水精リウラと睡魔のリリィ   作:ぽぽす

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第一章 家族 中編

 リリィは湖に押し込まれると同時に、潜水魔術を発動させる。

 

 身体全体に薄い膜がぴったりと張りついたような感覚を感じた直後、リリィにかかる水圧と感じられる水の冷たさが急激に減少し、水中であるにもかかわらず呼吸ができるようになる。

 

 視界がゴーグルをかけているかのようにクリアになると同時に、リリィは周囲の水を操作して右に素早く移動し、水蛇(すいだ)の突進をいなすことに成功した。

 

(……はは……リウラさんの特訓、大正解だったね……)

 

 “怪獣”と呼べるほど巨大な生物を前に、震えながらも(かろ)うじて行動できているのは、まぎれもなくバギルとの戦いの経験のおかげだった。

 あの戦いを()けていれば、恐怖心にとらわれたリリィはリウラを救うことができず、永遠に失うことになっていただろう。

 

 リリィはすぐに水面に向かって上昇を始める。

 サーペントは水中もしくは水上でしか活動ができない。だから、空中もしくは陸上に上がってさえしまえば、逃げることはそう難しくない。

 

(!!)

 

 しかし、すぐに回り込まれてしまった。

 龍のような巨体からは考えられないほどのスピードだ。流石は水棲(すいせい)生物といったところか。

 

 だが、気になるのはスピードよりも……

 

(……こいつ……頭を使ってる……?)

 

 通常であれば、追いつけるスピードがあるのなら直接背後からリリィを襲うはずである。

 それをせずに回り込むということは、“リリィを水中から逃がさない事”が一番重要であると理解していることを示している。

 

 本能のなせる(わざ)か?

 リリィは“違う”と気づいた。

 

(最初……こいつは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 “直接危害を加えるなどの特殊な例外を除き、水棲生物は水精(みずせい)を襲わない”。それは、魔王の魂の知識にもある常識だった。

 もし、襲ってくるとするならば……

 

(誰かに操られている……もしくは、命令されている……!!)

 

 召喚用の魔法陣から現れたことも、その推測を裏づけている。

 この水蛇は、誰かの使い魔だ。

 

 リリィは水の大剣を正眼(せいがん)に構えると、この事態を解決するために必死で頭を回転させる。

 

(まずは、水中から抜け出さないと……)

 

 リリィの潜水魔術は、水中における呼吸・発声や、水流操作による移動及び視界確保など、多数の機能を常時発動させている。そのため、水中にいるだけで多くの魔力を消耗してしまうのだ。

 このままリリィを湖の中に(とど)めておくだけで潜水魔術の効果が切れ、リリィは溺死してしまう。

 

(まずは……相手を(ひる)ませて、その横を通り抜けてみる!!)

 

 リリィは剣を肩から(かつ)ぐように構え直すと、水蛇の眼に向かって突っ込んだ。

 

 すると、水蛇もリリィに向かって突進を始める。

 狙いがずらされ、水蛇の口がリリィを噛み殺そうとするが、そうはさせじとリリィは身体を横にずらしながら、目の前に来た水蛇の上顎(うわあご)に斬りつける。

 

 ゴッ!

 

 リリィは危うく取り落としそうになった大剣を慌てて握り直す。

 その巨体から繰り出される恐ろしいほど重い突進に、思い切り魔力を込めたはずの両腕はじんと痺れが走っていた。

 

(硬い……!!)

 

 まるで(なまり)を全力で殴ったかのような手ごたえだ。リウラが(つく)った水剣程度では、まともに傷がつかない。いや、折れなかっただけ、まだマシというものか。

 

 リリィの眼前でうねった水蛇の胴体がリリィを打ち()えようと(せま)り、すんでのところで回避するも、その隙にまたリリィの上方を水蛇に陣取られてしまう。

 

 リリィの表情には明確に焦りの色が浮かんでいた。

 

 

***

 

 

「……早く……!! ……早く……!!」

 

 リウラは湖へずりずりと()いながら進む。

 リウラの頭の中はリリィを助けることでいっぱいだ。少しでも早く、と必死になって腕と足を地面に(こす)りつけながら前へ進んでいく。

 

「……あと……!! ちょっと……!!」

 

 もうすぐ岸に手が届くというところで、その手がリウラと同じ半透明の腕に(つか)まれた。

 

「!? ティア!!」

 

 リウラの手を掴んだのは、どこかの貴族のように立派な意匠(いしょう)の水のドレスを着たロングヘアーの水精だった。

 

 彼女はリウラが生まれる直前に隠れ里の外からやってきた水精の1人で、見た目は20代中頃と大きく(とし)が離れているものの、実はリウラと(おな)(どし)である。

 そのため、最も(とし)近く、親しい姉として共に育ってきた存在だった。

 

