Muv-Luv Alternative 紫の白銀   作:Shikanabe

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13 初陣後

HQから作戦がフェイズ3へと移行する事が通達されたあと、爆撃機、地上部隊の連携した面制圧は圧倒的な戦果をあげた。実際、これによってBETA群のおよそ八割を撃滅。更に一時間程度の殲滅戦を経て、残存BETA群は撤退。要塞陣地近郊にBETAの影は死体だけとなった。

これによって要塞は大きな被害を受け、特に戦術機部隊の損耗は甚だしかった。光線級吶喊をした部隊だけではない。突撃級の誘引部隊、更に後方の撃滅部隊にも重慶要塞建設以来最大の損害を被ったと言っても過言ではないだろう。この戦いでこの日戦闘した戦術機部隊の実に七割以上の損耗を出した。要塞戦戦術機部隊は壊滅。この日より重慶要塞戦術機部隊は再編成を必要とされることになった。また要塞陣地そのものにも大きなダメージがあり、戦力は六割程度にまで減少した。

この日襲来したBETAは当初予定の師団規模を大きく逸脱する要塞史上最大の攻撃とも言われるほど、大規模なものだった。要塞線の戦力が大きく削れてしまったのも無理はないだろう。最も、仕方がないからといって「守れません」では済まないのが軍人の、そしてBETA戦の残酷でかつ大変なところでもある。

 

ー閑話休題ー

 

さて、そういう経緯で大量の死者がでた今次防衛戦であるが、特に武たちが助けに入った部隊の損耗率は相当だった。元々連隊だった戦術機部隊は最終的には一個中隊にまで減った。その損耗率は非常に高く、戦場の悲惨さを如実に表していた。とはいえ、流石に最前線の部隊だからか。彼らの顔に多少の影はあれど、それが多少であることこそBETA戦争を経験している証明だろう。彼らの関係者たちの間では防衛戦勝利の祝賀会が執り行われていた。

 

前線では珍しくなった酒。いつもの軍用レーションよりは多少ー合成であることに目を瞑れば、随分とーまともな食事とつまみ。

男も女も、年寄りも若者も、衛士も整備兵も。階級差だって飛び越えてはしゃぐ。

それは今を生きているものだけの特権で、死んでいった者たちへのある種の手向け。

 

武たち中隊は全滅という言葉が脳裏によぎった彼らを救った英雄として、このパーティーに招かれていた。同じ地獄を戦った戦友として。勿論武たちが助けたもう一方の部隊、帝国軍部隊も招待されている。

巌谷と桜井はまだやることがある、と言って参加しておらず、武はクレイン中隊衛士として最高位であった、ということも追記しておこう。

 

「おっ、英雄どのが来たぞっ!!」

 

そう大声をあげたのは統一中華戦線軍の衛士。武と会話したことはなかったが、先の作戦に参加していたのは間違いないだろう。そんな男の声に全体がさらに盛り上がる。自分たちの命の恩人であり、戦友。そこに国や人種、陣営での対立はー少なくともこの場で表すものはーなかった。

 

「あんたらがあの化物機の衛士か!俺はあんたらのおかげで助かっ……」

 

「あの機動どうやってんだ?あんたらすげぇよ」

 

「俺は整備班なんだが、機体は大丈夫なのか」

 

「私もあの場にいた衛士としてお礼を言わせて欲しいの」

 

一人の衛士が声をかけてくる。

それをきっかけに、満水のダムが決壊したかのごとく怒涛の質問責め。武の、衛士たちの周りに人垣ができる。

 

「おいおい、俺が先に声をかけたんだぞ」

 

「はぁ?あんたなんかより私が話しかけた方が向こうも嬉しいに決まってるでしょ?」

 

「なんだとテメェ」

 

どこからか始まる喧嘩。それに対する野次と笑い声。喧騒はより大きくなり、会場を包む。戦闘は終わった。それを実感させる喧騒だった。

 

ーーーー

少し立って、場面は移る。飲み疲れて酔い潰れたのか、戦闘の疲れが出たのか、参加した皆が眠っている。夜風に当たっていた武の背後から話しかける声が一つ。

 

「少しいいかね」

 

「大尉!?」

 

声をかけたのは李章鴻大尉。武たちが救援に行った際の統一中華戦線戦術機部隊の指揮官だ。

 

「失礼した。李章鴻大尉だ。白銀中尉だったな?救援、改めて感謝させて欲しい。あの機動は見事だった」

 

「失礼しました。白銀武中尉であります。此度の防衛戦、戦線が崩壊しなかったのは殉職された方も含めて、大尉方の奮戦の結果でしょう。私がなしたのは微々たることにすぎません」

 

「ふふっ。そう謙遜するものではない。隊を率いるものが圧倒的な戦果を出す。その事実は部下たちに安心と信頼を与えるものさ」

 

李が続けて言う。

 

「最も、強さだけでは部下はついてこないがね」

 

その言葉は少し軽く、それは武への気遣いだと思われた。あまり説教臭くならないように、と。

とはいえ、それがどんな意図で発せられたものにせよ。武にとっては貴重な実勢経験豊富な、また指揮官としての経験も多くあるだろう人物からの助言だ。感謝こそすれ、無碍にすることなどありえない。

