水精リウラと睡魔のリリィ   作:ぽぽす

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第三章 リューナを救え! 前編

 ……もぞり

 

 ベッドの上で、リリィがわずかに身じろぎする。……数秒後、彼女はのそりと身を起こした。

 

 10歳くらいの年頃の睡魔族(すいまぞく)であるリリィは、金色に輝く髪に紅玉(ルビー)の瞳、白磁の肌を持つ、だれもが認める美少女である。可愛らしさと美しさ、そして睡魔族ならではの妖艶さを兼ねそなえた彼女の魅力は、まさに“魔性”と評するに相応(ふさわ)しい。

 

 ……だが、そんな彼女の魅力も、寝起き直後は半減中。

 寝癖が飛び跳ねる髪、眠気に胡乱(うろん)な瞳、半開きの口には唾液の跡がクッキリ。

 そして何より、キャミソールドレスの肩紐が外れて腹の(あた)りまでずり落ち、女性として見えてはならない部分が全開になっている有様(ありさま)は、いろんな意味でとても人様には見せられない。

 

 そして、彼女の肩紐を外してくださりやがった御方は、リリィの目の前でスヤスヤと安眠中。

 衣服を含めた全身すべてが薄い半透明の水色という、なかなかに特徴的な15~16歳程度の少女。

 

 リリィの姉にして常識ブレイカーこと、水の精霊リウラである。

 

 リリィは寝ぼけ(まなこ)でぼうっとリウラを見つめていると、まぶたを半分閉じたままハッと何かを思いついた表情になる。

 

 

(……ウォーターベッド……!)

 

 

 ……リリィの脳は未だ(本来の意味での)睡魔に占拠されている模様。

 手足を折りたたみ、身体を丸めるようにして眠るリウラを、ごろりと転がして仰向(あおむ)けにすると、リリィはリウラの上にもぞもぞとのしかかる。

 

(うわぁ〜……すっごい気持ちいい〜〜……)

 

 100%水分で出来ている、メイド・オブ・リウラ布団の感触は極上の一言(ひとこと)。わずかにひんやりとして、それでいてぷるんぷるんの触感が何とも言えずたまらない。

 快感のあまり、リリィの意識は数秒もたずストンと落ちた。

 

 部屋には再び姉妹の寝息が、二重奏でスヤスヤと響く。

 

 

 

 

 ……うち、片方の寝息が(うめ)き声へと変わるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

***

 

 

「これなんて、どう!? ……お〜っ! やっぱり、似合う似合う!」

 

 ラギールの店の鎧コーナー……その一画で、リリィに白いワンピース(これも鎧の1種だ)をあてがうリウラの姿があった。

 

 リウラの睡眠中に寝ぼけてのしかかり、苦しい思いをさせたリリィ。

 昨晩、酔っぱらった勢いで、リリィのキャミソールドレスを盛大にはだけて、思いきりリリィの胸に吸いついたリウラ。

 

 2人は起きた直後、自分がやらかしたことに気づき、同時に『『ごめんなさい!』』とベッドの上で土下座敢行(かんこう)。その絵面(えづら)の珍妙さに彼女達は大爆笑し、お互い良い雰囲気で許しあった流れで、彼女達は朝食を済ませ、そのまま自分達の武器防具を(そろ)えるためのショッピングに来ていたのだった。

 

 ちなみに、リウラがリリィの胸に吸いついたのには、いちおう理由がある。

 

 実は昨晩、リリィはリウラに対して性魔術を行使している。

 これは事前にリウラと話し合って決まっていたことで、1日の終わりに余った魔力を使ってリウラを強化する事になっていたのだ。

 

 ゴーレム戦直後、リリィの魔力はほぼ空になっていたが、その後の宴会で食事をとってゆっくり休んだことで、ある程度魔力が回復していた。その魔力を使って性魔術を行い、リウラの魔力をパワーアップさせていたのである。

 

 (した)っているとはいえ、同性に性儀式(せいぎしき)を行うのは、リリィにとって少々複雑だったが、覚悟自体はできていたので、それはいい。

 問題はそのときにリリィが服用した薬にあった。

 

 ゴーレムを倒した後、蔵から宝物を運び出そうとしていたリリィは、蔵の中から優秀な魔力増強薬を見つけていた。

 リリィは性魔術を使う前に、この薬を服用して、性魔術の効果を高めていたのだが……その副作用として、一時的に母乳が出るようになってしまったのだった。さすがはエロゲ世界の薬。意味不明な副作用である。

 

 酔っぱらって寝てしまっていたリウラは、性魔術が終わった直後に目を覚ましたのだが……胸の部分を母乳で濡らすリリィのキャミソールドレスを見た彼女は、宴会で多量に摂取したアルコールが抜けきっていない頭で、こう考えた。

 

 

 

 ――飲んでみたい、と

 

 

 

 リリィの性魔術でパワーアップした直後のリウラと、性魔術を使った直後で、魔力がすっからかんになっていたリリィ……その勝敗など、語るまでもない。

 

 あわれ、リリィは延々(えんえん)と自分の胸を、リウラが寝落ちするまで彼女に(もてあそ)ばれることになったのである。

 

 

 

 

(それにしても……あれは、いったいなんだったんだろう……?)

