Muv-Luv Alternative 紫の白銀 作:Shikanabe
1991年 五月末 重慶
重慶に派遣された帝国軍に貸し与えられた一角。総司令本部にほど近い一室に、武たち研究開発団第一中隊のミーティングルームがあった。そこに集められていたのは中隊長たる巌谷を筆頭とした12人の衛士たち。
全員が強化装備に身を包み、少し緊張した顔つきで集合していた。
「よく集まってくれた」
そう切り出したのは巌谷。続けて言葉を発する。
「全員、戦闘準備はできているようだな。先ほど司令部より通達があった。『BETAの侵攻を確認』だそうだ。これに伴い、我々は統一中華戦線軍、大韓民国義勇軍とともに重慶西武に防衛戦を構築。BETAどもを迎え撃つ。我々研究開発団にも出撃命令が出た。では、作戦の概要を説明する」
衛士たちの前のモニターが変わる。写っていたのは重慶およびその周辺地域であり、更にBETAの進軍予想路が記されている。
ここで重慶における各国軍の配置を説明しておこう。重慶基地は喀什への降下時より建設が始まった、中国国内最大規模の基地の一つだ。欧州である程度の効果を発揮した、東ドイツ軍の要塞戦、オーデル・ナイセ川流域絶対防衛戦を参考にして作られている。
重慶市の政府所在地がある南西の渝中区、この長江と嘉陵江に挟まれた狭い地区に統一中華戦線の重慶防衛軍GHQが置かれる。*1その周辺各区には砲撃陣地が複数存在。ただし実際の戦闘はよりBETA支配地域に近い場所で行われる。嘉陵江に渠江および涪江が合流する合川区。ここに複数の要塞陣地を形成。前線の地雷原と地の利を生かし、キルゾーンを出現させ、要塞陣地からの支援砲撃で叩く。
この要塞戦は地の利を生かすと言っても山脈などを利用したオーデル・ナイゼ川流域絶対防衛戦ほどではない。戦力とて、統一中華戦線の九割を投入するわけには行かない。しかしより時間をかけて作られたこと。西側の協力もあったこと。重慶以西への核攻撃の許可など、寧ろ防衛力ならばオーデル・ナイゼ川流域絶対防衛戦を上回るだろう。
この要塞戦の主要部隊は要塞戦スタッフ、支援砲撃部隊以外では統一中華戦線の保有する戦術機甲10個連隊だ。*2それに加えて大韓民国義勇軍、ベトナム義勇軍の各2個戦術機甲連隊。そして到着した帝国陸軍大陸派遣軍である。大陸派遣軍の重慶市展開戦力は第七師団(戦術機甲3個連隊)および研究開発団(戦術機甲1個大隊)である。なお、第七師団とともに大陸派遣軍の中軸を担う第九師団は別地域に展開中だ。
このように重慶要塞線は戦術機甲16個連隊という、ユーラシア全土で見ても稀に見る規模で構築されているのである。
「BETAは合川区の西部から侵攻、その規模は未だ不明だが師団規模を優に超える大規模侵攻ではないかという話だ」
ざわっ……中隊衛士の間にも動揺が広がる。
「師団規模とは……初陣の我々に大盤振る舞いですな。感謝して殺し尽くさねば」
「「「ははは」」」
そう発言したのは中隊の副長である桜井大尉。中隊第二小隊長も兼任する衛士で、巌谷の二期下。元は富士にいた精鋭で、巌谷、武と同時期に赴任した。後輩の面倒見もよく、今回のように中隊内の空気が悪くなった時に軽口を言って緊張を解いたりと中隊に必要不可欠な存在である。
「その通りだ。初陣でのBETAキルスコアを存分に伸ばしてやれ」
巌谷も桜井のそれに乗っかる。それはわかっているからだ。中隊衛士が緊張していることを。
研究開発団第一中隊、巌谷や桜井、武らを筆頭に実績のある精鋭ばかりだ。機体も優秀。中隊でこの部隊に勝るものは世界を見渡してもそうはいまい。しかし決定的に不足しているものがあるとすれば、それは経験。どれだけ優秀な衛士であっても初陣とは緊張するもの。適度な緊張はプラスに働くが、過度な緊張は命取りだ。過度な緊張状態ではどんな優秀な衛士でも隙が生じる。そんな状態を避けるのは部隊長の重要な責任なのである。
