『……それは、プテテットか? リセル』
『お父様!』
10歳程の少女が振り返る。
“
『お父様、お父様! また“ぶるぁああああっ!”ってやって!』
『……お前ももうじき
『えーっ!?』
ぷーっ、と少女の頬が膨れる。
……膨れたまま、じっと父――オルファン・ザイルードの眼を見たまま無言で訴え続ける少女に根負けし、オルファンは“仕方ない”と腹を
『ぶるぁああああっ!』
『あはははははははははははははっ!!』
きゃらきゃらとおなかを抱えて心底楽しそうに笑う娘の姿に、溜息をつきながらもオルファンはどこか嬉しそうな雰囲気を出す。
『……まあ、よい。普段、仕事で忙しくてかまってやれんのだ……これくらいはしても罰は当たるまい』
“やれやれ”といった表情で、オルファンは溜息をつきつつ苦笑いする。
『それで、リセル? それはプテテットなのか?』
『そうだよ! 軍のおじさんにお願いして、ちっちゃいのを
『……リセル。最弱であるとはいえ、プテテットも魔物だ。万が一ということも有る。お前の“私の役に立ちたい”という想いは心の底から嬉しいと思うが、危ないことはするな』
『大丈夫だよ! 無理はしないから!』
元気にそう言う幼い娘に、“これは分かっていないな”とオルファンは再び溜息をつく。
オルファンの娘――リセル・ザイルードは天才だ。
また発想も豊かであり、オルファンどころか専門家でも思いつかないようなことを発想し、しかもそれを自ら実践・実現してのけるだけの行動力・開発力もある。
……そして、頭の痛いことに、未だ彼女は失敗というものを経験したことがない。
これでは、いくらオルファンが口を酸っぱくして注意を
しかも、事実、オルファンの役に立ってしまっているが故に、むりやり仕事を取り上げる訳にもいかない。
もしそうしてしまえば、この色々な意味で型破りな娘が、何をしでかすか分からない。仮にオルファンの眼の届かないところで何かしでかされたら、それこそ
『……リセルはプテテットで何をしていたのだ?』
『ああ、そうそう! 凄いんだよ、見てて!!』
リセルはそう言うと、おもむろにやや大きめのプテテットを頑丈そうな手袋をはめた手でつかみ、それを
――数字は30を示している
『この数字を覚えててね! いくよ~!』
リセルは秤からプテテットを下ろし、それを右手に持った包丁で
その後、2つに分かれた片方を再び秤に乗せた。
――数字は、
『これは……』
わずかに驚くオルファンに、リセルは得意そうに言う。
『プテテットって、分裂して増殖するでしょ? その仕組みについて調べてたら見つけたの! プテテットは多分、
『!?』
プテテットはスライム状の魔物であり、最弱の魔物として広く知られている。
倒すに
そんなものを調べて画期的な研究成果を出すだけでも信じられないのに、さらにはそれがオルファンの研究する軍事兵器のブレイクスルーに直結するというのだから、もはや“神童”という言葉でも言い表せない程の突出した才能であった。
(これほどの才能……親として喜ばしくもあり、
オルファンは思い悩む。
オルファンからすれば、このくらいの歳であれば、娘には元気に外で遊んでいてほしかった。血なまぐさい軍事になど関わっては欲しくはなかったのだ。
だが、娘の強い希望を叶えてやりたいという思いもあるし、凄まじい勢いで軍に貢献する娘を誇らしいとも思っている。
自分は果たして親として正しいのか、それとも間違っているのか……答えの見えない難題に、オルファンは額にしわを寄せる。
……そんな父の様子を見て、娘もまた表情には出さずに、ほんの少しだけ悩んでいた。
(……あ~、なんか難しそうな顔してる……ちょ~っとやりすぎたかな~? でも、私の夢のためには、妥協なんてできない。
少女は転生者であった。
交通事故で逝ったかと思いきや、気がつけば目の前にバカでかい鬼のような化け物の姿。おまけに自分は光の玉のような姿になっていた。
死んだ直後であった事実から考えて、この光の玉のような姿が“魂”というやつなのだろう。
周りにうようよ
――その後、気づいたときには、自分は3歳の幼女になっていた
戦争上等の血なまぐさい世界に生まれてしまったことに思うところがないわけではなかったが、生まれてしまったものはしょうがない。
こうなったら、今回の人生も思いっきり楽しみつつ幸せになるべきである。
そう考えたリセルは思う存分に己が才能を発揮して、自国の安全と発展に貢献することにした。
どこぞの小説のように神様から転生特典をもらったりしたわけではなかったが、それが充分にできるだけのスペックがこの身体にはあった。
――完全記憶能力
一度見聞きしたものを、一字一句、一言一句
忘れたいことを忘れられないデメリットがあるものの、それを補って余りある学習能力をこの技能はリセルにもたらした。
