「ここに来て新たなる可能性、
そう、段々と大きな手札になっていくだろう。だが、その可能性を選ぶというのなら、
リリィが沁力量だけでなく、技術の方も伸びていければどうにかなるかもしれない。
「なぁ、紗砂、お前はどんな理由で許可を出したのだろうな。罪滅ぼし? 計画の可能性を上げるため? それとも純粋に……」
いや、おそらく全てだろうな。皇姫としての理由、紗砂個人として。
だからこそ、リリィが巫女であることを隠して、護士候補生になることに条件をつけて許可を出した。
保護者を一人つけること。
保護者とは名ばかりで実際は護衛であり、その護衛は護衛できる力を持っていなければならない。
それではダメだろう。
しかし、
ならば、あれに頼むしかあるまい。
「紗砂、護衛にする者が決まった。クズノハが適任だと私は思う」
先ほどのつぶやきとは違い、誰かに話しかけるような声。
『確かに私もクズノハがいいと思います。連絡は私からしておきます』
私が
今日は結界の譲渡の儀式の日、そしてその結界の譲渡が行われた今日から三日間は皇姫に捧げる星礼祭。
私は、あまり乗り気ではなかったけれど巫女になった。けれど正式な巫女ではなく名誉巫女みたいなもの。
私は一応前世で剣を使っていたことがあるため、どちらかといえば護士候補生になりたかった。
この世界では幽幻種という敵がいる。
幽幻種は危険であり、倒すには力がいる。
この身体は沁力は紗砂と同等あるらしいけれど、結界系・降臨系・領域系・礼讃系・洗礼系の適正は0。
適正0というのが本当かどうかは知らないけれど、おそらく本当だと思う。もし仮に0でなければあの研究所が捨てられるはずがないと思うから。
沁力が使えなくても、私には剣がある。けれどそれは前世の危険のない場所で教わったもので、この世界では役に立たないかもしれない。けれどある程度知っているのも事実で、ここには強くなるための方法や場所、すべてが揃っている。
なら、私は護士候補生となって強くなりたい。
そう思って紗砂にお願いした。巫女のことは巫女と千年獅、紗砂、ツァリしかしらない。
これがもし、正式に発表されていたなら私は護士候補生になることはできなかったと思う。
けれど運良くそれはなく、護士候補生になることを条件付きで許可してもらえた。
その条件は、保護者を連れて行くこと。
それは納得できる条件だった。中身は前世の分があるけれど、見た目は11、12歳位にしか見えない。
護士候補生になる人はほとんどが男性であり、女性はごくわずか。しかも11、12歳の女の子が護士候補生になるのに心配してくれているのかな? と思っている。
そして朝から星礼祭の準備をしていた時、紗砂から念話が来て291階に来て欲しいと言われて、向かっていたところだ。
その扉の前にあるセンサーに手をかざす。
、『確認・……沁理局との正常連携……照合……沁力波形一致・……・……認証中・……巫女の第六位、リリィ・エンデンス・凛・ケールと確認されました』
認証の音声が途切れると両開きの扉が開き、私は円形の小さなフロアの中心に移動する。
中心につくと共にこちらの返事を待たずに動き出す昇降機。
目的の階についたことを知らせる鈴の音とともに昇降機が止まり両開きの扉が開く。
両開きの扉の向こうには、蒼く輝く氷の世界が広がっていた。
どこまでも広がる無限の空間。
遮るもののない頭上には白夜に似た光があふれ、その輝きのしたには鋭く尖った透き通る山がどこまでも連なる景色。
ここに来たのは二度目。
二度目だからこそあらかじめこの寒さに覚悟を決めていられたが、最初の時はやばかった。あまりの寒さに気を失うほど寒いのだ。
ここの寒さは普通の寒さじゃない。
どんなに暖かくしても、あらゆる生物、物質そして幽幻種は全て例外なく凍らせて、その心と時を封印する沁力術式――氷結境界らしい。
関係ないことだけど、沁力で氷を造ることができるなら、沁力で炎や電気、水、風などもできるような気がする。けれど私にはそれを試すことはできない。なぜなら結界系・降臨系・領域系・礼讃系・洗礼系の適性が0なのだから。
この世界での沁力って前世でいう魔力みたいなものだと思う。
なら魔法でできる炎や水、風などもできるのではと思ったわけだ。
そんなことを思いながら蒼氷の連なる回廊を進んでいくと、やがて蒼氷の連邦が途切れる。
そこは『楽園』の中心部。
『楽園』の中心には巨大な蒼氷結晶が。
その淡く透き通った結晶の中心には、一人の女性が閉じ込められている。
その女性は皇姫サラ。私のオリジナル。けれどその姿かたちは違う……というよりも、目の前にいる紗砂は私の体が成長した姿らしい。
紗砂はこの結晶のなかで、たったひとりで氷結境界を祈り続け、
一年のほとんどをこの部屋で費やし、この寒さのあまり激痛がはしる凍てついた結界で、何十日も祈り続けるらしく、30日の内27日間を紗砂が結界を維持して、残りの3日間を巫女達が維持するらしい。
らしいとつく事はすべてツァリに教えてもらったものだ。
『リリィ、おはようございます。ツァリは用事のため来れないとのことなので、早速本題に入りましょう』
「うん、紗砂もおはよう。今日呼んだのって保護者のこと?」
『はい、本来ならばこの場に来てもらって紹介したかったのですが、お願いしたのが急だったためにここに来るのに時間がかかるそうです。なので今日は保護者が決まった報告と、保護者の簡単な特徴を話そうと思い来てもらいました』
どんな人かは知らないけれど、保護者の人には感謝感謝だね。
あまり乗り気ではなかったけれど巫女になった私。普通は巫女なのに護士候補生になれるわけもない。
けれどなぜか何度もお願いしたら、条件付きで許可をだしてくれた。
その条件が保護者をつけることで。
私の護士候補生の生活はその保護者の人のおかげ。
うーん、どんな人なんだろうなぁ……。
『名前はクズノハといいます。クズノハは氷結鏡界がなかったずっと昔から一緒に戦ってきた数少ない友人であり、仲間です。彼女は攻めるよりも守る方が得意で
氷結境界がなかったころから一緒に戦ってきた?
それってつまり千年以上生きているってことだよね。
紗砂にしてもツァリにしても、今回の保護者をしてくれるクズノハさんって人も常識を無視しすぎだと思う。
どうやったら千年も生きてられるんだろう。
やっぱり沁力に何か秘密が……?
『守る方が得意といっても―――っ! 氷結境界が破られたっ?
剣というのは、私が研究所で見つけた細い剣。
幽幻種から逃げるときも捨てずに強く握っていたらしく、
この世界に来てまだ一度も剣を振るったことはないし、前とは身体が違う。けれど、それでも無いよりはあったほうがマシ。
私はスカートのポケットに入っている剣の柄を強く握りしめて返事をし、大聖堂へ向けて走り出す。