抜きゲーみたいな個性を持った少年はどうすりゃいいんですか? 作:勇気生命体
希望とは勇気である。勇気とは愛である。愛とはエッチである。
すなわちエッチとは希望である。少なくとも俺にとってはそうでなくてはならない。
希望を失っては生きていくすべがないのと同じようにエッチを失っては生きていくすべはない。だというのに昨今のエッチ規制の流れは何なのだろうか。実に正気でよろしい! 犯してやろうか?
だが俺自身感じていたことがある。超常黎明期などという言葉があり、それはこの個性社会が生まれてすぐの時代を指していて、今を生きる者たちは自分は個性ネイティブの新人類であるかのように過ごしているのだ。皆勘違いしている。自分たちが重大な変化についていけていないことに気が付かないのだ。
すなわちエッチ。さりとてこれは個性婚のことを言っているわけではない。もっと純粋なエッチさの話だ。もう端的に言おう。明らかに異形種をエッチだと思う人間が少ない。それが問題なのだ。
考えれば当然のことだ。100年前まで想像上のものでしかなかった獣っ子、悪魔っ子、ロボ子なんかが現実に現れたとして、それをすぐにエッチすぎると喜べるのはエッチ大魔王くらいだ。魔人では足りない。俺は大魔神でありたい。
夢と現実は違う。人間は明らかに遺伝子の変化にエロイズムが乗り遅れていた。乗り遅れなかった優秀なエロリストたちの遺伝子は異形種にぶちまけるか、ぶちかまされて異形種に変換されていくというジレンマがそれを加速させる。なんて悲しい追いかけっこ。追いかけるのは尻だけでいい。
具体的な話をしよう。俺は前に同じ個性の異形種――多分カエルだろう――の家族を見たことがある。
――すごいエッチだった。特に一番上の娘さんだろうか。カエルっぽい顔が愛嬌と蠱惑的な魅力を醸し出していた。あの口の中には長い舌がしまい込まれているのだろうか。彼女とのキッスはあまりにディープだろう。年も近そうなところが俺の想像を掻き立てる。高校に通っていたらあんな子に先輩と呼んでもらえたのだろうか。まさに怒髪天を衝く思いだ。股間も天を衝いている。
何を考えていたか忘れたが、ともかく俺はエッチに対して深い情熱を持った男であり、古きを知ることで新しきを知ることのできる男だ。少なくとも画風やジャンルが時代遅れだからと言って使えなくなるような小さい男ではない。エッチという太陽が爛々と輝く限り、月がどんな姿になろうとも愛するのが俺だ。
「よし」と小さくつぶやいて俺は住処を後にした。とにかく行動が必要だ。そんな時間が今日も来た。
〇
俺は高層ビルの上、双眼鏡で18禁ヒーロー『ミッドナイト』観察している。異形種の話はどこに行ったって? 黙れ。ケモショタにしてやろうか。
ミッドナイトはある意味では俺の原点といえる存在だ。幼き時分、彼女が登場したときは小宇宙が爆発したかのような衝撃を受けたものだ。
いまでこそあらゆるエッチを嘗め尽くしたいと思うようになった俺だが、始まりはごく一般的だった。果たしてくるぶしで性に目覚める人がどれほどいるだろうか? 異臭を放つソックスは? あるいは頭から生えるねじ曲がった角なんてのは?
