Muv-Luv Alternative 紫の白銀   作:Shikanabe

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第一章 東アジア戦線
06 次期主力戦術機開発計画


1990年

 

この年、帝国では官民ともに大激論が起こっていた。この年、喀什のオリジナルハイヴよりBETAが東進を開始。BETA大戦の主戦場はユーラシア大陸西部、欧州から大陸東部へと移りつつあった。かねてより帝国軍内部で検討されていた大陸派兵軍の創設。それが帝国議会において、将来ではなく、「今」実行するかどうかの議論の対象として行われたのであった。

 

いつかこの時が来るとはわかってはいた。BETA大戦の経緯を鑑みれば、例え民間へ公開されている情報だけでもわかっていたはずだ。人類の戦線は徐々に後退し、いつかは自国が最前線になるのだと。そしてこの時、日本国民は理解させられたのだ。帝国は、最前線ではないにせよ、それに限りなく近づいているのだと。自らが戦火に曝される日もそう遠くはないのだと。

 

それでも、後方国家の人々にとって戦争を実感することは難しい。特に日本のような島国ならばなおさらだ。大陸の情勢は、それがどうあれ対岸の火事に過ぎないのだと。それは帝国政府の努力によって変わるものでもなかった。

 

確かに徴兵制の復活は、帝国の未来に戦争が待つのだと実感させていたことだろう。しかし、やはり愛する人が、友人が、家族が、戦場へ実際に行くのだとなれば話は別だ。それがBETA大戦においてどれだけ甘い認識か、どれだけ恵まれた状況か、今この時点で、帝国人にそれがわかっていた者は一体、どれほどいただろうか。

翌年、1991年、帝国議会は帝国軍の東アジア戦線への投入を可決。帝国軍は大陸派兵軍を編成、戦術機部隊を中心とする大部隊を大陸へ派遣した。

 

1990年12月中旬

 

「巌谷少佐。此度の帝国軍大陸派遣軍の創設に伴い、大陸への出兵を希望。帝国軍への転属届けを出した、と伺いました」

 

「白銀。その通りだ。俺は大陸への派遣を希望した」

 

訪ねたのは武。ーなお巌谷は斯衛軍少佐に昇進しており、武の呼び方も「白銀君」から「白銀」へと変わっている。

 

「では少佐。自分も大陸へ連れて行ってくれませんか」

 

「貴官が?大陸へ?」

 

「はい。この国を守るため、私にはまだまだやらねばならぬことがあると、心得ております。ですがそれにも力がいる。BETAを屠るための力は実戦でなければ身につかないと。初の実戦が帝国本土、ということにはしたくありません」

 

「なるほど。理由はわかった。しかし我々はこれまでのように実験や開発のために行くのではない。戦争をしに行くのだ。当然骨を大陸に埋めることになることもあろう。その覚悟はできているのか?」

 

「元より覚悟はできております。最も大陸に骨を埋めるつもりはありません。必ずや帰国し、この地にて斯衛の本分を尽くします。無論、BETAを大陸で抑えることができるのならば、それに越したことはありませんが」

 

覚悟を問う巌谷。その視線が、武に突き刺さる。

それでも武は怯まない。覚悟などとうに決まっているのだから。

 

「……ならばいい。俺は今、帝国軍の技術廠・第壱開発局から申し出を受けていてな。帝国軍の耀光計画、純国産第三世代戦術機の試作機体の開発衛士になって欲しいとな」

 

「大陸で、でありますか?」

 

そう、帝国が目指すのは世界初の第三世代戦術機。当然帝国の持ちうる最先端技術が詰められている。日本国内での試験運用ならばまだしも、実戦によって撃墜される可能性を考慮すれば、それでなくとも他国へ国家機密が渡ってしまうリスクを考慮すれば新兵器の大陸派兵など考えられなかった。

 

「そうだ。我が国における既存の戦術機は米国製の改修型。実戦データは米軍等他国軍のものをある程度用いることができた。しかし此度のものは純国産。今後数年間での正式配備を睨めばこそ、この機会に実戦データをとってきて欲しいということだ」

 

「なるほど、理解しました」

 

リスクがあっても、どうしても必要となる実戦データ。BETAの日本本土進行を待っているわけにもいかない。純国産であるが故のデメリットだろう。

それでも、純国産であることの意義は大きいと判断されたこその開発計画であるわけだが。

 

