Muv-Luv Alternative 紫の白銀 作:Shikanabe
また原作のXM3に詳しい方、格ゲーに詳しい方で「いや、XM3はそうじゃない。こうだ」という方がいらっしゃいましたら、是非感想欄までお願いします。
紅蓮による無茶ぶりから始まった、武の戦術機搭乗体験。それはだれも予想していなかった結果に終わった。
訓練はされていた。正式に訓練兵として鍛えられていたわけではないが、その身体能力は幼少期からの訓練で鍛えられ、同年代では敵なしだろう。正規兵とて、そこらの者であれば倒してしまうかもしれない。何より紅蓮の御墨付だ。知識も十分に詰め込まれている。実際、総合戦闘技術評価演習を突破した訓練生程度のものはあるはずだった。
紅蓮が、そして巌谷が、武がどの程度できるのか期待していただろう。
しかし、その期待は裏切られた。正確には予想の斜め上を言ったといっていい。
既存概念を覆す機動。はじめてとは思えないその操作技量。そしてハード面のスペックに注目する中で、ソフト面に注視したその発言。
そのすべては常識を一変するもので、故に武を開発衛士とし、開発部隊の長に巌谷をつけた新型OS開発部隊が発足することとなった。
そして場所はこの新型OS開発部隊の配備基地へと移行する。
ここに開発班、巌谷、その他の開発衛士、そして武がそろった。これは既存概念を覆す、全く新しい概念を実現するOS。集められた目的はそんな新型OS開発へと向けた認識合わせである。
「では新型OSの開発に向けて、その新概念についての認識を合わせておきたい。これは発案者の白銀にお願いする。かまわないな?」
最初に話し始めたのは巌谷だ。隊長として進行を行う。
「はい。ではまず、コンセプトについてお話しします。
それは操作の簡略化とパターン化です。目標としているのは衛士の思った通りに戦術機を動かせること。
例えばより自由な三次元機動の実現です。これにより本来戦術機がもつ潜在能力を完全に発揮することが可能になると確信します」
「それは従来OSとはどのように違うのですか?」
開発班のうち一人が疑問の声を発する。この会議では巌谷の発案により、適宜疑問を挟むことを許されている。
従来の概念を全く覆すものだ。そうしなければまともチームが動かないという判断だ。
「はい。従来のOSでは戦術機は……そうですね……一時的に空を飛べる戦車という扱いであってように思います。対BETA戦において三次元機動を行えるようにはできていても、それに最適化されているわけではありませんでした。それが今回の新型OSの中核の一つ、中断や先行入力になります」
「白銀は高度な三次元機動を前提としたOSを作りたい、と」
口をはさんだのは巌谷。巌谷は当然武の求めている新型OSについては理解している。チームのために確認をいれたということだ。
「はい。既存戦術機の不自由な部分はここで顕著に現れると考えます」
巌谷はチームの面々を見渡す。ここまでの概念での疑問はないようだった。
「では次に、具体的仕様について詰めていこう。白銀、頼む」
「了解です。今回自分が考案したのは主に三点です。まず一点目、戦術機の操作中に衛士の操作を受け付けない時があります。実際には受け付けていない、というよりはコンピュータによる機体制御の際、一時的な自動航行をしているような感覚でしょうか。この際に次の行動を入力できるようにしたいということです。
次に、これは機体硬直時に特に行いたい動作ですが、入力した動作を中止し、新規動作を割り込ませること。
最後に特定の操作によって特定の動作を引き出すことです
これらを統合的に運用することによって、衛士は各機体をより自由に、かつ想像通りに動かすことができるようになると考えます」
要点をまとめ、武が話す。
「皆意見はあるだろうが、まず一つ一つ見ていこう。まずは先行入力の話だったな」
巌谷が進行する。
「はい。巌谷少佐にはすでに伝えていますが、自分はこれを先行入力と呼称しています。これは後に説明する動作中止にもいえることなのですが、戦術機の実際の動きと衛士の認識の差異をできる限り減らしていきたいという理由からです。もしその他のアイデアがあればぜひお願いします」
