水精リウラと睡魔のリリィ   作:ぽぽす

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第三章 リューナを救え! 中編1

 想定される最悪のパターン……それは、“リューナから情報を引き出された上で、リューナが殺されていること”。

 では、その次に最悪のパターンとは、なんだろうか?

 

 それは、“リューナから情報を引き出された上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”パターンである。

 

 別にヴィアは、“リューナが自分の意思で裏切る”などとは欠片も考えていない。彼女とヴィアの間に築かれた絆は、それを確信できるほどに固く、太い。

 だが、この世界には魔術的に敵を取り込む方法なんて、洗脳から魅了、はては重要な記憶の抹消まで、掃いて捨てるほどに存在するのだ。

 

 そして、今……リューナに(ほどこ)されているものは“魅了”。とろけるような笑顔とともに、かたわらの睡魔(すいま)に寄り添っているのだから、まちがえようがない。

 

 今やリューナはその睡魔の恋奴隷と化したが故に、睡魔の主であるブリジットにも当然(かしず)く。魅了の魔術にかけられて理性をとろかされたリューナにとって、親友を売ることなど疑問に思うことすら許されないだろう。

 

「……どうしてバレたのかしら? ちゃんと気配は消してたつもりなんだけど」

 

 身バレしているために、不要となった口布を()ぎ取りながらヴィアが問うと、リューナはケラケラと笑いながらあっさりタネをばらす。

 

「あはは、ヴィーは覚えていないですの~? 小さい頃、ヴィーがさらわれてから助けられたあと、いつ同じことがあってもすぐに助けられるように、位置察知の魔術をかけておいたじゃないですの」

 

 言われて、ヴィアは思い出す。

 

 たしかに幼い頃、ちょうどブランが留守にした隙を見計(みはか)らって、盗賊でも敵対マフィアでもない、正体不明の何者かにヴィアはさらわれたことがあった。

 そばにいたファミリーのみんなが1人残らず倒されていたことがとても恐ろしかったため、その時のことはしっかり覚えている。

 

 同時に、先ほど頭の中に響いた声についても思い出した。

 アレは、かつて自分がさらわれたとき、自分を探してくれていたリューナの元まで導いてくれた声と全く同じものだった。不思議なことに、自分を閉じ込めていた牢の鍵はいつの間にか破壊され、見張り達も姿を消していたために、スムーズにリューナと合流できた記憶がある。

 

 こちらからの呼びかけには(こた)えてくれない一方通行の声で、助かった後は全く聞こえなくなっていたため、今の今まで完全に忘れていた。

 

 留守から戻ってきたブラン達に保護された後、“すぐにヴィアがさらわれても分かるように”とリューナに魔術をかけてもらったことを思い出し、チッとヴィアは舌を鳴らす。

 どうやら自分は『ここに敵がいますよ』と叫びながら潜入していたらしい。とんだ間抜けだ。

 

 そんなやり取りを見て、玉座に(すわ)る少女が口を開いた。

 

「コイツがヴィアって奴か……ってことは、あと3人だな」

 

 青緑色の髪をやや斜め後ろのサイドテールに結った、勝気そうな少女だ。

 こめかみの上あたりから、後方に向けて伸びる小さな角。背にはコウモリの翼。腰から伸びる先のとがった尾と、典型的な魔族の特徴を備えた、リリィと同年代くらいの少女である。

 

 桃色と黒を基調としたチューブトップに、水着のようなボトムス、腰回りのみを(おお)うマントに、肘・膝上につける分離式の袖(デタッチドスリーブ)という、なかなか独創的かつ露出の多い格好をしているが、少女の活発的な雰囲気のためか、とても似合っている。

 

 しかし、そんな幼い少女であるにもかかわらず、感じられる魔力は非常に強力だ。少なくとも、高い魔力を持つ種族であるエルフのリューナですら、比較にならないほどに。

 

 そして、少女の(かたわ)らに(ひか)える、もう1人の魔族。

 

 こちらは少女とは正反対に成熟した肉体を持つ女性だ。

 赤く波打つ(つや)やかな髪の間から生える大きな角は、山羊(やぎ)のようにぐるりと曲がり、背から生えるコウモリの翼も、彼女自身を包み込んでも余りあるほどに大きく立派だ。

 

 モデルのように高い身長、スラリと長い手足、肉感的なボディラインを包むのは、お腹を出すハイネックとミニスカート。そして、黒一色のそれらと対象になるように赤く、白いファーで飾られた豪奢(ごうしゃ)なコート。

 落ち着いた大人の雰囲気とも(あい)まって、妖艶かつ迫力のある女性だ。感じられる魔力は……この凄まじい魔力をもつ少女よりも、さらに上。

 

 その堂々(どうどう)とした(たたず)まいから、一瞬こちらの女性が魔族姫ブリジットかと勘違いしそうになったが、事前に聞いていた噂から、玉座の少女の方こそがブリジットであるとヴィアはきちんと認識し直す。おそらく、この女性はブリジットの右腕にして使い魔であるオクタヴィアだろう。

 

 王という王が皆立派(みなりっぱ)というわけではなく、臣下の方がよほど立派なパターンなど腐るほどあるので、特に違和感はない。

 

 ブリジットの発言から、こちらの情報が軒並(のきな)み漏れていることを把握したヴィアは、いったん退()いて作戦を立て直そうと(わず)かに腰を落とす。

 

「動かないで」

 

 しかし、その動作は途中でピタリと止まった。誰よりもヴィアを理解する()()は、的確にヴィアの動きを先読みする。

 

 

 ――リューナの右手には順手に握られたナイフ。その切っ先はリューナ自身の(のど)に突きつけられていた

 

 

 正気を失って曇りきった瞳で、リューナは言う。

 

「もし、少しでも妙な動きをしたり、闘気を放ったら……刺しますの」

 

(……まずい……!)

 

 行動を完全に封じられた。これでは逃げる事はおろか、リリィ達に助けを求める事すらできない。

 

 綿密な作戦を練る時間も、充分に情報交換をする時間もなかったヴィアは、“使い魔と主の間の心話(しんわ)が、どのような仕組みでなされているのか”を知らない。仮にリリィに思念を送ることで微弱な魔力や闘気が放たれてしまうのであれば、それを感じた途端(とたん)、リューナは自害してしまう。

 

「え~と、ヴィアちゃんだっけ? おねーさんが今から、い~っぱい気持ちいいことしてあげるね♪」

 

 無邪気に、そして色気たっぷりに迫ってくる名も知らぬ睡魔。

 2連続で立て続けに同性に襲われるなんて、どんな厄日だ――ヴィアは心の中でマジ泣きである。

 

 身動きの取れないヴィアの唇に、睡魔は何のためらいもなく吸いついた。

 

(!? ……わ、私のファーストキスが……!)

