Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

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手が悴んでガルパができないナリィィィィィイイイ!!!!!あああああああああ!!!!!!!



本編どうぞ。






第10話 喜哀

朝はいつも、先生の呼び声から始まる。

 

 

 

が、今日は珍しくそれが無かった。今日は蘭との約束があるから、昨日の夜から意識して寝ていたので運良く起きることができたが。

 

あと、声が聞こえなかった理由は大体目星が付いていたし、寝ぼけた頭でも十二分に察することができた。

 

 

「おはようございます」

 

 

 

「あらごめんなさい!

いつも声掛けてあげてるのに...」

 

 

 

「別にいいですよ。子供じゃあるまいし」

 

 

いつも起こしてもらっているせいで正直ビビったが。

 

 

「まあ、頼もしいこと。ところで流誠、ちょっと聞きたいことが......」

 

 

 

「なんですか」

 

 

 

「ここに置いてあったもの、読んでませんよね?」

 

 

階段を下りて早々、謝罪の言葉と共に先生から封筒の置かれていた机を示されながらそう聞かれた。

 

 

「読んだだの読んでないだの以前に、何が置かれてたのかすら知りませんけど」

 

 

 

「そう。ならいいんですけど......あ!別に大したことじゃないんで、気にしないでくださいね?ほんとに」

 

 

 

「はあ...」

 

 

やはり封筒のことを気がかりにしすぎて起こしに来るのを忘れていたらしい。そういうところとか、あんな禁忌のような封筒を机の上に無防備で放ったらかしにしていたことを含めて先生らしいと言えば先生らしいのだが。

 

 

 

質疑応答と朝食を済ませた後、私服に着替える為に自室へと向かった。

 

今日はこの前先生に買ってもらった藍色の袖幅の広い半袖のパーカーに、動き易さを考慮して、スパッツに似たロングスポーツウェアパンツを着ていくことにした。どちらとも夏場の運動には欠かせない存在である。

 

 

「うおっ......!?」

 

 

着替えた後に部屋にある鏡の前で身なりを整えていると、後ろから突然の重圧に襲われた。

 

それは俺を含めた孤児院の子供10人の中でも最年少の斗真、圭人、亜香里の三人組によるものだった。

 

 

「せいにい、もうおでかけいくのー?」

「いいなー!おれもいきたいー!」

「でーとってやつだよねー?」

 

 

 

「お前らいきなり何すんだよ......今日はやけに早起きなんだな」

 

 

彼らは3年前、3人ともほぼ同じ時期にここへ来たのだが、出会って初日からいつもくっついて過ごしているほど仲が良いのだ。ちなみに年齢は今年で6歳になる。まだまだ若々しい。

 

 

「だってー、きのうせんせーからせいにいがあさからでーとにいくってきいてたから、みおくろうとおもって」

「えらいだろー」

「かんしゃしろー」

 

 

 

「ありがたいし偉いけど......亜香里。残念だがお前の言ってることは真っ赤な嘘だ。俺はただ友達と買い物しに行くだけであってだな?」

 

 

 

「そうなの?ちぇー、つまんないのー」

「ねー。“でーと”ってなんなん?」

「じつはぼくもよくわかんない」

 

 

先生のホラ話を鵜呑みにした純粋さを逆手に取り、なんとか言いくるめることができた。先生には後でそのことについては説教してやらなければ。

 

 

 

そして、例の件についても──。

 

 

「......よし。じゃあ行ってくる」

 

 

最後に肩掛けバックを持ち支度を終えた俺は、先生と斗真たちに見送られながら集合場所であるCiRCLEに向けて出発した。携帯を確認すると時刻は9時だった。約束の時間である9時30分までには間に合いそうだったので、ゆっくり行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?蘭、もう来てたのか?待ち合わせ時刻より5分早いけど」

 

 

プチ田舎から都会へと移り変わりゆく町の風景を堪能しながら自転車をこいでCiRCLEに到着すると、屋外にあるカフェに座っていた蘭を見つけた。

 

 

「うん。ていうか10分くらい前から

ずっとここで待ってた」

 

 

 

「じゃあ俺がだいぶ待たせてたってことになるのか......なんか悪りぃな」

 

 

申し訳なく頭を掻く俺に対し、蘭はふるふると首を横に振った。

 

 

「いいよ別に。約束の時間までもうちょっとあるし、それに私が早めに来たいと思って来てただけだし」

 

 

 

「なんか用事でもあったのか?」

 

 

 

「新しい衣装の参考に、CiRCLEに置いてある音楽雑誌見たかったから」

 

 

 

「そうだったのか。なら、今日町巡りするついでに洋服屋に寄って衣装に使えそうな服探すのはどうかな?」

 

 

ひとりで作業するよりもそっちのほうが効率が良いだろうと、ひとつ提案してみた。蘭もそれには同感のようだった。

 