大人の経験とこの能力が合わさって、神童にならないはずがない。
これがリセルの天才性の正体であった。
彼女はこの力を使い、自身の国であるメルキア帝国を原作以上に発展させるつもりであった。
メルキアは魔導技術によって発展した国家だ。その技術は、ドワーフ族を除けば、他の追随を許さない。
しかし、今から約20年後、とある魔導兵器が大事故を起こしたことにより、魔導技術に対する不信が広がり、父オルファンが開発を進めていた魔法技術が日の目を見ることになるのだ。
そして、原作の主人公――ヴァイスハイトはメルキアを支える技術として、魔導技術か魔法技術かを選ぶことになる。
――そう、
史実においてヴァイスハイトは魔導技術を選ぶことになるが、リセルからすれば、そもそも“どちらかを選ぶ”という考え方そのものが間違いだ。
どちらかしか開発を進められないほど国の
ならば、魔導技術と魔法技術の両輪でメルキアを発展させるべき――
――いや、むしろ、魔導技術と魔法技術を融合させた、他国には絶対に真似のできない、メルキア独自の技術を創造するべきである
リセルの夢は、その新技術の第一人者となり、メルキアをこれまでとは異なる次元へと発展させること。
そのために、彼女は一生懸命に魔導技術も魔法技術も勉強し、自分なりに研究を重ね、こうして父を通してその成果を軍に提出しているのである。
「それとね! もう1つ凄い発見をしたんだよ! これ、な~んだ?」
「……ただの鉄くずに見えるが」
「正解! じゃあ、よく見ててね」
リセルは鉄くずをザラリとプテテットの片方に流し込む。
すると、プテテットはそれらを取り込み、徐々にその
その後、やにわにリセルは包丁の峰でプテテットを叩く。
カァンッ!
アメーバ状の生物であるはずのプテテットが、
「これは……!?」
オルファンは、その予想外の結果に驚愕する。
プテテットは、自らに接近した物質にとりつき、それが食べられるものならば溶かして養分を吸い取るという、細菌とほぼ同様の生態を持っている。
無機物をエネルギー源として捕食する細菌がいるように、プテテットもまた無機物を捕食することができるのだ。
しかし、捕食した物質の特性を自身の肉体に反映する性質があるなど、オルファンは聞いたことがなかった。
「プテテットって、実は接触したものを
リセルが解説するうちにも、放置したプテテットは見る見るうちに鉄色から空色へと戻ってゆく。
彼女が指でつつくと、プテテットはプニプニと、いとも簡単にその身体をへこませた。
「……進化した状態を維持する力が弱いから、放っておくと、すぐに元に戻っちゃう。何度も叩いてあげると環境に適応しようとして、また硬くなるけどね。たぶん、みんな接敵した時には、ほとんどのプテテットが元に戻ってるし、だいたい一撃で倒しちゃうから、この性質を知っている人が誰もいないんだと思う」
余談だが、この“進化を維持する力”そのものは、より多く捕食し、より大きく成長し、体内に保有する精気が膨らむほどに強くなる。
また、“食べたものの性質”を必要とする環境が長く続けば続くほど、“その性質を反映した状態を維持する力、思い出す力”が鍛えられてゆく。
そして、特定の進化した状態を恒常的に維持するようになった時、そのプテテットは“別種”として他の者に認識されるのだ。
リセルが一時的に生み出した“鉄”状態を恒常的に維持できるようになれば『メタルプテテット』と、“酸を生み出す”黒く変色した状態を維持できるようになれば『黒プテテット』と呼ばれるようになる。
中には、財宝を喰らって融合し、分裂する要領で体内にてそれらを複製……周囲にバラ撒くことで、光り物に誘われたカラスや人などを喰らうなんて変わり種もいる。
もっとも、財宝なんてものをバラ撒いてしまえば、強者にも狙われてしまうのは当たり前だったため、愚かにも彼らは“逃げ足が速い”状態をも恒常的に維持するよう進化せざるを得なくなってしまったのだが。
「もし、この融合した状態を維持する技術を生み出せれば、魔法生物と魔法生物を融合できるかもしれないし、ひょっとしたら魔法生物と魔導兵器を融合することだってできるかもしれない……それに……」
「うむ?」
リセルの表情が、ほんの少しだけ曇る。
リセルの口がわずかに開け閉めされ、やがてためらいがちに声が出された。
「特定の病気に強い魔法生物を
「リセルよ、それは……」
オルファンが
「ううん、わかってる。お母様はそれを望まないだろうってこと。……でも、私はお母様に元気になってほしいの。そう思うことはダメなの?」
「……いや、ダメではない……が、魔法生物との融合など、肉体にどんな影響があるかわからん。お前とて母の身体が異形となってしまうことを望んでいるわけではあるまい……それと、この話は誰にもするな。いいな、リセル」
「……うん。でも……」
「リセル」
「……わかった」
