Muv-Luv Alternative 紫の白銀   作:Shikanabe

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05 新型OS斯衛軍採用試験

従来の戦術機の運用を一変させる新型OSがあるらしい。

 

そんな噂が流れたのは1990年夏のことだった。

かねてより巌谷榮二が開発に参加している計画だと噂になっていた。それも煌武院の後援の開発が行われているらしいと。

元々通常の軍組織とは異なる点が多々あるのが斯衛軍だ。武家の表沙汰にはできない、やんごとなき事情による例外も、ほかの組織と比べたら格段に多いだろう。しかしこの計画の噂は、そんな斯衛軍の中においても異質で、人々の注目を浴びるに十分なものだった。

 

曰く、そのOSを導入すると戦術機の機動が一変するらしい

曰く、煌武院家が巌谷大尉を抱え込み、開発している

曰く、開発衛士はまだ子どもらしい

 

そんな真実の部分もあれば、脚色され誇張され、真実とはかけ離れた部分もあった。噂のすべてが真実だとすれば、相当荒唐無稽な、かつ大分きな臭い計画だろう。

ともあれ、煌武院と巌谷、どちらも斯衛軍にとって無視できぬ存在だ。噂の真偽を調べようにも相手が悪い。煌武院と同格の五摂家すら、煌武院との関係悪化を恐れて深くは訪ねてこない。

最も取り立てて隠すべきことでもなかったから、知っているものは知っているという状況であったが。

 

だからこそ、そんなOSが完成したらしい。そういう噂は人から人へと飛び回り、広まっていった。

 

その後行われることになった新型OSの試験。その試験会場には噂を聞き付けた斯衛軍人や各メーカーなどの関係者で埋まったのであった。

 

試験は帝都郊外にある斯衛軍基地で行われる。試験内容はまず新型OSの概要説明、そして対従来OS搭載機戦闘演習である。

 

最初の概要説明が始まる。

関係者が大ホールに集められ(入れないものは別室から映像を観戦する)、檀上には一人の男の姿が。

 

「皆さま、本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。新型戦術機搭載汎用OS開発計画におきまして、開発主任を務めさせていただきました、巌谷榮二です。

この度は煌武院家の皆様はじめ、斯衛軍および関係者各位のご協力のすえ、開発に一定のめどを絶たせることができました。ご協力いただいたすべての皆様へ感謝を申し上げさせていただきます」

 

そう話を切り出したのは巌谷。巌谷は武を主任開発衛士とした新型OS開発チームのトップとして敏腕をふるっていた。

その舞台のそでで、武もまた用意を進める。斯衛軍をはじめ戦術機開発に関わる多くの者が集まったこの場。その前に立つというのは初めての経験で、武の背中には汗が流れる。武が緊張に苛まれている間も巌谷の話は続いていた。

 

「では具体的な説明を始めさせていただきます。本OSは一言でいえば、従来戦術機を遥かに超えた、柔軟な運用が可能になる代物です。その特異な性質の説明については、私よりも、発案者による説明がより良いと考えます。そって紹介させていただきます。発案者の白銀武少尉です」

 

巌谷の紹介の言葉と同時に、武は壇上へ向かう。

 

「また今回はその特殊な経歴を踏まえまして、白銀少尉の経歴等の紹介は省略させていただきます」

 

巌谷の声が武の耳に響く。あたかも武に特殊な経歴があるかのような言い方だ。確かに武は普通ではない。しかし巌谷の物言いは噂を助長させ、「武」と煌武院とのつながりを暗に示すものであった。

そんな声をBGMにしながら、武は前日の出来事を思い出していた。

 

前日ー煌武院邸ー

 

武は形になったXM3の評価試験を明日に控え、後援であった煌武院家を訪れていた。目的の一つは報告だ。一応の完成を見た際、すでに一度報告は行っているが、煌武院当主に直接この件で話すのは初めてのことだった。

武の前に当の煌武院家当主が、後ろには侍女らしき女性が控えていた。

 

「顔をあげよ」

 

煌武院公が威厳のある声で言う。

 

「此度は何の用向きか」

 

公が問う。煌武院公とて武の訪れた目的は知っている。様式美というやつだ。

 

「はっ。この度は煌武院公のご協力によって完成した新型OS研究の報告に参りました」

 

武が答える。

すると煌武院公はふっと一瞬笑ったかのようなしぐさをして、より詳しい報告を求めた。

 

一通りの報告が終わったのち、煌武院公が質問を続ける。

 

「それで、その新型はまだ完全に完成したわけではないのだな」

 

「はい。現状日本国内で調達でき、かつ戦術機搭載に適した最高性能の中央演算処理装置を搭載しています

理想性能を得るには至っておりません。これは実際の装置の性能向上によって将来的に達成できると考えておりますが、現状ではこれ以上の性能は得られないかと。また既存戦術機に搭載し、実戦に投入できるように性能を調整したものが今回完成した新型OSになります」

 

「ではそのOSが本領を発揮するためには戦術機自体の性能向上が必須であると、そういうことだな」

 

「その通りでございます。ただ理想性能からは程遠いといえど、現状の戦術機に搭載することによってその生存性は格段に向上するものであると自負しております」

 

といった具合に新型OSについての質疑応答が行われた。

そんな応答がしばらく続き……煌武院公の纏う雰囲気が変わる。新たな得物を見極めんとする武士の目。そんな目から、煌武院として、上に立つものとしての目に変わる。

 