 

 リウラの要求のままに着替えを繰りかえしながら、リリィは昨晩のことを思い起こす。

 

 リリィが性魔術を使ってリウラの魔力を強化しようと、彼女に己の魔力を浸透させたところ、予想外の事態にリリィは戸惑(とまど)った。

 

 ――封印

 

 魔力ではない別種の力で(ほどこ)されていたため、厳密には違うのかもしれないが、そうとしか呼びようのない異質な力が、リウラの身体への干渉を防いでいたのである。

 しかも性魔術を使って封印を無理やり解除した時の手ごたえがおかしく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、リウラは眠っていて、意識がなかったにもかかわらず、である。

 無事に強化は完了したものの、リウラの身体に何があったのか、非常に気になる。

 

 しかし、訊いてみても、リウラにはまるで心当たりがないという。

 

 強化する際に判明した、水精(みずせい)とは思えないほど強大なリウラの潜在能力についても、リウラは『わからない』と首を横に振るばかり。

 嘘をついている様子も、隠しごとをしている様子もなく、真相は闇の中だ。

 ……まあ、不都合は無いので、そこまで頭を悩ませる必要はないのかもしれない。

 

 だんだん着替えが面倒(めんどう)になってきたリリィは、さりげなくリウラとの会話を誘導して着せ替え役をアイに押しつけると、「ちょっ!? リリィさん!?」と慌てふためく土精(つちせい)の声を無視して武器コーナーへと向かうのだった。

 

 

***

 

 

「お嬢~、そろそろ起きないと昼飯ですぜ~。いくら昨日飲み過ぎたっていっても、さすがにそろそろ起きないとまずいですよ~」

 

 コンコンコンと軽い音を立てる3回ノック。それと共に響く狼顔(おおかみがお)の家族の声を聞いた瞬間、ヴィアはバンッ! と跳び起きた。

 素早く腰をかがめつつ腰のダガーに手をかけて周囲を観察したヴィアは、既にリューナもクロもいなくなっていること、そして気を失う直前と光景がガラリと変わっていることに気づいた。

 

(……私の部屋?)

 

 軽く口の中を噛み切って、魔術で()かされていないか確認する。あまりに高度な魔術であれば意味のない行動ではあるが、簡単なものならばこれで解ける。

 しかし、ヴィアの視界に映る光景にも、感じる気配にも変化はない。ならば、おそらく今の光景はありのままの現実であり……そして、それはリューナが(さら)われてから数時間、へたすれば10時間以上()ってしまったことを意味していた。

 

(わざわざ私を部屋まで送り届けた……? いや、私が食堂で倒れていたら父さんに“何か”があったと気づかれる。そうしてまでも、父さんに事態を気づかせたくなかった……?)

 

 ヴィアは急いでドアに駆けよって開くと、急いでいる様子のヴィアに怪訝(けげん)そうな顔をするヴォルクに訊く。

 

「ヴォルク! リューを見なかった!?」

 

「リューナ嬢ちゃん? いえ、朝から見ちゃいませんが……何か、あったんですかい?」

 

 ヴォルクの眼が細められる。ヴィアをも(しの)ぐ狼さながらの嗅覚が、敏感にヴィアの発汗状態を嗅ぎ分け、普段の彼女からは考えられない程の焦燥状態にヴィアが(おちい)っていることを知ったからだ。

 ヴォルクの変化を見て自分が焦っていることを悟られたと理解したヴィアは、自分がこれからどうすれば良いのか考え込む。

 

(どうする……!? 私はどう動けばいい!?)

 

 “このままヴォルクに状況を全て話し、そのままブランに伝える”、というのも手の(ひと)つだ。

 “『ブランに伝えるな』とクロが言った”ということは、“それをされるとクロが困る”、ということ。誘拐犯が『衛兵団には伝えるな』と言うのと同じである。良く(おさ)められた法治国家であれば、それで解決する、というケースも少なくない。

 

 だが、逆に最悪の事態を引き起こすパターンも、ままある。

 『これはダメだ』と判断した犯人が、人質を奴隷商に売っぱらって、少ないながらも金銭を手に入れてから高飛びしたり、酷い時には“少しでも自分の情報を減らしておこう”と人質を殺してサッサと雲隠れするなんて事例も珍しくないのだ。

 

 クロがどちらのパターンであるかなど、考えるまでもない。彼女との約束を破ったリューナがどうなったかは、嫌というほど理解させられたし、そのうえ神出鬼没の移動能力を持つのだ。まちがいなく後者だろう。

 

 ――『ヴィアさん。リウラさんに伝言をお願いするッス』

 

 ……業腹(ごうはら)だが、今はあの黒ずくめの言うとおりに従うしかない。

 

「ごめん……何かあったのは事実だけど、話せないわ。なるべく知られたくもない」

 

「……」

 

 真剣な眼でヴィアとヴォルクが見つめ合う。ややあって、ヴォルクが頷いた。

 

「わかりやした。俺は何も見なかった、聞かなかった、嗅がなかった……そういうことで良いんですね?」

 

「うん、ありがとう」

 

 ヴィアはそういうや否や、すぐさま駆け出した。

 

