場面はかわり、水鏡のマスターである瀬戸はいち早く水鏡の異常に気づいた。
水鏡がまるで家族が一人増えた喜びを感じた母のような歓喜の声を上げたかと思うと、我が子を突然失ってしまったかのように深く悲しみにくれたのである。
「水鏡ちゃん! な、どうしたの!」
「せ、瀬戸様! 急に水鏡の出力が高まったと思ったら、冷え込んで急速に出力を下げていっています。このままでは水鏡の動力が完全に停止します!」
「水鏡!…いったいどうしたの? 泣いていてはわからないわ。どうか教えて!」
そう、水鏡に向かって瀬戸が悲痛に訴えたとき瀬戸への通信が入った。
それは、珀蓮であった。
「何事! こっちは取り込んでるんだけど」
「わ、わかっています。ですが瀬戸様、急にウサギ様が倒れられました!」
「なんですって、至急医療区画へ移送なさい!」
「もちろんです。医療ポット入れようと今向かっています。それと、この揺れどうなされたんですか!」
「私のほうが聞きたいぐらいよ。でも、揺れにかんしては私に任せなさい。いまあなた達が全力を尽くさなければいけないことは、ウサギ殿を救うこと。わかっているわね?」
「はい! ちなみに西南様は美兎跳様と一緒に翠簾、玉蓮をそばにつけて待機中です。」
「良い判断ね。何かあり次第また連絡するわ」
「了解」
珀蓮との通信が終わった瀬戸は思考する。
この水鏡の悲しみはウサギに対してなのかと、そう思ったとき瀬戸と思考がつながっている水鏡は即座に瀬戸の思考を拾い同意の意思を送った。
「そうなのね…。大丈夫ウサギ殿は私に任せて、水鏡ちゃんができることはウサギ殿の乗る艦の安全を保つこと、それがウサギ殿を救うことになるわ。」
そう、瀬戸は水鏡をさとした。
それに水鏡は迅速に答えた。
まるで我が子を守るべく決意した母のように、心を強く水鏡は動力を安定化させはじめたのだ。
それによって、水鏡に依存している全システムが安全圏内に、それは生命維持に関わる重要なシステムも含まれていた。
これにより、水鏡に乗る全てのものが命を失わずにすんだことを意味していた。
瀬戸ならびに水鏡のクルーたちは取り敢えずの安堵を味わった。
「瀬戸様この事態はいったい」
兼光はこの急激な展開に冷や汗をかいた。さすがの百戦錬磨の樹雷の戦士もこの異常事態は味わったことがないものだった。
そんなおどける兼光に瀬戸は言い放った。
「私にだってわからないわ! 取り敢えず揺れはどうにかなった。至急ウサギ殿がいる医務室に急ぐわよ。きっとウサギ殿しだいですべてが決まるわ! 」
「は!」
瀬戸はウサギがいるだろう医療区画幾年かぶりの全力疾走で、飛び込むようにしてはいっていった。
そこで目にしたウサギのすがたは、なんともあられもない格好であった。
珀蓮と火煉に着ていたであろう衣服を剥かれる、そんなあるいみ乱暴で、エロティックな瞬間に瀬戸は居合わしていた。
「あ、あなたたちがそんなに飢えていたなんて……。ごめんなさい。それなりに発散させてあげる時間をあげるべきだったわ。何なら良さそうな男性のお見合いでもセッティングするけど」
「ち、違います瀬戸様! ウサギ様の服は脱がせたのですが、肝心のもう一枚が…って、そもそも瀬戸様、医療ポットに入れるには裸にして入れなければならないのはご存知ですよね! 脱がせられないのです。どう脱がそうと試みてもこの異常なセキュリティーのオムツのせいで」
白蓮は大声をあげて瀬戸に訴えた。
それは火煉も同様で、顔が真っ赤だ。
「オムツ?」
瀬戸は二人をかまうことなく注意深くウサギの身に付けるものをじっくりと見定めた。
すると瀬戸はあることに気づいた。
ウサギが身につけたオムツといえる生体強化補助スーツには、瀬戸にとって見慣れたサインが、ウサギの胸の中心辺りに刻印してあったのだ。
「これはまったく、ウサギ殿には色々と驚かされる。みんな、ここは私と兼光がいればいいから、珀蓮達は西南殿達のお世話をして頂戴。あと、この事態について軽く説明もよろしくね。もう子供は寝る時間だわ」
「で、ですが瀬戸様ウサギ様は……」
「ふふ、あなたたちウサギ殿のこと気に入ったようね。あなた達の心配はわかるけれど、ここは任せて頂戴。」
「わかりました。あの瀬戸様、ウサギ様は食事中に喉をつまらせて、私が例のジュースを差し出して喉のつまりをどうにかした時にお倒れになったんです。それだけお伝えしておきます。みんな行くわよ。」
報告を終えた彼女たちを瀬戸と兼光は見送った。