 

 実は、この猫獣人(ニール)……ファーストキスどころか、意中の男性(リシアンサス)と手を繋いだことも、デートしたことすらなかったりする。そんなことをする暇があったら、1つでも彼を買い戻す金策を考え、実行していたがために、当然と言えば当然なのだが。

 

 性魔術を使ってヴィアを使い魔とせざるを得なかった緊急事態でさえ、リリィは、リシアンサスという想い人がいることを考慮して、キスだけは遠慮している。

 そういう訳で守られてきた純情な乙女の唇を、この女は何の遠慮もなく奪い取ってくれやがったのである。ヴィアの中で“憤怒(ふんぬ)”と呼ぶに相応(ふさわ)しい激情が膨れ上がり、マグマのようにぐつぐつと煮えたぎる。

 

 直後、唇を通して魅了効果を持たせた睡魔の魔力がヴィアを浸食した。念入りに、ヴィアの肉体の隅々にまで魅了の魔力が染み渡るように、睡魔は唇を通して魔力を送り込んでゆく。

 

 やがて満足がいったのか、睡魔は唾液の架け橋を作りながら、ゆっくりと唇を離す。

 きちんと魅了がかかっているか確認するため、ヴィアの瞳を覗き込もうとした瞬間、

 

 

 ――睡魔の背から刃が生えた

 

 

「なッ!?」

 

「!?」

 

 ブリジットとオクタヴィアが驚き戸惑(とまど)う。完全に魅了の魔力が浸食していたというのに、まるで影響を受けていないことが信じられなかったのだ。

 それほどまでにヴィアの精神力が高かったのか、それとも生まれつき魅了に対する抵抗力が高かったのか……

 

「……あ、れ?」

 

 そしてリューナを魅了していた術者が倒されたことで、リューナが正気に返る。

 そのことに気づいたオクタヴィアが、彼女を人質に取ろうと動こうとするが、

 

 ――その時には、すでに彼女を背後に(かば)うように立つヴィアの姿があった

 

(……速い!)

 

 リューナから聞いていた情報よりも、明らかにヴィアのスピードが速くなっている。完全に魅了にかかっていたリューナが嘘をつく理由は無く、なんらかのタネがあるに違いなかった。

 

 目を細めてヴィアの様子を探ると、ヴィアの全身を光り輝く闘気が(おお)い、そしてさらにその上から、強力な()()()()()()()が覆っているのが見えた。

 

(……魔力……それもこれは彼女のものではない、別の誰かのもの…………!! ……そういうことですか……!)

 

 オクタヴィアはカラクリを理解した。

 

 

 

 

 ――数十分前

 

『ヴィア、“使徒(しと)”って知ってる?』

 

 使い魔の契約を結んでから、やや時間が()ったことでヴィアが正気を取り戻すや否や、すぐさまリリィはヴィアに問いを投げた。

 

『たしか“神格者(しんかくしゃ)”のことよね? 神や魔神の手足となって動く代わりに、それらの力の一部を授かった人達のことでしょ? それがどうかした?』

 

 時間が無いことに焦りながら、ヴィアがややつっけんどんに返すと、リリィは1つ頷いて言った。

 

『私がヴィアと結んだ使い魔契約は、限りなくこれに近いものなの』

 

 ヴィアは、大きく眼を見開いた。

 

『私は魔神じゃないから、神核(しんかく)を持っていない。だから、自分の神核を分け与えて誰かを使徒にすることはできない。……けど、それに近いことはできる』

 

『さっきの性儀式(せいぎしき)で、私は、あなたが絶頂した瞬間に漏れ出た精気を喰らい、私の中で睡魔の力に循環させて、再び貴女の中へ送り返し、定着させた。こうすることで、あなたに私の力の一部を分け与えた』

 

『具体的には、あなたの身体能力を含めた全能力が格段に強化されるはず……たぶんだけど、魅了に対する耐性もつくと思う』

 

 初めて結ぶタイプの契約のため、やや自信なさげにリリィは話す。

 

『だから、気をつけて。あなたの身体は今まで以上に良く動く。ブリジットの城へ向かう道すがら、“今までとどれぐらい違うのか”を走りながら確認して』

 

 

 

 

 

 

(危なかった! リリィとの契約がなかったら、完全に終わってた!!)

 

 リリィから力を分け与えられていなければ、ヴィアはこの睡魔に魅了されていただろう。そうなれば、睡魔の身体でリューナの視線を(さえぎ)って、彼女を自害させる間もなく睡魔を殺すことなど、とうてい不可能だった。

 

 ヴィアは緊張感を保ちつつも、最大のピンチを何とかのりきったことに心の底から安堵(あんど)する。彼女の心臓は先程からバックンバックンと激しく踊り狂っていた。

 

 だが、いまだ危険な状況である事に変わりはない。

 リリィの力で強化されているといえど、目の前の魔族達と戦える程の力をヴィアは持っていない。

 

 ブリジットは予想外の事態に驚いて固まったままだが、彼女の使い魔は既に立ち直って戦闘態勢。早急に彼女達の目を(くら)ませるなり何なりして、ここから脱出しなければならない。そして、それをするにはヴィア1人の力では不可能だった。

 

 だから、ヴィアは心の中で必死に叫ぶ。

 

(リリィ! リューを助けたわ! すぐに助けに来て!!)

 

 返事は即座にヴィアの頭に響いた。

 

(わかった! ヴィア、()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 

 ――ヴィアの思考が一瞬止まった

 

 

(……ハァッ!? 『動くな』って、アンタ何言って……!?)

 

 まさかの『動くな止まれ』発言に混乱したヴィアが、疑問を思念で伝え切る前に、その()()が床から炸裂した。

 

 ゴッ!!

 

 すさまじい勢いで純粋魔力の奔流(ほんりゅう)が、ヴィアから約1歩分前方の床からオクタヴィアへ向かって(ほとばし)る。まばゆい魔力光(まりょくこう)が収まった直後、床に空いた大穴から黒い影が飛び出した。

 

「リリィ!」

 

 ヴィアの視界に飛び込む、可愛らしいコウモリの翼が飛び出た小さく(なめ)らかな背中――現れたのは、城門付近で暴れているはずのヴィアの主であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵に見つからずに、リューナさんを探せれば良いんですよね? ……だったら、私が地面を操作して地下道を造って、城の真下からリューナさんの気配を探れば良いんじゃ……?』

 

 リリィは驚いた。何に驚いたかというと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 水の精霊であるリウラたち水精(みずせい)が水を召喚し、操作する事ができるのだから、地の精霊であるアイが大地を操作する事は、一見まったくおかしくないように見える。

 ところが、実際にはそうではない。“土精(つちせい)アースマン”は他の精霊達とは決定的に異なる点がある。それは、()()()()()()土塊(つちくれ)()()()()()()という点だ。

 

 通常の精霊は、もっとも親和性の高い物質――水精ならば“水”、木精(ユイチリ)ならば“木”を(もと)に自らの肉体を(つく)り上げ、現世(うつしよ)での存在を明確化する。

 そのように創られた肉体には生命力――いわゆる精気が宿り、それを素に精霊は魔術を行使する。外見上、水そのものでできているような水精達でさえ、その体液は“青の液”と呼ばれる生命力に満ちた特殊な体液へと変化するのだ。

 

 それは土精(つちせい)も同じであり、例えばトリャーユという小さなエルフ姿の土精は、きちんと自身の肉体を創造し、その肉体の精気をもって“岩の弾を放つ”といった地属性の魔術を操ることができる。