「そういうことならば一番早い解決方法は物理的に中央処理装置の性能を向上させることではないでしょうか」
武の声に応えたのは一人の技官。
「うむ……現段階の帝国の生産能力での量産を前提とした場合、既存のものとどの程度の性能向上が見込めるのだ?」
巌谷が問う。如何に開発畑の人間といえども巌谷は開発衛士。実際の技術のことは専門家には及ばない。
「そうですね……実際そう簡単にはいかないでしょう。各大学研究機関をはじめとした帝国の総力を用いても今後数年で10パーセント挙げられるかどうか……現行の開発体制では数パーセントがやっとでしょう」
「それはどの程度の効果があるのですか?」
別の開発スタッフから質問が飛ぶ。
「それは実際に衛士の方が乗ってみないと何とも。ただ数値上は上昇しても、一般の衛士が難しいレベルでしかないかと」
「では戦術機の反応速度向上も望み薄ですかね」
「いわゆる精鋭と呼ばれるような衛士ならば大きな効果が得られるかもしれませんが……」
「斯衛軍ならば効果はあるやもしれんな。将来的に帝国軍全軍い配備したいとなると更なる性能向上が必要か……」
そうつぶやいたのは巌谷。何やら考え事をしているような様子ながら、少したって頷くと、更に言葉をつづけた。
「ではハード面の性能向上についてはできる限り、完成ぎりぎりまで更新を続ける……ということでよいか?」
「はい。それが良いかと。我々も可能な限り、1%でも性能が向上するように努力します」
「白銀少尉、先行入力についてなのですが……戦術機の動作中に、例えば跳躍の最中に、次の動作、例えば左右への移動を入力する。それによって戦術機はハード面での反応速度の限界、つまり最高性能で機体を操作できると、そういう認識でよろしいのでしょうか」
巌谷に応えたのとはまた別の技官が質問する。
「その通りです。先行入力によって理論上戦術機の最速値で操作することが可能かと」
応えるのは当然武だ。
「なるほど、そのプログラム自体は難しくないと思います。ただ従来の姿勢制御と先行入力が干渉しないに、線引きが必要……いや、だからこその割り込む操作、と?」
「どういうことです?」
また別の技官から質問が飛んだ。
「素晴らしい慧眼です。姿勢制御との兼ね合いについては、強制終了との兼ね合いでどうにかなるのではないかと。巌谷少佐。二点目、操作中断についても説明してよろしいでしょうか」
「かまわん」
「ありがとうございます。では二つ目の強制終了についてですが、これは戦術機がある動作をしているとき、新たな入力をすることで割り込み、行っていた動作を中断させ、新たな動作を行わさせるということです」
「それはどのような状況を想定しておられるのでしょうか」
「それは例えば転倒時がわかりやすいかと思います。
転倒時、戦術機の操作は衛士の手を離れます。その後機体は自動で受け身をとるように操作されます。つまりこの時間の間、衛士は状況をただ座してみているだけになります。ここで例えば転倒しながらも発砲するという操作を行えるようにしたいということです」
先ほどの技官から声が上がった。
「なるほど、それで先行入力と……」
これまでの話を統合すると、次のようになる。
(ここでの「=」は「=」の前の操作(または動作)中に、後の操作(動作)が行われたものとする)
[目的] 衛士が操作できない空白時間をなくす。
1,ハード面での空白時間(処理速度の関係上必然的に生まれるラグ)を除き、衛士の操作と戦術機の実際の機動との切れ目をなくす。
↓
動作Aを行っている間に動作Bを導く操作(操作B)を行うことによって、動作A終了後に自動的に動作Bが行われる(動作A-B間のタイムラグは処理速度分しか存在しない)。
{通常}操作A→動作A→操作B→動作B に対し、
{先行入力}操作A→動作A=操作B→操作B だ。
(動作Aの途中で、操作Bを行う)
2,コンピュータ制御の部分に衛士の操作の優位性をもたせる。
↓
動作A(コンピュータ制御)の最中に操作Bを行うことで、動作Aを強制終了。動作Bを開始する。
{通常}動作A(自動)→操作B→動作B に対し、
{強制終了}動作A(自動)=操作B→動作B だ。
