酔った鰹君が何をしたのかはユザパってます。あらかじめご了承ください(何をしたのか全く思い浮かばなかった)。
*
「ケイ、大丈夫?」
「メグもノリノリで飲ませてたじゃん…うぅ…」
恨めしそうな目でケイが私を見てくる。罪悪感がわいてくるが…正直、魔境の民と言われる人たちの気持ちも分からなくもないというか…
「あー、夏目氏、送り狼にはならな…いやなった方がいいのか」
「カッツォ君相手ならそこまでやらないと駄目なのかもねぇ。いやぁゲーム脳相手にするのは大変だね」
天音さんがすごく実感のこもった台詞を吐き出してるけど、隣にいるエナドリ仮面はまったくだ、なんて頷いてばかりでその様子に気付いていない。ホント、お互いに苦労するわね。
「さて、それじゃあここらでお開きとしますか。夏目ちゃん、カッツォ君のことよろしくね!」
「夏目氏に迷惑かけるなよカッツォ」
「既に困らせてる気もするけどね…お前もペンシルゴンをちゃんと送ってやるんだぞ…」
「おつかれさま」
互いに言葉を交わして天音さんと顔隠しは去って行く。ひとまず二人を一緒に帰らせることには成功したし、私もケイの家に何の問題もなく入って介抱が出来る。ケイも顔隠しも、まさか自分が作戦を仕掛ける側であると同時に仕掛けられる側であったとは思わないだろう…いや少しぐらい感づいてくれても、とは思うが。
「あー、ごめんメグ、付き合わせちゃって」
「気にしないで、けしかけちゃった私にも責任はあるし」
そもそもこうなるように仕組んでおいてこんなこと言うのもおかしな話ではあるが。タクシーを待ちながら、私とケイは会話を続ける。
「しかしサンラクの奴、おかしな挙動がさらにおかしなことになってたな…」
「今日の番組のこと?私にはいつも通りにしか見えなかったけど」
「奇天烈な動き自体はいつも通り…いやいつも通りと言っていいか分からないけど、それを支える動作一つ一つのキレがよくなってたんだよね…」
「どういうこと?」
「あいつの最大の強みはUIに対する適応力…ていうのは前に話したかな?」
「聞いたわ。操作ウインドウを見ずに操作して即座に武器を切り替えるとかの曲芸じみた動きでしょ?」
「そうそれ。今日のあいつ、そういった動きがさらに進化してたんだよね…。より無駄を省きながら、より早く、よりあいつが追い求める浪漫を叶えるための動きに。
あいつがプロゲーマーになってから、勝率7割を維持するのがさらに難しくなってる。…なにより、あいつに負けたくない。もっと強くならなくちゃいけない…」
酔っているためかいまいち要領を得づらいケイの言葉。けれどそう呟くケイの表情は、酔っているはずなのに、まるで大会の決勝に赴く前のようなとても強いものになっている。この世界で一番強いのはシルヴィア・ゴールドバーグでも顔隠しでもない、魚臣慧なのだと叫ぶように。
その姿を見て、私は顔が熱くなるのを感じる。
ああ、この姿だ。一見冷静に物事を見ているようでありながら、その内面を溶岩のように煮えたぎらせ勝利を渇望する姿。私が好きになった人の、本気の姿。思えば恋敵であるはずのシルヴィアと仲良くしていられるのは、ケイのこういう一面が好きになったというのが共通しているのもあるのだろう…きっかけはジャンクだったけど。
しかし、ケイは気付いているのだろうか。強くなった顔隠し相手に勝率7割を維持しているケイもまたさらに強くなっていることに。…自覚はしているだろう、それでも満足していない。だから彼が歩みを止めることはない。
そんなケイと並ぶためには、私ももっと強くならなければならない。ただでさえシルヴィアも含めてライバルが大勢いるのだ。寄り道することはあっても、立ち止まることだけはしてはいけない。彼に相応しい私でいるために。
だからまあ…口ではなんだかんだ言いながらも、顔隠しには感謝している。私の好きなケイがさらにかっこよくなったのも、顔隠しの存在が大きいから。本人に言うつもりはないけれど。
そして、天音さんにも。からかわれてはいるけど、よく相談に乗ってくれるし、応援してくれる。最初に会ったときはこれがティーンの憧れの実態…と思ったものだが、付き合いが長くなってくるとまた印象が変わってくる。こういった面も含めてカリスマモデルなんだなとよく分かる。