 

 ところがアースマンは肉体を創り上げる訳ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()。言ってみれば、操り人形と何ら変わりないのだ。泥や土自体に生命力は無いので、彼らが魔術を行使するためには、宿った精霊自身が蓄えた生命力を利用する必要がある。

 

 それは肉体を持つ土精と比べれば微々たる量でしかないため、彼らができる事は、せいぜい“拳に地属性の魔力を込めて殴る”くらいである。土や岩を操って攻撃したり、土や魔力そのもので衣服を()んだりすることなど、彼らにはできない。アイが“地面を操作できる”というのは、それくらい有り得ない能力なのだ。……なのだが……

 

(……なんか、精霊の常識について、あれこれ考えるのが馬鹿らしくなってきたなぁ……)

 

 “これでもか!”と言わんばかりに、リウラに精霊の常識を破壊され続けてきたリリィは、だんだん驚く事が面倒くさくなってきていた。

 

 アイの提案は即採用。アイが地面を操作して地下道を造り、地下から城の敷地内に入り込む。

 ヴィアと同様、すぐにリューナの気配の居場所を正確に把握したため、その真下まで移動。リウラとアイが地下深くから水球や土を遠隔で操ってニセ水精やニセアースマンを創り、城内で暴れさせながらヴィアからの連絡を待って、心話が入った瞬間にリリィが地下から魔術攻撃をぶっ放した。

 

 アイは城に使われている石や鉱物の硬さが大体わかるらしく、城壁とは違って床はそこまで強固に造られていなかった。そこで、偽・超電磁弾ではなく、直射型の魔力砲(レイ=ルーン)で魔力を節約しつつ脱出路を創り上げた、というわけである。

 

 アイの能力を聞いた時点で既にヴィアは城に潜入していたため、リリィから心話をつなげるとヴィアの邪魔になってしまうかもしれないこと、そして急に作戦を変更するとヴィアとの連携に支障が出るかもしれないことから、彼女達の動きは当初立てた作戦とそう大きな差はない。

 

 しかし、アイの能力のおかげで、リリィ達は自分達の姿を(さら)すことなく安全に……しかも城の外ではなく中で効果的に暴れることができた。

 超遠距離から大量の魔力を喰う大魔術(偽・超電磁弾)を撃つこともなく、正確にヴィア達を避け、敵に向かって魔力砲を撃つこともできた。この差は非常に大きい。

 

 アイがやったことは“穴を掘るだけ”という非常に地味なものだが、まちがいなく大手柄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その穴に飛び込んで!」

 

 ヴィアがリリィの言葉に慌てて穴を覗き込むと、この階から地下まで一直線に大穴が空いており、穴を筒状に覆う水壁が見えた。脱出中に攻撃されたり、脱出路を塞がれたりしないようにリウラが造ったものである。

 そのリウラ本人は、その水の筒の中間で水の螺旋階段に足をかけた状態で「早く! こっち!」とヴィア達に手招(てまね)きしている。

 アイは気配からして、穴の最下層に居るようだ。

 

「させるかよ!」

 

 リリィの魔術攻撃を防御するも、一瞬(ひる)んでしまったオクタヴィアを背後から抜き去り、ブリジットはヴィアに突撃する。

 それに気づいたリリィは、どこからともなく右手に長剣を、左腕に小型の盾を()びだして装備し、ブリジットの進路に割り込んで彼女を迎撃。まっすぐ頭から突っ込んでくるブリジットに、リリィは右の長剣を振り下ろす。

 

 

 ――その瞬間、リリィはブリジットを見失った

 

 

 一瞬の思考の空白。それを後頭部への強烈な一撃が粉砕した。

 

「ガッ!?」

 

 

 ――ヴィアは、その一部始終を見ていた

 

 ブリジットはリリィが攻撃した瞬間、リリィの死角――左腕に()めた盾の背後に身を隠したのである。そして、そのままリリィの背後に回りつつ、回し蹴りをリリィの無防備な頭部へ叩き込んだ。

 

 いくらブリジットが小柄な体躯の持ち主だといっても、子供用の小型盾(バックラー)で視線を(さえぎ)るのは簡単なことではない。そして実際にそれをやってのけた事実は、“ブリジットの技量が如何に高いものであるか”を示すものであった。

 

 ヴィアも似たような事はできるが、リリィのスピードと頑丈さには対抗できない。仮にリリィ相手に実行したとしても、途中で背後に回ったヴィアの気配に反応されるか、ヴィアの攻撃をくらいながらもカウンターを返してくるだろう。

 

 対して、ブリジットはあっさりとリリィに痛恨(つうこん)の一撃を与え、その威力は彼女の意識を奪い、床に沈めたまま起き上がらせない。

 パワー・スピードにおいてはヴィアを、技術においてはリリィを、ブリジットは完全に上回っていた。

 

「リリィ!?」

 

 リウラの声が響くと同時、ゴッ!! と間欠泉(かんけつせん)の如く、床の穴から大量の水が噴出する。

 

「うおっとぉ!?」

 

 ブリジットは予想外の攻撃に、慌てて一旦(いったん)後方へ下がる。水はヴィアとリューナ、そして倒れ伏したままのリリィを包み込み、穴の中へと彼女達を(さら)っていく。

 

 ブリジットが穴の下を覗き込んだ時には、ヴィア達の姿はどこにもなかった。

 

「追うぞ! オクタヴィア!」

 

 オクタヴィアはコクンと頷くと、使い魔へと脳内で指示を飛ばす。わずかに間が空いて、次々に使い魔達から報告が上がってくる。

 

『こちら1階中央の間! 侵入経路は既に土で封鎖されており、追跡は困難! 現在、1部隊を出して地上から気配を追跡中!』

 

『こちら正門前! 侵入者の姿、および侵入に使用されたと思われる痕跡(こんせき)は未だ発見できず!』

 

『こちら外周警備第3班! 侵入者発見! 現在、北東へ逃走中!』

 

(北東……転移門(てんいもん)で追っ手を()くつもりですか……)

 

 “転移門”とは、魔術的に空間を繋ぐことによって、瞬時にして長距離の移動を可能にする空間移動装置である。

 

 転移門と一口(ひとくち)に言っても、“床に刻まれた魔法陣と、それを囲むいくつかの柱”といったものもあれば、“門そのもの”といったものなど様々な形があり、その使い方も千差万別。

 この迷宮に多く存在するものは、後者――つまり“門そのもの”の形をしたタイプで、くぐるだけで使用でき、しかも利用者の魔力も不要という、非常に利便性の高い移動手段であった。

 

 この城から北東の転移門は、転移先(てんいさき)の近辺にさらに複数の転移門が存在している。これを利用して転移を繰り返されてしまえば、追いつく事は不可能になってしまう。

 

(……そうはさせない)

 

 オクタヴィアは冷静に、自身の使い魔達へ次の指示を出した。

 

 

***

 

 

 まばゆく輝く転移門からヴィアが、続いて水の絨毯(じゅうたん)に乗ったリウラ、リリィ、リューナが飛び出す。

 リウラは既に口布を()ぎ捨てている。魅了されたリューナから情報が漏れていたことを知り、“もう意味がない”と判断したのだ。

 

