「なるほどね霧恋ちゃん話はわかったわ」
「じゃあ、一刻も早く西南君の送還を…」
霧恋は必死に声を荒らげた。
「まあ、落ち着きなさい。確かに銀河法で初期段階の文明の人間との接触、まして宇宙に連れ出すことは固く禁止されているわ…けれど…前例がないというわけでもないでしょ?」
瀬戸はどこか弾んだような感情を持って霧恋に言った。
「瀬戸様!」
「じゃあね、ごくろうさま~」
「ああ、ちょっと瀬戸さ!」
ブチッっと瀬戸は相手を一方的に無視するように通信を切り、これ以上ないほど楽しそうに笑みを浮かべた。
「彼女があんなに取り乱すなんて珍しいわね~」
やれやれ、彼女当分遊ばれるな。
GP艦から戻ってきた水穂は聞いていた瀬戸との通信相手を思ってため息をついた。
そしてこの状況をどうにかしようと、すがるように叔父である兼光を見やった。
兼光は水穂に促されるまでもないと言うように、手を軽く上げることで水穂に答え、瀬戸に向かって兼光は口を開いた。
「瀬戸様、彼の特性を考えるに、まあもう一人もそうですが、やはり地球に送還するべきでは?」
「あら、無理強い、強制はするつもりまったくないわよ」
兼光の進言なんてなんのその瀬戸はしれっと言ってのけた。
それに、心のなかで毒づく兼光。
(このクソババア…あんたなら無理強いしなくても、そう仕向けるなんてたやすいだろうが…)
そんなことを思う兼光に瀬戸は言った。
「ん~、なにか言いたいことでもあるの?」
兼光の腹の底、言いたいことなど瀬戸は全てお見通しであった。
だてに樹雷の裏の権力者をやっていない瀬戸である。
だが、瀬戸はあえて兼光に尋ねた。
そのとき、答えに窮する兼光を意図して救うつもりはなかっただろうが、あるオペレーターの声が会話に割って入った。
「瀬戸様、兼光様、失礼致します。ウサギ殿ならびに山田西南殿をGPにスカウトした人物が判明いたしました。雨音・カウナック2級刑事です。」
どうじに雨音・カウナックの証明写真だろう画像が瀬戸たちの前にスクリーン投影された。
「やはりねぇ、カウナック家のあの娘か、予想通りというわけね。地球に行ってそんなことをやらかすのはあの娘ぐらいだとおもったよ」
そんな瀬戸の言葉をよそに、オペレーターが伝えた、2級という階級に兼光が反応した。
「確か、彼女は親御さんがGPに入ることを非常に反対していたと聞いていまが」
「もう、情報が古いわよ兼光。少しまえにカウナックと大喧嘩の末に家を出たのよ。まあカウナックとしてははやく嫁にでもいって落ち着いてほしいのが本音らしいけど」
「そういえば、以前瀬戸様が見合いの席を設けましたよね? その時の結果をまだ聞いていないのですが」
水穂のその問に瀬戸はニパっと口元をいやらしく釣り上げるた。
カウナック家とは、銀河アカデミー内に本社をもつ老舗服飾ブランド『カウナック』 の経営一族のことである。
その現在のカウナック家の当主をつとめている者の娘が雨音・カウナックであり、超のつくほどのお嬢様のため見合い相手にもそれなりの格が求められる。そのため、瀬戸とも付き合いのあった、カウナック夫妻は瀬戸にお見合いのセッティングを頼んだのだ。
その頼まれたお見合いのことを思い出し瀬戸はしみじみと語りだした。
「まったく、楽しい潰され方だったわ」
「瀬戸様がお見合いを失敗なされたのですか?」
「オホホ、私にだって失敗の一つや二つあるわよ」
そういって、お見合いの時の録画映像をモニターに映しだした。
その瀬戸に見せられた雨音のお見合い相手の姿に兼光と水穂は絶句した。
そこにはいかにもマザコンといった雰囲気の食品大手の御曹司がなよっとしたポーズに上目遣いで母親の影に隠れるようにして雨音を見つめていたのである。
「うわぁ」
水穂がそのことに思わず引いてしまったその瞬間、録画映像に出てくる雨音は激昂し、「それでも男か! 」 と男の胸ぐらを掴んで大ふくビンタし、見合いの席がめちゃくちゃになった映像がながれた。
「アハハハ! でね、でね見てよ次がまた傑作なのよ! 二度目にセッティングしたお見合いはねアカデミーの某大学の学長の息子でね」