リセルは渋々と頷く。
その様子を見てとりあえずは一息つくも、オルファンは我が娘の危うさを知った。
――この子は目的を達成するために手段を選ばない
普通は“他の生物との融合”など、患者の身体への影響がどうこう以前に、そもそも
本質が善であるが故に悪事は働かないだろうが、このまま放っておいては異端として白眼視は避けられまい。
だが――
(……手段を選ばぬのは私とて同じ、か……まったく、こんなところは似て欲しくなかったのだがな……)
オルファンはリセルの頭を優しく撫でる。
それは、しゅんと落ち込んだ娘に対する不器用な男なりの精一杯の慰めであり、それを理解していた娘は父にほにゃりと笑顔を向けた。
これは、セシルがまだリセル・ザイルードであった頃の……幸せであった時の記憶――
***
セシルは
そして、転送魔術で人形が入る程の……ちょうどツェシュテルがすっぽり収まりそうなほどの箱を
「……これは……?」
「本当は、あなたには危ないことをしてほしくなかったんだけど……この場から逃げるためには、多分これが必要だから」
おそらく何らかの武器か魔法具が入っているのだろう……そう思っていたリューナの予想は
「
それは、白銀の髪を腰まで流した美しい少女の人形であった。
まぶたが開閉できる仕組みになっているのか、今は眠るように閉じられている。
「
「え? え? ……え?」
次々と新しい情報が入ってきたことで、リューナの頭が混乱する。
しかし、彼女が落ち着くのを待たず、セシルはその瞳に親愛と感謝と……そして覚悟を宿して、『生きて欲しい』という願いを告げる。
「かつて、あなたはその命を捧げて私達を……いいえ、
リューナの返事を聞くことなく、セシルは彼女に背を向け、巨大プテテットを
――その空色の瞳が一瞬にして金に染まり、瞳孔が爬虫類のように縦に裂けた
「ツェシュテル!」
「わかった!」
直後、セシルの姿が輝き、その輪郭が大きく膨れ上がる。
まぶしさに目を閉じたリューナが再び眼を開いたとき……
――そこには、1頭の巨大な竜の姿があった
その鱗は灰銀に輝き、金の瞳は内から溢れる膨大な魔力によって、ぼうと淡く輝いている。
背にある大きな翼が羽ばたけば、身体ごと吹き飛ばされそうな強風が吹き荒れ、ズンと脚が地を踏みしめれば、大地が揺れる。
鼻から、頭から、翼から……その全身のいたるところから太く鋭い棘が飛び出ており、身体の各所に見える宝石のような部位が、瞳と同色の光彩を放つ。
全高は、その長い首を地に伏せたとしても、なお巨大プテテットを上回るだろう。
立ち並ぶ凶悪な牙を
ゴクリ、とツェシュテルが飲み込まれた瞬間、ただでさえ大きかった竜の魔力が爆発的に膨れ上がった。
プテテットが竜――セシルを“動きの止まった獲物”と認識したのか、純粋魔力の光線を放つ魔法陣を展開する。
それを見たセシルは、その
――
2つの超魔力が激突する。
その凄まじい輝きに照らされたセシルの姿に、リューナは何かを思い出しかけていた。
***
その女性は天寿を全うし、病院の中で静かに亡くなった。
眠るように死んだからだろうか、ふと気づいたとき目の前に鬼のような化け物の姿が現れても、彼女はぼーっと彼を見つめるだけで特に反応を示さなかった。
彼女は周囲の光の玉に押し流される形で、ただ流されるままに
それは、石器時代のような古代の人々の営みであったり、あるいは生前の彼女の時代では考えられないほど進んだ未来社会であったり、環境が完全に破壊された世界だったりと、過去・現在・未来が入り混じっていた。
国も人も場所も様々であったが、それらで最も多かった場面は中世チックなファンタジー世界の景色が多かった。
時間も空間もめちゃくちゃになった場所を、魂の姿で飛び続けていた彼女は、いつの間にか意識を失い、再び気づいた時には、彼女はエルフの
ルーンエルフ、という種族らしい。
生前の彼女からは考えられない程に美しい彼ら、彼女らは山菜を採り、弓で獣を狩るという自然と共に歩むようなスローライフを営んでおり、不思議な呪文を唱えて様々な魔術を操ることができた。
若返った肉体に引きずられてか、自分がファンタジー世界の主人公になった気分となった彼女は、目を輝かせてその生活を満喫した。
特に彼女の生前には存在しなかった“魔術”には興味津々で、暇さえあれば魔術で遊んでいたほどだった。
魔力切れで気絶した数など両手両足の指で数えても足りない。それほどに、その不可思議な現象は彼女の心を魅了していたのである。
数あるエルフ族の中でも高位の種族であったため、その魔術の質も規模も高度であったことも、フリティラリアを魅了した理由の1つだろう。
そんな充実した生活の中でも、たった1つだけ彼女にとって憂鬱なことがあった。
――それは、ルーンエルフが遥か昔から戦争を続けていたことである
その昔、闇の月を