「して、その新型が有用だということはわかった。よくぞやりとげた」

 

しかしそんな煌武院公の口から出たのは称賛の言葉。そんな少し意外な言葉に驚く。とはいえ安心することはできない。

 

「しかしそれが机上の空論であってはならない。その力、斯衛軍にとって実際の武器にならねばならぬ」

 

それは武にとってなかなかに重い言葉だ。厳しい言葉だが、理不尽ではない。例え武がまだ若輩の身であったとしても、煌武院がバックアップするというのはそういうことだ。最も、研究のすべてが実用化できるわけではない。しかし杜撰な計画は許されない。

ただ、それはただ武に厳しいだけではない。その言葉には「斯衛軍にとって有用な兵器を作れ」ということで、それは暗に、それだけのものが作れるだろうという期待の裏返しで。最も、そんな期待を感じ取った武にとっては更に重圧となるわけだが。

 

「そこで、明日の試験、其方の全力を持って臨み、結果を出すがよい。少なくとも斯衛軍に評価されるかどうかは明日次第だ。わかっているとは思うが、ゆめゆめ煌武院の名の後援があるとは思うでないぞ」

 

煌武院公の話は続く。

 

「もし、明日の結果が良ければ、今後正式に斯衛軍として開発を支援することになる。また帝国軍への採用を含め検討されることになる。期待しているぞ」

 

そんな明白な期待に対して、武は身を震わせる。未だかつてない重圧に。これほどまで自分の力が斯衛軍や帝国軍、帝国という国家に対し影響を与えうるのだと実感したがために。

そうして煌武院公との謁見は終わった。

舞台は再び試験場へと戻る。

 

眼前には多くの人が武のことを見つめている。将校から技官、民間人も含め、斯衛軍や帝国軍の関係者が並ぶ。その中には、現在の武とは雲の上の存在とも言える人物もちらほらと。最も煌武院公とて本来は雲の上の人物なのであるのだが。

壇上に立った武が息を飲む。視線が武に集中し、この場のすべてに見られているかのような錯覚を感じる。

口が乾く。

心臓の鼓動がだんだんと大きくなって、息は荒くなる。

汗が出る。

お腹が痛くなったような錯覚が武を襲う。

しかし、覚悟は決めたのだ。いや、武は武家の出身、ならば生まれたその日に運命づけられたのかもしれない。高貴なる者の義務。フランス語でいうノブレスオブリージュ。身分の高いものはそれ相応の社会的責任を負う。だからいつかはこの日が来る。自分の力を国家に活かす時が。

そしてこの時の武は気が付いていないが、身分とは別に、武の運命は決まっていたのかの知れない。それは異なる世界の記憶を受け取った時に。いや本来別の人間であるはずだったこの世界の「白銀武」が、平行世界の白銀武から記憶を受け取ったこと。通常ならあり得ないその出来事が起こったことは、運命だったのだろうか。

 

力強く、一歩前へと踏み出す。覚悟とともに。

 

「本日、新型OSの仕様説明をさせていただきます。白銀武と申します。よろしくお願いします」

 

そんな言葉から始める。

 

「この新型OSの概念はより衛士の想像した通りの機動を実現することにあります。そのためにハードの性能向上、ソフトの新概念が取り入られております。ハード面での性能向上につきましては、別途用意いたしました冊子をご覧ください」

 

まずはそこで一呼吸つく。会場の人々の目線は一時的に配られた資料の方へと移った。

ざわ……ざわ……と話し声や感嘆の声が会場を埋める。新型OSのハード面での機能向上ー高性能CPUの搭載による反応速度の向上、ひいては機体硬直時間の減少ーを見た人々の挙げる声だ。

これはすごい、と褒めるものもあれば、機体硬直という一瞬の時間がほんの僅か短縮されたから何だというものまでさまざまであった。最も、場の大勢は評価できるという空気間で固まる。やはり斯衛軍関係者が過半を占めるだけはある。戦術機での実戦経験がなくとも、「戦闘」における一瞬の差がどれほど大きいか解っている故の反応だ。

 

(掴みはそこそこ、一安心だな。これからが本命、気を引き締めなければ……)

 

武はそう心の中で思案する。そう。この新型OSの本命はソフト面にある。そもそもハード面でのスペック向上は武は要望を出しただけ。技術者陣の努力の賜物だ。武がしたことはソフト面での開発。こちらが認められなければ武にとって意味はない。

 

「ではソフト面についての説明をさせていただこうと思います。この新型OSのソフト面での売りは主に二つあります」

 

会場を見渡す。その注目は先ほど以上に集まっていた。

 

「まず冊子の12ページをご覧ください。一つ目が先行入力です。ご存じの通り、戦術機はその機動変更の間、機体硬直が派生します。僅かな硬直時間ではありますが、この時間が生死の分かれ目になることもあるでしょう。それはハード面での性能向上でもこの硬直時間を減らせるようにしておりますが、ソフト面ではこの先行入力によって硬直時間とそれにより発生する無駄を排除することを目的としております。

先行入力とはその名の通り、衛士が硬直時間中またはその前に、硬直後の操作を入力し、予約する機能になっており…………」

 

…………武の説明が続き、一通り新型OSの開設が終わったところで司会役が進行する。

 