「お願い、私を湖に入れて! リリィが危なくて! 助けなくちゃいけなくて! だから!!」

 

 焦ったリウラの要領を()ない説明を聞いていないのか、ティアと呼ばれた水精は何の反応も見せることなくグイとリウラを引っ張り上げて肩を貸すと、()()()()()()()()()()()歩き始めた。

 

「ティア!? 聞いてるの!? 私はリリィを助けなくちゃ――」

 

「諦めなさい」

 

 (かぶ)せるように言われたティアの一言に、リウラの思考は固まった。

 

 やがてじわじわと言葉の意味が染み込んでくると、リウラはズンと腹の底が重たくなったような感覚に襲われる。

 

「何を……言って……?」

 

「『私たちでは助けられない』と言っているの」

 

 有無を言わさない力が込められた一言だった。

 

「あれがどれだけ恐ろしい魔物なのか、あなたは理解したはずよ。ここにいる水精全員が(たば)になってもあれには(かな)わないわ」

 

「倒せなくてもいい! リリィを助けることができれば……!!」

 

「どうやって? 言っておくけど、あなた程度の攻撃じゃ、あの魔物を怯ませることすらできないわよ? おまけにあの大きな身体でリリィの泳ぐスピードを軽々と追い抜いてるから、逃げることもできないわ」

 

 リリィの扱う潜水魔術は非常に優れている。水を(つかさど)る精霊であるリウラが泳ぐ速度と比較しても何ら劣ることはない。

 その速度を軽く上回るのであれば、リウラが向かったところで、逃げることなど不可能だ。

 

「何とかする! 私が何とかするから! だから私を湖に戻して!!」

 

「そういうセリフは、まともに身体を動かせるようになってから言うことね」

 

 “これ以上の問答は無用”と、ティアは歩くスピードを上げて、リウラを引きずってゆく。

 

 淡々(たんたん)と事実だけを述べてリリィを切り捨てたティアだが、彼女は決して冷血漢という訳ではない。

 

 リウラは考える前に行動することが多いため、そのつもりが無くてもリリィへの対応が雑になることがしばしばあった。

 そんなときに()ぐにフォローしてくれたのがティアだ。

 この一週間、ティアはリリィを仲間の水精達と同じように扱ってきた。だから、リリィがとても良い子であることをティアも良く知っているし、ティア自身リリィのことを好ましく思っている。好きで見捨てるわけがない。

 

 そして、そのことはリウラもよく理解している。

 だからこそ、信じられない……いや、信じたくないのだ。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ティアが歩く方向に何があるか、リウラは思い出す。

 緊急時に避難するための隠し通路だ。そこから地底湖を出てしまえば、もうあの水蛇は追いかけて来られないだろう。

 

 リウラの命は保証される……だが、それは同時にリリィを見殺しにすることも意味していた。

 

 ――ティアの歩みが止まった

 

「……リウラ……何のつもり?」

 

 リウラが両足を()()ってティアの歩みに抵抗していた。

 いつの間にか、リウラの身体の震えは止まっていた。

 

「リウラ。こっちへ来なさい」

 

「嫌」

 

 迷いのない即答。

 ティアは眉をひそめながら語気(ごき)を強める。

 

「こっちへ来なさい!」

 

「嫌!!」

 

 リウラはティアの眼を(にら)みつける。

 ティアはリウラの腕を強く引きながら叫ぶ。

 

「リウラ!!」

 

「い・や・だあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

 

 リウラはティアの腕を思い切り振り払い、必死の形相(ぎょうそう)で強烈な拒絶の意志を叩きつけた。

 

 その叫びはリウラが己の命を懸けて水蛇と戦う決意を示す覚悟の雄叫(おたけ)び。

 リリィを心から愛し、“助けたい”と思わなければ到底なしえない魂の咆哮(ほうこう)だった。

 

 リウラは思い出す。

 リリィと初めて出会った時の、彼女のすがるような弱々しい瞳を。

 『リリィを護る』と伝えた時の、彼女の心の底から安心した表情、そして嬉しさに止まることのなかった涙を。

 

 他人を平然と奴隷にしたり殺したりする者達がいる世界で庇護者(ひごしゃ)をなくす恐怖、そして己の唯一の家族を失う心細さと寂しさは、当事者にならねば決してわからない想像を絶するもののはずだ。

 

 しかし、リウラはリリィが弱音を吐いたところを見たことがなかった。

 それどころか、リリィは未来を見据(みす)えて、積極的に(ひと)()ちするために自ら動き始めた。

 魔族には放任主義の者が多いため、独立心が高い子供が多いが、それでも驚嘆すべき精神力である。

 

 そんなリリィが唯一甘える存在がリウラであった。

 