「ふう、樹雷の実のジュースをのんで倒れた…ね。変なものが入っているはずがないのだけど……。一体どういうことかしら?」
「何かのアレルギーでしょうか? 」
「わからないわ。でも唯一の手がかりをこのマークを刻んだ人がもっていそうね。」
瀬戸は右手を差し出して、ウサギの胸にある刻印を人差し指と中指で優しくなでた。
そのしぐさは妙に色気を出していた。
それはともかくと、咳をひとつつく兼光。
「瀬戸様、これは鷲羽殿の…」
「ええ、気にいった作品の何処かには必ず哲学士が刻む刻印。さて、悠長にしていられないわ、鷲羽ちゃんに連絡をとらないと」
瀬戸は慣れた手つきで、鷲羽への直通回線を開いた。
すると気の抜けた鷲羽の声が響いた。
「はーい、もしもしー。あれー瀬戸殿じゃないかい! どうしたんだい?」
瀬戸は頬をふくらませながら、鷲羽を問い詰めた。
「どうしたもこうしたも、わかって聞いているでしょ鷲羽ちゃん! ま、いいわ今は急いでるの。ウサギ殿のスーツの解除の仕方をおしえてくれない? 」
「ん? ウサギ殿を裸に剥いて何しようってんだい。」
「もう、ちゃかさないで。なんでかしらないけれど突然ウサギ殿が皇家の実のジュースを飲んだら、倒れちゃったらしいいのよ!」
それを聞いて、鷲羽は目を丸くして驚きを見せた。
そんな珍しい鷲羽の本当の驚きの顔。
それを見れただけでも、ウサギにはお礼をいわなかければならないとおもわず思った。
それをよそに鷲羽は瀬戸に問いかけた。
「なるほど皇家樹の実のジュースをのんでね……。何かしらの反応があるだろうとは思ったけど、ジュースを飲んでこの状態になるとはね。」
「どういうこと? 鷲羽ちゃんはこの自体を予想してたってわけ?」
「いや、そういうわけではないんだけどねー。まあ私がウサギ殿のためにかけたロックの先が全ての答えだと言っておこうか」
「それなら、早く答えを見たいのだけど? 水鏡がウサギ殿の異常に動揺しすぎてこっちは大変なの」
「そうかい、まあ、そうだね。遅かれ早かれ見せるつもりだった、と言うか教えてやるつもりだったからねー。まあ、ウサギ殿は気絶しているし、ウサギ殿の同意は得られてないけど裸にしてやるか」
「じゃあこっちでロック外すからちょっと待っていておくれ」
そうしてしばらくし、ロックが外れ、スーツが腕輪に変化し、ウサギの左腕に収まり、裸体があらわになった。
するとウサギのからだから湯気が立ち上り、異常に体温が上昇しているのが見て取れた。
皮膚は桜色に上気し、汗が滴り、風邪のような症状を模様しているようであった。
この熱の上がりようはどういうことなのだ? そう思ったとき瀬戸は鷲羽の怒鳴り声を耳にした。
「なーにウサギ殿の裸をなめるようにみて、手をこまねいているんだい。はやく医療ポットにいれないかい!」
それをきいて、瀬戸は慌てたように兼光に命令することなくウサギを抱え、先程まで珀蓮達が暴れながらもウサギを入れようとした医療ポットに正しくウサギをいれ、起動させた。
するとウサギの身体状態のデータが瀬戸の眼の前に出され始めた。
そこで、瀬戸や兼光はあることに気づいた。
とある場所が異常に熱を出し、脈動しながら力場を形成しているのだ。
そしてその力場はしばらくすると収まりその発行をやめて背中の痣に収まるように溶けて消えていった。
「これは、瀬戸様…」
「ええ、兼光…これは光鷹翼だわ」
「ほうほう、そこまで力を発現させていたかい。間違いなく皇家の樹の実が発動条件になったようだね。ほんとウサギ殿は興味深いね。ねー、瀬戸殿。」
「鷲羽ちゃん…これはそれどころじゃないわよ。個人で規模は小さいながらも光鷹翼を発生させられるなんて」
「そうなんだけどね。それはおいおい調べていくさ。で、それはとりあえず置いといてだ、その背中の痣じつはね、何故か私の方でウサギ殿を生体強化したら浮き出てきちゃったものなんだよ。」
「まさか、また変なことを」
瀬戸は疑いの気持ちを持って目を細め鷲羽を見た。
それに、心外だと鷲羽は返した。
「違う、違うって。というかそんなこと瀬戸殿に言われたくないよ。」
「どうだか」
瀬戸はまだ疑いを持って鷲羽をみた。
「まったく、別に特殊なことはなんにもしてないんだよ。だけどその『印』が出た。しかもウサギ殿が意識を失い、力を小規模ながら発現させた原因が皇家樹の実とは、色々と考えさせられるとは思わないかい?」
「ええ。納得はしていないのだけど、納得してあげるわ! 詳しいウサギ殿のデータは送ってくれるのでしょう?」
