珀蓮たちにつれられて見えなくなるウサギたちを見送り、瀬戸は我慢ができなくなったと大笑いしだした。
「どうなさったのですか?」
気味の悪い瀬戸に兼光は話しかけると、瀬戸は相好を崩したまま兼光に答えた。
「私思い出したのよ。あの子と一度会ってるわ」
「あの子というとじっと見つめていた西南君のほうですか?」
「ええ遙照殿のところでね…あれはそう、西南殿がもっと幼いころに」
瀬戸は本当に嬉しそうに笑った。
それを兼光は見つめることしかできなかった。
悪魔の微笑みでない瀬戸を見るのはいったい何十年ぶりだろうと思いながら。
そうして瀬戸は兼光に言った。
「至急鷲羽殿に連絡をとるわよ!」
「了解」
いつもの瀬戸に戻ったことにどこか安心し兼光はこたえた。
あの朗らかな雰囲気もいいが、やはり瀬戸はこうではなくてはと思いながら。
そうして二人は早足で水鏡の中枢、瀬戸の鎮座するべき場所に急ぐのだった。
あそこはセキュリティが完璧であるため、鷲羽のような情報規制がかかる人物への連絡をかける場合、絶好のロケーションが整っているのである。
※※※※
ところかわってウサギたち一行は無事ゲストハウスに到着した。
到着したのだが、そこで一番に目にしたのは電話の前で土下座して平謝りする美兎跳の姿だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい(;_;)/~~~」 × 沢山
山盛りの謝罪をする美兎跳。
「えっと、美兎跳さんはどうしちゃったんですか?」
ウサギは自分たちが瀬戸と一緒にいるあいだ、美兎跳と一緒にいたであろう4人の女官に尋ねた。
それに珀蓮が答えた。
「何がどうなっているのか原理が全くわからないのですが、美兎跳様は掃除していると無意識のうちにどこにでも入り込んでしまう特技というか、習性があるのです。例えば、誰にも知られていない秘密の場所、最新のセキュリティが施されている場所、そんな近寄れないはずの場所に気づけばモップを片手に掃除している美兎跳がいる。そんな現象がおきるんです。」
「それが美兎跳さんが平謝りする理由ですか?」
ウサギは一体どこに美兎跳は入ってしまったのかと考えた。
あれだけ泣きながら頭を下げているということは、それはもうすごいところにいってしまったのだろうとウサギはおもったのだが、今回のことはそういうことではなく、掃除をしていたら知らない間に地球行きのGP輸送船に乗っていて、もはや後戻りできないところに行ってしまい、その頃になってようやく気付き、親への連絡がおろそかになっていたために叱られているとのことであった。
電話相手の怒鳴り声がウサギたちに聞こえる。
それだけ心配だったのだろう。
美兎跳はそれにたいしてひたすら身を縮こませて謝るのであった。
そして、ゲストルームで美兎跳の土下座を見てから30分。ようやくお叱りは終わり、「知らないところに行ったら必ず連絡すること」 という約束を固くむすばされ、やっと美兎跳は解放された。
「ウサギちゃんに西南ちゃん…私叱られちゃいましたー」
美兎跳はべそをかき、えっく、えっくと肩を震わせウサギと西南に抱きついた。
ウサギと西南は互いに顔を見合わせると、ため息を付いてよしよしと美兎跳の頭を撫で慰めるのだった。
そしてなぜか美兎跳はというと西南の五分刈りを逆に撫でくり始めて、まるでペットかぬいぐるみのように美兎跳に扱われはじめた。
助けを求めるように西南は珀蓮をみつめた。
ウサギが見るに美兎跳はすぐに泣き止む様子はない。
しかし珀蓮は自信ありげに『大丈夫』 とばかりに胸を張り、微笑んだ。
「美兎跳様。デザートのプリンを用意していますよ。」
「え! プリン?」
美兎跳はなんとも現金に態度を変えると、幸せそうに珀蓮に問いかけた。
「はい、とっても美味しいプリンを食堂に用意しております。ぜひ食堂にいらしてください。」
「はぁ~~~い。」
美兎跳は元気よく片手を上げ返事をすると、もう待ちきれない様子で食堂の方へと飛び出していった。
そのあまりの変わりように、その場にいた者は呆然と立ちすくんだ。
プリンというものは人をあそこまで変えてしまうものなのか…。