それに対抗するために
母親譲りの凄まじい魔術の才能に加え、魔術オタクと化したフリティラリアも、当然成人した途端、母親とともに戦争に参加することになった。
魔術を使うことは大好きだが、それで人を傷つけることには多大な抵抗感があった彼女は、毎日続く命のやり取りに心底
だが、それももう終わり。
アルタヌーの力に支配されたドワーフ達をすべて倒し、アルタヌーの力の結晶……のちに“
これをルーンエルフの秘術なり、ドワーフの魔導技術を駆使した魔導具なりで封印するか破壊するかすればこの長い戦争に決着がつく……フリティラリアは呑気にもそんなことを考えていた。
『どうして!? どうして、この子が犠牲にならなければいけませんの!? 必要なのは魔術の扱いに長けたルーンエルフなのでしょう!? なら、わたくしが志願いたしますの!!』
『お母様……』
フリティラリアの母は、愛しい我が子を抱き締めて泣き叫んだ。
白銀の髪を振り乱し、青玉の瞳から涙を溢れさせてルーンエルフの王を睨む。
彼女の生き写しのように生まれたフリティラリアと彼女は、その容姿も才能も瓜ふたつ。
たった1つ彼女達の命運を分けたのは、前世に存在しないが故に人一倍強かった“魔術への興味”――それだけだった。
晦冥の雫の力は強すぎた。
ほんの一部とはいえ、神の力……その力の前にはルーンエルフの秘術もドワーフの魔導技術も歯が立たなかったのだ。
困り果てたルーンエルフとドワーフは互いの持つ技術を組み合わせ、さらには失われた技術である先史文明の遺物まで利用して、かろうじて封印するための機構を創り上げた。
――それが究極の人型封印装置――
晦冥の雫をその内に納め、封印するための1体。
そして他の月女神の力を
この4体で構成される封印装置には、ある致命的な欠陥があった。
――それは、
晦冥の雫は周囲の者の意思だけでなく、あらゆるものをその闇の魔力で浸食する。
それはルーンエルフやドワーフの封印とて例外ではなく、浸食された封印術や封印装置は放っておけば無効化されてしまう。
それをされないためには、定期的にその力を発散させる必要があった。“晦冥の雫を納める1体”の役割には、この“力の発散”も含まれているのである。
そして、もう一つの欠陥。
それはこの装置に、
――意思を持ちながら精神を犯されず、それでいて闇の魔力を行使し、力を発散するため
――単なる装置としてだけではなく、己で考えて動き、自分自身の身を護れるようにするため
――そして、月女神たちの力を引き出す為の術式そのものとして、その魂が必要であるため……
ドワーフではなくルーンエルフの生贄が必要なのは、最後の理由からであった。
魔術に長けたルーンエルフの秘術がこれでもかと詰め込まれた封印装置……その核となる術式になれる魂など、同じルーンエルフ……それも、特に魔術に長けた者でなければ到底
フリティラリアは、その生贄となれる資質を備えてしまった。
母を超える優秀さを周囲に示してしまった。
晦冥の雫が世界を滅ぼすかもしれない程の脅威である以上、少しでも優秀な者に託す必要がある。
だからこそ、
フリティラリアは、母の胸を押してその身体を遠ざける。
『リティア……?』
『……お母様のお気持ちはすごく嬉しいですの。わたくしは世界一幸せなエルフだと、心の底から思いますの』
幼い頃から聞き続けていたが故にうつってしまった、母そっくりの口癖を
ここまで自分の事を心から愛してくれる人達の元に生まれたこと、共に信頼し合える仲間とともに戦場を駆け抜けたこと、そして生前とは全く異なるこの魅力あふれるファンタジー世界に生まれられたこと……それらは全てフリティラリアの中で宝石のようにきらめく大切な思い出になっていた。
自分はもう充分生きた。既に人としての一生を全うし、さらにはエルフとして200年の月日を生きている。人間の寿命に換算すれば、前世を含めて人の3倍は生きているのだ。
これ以上を望んだら
父も母もまだ若い。もう1人子をもうけることだって充分にできるだろう。
どうか、私の事は死んだと思って新しい人生を生きて欲しい……フリティラリアは心の底からそう思った。
フリティラリアは父母に別れを告げ、自分よりも数百年年上の戦友達とともに眠りについた。
(……どうせ、起きた時には全て忘れていますの。お父様、お母様……今まで育ててくれて……愛してくれて、ありがとうございました……)
魔導巧殻へ魂を移すことは一種の転生を意味する。その際、生前の記憶はリセットされるであろうことは聞かされていた。
この胸が押しつぶされそうな悲しみや寂しさも消えてなくなるのだろう。
そんな事を思いながら、魂を移す秘術を行使する魔法陣の中で横たわるフリティラリアはゆっくりと瞳を閉じた。
(ところがどっこい! ……なんで、全部覚えてるんですの……? しかも、わたくしだけ……)