(動作Aの間に操作Bを行う)
前の動作の途中に操作Bを行うことは同様だが、その操作が先行入力なら「前の動作終了後に続けて」、強制終了(キャンセル)の場合は「直ちに」その操作に基づく動作を行う。
そしてこれを組み合わせれば、例えば動作A(自動)=操作B→操作C(→動作A強制終了)→動作B→動作Cというものや、操作A→動作A=操作B→操作C(→動作A強制終了)→動作B→動作Cといったことも可能になる。
しかしこれには問題点がある。それはどの入力が「先行入力」で、どの入力が「強制終了」かわからないことだ。どちらも通常の入力の延長線上で行ったとすれば、例えば操作A→操作B→操作Cという操作は
1)操作A→動作A=操作B=操作C→動作B→動作C {先行入力のみ}
……動作Aの途中に操作B、操作Cを行うことで動作A終了後に動作B、Cがスムーズに行われる。
2)操作A→動作A=操作B(→動作A強制終了)→動作B=操作C(動作B強制終了)→動作C {強制終了のみ}
……動作Aの途中で強制終了をすることで動作Bが始まるが、操作Cを行うことで動作Bも強制終了し、動作Cを行う。
3)操作A→動作A=操作B→動作B=操作C(動作B強制終了)→動作C {先行入力+強制終了一例}
……動作A中に操作Aを先行入力することで動作A終了後に動作Bが行われ、動作Bの途中で操作Cを入力して強制終了することによって動作Bは中断、動作Cが行われる。
4)操作A→動作A=操作B→操作C(動作A強制終了、動作B予約キャンセル)→動作C {先行入力+強制終了一例}
……動作A中に操作Bを先行入力することで動作A終了後の動作を予約するが、操作Cを入力して強制終了することによって、動作A及び予約されていた(先行入力された)動作Bがキャンセルされ、動作Bがはじまる。
5)操作A→動作A=操作B(通常操作、効果なし)→操作C→動作C
……動作A中に操作Bの通常操作を行っても機体には反映されない。
といった具合に、同じ動作(厳密にはタイミングは若干異なるが)でも「先行入力」ととるか「強制終了」ととるか、はたまた通常操作ととるかで複数のパターンできることになる。勿論上記は一例に過ぎない。ただこれ自体は問題点ではなく利点である。これだけ複雑な動作を、タイムロスを限りなく減らして実行できるのだから。
問題なのはその入力動作が「先行入力」なのか「強制終了」なのか判断すること。それさえできればこの問題は解決する。
因みに姿勢制御と先行入力の兼ね合いというのは、例えば転倒中、コンピュータ制御時に衛士の行った操作の一切を受け付けないということに起因する。自動制御時の操作が保存されずに操作ミスとして扱われてしまえば、先行入力が働かない。ただ強制終了が実現すれば、衛士は自動制御下においても操作をすることになり、それはコンピュータが強制終了ではない先行入力も、正当な操作と認識するようになるということです。
さて、武たちの議論もまた、先行入力と強制入力の話題は終盤に入っていった。
「……では衛士が先行入力か強制終了か、という問題は間接思考制御によって解決できると?」
「はい。従来とは違うので学習にある程度の時間はいただくことになるでしょうが、やることとしては従来行ってきたものよりもはるかに簡易なものかと」
「それは朗報だ。では先行入力および強制終了についての問題点、疑問点はほかにあるか?」
技官と武、それに巌谷の話が一通り終わり、改めて皆を見て問いかける巌谷。それに食って掛かったのは意外なことに整備兵であった。
「待ってください。確かに白銀少尉のいう先行入力と強制終了は衛士にとって莫大な利点があるのでしょう。技術的に開発可能なのもわかりました。しかしそれを前線のすべての機体に搭載しようというのなら、整備に大きな問題が生じます」
「整備か……具体的にはどこが問題だ?」
巌谷が問う。
「そもそも今以上の三次元機動という時点で、戦術機にかかる負担は相当なものになります。整備は勿論、部品の耐用年数の劣化速度も加速度的に早くなるでしょう。ですが、それで戦術機戦力が上昇するなら理解できます。しかし強制終了はやりすぎです!