 こうしている間にも、リューナが酷い目にあわされているかもしれない、殺されている可能性だって高い。いくら急いでも、急ぎ過ぎるということはないのだ。

 

 水そのものに近い身体を持つリウラは、匂いが非常に残りにくい。ヴィアは軽く鼻を鳴らすと、リリィの匂いを追って宿を飛び出した。

 

 

***

 

 

 最愛の姉(リューナ)に買い戻されたその日に基本的な引きつぎは済ませたとはいえ、前店主(リシアンサス)から現店主(ヨーラ)へと引きつぐべき業務は、まだまだ多い。ひと口に“ラギールの店”といっても、店にやってくる顧客の特徴やその土地特有の文化・気候が店舗ごとに異なるため、仕入れる商品から顧客の対応方法なども全く違い、それに合わせて業務が変わってくるからだ。

 

 いつリシアンサス自身が誰かに買われても問題なく引きつげるよう、そうした資料は残してはあるものの、紙面から情報を読み取るのと、前任者が口頭で、あるいは実演で情報を伝えるのとでは、引きつぐ者の理解度がまるで違う。全ての業務をスムーズに行えるようになるためには、最低でも1ヶ月はこの店に通う必要があるだろう。

 

 とはいえ、今や奴隷でもなければ、“ラギールの店”の店員でもないリシアンサスに、それをする義務はない。これはリシアンサスの責任感あってのことであり、ヨーラとリシアンサスの間で結ばれた短期非正規雇用(アルバイト)契約があってのことだった。

 

 お祝いで夜遅くまで飲んでいるであろうことを(おもんぱか)って、『昼からの出勤でいい』とヨーラに伝えられたリシアンが、その言葉に甘えて午後に店の裏口を(くぐ)ると、

 

 

 

 

 ――そこは濃密な魔力と、強烈な怒気に満ちていた

 

 

 

 

 浴びていたら息が詰まるどころか、息絶えてしまいそうなほど強烈なそれらを放つのは、カウンターの前で(にら)み合う2人……リリィとリウラである。

 

 べったべたに仲の良いあの2人が、まるで今から殴りあいでも始めそうなほど険悪になっている異常事態に、リシアンはあんぐりと口を開けて呆然としている。

 

 おまけに2人のすぐ(そば)には、2人に向かって土下座をしているヴィアの姿。

 もう訳が分からなかった。

 

 グッと服の(すそ)を握られる感覚にふと我に返ると、いつの間にか隣に涙目になった金髪おさげの少女がいた。エルフそっくりの容姿だが、ふくらはぎのあたりから木の根が巻きついたような足になっている11~12歳くらいの少女……リシアンの後輩であり、現在のラギールの店の店主でもある木精(ユイチリ)――ヨーラである。

 

「先輩! これ、なんとかしてください!!」

 

「待って待って!? まず状況を説明して!!」

 

 ヨーラは聞き取りづらいほど早口で、リシアンに今の状況を語りだした。

 

 

 

 

 

 ――ヴィア達が立てていた計画。その背景

 ――そして、クロという共謀者の存在と、リューナの誘拐

 

 クロが『他の人に言うな』と言ったがために、ヴィアはこれらのことを誰にも相談できない。しかし、たった1人、例外的にこのことを話せる人物がいる。

 

 そう、クロが伝言を頼んだ人物であるリウラだ。

 

 ヴィアは彼女にクロの伝言を伝えると同時に、その場で深々と土下座してリューナ救出の助力を願い出た。もはや、彼女には他に頼れる者がいなかったためである。

 

 ヴィアからもたらされた情報を聞いたリウラは、一も二もなくリューナの救出を了承した。

 自分達が罠に()められようとしていたにもかかわらず、『計画を止めようとしてくれていたのだから気にしない』『それよりも急いで助けないとリューナの命が危ない』と、なんのわだかまりもなく言ってのける(さま)は、まちがいなく大物か底抜けの大馬鹿である。

 

 ところが、ただごとではない様子で急いで店を出ようとするリウラの姿を、リリィに見られてしまった。

 その場で問いただされるも、隠しごとが下手なリウラの説明は要領を得ず、さらに怪しまれた結果、『黙っているならば、無理やり魔術で記憶を覗く』と脅され、結果としてリリィどころか、もめている様子を見に来たヨーラにまで事情を知られてしまったのだ。

 

 

 

 ――そして、リリィは激憤(げきふん)した

 

 

 

 愛する姉(リウラ)は、彼女にとって己の命に続く第2の逆鱗(げきりん)。“リウラを(くだん)の危険な魔族の元に向かわせる”ということは、“彼女を命の危機に(さら)す”ということ。

 リリィ自身の命を救うために危険に晒している現状ですら受け入れがたく、本当ならば他の水精(みずせい)達とともに避難してもらいたいくらいなのに、自分達を罠に嵌めた者達の尻拭(しりぬぐ)いのために、リウラに更なる危険を(おか)させるというのだ。

 これにリリィが怒らないわけがなく、彼女はリューナの救出を断固拒否したのだった。

 

 それは“リリィ1人だけ助けに行かない”という意味ではない……“()()()()()()()()()()()()()()()”という意味である。

 

