Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

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こんちゃ。今回は後書きにて、お知らせがあります。




ではどうぞ。






第9話 秘密

翌日の土曜日の朝、俺が起床してから間もない頃に孤児院に一本の電話がかかってきた。

 

「流誠!電話とってもらえませんか?今どうしても手が離せなくて〜」

 

 

「はーい」

 

先生は朝食の支度で忙しいようなので、代わりに俺が電話に出ることにした。

 

寝ぼけ眼をこすりながら電話の置かれているカウンターまで行き、受話器をあげる。

 

「もしもし」

 

 

『あ、流誠?急な話なんだけど、今からつぐんちまで来てくれない?』

 

 

「ひーちゃん?」

 

電話の主はひーちゃんだった。やけに興奮気味だったのを不思議に思いつつ、集合を呼びかけた理由を聞いてみた。

 

「なんかあったの?」

 

 

『ふっふっふ。実は──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車を近くの駐輪場に停めてからつぐちゃんの実家兼羽沢珈琲店まで行くと、ひーちゃんとつぐちゃん以外のメンバーと、ちょうど鉢合わせた。

 

「おはよう、流」

 

 

「ともちゃん。それに2人も。おはよう」

 

 

「おはよ。とりあえず急ぎの用事みたいだし、早く中行こ」

 

 

「れっつごー」

 

蘭を先頭に店の扉を開けると、カランコロンと鈴の心地良い音色と、コーヒー特有の馥郁たる香りが流れてきた。

 

 

ここには“初めて”来るが、コーヒーの香り以外にも、どこかしら懐かしさも漂わせていた。それはテレビなどでよく聞くような感覚的な懐かしさではなく、どちらかといえば事実的な懐かしさのような感じだった。

 

 

ここもまた、過去に来たことがあるが今は記憶には無い場所なのだろうか。

 

「あ、来た来た!みんな遅いよー!」

 

店の奥の席に座っているひーちゃんが待ちかねた様子でこちらに文句を垂れてきた。隣にはつぐちゃんも座っていた。

 

「ひーちゃんが早いんだよぉ」

 

 

「それより、電話での話ってホント?」

 

モカが反論を仕掛けると、それに続いて蘭が本題に話題を変えようとした。

 

本題──つまり、俺達がここに呼び集められた理由。

 

 

それは何かというと......

 

「ガルジャムから出演案内がきたっていうのは」

 

そう。とうとうガルジャムの方から出演案内の書類が入った封筒が届いたのだ。

 

それを今朝ひーちゃんから電話越しで教えてもらった時、どれほど嬉しかったことか。

 

 

メンバー全員が席に着いたのを見て、ひーちゃんがテーブルの上に例の書類を置いて見せた。

 

「『ガールズバンドジャムvol.12』出演者案内......」

 

ともちゃんはその書類に書かれた内容を信じられないと言わんばかりに朗読してみせた。

が、これは現実だ。現実はいつもどんなことであれ、良くも悪くも目の前に忽然と佇んでいる。

 

そんな現実を、電話や携帯ではなく実際に目の当たりにした俺たちは

 

「おお......」

「......こりゃあマジもんだね」

「うん......」

「......」

 

呆気に取られる他無かった。

 

「えっ!?ちょっとみんな!もっとこう、がんばるぞー!とかないの!?」

 

それを目の当たりにしたひーちゃんは、自らが予想していたものとは程遠い反応に面食らっていた。

 

「いや。嬉しいんだけど、さ。書類見てガルジャム出るんだーって改めて実感したら、感慨深すぎて......」

 

なんて裏方として仮メンバー入りして間もない俺が言うのも変な感じの理由を述べた。

 

すると突然、つぐちゃんの目から涙がポロポロと零れ落ち始めた。

 

「......って、つぐちゃん?泣いてんの?」

 

 

「えっ!?あ、あれっ!?ご、ごめん!安心して、つい涙が......」

 

どうやら無意識のうちに涙を流していたようだ。本当にそんなことが?なんて疑いたくもなるが、あのつぐちゃんならすぐ合点が付く。

 