 

「いいね、それ。そうとなれば衣装選び、とことん付き合ってもらうから」

 

 

 

「こちらこそ。案内よろしく頼むな」

 

 

 

「うん。じゃ、行こっか」

 

 

こうして蘭の先導の元、未知に溢れた町へと繰り出して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前に組み立てておいたスケジュール通り、始めは商店街の散策に行くことにした。ここには沙綾のやまぶきベーカリー、つぐみの羽沢珈琲店などの様々な店が立ち並んでいる。

 

が、今回の用事を他のメンバーには秘密にしているので、色々な誤解を生まない為にも羽沢珈琲店には立ち入らないように心がけた。流誠はそんな私の気も知れず、立ち寄りたそうにしていたが。

 

 

ふらふらと観光気分の流誠の腕を少々強引に引っ張り、近くにあった北沢精肉店のコロッケを買わせて、気を紛らわせた。心底美味そうに食べており、作戦は成功に終わった。

 

その後も商店街の散策を続けた。その際、らしくもなくまるで小さい頃に戻ったかのような冒険心を感じたことがしばしばあった。

 

 

 

 

 

とても......とても懐かしい匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ歩いたな」

 

 

商店街の施設を一通り見回った俺たちは、外れにある公園のベンチで休憩をしていた。公園内に設置されている時計に目をやると、すでに正午をまわっていた。

 

 

「おかげで道順とかよく分かったよ。昔の記憶も戻ってきた気がするし」

 

 

そう礼を言うと蘭は「ならよかった」と安心した様子を見せた。

 

ふと公園を見渡してみると、ちょうど4歳くらいの子供たちが遊具を使って、楽しげに遊んでいた。

 

 

「元気だなぁ。って、蘭?どうした?」

 

 

チラッと横目に見た蘭の顔が少しだけ呆けていたので声をかけてみた。

 

 

「......あ、ごめん。この公園に来るのも何年ぶりかなって思って」

 

 

蘭は遠い目で虚空を眺めていた。どうやら懐かしさに浸っていたらしい。

 

確かにこの公園からも先ほどのコロッケや商店街然り、似た懐かしさを漂わせている。ここにも何か記憶を喚起させる手がかりがあるのだろうか。

 

すると蘭がいきなり、説明口調っぽく昔の事を語り始めた。

 

 

「あの子らと同じくらいだったかな。私とモカが、流誠と初めて出会ったの」

 

 

 

「そうなのか──......がッ!?なんだ......?頭が......ッ!」

 

 

蘭の声に耳を傾けているうちに突如頭痛に襲われた。

 

ぐるぐると脳内が掻き乱される感覚に、膝をつく。しかし少し冷静になってみると、実際にはそんな苦しみなど襲ってきていなかったことに気がついた。

 

それどころか......むしろその逆だった。

 

 

「流誠!?大丈夫?」

 

 

 

「......あ、ああ。もう大丈夫だよ。ありがとな。──記憶も呼び起こしてもらって」

 

 

 

「え......戻ったの?昔の記憶」

 

 

ずっと失くしたままだった大切な記憶......どうやら先ほどの頭痛は、その一部が元に戻る前兆のようだった。

 

 

「......」

 

 

目を瞑り、自分の世界へと入り込む。

 

そう。あれはまだ『俺』が5歳くらいだったころの話────......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっく......えぐ......」

 

 

今日もまた、いじめられた。遊び道具を横取りされたり、後ろから蹴られたり、靴を隠されたり......

 

原因は弱い自分にあった。こうやって公園の隅のブランコで一人泣いている自分にあったのだ。

 

泣き虫で背も小さく、見た目も性格も男らしくないのを理由に、ぼくは幼稚園でリーダー格の男の子を中心としたいじめの対象となっていたのだった。

 

どうして?なんて純粋な疑問は悠然と立ちはだかる理不尽さの前では無下に等しい。もちろん理解者もいる。だがその理解者である2人にさえ、共働きによる多忙が原因で相談することができなかった。でももし忙しくなくても、僕にはそんな勇気なんかさらさら無かった。故に僕は必然的に孤独となった。

 

 

「うっ......ぼぐ、もっとづよくなりだいよぉ......」

 

 

幼稚園のひとりの帰り道、誰もいない公園に空虚な吐息を漏らした。

 

でもどうやって?この絶望的状況を、一人でどうやって打開するというのだ?もし強くなったとしても、今度は自分がいじめる側になってしまい、負の連鎖が続いてしまうのではないか?