 彼女達の移動速度はかなりのものだ。リリィの加護を得たヴィアの足は半端ではない。もし仮に彼女の走る姿を傍観する者がいたならば、1つまばたきをした次の瞬間には、彼女の姿は遥か向こうにあるだろう。

 

 その速度に何とか喰らいつく事ができているリウラもまた見事。

 

 彼女は自分の足ではなく、自らが操作する水の絨毯にリリィ達と共に乗って移動しているのだが、あまりの移動速度に、絨毯の操作以外に毛ほどの気も()けない状態になっている。

 そのため、リリィもリューナも絨毯から振り落とされないよう、水の帯で絨毯に(くく)り付けられて放置されている。彼女達に気を(つか)う余裕が全く無いのだ。

 

 ちなみに、アイはあっという間に置いて行かれそうになったので、今はリウラの首を飾る喚石(かんせき)の中に入っていた。

 

「……ごめんなさいですの、ヴィー……わたくしの、せいで……」

 

「まったくよ! 事が済んだら覚えときなさいよ!!」

 

 魅了魔術の効果が抜けきらず、意識を朦朧(もうろう)とさせながら申し訳なさそうに謝るリューナに、ヴィアは後ろを振り向かず腹立たしげな声を出す。だが、もしリューナがヴィアの顔を見ることができたのなら、ヴィアがどこかしらホッとしたような、それでいて涙が出るのを必死に(こら)えているような表情をしていたことが分かっただろう。

 

 ヴィアはリウラを先導しながら、次の転移門へと向かう。

 

 ピクリ

 

 ヴィアの猫耳が反応する。

 いまだ距離はあるが、自分達に向かって進む多数の気配、そして自分達を先回りするように動く気配を(とら)えたためだ。

 

(対応が早い……!)

 

 ヴィアは走りながら歯噛(はが)みする。

 

 このままでは、今から向かおうとしている転移門の前で敵と鉢合(はちあ)わせする。気配はそう強くないため、蹴散らす事は難しくなさそうだが、いまだ気絶したままのリリィと、魅了から()めたばかりでグッタリとしているリューナを(かば)いながらでは、さすがに時間がかかる。その間にブリジット達に追いつかれたら元も子もない。

 

 ヴィアは向かう転移門を変更し、移動する方向を変える。

 次の転移門は結構な距離があるが、逃走ルートを考慮すると、これが最善。へたに適当な転移門をくぐれば、強力な魔物の巣に突っ込んでしまってもおかしくない。

 

 ヴィアが進行方向を変えた事に気づかれたのか、周囲の気配の動きが変化する。だが、今のヴィアの速度には追いつけない。このまま順調にいくかと思われたが……

 

(あ……)

 

 ヴィアの顔が青ざめる。

 

(まずい……私達の動きが誘導されてる……)

 

 ヴィア達の周囲にいる気配、それらがまるで1つの生き物のように統一された動きをして、ヴィアの進路を制限していた。その結果、まるで盤上遊戯(ばんじょうゆうぎ)で1手1手追い詰められているかのように、どんどんとヴィアの()れる選択肢が消えていく。

 

(どうする!? 多少の無茶を承知で、敵の包囲を突っ切るか!?)

 

 ヴィアが打開策を練ろうと頭を回転させたそのとき、ヴィアの猫耳が異音を(とら)えた。

 

 キィキィという甲高い声に、バサバサと空気を叩く音。そして頭にキーンと響く()()()

 

「ッ……! 牙コウモリ!!」

 

 魔物の巣へと誘いこまれた事に、ヴィアはようやく気がついた。

 

 牙コウモリ――学名ニュクテリス。

 名前からお察しの通り、吸血コウモリの一種である。といっても、リリィの前世の世界にいるような“噛みついて血を舐める”程度の脆弱な存在ではない。

 

 身体は小さくとも、彼等は飛吸種と呼ばれる吸血鬼の一種。人間族の子供程度はある力でガッツリ牙を立て、デシリットル単位で容赦なく血液を飲み下す危険な魔物である。

 普段は暗闇や岩陰に潜み、獲物が来たら集団で襲いかかる習性があるため、襲われた獲物が混乱から立ち直る前に干からびることも珍しくはない。

 

 ヴィアは問題ない。元々この程度の魔物に遅れをとるような(やわ)な鍛え方はしていないし、リリィの加護を得た今では、そもそも牙が突き立つかどうかも怪しい。

 

 ――問題は後ろの3人

 

 今までリリィほど高い魔力を持った存在と出会ったことがないヴィアには、リリィが気絶した状態でも、その高い頑健さを発揮できるかどうかがわからない。

 

 魅了が解けたばかりのリューナは、牙コウモリなんて素早くて数がいる相手に対処できるような状態ではないし、リウラに至っては、水の絨毯を操作する以外の行動をする余裕がない。

 

 余談だが、人間や獣人のように赤い血潮を持たない水精(みずせい)のリウラであっても、牙コウモリには襲われる。

 牙コウモリは、厳密には血液ではなく“精気や魔力のこもった体液”を摂取することで生きている。水精の身体を構成する“青の液”は、とある回復薬の原料の1つになるほど精気や魔力をたっぷりと含んでいるので、リウラの青みがかった半透明の体液でも牙コウモリは美味しくいただけるというわけだ。

 

 故に、ヴィアは大量のコウモリから後ろの3人を護りながら、全力疾走を続けなければならない。

 いったん足を止めて対処するか? ……それこそ相手の思う(つぼ)だ。相手の目的はブリジット達が追いつくまでの時間かせぎ。ブリジット達に追いつかれればゲームオーバーである以上、少しでも足を止めるわけにはいかない。ならば……

 

(私の闘気弾で蹴散らした後、そのまま足を止めずに突っ切る!!)

 

 おそらく1人当たり5~6匹は噛まれるだろうが、ある程度離れてからヴィアが切り払えば、死にはすまい。今はとにかくブリジット達から逃げ切ることが先決だ。

 ヴィアがそう決断しようとしたそのとき、彼女の背後から指示が飛んだ。

 

「そのまま突っ切って! コウモリは私が何とかする!」

 

 声が出しにくいため口布をむしり取ったリリィが、後頭部をさすりながら上半身を水の絨毯から起こして叫ぶ。

 リリィは前方から飛来するコウモリの群れを、ギンと(にら)みつけると、スゥと大きく息を吸い込む。

 

 

「わぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 

 腹に魔力を込めた大音声(だいおんじょう)。耳が痛い。だが、その効果は抜群だった。

 

 ドサァッ!!