「あははっ、もう、つぐってばすぐ泣くんだから〜!」

 

 

「ひーちゃんは人のこと言えないと思いまーす」

 

 

「私のことはいーの!」

 

また自然な流れでひーちゃんへの揶揄が始まろうとした時、ともちゃんが気を引き締めさせるかのように場をまとめ始めた。

 

「まあとにかく出演も決まったことだし、今日からは今まで以上にガッツリ練習しないとな。それじゃ、早速......」

 

「ライブハウスへ出発!」と言うつもりだったのか。ともちゃんの言葉はひーちゃんに「その前にー!」と強引に打ち切られた。

 

何事かと辺りが注目するなか、ひーちゃんは何やら愉しげな表情を浮かばせながら自分の鞄の中をまさぐっていた。

 

「むふふ〜!みんな、練習の前にちょっと見てほしいものがあるの!」

 

どうやら俺たちに、どうしても見せたいものがあるらしい。

 

「なになに〜?出演案内のお知らせはもう見たよ〜?」

 

 

「そうじゃなくて。実はね、みんなにお守りを作ってきたの!......あ、あった!じゃーん!ひまり特製のお守りだよー!みんな好きなところに付けてねー♪」

 

モカのお調子を歯牙にもかけぬ様子で俺たちに見せたもの。それは、パッチワークの目立つひーちゃんお手製のお守りだった。

 

「「「「「......」」」」」

 

 

「あれっ!?みんな静かになっちゃって、どうしたの?」

 

だがそれは控えめに言って、追い剥ぎで縫われた呪いの人形さながらの出来栄えだった。一瞬、微々たる忌避感さえ感じた程に。

 

その旨をどうしても共有したかった俺は、そのお守りから感じた負の感情をひーちゃんが傷つかない程度にできるだけ押し殺し、柔らかく、オブラートに包んだような表現を頭の中で練り込んでいた。

 

しかしなかなかまとまりきれず、もどかしさに苛まれていた。

 

「みんなの言いたいことをモカちゃんが代弁するとー......『マジ......?』かな」

 

モカが勝手に俺達の感想を代弁したが、それはあながち間違いでもなかった。

 

「えーーっ!?そんな、ひどいよぉ〜!寝ないで作ったのに〜......」

 

だから最近寝不足気味だったのか。

......まったく。うちのリーダーはどうしてもっと有効的な時間の使い方ができないのだろうか。

 

とはいうものの、完成品がどうであれ俺たちのことを想って作ってくれたのは事実だろう。そういうところもまたひーちゃんらしい、といえば少しはマシになるか?

 

それと同時に、先程までの人形に対する評価があまりに申し訳ないものだったことにも気がついた。するとともちゃんが俺と同じ事を思ったのか、一瞬狼狽した様子を人形に向けてからモカを叱責し始めた。

 

「モカ、せっかく作ってくれたひまりに対してそれはかわいそうだろ」

 

 

「そうだそうだ」

 

遠回しに心を抉られる痛みを感じながら、俺も適当に便乗してみた。

 

「巴ぇ〜!流誠ぇ〜!」

 

ひーちゃんは当然、自身の理解者の出現を喜んだ。だがその喜びも、ともちゃんのとある一言によりあっけなく砕け散る。

 

「ただちょっと......形がイビツ、かな......」

 

 

「がーんっ」

 

どうやらともちゃんは100%ひーちゃんの味方では無かったらしく、人形に対する感想を容赦なく述べていた。ともちゃんも言い方に気をつけようと努力はしたみたいだが、それでも十分。いや、十二分破壊力はあったのだろう。顔を一目見ただけで、ひーちゃんの落ち込みようが目に見えていた。

 

「だ、大丈夫だよひまりちゃん!私は......うん!すごくかわいいと思うよ!」

 

 

「その妙な間はなんなのー!」

 

つぐちゃんがすかさずフォローをかけようとしたが、当然そんな付け焼き刃では逆効果で、傷口を埋めるどころか更に広げてしまった。

 