あきれるしかなかった。
「では、私達も行きましょう」
気をとりなおし、珀蓮はいち早く正気に戻り、ウサギたちを促した。
「あの、はじめからプリンでつっていれば早く泣き止んだのでは?」
西南は美兎跳の涙で湿った服を摘んでいった。
「さすがにプリン目の前にポンと出したたけで女心は動きませんよ、西南様。ウサギ様と優しく美兎跳様を慰めていただいたからこそ、あのタイミングのプリンが効いたのです」
「はあ、そういうものですか?」
「そういうものです。ね、ウサギ様」
「はは、まあ自分を美兎跳さんに置き換えて考えれば確かにプリンだけでは泣き止みたくはないですね。」
ウサギは美兎跳のことを、ものでつられるだけの単純な人間には見えなかった。
そんな考えをもつウサギに珀蓮は好ましそうに見つめた。
この子は自分にやられて嫌なことは相手にもしない。そんなタイプだと思ったからだった。
そんな二人をよそに、西南はウサギのことを感心してみていた。
他の人の立場に立って考えるという考えが新鮮であったのだ。
西南はいつも嫌なことがあり、しかもその嫌なことにいつも他人を巻きこんでしまう。
だから、西南はたいてい嫌なことを解決するというよりも、逃げることに特化していた。
嫌なことが起きないように、ひたすら逃げるということである。
その概念は、西南にとっての一番効率のよい回避方法だった。
だからだろうか、西南は逃げきれなかった災厄に関してはしょうがないと、どうしようもないこととして、すぐに諦めてしまう傾向が強いのである。
今回の西南の発言にしてもその傾向があることが理解できる。
美兎跳を早急にプリンでつって、自分に被害が来ない確率を上げたいとおもったのだ。
だがそれは無理だったので、西南は流れに身を任せ諦めて、美兎跳のご機嫌取りをおこなったのである。
だがウサギは逃げることを考えるのではなく、美兎跳を避けもせず、慰めて、相手の立場に立った考えをもち、慈しむという行動をとった。
逃げることばかり考えていたことを反省した西南であった。
もうすこし冷静になって嫌なことをされてもまず相手の事を考えてみよう。
そうおもった西南だった。
そしてウサギたち一行はゲストハウスについた。
そこで食事のため着替えるよう珀蓮に支持されたウサギと西南は、用意してもらった服に着替えた。
着替え終わり案内されたのはゲストハウスの裏手にある湖につきだしたテラスであった。
そこが食堂であるのである。
水辺だからだろう、ひんやりとした涼しい風が通る。
とてもそれが心地よい。
その場所で見る光景は感嘆の声を上げさせるものであった。
空を覆う満天の星空。
それを映しだす湖。
その景色は幻想的であった。
「すごいね西南君」
「ええとても。それとこの食事…家のとおお違い」
テーブルに用意された食事は、お腹が空いている若い食べ盛りの二人にしたら凶器であった。
とても豪華で、美味しそうなのである。
グーという情けない音が二人のお腹から発せられた。
そのことに顔を真赤にするふたり。
「いっぱい食べてくださいね。おかわりもありますから。さあ、席についていただきましょう」
珀蓮の招きに二人は応じ、それぞれ向かい合うように席についた。
「 「いただきます」 」
そうして二人は4人の女官たちに給仕をされながら豪華でとても美味しい食事を楽しんだ。
あ、もちろん美兎跳もである。
その証拠に、一人だけバケツプリンを思わせる豪華なデコレーションがされたプリンが美兎跳の目の前に鎮座している。
美兎跳は主食を後回しに、プリンと格闘中である。
「あんっ、プリンプリンさん。ぷるぷるなの~」
いったい、美兎跳は何をやっているのか。
まあそれはともかく、ウサギそして西南は美味しすぎる食事を口の中いっぱいにして、頬袋など人にはないはずなのにこれでもかと詰め込んでたべた。
そのすがたに皆笑い、場を盛り上げた。
だが、ウサギは調子にのってものをいっきに嚥下したため喉のつまらせてしまった。
「だ、大丈夫ですか!」
珀蓮は急いでウサギの眼の前にあるグラスに桃色のジュースを注いだ。
