Muv-Luv Alternative 紫の白銀   作:Shikanabe

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09 東側陣営

1991年 5月末 重慶

 

ここは統一中華戦線軍重慶要塞。武たちは帝国軍本体より先行して基地入りしていた。

 

「統一中華戦線」

 

さて、この世界に中国と称する国は二カ国ある。即ち中華人民共和国と中華民国である。両国の歴史は数十年前まで遡るが、どちらの国も日本帝国と良好な関係を築いてきたかといえば、そうではない。かつての大戦時の敵国であり、中華人民共和国においては冷戦構造の最中、日本帝国の敵国であり続けたのだから。

無論、BETA大戦が始まって以降、その対立も緩和されてきてはいる。特に中華民国ー台湾ーとの関係はかなり改善してきているといっていいだろう。互いに後方国家であり、ある程度の経済交流がある。更に西側諸国という意味でもだ。しかし中華人民共和国とはそう簡単にはいかない。冷戦も終結したわけではない。両国家間の感情面における対立は容易になくなるはずもなかった。

そしてそれは、市民感情でレベルでは明白で、やはりそういうところに如実に表れるのであった。

 

では、統一中華戦線に話を戻そう。

統一中華戦線はその名の通り、「二つの中国」が協力して対BETA戦線をなすというものだ。国家の統一ではない。中断した冷戦下の世界情勢は一つの中国を望まなかったし、両国にしても完全な統合は、自国が主導権を握っていなければ望まないだろう。しかし反目し続けていてもそれはBETAに飲み込まれる結果となる。自国の消滅か、不俱戴天の仇と手を組むこと。どちらも決して望むところではないが、どちらかを選択せねばならない。

そういった状況に陥った故、極めて消極的に、折衷案として選択されたのがこの緩やかな統合であった。

 

とはいえ、政治体系から始まり、ありとあらゆることが違う両国。その統合は容易ではなかった。特に対BETA戦を担う軍部の統合はなおさらだ。軍隊系が違えば、運用する兵器も、その運用姿勢も異なる。

それは両国軍の統合運用、引いては統一中華戦線軍という一個の軍隊の運用において、大きな問題であり続けている。

しかし、現実としてのBETAの脅威は刻一刻と迫ってきていた。もともとBETAの脅威あってこそ成立する組織だ。当然両軍の統合運用を開始するまでに時間がかかればかかるほど、前線では兵士が死に、民が喰われ、文明は破壊される。彼らに時間的猶予などなかった。

故に彼らは選択する。現地で可能な限り擦り合わせを行わせつつ、階級制度や組織体系を可及的速やかに統一する。このある種官僚的な統一は、周辺諸国の予測を裏切って、比較的速やかに行われた。

 

そもそも話がこじれていたのは、歴史的に共産党と国民党が相容れないからだ。第二次大戦後、大陸での支配権は共産党が確立した。国民党は台湾に追いやられ、そこで国連常任理事国として発展していくことになる。後に常任理事国は共産党となるが、それはBETA云々ではなく、中国本土の政治、経済、軍事的影響力の拡大、米ソ冷戦下における政争も含んだ末の決定であった。

 

だから共産党の発言力が強く、援助する側ではあった国民党との齟齬が生まれる。

 

しかしその状況はすぐに変わった。予想を超えるBETAの圧倒的暴力は、中国共産党の存亡の危機となった。80年代後半にはソ連が中国領内に送っていた援軍を撤退させ、その状況に拍車がかかる。

更に台湾の発言力は向上する。日本帝国やアメリカ合衆国による経済援助は台湾経済を発展させ、台湾資本はフィリピン等アジア諸国へも進出した。戦争を行う上で経済力は必要不可欠である。内陸部を侵され、経済力が日に日に減衰していく共産党に対し、日に日に増していく国民党。

そしてついに共産党は国民党の影響力をもしできなくなる。そうして妥協点は共産党側が大きく譲歩することで見いだされた。

 

こうして発足し、軍隊の統合運用を行っている統一中華戦線だが、いまだ戦線は大陸の内部にあり、最前線の主力は依然として共産党の中国人民解放軍が務めていた。

そして、場面は武たち帝国軍大陸派兵部隊の先遣隊が重慶要塞入ったところに移る。

 