目を開けば、そこにはむっさいおっさんの顔のドアップ。
『ギャーッですの!?』と叫んだ自分は、正直悪くないと思う。いや、ほんとに。
魔導巧殻に転生したフリティラリアは、なぜかしっかりと前世の記憶を覚えていた。
人としての前世の記憶を持っていた為なのか、被術者の年齢的なものなのか、はたまた全く別の理由によるものなのか……良くは分からないが、どうやら記憶を保持しているのは自分だけのようで、他の3人……いや、3体か……はエルフ時代の記憶をしっかり失っていた。
目覚めてからは大した事情も説明されず、
正直、あの戦争があった頃の生活と全く変わらない……いや、
彼らの自分達に対する扱いは、丁寧であるものの完全に“兵器”であり、とても人間扱いされてるとは言えない。
そして、記憶を失っているためか、他の3体の魔導巧殻も“それが当然”と言った様子で受け止めているのだ。
娯楽もなければ、ものを食べる必要もないので食事もないし、風呂だってない。
魔術が趣味であるフリティラリアは、自分なりに魔術を開発したり、
それだけではない。
自分たち魔導巧殻を戦わせているのは、おそらく晦冥の雫の力を発散させるためだろう。これはまあ、フリティラリアにも理解できる。
――だが、自分たち4体
たしかに、月女神の力を以って晦冥の雫を封印する魔導巧殻は、その副産物として、月女神の力を利用した高い戦闘能力を持つ。
しかし、それは
魔導巧殻はあくまでも“
それなのに、そういった晦冥の雫に関する裏事情を改めて説明するでもなく、万が一、魔導巧殻が破壊されそうになった時の対策がされるでもなく、ただ戦場へと放り出すだけ……もし、自分達が破壊されて世界の危機が訪れてしまったら、いったいどう責任を取るつもりなのだろうか?
自分達に対するこの扱いを許可した、ドワーフやルーンエルフのトップ達の頭がどうなっているのか、フリティラリアは全く理解できなかった。
“戦場に出てくる敵が、魔導巧殻よりも遥かに弱いから問題ない”?
そんなことを考えているおバカさんには、今の状況をよ~く見せてやりたい。
「あーんもぉぉぉおッ、待ちやがれぇ~ナフカぁっ! いつもいつも無茶しやがるなーですのーーー!!」
百発百中の腕を持つ弓の名手であった戦友は、今や鏡の月を司る賢王ナフカスの力を宿す魔導巧殻――“ナフカ”として生まれ変わり……なぜだか、2つの鎖鎌を両手に持って、北方からやってくる魔族や魔物達の中に突っ込み、血飛沫をまき散らす
いくら記憶を失っているとはいえ、これはあまりに酷い。
あの時のクールな貴女はどこに行ってしまったのか……エルフ時代に抱いていた
本人は『腕がちぎれても、足が吹っ飛んでも、直せるから大丈夫』なんて阿呆な発言をしているが、本体に直撃したら死ぬのは
そして彼女が
ともかく、自らの命を捧げ、胸を引き裂かれるような親しい人達との別れによって、ようやく手に入れた平和を、こんな阿呆なことでパーにされることだけは、フリティラリアにとって絶対に我慢ならない事であった。
だいたい、そこら辺の説明をドワーフ達がしてくれないのも悪い。
“自分達は唯の兵器だー”なんて思っているから、こんなバカな突撃をナフカが繰り返すのである。
かといって、最高機密であろうことをフリティラリアが勝手にバラすのも
(うあー、めんどくさいですのー。他の2人はまともなのに、どうしてナフカだけはこんななんですのー……)
指先が動く――魔法陣を展開、一陣の風が吹く。
≪涼風に吹かれるがまま。
清く、穏やかであり、優しげである光の抱擁。
しかし過ぎたる癒しは、逃れられぬ害悪となる。
浴びた者に一切の苦痛を与えず絶命させる死と隣り合わせの輝きは、ナフカに群がる魔獣たちを一掃する。
青き月を司る月女神リューシオンの力だ。
今の彼女はルーンエルフのフリティラリアではない。
青き月女神リューシオンの力を
***
竜と化したセシルが口内から放つ魔力の
(ツェシュテル!
(うええっ!? アレ使うの!? わかってるでしょ!? アレを使えばマスターの身体が持たないって……!)
(多少壊れたところで自動修復するから問題ないわ! あなたの暴走もどうにかする! とにかくリューナ達が逃げる時間さえ稼げれば良い!)
(……ぁぁぁぁぁああああああああっ! もうっ!! わかったわよ! 死んでも知らないからね!?)
多少その精神が歪んでいても、ツェシュテルの本質は、生を育むおおらかな大地の精。
大切な者の命を護ろうとするその姿勢は、決して理解できないものではなかった。
セシルの胸元に、背に、手足に、尾に埋め込まれた巨大な宝石のような器官が、黄金の輝きを放つ。
ただでさえ魔神級であったセシルの魔力がさらに膨れ上がり、魔力のブレスの威力を一気に引き上げる。
(……これでも、まだ押し負けるの!?)
(ぐぎぎぎぎぎっ……!!)
