興で、それを再現してみせたのだ。

 

「次……!」

 

アポロンはソードビットを一度基部に回収させ、そのまま高速移動を開始する。

煽った上で逃げたのだから、当然ガルルストライクはアポロンを追いかける形になる。

 

「着いてきな!」

 

二機が共に移動していくと、徐々にステージ設定も更新されていく。

気がつけば何もない空間から、デブリ帯に突入していた。

 

「ハメられた……か。いいのか?ここじゃ君だって動きづらいだろう」

「それはどうかな……!」

 

ますます余裕ぶるユウ。

そんなアポロンを追いかけ、左腕を失ったままのガルルストライクは行く。

しかし、メインカメラに相当する部分が破壊されている以上、モニターによる一人称視点での操縦は不可能だ。ヤマトは肉眼でバトルフィールドを覗き込んでいた。

 

隙間を縫うようにしながら機動するも、アポロンの動きはブレなかった。バインダーの繊細な姿勢制御も相まってのことだろう。

 

「そろそろこれで……ッ!」

 

再度、ソードビットを展開。しかしながら今度は、コード付きでの射出だ。

 

「任せろ、ユウ」

 

小型の操縦桿を握るヒロが、ユウに合図を送る。

それを見たユウは、従うように行動を開始した。

 

「ちょこまかと……随分すばしっこいヤツだな君は……だが、速さだけなら──」

「誰が……」

 

ガルルストライクの上を取っていたアポロンが、真上から襲いかかる。

 

「速さだけだって……ッ!?」

 

ユウとヒロが、交互に言葉を続けた。タイミングはバッチリだ。

死角を確保していたのはアポロン本体だけではない。

ガルルストライクの背後にも、2基のソードビットは近づいていた。

 

ビームサーベルを突き刺しにかかるアポロン。

しかし、すばしっこいのは果たしてどちらか、ガルルストライクも素早く上面にシールドを構え、応戦。

だがソードビットにまでは対応できなかったのか、コードごと巻き込んだぐるぐる巻きに、ガルルストライクは巻き込まれた。

 

「何ィ……!?」

「ッッ……!おらァッ!!!!」

 

アポロンはそのまま大きく相手を振り回し、比較的大きなデブリに向かって放り投げた。

ぶつかり、砕け、塵が舞う。

 

「おおこれは……マズいな」

 

焦りを覚えるヤマト。しかしながら当然、彼の表情が曇ることはなかった。

 

「だが……燃えるじゃないか……!!」

 

すぐさま立ち上がり、アポロンの元へ。

モニター越しでは操縦できないはずなのに、異常なまでのマニューバ。

ヒロは推力源に目をつけた。

 

「ストライカーパックだ」

「な、何……?」

「相手が装着しているストライカーパック……あれが圧倒的な加速力を生む要因さ。おそらく、エールやI.W.S.P.のそれを大きく上回るほどのチューンをしているんだろう」

 

相手の足を押さえるには、まずはここから。

ヒロはそう伝えると、ソードビットの機動を再開させた。

 

どこまでもガルルストライクを追尾するソードビット。

そして、またその相手を追い詰めるアポロン。

再度距離を詰め、近接戦へ。

 

「ッ……!本当に猛獣みたいだ、どこまでもどこまでもこっちに向かってくるな」

「こちらの台詞だ、そっくりそのままお返ししてやる……ッ!!」

 

蹴りと蹴り。

拳と拳。

最初のバトルのときには恐怖で仕方なかった、細かな破損も塗装の剥がれも、今ではどうでもいい。

ただ、相手に攻撃をしかけ、受け止めたい。

 

強めに足の裏を敵に押し付けると、ガルルストライクはバランスを崩す。

 

「今だ!!兄ちゃんッ!!!」

「言われなくとも……!!!」

 

合図と共に、直ちに飛び込んでくるソードビット。今度はそのコードをガルルストライクのバックパックに巻き付ける。

 

「巻き取れッ!!」

「そっちも引いてて……!!」

 

アポロン側が、コードを引き戻そうとする。

ソードビットも推力を強め、力を加える。

よって、ストライカーパックの接続基部に巻きつけられたコードが、徐々に軋み始め……

 

「やりやがったな……ッ!」

 

半ば強引に、接続を引き剥がした。

もちろん、破壊という形で。

 