 リリィは、可能な限りリウラの(そば)を離れようとしなかった。

 そして、ことあるごとにリウラに対してスキンシップを求めてきた。

 『手をつないでほしい』『抱きしめて欲しい』『一緒に寝て欲しい』と、申し訳なさそうにしながらも、何度もリウラにお願いをしてきたのだ。

 

 リウラだけが、今のリリィの心の()(どころ)であることは明白だった。

 そんなリリィを見ていて、リウラの胸に自然と湧き上がってくる想いがあった。

 

 

 ――この子を心の底から安心させてあげたい

 ――この子がずっと笑顔でいられるようにしてあげたい

 

 

 

 ――そして、この子の新しい“家族”になりたい、と

 

 

 

 この想いを自覚したとき、自然と『リリィを護る』という言葉が口を()いて出た。

 

 だが、それは決して軽々しい思いから出したものではない。

 リリィに襲いかかる様々な苦難を思い浮かべた上で、『それでもリリィを護りたい』という願いから生み出された言葉であり、リウラが自分自身に対して結んだ“約束”であった。

 

 いくらティアの言うことであっても、この“約束”を破ることだけはできない。

 

「私はリリィの家族だ!! 『私が護ってあげる』って、リリィに約束したんだ!! だからリリィは私が絶対に助ける!!」

 

 その叫びはティアの要求に対する拒否だけでなく、自分自身に対して“誓いを守る”ことを言い聞かせる意味もあった。

 リウラは“必要なことは言い終えた”とでも言うようにティアに背を向け、まっすぐ湖へと走り出す。

 

「リウラ! 待ちなさい!!」

 

 リウラはそのまま迷いなく湖へと飛び込んだ。

 

 ティアはリウラの飛び込んだ水面を見つめ、わずかな間逡巡(しゅんじゅん)すると、すぐに湖に背を向けて走り出した。

 

 

***

 

 

(はあっ!!)

 

 何度目になるかわからない水蛇の突進を水蛇から見て上方向に(かわ)し、リリィは魔力を込めた右の拳打を叩きこむ。

 拳打は眼を狙ったが、あっさりとずらされる。だが、狙いをずらされても問題はない。

 

 リリィの拳が水蛇の肌に触れた瞬間、拳に集中した魔力が水蛇とリリィを逆方向に弾き飛ばす。

 

 ――体術 ねこぱんち

 

 性魔術による魔力吸収を(かて)とする睡魔族(すいまぞく)や、強盗ではなく盗みを主目的とする猫獣人(レイーネ)の盗賊など、戦闘をあまり得意としない者達が好んで習得する特技だ。

 

 拳に集中した魔力や闘気をインパクトの瞬間に思い切り弾くことで敵や自分を弾き飛ばし、敵と距離を取ることを主眼(しゅがん)とする護身技である。

 

 生まれて間もなく幼いリリィも、護身のために魔王の部下から習って、この技を習得している。リウラを救う際に使った拳打もこの技である。

 

 しかし、リウラを救った時とは違い、常に水蛇に狙われているこの状況では、突進して威力を高めることもできないうえ、水中では水の抵抗が邪魔をして相手や自分を遠くまで弾き飛ばせない。

 

 リリィはすぐに水蛇に回り込まれ、水面への逃げ道を(ふさ)がれる。

 

(……やっぱり眼を狙うしかない)

 

 リリィは水蛇の牙を躱しながら、心の中でつぶやく。

 

 リリィは、あれからいくつもの意表をつく手・驚かせる手・注意を()らす手を試してみたが、いずれも失敗に終わっていた。

 ちょっとやそっとの時間を稼いだくらいでは、水蛇にすぐに追いつかれてしまうのだ。

 

 長時間相手を行動不能にするにはどうすればよいか――相手が怯み、ショックを受けるほどのダメージを与えてやればいい。

 そして、この頑強な水蛇にリリィがダメージを与えられる箇所は眼球しかなかった。

 

 それは初めから理解しているし、だからこそ何度も眼球を狙って攻撃はしている。

 しかし、水蛇の反応速度がリリィのそれを上回っているため、どうしても当てられない。

 

 水の抵抗や相手のスピード……そういった諸々(もろもろ)のマイナスの条件を無視して、狙った箇所に命中させられる……そんな都合のいい技なんて……

 

(……あった……!!)

 

 リリィがほとんど期待せずに魔王の魂の記憶を検索すると、それはあった。

 リリィの魔力ではたいした威力にならないが、眼球を狙うのであれば問題はない。

 

 最初からこの魔術を探していれば……と悔やむが、彼女に戦闘経験がほとんど無いことを考えれば、思いついただけ上出来だろう。

 

 リリィは剣を右手に持ち直し、空いた左手の人差指に魔力を集中させ、指先に漆黒の魔弾を形成する。

 

 リリィは回避行動を続けながら指を水蛇に向け、慎重に狙いを定める。

 水蛇は高速で動く上に胴体にも見た目だけ眼球と同じような器官が並んでいるので、非常に狙いづらかった。

 

(……そこ!!)