「では、これをもって説明を終了とし、次に評価試験の方へと入らせていただきます。こちらは二段階に分けて行われます。第一に既存OS搭載型の瑞鶴と新型OS搭載型の瑞鶴による演習。第二に白銀少尉による演舞を行う予定でございます。準備完了までしばらくお待ちください」

 

ーーーー

 

場所は変わり、演習場。

武の目の前に現れたのは演習で戦うことになる相手。真壁任三郎少佐である。

日本武家の名門、真壁家。

斯衛軍では赤を背負うその武家衆は、先祖代々、そして現在において優秀な将校や各省勤務の高官を排出しており、「高位は高徳を要す」という武家の精神性を体現している一族だ。任三郎少佐はそんな真壁家の三男。例にもれず斯衛軍の衛士として訓練学校を首席卒業。その戦術機操作技術は上層部にも一目置かれている。

それが武たちの今回の対戦相手。この演習試験の結果が真にOSの差異によるものなのか。それを図るためにも、既存OSに搭乗する衛士は信頼されている精鋭が選ばれた。

 

この新型OSの評価試験は4対4、つまりは一個小隊同士の戦闘によってなされる。新型OS搭載側の小隊長は巌谷でなく白銀が務め、コールサインは「フライ01」。小隊員として三名が部下となる。

通常小隊長は中尉階級が務めるが、階級で言えば少尉である小隊長の武と、その他の隊員たちとの差はない。これは今回の評価試験のために臨時で組まれた小隊であり、例外的に認められたものだ。臨時といってもこの新型OSの開発初期段階から開発に参加している衛士たちであり、急造というわけではない。またこの試験のため、この編成での訓練は積み重ねてきていた。

対する真壁小隊はコールサイン「ウルフ」。その部下たる三名もまた、平時より真壁少佐麾下の人員であり、少佐直属の小隊せもある。当然練度は高く、多少の機体性能差ならば覆してしまうだろう。実際、この場の多くの者は説明を聞き有用性を認めながらも、武たちの勝機は薄いと考えていた。巌谷が出るならばまだしも、武のよう若い者には荷が重いと。

 

「白銀少尉、今日はよろしく頼む。貴官の話を聞く限り、私からしても有用なものであるとは思う。しかし武の道に在る者として、容赦はせぬ」

 

「はっ。こちらこそよろしくお願いします。真壁少佐の御噂はかねがね伺っております。胸を借りるつもりで挑ませていただきます」

 

武は真壁にそう返す。家格は同じといえ真壁は年長者であり上官だ。とても不遜な態度はとれない。

 

「うむ。先の説明を受けて、私でも如何に使うかわからぬものがあった。戦術機とは武士(もののふ)の刀。そして人馬一体ともいう。即ちその扱い様こそその者を映す鏡でもある。期待しておるぞ」

 

それは武に向けた期待であり、武士として強き者と戦いたいという心の表れだ。強き者と戦うことは己の技量をさらに高める。それはひいては祖国のための力となる。

 

「はい。少佐のご期待に添えますよう全力を尽くします。このOS、私の望む限りのものができたとはいえませぬ。しかし現段階においても衛士の生存率を大きく高めると確信しております。それを証明させていただきます」

 

例え上官であっても、年上であっても武のやるべきことは変わらない。それはこの新型OSの性能を更に向上させ、その価値を証明することだ。価値とは本来それをもつものが決めること。しかし軍という組織にあれば、末端が価値を見出しても、上層部が価値を見出せなければ意味がない。だからこそこれは好機だ。斯衛軍や城代省の高官が並び、メーカーや軍の技官が並び、家格の高い武家衆が並ぶ。その面子は錚々たるものだ。そして相手は斯衛軍のの精鋭として名の知れた真壁少佐。この相手に勝てれば新型OSの価値を一挙に証明できる。

 

「楽しみしておこう。では演習場……戦場で会おう」

 

「はっ」

 

敬礼する武に答礼を返す真壁。

敬礼を終えた真壁は踵を返し、自らの瑞鶴があるハンガーへと立ち去って行った。

 

ーーーー

 

「両部隊の開始位置での待機を確認しました」

 

オペレーターの声が演習場周囲へと響き渡る。それはこの演習試験を観戦している人々への配慮だ。オペレーターといっても通常のCP(コマンドポストオフィサー)とは役割が違う。彼女は演習の開始、終了の合図と機体破損や撃墜時の報告のみを行う。これもやはり観戦者への配慮により設置されたもので、彼女の声は寧ろ観戦席へと向けられている。

 

「それではレギュレーションの最終確認を行います。本演習は統合仮想情報演習システム(JIVES)を用いて行われます。戦闘を行うのは真壁少佐以下既存OSを搭載した瑞鶴一個小隊と、白銀少尉以下新型OS搭載瑞鶴一個小隊です。兵器使用は自由。戦域は都市部。どちらかが全滅、若しくは制限時間30分以内に残存機体数が多い方が勝利となります。制限時間終了後に残存機体数が同数だった場合は引き分けになります」

 

説明が終わる。

 

「それでは真壁少佐、白銀少尉、準備はよろしいですか」

 

最後にオペレーターが両小隊長に確認をとる。

勿論両者とも否やはない。

 

「こちらウルフ01、問題ない」

 

まず答えたのは真壁。

 

「フライ01、こちらも問題ありません」

 

そして武。

 

「では……状況開始まで……5……4……」

 