 

頭が痛い。いじめによって各所にできた痣が染みる。加えて小柄な体には見合わないほどの不安に、心身ともに押しつぶされそうになり、自暴自棄になりかけていた。

 

 

「──なんでないてるの?」

 

 

その時、後ろから誰かの声が聞こえた。振り返るとそこには、目を丸くさせてぼくをじっと見つめている二人の女の子がいた。

 

一人は、自分と同じ黒髪に燃えるような赤瞳が特徴的な女の子。もう一人は、灰色の髪に青と緑を混ぜ合わせたような色の瞳が特徴的な女の子だった。

 

 

「しつれんしたとかじゃなーい?」

 

 

 

「え......まだ、はやいんじゃないかな」

 

 

 

「......きみたちは、どうしてここに?」

 

 

冷やかしなら帰ってくれと、精一杯の威圧を込めながらそう聞いた。からかわれてる時点で時すでに遅しな気もするが。

 

 

「こうえんであそぼうとおもったらきみがいたの」

 

 

 

「うっそだー。ほんとうはきこえてきたなきごえをしんぱいしたから。そうでしょー?らんちゃん」

 

 

 

「ちっ、ちがうもん!べつにそんなんじゃ......」

 

 

どうやら悪い子達では無いらしい。そう思うと安心感からか、また涙が溢れてきた。

 

 

「あー。らんちゃんなかせたー」

 

 

 

「いや......これは、ぼくのせいで......」

 

 

 

「さっきのしつもんなんだけど、どうなの?」

 

 

真摯なこの女の子の姿にさらに涙が溢れてきそうになったが、そこはぐっと堪えて、いじめのことを洗いざらい話した。

 

 

 

両親以外で、初めてかけがえのない存在ができたのはその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

......記憶と共に脳内に流れ込んできた擬似的な映像は、そこでプツリと途切れた。

 

 

「ハハ......ホントに泣き虫だったんだな、俺」

 

 

モカからちょくちょくからかわれていた通り昔の俺がいかに泣き虫だったのかを、記憶を通して知らしめられた。

 

 

「でも昔に比べたら、流誠ってだいぶ

変わったよね」

 

 

 

「そうか?例えばどんなところ?」

 

 

もし自分が同じ事を聞かれたとして、思い当たる節はいくつかある。身長、性格etc......

 

 

「体格とか?昔はもっと弱々しかったし、あとは性格かな。ちょっとがさつになった」

 

 

 

「なるほどな。まあ、陸上とかやってると

嫌でも体鍛えられるし、成長期もあるし。ってか、がさつってなんだよ。がさつって」

 

 

 

「有り体に言ったら男らしくなったってことだよ」

 

 

 

「元から元気ハツラツな

男の子な気がするんだけどなぁ」

 

 

 

「はいはい。昔は泣き虫な男の子でしたね」

 

 

 

「その話はN!G!だ!」

 

 

 

「ちゃんと昔と向き合わなきゃダメじゃん。ああ、今も泣き虫のままだからそりゃ無理か」

 

 

 

「あーもううっせえな......」

 

 

とうとう蘭にまで本格的にからかわれるようになってしまった。こうなってはひーちゃんの気持ちが痛いほど分かる。

 

 

手を組んで地面と睨めっこしていると、満足げな蘭が何か思いついたように立ち上がった。そろそろここを発って次の場所に移動するらしい。

 

もう一度公園の時計を見てみると、かれこれ話しているうちに30分もここで過ごしていたことに気がついた。

 

 

「次、行くよ」

 

 

 

「まだ調子戻ってないんですけど...」

 

 

項垂れる俺には蘭は目もくれず、公園の入り口の方へゆっくり歩き始めた。俺もこのまま一人残ってぐじくじと落胆に浸り続ける訳にもいかないので、重い腰を上げて、彼女に続くことにした。

 

 

 

 

(蘭......あの時助けてくれて、ありがとな)

 

 

 

 

口にするのがむず痒いほどの感謝の言葉を、心の中で抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この服とこの上着を合わせて着るっていうのはどう?」

 

 

 

「いいと思う。それにワンポイント何か付け足すのもいいかも」

 

 

商店街を抜けてショッピングモールに来たあたし達は、約束通り洋服屋で衣装に使えそうな服を探していた。

 

 

 

そこで新たに気付いたことがある。流誠の服選びのセンスの良さだ。

 

彼は次から次へと、私たちのイメージにピッタリな服を選んでは勧めてきた。今のところ流誠が持ってきた服は全て、見事に衣装の選考候補入りを果たしている。

 

もしかしたら彼にはそういう隠れた才能があるのかもしれないと密かに思いつつ、作業を

続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココアひとつ」

 

 

 

「俺はアイスコーヒーで」

 

 

 

「かしこまりました!」

 

 

衣装の参考選びも終わったところで、ショッピングモール内のカフェで一息ついた。流誠はもちろんのことだが、実はあたしもここに来るのは初めてだった。

 

 

「つぐちゃんとこ以外のカフェって

あまり来ないから、なんか新鮮だな」

 

 

 