 

 水蛇がリリィを噛み殺そうと真正面から突進した瞬間に、リリィは動いた。

 

 リリィの指先から魔力の矢が数本同時に発射され、水蛇の眼球へと迫る。

 

 水蛇はそれを察知すると素早く首を傾け、魔矢を回避する。

 魔矢自体もかなりのスピードがあるにもかかわらず、信じられない反射神経である……が、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ――リリィが放った全ての魔矢は突如(とつじょ)その軌道を変化させ、まるで生き物のように水蛇の顔面を追尾し、正確にリリィが狙った眼球へと突き刺さった

 

 

 

 ――純粋魔術 追尾弾

 魔力そのものを加工し、()()()()()()()()複数の魔矢として放つ魔術である。

 

 

 

 ――――――――!!!!!!!!!

 

 

 

 リリィの猫耳がじんと痺れる。

 

 水蛇の叫びは水中を駆け抜け、リリィの身体の芯へと響き渡り、リリィの行動を一拍(いっぱく)遅らせた。

 

 直後、水蛇が激痛に激しく身体を暴れさせ、湖中の水がまるで洗濯機の中のように激しく荒れ狂う。リリィは混沌とした濁流にのまれ、どちらが上かもわからなくなってしまった。

 

(ッくぅっ!! 早く……! 早く上に上がらないと……!!)

 

 リリィの魔力はもう限界だった。今、湖から逃げ出さなければ、十中八九、潜水魔術を続けられなくなり溺れ死んでしまう。

 

 リリィが何とか体勢を整え、水面を目指そうと顔を上げたその時――

 

(え……)

 

 リリィの身体は、今まさに閉じようとしている水蛇の(あご)の軌道上にあった。

 

(ッ……!!)

 

 リリィは思わず頭を両腕で(かば)いながら、目をギュッと(つぶ)る。

 

 次の瞬間、リリィが感じたのは、巨大な牙が身体をえぐる激痛ではなく、自分の(かたわ)らで急速に高まる、彼女が最も慣れ親しんだ人物の魔力であった。

 

「ッぐっぎぎぎぎぎぎぎ……!!」

 

「リウラさん!?」

 

 リウラは水に自身の魔力を通して強固な太い柱を瞬時に5本も水蛇の口内に作り、水蛇の顎が閉じるのを防いでいた。低位の水精であるティエネー種とは思えないほどの展開速度と強度である。

 

 しかし、顎を閉じにくいよう口内の奥のほうに水柱を創っているにもかかわらず、その水蛇の顎の力に押し負けて、徐々に水柱が歪んでいく。

 

「リ……リぃ……!! 早く逃げ「リウラさん!! そのまま!!」……って、ええぇ!!??」

 

 リリィは潜水魔術の効果でリウラに叫ぶと、驚くリウラを背に、水蛇の口内へ飛び込んだ。

 

 ここでいったん退()いたところで、水面まで逃げるアイディアなど無い。すぐに追い込まれて、魔力切れを起こしてゲームオーバーだ。

 

 リウラが水蛇の動きを止め、口を開かせたことはリリィにとって、これ以上ないファインプレーだった。

 この手の頑丈な敵は、目や関節……そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぃやああああああああああ!!!!!」

 

 大型の魔物は相手を丸呑みすることも多いため、相手が胃の中で暴れられないよう、胃袋も胃液も強力な場合が多い。

 一寸法師よろしく胃の中に飛び込んでも、胃液で溶かされてしまう可能性のほうが高いのだ。

 こういった場合、通常であれば丈夫な胃壁をも貫ける高威力の魔術を胃に向かって放つところである。

 

 しかし、魔力切れ寸前のリリィに、より大きな魔力を消費する“高威力の魔術の使用”は精神的に強い抵抗があり、また、思いがけず降って湧いた大きなチャンスが“このチャンスで水蛇を仕留(しと)めたい”という焦りを生み出し、リリィに別の選択肢をとらせてしまう。

 

 リリィの残り少ない魔力では、魔術で胃壁に穴をあけられるかさえ微妙なところだ。

 だが、リリィの肉体を魔力で強化し、突進して水剣で突き刺せば、単に魔術を放つ以上の貫通力がある。

 

 しかし、先の理由から水剣を持って胃の中に飛び込むことはできない。ならば、どうするか?

 

 リリィは水柱を避けながら奥へ奥へと進みつつ、残った魔力を振り絞って全身を強化する。そして、

 

 ――体当たりするように、思い切り水蛇の口蓋(こうがい)……人間で言う軟口蓋(なんこうがい)の位置へ水剣を突き立てた

 

 頑丈な皮膚にも鱗にも覆われていない部分であり、かつ脳や神経などの重要な器官が集中している箇所に近いであろう部分……そこを傷つけることができたなら、この化け物を倒せるはずだとリリィは考えたのだ。

 

 リリィの渾身の一撃は、水蛇の口蓋へ深々と突き刺さる。

 

 ガクン!!