要塞スタッフに出迎えられた武達一行は、要塞内の日本帝国に貸し与えられる区画へと歩みを進めていた。

 

「視線を感じますね……」

 

そう武は言う。

確かに一行には注目が集まっていた。救援に来てくれた友軍に対する敬意や、単に国連軍以外の他国軍が珍しいというものも多いが、悪意や敵意の視線もあって。

そんな視線を向けられて、武の中に生まれる黒い気持ち。

我々は救援に来たのに関わらず、と。

来てやった。そう上から目線で言ううもりはないし、少なくとも武にはそんな気持ちはなかった。しかし、それでもここまで露骨に敵意ある感情をぶつけなくとも良いのではないか。そう思ってしまったことは、武の年齢を考えなくとも仕方のないことだったのかもしれない。

 

いや、武家のものとして、人間として、そんな気持ちであってはいけない。

武はそう考える。未だ武は若い。大人と比べて、経験してきたことの量ははるかに劣っているだろう。それでも一つ一つの濃密な経験は、この年代の者としては飛びぬけていた。

 

戦術機の新型OSの開発を行った。

未だ完全な完成には至っておらず、実戦経験もこれからだ。しかしその開発で関わった大人たちとの経験。煌武院家の後援による開発は、政治的要素を多分に含み、それもまた武の経験となった。

 

煌武院悠陽と出会った。

彼女は武家の頂点の一角に生まれ、その中で苦しんでいた。彼女には生まれながらに重い責任が課せられた。ああいう性格だ。それが嫌だとは思っていないだろう。それでも、一個の個人としてではなく、煌武院の娘として扱われる重責がまだ子供の悠陽にとってどれほど大変なものであるかは察して余りある。

そんな彼女と出会い、少なくない程度には話した。だからこそ感じるものがあった。彼女の行為一つ一つに付きまとうのは「政治」だ。

 

だからこそ、武は「人類は滅亡の窮地に立って、真の意味で協力し合うことができる」と思うほど子供ではなかった。滅亡の淵に立っても、そしてが同じ国家の中の、同じ民族であっても、あるいは同じ組織の人間であっても反目しあう。それが人間という社会性生物だ。

そんな事例は歴史上いくらでもあって。

そんなことは武にもわかっていて。

それでも武は「人類の協力」というきれいごとをどこかで望んでいて。

 

それはこのくらいの若者がよく思う理想論。それでも武はそんな年相応の考えを、心のどこかで信じていたのかもしれない。

武の感情の出どころはそんな気持ちだった。単に敵意をぶつけられた故の反発ではない。そんな理想を打ち崩されたかのように感じたこと。

 

ひそひそと話し声が聞こえる。中国語の声は武には解らない。それでも伝わってくるものはある。その敵意に反応したものもいるようだ。少しずつ悪意は広まっていく。場の空気が伝染し、険悪な雰囲気が場を支配する。

統一中華戦線の兵士が、帝国軍の兵士が、ピリピリとした空気を纏う。

 

「皆、落ち着け。我々はここに喧嘩をしに来たわけではない」

 

一触即発か、そう思われたときに声をかけたのは巌谷。

戦術機開発に長く携わってきた巌谷は、より技術が進んでいる米国にも渡航経験がある。どんなに時代が変わり、どんなに反差別的な法律が定められても、人種差別は根深い。巌谷もそういった経験は多くもっているのだろう。見知らぬ相手や周囲の悪意や敵意に対しても全く動じた様子はない。

 

その声に帝国軍の兵士たちは我を取り戻す。我々は何をしに来たのか、それを思い出すことによって。

 

しかし統一中華戦線側の兵士はそうではない。巌谷は日本語で声をかけたから、自分たちにはわからない。更にその声によって敵意を隠した帝国軍の兵士たちを見て、自分たちを歯牙にもかけず、すました顔をしているとでも思ったのだろう。そうして苛立ちを高めていった。

帝国軍人は兎も角、統一中華戦線軍人はやる気がある。

 

(どうしたものか)

 