とにかくもらったお守りはもちろん、それぞれの付けたい場所に付けることにした。どんな形であれ俺たちの為を想って作られた代物には変わりないし、大切に使ってやらないといけないから。

 

ともちゃんはスネアケース、つぐちゃんはキーボードケース、ひーちゃんはベースケース、蘭とモカはギターケース、そして楽器を持っていない俺は外出用の肩掛けバッグに付けることに決めた。

 

「えへへっ、これでみんなおそろいだねっ♪

なんかこういうの、うれしいなぁ〜」

 

それぞれ人形を付ける作業にあたっているとひーちゃんが満足げにそう呟いてから、ライブの成功を人形を握りながら祈っていた。それにお祈りしたところで、効力があるようにはどう考えても思えないのだが。しかし流石にこれ以上言ってやってもかわいそうなので、大人しく黙っておいた。

 

「そのお守りにお願いしても意味ないでしょ」

 

っておい蘭お前。

 

「いや、むしろ魔術とかに使われそうな形してるから、叶うかもしれないよ」

 

 

「「......たしかに」......って、あっ」

 

なんていう俺も首を頷かせてしまったのであった。

 

「ひーどーいー!」

 

子供のような駄々が店内に響き渡る。せっかくひーちゃんの機嫌が治ってきてくれたところだというのに、また振り出しに戻ってしまった。

 

だが時間も時間なので、ひーちゃんには悪いがこのまま練習を始めることにした。

 

「ほらほら。そろそろ、練習始めるぞ。ガルジャム......派手にキメてやろうぜ」

 

 

「「「「「うん!」」」」」

 

こうして俺達はともちゃんの掛け声のもと改めて気を引き締め、意気揚々とCiRCLEへと赴いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

練習とガルジャムに向けた話し合いを終え、CiRCLEから帰宅した俺は、湯船の中で意識を朦朧とさせながら今日の練習風景を思い出していた。

 

最近では前の練習の時のように蘭のキーがズレたりする以外にも、他のメンバーもミスをすることが多くなったような気がする。そのほとんど些細なことではあるが、それがいつしか肥大していって、俺達の脅威へと変貌するかもしれない。

 

ひーちゃんから手作りのお守りをもらいせっかく士気が高まってきたところなのに、この状態が継続していてはそれも無下に......いや、0を通り越してマイナスにまでなる恐れもある。それだけは絶対に避けたい。

 

 

風呂から上がり、体と髪を乾かし寝巻きに着替え、歯磨きをする一連の動作中にも、俺はいろいろな策を思いつけるだけ考えた。だが結局これといったものも無かったので、大人しく寝床につこうと自室へ向かおうとした。

 

 

 

 

──その道中、俺は机の上に妙なものが置かれているのを見つけた。

 

「......?」

 

それは全体が黒色に染まりあがった、見たこともないような一つの封筒だった。

 

 

LEDライトのまぶしい光ですら飲み込む異様な雰囲気を漂わせるそれは、人の好奇心を掻き立てるには十分な程で......

 

「なんだこれ......」

 

その魔性にまんまと惑わされた俺は何かに操られているかのような自然な動きで、既に封の開いていた封筒から中身を取り出した。

 

見てみると中には、封筒とはまったく正反対の色をした三つ折りの一枚の紙切れが入っていた。広げると、文字の配列から紙切れの正体が手紙だということが分かった。

 

故に紙の上部には、誰宛ての手紙なのかを認識できる名前が“拝啓”という文字の後ろに丁寧に綴られていた。

 

そこに書かれていた名前。それは......