 

 だが、リリィの持つ水剣の長さでは急所に届かなかったのか、はたまたそこには急所が無かったのか……水蛇は動きを止めるどころか、口内に走る鋭い痛みに先程以上の悲鳴をリリィに()びせかけ、口内のリリィを振り払おうと大きく首を上下左右へと振り乱した。

 

「う、うわわっ!!「わあああっ!?」……っ! リウラさん!!」

 

 リリィはとっさに上顎に突き刺さった水剣にしがみつく。

 しかし、予想外の声撃を受けて怯んでいたリウラは体勢を整えることもできず、歪んだ水柱とともにリリィの視界の外へと弾き出された。

 

(……まずい!! 詰んだ!?)

 

 リリィは無茶苦茶に暴れる水蛇から振り落とされないように、必死に水剣に両手でしがみつくことで精一杯だ。

 魔力もそろそろ底が尽きる。万事休すだった。

 

(……どうする!? どうすればいい!?)

 

 リリィは何とか打開策を見つけようとするが、焦りに空回りする思考は何の回答も示してくれない。

 

 “このまま死ぬしかないのか……?” リリィの心が絶望に染まり始めたその時――

 

 ドンッ!! ドドドド……!!!

 

 突如、水蛇の頭が左方向へ向かって振動する。

 

(……これは……)

 

 リリィの瞳に希望の(あか)りがともった。

 

 

***

 

 

「レイン、レイク、あんまり前へ出すぎないで! シーさん、もう少し派手に動いてください! シズク、そろそろリリィを助け出すから、準備お願い!!」

 

「わかった! レイクちゃん、こっち!!」

「オッケー! レインちゃん!!」

 

「承知いたしました!」

 

「……わかった」

 

 水蛇の周囲を10人足らずの水精が動き回り、次々と攻撃を加えていく。

 

 やや幼い双子のセミロングの水精達は、息の合った動きで水蛇の周囲を泳ぎ回って次々と水弾や水刃を放ち、美しい巻貝の耳飾りを付けた水精が、自分の前方に水壁を張りながら巨大な水弾をチャージしては放っている。

 

 たすき()けにされた水の巫女服を(まと)った長髪の水精は、精神を集中させながら出番を待ち、ティアは自身も攻撃に参加しながら、全ての水精に次々と指示を出している。

 

 リウラはその様子を呆然と見ていた。

 

「みんな……なんで……?」

 

 ティアは水蛇を睨みつけたまま、表情を苦いものへと変えて叫ぶ。

 

「『私が責任もってあんた()を連れてくる。だから先に行け』ってロジェン様に伝えたら、まわりにいた娘たちが『自分も一緒に助けに行く』って聞かなかったのよ! ロジェン様も『戦える力があって、死ぬ覚悟がある奴は行って良し!』なんて、バカなことを言うし! ああっ! もうホント、みんなバカばっかりよ!!」

 

 ロジェンとは、この水精の隠れ里を(おさ)める(おさ)の名前だ。

 ティアにも負けないほど立派な水のドレスを纏うカリスマに満ちた水精で、隠れ里を考案・創設した人物でもある。

 

 彼女は困っている水精がいたら助けずにはいられない優しさに溢れた人物なのだが、流石に水精達の長の立場を、そして他の戦えない水精達を(ほう)ってまでリウラ達を助けに来ることはできなかったようだ。

 

 だが、水精達に大切な仲間を……リウラ達を助けに行く許可をくれた。

 そして、みんなは死を覚悟してまでリウラ達を助けに来てくれた。

 

 特に巻貝の耳飾りの水精――シーはロジェンの右腕とも言える水精だ。

 彼女がここに居ることが、ロジェンがリウラ達を大切に思い、心から助けたいと思っている何よりの証拠である。

 

 リウラの目頭(めがしら)が熱くなる。

 涙は流れず、浮かぶ(はし)から湖に溶けて消えていく。

 

 リウラは、あの水蛇と対峙することがどれほど恐ろしいか、身を(もっ)て知っている。

 にもかかわらず、こうして助けに来てくれた仲間たちに感動し、身が震えた。

 

(みんな……ありがとう……!!)