武もまた考える。どうしたらこういった場合に対処できるのか、と。

しかし他国の人間から一方的に敵意をぶつけられたことはない。

そんな時、統一中華戦線の軍服を着た軍人が現れた。階級章を見るに、おそらくは要塞スタッフの中でも高位のものなのだろう。その人物の登場により、ようやくこの場は収まって、武たちは帝国軍用に用意された区画に入り、久方ぶりの休息をとることができたのである。

 

その夜、有志による歓迎会が開かれた。それは帝国軍ー日本人ーに対して比較的嫌悪感を抱いていないもので、これからともに戦う仲間であるという意識を持つ者たちによって開催される。

多くの食料が並び、少しの酒と少しの菓子ーチョコレートなどーが並ぶ。前線国家ではない日本から来たものからすれば、豪華とはいいがたいパーティではあったが、それでも気持ちは十分に伝わる。そんな歓迎会であった。

 

巌谷と副隊長の桜井が出席しないということで、武はこの場の日本側の最高位軍人として参加せざるを得なくなった。まあ無礼講のようなもの、衛士から整備兵、開発スタッフも参加したそれに階級差などあまり関係してはいないのだが。

 

統一中華戦線の軍人たちの中から一人の男が歩いてくる。日中、国籍を問わずその場の者たちの視線が集まる。

 

「それでは、今日からともに戦う仲間たちを歓迎して……乾杯ー!」

 

その男が発した音頭が会場に響き渡る。その声に続き、参加者たちが陽気な声で答える。会場に乾杯の声が響いた。

各人が手に持つ酒はみるみると減っていき、会場にあったつまみもまたなくなっていく。統一中華戦線の軍人たちが加給品をはじめとして奔走して手に入れた食料たちはあっという間に皆の腹の中へと消えていく。

会場のボルテージはだんだんと高まっていった。

 

「あんたは随分と若いんだな」

 

統一中華戦線の兵士が近づいてくる。階級章は少尉、衛士だろうか。

振り返った武の胸を見て、その兵士は驚きの声……にもならない音を出す。

 

「これは中尉殿であらせられましたか。これは失礼しました」

 

ある程度まで近づくと、敬礼をしながらそう述べる兵士。

 

「そんなに畏まらなくてもかまわない。無礼講、なのだろう?」

 

このような場で上下関係を無駄に意識するほどしらけることはない。最低限の敬意をもちつつも、ある程度砕けた会話ができること。それがこういう会の楽しみ方だ。そして何より、武はあまりこういった場で高位を振りかざすことは好まない。

 

「はっ。ありがとうございます」

 

「中尉殿は、この御年ながらもすでに帝国本国である功績をたてられたんだぜ」

 

会話の中に武たちの中隊の衛士が割り込んでくる。気軽な態度。まさにこれこそ宴会を楽しんでいる男という風貌だが、流石に些か無礼すぎるような気がしないでもない。

 

「功績……」

 

「ああ、それはな……」

 

まずい、と武は感じる。中隊の仲間であるこの衛士も研究開発の部門に所属する者。それ以前に軍人だ。組織の人間として機密については良く理解しているだろうし、ましてや機密漏洩を行うことなどあろうはずもない。

それでも大分酒が入っている様子。念には念を。武は口をはさむことを決めた。

 

「少尉、あまり口にするなよ」

 

武は続ける。

 

「すまないが、軍機が絡むものでな。あまり詳しくは説明できないことは理解してほしい。まあそれほど大したことはやっていないさ。多少開発に参加していたくらいだ」

 

慎重に、言葉を選びながら説明する。何をどこまで話せるのか。帝国と斯衛軍の機密を守りながら、ある程度は納得してもらうために。

とはいえ、そんな心配はいらないものだったことかもしれない。

 

「なるほど、そういう経歴が……大陸(こっち)にも若い衛士はもう珍しくはないのですが、まだ最前線ではない日本から来た中では珍しいのではないかと思いまして……」

 

そういう統一中華戦線軍の少尉。その言葉は上官に大しての敬意は勿論だが、年長者としての心配か、はたまた大陸で戦争を経験してきたものとしての配慮か、そういったものが見られた。はじめの言葉も見かけは荒かったが、実際には帝国派遣軍の中に一人圧倒的に若い武を気遣っていたのかもしれない。