 

「“つるまきひばり”......?」

 

“弦巻ひばり”という、聞き覚えの無い名前だった。そんな名前の「子供」はこの孤児院には居ない。

 

 

 

なら、たった一人の「大人」はどうだろう。

 

 

「──これって、先生の名前、なのか?」

 

 

まだ確証は無いが、俺はその名前の持ち主を先生だと考えた。

 

 

実はこの孤児院にお世話になってこのかた、先生の実名を一度も耳にした覚えがないのだ。自己紹介をした時だって先生、家庭訪問の時ですら頑なに自らの素性を明かそうとはしなかった。

 

単なる手紙の誤送も可能性としてはあるが、ここの立地や近所に他の住宅があまりないことを踏まえると、一番理にかなっているのは今の俺の考え方になる。

 

そして俺の意識は次第に、その名前の下の文字の隊列へと向いていった。

 

「とりあえず読んでみよう......」

 

人は未知と遭遇すると人では無くなる、なんて言葉をどこかで聞いたことがあるが、今の俺は至って冷静だった。それはこうなる予感を無意識のうちに抱いていまからなのだろうか。

 

だが、そんな根拠の無い冷静さも、こんな機械的で衝撃的な手紙の文字を前にすれば無意味なものとなる。

 

「ッッ!?」

 

思わず、息を呑んだ。

 

手紙の内容に目を通してみると、まず目に飛び込んできたのが、見たことのないような数字の羅列だった。そしてその横には“今月分の入金額”と追記されていた。

 

入金額......弦巻ひばりの正体が先生だとすれば、おおかた孤児院の為のお金ってところだろうか。

 

 

今まで不明瞭だった孤児院の運営費の出どころや、先程立てた仮説を基に、入金の理由を自分なりに解釈した。

 

「──最後は差出人か」

 

見てはいけないものを見てしまった罪悪感のような感情を抑え、最終段階。手紙の差出人の確認をするため、文末に目を通した。

 

そこには、昔使われていたような四つの漢字が彫られた朱印が押されていた。

 

 

目を凝らし、その漢字をよく見てみると、

 

「“弦巻財閥”......」

 

なんとなくそう読めた。

 

直後、点と点が線で結ばれたように、今まで不可解だったことの全貌が明らかになっていく感覚に襲われた。

 

 

孤児院運営費、多額の入金の知らせ、先生の名前、弦巻ひばり、弦巻財閥────。

 

 

 

 

──そして俺は、ある一つの結論にたどり着いた。

 

 

 

 

「先生は弦巻財閥のお嬢様で、そこから運営費を受け取っている。......ってことか」

 

 

先程言った通りまだ確証はない。だがここまで有力な情報を見せられたら、そう断定せざるを得ないだろう。

 

でもどうして先生はそこまでして、頑なに自分の素性を明かそうとしないのだろうか。何か言えない理由でもあるのだろうか。

 

自分の素性を隠そうとしてやまない先生の思惑だけは、今の段階ではどうしても理解することができなかった。

 

 

とりあえず事は終えたので、用無しとなった手紙を封筒に入れて元の位置に直し、今度こそ自室へと戻った。結局、バンドのことは考えられずじまいだった。

 

 

 

寝床につき、天井を見上げながらぼんやりとしているとら先生と出会った日を思い出した。

 

あの日もこうして、空を見上げていた。今は星ではなく、代わりに冷たい天井が俺と面と向かっているが。

 

とはいえそろそろ回想を止めて寝なければ、明日の朝寝坊してしまい、蘭との待ち合わせに間に合わなくなるかもしれない。なので俺は大人しく寝ることにした。遅刻するなんてことになって、蘭からなんて言われるか分かったもんじゃないし。

 

 

それから睡魔に身を委ねた俺は、日課である先生との“おやすみなさい”の掛け合いをせずに、そのまま夢の世界へと誘われて行くのであった。




いかがだったでしょうか。次回は12月12日の19時30に投稿予定です。お楽しみに。

さて。前書きでも言いました通り、今回はちょっとしたお知らせがあります。それは番外編についてです。

そろそろ番外編もどうかと思いまして、そのストックも一応いくつか作っております。番外編ではifストーリーやちょっとした小話などを主軸に執筆していこうと思います。本編に繋がるお話もあるので、ぜひお見逃しなく!またあげるときになれば随時お知らせします。


それではまた次回お会いしましょう。さいなら!
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