オペレーターのカウントダウンが始まる。

武は操縦桿を握りしめる。新型OSを認めさせるためにも、勝利が必要だ。その重圧が身体にかかる。

 

「3……2……1……」

 

「0、状況開始」

 

オペレーターの声で演習が始まる。

フットペダルを大きく踏み込む。武たちの機体が動き出した。

 

「事前の作戦通りに動く!俺と02が前、03,04が後ろだ。噴射地表面滑走(サーフェイシング)で都市部まで移動する。二機連携(エレメント)を崩すなよ……!」

 

武の咆哮とともに演習開始位置から都市部へと各戦術機が突入する。

 

今回の演習。練度の高い真壁小隊を相手取る中、武たちの勝機はどこにあるのか。そしてどのような勝ち方が望ましいのか。

かつて巌谷が行った瑞鶴とF-15Cとの演習。あれは国産戦術機の将来がかかっていた。故に巌谷は勝ちが、最低でも善戦が必要だった。巌谷はその演習に奇策をもって臨むことになった。

では此度、武たちはどうか。相手は同じ軍の衛士。同じ作戦状況を想定する部隊だ。そして同一機体、異なるOSをもって演習を行う。勝ちが必要な状況であるのは変わらない。いや、武たちの方が「勝ち」を求められる状況であろう。同一機体にて演習を行うのだから。

そして、だからこそ求められるのは奇策ではない。斯衛軍が求める戦闘条件下で、正面から勝つこと。それができて初めてこのOSの価値が証明される。少なくとも武たちはそう考えている。そして……斯衛軍の想定する作戦状況、それは近接機動格闘戦である。

 

4機の瑞鶴が都市部へと侵入した。この演習ではCP(コマンドポストオフィサー)からの支援は受けられない。レーダーは戦術機搭載のもののみ機能する。武たち小隊のレーダーに二つの光点が映った。

 

「二機……警戒は怠るなよ……」

 

北東方向から武たちに迫る二つの光点。物理的には見えない。それでも確かに近づいてくる。都市部故に侵攻速度は遅いが、着々と。

 

「おかしい……何故二機だけ……いや、どちらにせよ対応せざるを得ない」

 

「しかし隊長、これが罠という可能性も……」

 

武が思案している中、小隊の部下が声をかけてくる。

 

「確かに罠の可能性はありますが、演習開始位置から都市部までの距離はほぼ同じ。周到な罠をはる時間はなかったはずです」

 

「……警戒を続けたまま前進する。向こうもこちらの位置には気がついているはず。このままぶつかるぞ」

 

結局武は戦う選択肢をとる。残る二機を発見できないまま。そもそもこの演習を考えればもともと逃げる選択肢はない。

戦術機の主脚が大地を蹴り上げ、ビルとビルの間隙を縫って進む。

仲間を表す青の光点と、敵を表す赤の光点が近づく。

そして…………赤い光点が目の前に迫る。あと一つ角を曲がれば接敵する。

 

その刹那……

 

新たな赤い光点が武の網膜投影に現れた。

 

「何っ……このタイミングで!?」

 

一瞬武の意識が奪われる。

赤い光点が動き出す。

二機の山吹色の瑞鶴が短距離跳躍(ショートブースト)で急激に距離を詰めてくる。同時に、新たに現れた赤い光点もまた動き出した。

 

「ちっ……しまった……迎撃する。02ついてこい。03、04は残りに二機を警戒しながら援護……!」

 

「「「了解」」」

 

武と02が74式近接戦闘長刀を構え、角を曲がる。

敵機の長刀と武の長刀が激突する。短距離跳躍(ショートブースト)によって瞬間的に圧倒的な速度を得た機体から、それも剣術に長けた斯衛軍の衛士から振り下ろされる一撃は重い。

一撃……二撃……武と敵機の機体が切り結ぶ。

 

03と04が援護に入ろうとする。04の87式突撃砲が02の相手をしている敵機を狙った……ところに三つ目の赤い光点が突撃した。

同時に武と02の相手をしていた二機が逆噴射制動(スラストリバース)で急激にバックステップを踏む。さらに垂直跳躍(バーチカルブースト)を行い宙へと機体を運ぶ。そこで反転、噴射滑走(ブーストダッシュ)。武たちから距離とった。

 

「これは……誘いこもうとしているのか……?だが……02ついてこい。追うぞ。03と04は二機連携(エレメント)で敵一機にあたれ!!」

 

武はあえて敵の誘いに乗ることを選んだ。

例え罠があったとしても、状況は三対二。自分の操作技術を過信しているわけではないが、最も生存性が高いの自分とその僚機の二機連携(エレメント)だからだ。そして何より、これは斯衛軍の評価演習だ。機動格闘戦、密集戦闘。そういったものが重視される。示さなければならないのは武の衛士としての能力ではない。頭脳戦の能力でもない。示すべきは新型OSの性能だ。そしてそれは真壁も承知している。それを知っているからこそ、武は誘いに乗ったのだ。本来ならば武たちは全力で残った一機を叩くべきであっただろうが。

 

ただしそれは手を抜くという意味ではない。真壁にしろ武にしろ、そして各小隊の衛士にしても、もとよりそのようなつもりはない。近接戦闘をもって相手を倒す。それがこの場の衛士たちの総意だった。

 