「これで……素早くは動けまいッ!!!」

 

武装も十分に使えないはずだ。視認性と機動力さえ落としてしまえば──

 

「油断したな、ウチヤマ・ユウ!!」

「な……ッ!!?」

 

なんと、切り離したストライカーパックの主翼兼スラスターユニットが、またさらに分離する。

意思を持つかのごとく機動し、それがガルルストライクの手元にやってくると……

 

「まさか!!」

「大剣……!?」

「悪いが……貰ったぞ!!!」

 

ストライカーパックの主翼だったものは、巨大な剣と化した。

あ然としたままのアポロンに、それは襲いかかる。

気がついたときには、相手はこちらへ向かって振りかぶっていた。

避けなければ。そう考えるも、信じられないスピードで刃先がこちらへ向かってくるのだ。

スラスターユニットを兼ねた部分から大量の推力を放出。その加速力で相手の意表を突き、

 

「!!!!」

 

高められた切断力で、対象を破壊する。

 

それがこの武装、スラストエッジであった。

 

 

 

 

 

[Battle Ended

 

  Winner

 

 Yamato's Mobile Suit  Metal Garuru Strike Gundam]

 

 

 

 

 

ガンプラバトルで、負けた。

 

これまでユウは、数々のピンチとも戦ってきた。

 

戸惑いながら、恐怖しながら挑んだ初めての戦いも。

目の前に現れた、怪しい力を持つ集団との戦いも。

 

その全てを、勝利という形で収めてきた彼だからこそ。

ここに来ての初めての敗北は、強く、胸を刺した。

 

 

 

ホログラムが消え、改めてアポロンの様子を見る。

これほどまでにしっかりと、胴体から真っ二つにされたアポロンを見るのは、初めてだった。

何より、機体の状態としては確実に相手の方が不利だったはずだ。

それでいて勝てなかったのは、明らかに熟練度の差が要因だろう。

 

向こうから、ヤマトが歩いて近づいてくる。

 

「……」

「『完勝』できなかったのは、久々だったよ。本当に楽しかった」

「……!」

 

しかし、彼ほどの相手をここまで痛めつけられる者は、そうそういないらしい。

ユウは、僅かに誇らしげになった。

 

「またいつか会おう。黄昏の太陽神」

「え……」

 

聞き馴染みのない言葉達。思わずユウは聞き返した。

 

「黄昏時って、大体夕暮れを指すんだ。薄暗いながらもどこか、景色は赤みがかかっていて。まだ荒削りだが、ぼんやりと輝く……"今"の君にぴったりだろう」

「……!」

 

ヤマトは、ユウ達に背を向けながら、こう続ける。

 

「夕暮れはつまり、日の出を控えた状態でもあるだろう?君達にはそれが見えたんだ、確かにな。……じゃあな」

 

そう言葉を残してから、こちらを振り返らず手を振るヤマト。

ユウとヒロは、そんな彼の背中を、ただじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

店を出てからの帰り道。ユウとヒロは二人きりだった。

ヒロは、ユウを気遣うように見つめる。

 

「……ユウ、その──」

「んああああーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」

「!?」

 

が、そこから出た言葉をもかき消すかのように、ユウは突如大声で叫んだ。

 

「本ッッッッッ当に!!!悔しい!!!!!」

 

ユウはまっすぐに、そう付け加える。

その一言に全てが詰まっていた。

 

「でも、いやだからこそ……次は絶対に勝ちたい……!」

 

今一度、ユウを見つめてみるヒロ。

 

「……俺やっぱり、ガンプラバトルが好きで仕方ないよ」

 

その表情は、驚くほど晴れやかで……かつ、情熱に燃えていた。

清々しいほどの笑顔だった。

 

日の出まで、果たしてあとどのくらいだろうか。

そう遠くなさそうだ。

 

ヒロは自然と、そう思えた。

 

 

「よし、アポロンの修理、俺も手伝うよ」

「ほ、ほんとに!?それじゃあ兄ちゃんは何してくれるの?」

「いや、わからん」

「ちょっとォ!!」

「そうだな……塗装くらいか?」

「スプレー塗装やったことあるの?」

「ほとんどないが」

「そういえばそうだったな……」

 

 

 

 

 

「本当に凄いなぁ……あの二人は」

 

一人、店の筐体ブースに佇んでいたエイジが、ぼそっと呟く。

 