「そこでだ、その新型のOSに貴官の作った新OS、XM3を搭載しようという案が出ている。その開発者たる貴官も招致したいとな」

 

「は?では……」

 

「ああ、貴官から言わなければ俺の方から大陸へ誘う予定だった」

 

そう苦笑しながらいう巌谷。

 

(これは一本とられたな……)

 

「そういうことでしたら、是非お供させてください」

 

「ああ、では貴様の能力、および帝国へその心身を全てを費やさんとする気概を買い、特別任務を与える。

貴様は来月付で帝国軍へと転属。国防省兵器行政庁技術研究本部・技術廠・第壱開発局に赴任し、耀光計画に参画。帝国軍次期主力戦術機開発計画の開発衛士として、耀光計画を推進するのだ」

 

「はっ」

 

敬礼と返礼。

 

「なお、今年度中に成立が見込まれている『異性起源種の侵攻への対処に関する法律』に基づき、帝国陸軍内において大陸派遣軍創立が決定された。正式な発足は来年となるが、貴様は発足後に大陸派遣軍に合流。大陸派遣軍第一研究開発団第一中隊に配属される予定だ。正式な命令と詳細は後日となる。準備し始めるのはその後で良い」

 

「了解しました」

 

こうして大陸出兵が正式に決まった武。しかしここで巌谷は述べなかったが裏事情がある。

そもそも武はこの世界では赤の家系である。第二次大戦後に廃家となった旧譜代武家出身の巌谷ならともかく、現役の、それも赤の斯衛が帝国軍に出向して出兵など認められるだろうか。出兵させるにしても斯衛軍として大陸に派遣した方がいいだろう。

 

しかし、実際に武の帝国軍出向は認められることとなった。何故か、それにはいくつかの要因がある。

一つには帝国軍の強力な要請がある。帝国軍の次期戦術機開発計画はF-15導入以降完成へ向け着々と進んいる。しかし次期戦術機がとある政治的理由からギリギリの開発スケジュールとなること。それによって将来の発展性のための構造的余裕に乏しくなることが予想されていたこと。これによって新型の能力向上はOS面に頼らざるをえないこと。これらの要因から武の作った新OSは帝国軍とって喉から手が出るほど欲しいものであった。

またこのOSには武の新規機動概念も盛り込まれており、その相性は世代が新しくなればなるほど良くなる(機動性が上昇するため)からそもそもOSの出来次第ではOSの運用前提とした機体を作ろうという思惑もある。

 

また斯衛軍にしても新規OSの実戦評価を行え、さらなる機能向上が見込めるだけでなく、来るべき次期斯衛軍主力戦術機開発のためにもハード、ソフトの両面における国産開発能力の向上は重要なテーマである。煌武院家は武の派遣に反対せず、他の五摂家も同様であれば、帝国軍への借りを作れることも含めて斯衛軍としても意固地になって否定することはなかった。

ただし、武は大陸派遣より帰国後は斯衛軍に復帰することが条件ではある。

 

この斯衛軍と帝国軍の思惑が一致したことによる帝国軍次期戦術機開発、実戦運用試験計画は両軍の技術的交流を活発化させ、後の一型丙評価プロジェクト等の合同計画へと繋がっていくのは余談である。

 

「また新規OSの早期開発への恩賞として煌武院公の推薦に基づき、来月付で臨時少尉から中尉に昇進とする。大陸では小隊を任せることになると思う。よろしく頼んだぞ」

 

武は今まで正式な衛士ではなかった。それは偏に年齢のためであり、開発衛士として開発を行う際には臨時少尉として参加。その立場はあくまで暫定的なものであった。

とはいえ新OSの開発が一段落し、斯衛軍の各戦術機に搭載されることとなり、さらには帝国軍機への搭載可能性もある。年齢も14となる。となれば(少々若いが)任官は十分に可能であり、武の戦術機操作技術、開発衛士時に行った指揮官訓練でも能力の高さ。それらを鑑みれば中尉というのもあながちおかしな話でもない。

元より斯衛軍は特殊な軍隊であり、武の家格も考慮されるというのであればなおさらである。

 

「はっ」

 

「ではこれで本日は解散とする。正式な事例を待て」

 

敬礼。

敬礼に対して見事な返礼をして見せ、巌谷は退出した。

地獄への入り口にたった武。大陸での初陣をどのように迎えるのか、大陸派遣軍に参加した一人の斯衛軍人は帝国の行く末をどう変えるのであろうか。

 

 

 

 

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