そして、
「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんかー」
大声を上げながら散策しだしてしばらくした時のこと、彼は一人の老人と会うことになった。
見かけ60歳ぐらいのおじいさんである。
といっても、活力ゆたかなじいさんであり、明らかに鍛えているだろうしっかりした体つきをしている翁であった。
「お主の名は? 」
「僕ですか? 僕の名は……」
なんだっけ?
あれ? と思案する彼の脳裏に何故か人参畑が脳裏をかすめた。
人参? ああそうだ……
「僕の名前は人参いや、ウサギといいます。」
多分それで合っていたはずである。
いや間違いないと、彼は自信満々に答えた。
「ふむ、ただのウサギでよろしいかな?」
「ええ、ウサギと呼んでください。」
「ではウサギ、わしの名は柾木 勝仁。神社の宮司をやっておる。」
そうして自己紹介は終わり、彼、あらためウサギは、自分の事情を勝仁殿にわかってもらうため、かくかくしかじかと詳しく説明した。
「ほう、つまりは君の言うことをまとめるに目の前にはニンジン畑。歩けども、歩けどもニンジンで気づけば泉たゆたう大樹とご対面ということかね? 」
「そのとおりです。勝仁さん。」
「ふむ、その大樹この神社のご神木船穂〔ふなほ〕 に間違いないのー。」
「そうでしたか、あの大樹の周りで湧き出す水で足を洗ったのですがね、何せ裸足で歩いていましたから、足の裏は血だらけ、それに足が不自由でありまして、しばし休むと怪我がふさがり何とか歩けるぐらいに力が戻りまして、あの湧き水にはよい力があるようですね。」
「ふむ、そのようなことがあったとは、いやー役に立ててよかったわい。」
勝仁はいい笑顔でわらった。
「それでですね。私はこの先どうすればよいか途方に暮れていまして、取り敢えずは実家に電話をかけてみたいのですがよろしいでしょうか? 」
「良いじゃろう、こちらへ来なさい。」
ウサギは今どきレアな黒光りしたアナログな黒電話のダイヤルを回して、実家に電話をかけた。
いやに緊張するウサギ。
実家に電話。
自分の家に電話するのに何故こんなにも心臓がバクバク言うのかわからないと思いながらも、ウサギは慎重に電話番号を回した。
「現在この電話番号は使われていません」
「なんでだよ! 」
ウサギは思わず喚いた。
電話番号が使われていないわけがないからである。
通信障害?
そんなわけがない。
もしそうだとしたら、電話番号が使われていないなどどメッセージが流れるわけがないからだ。
自分が間違えて電話番号を回してしまったのかと思い、ウサギは焦りつつも、もう一度実家に電話をかけた。
だが、先ほどと同じ「使われていない」 とメッセージが流れるだけであった。
ウサギは連続で、友達、親戚と覚えているだけの人たちに電話をかたっぱしからかけていった。
だが、無常にも……
「現在この電話番号は使われていません」
と、電話口に聞き慣れた言葉で言われるだけだった。
ウサギは頭がどうにかなりそうだった。
一体この先どうすればいいのだろう。
思い悩むウサギはあることに気づいた。
黒電話の上に引っ掛けられているのはカレンダーだということに。
そして、それは、自分が生きていた時代から12年前、2002年8月を示していた。
「あの、勝仁さん今年は2014年ですよね」
「何を言っておる。目の前のカレンダー通りじゃろう」
ウサギは思った。
こたつでみかんしていたら、過去に戻ってきましたとか?
しかも自分の家、家族どころか、友人親戚が存在しないかもとかどういうことなの?
こたつでみかんしていたら、過去に戻ってきましたとか?
ありえないったら、ありえない! とウサギは頭を抱え座り込んだ。
「ねえ、ねえ。おじいちゃんあのお兄さんどうしたの?」
「ふむ、なにやら察するに記憶障害をきたしてしまっているようじゃ。若いのに難儀なことじゃ」
「それって、認知症っていうんだよね?」
そんな、かわいそうな人を見る目でみる二人に、ウサギは思わず突っ込んだ
「認知症じゃないから!だいじょうぶだから!頭は健康だよー。シクシク」
と泣きながら弁解するウサギ。
「よしよし」
そんなウサギを見て、頭をなでて慰めてくれる美少女がいた。
「お嬢ちゃんはいい子だねーシクシク」
「砂沙美いい子?えへへ。お兄さんもいい子いい子」
ウサギは砂沙美という少女に大人げなくも慰められたのだった。