そう言って兼光達の反応にはお構いなしに瀬戸は次の映像を流した。
今度出てきた相手は痩せており、覇気のない胃の悪そうな青年教授であった。
「ぼ、ぼくはですね。く、口にあうものが、す、少ないんです」
そう言いながら青年はちまちまと料理の中から嫌いなものを選り分けはじめた。
その瞬間雨音は「好き嫌いすなっ」 と青年が一生懸命より分けたものを手で掴むと無理矢理口の中にねじ込む雨音の姿が映し出された。
そして、三度目のお見合いも似たようなもので、あきらかに雨音にあわない男性があらわれ、というか、たいていのまともな女性ならNOという男どもがあらわれて雨音の逆鱗に触れるそんな映像が淡々と流されたのであった。
それに瀬戸は大笑い。
「あー可笑しかった。というわけであの子のおメガネにかなう相手って、なかなかいないのよぉ」
瀬戸は明らかにお見合いを失敗したことに困るのではなくよろこんでいた。
兼光は思わず言った。
「嫌がらせをしているだけにしか見えませんよ瀬戸様」
呆れるしか無いとため息をつく兼光の袖を水穂はクイクイっと引っ張って耳打ちした。
「兼光おじさま、瀬戸様最近地球のおもしろ投稿ビデオっていう番組に凝っていてね」
「じゃあ、そのためにだけに破談ビデオ収集しているのか?」
「そういうこと。あれだけ雨音って子の暴れっぷりですもの、気に入られてしまったのよ」
そんな会話を瀬戸は気にもかけず嬉々として口を開いた。
「んで、しょうがないから今度はうちの眷属の良さそうなのを見繕ったのよ」
「安心しましたよ。一応まとめるともりはあったんですね」
「当たり前でしょ兼光。でね、今度はバッチリ気があってお見合いの席でも話は弾むは、趣味はあうしで」
「よかったではないですか」
兼光は安心して言ったのだが瀬戸にダメダメと返された。
「これが見事に男友達状態で雨音さんに紹介された女の子と結婚するって、これ招待状」
瀬戸はピラピラと封筒に入った披露宴の招待状を二人に見せた。
絶句である。
「ふふ、雨音に霧恋それにあの少年ともう一人の地球からの青年これは面白くなりそうね」
瀬戸は悪巧み満点の笑顔でつぶやいた。
二人は話題にあがる者達の行く末に同情した。
「さて、話は戻るのだけど兼光殿」
突然真顔になって兼光に話しかける瀬戸。
そのことに反応しきれず上ずって声を上げる兼光。
「彼らが…男の子が、このチャンスを逃すようなことを果たしてするかしら? ねぇ…」
含みのある兼光を見つめる瀬戸の目にその後の展開が予想出来てしまう水穂。
何故なら平田兼光としてそう瀬戸に問われたら兼光に答えられる回答はひとつしかなかったからだった。
それでも、兼光は精一杯のていこうをみせた。
「瀬戸様がそうされたいように見えますが…」
「ん~?」
何もかも見通すのではないかと思わす瀬戸の優しげな眼差し。「本当にその答えでいいの?」 と語っているようだ。
兼光が少年であった頃、彼には将来への希望があった。だがその希望は少年であった兼光にはどうしようもない超えることのできない壁があったのだ。それにむかってあがいていた兼光を救ったのは瀬戸であった。
兼光は瀬戸が誘う先にはそれまでとは比べ物にならない大きな難関が待っていたことを思い出した。
実は楽な道もあったようだが、それは瀬戸により故意に閉ざされていた。
とはいえ、兼光は少年時代瀬戸の救いの手をとったことを後悔などしていなかった。
結局自分の未来を決めるのは自分でしか無いと兼光は自分を納得させた。
これでいい、俺もそうだったから彼らもきっとそうだろう。
まあ頑張ってくれ俺もできることはしてやるからと、兼光は思いながらゆっくりと口を開いた。
「もし私であれば、みすみすそれを逃すようなことなどいたしません」
これで、兼光は瀬戸の片棒をかつぐことが決定した。
それに大満足な瀬戸は頷いた。
「では、彼らに会いに行きましょ」
瀬戸はすくっと立ち上がるとあることを思い出して付け加えた。
「水穂ちゃん彼女の足止めお願いね。」
「ええ、ええわかっていますとも。いってらっしゃい」
水穂の気苦労はたえることはなかった。