武と02は敵機を追う。

短距離跳躍(ショートブースト)で一時的に速度を上げ、都市の中を駆ける。跳躍ユニットの推力があがっていく。撃震より強化された瑞鶴の跳躍ユニット。その推力があがるとともに、機体にかかる負担は大きくなり、武へかかる加速度も大きくなる。

 

「ぐぅぅぅぅ…………」

 

口からは声が漏れる。

機体は都市を縦横無尽に動いていく。

主脚が戦術機を蹴る。

跳躍ユニットはロケットエンジンが火を噴く。瞬間的な機動を行うためだ。

機体の向きが変わる……ビルの側面を蹴った。

 

敵機の追跡戦が続く。

武は右手に74式近接戦闘長刀を保持しながら、左手には87式突撃砲を構える。とはいえそれは牽制程度の意味しか持たない。武は銃の名手というわけではないし、そもそも高機動戦闘中に戦術機で戦術機に狙って当てることができる衛士はそう多くはない。

戦術機側の自動照準が前を行く敵瑞鶴を捉えようと動く。

自動照準と敵戦術機がかさなった……ように見える瞬間を狙ってトリガーを引く。

武の瑞鶴の突撃砲が火を噴き、発火炎(マズルフラッシュ)とともに36ミリ弾が発射される。

弾はばらけ、敵機には一発も当たらない。

高機動戦闘は続く。次のアクションを起こしたのは敵機であった。

 

瑞鶴のほぼ最高速まで加速していた敵機が反転全力噴射(ブーストリバース)を試みる。急速に動きを変える敵瑞鶴。跳躍ユニットの全力噴射を続けながら機体を反転させる。その勢いのまま武たちに迫ってくる。

 

「なっ……二機連携(エレメント)を崩した…………!?」

 

そう。武が驚いたのはそこではない。もう一機が進路を変えなかったことだ。一機は武たち敵に突っ込み、もう片方はそのまま逃走戦を続ける。このタイミングで二機連携(エレメント)を崩す意味が武にはわからなかった。

しかし武はその意味をすぐにいることとなる。

 

突っ込んできた敵戦術機が02の機体を通り過ぎ、一気に距離をあける。その進路は先ほど武たちが接敵した地点だ。どうやら二対一の状況を強いられているー03と04と戦っているー味方機体を助けに行くようだ。

武は三度判断を強いられる。即ち、どちらの敵機を追うのか。

 

「まず前方の敵を二機で片づけるぞっ!!平面機動挟撃(フラットシザーズ)だ」

 

平面機動挟撃(フラットシザーズ)。二機で敵機一機に対し機動戦を仕掛け、挟撃する。

とはいえ一対二でも簡単に倒されるほどやわな相手でもない。敵、ウルフ小隊の最大戦力は同然真壁だ。それでもその真壁が直接率いる小隊。当然練度は高い。

 

武と02がスピードに乗ったまま対照的な動きを見せる。

敵機ーウルフ02-の両側から36ミリの雨が吹き荒れる。牽制射撃の意図から放たれた銃弾を避けて、ウルフ02はあるビルの角を曲がる。

そこで武は驚くべき事態を見る。

そう……そこにいたのは…………真壁だ。

レーダーには反応はない。おそらく戦術機の主機を落としていたのだろう。この戦場ではレーダーは戦術機のものくらいしか満足に使えない。それも音響欺瞞筒(ノイズメーカー)のせいで十分とはとても言えない。

 

「何……」

 

驚きに声が漏れる。

そこに真壁がオープンチャンネルで話しかけてきた。

 

「悪かったな、白銀少尉。そのOSの真価、そして君の能力、確かめさせてもらおう。ウルフ02、白銀少尉の僚機の相手をしたまえ」

 

そういう真壁の言葉には自信がやどっている。そして楽しげだ。

彼の言葉に従って、ウルフ02が白銀僚機ーつまりフライ02-に向かう。ウルフ02が速度を上げて、武と真壁の傍から離れるような機動をとる。真壁小隊には事前にその意思は共有されているようだ。即ち、武と真壁が一騎打ちをするということだ。

 

「では行くぞ、白銀少尉。覚悟はよいな」

 

嗤いながらいう。

 

「少佐。私もこの戦、負けるつもりはございません」

 

真壁の瑞鶴が74式近接戦闘長刀を構える。武の瑞鶴もそれに応えるように長刀を構える。

両者がほぼ同じタイミングで笑う。この辺りは互いに武人ということだろうか。刹那、二人はスロットルを強く踏んだ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ」」

 

二人の声が重なる。

その声に重なるように、二つの影が動く。

武の、真壁の瑞鶴が74式近接戦闘長刀を振りかぶり……激突する。

二人の剣の達人が放った一撃は、轟音を響かせ、大地を揺らす。

 

「くぅぅ…………」

 

武の口から声が漏れる。

 

(やはり強い……実力も経験も、今の俺ではかなわない……しかしOSの違いによる性能差を十分に活かすことができれば……)

 

繰り返しになるが、真壁はいわゆる精鋭だ。練度は非常に高く、豊富な経験は現時点の武の比ではない。実際の身体を用いた剣術にしても、免許皆伝のその実力は武を上回っているだろう。そんな相手に対し、勝ちの目があるとすればそれは新型OSによる利点を最大限に活かすことにある。

 