「ではミーティングを再開するぞ。敵BETAの数は膨大、しかしここではすでに数回、乗り切っている数だそうだ。それらと同様の戦略をとる。
まず前方の突撃級を要塞戦の誘導路へと誘導、側面および背面から子らの攻撃によってこれを撃破。その間、要塞陣地および後方の砲撃陣地からAL弾を投入する。そして重金属雲濃度が90%を超えた段階で光線級吶喊を行う。光線級殲滅後には砲爆撃による面制圧を実施、BETAどもを駆逐する」
説明に応じてモニターに映された戦域マップが変化する。
「これらに作戦において、突撃級誘引、撃破をフェイズ1、光線級吶喊をフェイズ2、光線級排除後をフェイズ3とする。
我々の出番はフェイズ1、はじめからだ。要塞戦全面の左翼を我々帝国軍が担うことになる。
なお中央、右翼は統一中華戦線、大韓民国義勇軍およびベトナム義勇軍の連合部隊がそれぞれ担当する。今防衛戦において帝国軍が供給する戦術機戦力は我々をのぞいて一個大隊のみ。これは第七師団の重慶要塞展開が十分に間に合わなかったためだ。我々はこの限られた戦力で防衛しなければならないということを留意せよ。
重金属雲展開完了次第、統一中華戦線一個戦術機甲連隊規模部隊が各自に吶喊開始、以降我々の任務は撃ち漏らしのBETAを要塞戦に近づけさせないことになる。我が中隊の展開位置については配布した資料に掲載してあるので確認するように。装備は演習通りでするが、補給は随時行う。武器を大切にしすぎてKIAなど笑えん真似はするなよ。
概略は以上だ。質問はあるか?」
「質問よろしいでしょうか」
まだ若いーと言っても武ほどではないがー少尉が発言の許可を求める。
「構わん、言ってみろ」
その声を聞き、少尉が発言する。
「我々の任務は通常、どのくらいの戦力で行われるのでしょうか。一個大隊と一個中隊は十分な規模なのでしょうか?」
「……我々の任務の適正部隊規模か。通常複数個大隊を当てるようだ。実際今回の作戦でも中央、右翼にはその程度の規模の部隊が出撃する予定だ。しかし私は問題はないと考えている。スコア的にはXM3搭載第三世代概念実証機に乗る我が中隊は第一世代戦術機一個大隊に勝るとも劣らない。それは貴官らが日々の行動で証明している。それを実戦というこの場で、再び証明すればいいだけの話だ」
「はっ、了解であります」
巌谷は少尉の答えを聞いて満足げに頷き、中隊員たちを見渡す。
「他に何か質問のあるものはいるか」
問いかけに、返答はない。
「ではブリーフィングを終了とする。数時間後には出撃命令がでるはずだ。一時間以内に出撃可能な状態で機体待機だ。興奮しすぎて早まるなよ。では、解散!」
巌谷はそうブリーフィングを締めくくった。
重慶要塞は捏造です。描いてから気づいたんですけど、WIKIで防衛戦構築が1992年となっていました……
戦力については割と適当です。
原作の甲二十一号作戦のブリーフィングでウイスキー部隊(機甲4個師団+戦術機甲10個連隊)で武が「帝国軍は総戦力の半分近くを提供するのか」と驚いていましたから『本土防衛戦終了後の』日本軍戦力は機甲8個師団+通常師団複数(戦術機甲20個連隊)規模だと判断しました。本土蹂躙前ならば人口、経済力の面から言って更に増えるでしょう。
では中国軍はどうか。BETAがはじめに落着した喀什はじめ、大戦初期〜中期の中国国内戦は焦土化戦術を使ったといえども人口密集地帯は健在。残った全てを戦争へつぎ込んでいる事から、数だけは甲二十一号作戦時の帝国軍を超えている、と判断しました。
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