 

「リウラ!」

 

 ビクン!! リウラは肩を震わせてティアへ振り返る。

 

「何をぼさっとしているの!! 私たちがアイツの気を引いているうちに、さっさとリリィを引っ張って連れてきなさい!! 無理なら私かシズクが行くわ!! どっち!?」

 

「い……行く!! 私が行く!!」

 

 それを聞いたティアは、自分の周囲に無数の水鎖を生み出す。

 

「良い!? 今からアイツの顎を数秒だけ固めるから、その隙にリリィを連れてきなさい!! そしたら全員でアイツを牽制しながら撤退するわ!! 逃げる時は私についてきなさい!! 良いわね!?」

 

「わかった!!」

 

 リウラが返事をしながら水蛇へと向かうと、ティアが水精達全員に向かって合図を出す。

 リウラが接近し、水蛇が大きく口を開いた瞬間、ティアを含めた数人の水精達が水の鎖やロープを放ち、水蛇の顎を縛り上げる。

 

(!!?)

 

 全身の魔力を振り絞ったにもかかわらず、その顎の力に鎖が切られそうになる。

 本来は別の役割を(にな)う水精達も、慌てて水のロープやリボンを放ち、同じように水蛇の顎を縛り上げ、なんとか水蛇の顎を固定することに成功する。

 

(……あの子……!! よくこれを1人で防げたわねっ……!!)

 

 水蛇のパワーは予想以上だった。

 

 リウラが水柱で牙を防いでいるのを見て、“リウラ以上の魔力を持つ自分達なら数秒程度は持たせられる”と考えていたが、見積もりが甘すぎた。

 

 リウラの魔力量を考えれば、彼女の創った水柱がそれ程までに強固に構成されていたとは思えない。おそらくは水柱の位置や組み方が(たく)みだったのだろう。

 リウラの成長に、ティアは驚きを隠せない。

 

(早くしなさい!! 長くはもたないわよ!!)

 

 ティアは歯を食いしばりながら、水蛇を睨みつける。

 そこで、ティアは眉をひそめた。

 

 ――水蛇の様子がおかしい

 

 顎を閉じようとすることを止め、水鎖の(いまし)めに逆らいながら、徐々にその開かれた口をティア達の方向に向けている。あれではまるで……

 

(……ッ!! しまった!!)

 

「全員、散りなさい!!!!」

 

 ティアは、その指示を叫ぶのが精いっぱいだった。

 

 張ったばかりの水鎖は、(もろ)くも砕け散った。

 

 

***

 

 

(ティアさん達だ!!)

 

 水蛇の口内で突如連続する振動に襲われたリリィは、それが水蛇への魔術攻撃(おそらく水弾)であると気づき、周囲の魔力を探った。

 

 すると、ティアを含めた水精の魔力をだいたい10人ほど感じることができた。

 リリィとリウラを助けに来てくれたのだろう。自分たちの身が危ないにもかかわらず、こうして助けに来てくれたのだ。

 ならば、リリィがこんなところで諦める訳にはいかない。

 

 リリィは覚悟を決めた。

 

 潜水魔術を解く。

 視界がぼやけ、息が止まり、荒れ狂う水流がリリィを襲う。

 

 今まで潜水魔術に使用していた魔力をも使って全魔力で上半身を強化すると、片腕で水剣の(つか)を抱え込むようにして身体を支える。

 そして、自由になった右腕を水蛇の上顎へと伸ばし触れさせると、リリィは精神を集中させた。

 

(睡魔族を……舐めないでよ!!)

 

 リリィが手を当てた箇所から、リリィの魔力が水蛇の肉体を浸食した。

 

 

 ―――――――――!!!!!!!!

 

 

 水蛇がリリィを振り落とそうとする動きが激しくなる。

 

 リリィの魔力に浸食された部分はリリィに支配され、その精気をリリィに奪い取られていく。

 リリィの中で精気が魔力へと変換され、リリィの魔力が回復・強化されていく。

 強化された魔力はより強力に水蛇を浸食し、さらに大量の精気をリリィへと供給した。

 

 通常、これだけ巨大な精気を持つ相手となると、比例して精気吸収に対する抵抗力も大きくなる。

 それでもリリィが精気を吸収できる理由は3つある。

 1つは、相手の知性が低く魔力操作の技術が低いため。2つ目はリリィが相手の口内から術を行使しているためだ。

 

 精気吸収に性魔術が利用される理由の1つに、“粘膜(ねんまく)が非常に魔力を通しやすい性質を持つ”というものがある。

 

 魔力を相手の肉体に通して支配し、精気を奪い取るためには、粘膜への接触――可能ならば、粘膜同士を接触させて魔力を通す方法が最も効率が良いのだ(その分、相手からの反撃を受けて、逆に支配される可能性も高いが)。

 性魔術を定義する際、“相手との粘膜接触によって、対象者の精神に直接働きかけるもの”と記載された文献も存在する程である。

 

 そして最後の3つ目……未だ推測の域を出ないが、“この水蛇が意思を奪われ、操られているであろう事”が何よりも大きい。

 

 リリィが精気を奪った感覚からすると、この水蛇はリリィに魔力を奪われないよう抵抗するよりも、リリィを直接攻撃する方に意識の大半を()いている……通常であれば、ありえない反応だ。

 たとえ狂っていたとしても、他者の魔力が己の体内に侵入し、あまつさえ自らの精気が奪われれば、まず間違いなく侵入してきた他者の魔力を排除する方向に意識を向ける。

 あくまでもリリィの推測ではあるものの、リリィはこの水蛇が誰かに操られていることをほぼ確信していた。

 

 リリィはある程度魔力が回復すると同時に潜水魔術を再開させ、さらに精気吸収を加速させる。

 

(このまま精気を奪い尽くせば……!!)