武の瑞鶴の跳躍ユニットが真壁側を向く。逆噴射制動(スラストリバース)だ。武の瑞鶴が急速後退を始める。

武に36ミリが火を噴いた。その光弾が真壁機に迫る。

真壁もまた回避行動をとる。垂直跳躍(バーチカルブースト)で急上昇した。

武は36ミリを牽制的に使用しながら、瑞鶴を操作する。瑞鶴の跳躍ユニットは通常の方向に戻る。その後は逆噴射機構(スラストリバーサー)によって後退する。その速度は下がるが、真壁機との距離は十分だ。

真壁機の機動が変わった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ」

 

武が咆哮し、真壁機に突っ込む。跳躍ユニットはその性能限界まで推力を上げ、瑞鶴の速度もまたギリギリまで上がる。

真壁機も武機に迫る。

互いの機体から36ミリの雨が降る。

圧倒的な速度にあってなお、両者とも戦術機の操作は失わない。

正面対峙(ヘッドオン)

空中で両機体が激突する。

 

高速の中、武の74式近接戦闘長刀が真壁機に迫る……真壁機の長刀がそれを受け流す。

一瞬すさまじい音が響き、機体がすれ違う。

両者ともに重大なダメージはない。

 

武はその場で垂直軸反転(バーチカルターン)し、追撃に移る。

跳躍ユニットを瞬間的に限界まで酷使し、失った速度を取り戻した武。真壁機もすでに態勢をもとに戻している。とはいえ武に十分な追撃を行える様子ではない。それは練度の差ではなく、OSの差だ。

新型OSによる先行入力はこういったときに効果を発揮する。そしてその一瞬の差が勝負を、生き死にを分けることは戦場では多々ある。

武の機体が真壁機の目の前に至る。

 

(とった…………っ!!)

 

その時、武を殺気が襲う。いや、それが本当に機体ごしの殺気か、それはわからない。ただこの瞬間、武は確かに感じた。このままいけば切られるのは自分だと。

新型OSのもう一つの目玉機能、キャンセル(強制終了)を実施する。 

真壁機に迫り、刀を振り上げていた武の瑞鶴の機動をキャンセルした。跳躍ユニットの向きを変更する時間はない。OSの反応速度がどれだけ早くなっても、物理的な速度に限界はある。逆噴射機構(スラストリバーサー)を使用し減速、そして後退する。

途端……真壁機の……敵の赤い瑞鶴から、先ほどまで武機があった場所に一筋の光が通った。真壁機の74式近接戦闘長刀である。

 

「あぶないっ……もう一瞬遅ければ……」

 

武はその次の言葉を口にしなかった。否、できなかった。

今度は真壁機の追撃が武に迫る。

 

「くっぅ……」

 

急いで操縦桿を動かす。中央処理装置の性能の向上は、武ー衛士ーの操作が戦術機本体の機動に反映されるまでの時間を短縮する。

瑞鶴が一歩後退し、跳躍ユニットが動き、横方向へと移動する。

長刀と長刀が何度も何度もぶつかる。

つば競り合いがおきて、両者の機体が押し戻される。

 

(どうにかしてこの戦況を打破しなければ…………)

 

操縦桿をより複雑に動かし、強くフットペダルを踏む。より三次元的に真壁機を攻める。

武の瑞鶴が宙を舞う。

周囲のビルを足場にしながら三次元的に動く。

真壁機も負けじと動き出した。巴戦だ。

 

武機と真壁機、二機の瑞鶴が都市の中を飛んだ。優雅に、華麗に。それはまさしく、瑞鶴に込められた「折り鶴のように端正だ」という名の由来を明確に示していたといっていいだろう。事実、その映像を見ていた斯衛軍関係者の多くは思わずため息をついたのだから。

それもただ美しく飛んでいるだけではない。36ミリの嵐が吹き荒れ、二機が近寄れば剣と剣がぶつかる音が響く。

いや、だからこそ見るものに美しいと感じさせるのかもしれない。決して魅せる飛行ではないが、お互いがお互いに本気で勝とうとして、そして両者とも圧倒的な練度を誇るからこその美しさ。それを斯衛軍関係者たちは見たのだ。

 

とはいえそんな格闘戦(ドッグファイト)も永遠には続かない。終わりの時が近づいてきていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

武の息も上がってきた。決着を早くつけたい……そう思った刹那、武の頭の中にあるイメージが浮かんだ。

それは武の平行世界のもの。

ある世界で、武は戦っていた。この世界の武には到底できないような。思いつきさえしないような機動で。何体、いや何十体もの要塞級を斬っていく。

ある世界で、目の前の画面に映った、戦術機とは異なるロボットを動かし、また別のロボットと戦っていた。

そして武の身体は無意識に動きだす。

 

操縦桿を動かし、間接思考制御はその補佐をする。

武の瑞鶴が真壁の瑞鶴の上をとった。

武の瑞鶴は突撃砲をとうに放棄し、長刀を両手を使って持ち、そして振りかぶる。

そこでキャンセル、機体を地面へとおりさせる。

通常なら遅延が発生するところ。新型OSの真価が発揮される。

武の瑞鶴の長刀が斜め下から真壁機に迫った。

 

しかし武の一撃は寸前のところで防がれる。とはいえ態勢は優位。追撃をすれば勝ち切れるかもしれない。

そんな最中に頭の中によみがえるのは師の言葉。

 