「やっぱり、君達はボクの憧れだよ」

 

にこやかな表情のエイジ、しかしながら、

 

「……追いついてみせるさ、すぐにね」

 

彼の瞳もまた、情熱に燃えていたのだった。

 

 

 

 

 

「ッ……!!何なんだよコイツ!!」

「勝てるわけねえっての……!!!」

 

 

[Battle Ended

 

  Winner

 

 Toro's Mobile Suit  Gundam Fete]

 

 

「……」

 

 

僕は昔からそうだった。

 

 

 

「ただい──」

 

「凄いじゃないか!!やったなぁ!」

「ジュニアピアノコンクール最優秀賞、アオヌキ・ケイゴ!お母さん誇らしいわ」

「やっぱりお前は才能の子だよ……!」

「えへへ、ありがとうお父さん、お母さん」

 

「……」

 

 

僕には、胸を張れるものなんてなかった。

 

 

「……ん?ああ、ショウか」

「あ……た、ただいま」

「また遊んでいたのか?」

「……うん、そうだよ父さん」

「お夕飯、冷めちゃったから温め直すわね」

「あ、ああいいよ母さん、あとで一人で食べるから。今ちょっと気分が優れないんだ」

 

 

特技は多くなく、好きなことで、誰かに認めてもらえることもなかった。

……食卓に座ってこちらを見ている、アイツとは大違いだった。

 

 

 

普段から、孤立している自覚はあった。事あるごとに自分の部屋へ逃げ込むから、当然といえば当然だ。

でもそれ自体は、苦痛ではなかった。

 

 

趣味という趣味が、ずっとなかった。

でもいつからか、ガンプラを作るようになっていた。

今でも一番の趣味だ。

 

 

自分の中にあった、純粋で単純な「好き」の気持ち。

そこから、愛機も生まれた。

 

 

ガンプラバトルを始めたのは、ただの興味だけではなかった。

僕の目に映る世界が、どうか変わってくれないだろうか。

強くあれば、周りも僕を認めてくれるんじゃないのか。

そんな希望を望んで、筐体のグリップを握るようになっていた。

 

 

「……僕は誰かに認めてもらうために、お前を作ったのか……?フェーテ」

 

 

時々、ふと冷静になることがある。

それでも机の上に飾られたソレは、当然何も答えてくれなかった。

 

 

 

薄暗い部屋の片隅にて、ベッドに横たわる。

そのまま、誰かに目覚めさせられることもなく、ゆっくりと目を閉じた。

黒い小箱を、握りしめたまま。

 

 




いかがでしたでしょうか
第五話 敗者の在り様は でございました


彼は負けても笑うことを選びました
何故ならガンプラが、ガンプラバトルが好きだから

ここで終わるわけないですよね
そういうことです


できるだけ次回の更新は早くしたいですね……頑張ります



さて今回は宣伝をふたつ

まずは今回登場したガンプラについて
このお話で登場したユウジン・ヤマトさんが使用した機体、メタルガルルストライクガンダム
こちらはkokoさん(TwitterID:@koko19918203)が製作されたガンプラになります
この度はありがとうございました!!

GUNSTAさんの作品ページはこちら↓
https://gumpla.jp/eg/1089926


そしてもう一つ
今更ながらの宣伝にはなりますが

第三話の中で登場した百式使いの清掃員
なんと実はあの彼が主人公の外伝小説がございまして……

ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝
著 いぬこ(TwitterID:@inuco_ineya)
https://syosetu.org/novel/263407/

こちらの作品、かなりおもしろい上になんとこのビルドデューラーズ本編よりも先に一度完結してるんですよね!!!!!
しかもこの本編のこれからの話をちょーーーっと先取りしているところがありまして!!!!いやほんとに本編の作者は何やってんだって話なんですけど

多少本編のこれからのネタバレになる部分もあります
逆を返せば、本編のこれからが楽しみになるかもしれません

そして何よりシンプルにおもしろいです もしよろしければ読んでみてくださいね




最後まで読んでいただいてありがとうございました、次回を楽しみにお待ち下さいね
感想等をいただけると作者は大層喜びます!!!
この度ハッシュタグも作らせていただきましたので!!!!!ツイートされる際は「#g_bdu」とつけていただければこちらが拾いやすくなります 

作者TwitterID→@nushi_shinymas
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。