「リリィ、そこをどいて! 今は時間が無いの! リューナさんを助けたら、後でいくらでも話し合うから!」

 

「絶対、嫌! お姉ちゃんは自分がどれだけ危ないことをしようとしてるのか、全然理解してない! なんで私達を身代わりにしようとしてた奴らなんかのために、そんなことするの!?」

 

 

 ――リウラには妹が理解できなかった

 

 たしかに、自分達を罠に嵌めようとしたことは、いけないことだろう。だが、リューナは反省して件の計画は未遂で済み、ヴィアも恥を(しの)んでこうして頭を下げてきているではないか。

 なら、まずは失われようとしているリューナの命を確保するべきだ。罪の清算やら何やらはその後ゆっくり考えればいい。こうしている間にもリューナの命が失われようとしているのだから、急がねばならないのに……。目の前に立ち(ふさ)がり続ける妹に、リウラは焦燥を(つの)らせる。

 

 

 ――リリィも姉が理解できなかった

 

 ヴィアの話からすれば、件の魔族は、リリィの眼から見て高い戦闘力を持つヴィアやリューナだけでなく、この巨大な町を丸々1つ支配しているブランですら手を出そうとしない相手らしい。

 

 であるならば、それはリリィやリウラにとって、まちがいなく手に余る相手だ。相対(あいたい)すれば、高確率で死ぬか、死ぬ以上に酷い目にあわされるだろう。基本的に何かされても泣き寝入りした方がまだマシな相手なのだ。

 そんな危険な相手の縄張りに入り込むなど正気の沙汰(さた)ではなく、ましてや自分達を(おとしい)れようとしていた者を助けるためになど、言語道断であった。

 

 さらに言えば、ヴィアの話から時間的に考えて、リューナはとうにその魔族の前に突き出されているはずだ。気が短い相手なら、彼女はとっくに死んでいるだろうから“もう手遅れ”と考えていいし、仮に(とら)われていたとしたならば、拷問(ごうもん)などでリリィ達の情報を引き出され、既にリリィ達に追手がかかっていてもおかしくない。

 むしろ、こんなところで問答(もんどう)している場合ではなく、今すぐにでも逃げださなければならないのに、頑迷(がんめい)に自ら死地に向かおうとする姉に、リリィは焦りと苛立(いらだ)ちを募らせる。

 

 “このまま口論していても(らち)が明かない”と判断したリウラが、リリィを(かわ)して助けに向かおうと画策(かくさく)し、それをリウラの魔力の活性化から察したリリィが、“そうはさせじ”と同じく魔力を練り、妨害しようとリウラの動きに神経をとがらせる。

 

 2人の激突に、あわや店の崩壊か、とヨーラが青ざめたその時――

 

 

 

 

「お願いします……今だけで、今だけでいいから……! 力を貸してください……!」

 

 

 

 

 姉妹喧嘩(げんか)(さえぎ)ったのはヴィアだった。

 

 本当は横から口を出す資格なんて自分にはないと、彼女は重々承知している。しかし、今はとにかく時間がない。このまま延々とこの姉妹喧嘩を横から見ていては、本当に手遅れになってしまう。

 

「私にできることならなんでもしますから……だから、お願い……!」

 

 血を吐くような声、とはこのことだ。並大抵の者であれば、その悲壮な響きに同情し、首を縦に振っていただろう。

 

 

 

 ――だが、リリィは“並”ではなかった

 

 

 

「へぇ……()()()()ねぇ……?」

 

 

 

 ゾクリとリウラの背筋が震える。

 

 まるでモノを見るかのような無機質な瞳、ヴィアを見下しきった傲慢(ごうまん)な笑み……そして粘着質に絡みつき、人を(あざけ)るその声の響き……それは、まるで……

 

(……悪魔、みたい……)

 

 ディアドラと相対(あいたい)した時、リウラの身を案じたが為に見せたような演技ではない。まぎれもない本心からの表情であることがリウラには分かった。

 

 ……コレは誰だ? 本当にコレは自分に(なつ)いて甘えてくるあの子なのか? リウラの命を守るために悪役まで演じたあの優しい妹が、本当にこんな表情をするのだろうか?

 

 リウラが動揺で固まっている間に、リリィはヴィアの目の前に片膝をついてしゃがみ込み、人差指でヴィアの(あご)を持ち上げて顔を上げさせる。

 

「じゃあ、あなた……私が『死ね』と言ったら死ぬんだ?」

 

 そのあまりに無体(むたい)な言葉に、リウラはカッと頭に血が(のぼ)るのを感じ、反射的にリリィの頬を叩こうと平手を振り上げた瞬間、

 

 

 「――良いわ」

 

 

 ヴィアの口から肯定の言葉が放たれた。

 なんの迷いも躊躇(ためら)いも無い即答――リリィとリウラの眼が驚愕に見開かれる。

 

「リューが助かった後でなら、どんな死に方でもしてあげる。アンタに(なぶ)り殺しにされても、浮浪者に犯されながら殺されても文句は言わない……信用できないなら、私を魔術で縛ってくれていい」

 

 彼女の目を見て、まちがいなく本気で言っていることを理解したリリィが呆然と尋ねる。

 

「どうして……そこまで……」

 