武が師事した紅蓮醍三郎は無現鬼道流の使い手であり、当然武もそれを学んでいる。

日本において剣術は室町時代に体系的になったものが現代までに伝わる各流派の源流といわれる。そしてこの無現鬼道流の源流は「陰流」と言われているが、愛洲移香斎久忠を開祖とするこの流派の理念は「転し(まぼろし)」、相手を制する変幻自在の剣。

 

切り結んだ剣が押し返される瞬間、少し横へと動く。

真壁機の切り替えしを避け、何度か剣で切りかかる。そしてそのまま押し込むと、体勢を崩した真壁機。

追撃する武。

瑞鶴が74式近接戦闘長刀を振りかぶり、跳躍ユニットをふかせる。

 

「うぉぉぉぉぉ……」

 

咆哮とともに切りかかる。

刹那、瑞鶴のもつ長刀が、真壁の乗る瑞鶴を袈裟斬りにした。

爆発エフェクトが真壁機を覆う。勿論統合仮想情報演習システム(JIVES)による視覚効果にすぎない。

 

 

ーーーー

 

その後、演習はおおむね武たち小隊が優位に進めた。武が02と合流し、敵、ウルフ02を落とすと敵小隊は瓦解状態に陥った。03、04と戦っていた敵分隊は流石というべきか、連携練度が違った。OSの差をうまくカバーしていたといえるだろう。互角か、あるいはウルフ分隊優位に進んでいたといえるほどに。それでも敵機を落とした武と02が合流すると、多勢に無勢。4対2となった残存機体は時期に撃墜された。

 

終了後、武のもとには多くの人間が顔を出していた。

 

「いやはや、見事にやられてしまったな。完敗だ」

 

負けたことには悔しそうに、それでも清々しいような感じで、真壁少佐が武に話しかけてきた。

 

「いえ、少し違えば私が負けていたと思います」

 

「そう謙遜するな。私に勝ったのだ。胸を張りたまえ」

 

「はっ。ありがとうございます」

 

「しかし例の新型OS、見事なものだ。演習の最中、ほぼ互角の状況の中で間違いなく貴官の瑞鶴の反応は早かった。あれは白銀少尉のいう先行入力を使っていたのか?」

 

真壁が話を変え、話題は新型OSとなる。それこそが本演習の肝であり、真壁も衛士としてそれが気になったのだろう。ある意味、当然の反応といえる。

 

「その通りです。もともと中央処理装置の性能が向上しているのもありますが、先行入力を行うことで少佐の機体よりも常に早く反応させていました」

 

その武の答えに真壁は少し考えこんでからいう。

 

「なるほど……慣れるために多少の訓練は必要だろうが……それだけでも衛士にとって大きな利点だ。では戦闘中の振りかぶってきたと思った途端に機動を変え、下より攻撃してきたあの技は……」

 

「はい。あれは強制終了と先行入力の組み合わせによって行ったものです」

 

「……あれは素晴らしかった。実行寸前のところを中断し、次の技へと繋げる。そしてそれは先行入力と処理装置の性能向上によって可能になる。あれ以外にも今までできなかった機動ができるようになろう…………なるほど、より自由に、思った通りの操作を、か。私も新型を使うのが楽しみだ」

 

高い評価を口にする真壁。演習に負けたから武をたてている、というわけではないだろう。本当の意味で、心の底から思っているのだ。そういう感情が見て取れる。一人の衛士として本当に配備を望んでいる。そして楽しみにしている。

 

「ありがとうございます」

 

「真壁少佐!!」

 

そこに真壁の部下と思われる軍人が現れた。

 

「おや、どうやらお呼びがかかったようだ。すまないが少尉、挨拶はこれまでとさせてもらう。機会があれば、是非新型OS搭載機の機動についてご教授願いたいものだ」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

敬礼する武に返礼する真壁。

部下らしき軍人とともに武のもとを後にした。

 

ーーーー

 

次に現れたのは巌谷だ。それも山吹色の斯衛軍制服を着た男を伴って。

 

「お疲れさまだな。白銀」

 

少し楽し気に、うれしげに笑いながら巌谷が武に話しかける。

武は敬礼して出迎えた。

 

「お前に紹介したい男がいてな。連れてきた」

 

その言葉を聞いて武の目線は巌谷の隣にいる男に動く。斯衛軍の制服を着た男。歳のほどは巌谷と同じくらいだろうか。

巌谷の声が続いた。

 

「こいつは篁祐唯少佐。普段は東京や米国にいる故会う機会は少ないだろうが、この機会にな。瑞鶴をはじめとした国産兵器開発に数多く関わっている」

 

巌谷が多少雑ながらもその男を紹介する。そう篁祐唯というのがその男の名前。篁家当主であり、瑞鶴や74式近接戦闘長刀の設計を行ってきた経歴の持ち主だ。

 

「篁祐唯だ。白銀少尉、君には前々から興味を持っていてね。今日の演習も見事であった」

 

「ありがとうございます。篁少佐、戦術機や戦術機用長刀開発で馳せたそのご高名、存じ上げております」

 

「そうか。しかし白銀少尉とは実務的な話をしたいものだ。少尉の新型OSとそれに伴う新機動は戦闘を大きく変え得る。今日の演習で確信したよ。戦術機開発に関わるものとして君とはいずれ、ともに仕事をしたいものだ」

 

