Muv-Luv Alternative 紫の白銀 作:Shikanabe
01 英雄の誕生
1976年12月26日 帝都
この日、一人の子供が生まれた。
伝統ある武家、白銀家。斯衛軍においては赤の色を纏い、将軍を輩出する五摂家にも近い、帝国有数の武家である。この家に生まれた男子。白銀武。
彼が将来、異性起源種に犯される世界の全衛士、いや全人類の希望となることは、まだ誰も知らないことであった。
そして、本来生まれるべきものとは違った時代、場所、そして世界。そこに生まれた武は、どんな物語を紡いでいくのだろうか。
「影行様、立派な男の子です」
「おめでとうございます影行様、深雪様」
そう語りかけるのは武を抱く女性。武の母親だ。
また、それに白銀家の女中も当主、影行へと語りかける。
「ああ、ありがとう。いい目をしている。よき武士になりそうだ。もっとも戦場に立ってほしいわけではないが……」
そう思うのは父親として、武家の当主としてではない。立場はどうあれ、子を愛する気持ちはどの親も変わらないものだ。
ただ、それだけでもない。
それは影行が自国の情勢を正確に分析できていたからこその言葉でもある。
同年、帝国はF-4Jの試験運用を開始する。戦争の惨禍は、着々と日本に迫ってきていた。
――――
after 6 years 1982年
「父様、今日は何をするのですか?」
そう言ったのは武。武とその父親影行、母深雪は帝都のある武家屋敷を訪れていた。
「今日は煌武院家、前に教えた偉い人で、父さんの恩人の家に子供が生まれたんだ。だからその挨拶に行くのだよ」
武に話す影行。
そう、武たちは日本の武家の中でも最上位に位置する五摂家が一、煌武院家に訪れていた。
「白銀殿、お久しぶりだな」
「御剣翁。あなたもこちらにいらしていたのですか」
白銀一行を出迎えたのは御剣翁と呼ばれる人物だ。
御剣家。
煌武院家の遠縁にあたり、武家としての格式も名門だ。しかし今や跡継ぎのいない一人の老翁のみの小さな武家となっている。
隠居した老翁は帝都から、中央から離れ、もはや帝都で姿を見ることすら稀だ。如何に煌武院家に子どもが生まれたとはいえ、御剣翁の登場には驚く人も少なくなかったという。そんな人物である。
「ああ、ここからは私が御館様と御息女の元へ案内仕る」
「ありがとうございます」
御剣翁がわざわざ現れ、案内する。武は兎も角、影行は多少訝しんだものだが、老翁の気まぐれだろうと気を取り直し、彼に続く。
そうして案内されたのは屋敷の奥。最高の家格の家とは思えないほど普通の部屋に――ただし和室である――何人かの気配があった。見ると、一人の女性が「二人」の子どもを抱き、周囲には数人が座っていた。
「白銀殿、よくぞ参られた。感謝する」
立場を考えれば当然あるだろう儀礼的な挨拶を飛ばし、男が影行に話しかけた。
彼こそ煌武院家の当主である。我が子が生まれた感動に揺さぶられているとは思えない堂々たる立ち居振る舞いは、その威厳を見事に示していた。
「いえ、帝国の時代を担う、五摂家が長女の誕生。お祝いを申し上げます」
影行も挨拶を返す。
しかし、祝いの言葉を述べられた煌武院家の者たちの顔は、子が生まれた良き日にしては、影が落ちていた。
影行も煌武院家とは親しくしている身。その理由ははっきりとわかる。
子どもが双子だったからだ。
煌武院家には、ある仕来りがある。曰く、双子は世を分ける忌児である。故に、片方を家の外に出すべし、と。
姉の名前は悠陽。妹は冥夜。姉には光を、妹には身代わりとして、闇を。こうした仕来りより付けられた名である。
煌武院家に限らず、高い位の家に生まれれば、それ相応の義務を果たすため、家の道具として扱われることもある。近世以前には特に見られる光景だ。しかし、現代において、生まれながらにこれほど残酷な運命を定められるものが、果たしてどれくらいいるだろうか。
そして、御剣翁がいた理由はこのためだ。煌武院にとっての呪われた子である冥夜を引き取り育てること。煌武院と姉・悠陽に、ひいては国家に尽くすように。
影行は決してそれを好ましく思っているわけではない。
旧来よりの伝統に重きを置き、常在戦場を善しとし、戦となれば先方ないし殿を務める精神性。影行とて斯衛軍だ。その精神性は持ち合わせている。だとしても、生まれたばかりの子を苛酷な運命を与えることを善しとはできないだろう。影行のような親ならばなおさら。
煌武院の者にしても同じ。斯衛として、武家として、仕来たりを無視することはできない。しかし、武士とて人の子。自らの、或いは親戚の子が送り出されるのをどうして喜べようか。
「して、御剣翁はどのくらい帝都におられるのですか?」
影行が尋ねる。
「ふむ……数日はこちらにいる予定だ」
軽く姉妹を見て、御剣翁が答える。それが、姉妹が姉妹でいられる時間だと。
――――
双子であることに対して多少空気が重くなることもあったが、基本的にスムーズに終わった謁見。その後、武はここで、今後の人生を大きく変える出会いを果たす。
「これは白銀殿、ご健勝のようですね」
話しかけたのは、こちらも名門・月詠家の当主だ。
古くより煌武院家に仕える月詠家。この場にいるのも当然といえば当然だった。
「月詠殿、そちらも……おや、ご息女ですか」
そして、月詠もまた、一人ではなく、二人の子どもを連れている。
「ああ、来年の一月には六歳になります。娘の真那です。もう一人は弟の子で真耶といいます」
「ほう、双子かと思いましたが、そうではなかったのですな。それに私の子、武とは同学年のようだ。武、挨拶しなさい」
父に振られ、武が月詠家の令嬢二人に挨拶をする。
「はい、父様。月詠様。真那さん、真耶さん。白銀家が長男、白銀武と申します。以後お見知りおきを」
「月詠真那です」
「月詠真耶です」
「「よろしくお願いします」」
月詠家の二人も挨拶を返し、話は再び親同士に移る。
「時に、白銀殿。ご子息には自己流で教えていると聞きました。にもかかわらず子息殿は類い稀な才がみられるとか。どうですか。無現鬼道流の門下に入れる、というのは。」
無現鬼道流。
帝国最強の武人との評価をすでに確立している斯衛軍紅蓮醍三郎中将、彼が師範を務める剣術の流派である。
月詠(真那の父)もその流派に連なるものであり、彼自信も達人であった。それの直接の勧誘というのは、武人にとっては名誉なことである。
因みに、月詠の評価は大げさはではあるが、間違いでもなかった。すでに武は同年代を圧倒する剣の実力である。自己流故の荒さはあれど、生来の才能か、六歳としては伍するものはそうはいないだろう。
しかし、今後より才を伸ばしていくことを考えれば、伝統と実績ある流派で学ぶことは願ってもないことだった。
「ふむ、それが叶うのであれば武の成長にも、ひいては帝国の利にもなりましょう。武、どうだ?」
影行の教育方針故か、決定権は武にあるようだった。
「……是非、よろしくお願いします」
少し考えたものの、武は「はい」という選択肢を選んだ。
こうして月詠真那、真耶と出会い、紅蓮との子弟関係が構築されることとなるのだった。
そして、
「ぐっ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
経験したことがないような痛みが、武を襲った。
独自設定でも良いと思ってくださる方がいれば幸いです。
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