 真剣で、それでいて誠実なまなざしがリリィの紅い瞳を射抜く。

 

 

「それは、リューが私にとって――」

 

 

 ――『うわぁ! 猫耳少女、超かわいいですの! ……え、マフィア? それ、わたくし達を襲った魔族より怖いんですの?』

 

 

「マフィアのボスの娘である私を、初めてありのままで見てくれた友達で――」

 

 

 ――『ヴィアの気持ちは正しいですの。親を失えば憎いのは当然。その気持ちを押し込めて、否定して生きたら、ヴィアはきっと歪んでしまいますの』

 

 

「母さんを失った私の気持ちを、初めて理解してくれた人で――」

 

 

 ――『あなたを救けに来たに決まってるですの! ……って、なんで泣くですの~!? うわっ、追ってきた!? ほら、ヴィア、あなたの短剣(ダガー)ですの! 早く立って走れ~~~~っ!!』

 

 

「共に苦難を乗りこえた戦友で――」

 

 

 ――『ありがとうですの、()()()……今日から私は、リューナ・S・()()()()ですの!』

 

 

「血のつながらない……大切な妹だからよ」

 

 

 ギリ……!

 

 食いしばったリリィの歯が鈍い音を立てる。

 

 リリィには、ヴィアの気持ちが痛いほどに分かる。分かってしまう。

 

 ……だってそれは、リリィがリウラに対して抱いている気持ちと同じだから。

 魔王の使い魔であると知っても、それでも自分を受け入れてくれた時のやすらぎと嬉しさを知っているから。

 ありのままの自分を受け入れてくれる存在が、どれほど()(がた)く、尊いのかを知っているから。

 

 

 ――“()()”というものの温かさを、知っているから

 

 

「僕からもお願いします」

 

 この場に居ないはずの人物の声が自分の後ろから聞こえ、ヴィアはバッと振り返り絶句する。

 

「リシアン!? いつの間に……!?」

 

 リリィ達の説得に夢中で、リシアンの接近に気づかなかったヴィアは、呆然とリシアンがヴィアと同様に地面に両膝をつき、額を地面に(こす)りつける(さま)を眺めてしまう。

 

「姉さんは僕にとっても命よりも大事な人です……なんでも言うことを聞きます。僕が持っているものも全て差し上げます。だから、どうか姉さんを助けてください……!」

 

 

 

 ………………………………。

 

 

 

 沈黙が横たわる。

 ややあって、リリィはゆっくりと口を開いた。

 

「……その魔族の名前は……?」

 

「……“暴君ブリジット”」

 

 ヴィアの回答に、リリィは(わず)かに目を細める。

 数秒の思考を終えると、リリィは言った。

 

「……わかった」

 

 バッと、ヴィアとリシアンがリリィに目を向ける。

 2人の眼に入ったリリィの表情は、とても厳しい。しかし、それは覚悟を決めたが故の表情であり、今の回答が嘘や冗談ではない証拠であった。

 

「ただし、条件がある」

 

 リリィが続けた言葉に、2人は気を引き締める。

 リリィはヴィアと視線を合わせながら言った。

 

「ヴィア……()()使()()()()()()()()()

 

 !!?

 

 ヴィアとリリィを除く、その場にいた全員が驚愕に固まる。

 なぜなら、その言葉は『私の奴隷になれ』と言ったのとほぼ同義だからだ。

 

「あなたは信用できない。向かった先で私達を(おとり)にしても、犠牲にしても全然おかしくない。だから、あなたの行動を使い魔の契約で縛らせてもらう。それさえ呑めば……」

 

 ひと呼吸おいて、リリィは続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……全力でリューナさんを助けてあげる」

 

「……ありがとう」

 

 自分がリリィ達にしたことを考えれば、充分すぎる返事である。

 ヴィアは神妙に頷いた。

 

 ヴィアの返事を聞いたリリィは1つ頷くと言った。

 

「ヴィア、すぐに装備を整えて。足りないものは全部この場で買い(そろ)えて良いから。お金は全部、私が出す」

 

「……え?」

 

 ヴィアは硬直する。

 

 たしかに、一刻(いっこく)も早くリューナを助けに行かなければならず、また他の者に極力気づかれてはならないのだから、“水の貴婦人亭”に帰って装備を取ってくるのではなく、この場で装備を整えるのは適切な対応である。

 

 また、リシアンを買い戻すのに資金のほぼ全てを使い、蔵の宝物の残りは報酬としてリリィに渡してしまったヴィアに、全装備を購入する資金力など無い。リリィがお金を出すのもまた適切な対応なのだが……先程までの嫌がっていた態度からすれば考えられない、気前の良すぎる言葉に、ヴィアの頭は状況を理解できず、思考が停止してしまっていた。

 

「それと、リューナさんが使っていた装備も一式そろえて。向こうで装備を取り上げられてたら、彼女が戦力にならない。……リシアンさん、ヴィアとリューナさんの装備、わかりますか?」

 

「……あ、はい。だいたいは」

 

「では、すぐに用意してください。ヴィア、来て。1分で使い魔の契約を済ませるよ」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよリリィ! なんで急にそんなやる気になってるの!?」

 