 

 ――ピクリ

 

 リリィの猫耳が動く。

 

(……何? ……魔力の流れが……)

 

 リリィは水蛇の体内の魔力の流れが変化したことを感じ取り、いぶかしげに眉をひそめる。

 

 凄まじい魔力が急速に1ヶ所……リリィの現在地よりもさらに喉奥(のどおく)に集中し始める。

 リリィがそちらに目をやろうとした途端、水蛇が大量に水を飲みこみ始める。そこまで来て、リリィはようやく事態を把握した。

 

 リリィの顔から血の()がサーッと引いていく。

 

(……ウォ……ウォーターブレス!!??)

 

 サーペントは鉄砲魚(てっぽううお)のように水を体内に貯めて勢いよく吐き出すことができる。それがウォーターブレスだ。

 

 しかし、鉄砲魚と決定的に違うのは、その水量と威力。

 専用の器官で魔力によって高い圧力をかけられた水の奔流(ほんりゅう)はドラゴンのブレスのように強力で、岩をも砕く威力を持つ。

 そんなものをこの至近距離で受けてしまえば……

 

(……最悪、魔術障壁を破られた後、全身を粉々(こなごな)にされる!!!)

 

 リリィの表情に明確な焦りが生まれる。

 だが、どうすればいい? 相手の精気にはまだまだ余裕がある。

 ここで逃げたら、また追いつめられてしまう。かといってこのまま黙って見ていれば、待っているのは死だ。

 

(魔術!! なにかいい魔術は……!!)

 

 リリィは回復し、より強力になった魔力で魔術を使おうと考える。しかし……

 

(――“電撃”……ダメ! 私やリウラさん達も巻き込んじゃう!! ――“戦意消沈(せんいしょうちん)”……ムリ! 操られている相手に効くとは思えない!!)

 

 今、ただの魔弾を喉に放ったところで、水蛇が今まさに喉に集中している強力な魔力に弾かれてしまう。

 

 そのため、リリィは有効な魔術を求めて必死に魔王の知識を検索するが、見つけられない。いや、あるにはあるのだが、どれも今のリリィの魔力量では扱えないものばかりだ。

 

 そうこうしているうちに、水蛇の喉元への集中が止まり、口が大きく開いていく。ウォーターブレスの発射準備が完了したのだ。

 

 リリィは決断を(くだ)す。

 

(……いったん逃げる!! 案はそのあと考えよう!!)

 

 ウォーターブレスで湖が撹拌(かくはん)されるため、逃げた後、先の状況のように水蛇に噛みつかれる可能性は大きい。

 しかし、強化されたリリィの魔力による障壁が牙を防げる可能性がある分、このままブレスを受けるよりはマシだとリリィは考える。

 

 とはいえ、今からでは泳いで逃げることは不可能だ。

 障壁を展開しつつ水剣を手放し、ブレスに逆らわずに流されて威力を殺すのが精いっぱいだろう。

 

 リリィは自分を覆うように障壁を展開しようとしたその瞬間、水の鎖が、ロープが、リボンがたちまちのうちに水蛇の顎を縛り、固定する。

 

 そこへ、リウラが飛び込んできた。

 

「リリィ!!」

 

 リウラの声を聞いて振り向いたリリィは、その様子を見て悲鳴のように叫んだ。

 

「来ちゃダメー!!!!」

 

 しかし、リウラはリリィの叫びを無視するかのようにリリィへと近づくと、リリィを抱きかかえて逃がそうとする。

 

 リリィは迷った。

 もし計画通り障壁でブレスを受けて流された後で、水蛇がリリィではなくリウラを狙ったら、リウラが死なない保証はない。

 

 かといって障壁を展開したまま水蛇の口内に留まったら、ブレスを受けて障壁を破られない自信がない。

 

 そして、リリィが迷っている間に貴重な時間は消費された。

 

(……もう、間に合わない!!)

 

 リリィは迷いを抱えた結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()対魔術用の結界を展開し、自分とリウラを覆う。

 結界は、少しでも水流の威力を()ぐため、水蛇の喉側を頂点とする円錐状に展開された。

 

 リリィが結界を展開した直後、ウォーターブレスが発射される。リリィの結界がビリビリと震え、今にも破られそうになる

 

(こんのぉおおおおお!!!)