 

 コウモリは1匹残らず地に落ちた。

 ヴィア達はコウモリの死骸を踏みつけ、あるいはその上を通過して通り抜ける。

 

「いったい、どうやったのよ!? コウモリが気絶するほど大きな声とは思えなかったけど!?」

 

「視線を媒介にして、目から直接精気を奪った! 声を上げたのは、私に視線を向けさせたかったから!」

 

 粘膜は魔力を通しやすい性質がある。それは性魔術で使うような唇や舌・局部だけでなく、眼球であっても変わらない。

 

 リリィが行ったのは視線を媒介にして自らの魔力を相手の眼に叩き込み、相手の肉体を浸食し、相手の全精気を支配(コントロール)したうえで視線を通して自身に送り返すという離れ技である。

 

 瞬時に大群相手に使える上、知らなければ対処不可能な初見殺(しょけんごろ)しではあるが、これは直接接触しなくともほぼ一瞬で肉体を魔術的に浸食できるような、よほど格下の相手でなければ使えない手段でもある。

 一般的な人間族の兵士相手に使えるようになるには、高位の魔神クラスの力が必要になるだろう。

 

 そうこうしている内にも敵は増加し、包囲網は(せば)まりつつある。

 

 このまま進めば、敵に遭遇(そうぐう)せずにヴィアがたどり着ける転移門は2つ。うち、1つはヴィア達が力を合わせても勝ち目がないほど強力な魔物の巣へと直結している。

 ならば、必然的にもう1つの転移門を選ぶしかないのだが、そちらには罠が張られている可能性が高い。つい先程までなら、罠が張られている可能性があろうとも、そちらの転移門へと突っ込んでいたであろう。

 

 しかし、状況は変わった――今はリリィが目覚めている。

 

「リリィ! 敵の包囲網の薄い部分を突破するわ! 力を貸して!」

 

「わかった!」

 

 リリィが返事とともに翼を広げ、ヴィアに並ぶように飛翔する。

 

 今のヴィアとリリィのタッグに(かな)う戦士は、そうはいない。多少、数が多くとも、時間をかけずに突破することは可能だった。ヴィア達はブリジットの配下たちを蹴散らしながら、その先にある転移門へと飛び込み――

 

 

 ――そして、罠にかかった

 

 

***

 

 

 千を超すであろう大群が、自分達を取り囲んでいる。

 皆、武器を持ってこちらに敵意を持った視線を叩きつけており、その中央にはブリジットが腕組みをして立っていた。

 

 リリィ達の背後で転移門(てんいもん)が再び輝き始めると、ヴィアは慌ててリウラ達に前へ移動するよう(うなが)し、移動し始めた直後に転移門からブリジットの配下が次々と現れ、最後にオクタヴィアが姿を現した。

 

 

 ――オクタヴィアの考えた策は、いたってシンプル。ヴィア達の転移先に居を構えている使い魔達に心話で指令を出し、ヴィアを遠距離からじわじわと包囲。次の移動先の転移門をこちらが先回りしやすいものに誘導する……これだけである。

 

 ブリジット達が待ち構えていたこの場所は、ブリジットの居城からわずか数分のところにある転移門から()ぶことができる。

 オクタヴィアは自分の主にこの場所で待ち構えてもらうようお願いし、自分はヴィア達を追跡。

 

 使い魔達を操った足止めが成功した場合、オクタヴィアがヴィア達を襲い、その間に主は後から来ればいい。逆にヴィア達が足止めを突破した場合、待ち構えていたブリジットとオクタヴィアで挟み撃ちにするという策だ。

 ブリジットが、大量の使い魔や兵を保有しているからこそできる人海戦術である。

 

 なお、オクタヴィアが()()()()()()()()()()包囲の1ヶ所を突破することをヴィアが選ばなかった場合、その先の転移門ではここの3倍の大群が待ち受けていた。最後の選択肢の、魔物の住処(すみか)に繋がる転移門から跳べば、魔物とオクタヴィアの挟み撃ちにあう。

 

 あの時、ヴィアが選ぶべき選択肢は“包囲がなるべく()()箇所をリリィの偽・超電磁弾で強引に突破する”だったのである。包囲が厚い場所はオクタヴィアにとって絶対に抜かれたくない場所なので、そこを通過できれば逃げ切れる余地は充分に有ったはずなのだ。

 

「……リウラ、()ろしてほしいですの」

 

「……でもっ!」

 

「大丈夫ですの。もう、ふらつきもしませんの」

 

 リューナがリウラにそう言うと、リウラは心配そうにしながらも、ゆっくりと水の絨毯を変形させる。リューナを寝そべった状態から立った状態へと変えて地面に立たせ、水の拘束を解除。同時に水の絨毯を水球へと戻して滞空させ、自らも地面へと降り立った。

 

 すると、リウラの首にかかっている喚石(かんせき)が輝き、中からアイが険しい表情で現れる。全員が素顔を(さら)している以上、自分だけが身につけていても無駄だと思ったため、口布は()ぎ取っていた。

 

 リューナが転送魔術で、手のひらサイズの袋を手元に()び出す。リリィがブリジットの居城で剣と盾を取り出したのと同じ魔術だ。

 

 リューナは袋の口を緩め、袋の横をポンと軽く叩く。すると、中に入っていた桃色の粉が粉塵となって袋の口から舞い上がり、リューナはそれを軽く鼻から吸い込んだ。

 たちまち、彼女の頬に残っていた赤みがスゥと引き、わずかにぼうっとしていた瞳がいつもの明晰(めいせき)さを取り戻す。

 

 ――解魅(かいみ)(こな)

 魔術的に魅了された者の精神を立て直す、即効性の粉薬である。

 

 その様子を見ながら、リリィが転送魔術で弓と矢筒を喚び出してリューナへ渡す。

 その後、リリィは自分達の前に立っているヴィアの隣に並んだ。

 

「リリィ、頭は大丈夫?」

 

「変な()き方しないで。もう完治してるよ。……それより、どうする?」

 

「どうもこうもないわよ……! 前後左右360度、空中まで敵だらけとあっちゃ逃げようがないわ……!」

 

「……いちかばちかでも、どこかを1点突破したらどう?」

 

「この数よ? まちがいなく数秒は足止めされる。その間にブリジットが来たら、アンタ勝てるの?」

 

「……」

 

 勝てない。

 原作であっさり魔王とリリィが勝利をおさめていたことから、簡単に勝てると思い込んでいたが、実際に戦ってみてよくわかった。あれは、原作のリリィが未熟ながらも積んだ幾多(いくた)の戦闘経験と、弱い人員でも勝てるよう知恵を絞った魔王の頭脳があってこその勝利だったのだ。

 

 原作においてブリジットは魔王の幼馴染であり、そして魔王はブリジットの片思いのお相手である。彼女は、ほぼ同年代であるにもかかわらず、あっという間に魔王へとのし上がった幼馴染の隣に立てるよう、常に訓練も勉強も欠かさなかった。

 

 対して、リリィにあるのは、水蛇(サッちゃん)から奪った大量の精気と、魔王の魂からもらった魔術と戦闘技術、そして水蛇・オークの盗賊団・ゴーレム(アイ)と戦った、たった3回の戦闘経験のみ。

 そして、魔王の戦闘技術については……残念ながら、とうていブリジットに勝てるようなものではなかった。

 

 魔王は生まれながらの強者だ。その肉体的・魔力的なスペックは他を圧倒するものであり、たいていのことは力まかせでどうにかできた。そんな人物が、自分より弱い者達を師に(あお)いで武術を磨こうとするはずもなく、彼は自分の感覚にまかせて武器を振るっていたのだった。……そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 きちんと刃筋(はすじ)を通すこともできる。間合いを(はか)ることも、フェイントを仕掛けることもできる。だが、それらの技術は総じて二流どまりだった。