 リウラが慌ててリリィを止める。180度方向を変えた態度を取り始めたリリィのあまりの豹変(ひょうへん)ぶりに、思わず止めずにはいられなかった。

 

「……私はただ、リシアンさんの顔を立てただけだよ。別にヴィアのことを許したわけじゃない。……それに、私は、危なくなったらお姉ちゃんを気絶させてでも、リューナさんを見捨てて逃げる気満々だからね」

 

 リウラを強い視線で射抜くリリィ。

 その様子をじっと見たリウラは、ややあって、心のうちで“ああ”と納得する。

 

 なるほど、リリィの言葉は嘘ではないだろう。本当にリシアンのために動いたのだろうし、いざとなったら本当にリウラは気絶させられて、リューナを見捨てて逃げるに違いない。ヴィアのことも、決して許していないのだろう。

 

 しかし、それだけの理由で彼女が動くはずがない。それだけの理由で、これだけ決意に満ちあふれた眼になれるはずがない。

 

 

 ――『ねぇ、リウラさん……私たち、家族なんですよね?』

 

 

 彼女が自分を“姉”と呼ぶようになったきっかけを、リウラは思い出す。

 

 リリィ本人に自覚はないだろうが、生まれて間もなく親を失い、周囲に居たであろう魔王の配下をも失った彼女は、家族に飢えている。だからこそ、あんなにもあっさりとリウラに懐き、家族として見てもらえることを心の底から喜んでいたのだ。

 

 そんな彼女が、あんなに必死に『家族を失いたくない』と訴えられて、心が揺さぶられないわけがない。“助けてあげたい”と思わないわけがない。

 

 姉を失いたくないリシアンのため……そして、妹を失いたくないヴィアのために。

 

 

 

 ――原作知識のないリウラには知る(よし)もないが、最終的にリリィが“リューナを助ける”と決断を下した理由はもうひとつある

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 “魔族姫ブリジット”は原作の登場人物であり、魔王の幼馴染という極めて重要な立ち位置を占める魔族である。

 

 彼女はどうやら魔王ほどの才能はなかったらしく、原作でほとんど力を取り戻していない状態の魔王と、いまだ成長し始めたばかりのリリィが勝利を収められる程度の実力しかない。したがって、リリィは“もし戦闘になっても、勝利できる可能性は充分にある”とふんだのである。

 勇者の血族である女性と戦っても逃げ切った描写があるため、決して油断できる相手ではないだろうが、勝てない相手ではない……そうリリィは考えたのだ。

 

「ほらヴィア、早く来なさい! 間にあわなくなる! ヨーラさん、すみませんがベッド貸してください」

 

「は、はい! こちらです!」

 

 リリィが(わず)かに頬を赤くしながら、ヴィアの手首を力強く引っ張って連れていく。

 リューナの命が危険にさらされている今、たしかに急ぐべきなのだろうが、どこかリリィらしくない様子にヴィアは首を(ひね)る。これではまるで何かを照れ隠し……いや、むしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「……って、()()()?」

 

 ヴィアがリリィの発言に疑問を感じた直後、ガチャリと鍵が閉まる音がする。

 

 

 ――自分が入った部屋を見て、ヴィアは硬直した

 

 

 妙に雰囲気の良いつくりの部屋である。例えるなら、()()()()()()()()()()()()()()……

 

 ラギールの店では、買い物をするとポイントがたまるシステムになっている。そしてある一定以上のポイントがたまると、店主に性的なサービスを提供してもらえるのだ。

 ……さて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――そう、ここは()()()()()()をするための部屋なのだ

 

 

 膨大な魔力にものを言わせて強化した脚力を使って、ヴィアが反応できない速度をもってスパンと彼女の足を払い、ベッドに押し倒すリリィ。彼女は素早くヴィアの胴にまたがり、肩をベッドに押さえつける。

 

「時間がないの。できるだけ抵抗しないで、私に身を任せて。30秒でイきなさい」

 

「待って、リリィ! お願いだから待っ……!?」

 

 

***

 

 

「うわぁ……」

 

「……(赤面)」

 

「……(苦笑)」

 

 ラギールの店の“サービス部屋”は、プライバシー保護のため結構防音効果が高いのだが、それでも防ぎきれないほど大きくて色っぽい絶叫が漏れ聞こえ、リウラ、ヨーラ、リシアンは頬を赤く染める。

 

 余談だが、全身が水であるはずの水精(みずせい)も、理由は不明だが、不思議なことに恥ずかしがったり、お酒を飲んだりすると、頬が赤く染まる性質がある。

 

「あの……使い魔にするのって、ああいう方法しかないんですか……?」

 

 ヨーラがヴィア達の装備を用意しながら、恥ずかしそうにリウラに問う。

 

「なんか、いくつかやり方があるらしいよ? 水蛇(サッちゃん)の時は全然違う方法だったし」

 

 リウラも詳しくは()いていないが、使い魔の契約を結ぶ際に複数の手段があることだけはリリィから教わっている。何も知らない自分では分からないが、今回はあの方法が適切なのだろう。

 そんなことを話していると、ガチャッと扉が開き、ぐてっと全身の力が抜けたヴィアを肩に(かつ)いだリリィが部屋から出てくる。

 