一度始めた動作を中断することの負担は計り知れません。それは戦術機本体にも、電子機器にもです」
それは筋がっている話だ。どれだけ機体が優秀だったとしても、その機体に24時間365日搭乗して戦うわけにはいかない。数時間の戦闘でさえ、大規模な整備が必要だ。戦術機に限った話ではないが、整備できて初めて戦力となる。機体側の性能が上がっても、整備能力が付随して向上しなければ全体としては戦力が低下するなどということもありうる。
「……なるほど。しかしどれだけ負担が増えるかは実際にやってみなければわからない。--そうだな?」
「その通りです。開発したものを搭載した機体の実機訓練を行って初めて、それはわかります」
「そうか……ではまず、それらの機能をつけたものを開発し、実機訓練を行う。整備性の問題に関しては実機訓練の結果から検証。場合によっては新型OSの性能を削ることになるだろう。よいな?」
「「「はっ」」」
皆の声が重なる。会議は終盤へと突入しようとしていた。
最後の議題は「コンボ」だ。これはある特定の操作(の組み合わせ)を行うことによって、特定の動作を呼びだすことだ。
つまり{通常}操作A→動作A→操作B→動作B {コンボ}操作A→動作A=操作B→動作C だ。
これは先行入力と比較すると、違いが顕著だ。同じ操作A=操作B=操作Cという操作に対して、
1)操作A→動作A=操作B=操作C→動作B→動作C {先行入力}
2)操作A→動作A=操作B→操作C→動作B→動作D {コンボ}
途中まで全く同じ動作をしていても、最後の行動が変化するのだ。勿論これもまた一例にすぎず、連続コマンドを簡潔化したものに過ぎない。
そしてこれが最も効果を発揮するのは、既存の戦術機にもあるものによって真価を発揮する。
データリンクだ。
ある衛士が確立した操縦方法の概念は、一連の操作を認識した機体側がそれを「コンボ」と認識することによって他の衛士にも共有される。つまりある衛士が光線級の照射をよけるような機動ができたとして、それが共有され、更にコンボによって一定の操作で行われるようになったとしたら。人類全体の衛士の戦力は跳ね上がるだろう。
ただしこちらは圧倒的な問題があった。それは武の機動が未だ完璧ではないこと。そもそも武は実戦未経験。原作とは異なり、平行世界で格闘ゲームの経験があるわけでもない。せいぜい平行世界の記憶を受け取っただけに過ぎない。シミュレーションだけでは限度がある。こちらは武の実戦後にまで見送られることになった。
「では本日のまとめを行う。まずハード面、特に電子系統と中央処理装置の性能向上。これは完成ぎりぎりまで行い、わずかでも性能の良いものを作る。その上でOSについては先行入力、強瀬終了の二つを軸に開発を行う。
この開発計画は成功すれば瑞鶴に搭載することになるが、私としては帝国軍を含む帝国全体の基本OSにしたい。そうなった時、帝国の戦力は大幅に増していくことだろう。帝国の未来は諸君の双腕にかかっている。よろしく頼むぞ」
「「「はっ」」」
巌谷が締め、会議場にいた全員が綺麗な敬礼を決める。そうしてこの日の会議は終了した。
ーーーー
新型OSの具体的な開発目標が定まって以降、計画は順調に進んだ。また順調な開発に伴い開発衛士が増員されるなど、武たちへの支援と期待は大きくなっていった。
1990年 夏
武たちの新型OSの開発はこの年、完全でないにしろ、とりあえずは完成といってよい段階に到達した。
従来OSに対して明確な優位性が確立され、かつ実戦投入にも十分耐え得るだろうと。
「ふむ、仮称XM3、ある程度は形になったか……」
そう呟いたのは巌谷。
ここは帝国斯衛軍技術開発部。武を首席開発衛士とした新規OS開発が行われている場所である。この日、新OSの瑞鶴実機テストが行われた。
結果は上々。二年に及ばないという短い時間ではあったが、巌谷の協力のおかげもあって、短期間で完成(正確には武が満足するような、原作におけるXM3程のものはできていない、が時代背景と開発力を鑑みれば満足できるものができたと言っていいだろう)
「はい。これで斯衛軍の戦力は飛躍的に上昇するでしょう。何より、武士としての近接戦が強化されたのは斯衛軍衛士にとっても嬉しい知らせでしょう」
そう言ったのは実験に参加していた技術士官。帝国軍より引き抜かれた者で、その技術力は高い中尉である。今回のOS開発において開発の中軸を担っていたものの一人でもあり、やはりどこか感慨深い表情を浮かべていた。
「ああ。欲を言えば、これが帝国軍にも搭載されれば良いのだが……」
「帝国軍の撃震も斯衛の瑞鶴も同じ第一世代機。また両機とも元はF-4ですし、技術的にはそう難しいことではないかと思います」
「うん。あとは政治の問題、我々が口を突っ込むような話ではないか。中尉、一応の完成を見たとはいえ、発展性は十分にある。BETAと帝国が鉾を合わせる日も近いだろう。その日まで、できる限り性能を高めてほしい」
「はっ!」
敬礼する中尉。
返礼する巌谷。
巌谷は管制塔を立ち去った。
そしてその手にはある一枚の書類があった。
「新型OS評価試験」
それがその書類の表題だった。
一話の文字数はどのくらいがいいですか?
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3000以下
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3000〜5000
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5000〜7000
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7000〜10000
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10000以上