 誰からも師事を受けずに、自身の感覚だけでそれらの技術を()み出し、身につけた魔王の戦闘センスは素晴らしいものだが、真剣に己が技術を磨いてきた一流の戦士達には遠く及ばない。

 

 その“一流には届かない”という(つたな)さが、ブリジットとの戦闘では致命的だった。

 魔力総量はそう劣ってはいないはずだが、戦闘技術と実戦経験に圧倒的な差がある以上、なんらかの対抗策を考えなければ、サンドバッグになることは必然である。

 

「……じゃあ、投降する?」

 

「……」

 

 リリィの言葉に、今度はヴィアが押し黙る。

 投降したところで、相手が許してくれるとは思えない。死んだ方がマシだと思える扱いを受けるのは、ほぼ確定だった。

 

 リリィはヴィアの表情から、それを察して言った。

 

「……だったら、最後まで抵抗する方に賭けよう。ヴィア、この包囲を崩すとしたら、どこを狙えば良い?」

 

「……右ね。2時の方向に見える道……あそこを突っ切れば、すぐ(そば)に転移門が設置されてる」

 

 リリィがその方向に視線を向けると、たしかに道があった。やや強い風が道の奥から吹いているのか、その道の傍にいる敵の髪や服がバサバサと動いている。

 

「オーケー、わかった。……みんな、聞いて。今から私が敵全体を魔術で攻撃する。そうしたら全員2時の方向の道の先にある転移門に向かって走って。近寄ってくるやつは、かたっぱしから全力で排除。私とヴィアが道を切り(ひら)くから、お姉ちゃんとリューナさんはその援護。アイは最後尾で2人を護って」

 

「もしブリジット……あそこのちっこい魔族が来たら私が、あっちの赤髪の魔族が来たらヴィアが相手をする。そうなったら私達はその対処にかかりきりになるから、今度はアイが前衛、リューナさんが中衛、お姉ちゃんが後衛で転移門までの道を切り拓いて。何か質問は?」

 

「無いわ」

「無いよ」

「無いですの」

「ありません」

 

「……行くよ!」

 

 リリィがスッと目を半分閉じて精神を集中させる。すると、リリィ達を囲む敵達の胴を輪切りにするかのように、純粋魔力の結晶である魔法陣が数十、数百と出現する。

 直後、その魔法陣めがけて、上空に()び出された純粋魔力の魔弾が降り(そそ)ぎ、魔法陣に触れると同時に大爆発を起こした。

 

 ――純粋魔術 鋼輝陣(イオ=ルーン)

 

 術者が指定した空間に、魔弾を炸裂させる効果を持つ魔法陣を設置し、その魔法陣に魔弾を落とす、空間指定型の爆破魔術である。

 

 リリィの強力な魔力で放たれたその魔術の威力は凄まじく、魔弾が炸裂した箇所で戦闘能力を維持している者は全体の半数以下。包囲網は完全に瓦解(がかい)して歯抜けとなった。

 だが、それも未だにブリジットとオクタヴィアの背後にある転移門から次々と現れる敵がその(しかばね)を乗り越え、あっという間に隙間を埋めていく。

 

「走って!!」

 

 その隙間が完全に埋まる前に、可能な限り走り抜けるため、ヴィアは後ろ腰から2本の短剣(ダガー)を抜きながら駆け出し、全員に向かって叫ぶ。

 

 魔術の発動を終えたリリィもヴィアに続いて走り出し、左腕の盾を転送魔術で蔵へと戻すと、リリィの身の(たけ)を超える大きさの斧槍(おのやり)()び出して両手に握る。

 

 リューナは弓を構え、アイも拳を握りながら2人に続いて駆け出そうとして……

 

 

 ――できなかった

 

 

「「リウラ(さん)!?」」

 

 顔面蒼白(がんめんそうはく)となったリウラが、口元を押さえてうずくまっていたからだ。

 

 

***

 

 

 『敵全体に攻撃魔術を放つ』……その言葉の意味は理解していた。

 

 ――だが、“実際にどういうことが起こるか”……その結果を想像できてはいなかった

 

 弾け飛ぶ血肉、飛び散る脳漿(のうしょう)、目玉や内臓が辺りにばら撒かれ、白い骨を(さら)した胴や手足が赤い血の雨と共に地面にボトボトと降り(そそ)ぐ。

 

 それは悪夢だった。

 

 突如(とつじょ)としてリウラの視界に飛び込んできた地獄の光景を処理しきれず、リウラは思考を停止した。してしまった。

 

「走って!!」

 

 近くで叫んでいるはずのヴィアの声が、非常に遠くに聞こえる。だが、たしかに聞こえた仲間の声にリウラは我に返り……そして猛烈な吐き気を(もよお)した。

 

 あまりに強い吐き気に立っていられず、口を両手で押さえてうずくまる。その眼は限界まで見開かれ、表情は嫌悪感、罪悪感、驚愕に恐怖と、様々な強い負の感情が混ざりあっていた。

 耐えきれずに吐いた。食べたものは消化してしまったのか、口から吐き出されるのは唾液だけだったが、それでも吐かずにはいられなかった。

 

「うあ、ああああぁぁぁ……」

 

 大粒の涙を流しながら、ひたすら吐く。アイとリューナが彼女を護りながら必死に呼びかけるが、心の許容量を一気に突き抜けてしまったリウラには反応する余裕がなかった。

 

 ドンッ!!

 

 リウラの目の前に敵の魔弾が炸裂する。自身の命を(おびや)かす現象には流石に反応し、のろのろとだがリウラが顔を上げると……そこにはさらなる地獄が展開されていた。

 

 ――2本の短剣(ダガー)を振るうヴィアが(たく)みに敵の急所を切り裂き、血の大河を駆け抜ける

 

 ――斧槍(おのやり)を凄まじい速度で縦横無尽に振り回すリリィが、輪切りになった(しかばね)の山を築く

 

 ――弓を構えるリューナが首に、眼に、心臓に次々と矢を立てる

 

 ――拳を構えるアイが敵の頭部を陥没(かんぼつ)させ、足を踏み砕き、岩の弾を召喚して敵を押し潰す

 

 まるで何かの作業のように次々と命が刈り取られ、死体が量産されていく。

 

 

 リウラには分からなかった。

 

 自分だって、水蛇(サッちゃん)に致命傷を負わせたことはある。魚を殺して、リリィに食事として与えたこともある。その時は、命を奪ったことに対して何も思わなかったし感じなかった。今回だってそれと同じはずだ。リウラ達の命を護るために必要なことだから命を奪う――その内容に変わりはないはず。

 

 

 ――なのに、なぜだろう?

 

 

 ……こんなにも胸が苦しいのは。

 ……罪の意識に(さいな)まれるのは。

 ……ただ自分と同じ“人の形をしている”というだけで、“命を奪う”ということが、言葉では到底表現できないほど、重く(つら)く感じられるのは。

 

 

 リウラには分からなかった。

 

 なぜ、みんなはこんなにも簡単に命を奪えるのだろうか?