「ヨーラさん、治癒の水を1本ください。……ほらヴィア、しっかりして。装備を整えたら、すぐに出発するよ」

 

 睡魔がもたらす想像を超えた快楽に打ちのめされたヴィアは、顔を真っ赤にして目を(うる)ませながら夢心地になっており、その様子はものすごく色っぽい。

 使い魔契約をするための性魔術によって、わずかに吸い取られたヴィアの体力を回復させるため、リリィは壁にもたせ掛けるように彼女を床に(すわ)らせてから、その手に回復薬を握らせる。……が、自分で薬を飲む気力も無いようで、しかたなくリリィは自分で(びん)の口を(ひね)り、手ずからヴィアに薬を飲ませている。

 

「あの様子なら、道中で仲違(なかたが)いする心配はなさそうですね。……リウラさん、姉さんたちのこと……どうか、よろしくお願いします」

 

 神妙に頭を下げるリシアンに、リウラは自らの胸をドンと叩いて(こた)えた。

 

「まっかせといて!!」

 

 

 

 

 

 

『私も微力ながら力になります。安心して待っていてください』

 

(……アイさん……いたんだ……)

 

 リウラの首に下げられた琥珀色(こはくいろ)の魔石――リリィが錬金して作成していた、使い魔を収納できる魔法具、“喚石(かんせき)”から土精(つちせい)の声が聞こえる。

 

 リウラの着せ替え攻撃から逃げるため、この魔石に逃げ込み……そのまま喧嘩(けんか)が始まって出るに出られなくなっていたヘタレなアースマン――アイであった。

 

 

***

 

 

「……おっきい……」

 

 リウラの目の前に有るのは、ブリジットの居城。

 リウラは、まるでゴーレムがいた(とりで)を見た時のことを再現したかように、目を真ん丸にして呆然と(つぶや)く。

 

 なぜなら、その規模・装飾・堅牢さ・感じられる手下達の気配の数や質……全てが先の砦とは比べものにならないほど立派だったからだ。

 これが要所防衛のための軍事基地である“砦”と、領主や将軍らの居住施設を兼ねた戦時防衛拠点である“城”の違いである。

 知識としてシズクから習ってはいたのだが……実際に見て体験すると、想像以上に大きく感じる。

 

(……良かった。リューナさん、まだ無事だ……)

 

 そして、この城の中からリューナの気配を感じる。少なくとも殺されていないことは確実であり、気配もそう小さくなっていないことから、体力が減るような事態にもなっていないのだろう。リウラは、ほっと胸をなでおろす。

 

「ヴィア、作戦は?」

 

「……私が忍び込んだら、全員正面から突っ込んで、なるべく城門付近で暴れて。危なくなったり、ブリジットの気配がそちらに向かい出したら、すぐに撤退。その間に、私はリューを探して確保・脱出。事前に決めておいた場所で落ち合って終了よ」

 

 普段まったく行動を共にしていない相手と1回共に戦った程度で、うまく息を合わせられるはずがない。

 おまけに、リシアンを救うため、数年にわたって盗みを働いていたヴィアは潜入経験も豊富だが、彼女以外は全員、潜入などしたこともないド素人だ。陽動や囮以外の役目がこなせるとは思えない。

 この広さの城で探索者がヴィア1人というのは心許(こころもと)ないが、城にいる者の目がリリィ達に向けば、ずいぶんと探索が楽になる。

 

 “城門付近で”と限定したのは、潜入の素人の彼女達が下手に内部に侵入して暴れたら、かこまれて(すみ)やかな撤退が難しくなるためである。

 

 リリィは“自分達が囮にされる”という点に、眉をひそめつつ少し悩むも、他に良い案も浮かばないため、しぶしぶ頷く。

 

「……しかたないか。その作戦で良いけど、本当に少しでも危険を感じたら、すぐに私達は逃げるよ。さっきも言ったけど、あくまでも私とお姉ちゃんの命が最優先だからね」

 

「……わかってるわ」

 

 クロから既に情報が伝わっている可能性が高いとは思うものの、念のため、鼻から下を黒布で(おお)って正体を隠したヴィアは頷く。しかし、リリィ達が逃げ出すまでにリューナを救いだせるか不安なのか、彼女の表情はハッキリと強張(こわば)ってしまっている。

 

 その様子を見て、リリィは少し考える。

 

「……私の使い魔になった今のヴィアなら、心話(しんわ)が使える。念じれば、私と心で会話できるから、もしリューナさんを確保できたら、それで私に連絡して。逃げ道だけは作ってあげる」

 

 ヴィアは驚きに目を見開く。今のリリィの提案は、リリィ達自身がブリジットと接敵しかねない、極めて危険なものだったからだ。

 

 そしてリリィの覚悟を決めた厳しい表情を見て、その言葉が嘘でないことを確信する。自分と姉の命が最優先の彼女にとって、それが限界ギリギリの譲歩なのだろう。罠に()めようとした自分に対し、ここまで譲ってくれたことにヴィアは(ひと)つ頷いて感謝する。

 

「……ありがとう」

 

 リリィも頷き返して、リウラに顔を向ける。

 

「お姉ちゃん。霧、出して」

 

「オッケー」

 