はっきり言おう。一皮むかせるために最も必要なのは露出だ。肌色が幼児を一つ上のクラスに解き放ち、テッシュに鼻をかむ以外の用事を与える。
その点、ミッドナイトは究極の肌色だ。今でこそ人工的なもので色を塗るが、あの頃は彼女が持つ本来の色で俺の世界を染め上げた。そのおかげで今は体を包むタイツも最高に乙なものと感じる。彼女には感謝してもしきれない。
彼女は俺の
ミッドナイトが見事ヴィランを捕まえたそのとき、おそらく世界で俺だけが彼女から少し離れた場所で起こっている事件に気が付いた。どうして誰も気が付かないのか、それはわからない。だが俺の脳裏には明日の朝刊が横切った。
『ヒーロー! 間近で起きている事件に気付かず!』
許せない。エッチな妄想を咎める権利など誰にもないように、正義のために戦う者たちが心無い非難に晒されていい道理などない。
俺はパンツを履いた。そして飛び降りる。
目標は路地裏の男。高さは数十メートルだが問題などありゃしない。
物理法則で考えるなら絶対にあり得ることのない速度で、俺は男に接近した。もちろん体はすでに少しお尻の大きな女子高生に変わっている。とくと味わえ。
ボリューミーなお尻が男に食い込み、しなやかに男を吹き飛ばす。俺は吹き飛んだ男に目を向けることもなく殴られていた少年に手を差し伸べた。
「大丈夫? 走るよ。立って」
少年はワニを思わせる瞳で俺を見つめる。驚きと困惑。切れた目元から流れた血が涙と混ざり、鱗に沿うように流れていく。固まった少年のごつごつした腕をつかむと、柔らかくなっている俺の腕にささくれた鱗が引っ掛かり、流れた血がまた鱗の隙間に飲み込まれていった。
嗜虐心を掻き立てる艶めかしい少年だな、と思った。それと同時に怒りがこみ上げる。殴っていいのは殴られて喜ぶ趣味を持つ奴だけだ。ちなみに俺もその一人である。
俺の血を見てとっさに振り払われそうになった腕をなんとかつかんで、俺は言った。「大丈夫。急いで」だがそれは錯覚だった。
「…………。……」
口は開いた。喉は震えた。だが大気は答えず。声は俺の耳にさえ届かなかった。
俺が振り返るよりも先に後頭部に衝撃が走った。少年が受け止めてくれなかったら地面に思いきり頭をぶつけていたかもしれない。正直、冷たい体温と頭の痛みでちょっと興奮した。
振り返れば男のニヤケ面。怪我なんてしていない。わかっていたことだが。
男は口を動かすがやはり声は聞こえない。そういう個性なんだろう。だから誰もここで事件が起きてるなんて気が付かなかった。
俺は怒った。あまりに卑劣な行為である。届かないとわかっていても、思わず言葉が口から出てくる。
「――――!!!! ―――――――!!! ―――――――――!!!!!」
すごくすっきりした。街中で淫語を叫ぶのが夢だったのだ。男が怪訝そうな顔をした。もしかしたら読唇術が使えるのかもしれない。たぶんあっちも興奮しただろう。今美少女だし。
俺は少年を庇いながらも――ようやく思考が嗜好から帰ってきた――どうやってこの場を脱するか考える。俺一人ならば逃げるのは容易いだろう。だが少年を連れては無理だ。俺はそんなにすごい奴じゃない。
できることはたった一つ。勝つこと。
俺がそう決心したことに気が付いたのか、男も身構える。重心を落とし、俺がどんなふうに来ても対応できるように。
――――――馬鹿め!
俺は即座に踵を返し、少年を抱えて走り出した。男は一瞬固まり、そして追いかける。反応が早い! 足も! 懐から取り出されたナイフがぎらぎらと光っている。
精一杯走るが振り切れない。少年が声も出さずに叫ぶ。置いていけ? かっこいいがそれはもう無駄なことだ。もう逃げられない。
少年がまた叫ぶ。俺はいい加減少年の口を塞いだ。鋭い歯がわずかに当たる。もっと鋭い刃もすぐだ。少年を抱きかかえたまましゃがみ込む。情けないことに恐ろしくなったのだ。
だが俺の背中にそれが突き立てられることはなかった。
ところで弱い者たちの勝利とはなんだろうか?
俺はたぶんヒーローの到着だと思う。そして彼女は到着した。
ミッドナイトの眠り香はどんな敵でも一息つけば優しく眠らせる。男は俺たちのすぐ近くで眠りこけていた。
俺は少年の口から手を放す。思わず口から笑いが漏れた。
「くくく、儲けたね」
「……はい」
俺は少年を立たせてやり、少しだけ労った。どうせなら口を塞ぐのに口を使えばよかったかもしれない。そんなことを思っていた俺を今度はミッドナイトが労った。握手までしてくれた。今夜はこれに決まりだ。
「よくツイートしてくれたわ。そのおかげで気が付けた」ミッドナイトが言う。少し間をおいてから「でも緊急事態でも……いえ、なんでもないわ。ありがとう」
きっと彼女は俺の大量にあるうちの一つのアカウントが出したSOSツイートに乗っけた座標付きの写真について言おうとしたのだろう。写真に尻とパンツを乗せたのは100%趣味だ。やはり彼女は素晴らしい。俺の希望だ。
その後どうにか彼女のサインを手に入れた後、病院に連れていかれる前に俺はその場から姿をくらました。絶対に見つかりはすまい。いまの俺は一人なのだから。
俺は住処に戻り、途中で買った額縁にミッドナイトのサインを入れる。そこには艶やかという表現が似合いそうな字で俺の名前が書かれている。
『叡智ちゃんへ』
サインは壁に飾った。
異形種に関しては堀越先生も闇を匂わせてますよね。敵側の描写も暗いの多いですし、あの世界眺めてるのはいいけど行きたくねーなと思います。
ところで単行本13巻の折り返しに書いてある八百万ってめっちゃエッチですよね。