篁の評価も高い。戦術機開発を行う立場の篁であるが、同時に衛士でもあり、篁示現流の免許皆伝をもつ武人でもある。実戦的な視点がもっているからこそその有用性がわかるのだろう。

 

「はっ。私としても是非戦術機開発のお話、伺えれば光栄でございます」

 

「うむ。いずれ機会をつくろう……」

 

武と巌谷、そして篁が話している中に一人の壮年の男が近づいてくる。

 

「あなたは……」

 

篁が言葉を失った様子で呟く。

 

「話している最中に失礼かとは存じますが、互いに忙しい身。声をかけようとしていた方が揃っている。私もその話に混ぜてもらってもよろしいですかな?」

 

そう言いながらよってくる男。

 

「失礼。白銀少尉ですね。私は河崎重工の常務を務めています、千堂と申します」

 

帝国の軍需産業の中でも戦術機開発を行える数少ない企業。そして戦艦から戦車、戦術機まで総合的な兵器開発、生産を行える企業。全世界が総力戦を行うこの世界で、国家に占める影響力が大きくなったこの世界で、この帝国一二を争う軍需企業。

その常務が今、武たちの前に立っていた。

 

「常務……………………?」

 

思わず口から声が漏れる武。

 

「っ失礼しました。帝国斯衛軍白銀武少尉であります」

 

敬礼しながら自己紹介を行う。

一つ頷き、千堂常務は話し始める。

 

「君が新型OSの基本概念を提唱したというのか本当なのですか」

 

「ええ、本当です。白銀少尉が提唱した基本概念を基礎とし、開発を行いました」

 

その問いに答えたのは巌谷だ。どうやら面識があったように見える。

 

「なるほど。少尉、あなたの開発したOS、私は衛士でないので細かいところはわからないが、従来の戦術機の概念を一変させる可能性があるもの、そう聞きました。私からしても確かに従来のものとは全く違うようだ」

 

ここで篁がうなずいている。

 

「弊社が戦術機開発を行っているのはご存じのところかもしれませんが、今後このOSが斯衛軍や帝国軍に標準配備される場合、それを前提とした開発が必要かもしれませんね。その際は是非、白銀少尉のお力をお借りしたい」

 

「光栄です。私の一存では明言できかねますが、機会があれば是非協力させてください」

 

将来有望な衛士で、開発にも関わるであろう武という存在に、いち早く接触すること。武からしても河崎重工常務という大物と関りをもつのには利益がある。

真壁……篁……千堂……いずれも優秀な人物であり、各分野で実績を残してきた傑物でもある。彼らとの出会いは将来的に武にとっては大きな意味を持つことになるだろう。

 

ーーーー

 

場所は変わり、ある会議室。

ここには今回の演習を観戦した城内省斯衛軍の高官たちが集まっていた。

 

「して、この新型OS、どうみる……?」

 

高官のうち一人が全体へと問いかける。

 

「実際、白銀少尉はあの真壁少佐に勝って見せた。小隊としても結果としては完勝だ。そのOSの能力

認めざるをえまい」

 

ある高官が新型OSに肯定的な意見を出す。

 

「あれがOSの力でない可能性はないのだな」

 

「白銀少尉が実力で真壁少佐を上回ったと?それこそまさかだ。まだ子どもではないか」

 

「確かに子どもだが、侮れまい。実際に真壁少佐を倒しているのだから。ただまあ真壁少佐に勝った一連の攻撃、あれは例の新型OSの成果なのは確かだろう。ああいった運用ができるのは面白い」

 

「確かに。あれは斯衛軍にとっても有益でしょう。運用思想にかなっている」

 

「では斯衛軍に全面的に採用するということで話を進めますかな」

 

全体が肯定的評価に固まろうとする流れだ。

 

「それは早計では?今しばらく、しっかりと監査するべきでしょう」

 

「あの巌谷も関わっているのであろう。それに今回の演習結果。一介の少尉、それもまだ子どもが作ったという側面だけを見れば心配なのはわかるが、斯衛軍にとって十分価値のある代物だろう」

 

「そなたはどう思う?真壁くん」

 

話は真壁へとふられる。

 

「白銀少尉の実力が、その歳に似合わず尋常ではないのは事実でしょう。将来的には斯衛軍、いや我が国を大乗する衛士になるやもしれません」

 

「国を代表……かつての国家人民軍第666戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)ドイツ連邦共和国陸軍第44戦術機甲大隊(ツェルベルス)のように……か?」

 

「もちろん可能性の話です。ですがその可能性、十二分にあるかと存じます」

 

「貴官の白銀少尉の評価が高いのはわかった。では新型OSの評価は如何に」

 

「あれで未だ完全には完成しておらぬ、という話でしたな」

 

「巌谷の言では、完全ではないが実用に耐える。現時点では最高だそうだ」

 

「ふふ……確かに完全でなくとも衛士の生存率は大きく上昇するでしょうな。戦場はある一瞬が生死の分かれ目になることは少なくありません。練度の高い斯衛軍ならなおさらでしょう」

 

「真壁殿がそこまでおっしゃるか……」

 

「ではやはり問題は本当に実戦に出して問題がないか、ですな」

 

会議は纏まりはじめていた。

 

「それに関しては私に腹案がある。基本的には斯衛軍へと全面的に採用する。実戦における不備の可能性は……まあ見ておれ」

 

その男の発言をもって、この会議の大勢は決まった。




捏造設定多いです。

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