変わらず……いや、セシルのブレスに合わせて更に威力を上げるプテテットに、セシルとツェシュテルは
その様子を見ていたリューナの眼が大きく見開かれ、
「あれは……黎明、機関……?」
そして、リューナの口から、彼女が知るはずのない単語が洩れた。
***
数百年は続いた、リューンたち4体の魔導巧殻の
北からの魔族の侵攻を防ぐことを条件に、アヴァタール地方五大国の1つ、人間族の巨大国家メルキア帝国に彼女達が譲渡されたのである。
彼女達に与えられた待遇は、皇帝の直下にある東西南北の領地を治める元帥達直属の魔導兵器。
その扱いは元帥に次ぐものであり、
(そうそう、これですのこれ! これこそが魔導巧殻のあるべき扱いですの!)
――力を発散する必要があるため、戦場に出て魔術を行使したりはする
――だが、基本的には破壊される危険が比較的少ない将として兵達の後方にて指揮を行う
――そして、元帥のパートナーとして、人としても働く
それぞれが各元帥の元で働くため、他の3体となかなか会えなくて少々寂しいものの、それ以外はまさにリューンにとって理想の職場であった
魔導巧殻の重要性は元帥がしっかり理解しているようだから、ナフカがこれまでのように猪の如く敵に突撃しようとしても、元帥が許しはしないだろう。……たぶん。
さらに、リューンにとっての幸運は続く。
『……これは何だ?』
『魔導巧殻の
『……は?』
魔法技術によって創られた、魔法生物と魔導具の融合作品。
魔法生物の舌を部品と融合させて無機物に味覚を付与し、さらには飲み下したものを融合・質量減少で処理する……このトンデモ発明によって、リューンは再び食事を楽しめるようになったのである。
このことをきっかけに、リューンとリセルは手紙を通して付き合いを始めるようになり、よりその仲を深めていくことになった。それこそ、プライベートではタメ口で話せるほどに。
――そして、その深まった絆こそが、リューンの運命を決めた
『……“
『ええ。それを使って晦冥の雫を破壊するそうよ』
その後、メルキア帝国は凄まじい動乱に見舞われた。
周辺諸国との間に次々と戦争が起こるも、最終的にはその全てに勝利。
各国を併合して巨大国家へと成長した。
……が、その直後に、東の前元帥ノイアスの反乱、魔導巧殻アルの洗脳、現メルキア皇帝ジルタニアの“晦冥の雫”を動力とした魔導兵器による自国民への無慈悲な見せしめ……次から次へと起こるトラブルの数々に、リューンは自身の元帥と共に右往左往していたのだった。
このトラブルを解決するために出された結論が、“
本来不可能であったはずのそれは、ルーンエルフやドワーフのみならず、獣人族、竜族、ダークエルフ……各国の様々な種族が、持てる全ての技術を使って生みだされた奇跡の魔導具、“黎明の焔”によって可能となった。
メルキア帝国が併合した国々の異なる文化や身体的特徴を持つ者達が、お互いを理解し合えるよう努力することで生まれた“絆”……その結晶が、この魔導具であった。
しかし、神の力を打ち砕くには、同じ神クラスの力が必要。
そんなものを無理やりひねり出すのは、この奇跡の魔導具といえども、一瞬が精々。それも至近距離で発動しなければ意味がない代物とのことだった。
『……それ、完全に
『ええ……でも、他に方法がないのも事実。それと、未完成ではあるけど、複製品ならあるわ』
そう言って、リセルは
『……これ、どうやって手に入れたんですの?』
『ふふ、私はメルキア最高の魔導技師よ? メルキアの代表として、これの開発に
……もう、いちいちこの程度では驚いていられない。
完全記憶能力を持つリセルは、本を流し読みするだけで、脳内にその本を
さらに彼女は幼い頃から魔導技術・魔法技術に触れ、20年近くにわたり知識を蓄え、軍用兵器の開発に携わってきた。メモを取る必要のない彼女の頭の中にしか存在しない知識や技術も当然存在しており、メルキアの兵器開発は魔導分野であれ、魔法分野であれ、彼女が居なければなり立たない程である。
そんな彼女が、黎明の焔を開発するためのメンバーとして選ばれるのは当然であった。
“ディナスティの神童”、“センタクスの狂魔導技師”の異名は
そして、一度メンバーに選ばれてさえしまえば、黎明の焔を開発するための全ての技術が公開されてしまう。例えメモを取る許可が出なくとも、リセルには無意味。
目にした設計図、交わした会話、実際に開発・作成する工程……その全てが彼女の脳内に映像として、音として、動画として記憶されてしまう。
後からそれらを思い起こせば、複製品を創ることなど
だのに、今ここにある複製品が未完成である理由。それは――
『……再現できなかったのは、ルーンエルフの秘術ですの?』
『……正解。私には彼女たち程の魔力も、魔術の腕もなかったから。今から練習なんて現実的じゃなかったし……正直なところ、メルキアの魔法技術とは方向性が違い過ぎて理解できない部分も多かったわ』