 グッと親指を立ててリウラが首を縦に振ると、スゥッと辺りから霧が湧き出し、城の門とその番人達を覆い隠す。

 門番が戸惑(とまど)った声をあげる時には、すでにヴィアの身体は門の内側に(すべ)り込んでいた。

 

「……1人で大丈夫かな?」

 

「わからない……ヴィアの腕を信じるしかないと思う」

 

「あの……“逃げ道を作る”って、具体的にどうするんですか?」

 

 リリィ達の話を邪魔しないように黙っていたアイが、疑問に感じていたことを尋ねる。

 

「“心話”って言ってたから、ヴィアさんに道を()いて突入するんじゃないの?」

 

 使い魔との契約方法によっては、使い魔と心で会話を交わすことができるようになる。これでヴィアの大まかな現在地を訊いて、突入して道を確保するのだろうとリウラは考える。

 

「ううん。それじゃ間に合わないどころか、迷ったあげく、大量の敵に足止めされてヴィアの所にまでたどり着けなくなると思う」

 

 へたに探索の素人である自分達が動きまわっても、ヴィアにたどり着くことはまず出来ない。こういった城では、侵入者が自由に攻められないよう、道が迷路のように入り組んでいることが多く、いくらヴィアから正しい道順を聞こうとも、迷ってしまう可能性は非常に高い。

 そうしてリリィ達が迷っている間に、構造を熟知した敵に奇襲を受けて足止めをくらってしまうだろうことが目に見えていた。

 

「え……じ、じゃあどうするの?」

 

 とまどう水精(みずせい)に、リリィは事もなげに答えた。

 

「ヴィアが現在地を連絡してきたら、城の外からヴィアのすぐ(そば)に偽・超電磁弾を撃ちこんで道を作る」

 

 精霊ズが固まった。

 この悪魔(あくま)()は、『()()()()()()()()()()()()()()』と言い放ったのである。

 

「そ、それ……ヴィアさん達を巻き込んじゃうんじゃ……」

 

「使い魔と主は、お互いの居場所を感じ取れるから大丈夫。リューナをヴィアがしっかり確保していれば、2人を避けて撃つ事はそう難しくないよ。1発くらいで城が崩れることもないと思うし……………………たぶん」

 

 最後だけ自信なさげに言うリリィに、2人は不安の色を隠せない。

 

「ただ、偽・超電磁弾を撃ったら私の魔力がほとんどなくなるから、逃げるサポートがあまり出来なくなるの……だから、お姉ちゃん、アイ。フォローはお願い」

 

「……わかった!」

 

 “不安に思ったところで何も変わらない”と不安を断ち切り、リリィの頼みに真剣な表情でリウラは頷く。対してアイの方は、なんとも言えない微妙な表情で考え込み……その後、おずおずと手を()げる。

 

「あの……それなら1つ提案が……」

 

 思いついた内容をアイが語ると、リリィの眼が驚愕に大きく見開かれた。

 

 

***

 

 

(……間違いない……ここからリューの気配がする……)

 

 昏倒(こんとう)させた見張りが倒れる(そば)で、大きな観音開きの扉に猫耳を当ててヴィアは中の様子を(うかが)う。

 

 城に潜入したヴィアは入り組んだ迷路のような道程を踏破し、ほどなくしてリューナの気配の詳細な位置まで特定する事が出来ていた。

 

 その場所は、なんと()()()()()()()()()

 

 通常ならば、“玉座の間”が位置しているはずの場所である。中からはブリジットと、その側近と思われる強い力を感じる。

 

 この状況から考えられる可能性は、大きく分けて4つ。

 

 1つ目はリューナとブリジットが対峙(たいじ)、もしくは戦闘中。

 2つ目はリューナが捕まって、ブリジットの前に引きずり出されている。

 3つ目は罠。ヴィアが既に潜入していることに気づき、リューナを(えさ)として使っている場合。

 そして4つ目は……

 

 ――次の瞬間、ヴィアの思考をその一言(ひとこと)が断ち切った

 

 

 

「ブリジット様~? 扉の外にネズミ……いえ、猫が1匹隠れているよう()()()♪」

 

 

 

(!?)

 

 突如(とつじょ)聞こえてきた声とその内容にヴィアが激しく動揺し、一瞬身体が硬直する。

 そのとき、彼女の頭の中に、どこかで聞いたことのある女性の声が響いた。

 

 

 

 ――『右に跳びなさい!』

 

 

 

 ヴィアが反射的に“声”に従って跳び退()いた瞬間、扉が吹き飛び、目の前を高密度の魔力弾が通過してゆく。冷や汗を垂らしながら、扉が吹き飛んだことで空いた大きな穴へとヴィアは向き直った。

 

 先程ヴィアが動揺した理由は、自分が(ひそ)んでいることを見抜かれたからではない。扉の中から聞こえてきた声がヴィアのよく知る人物のものであり、さらにその人物がするはずのない発言をしていたからだった。

 

 

 

「いらっしゃいですの、()()()。あまりに遅くて、待ちくたびれてしまいましたの」

 

 

 

 ヴィアの潜む位置を伝えたのは、ヴィアが助けにきたはずの人物であった。

 

 

 

 

 ――4つ目。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 


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