 

「はっ。ありがとうございます。大尉のご助言、確と胸に刻み込み、今後の自分に活かしていく所存です」

 

「日本人というのは本当に礼儀正しい。君もそれに違わず高潔で、武士らしく誇り高いようだ。まあ礼儀については我が国も負けるつもりはないが」

 

関心したように李がいう。戦闘時の緊張感からはかけ離れた穏やかな口調で。

 

「我々日本人の間に流れている礼儀の精神。それに大きな影響を与えたのは儒教であり、その祖は孔子。中国大陸から伝播したものです」

 

「儒学か……BETAどもに我々と会話できる知性があれば、世界は大きく変わっていただろうにな……」

 

李が呟く。それは話が通じないという現実に対する憂いで、嘆きだ。世界の最大人口保有地域である中国大陸が最初に戦場になったことは、より多くの人命を奪う結果になっただろう。それが遅かれ早かれという問題となったとしても、その事実は大きい。

世界人口の数十%はすでにBETA禍によって命を失った。すでに中国大陸でも数億人の死者が出ている。中華人民共和国の一員として、祖国を憂う発言をするのは当然だ。いや、それ以上に数多くの実戦を経験し、数多くの仲間を失ってきたからという理由が強いのかもしれない。小さな声にも関わらず、その言葉はとても重く、深かった。

 

「天の時、地の利、人の和……」

 

李が続けて呟く。

 

「孟子ですか……?」

 

「その通りだ。しかし彼奴らは何一つとしてそれをもっていない……」

 

李は怒りをこらえながら言う。ただBETAは人類を殺す。仲間を、友人を殺されて、BETAを何度殺してもそれ以上の物量で押し返してくる。

何よりたちが悪いのは話が通じないことだ。そもそも知能があるのかすらわからない、それがBETAだ。政府の無策や失策に怒りをぶつけるのは簡単だ。彼らも同じ人類なのだから。対してBETAに恨み節を放っても何の意味も持たない。ただ空しくなるだけだ。

 

「だがな、中尉……だからこそ私は示したいのだ。人の和こそ、最も強いのだと。

天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず。人の和は勿論、地の利も天の時ももたぬ悪鬼が、人間に勝ることなどないと。例え天の時、地の利を得たとしても、人の和をもたぬBETAが人類には絶対に勝てぬと」

 

そう言う李の顔は、先ほどとは明確に異なっていた。多くの仲間を失った。そんな暗い、懐古の表情は消え、希望と決意に溢れた表情をしていた。

李の話は続く。

 

「人の和こそ人類のもてる最大の武器。それをもってさえいれば、人類はBETAなんぞには負けない。人類はBETAに勝てる。私は地獄のようなこの戦場を経験してなお、そう信じている」

 

李は本気だ。そしてその本気に、武は飲まれていた。

BETAの圧倒的暴力に触れた。武たちの部隊に損害はなく、武は衛士として全力を尽くし、そして最高級の戦果を出した。それでも「死」を見て、感じて、武の中の何かが揺らいでいたのかもしれない。

そして武はここではじめてあった。BETAとの実戦を経た上でなお、「人類は勝てる」と本気で言っている男を。今まで幾度となく敗北しながらも、「人類は負けない」と信じている男を。

だから飲まれた。

 

「俺はこの戦いを経験していくつかわかったことがある。一国ではBETAには勝てない。中国とソ連が組んでも駄目だったのだから。でもな、人類が一丸となれば、そんな時が来たら勝てるのさ。間違いない。あんなやつらに負けはしない」

 

その言葉は前半部分はともかく、後半部分は夢物語だろう。結局人類は一丸になれていないし、なる兆しも見えない。表面的に協力しても、裏では全くそんなことはない。だから李の言い分は冷静に考えたら現実味のない夢物語で、青臭い少年が考える理想論だ。そもそも人類が一丸となったら勝てることに何の根拠もない。

ただ言葉は力強くて、どこか他人を引き付ける魅力があった。

そしてこの言葉は武の心に深く刻まれる。

 

(一国ではBETAには勝てない……)

 

最前線国家で戦ってきた男が言うのだ。その言葉の重さは半端ない。

武は武家出身で、何よりも重視するのは日本の国益だ。しかし日本の国益と人類全体の利益が背反したら。そんな矛盾にどう戦っていくのか。

 

(人類が一丸となればBETAに勝てる、か……逆にいえば、一丸にならなければ勝てない……)

 

「すまない、変なことを語ってしまったな。とはいえこれだけは知っておいてほしいのだが、私は貴官ら帝国軍がきてくれて感謝している。素直に援軍としても、BETAに勝つためにも……だ」

 

「……正直、驚きました。自分は今日が初陣だったのですが、あまりの悲惨な戦場は自分の予想以上でした。そんな地獄の中にいて、なお人類の勝利を堂々と語る方がいることに」

 

「不快だったかな」

 

「いえ、むしろ感銘を受けました。ありがとうございます、大尉」

 

それは決して表面的な感謝ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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