ドワーフ族の魔導技術も非常に高度であり、職人芸に近い部分も多々あったが、メルキアとて魔導技術で成り上がった大国――高度な知識も何とか飲み下し、ドワーフの繊細な技巧も、リセルが所有する別の技術や魔導具・魔法具で加工を施すことでクリアすることができた。
しかし、ルーンエルフの魔法技術は別だ。
メルキアの魔法技術は、近年ディナスティ領で急速に発達したものであり、その歴史はまだまだ浅い。
さらに、その方向性は、“より強力な魔術を操るため、強大な魔力に耐えられる器を創る”というもので、どちらかというと術式よりも生物工学に傾いており、ルーンエルフの高度な術式をリセルは理解することができなかったのだ。
加えてルーンエルフ達は、そうした術式に日常的に触れている上、種族的に魔力量に恵まれている。
リセル本人も魔術が使えない訳ではないが、いかに彼女といえども、これだけの知識的・技術的な差を短期間で埋めることは不可能だった。
そこまで話を聞いたリューンは、口元に手を当てて考え込み……ぼそりと、とある単語を口にする。
『……
ピクリ、とリセルの肩がわずかに跳ねる。
『あれを考案したリセルが思いついていないはずがありませんの。あれをこの黎明の焔で代用すれば、継続して神に匹敵する力を発揮させることができるのではありませんの? そうすれば、至近距離にこだわる必要もなくなりますの』
『……無理ね。それをするためには、こんな不完全な複製品ではなく完成品が必要よ。たった1つしかない完成品を、成功するかどうかも分からない兵器に利用するなんて、それこそ本当に博打でしかないわ』
永久魔焔反応炉――それは、リセルが開発した次世代の魔焔反応炉だ。
魔焔と呼ばれる燃料を使用して莫大なエネルギーを創り出す魔焔反応炉……その“魔焔の供給”と“廃棄物の処理”を不要とする、『画期的』と呼ぶことすら生ぬるい超兵器である。
その原理は、プテテットの質量変化性質を付与した魔焔を、特定の刺激を与えることで質量増加させ、その一部を切り離して炉にくべ、利用が終わった廃棄物をこれまたプテテットの融合性質を付与した部品に融合させ、質量減少させることで処理する仕組みである。
リューンは、この魔焔を利用する部分を、黎明の焔で代用しようというのだ。
そのためには、黎明の焔の完成品を、財宝プテテットが体内で財宝を分裂させて増やすように、そのままの形で複製できるよう、質量増加処置を施す必要がある。
時間をかければ、ジルタニア皇帝の魔導兵器が再びメルキアの都市のどこかを消滅させてしまう以上、2つ目を創っている時間など無く、処置に失敗してしまえば全てがおじゃんだ。
そんな状況で、各国・各種族の知識・技術が結集してようやく完成した奇跡の産物を前に、『絶対に失敗しない』など、口が裂けても言えない。
それに何より――
『……なにより、完成させたところで、それに耐えうる器が無い。神の力を御するためには神の器でなければ――』
『――ならない訳がないでしょう。
『え? ……あ』
そう、闇の月女神アルタヌーの力の結晶たる“晦冥の雫”を御するために誕生したのが、彼女たち魔導巧殻である。
完全ではないとはいえ、現に神の力を封印し、その力を御して発散させているのだ。扱えない訳がない。
事実、ジルタニアが扱う晦冥の雫を動力とした魔導兵器は、洗脳した魔導巧殻アルを利用して稼働しているのだ。
――ならば、魔導巧殻の一部……晦冥の雫を納める部分だけでも複製できれば、黎明の焔が生み出す超エネルギーにも耐える反応炉を創ることができる
『すぐにわたくしに黎明の焔の完成品を見せてもらえるよう、ヴァイスハイトに言ってほしいですの。それと、リセルが覚えている限りの秘術に関する説明をお願いしますの』
『こう見えて、わたくしは魔導巧殻に使われているルーンエルフの秘術を全て解析しておりますの。あののんびり種族が戦争もないのに魔術を大きく発展させているとは考えにくい……おそらく、黎明の焔に使われている秘術も、そのほとんどが魔導巧殻に使われている秘術の応用に過ぎませんの。なら、私がそれを再現できないはずがありませんの』
しかし、リューナの意気込みに満ちた言葉に、リセルは眉をハの字にして首を横に振る。
『……無理よ。たしかに魔導巧殻の……アルの機構を複製できれば、反応炉を創れるかもしれないけど、一部とはいえ、あんな高度な技術の塊を今から創っている時間なんて無いわ……』
数百年前以上前に創られたとはいえ、魔導巧殻は現在でも超技術の結晶だ。
今からそんなものを創っていたら、反応炉が完成する前に、ジルタニアの魔導兵器が再びメルキアの都市のどこかを消滅させてしまうだろう。
だが、気落ちするリセルの否定を、リューナは更に否定する。
『なら、
『……え?』
リセルには、何を言われたのか分からなかった。
