千年守り続けた皇姫のクローンになっちゃった   作:先名咲亜

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7話 始まりのとき2

 

 

 281階の大聖堂に向かっていると、巫女第二位のメイメル(本人から呼び捨てにして欲しいと言われた)の声が直接響く。

 

 それは紗砂が言っていた氷結鏡界が破られたということと、数も紗砂の言ったとおり数千体、そしてもうすぐ浮遊大陸(オービエ・クレア)はその数千帯の幽幻種に襲われるという内容だった。

 

『現状は理解できたわね? そこで居住区にいるみなさんにお願いよ。今から30分以内に緊急用のシェルターに避難して。天結宮(ソフィア)の護士たちが命を張ってそこを守ります。いいわね?』

 

 天結宮(ソフィア)にいる戦闘員の数は護士候補生、巫女見習いを含めて1200人ちょっと。

 それに対して幽幻種は数千体。最低でも2000体、多かったらほぼ5桁並かもしれない。

 そうなると最低でも一人分のノルマは幽幻種2体、最高は10体となる。

 

 しかし、戦闘員のほ半分以上は候補生か見習いであり、候補生や見習いの人が一人二体倒すことすらきついだろう。

 

 そうなると――ほぼ確実に防衛戦は突破される。

 

 ならば私も戦うことになる。

 

 戦う事に迷いはない。前世では剣を習っていたし、ある程度の恐怖なら耐えることもできる。さすがに初めて幽幻種を見たときは怖かったし死ぬかとも思った。

 

 けれど、私にはある切り札がある。それはツァリさんから教えてもらったものだけれど、人は皆少なからず沁力を持っている。けれど魔笛に侵食されるのはなぜか、というもの。それはたとえ沁力を持っていても一般人が魔笛に襲われたとき、魔笛に侵食される。

 それは魔笛が沁力を圧倒していたため、沁力が打ち消されているということ。

 

 魔笛と沁力は正反対に位置されるもの。ならば逆に沁力が魔笛を圧倒していたら、魔笛は打ち消される。

 

 私の沁力は紗砂以上らしい。そしてそれほどの沁力ならば大抵の魔笛は打ち消される。

 そのことは私にとって、とても大きな切り札になった。

 

 けれど、それは魔笛が打ち消されるということだけであって、幽幻種の物理的攻撃などは打ち消せないということ。

 

 

 

 天結宮(ソフィア)の281階につき、大聖堂の扉を勢いよく開き中にはいる。

 

 黄金に似た色に輝く祭具、そして星と月を描いた巨大なステンドガラス。ここはいるだけで浄化されそうなほどで、天結宮(ソフィア)最大の礼拝場。

 

「リリィ? 私と爛は居住区に行くわ。ここはレオンに任せてる。あなたはユミィと春蕾と一緒にいなさい! あなたはあなたができることをしなさい!」

 

 大聖堂に入ったと同時にメイメルに一息で色々言われる。

 

 一息で言い切ったメイメルは爛を連れてすぐに大聖堂から出て行った。

 

 メイメルと爛は居住区に行く、これって確か原作一巻の内容だったはず、私が知っている原作内容はそう多くない、知っているのはこの件が終わって少しあとまで。

 

 原作ではシェルティスが今いる大聖堂に来て統率個体を倒して終わったはず。

 

 けれど、それは私がいない世界の話。私がいるというだけで全く同じになることはないし、何よりここは現実の世界だ。シェルティスもユミィを本の中のキャラクターじゃなくて生きている一人の人間。

 

 それはこの世界に来た時からわかっていたこと。私は演じるんじゃなくて自分の思ったとおりに行けばいい。

 

 私は誰も死なずに終わらせたい。

 

 そのためには力が必要で、私はそのために護士候補生になろうと思った。

 

 それは今の私の力では誰も死なせないなんてことを言わせることはできないから。

 

 けれど今の力でも少し位は幽幻種の数を減らすことができる。

 

「―――――リリィ、リリィ!」

 

 私を呼ぶユミィの声が聞こえる。

 

「えっ? あ、はい。どうしたんですか?」

 

「リリィ大丈夫? さっきからずっと呼んでるのに反応ないから、体調でも優れないのかなぁって思って」

 

 あぁ、私が決意しているときずっと呼ばれていたんですか。

 

「大丈夫ですよ、私は私にできることをしようと決意してただけですから」

 

 私の決意は少しでも幽幻種の数を減らす、というもの。

 

「ユミィ、春蕾、私はレオンについていこうと思います。多分ですが、レオンは天結宮(ソフィア)で護士達を統率しながら幽幻種を食い止めるのでしょう?」

 

 巡回の人と居住区に向かったメイメルと爛でも全ての幽幻種を止めることはできないはず。そうなるとここに残った中で天結宮(ソフィア)の最後の壁になる人はユミィと春蕾とレオン。

 

 ユミィと春蕾は巫女だし、もうすぐ結界の譲渡をしなくちゃいけない。そうなると残ったレオンがあてはまる。

 

「駄目だ、戦えない人間はいない方がいい。足でまといだ。それになによりお前は非公式とはいえ巫女だろう? そんな人間を危ないところに連れて行くわけには行かない」

 

 もし私が戦う力をもっていなければ心が折れていたかも知れないほどグサッときましたよ。

 

 けれどレオンはわざとそう言って私を危険な目に遭わせないようにしているのでしょうね。

 

「戦えない人間はいないほうがいい。ということは戦える人間ならいてもいいってことですよね?」

 

 私はポケットから柄を取り出し、剣を構築する。

 

 突然の行動にレオン達は驚く。

 

「少しなら私も戦えます。それに私は術式なんて何も使えないんです。ここにいるよりあなたと一緒にいた方が役に立てると思います」

 

 これでレオンが許可してくれなければ、私にはもう手がない。

 

 それに今私が言ったことは、たった一言ですべてが打ち消される。

 

「駄目だ、例え戦えたとしてもお前は巫女だ。巫女を戦場に連れて行くなんていう危ない目には合わせられない。ユミィ、春蕾。リリィを頼む」

 

 そう言ってレオンは大聖堂から出て行った。


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