私から見ても、天音さんと顔隠しはお似合いだと思う。二人にはうまくいって欲しい。二人が去った方向を見ながら、そんなことを思った。
*
「いやぁ楽しかったね楽郎君、ああも見事に潰れるとは思ってなかったけど」
「酔ったあいつがあんな風になるとはな。ククク、これから当面の間はこのネタでいじれるぞ」
二人並んで帰路につきながら、先程の出来事について語り合う。やはり素の自分を曝け出せるというのは楽しい。その相手が思いを寄せる人ならば、尚のこと。
ティーンの憧れであるカリスマモデルとして、決して堂々と表に出すことの出来ない、私の刹那主義。それを受け入れてくれるだけでなく、私と対等の立場で一緒にバカなことをする人。そんな彼に惹かれている自分を意識してから、毎日がさらに楽しくなった。
彼がプロゲーマーになりたいと知ったときはすごく心が躍った。彼は大学進学すると聞いていたから。もし大学にいったら、顔がよくて対応も悪くない彼は間違いなくモテていただろうし、社会人である私とリアルで接点を持つには立場的にも距離的にも難しかった。
その点プロゲーマーなら都心近くに住むし、TVなどで共演することもあれば芸能人としてアドバイスすることも出来るだろう。それに表舞台に出る彼は「顔隠し」。有名になっても素顔が隠れている分、女性からの恋愛感情に起因した人気は出づらい。だから彼の親を説得するのにも全力を出した。予想外のことも多くあったけどそれもいい思い出。
「しかしあいつ、本当に爆発案件というか…あれだけ夏目氏分かりやすいのに気付かないものなんかねえ」
「うーん、それに関しては君が言っていいことじゃないかなぁ」
「は?」
だってそうだろう。私が君を楽郎君と呼ぶようになり、君に永遠と呼ぶように強制したというのに、君は私の好意にまるで気付いていないのだから。もしかしたら気付いているのかもしれないが、こうもこちらに気がある素振りを見せてくれないのであれば不安にもなる。さっきも一緒の映画に行くというデートの定番を約束したというのに平然としているし!(妙に恥ずかしくてカッツォにやらせたことを棚に上げつつ)
なんかだんだんと腹が立ってきた。うん、ちょっとくらいやらかしても問題ないよね。
「えいっ」
「うおっ、なんだいきなり!?」
おお、やってしまった。正直すごく恥ずかしいが、もう後には引けない。ええいなるようになれ!
「なんだかんだ酔いが回ってたみたいでね、ちょっとふらついちゃって。足下がおぼつかないから少しの間掴まらせてもらうよ」
「それはかまわんが、その、あれだ。腕を組むというのは流石にあれだ。もしおまえのファンに見られたらあれだぞ」
そっぽを向きながらあれしか言わなくなった。顔をよくよく見てみれば、すごく顔が赤い。たぶん私もこんな顔色なんだろうけど、今は私を意識してくれていることの喜びが大きくて。
「それはほら、背負ってもらうのは気が引けるし、肩を貸してもらうのも歩きにくいしね。顔を埋めれば顔も見られにくいし」
「おお、そうか。…うん、まあ、うん」
「…おやぁ?どうしたんだい楽郎君、顔が真っ赤だよ?」
「うるせー、くっついてる分暑くなってるだけだよ」
「ふふ、そういうことにしておいてあげるよ」
そう言ったきり、二人して沈黙しながら町を歩く。けれどその沈黙は、どこか心地よくて。ずっと続いて欲しいと思えるもので。
この光景を見ている人は、私たちのことをカップルだと思うだろうか。それが事実で会ったならいいのだが、現実にはまだ付き合ってるわけじゃない。
だけどもし、いつか私がこの人と付き合うことが出来たなら。その時は堂々と胸を張り、見せつけてやろう。
世界よ見るがいい、これが私の恋人だ、ってね!
ペンシルゴンすごく好きなキャラで書いてみたいな、と思い始めたら止まりませんでした。人気投票は悩んだ末に秋津茜にいれたわけですが…
秋津茜でも書いてみたいという気持ちと、なんとなくの形はあるのでいずれ書けたらなとも思います。
何にしても、読んでいただきありがとうございます!