ウサギは食事を先程までお茶で食事を楽しんでいたのだが、もう湯のみの中身はなかったのだ。
急須の中にお茶はあるが、珀蓮はその中身が熱いことを知っていた。
自分がウサギのために用意したものだったからだ。
そのため珀蓮は手の届く範囲で一番近いジュースの入ったピッチャーからコップに注ぎウサギに飲ませた。
その御蔭でウサギは危機を脱したのだが、ウサギはなんと急に意識を失い倒れてしまった。
「 「う、ウサギ様!」 」
女官たちは悲鳴のような声とともにウサギにかけよった。
西南はというと、あまりのことにウサギのように喉をつまらせ盛大にむせた。
落ち着こうと西南はこれまたウサギのように皇家の樹の実のジュースをのんだ。
といってもさすがにウサギのように気絶などということもなく、西南は喉のつまりを解消することができた。
それを見た女官たちはそのドリンクに毒のようなものが入っていないことを確認することができた。
なぜなら皇家の樹の実のジュースが入ったピッチャーはひとつであり、皆のコップに注いだのは珀蓮ただ一人である。ならばウサギのコップだけに毒を盛る事など皆の見ている、しかも色んな意味でスペシャリスト達が集うなか危険物質を混入することは不可能であったからである。
なによりこのドリンクは、瀬戸が用意したものであり、歓迎している客人に瀬戸がしかも皇家の樹の実のジュースをつかって悪巧みするなどさすがにありえなかった。
そんなドリンクの安全性を再確認し少しは冷静さを取り戻した女官たちであったが、水鏡がそのとき大きく大きく揺れた。
船が大きく傾き転覆するのではないかそう思わせるような揺れであった。
そんなたて続きにおきるハプニングに女官たちは慌てた。
何故なら樹雷の皇家の樹で統制がとれている船が、このような異常な揺れを艦内にきたすという現象は、異常でしかなかったからだ。
まさにありえない事態は、最悪なことを予想されるものであった。
だがそんな動揺のなかで、ただ一人平然と立っているものがいた。
美兎跳である。
「ねえ皆おちついて。」
「「美兎跳様」」
女官たちは美兎跳の普段は見せない不思議な、でも人を引きつける真面目な表情に冷静さを取り戻していった。
それは西南も同じであった。
「美兎跳さん! 僕はどうしたらエット…なんでもします!」
そんな一生懸命叫ぶ少年をみてなおさら女官たちは冷静になり、励まされた女官たちは西南に笑顔を見せた。
玉蓮翠簾はセイナの両側に立ち西南の肩にそれぞれ手を置いた。
火煉は西南の手を力強く握り微笑んだ。
そして、珀蓮は…。
「西南様ここからは私達の仕事です。」
と凛々しくも断言した。
「でも、」
それでも、西南は何かしたいと訴えた。
「気持ちだけで十分です。美兎跳様」
「ええ、西南ちゃんはまかせて。ウサギちゃんをお願いね。」
「了解です。」
さすが、瀬戸の女官というべきだろうか?
冷静になれば、このような事態でも良い判断を的確に下していけるスキルが彼女たちにはあった。
そして、女官たちはウサギを早急にウサギを医療区画に移送することを最優先事項として判断し、適材適所に仕事を割り振り始めた。
「火煉!ウサギ様を担いで医務室へ。私はあなたに付き添いながら瀬戸様に連絡をいれるわ。玉蓮、翠簾は西南様と美兎跳様を引き続きお願い。異常事態に備えて連絡は密にして順次対応して頂戴」
「了解ですわ。翠簾よろしくね」
「んっ」
翠簾は短く返事した。
そうしてウサギたちを西南達は見送った。
「ウサギさん大丈夫でしょうか…」
「ええ、きっと」
玉蓮は西南の肩を軽くだき励ました。
翠簾は、無口ながらも、必死に西南を安心させるべく、大丈夫だと相槌を何度も行った。
その首をコクコクとふるさまがこんな非常事態でも可愛く見えてしまって頬を染めてしまう西南であった。
そんな西南をみてあらあらという美兎跳のいつもの姿があった。
そんな美兎跳を見て心が少しは落ち着きを見せる西南。
美兎跳セラピーとでも言うのだろうか?
それはともかくとして、西南は艦が揺れる中思った。
ウサギさん、俺たちこれからどうなるんでしょうね?
そしてごめんなさい。
俺、何にもできないや。
西南はそう思わずにはいられなかった。