「出来るだけはね。ただ、時間をもらわないとどうにもならんよ。ことウサギ殿に関してはね。」
「じゃあ、それは一先ず置いておきましょう。今はウサギ殿が気を失ったとたん水鏡が異常なほど反応を見せた。これが、ウサギ殿の背中の痣に関係があるかもしれないとだけ理解しておきましょう。それでいいかしら鷲羽殿?」
「そうだね。まあ、追々調べればいいさ。実はウサギ殿の状態変化はこっちでもモニターしていてね。あ、このことはウサギ殿には内緒だよ。いつも見られてるなんて、瀬戸殿だって嫌だろう? いくら生体データを観測しているだけと言ってもさ」
「ええ、発情している時なんか思春期の男の子からしたらたまったものじゃないだろうしね」
瀬戸は若干頬を染めて答えた。
それにくつくつと笑う鷲羽。
「そうだろう? で、どうするね瀬戸殿?」
「そうね、このウサギ殿の痣は地球ではなんの意味も無いだろうけれど、ここ、宇宙ではそうはいかない。たとえ、この痣になんの力も無いとしてもね。鷲羽ちゃんがある意味原因としても、天然物の痣ですもの。だだあざを隠して、『はいお終い』って解決するわけにはいかないのよね。ウサギ殿は仮に色々な成果を目立つ形で立てている。となると目立たないように生活するなんて無理でしょうね。でも、そうはいってもこの痣を周りに見せるわけにも知らせるわけにもいかない。さて、いったいどうしたものかしら? 」
「まあ、あざを隠すだけなら、ウサギ殿に渡した私のお手製のスーツでどうにでもなるさね。ウサギ殿に詳しく聞くといいよ。それにしてもウサギ殿は宇宙に上がってそうそうなにかやらかしたのかい?」
「ええ、とびっきりのをね。まあ、ウサギ殿だけではないのだけど、しっている? 地球からウサギ殿と一緒に宇宙に出てきた山田西南という少年を」
「ほう、山田西南ね。そういえばちょくちょくこっちの柾木家の方で話題に上がっている子だったけね? 私は面識はないんだけどね」
「ふふ、その程度でも知っているなら都合がいいわ。あとでまとめて今回の件の報告書をそっちに送っておくわ」
「ありがたいねー。じゃあその件はこっちに報告が来るまでおとなしく楽しみにしてようかね。」
「あら、おとなしくなんて鷲羽ちゃんらしくない」
「そうかね? まあそうかもしれないね。でも、今はウサギ殿がこっちに残したデータを色々と分析するのに忙しくってね。」
「ふふ、地球の方でもウサギ殿は色々やったのかしら?」
「ん? 大事件というほどのものでもないさ。」
「あら、隠すの?」
「この件に関しては私からというよりも本人に聞いておくれ。ウサギ殿の出生に関することだからね。」
「わかったわ。じゃあ、それはそれとして、ウサギ殿の今の状況をどうにかするうまい手はないかしら鷲羽殿?」
「そうだね。取り敢えずは『様子を見る』の一択だろうね。最悪私が出張るよ。」
「ほほ、天下の白眉鷲羽がいち少年のためにそこまでするとはね」
「なーにいってるんだい。瀬戸殿だってウサギ殿を悪いようにはしないだろう」
「そうね。彼には海賊討伐で恩があるようなものだし、無碍にしたら林檎ちゃんたちに殺されるわ。…色んな意味で」
「ほぉー、海賊討伐ね。じゃあその件のデータ楽しみにしてるよ。」
「ええ、じゃあ何か変化があればすぐにまた連絡するわ」
「そうしておくれ。私の方でもウサギ殿をモニターしておくからさ」
そうして通信は切れた。
「瀬戸様いかがなさいますか? 」
「兼光…そうね。取り敢えずはウサギ殿が意識を取り戻すのを待ちましょう。」
そうして、今日という大変濃厚な日が過ぎていった。
お久しぶりです。
元気が出てきたので昔のプロット掘り起こして書いてみました。
いろいろ作った設定忘れていたので、自分の小説初めから読んでみましたが、直したいところがちらほらと……。
でも直していたら先に進めないので、前に前にと書いていこうと思います。
一話一話更新するたびにクオリティーが上がっていたらうれしいです。
そういえば天地無用!魑皇鬼4期がOVAで始まりましたね。
初見さんは見てもついてこれない内容なので、天地無用!魑皇鬼1期から3期プラスGXPと異世界の聖機師物語を復習してください。
かなりの内容になるので、長期休みを利用して見ることをお勧めします。
あ、TV版は見なくても大丈夫だと思います。
そもそも設定がちがいますから。
ただ、劇場版は見たほうがいいです。
特に天地の母親が大活躍する話のやつです。
ではまた、続きはそんなに待たせないようにUPできればいいな~(;´Д`A ```