『わたくしたち全員の整備をしたことがあるリセルなら分かるはずですの。魔導巧殻の基本的な構造そのものに、そこまで大差はないってことに。リセルなら、わたくしの身体を外殻として反応炉を創ることもできるはず。……たしかに、封印・発散担当であるアルと、封印を補佐するわたくしでは機能が違いますの。たぶん、アルのように安定して力を行使し続けることはできない……でも、晦冥の雫を封印する力を4分の1とはいえ、わたくしも持っているんですの。ジルタニアを倒す間くらいは充分に持つはずですの』
『でも……それは……』
――それは、リューンの死と同義だ
魔法生物をはじめとする様々な兵器の小型化は、リセルが10歳の頃に確立させている。質量を減らして小型化すれば、反応炉をリューンの内部に組み込むことは問題なく可能だ。
問題は、
闇の月女神の力の結晶である晦冥の雫を体内に納め、封印していた魔導巧殻――アルであれば、仮に反応炉を組み込んだとしても、問題なく反応炉は稼働するだろう
しかし、魔導巧殻リューンの役割は
アルの構造を完全再現してリューンに組み込むことができれば、この問題は解決できる。
だが、先も言ったように、今からそんなものを創っている時間など無い。ジルタニアは既に、自身の魔導兵器に次弾を装填しつつあるのだ。
もしやるならば、今のリューンそのものに組み込まなければ、到底ジルタニアとの戦いに間に合わず、再び多くの国民が死んでしまう。
泣きそうな顔で首を横に振るリセルに、リューンは優しく微笑みかけた。
『お願いですの。わたくしに、大切な人たちを……そして、大事な大事な
――その後、アルタヌーの力を取り込んだジルタニアを滅ぼそうと、ヴァイスハイトが黎明の焔を使用したが、倒したはずの東の前元帥ノイアスが間に割り込み失敗に終わる
リセルとリューンの独断によってリューンの体内に組み込まれた、黎明の焔の複製品を用いた反応炉――“黎明機関”と名づけられた“それ”を起動せざるを得なくなった。
ジルタニアを倒し、彼の魔導兵器から魔導巧殻アルを救い出したリューンは、彼女から晦冥の雫を
黎明機関の発動によって修理不能の機能停止に
晦冥の雫とは異なり、封印を浸食するような性質が無い上に、起動も停止もアルの意思1つであるため、リューン1体の封印が欠けたところで、彼女たち魔導巧殻の稼働には何の問題もなかった。
こうしてメルキア帝国の……いや、アヴァタール地方の平和は護られた。
1体の心優しい魔導巧殻の犠牲によって――
***
(……まったく、ほんっとうになんにも変わっていませんの。目的のために手段を選ばないところも、一度“これ”と決めたら猪突猛進するところも………………本当に大切なもののためには何もかも投げ捨てちゃうところも)
こんな状況にもかかわらず、思わずリューナは変わらない親友の姿に、ふっと笑みをこぼしてしまう。
――いや、物理的な姿は大いに変わっているのだが。なんだ、竜になるって
しかもアレはどう見ても、メルキア帝国ディナスティ領の最終兵器“
おまけに、なんかリューナも知らない魔導巧殻と合体してるし……まあ、それも狂魔導技師たるリセルらしいといえばらしいのだが。
そこで、リューナはふと水竜が嫌悪感を露わにして言った言葉を思い出す
――『……そういうことだ。そ奴は、命を
なるほど。竜族はもちろん、人間族を除くあらゆる生命を
その形が“竜”そのものである以上、歪竜には竜族の因子も多く含まれているはず。そのいびつな同族の気配を感じ取ることで、彼や子竜達は、リセルの正体を見破ったのかもしれない。
リューナは、水竜フリーシスが彼女を嫌悪していた理由を理解した。
……今思えば、ユイドラで会った時から妙に彼女が親切だったのは、そして妙にリューナを安全な場所に押し込めようとするのは、リューナの振る舞いが
かつて魔導巧殻へと不自然な転生をした影響か、それとも別の要因があるのか、リューナの性格も、言動も、態度も全てが魔導巧殻であった時のままだったのだ。
つまり、その魂の
そして、シルフィーヌに対して『幼い頃、青の月女神から大きな加護を与えられていた』と相談したことによって、リューナがリューンの生まれ変わりであることを、リセルは確信した。
だからこそ、彼女はこの“魔導巧殻リューン”をリューナに渡したのだろう。
贄にされた魂こそが魔導巧殻の力を引き出すための術式であり、起動させるための鍵であることを、かつてのリューンは、自身に黎明機関を組み込んでもらう時にセシルに伝えている。
感覚でもいい。
直感でもいい。
前世の自身の身体を見ることをきっかけに、少しでも魔導巧殻として……いや、青の月女神の力を降ろす
――ありがとう
思い出せた。
すべて、思い出せた。
――青の月女神の力を降ろす依代として、あるべき魂の在り方も
――かつてのルーンエルフの仲間達や、リセルを含むメルキアの戦友達への愛情も、感謝も、想い出も
――そして、魔導巧殻リューンが滅びる間際に編み出した、この技術も
「
――