 

「うわっ!? わわっ!!?」

 

 リリィは水蛇から奪った魔力を結界へ惜しみなく(そそ)ぎ込み、必死にブレスを耐える。

 水蛇のブレスは数秒程度だったが、それだけでリリィは回復した魔力の8割を消費してしまった。

 

 それでも、リウラも自分も何とか無傷で乗り切ったことにリリィは安堵(あんど)する。ほっとしたのもつかの間。リリィの視界は闇に閉ざされた。

 

(!? 顎を閉じた……!?)

 

「……ッ!! 鎖が!!」

 

 リウラの叫びが聞こえる。

 どうやら先程ちらりと見えた、顎を拘束していた鎖やロープがウォーターブレスで壊れてしまったらしい。

 

 リリィは魔術で(あか)りをともす。

 

「リウラさん! 落ち着いて!!」

 

「リリィ!! でも!!」

 

「大丈夫です! 顎を閉じてたら、噛みつくこともブレスを吐くこともできません! 顎が開いたらまた鎖で縛ってくれるはずですから、その隙に逃げ……」

 

 リリィの言葉が止まる。

 再び水蛇の持つ、ウォーターブレスを発射するための器官へと魔力が集中していた。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……嫌な予感がする。

 

 同じように水蛇の魔力の集中を感知したリウラが(いぶか)しげに口を開く。

 

「何あれ……? まわりに水があるのに、わざわざ喉に水を()びだしてる……?」

 

 

 ――その(つぶや)きを聞いて、リリィは自分の悪い予感が当たったことを知った

 

 

「まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「え……えええええええええぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 そのまさかだった。

 この手の魔力を持った水棲生物は、自身の魔力を使って水を召喚できるものが多い。それを利用し、口を閉じて逃げ場をなくしたリリィたちに直接水の奔流をぶつけようというのだ。

 そうなれば当然、水蛇の口も無事では済まない。操られているが故に()ることのできる狂気の選択肢である。

 

 リリィは焦る。

 水を召喚するため、先程よりも発射の準備に時間がかかってはいるものの、今から水蛇の精気を奪っても、とうてい先ほど回復した魔力量には及ばない。

 充分な量を回復する前に確実に攻撃が来る。そうなれば結界が持たない。

 

 そこで、リウラは何を思ったのか、リリィの握る水剣を自分も握りしめた。

 

「う……おりゃああああああ!!!!」

 

 非常に女の子らしくない掛け声をあげて、リウラは水剣に魔力を込める。

 すると、水蛇がビクンと震えた。しかし、水蛇の魔力の集中は止まらない。

 

「リ……リウラさん……いったい何を……」

 

「剣をいっぱい針が出るみたいな形にして、伸ばしてるの!! 痛がって口を開くように!!」

 

 リリィは眼を見開く。

 

「リウラさん! 剣をそのまま真っすぐに伸ばすことはできますか!?」

 

「それは無理! 肉が硬くってそっちの方向には伸びない!!」

 

 それを聞いて、リリィは考える。

 

()()()()()()()()()……なら……)

 

 リリィは再び右手を水蛇の上顎へと伸ばし、精気を吸収する。

 そして、吸収した精気を魔力に変換し、全て水剣へと込め始めた。

 

「リリィ!?」

 

 リリィは魔力を込める手を止めずに、自分が考えた案をリウラに伝える。

 

「リウラさん! 私が魔力を込めます! リウラさんはそれを使って、剣をもっと硬く鋭くして真っすぐ伸ばしてください!」

 

「……わかった!」

 

 リウラは頷くと、水剣に込められた魔力を使って、水剣をより硬く、鋭く、そして真っすぐ伸びるように長く形状を変化させていく。

 リリィが送り込む魔力によって硬さも鋭さも強化された水剣は、徐々にその(やいば)を水蛇の急所へと伸ばしてゆく。

 

 だが、途中から皮膚以上に硬くなっている水蛇の肉に邪魔されて、その進行はかなり緩やかだ。このままでは間に合わない。

 

(もっと鋭く……!! もっと硬く……!!)

 

(もっと早く……!! もっとたくさんの魔力を……!!)

 

 リリィの魔力の供給速度が上がり、リウラの必死の念が水剣を名剣へと変えていく。

 高まった水属性の魔力は水剣に冷却属性を付与し、氷の(つるぎ)へと昇華させた。

 

 水蛇の魔力の集中が止まり、その魔力がどんどん増幅され、高まっていく。

 発射の前兆だ。もう時間がない。

 

「「いっけぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!」」

 

 リリィとリウラは魂を込めるかのごとく、渾身の魔力を、念を込めて氷の刃を伸ばす。

 

 ウォーターブレスは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――発射、されなかった

 

 

 

 


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