 

「やはり大陸の戦況では年少者も戦争に駆り出されているんだな……話には聞いていたし実際この基地見てすでに何人か見ているけれど」

 

そういったのは帝国軍の少尉だ。なお武はこの少尉の態度を咎めることはしなかった。

 

「ああ、知っているとは思うが徴兵年齢は相当引き下げられてるな。この要塞に三日もいればわかるが、まだまだ中学生くらいのやつらも多くいるぜ。女もな」

 

統一中華戦線軍の少尉が苦虫を嚙み潰したような顔で言う。実際、彼は不服に思っているのだろう。女子供まで最前線に送られる現実を。

当然その感情は武たち帝国軍側にも伝播する。帝国とてそうなり始めるような議論はある。そして何より日本が最前線に来る日も近いと肌感覚でわかってしまうから。帝国が大陸と同じになるのはいつか……そう遠くはない未来であろうとわかってしまうから。

 

「しかし、それは何とも難儀な世の中ですなぁ……我々が戦っている理由の一つは、そういう若者を戦場に出さないためってのもあるものだが」

 

そう会話に入ってきたのは壮年の整備兵。整備兵らしい整備兵、壮年で経験豊富なおっさんというやつだ。武たち衛士は基本的に任官すると少尉からスタートとなる。階級は衛士の方が高いが頭が上がらない、敬語を使わなくと誰も咎めない、そういう存在だ。

そんな彼が話に参加して述べる。「若い人を戦場に送りたくない」という話。武は巌谷から似たような話を聞いたことを思い出す。整備兵の視線は武に向いているような気がして、間違いなくその感情の対象には武も含まれていて。少しばつが悪いような気持ちを感じながらも、武は発言することはない。

 

「確かに、それはわかる……俺もそんなに歳をとっているわけではないが、まだ小さな妹がいてな……ちょうど徴兵年齢なんだ」

 

「俺にも妹がいるんだ……帝国はまだ女子の徴兵は始まってはいないが、時間の問題だと思うとなぁ……」

 

統一中華戦線の兵士のそんな嘆きの声を切り口に、帝国軍の兵士が続く。会場の雰囲気はどんどん暗くなっていった。

武は考える。この空気をどうやって打破しようかと。しかし、幸か不幸か、そんな会場の雰囲気は一瞬で霧散することになる。

 

「おいおい、なんだこの雰囲気は。帝国軍は宴会の盛り上げかたもしらないのか?」

 

明らかに帝国軍を馬鹿にした言い方。蔑んだ口調。明確な敵意。武たちが到着した際、敵意を向けてきた男だ。

雰囲気が更に悪くなる。

 

「なんだ?なんか言えよ?」

 

更に煽る。

 

「おい、いきなりきてそれはなんだ」

 

統一中華戦線の兵士から怒号が飛ぶ。当然、武たちに親近感を持っているものもいるのだ。それはこの歓迎会が証明している。

 

「ふん、日帝ごときの手を借りずとも、俺たちだけでどうにかできるんだよ……」

 

自分の仲間たちの中にも武たちに与する者がいる。そう考えたのだろうか。男の声に苛立ちが混じる。男のこぶしは強く握りしめられ、今にも爆発しそうな雰囲気だ。

 

「まて、それができないからこその現状だろう」

 

そういったのは別の統一中華戦線の兵士だ。武たちはあずかり知らぬことだが、実はこの兵士、台湾ー中華民国ーの出身であった。

 

「俺たちはこういう協力体制だから言わなかったが、お前たち共産党政府が国連軍の派遣を拒まなければ今みたいにはなっていなかったはずだ」

 

その兵士は続けて糾弾する。中華民国人からすれば、中華人民共和国は敵国だ。この協力は必要だということ、もとは同じ民族であること。そんなことはわかっていても、全く違う政治体系や思想の下で生きる人々の感情的摩擦は存在する。その気持ちが溢れたのだろう。

 

「ふん、偶然最初が中華人民共和国だっただけの話だ。大陸から逃げ出したやつらが好き勝手言いやがって」

 