 彼女達には、リウラとは違い、“人の形をしたものを殺すこと”を“魚や魔物を殺すこと”と同じように感じているのだろうか?

 

 ヴィアとリューナは、すでにこうした修羅場を経験しているのかもしれない。リウラと同じように感じながらも人を殺し、それを乗り越えたのかもしれない。

 

 アイは、ゴーレムの姿でいた時にそれを経験しているのかもしれない。無理やりゴーレムとして操られているうちに、人を殺すことに慣れてしまったのかもしれない。

 

 

 ――では、リリィは?

 

 

 リリィとリウラは、こと実戦経験においてはほぼ同じ位置に立っている。

 リリィ自身の申告によれば、魔王に創造されてから1ヶ月も()っていないとのことなので、人殺しの経験もまず無いはず。

 

 なのにどうして、血や臓物が飛び散る光景を見て、なんの反応もしないでいられるのか? なぜ、人の形をしたものを殺して、眉ひとつ動かさないでいられるのか?

 

 

 ――自分達を、仲間を護るために必死になって妹が戦っているというのに、どうして自分は立つことすらままならずに(すわ)りこんでしまっているのか?

 

 

(動……けっ! お願い、動い、て……! 私の、から、だ……!!)

 

 リウラは必死に吐き気を抑えて身体を起こそうとするも、へたりこんだ足はピクリとも動かず、身体はガクガクと震え、まるで言うことを聞かない。

 水蛇(サッちゃん)と戦った時のことを思い出して、自分を(ふる)い立たせようとするも、まったく効果がない。

 

 ――ザッ

 

 血や死体が視界に入ることを無意識に避けて(うつむ)いていたリウラの目に、アイの泥状に崩れた足が(うつ)る。

 それに反応してリウラが顔を上げると、そこにはリウラを背にして構えるアイの背中と――

 

 

 

 ――こちらに向かって歩みながら、剣を鞘から抜き放つ赤髪の魔族の姿があった

 

 

***

 

 

 リリィの目の前を走るヴィアの動きは美しかった。

 

 猫獣人特有のしなやかな身体と身軽さを()かしたトリッキーな動きで、次々と急所を切り裂いていく。

 

 ――剣を振り下ろして前屈(まえかが)みになった敵の背中に、自分の背を合わせるようにして、その上を転がりながら頸椎(けいつい)を断つ

 

 ――(すべ)り込むように敵の股下を潜り抜けて内股を裂く

 

 ――するりと脇の下を潜って肘の後ろを切り、前転して剣を避けながらアキレス腱を切る

 

 ――急所が鎧で覆われていたら、鎧の隙間から短剣(ダガー)を差し込み、体内で闘気を炸裂させる

 

 ――背後から前のめりに襲いかかる敵に尾で目打(めう)ちを放ちつつ、前方の敵の鼻柱を短剣(ダガー)柄頭(つかがしら)で叩き折る

 

 才能と努力、そして経験。3つが見事に組み合わさった芸術的な動作だと、リリィは感じた。

 

 

 対して、リリィの戦い方はあまりに無骨(ぶこつ)

 “斧槍(おのやり)” という長柄(ながえ)の先に戦斧(せんぷ)が付いた武器を、魔力強化された己の身体能力と、自身の感覚に任せて、力いっぱい振りまわすだけだったのである。

 

 しかし、これこそが技術も経験もつたない、今のリリィにできる最善の戦い方でもあった。

 

 初心者が最も扱いやすい近接武器の一つは“槍”である。なぜならリーチがあり、“突く”あるいは“振り回す”といった単純な動作で攻撃できるからだ。

 さらに扱う者がリリィのように強大なパワーを持つのならば、同じ長柄武器でも、より重量のある武器で“なぎ払う”方が範囲・威力ともに遥かに脅威だ。遠心力も加わり、多少の技術の差など無視して防御ごと敵を粉砕してしまう。

 

 クルクルと自分を中心にリリィは斧槍を回し、横から、上から、斜めから敵の群れに斬撃を()びせかける。倒れた敵から(こぼ)れ落ちて輝く精気や魔力が、リリィを中心に渦を巻いて次々と彼女の身体へと吸い込まれてゆく(さま)は、まるで台風のよう。

 

 その光り輝く美しい台風は、リリィのいる“目”の位置以外すべて、リリィの剛腕によって振るわれる斬撃が通過する超危険地帯だ。

 

 ――単純にリリィを攻撃しようとした者は、武器を力まかせに弾かれながら切り裂かれる

 

 ――軌道を見極めて(つか)の部分を押さえようと動いた者は、突然急激にスピードを上げてタイミングをずらされた斧槍に腹を割られ、

 

 ――斧が通り過ぎたあとに突撃した者は、狙いも定めず適当に放たれた闇属性の衝撃波に吹き飛ばされる

 

 魔王から途方もない才能を与えられて創造されたリリィの器用さは超一流だ。

 師の不在や、実戦経験の少なさから、武器そのものの扱いが二流であろうとも、戦闘のリズムを適切なタイミングで変えたり、武器を振るいながら魔術を扱う程度ならば、(なん)なくこなすことができる。

 

「オオォォォォオオオオッ!!」

 

 それならば……と、3メートルを超えようかというほどの大きな熊獣人が、巨大な斧を振りかぶり突進してきた。

 如何(いか)にその矮躯(わいく)に見合わぬパワーであろうと、大きく離れた体格と重量に加え、突進力までプラスされれば、敵の武器を弾くことはできまい……そう考えたのだ。

 

 しかし、当然のことながら、それだけ巨大な相手が雄叫(おたけ)びを上げながら勢い良く突っ込んでくれば、リリィが気づかないはずがない。

 右側から攻撃してくる熊獣人に対し、リリィは右足を軽く後ろに引くことで相対(あいたい)する。直後、リリィは左の手のひらの中で斧槍の柄をくるりと回転させた。

 

 ガギィンッ!!

 

 リリィの前方で風車のように、熊獣人から見て時計回りに回転した斧槍が、彼が振り下ろした斧を軽々と上へ弾き飛ばす。驚きに硬直した瞬間、弾き飛ばした反動で戻ってきた斧槍の柄を右手で(つか)みつつ、流れるように脇構(わきがま)えに構えたリリィの姿が目に入り――

 

 ――直後、リリィに振るわれた斧槍に、一瞬で彼の首が()ねられた

 

 彼はリリィの膂力(りょりょく)(はか)り違えた。その小さな身体に、へたな砦よりも巨大な魔物(サーペント)と同等以上の魔力が秘められているとは想像もつかなかったのだ。

 

 ピクリ

 

 リリィの猫耳が震える。

 

 頭上を(あお)ぐと、下級魔族が魔力を(たくわ)えた両(てのひら)をこちらに向けている。近接戦では(かな)わないと見て、味方ごと魔術で攻撃する気だ。

 

 魔術で迎撃や防御をしようにも、今から魔力を集中していては間に合わない――瞬時にそう判断したリリィは、間髪(かんぱつ)入れず斧槍を頭上の悪魔へ投擲(とうてき)した。

 

 スカッ!!

 

 ブーメランのように回転しながら宙を(すべ)った斧槍は、狙い(あやま)たず悪魔の胴を音も無く両断する。

 

 その瞬間、リリィに手持ちの武器がなくなった事をチャンスとみた周囲の敵が、一気にリリィに襲いかかる。

 

 バチイィィィンッ!!

 

 リリィを中心に、襲いかかった全ての敵が吹き飛ぶ。彼女の右手には、蛇腹状(じゃばらじょう)の刀身を鋼線で繋いだ剣――連接剣(れんせつけん)が握られていた。

 襲いかかられる直前、リリィは転送魔術でこの剣を()び出し、刀身の連結を解除。(むち)のように剣を振るい、敵を弾き飛ばしたのである。

 

 

 

 ……魔王の魂から経験を引き出し、水精の隠れ里で水の大剣を振るっていたとき、リリィは頭の片隅でこう確信していた。

 

 ――“この程度ならば、自分でもできる”、と

 

 魔王が腹心の部下として育てようと()ずから創造した彼女は、彼から絶大な才を与えられて誕生した。

 その戦闘センスは、魔王の経験を余すところなくリリィに理解させるどころか、“武器を操って戦う”とはどういうことか、という根幹(こんかん)を理解させるにまで至ったのである。

 

 “自分ならば、どんな武器であろうとそれなりに使うことができる”……そう確信した彼女は、オーク討伐の際、リウラに頼んで“大”剣ではなく“長”剣を水で作成してもらい、それを振るった。

 

 ――そして、その“確信”が正しいものであったことを証明した

 

 リリィよりも、ずっと長く獲物を振るってきたはずの、オーク達の曲刀術……もちろん、盗賊である彼らが真面目(まじめ)に修練を積んできたかは怪しいものだが、それよりも遥かに(うま)く、リリィは水の長剣を振るい、その剛腕ではなく技術(センス)でもって彼らを軽々と倒してみせたのである。

 

 それどころか、魔王と違ってリリィ自身に腕を磨く意思があったためか、ひと振りごとにその動きは洗練されてゆき、一流には遠く及ばないものの、剣を握って1日も()っていないとは到底信じられないほどにまで、すさまじい成長を見せたのである。

 

 リリィ自身が“戦い方を学ぼう”という意識を持って戦闘するだけで、これほど成長するのならば、魔王が最も得意とする武器……すなわち、大剣にこだわる必要などない。それよりも、リリィ自身に合った武器を探したほうが、よほど良い。リリィと魔王は、体格も性別も何もかもが違うのだから。

 彼女の超人的な成長性と器用さをもってすれば、状況に合わせて武器を使い捨てながら戦うことだって可能だろう。

 

 そこで、リリィはラギールの店から、ひと通りの武器・防具・魔法具を買い(そろ)え……そして、今まさに次々と変化する状況に合わせて、様々な武器を取り()えながら、その溢れる才に任せて戦闘を行っているのである。

 

 しかし、この連接剣という、剣と鞭の合いの子のような武器は熟練者でも非常に扱いが難しく、さしものリリィも刃筋を立てることは(かな)わなかった。

 

 もっとも、自分の身体が吹き飛ばされる勢いで、腹や胸に(はがね)(かたまり)を叩きつけられた面々(めんめん)は、皆一様(みないちよう)に肉が裂けて(もだ)え苦しんでいるので、効果は充分かもしれない。

 

 そこで、ふとリリィは気づく。

 

 ヴィアとリリィが道を確保しているにもかかわらず、リウラ達が一向にこちらへ来ない。

 リリィが不安に()られて後ろを振り返る。

 

 

 

 目に(うつ)った光景に、リリィの思考が凍りついた。

 

 

 

 ――下半身を砕かれ、倒れ伏すアイ

 

 ――肩口を切られて弓を取り落とし、左手をだらりと垂らしながらも、もう片方の手で何とか電撃属性の魔弾を撃たんとしているリューナ

 

 

 

 

 

 ――そして、足を握って妨害しようとするアイの手首を踏み砕き、リューナの魔術を結界で弾きながら、無防備に(すわ)り込むリウラに向かって、今まさに連接剣を振り下ろさんとするオクタヴィアの姿

 

 

 

 

 

 “助けなきゃ”――そう思った瞬間には、すでにリリィの身体は動いていた。

 

 リリィの身体を、まばゆい紫の魔力光(まりょくこう)が包み込む。

 傍目(はため)にもハッキリわかるほど高出力のそれは、彼女の背面により集中しており――次の瞬間、リリィの後ろ全面を覆う魔力が、リリィの身体を勢いよく前に弾き飛ばした。

 

 

 ――体術 超ねこぱんち

 

 

 最大出力の魔力や闘気を全力で弾くことによって、()()()()()()()()()を敵へと弾き飛ばす突進攻撃――いわゆる“体当たり技”である。

 

 進路上にいる敵を一瞬にして跳ね飛ばしながら、リリィはオクタヴィアに向かって突撃する。なんとかオクタヴィアが剣を振り下ろす前に、リリィは彼女に拳を振るうことに成功した。

 

 ――スッ

 

 しかし、オクタヴィアはリリィが来ることがわかっていたかのように半歩後ろに下がり、リリィの突撃を(かわ)す。

 

 “超ねこぱんち”は、その技の特性上、技の出始めが非常にわかりやすい。

 最大出力で発現した魔力は『これから何かしますよ』と言っているようなものであり、それを使ってこちらに突進してくれば、それは(あん)に『()けてください』『迎撃してください』と言っているも同然。

 

 睡魔族(すいまぞく)や猫獣人の打撃系切り札として有名でもあるため、その特徴的な動作から繰り出そうとしている技が“超ねこぱんち”であることもバレやすい。

 その代わり、当たればその威力は通常の“ねこぱんち”の比ではなく、少々格上の相手であろうと沈めることができる――言わば、テレフォンパンチの究極形である。

 

 オクタヴィアは、かつてブリジットの父に(つか)え、ブリジット誕生後に彼女の使い魔となったという経緯(けいい)がある。その身に宿す魔力も実戦経験も、実は(ブリジット)よりも上であり、そんな相手に対していくら不意を打とうと、こんなわかりやすい攻撃が当たるはずもなかった。

 

 ガガガガガガ……ッ!!

 

 リリィは岩のように硬いはずの地面を砕き散らしながら、着地して振り返る。

 

 オクタヴィアの攻撃に間に合うよう全力で技を放ってしまったため、勢いがつきすぎ、オクタヴィアからやや離れた所に着地することになってしまった。

 そのせいか、オクタヴィアはこの場で1番の脅威であり、さらには大技を放った直後で隙を晒しているリリィを狙わず、もっとも討ち取りやすい位置にいるリウラに向かって、ふたたび剣を振り下ろそうとする。

 

 すでに、“超ねこぱんち”は見せてしまった。不意を打つことも、もうできない。次は“超ねこぱんち”を避けながら、リウラを攻撃されてしまう。

 リリィはとっさに再度背に集中した魔力を弾き、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ――オクタヴィアの剣が、リウラを(かば)うリリィの背を深々と斬り裂いた

 

 

 

 


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