対立は激化する。

 

「何だとっ……」

 

売り言葉に買い言葉。

統一中華戦線と日本の対立という構図から、統一中華戦線内部での対立構造へと変化していた。

武の階級は中尉。隊長である巌谷や副長以下武以外の各小隊長が不在、帝国大陸派遣軍の高官たちも不在。この場の帝国側の最高階級者として何をすべきか……何ができるのか……

 

「それまでにせよ」

 

武が声を張り上げる。

 

「統一中華戦線軍内に複雑な事情があることは承知している。私たちがそれに踏み込むつもりはないが……其方、我々帝国軍に思うところがあるのだろう。述べてみてほしい」

 

この対応が正しいものであったのか、武にはわからない。冷静でない相手にこんなことを言っては火に油を注ぐだけかもしれない。

 

「てめぇは……?ずいぶんわけぇじゃないか?そんなのが中尉?」

 

男は武を睨みつける。

 

「今この場にいる帝国軍兵士の中で私が最高階級だ。帝国軍に話があるなら私が聞こう」

 

武も目は離さない。睨みかえす。舐められないためにも。

 

「チッ、こんな奴らに俺らの命を懸けなきゃいけないのかよ」

 

「それは我々帝国軍の能力に疑問があるということか?」

 

冷静ではないものを相手にするとき、自分が冷静でなくなってはいけない。そんなことは武にもわかっている。それでも自分の所属する帝国軍が貶され、冷静さが少しづつ失われていった。

 

「その通りだな。実戦経験もないおこちゃま共が、足を引っ張られたら困るんだよ」

 

だからといってそれが帝国軍や日本を憎むほど目の敵にする理由になるのだろうか。そんなことを考えながらも、武はどう返答しようか考える。

 

「確かに我々帝国軍が大規模な大陸派兵を行うのは今次が初めてだ。私自身も実戦の経験はない。しかし、我々帝国軍は他のどの軍にも練度で負けるつもりはない。

とはいえ、言うは易く行うは難し。帝国軍が実際どの程度戦力になるか、疑問に思う気持ちはわかる。その点に関しては我々の働きを見てもらうしかない。

この場にいる帝国軍人諸君。諸君らもだ。今まで関りもなく、我々に実戦経験はない。経験を積んだ者たちに実力を疑問に思われることは仕方があるまい。では我々はどうするべきなのか。我々は練度が高いと言い返すことか。自らの主張を繰り返すことか。それは否である。謂われなきなき誹謗中傷をうけたとしてもだ。我々は黙してその姿勢で示すのみだ」

 

軽い演説じみたことを行った武。それでもそれは武の本心ではあった。それが適切かどうかは別問題だが。

 

武家に生まれ、武家社会の中で育った武。周囲は武家出身のものやその関係者ばかり。紅蓮や月詠、巌谷……武が師事した人物や上官となった人物もまた武家らしい……かどうかは兎も角、真に一本信念を持っている人物であった。当然そんな中で育った武の考え方も武家の一員らしきものだ。

質素倹約。

高位は高徳を要す。

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)

それが斯衛軍、そして武家の考え方。勿論すべてがすべてそういた考え方をしているわけではないが、それでも城代省以下武家の支配的な考えだ。例にも漏れず、武もだ。

行動で示すのみ。

その考えは武にしみついているものだ。斯衛軍の中に入り、その若さは異例であった。もとよりその実力で通常より若くして入隊した経歴がある。そこで大切なのは実力と実績だ。それも斯衛の家柄など通用しない外国が相手。その重要度はさらに高くなる。

 

武の言葉が会場に響いた。帝国軍人にも統一中華戦線軍人にも、静寂が広がる。何やら考えているような様子を皆が見せている。

 

「ちっ、白けさせやがって……まあいい、せいぜい足引っ張るんじゃねぇぞ」

 

喧嘩を売ってきた男が苛立ちを隠さず踵を返す。

何か思うところがあったのだろうか。この対応は正しかったのか。

武たちの重慶要塞初日はそんな不安と、歓迎してくれるものたちへの期待に混ぜ合わさった一日となった。

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