「そうだね。でも、どこと比べてみても一番おいしいのがつぐみんとこなのは変わらないだろうけど」

 

 

 

「あはは。おっしゃる通りで」

 

 

こんな調子で雑談をしていると、あっという間に注文の品が届いた。小物やお冷のみ置かれていた机の上にカップに注がれたココアとコーヒーが新たに加わり、彩りが増える。

 

早速それを手に取り、味見をしてみた。

 

 

「......ん、おいしい」

 

 

口に含んだ瞬間、チョコレートと同じビターな香りと味が広がった。

 

さっきはつぐみのカフェが一番だなんて豪語していたが、ここのはつぐみのところとはまた一味違った味わいで、とてもおいしく感じられた。舌を巻くあたしはさながら井の中の蛙だった。

 

静かなる驚きと綻びを顔に表していると、流誠が何か言いたげにこちらを見つめていた。

 

 

「何?じろじろ見て」

 

 

 

「いやぁ?もしかして蘭ってコーヒー飲めないのかなって思って。だからココア頼んだんじゃないのか?」

 

 

 

「はあ?別にコーヒーぐらい飲めるし。でも今はココアを飲みたい気分だったからそっちを頼んだだけで...」

 

 

 

「本当は?」

 

 

 

「もうっ!嘘じゃないから!」

 

 

ココアを頼んだことにより、それをネタに流誠にからかわれてしまった。おそらく公園で自分がやられたことへの報復だろう。

 

だが、コーヒーが飲めるのは事実だ。そう言っているのにも関わらず、コイツはまったく信じる様子も見せず、小馬鹿にされて怒った私を見て、一人ほくそ笑みながらコーヒーを飲んでいた。

 

 

本当に調子の良い奴だ。見ていろ?そうやって高みの見物できるのも今のうち───......

 

 

 

 

 

 

 

ガシャンッ!

 

 

 

「......っ!?」

 

 

突然、何か物が割れたようなけたたましい音が緩やかな音楽の流れている店内に鳴り響いた。

 

何かの拍子にカップを落としたのではないのかと流誠の方を見やるが、手には依然カップが握られたままだった。むしろ流誠の顔からはさっきまでの笑顔は消えて、真剣な表情でただ一点だけを真っ直ぐに見つめていた。

 

おもむろにその視線を辿っていく。するとそこには唖然とした表情で地面に落ちて粉々になったカップの破片を見つめていた二人の男性と女性が立っていた。それぞれの服装と立ち位置を見て、その二人が従業員と客ということがすぐに分かった。

 

カップの破片を目で追った際、席に座っている男が履いているジーンズの裾にシミができていたのが視界の端に見えた。

 

 

「あーあー......どうしてくれんだよこれぇ!」

 

 

 

「も、申し訳ございません!」

 

 

当然、自分の衣服を汚された男は怒り心頭。怒りに身を任せて、従業員に罵声を浴びせた。

 

会話の内容から、事の発端はおおかた従業員が運んでいたカップを地面に落としたことだろう。その内容物が男性客のズボンに降りかかり、シミができたのではないだろうか。

 

 

「高かったんだよなぁこれぇ。なあ!?」

 

 

 

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

 

 

「あ?それしか言えねぇのかよ?そこは『弁償させてください』だろぉ!?」

 

 

 

「ヒッ......!!」

 

 

威圧感が増していく厳つい形相をした男の怒号に従業員は怯え、他の客は迷惑そうな顔でその終始を傍観していた。

 

 

だが流誠は違った。自分のことのように、真剣な表情のまま成り行きを見守っていた。早く終わってくれと祈るだけの他の客とは、まるで違った。

 

 

「言ってみろよぉ!『弁償させてください』ってよぉ!!」

 

 

 

「えっと、それは......」

 

 

 

「おい今なんつった?客に文句言うのか?自分のせいで迷惑かけたお客様に文句垂れ続けんのかお前はァ!!」

 

 

 

「ひゃあっ!!」

 

 

 

(危ない......!それ以上は......!)

 

 

責任転嫁をした末に、男は従業員の胸ぐらを乱暴に掴み持ち上げた。持ち上げられた従業員は女性故に、為すすべなく宙ぶらりんとなった。これには他人事としか思っていなかった他の客も、愕然としていた。だが、止めに入ろうとする者はやはり誰一人としていなかった。

 

 

(このままだと巻き込まれるかも......)

 

 

かなり席が近かったせいか忌避感を覚えた私は、一旦店の外に出ようと思い、流誠に判断を促そうと視線を正面に戻した。

 

 

 

 

が、そこに流誠の姿は無かった。

 

 

その代わりに声は聞こえてきた。

 

 

「その手、離してください」

 

 

 

「あ?なんだ?コイツの味方すんのかよ」

 

 

それも、注目の的になっていた男の元から。

 

 

「味方も何も、今の絶対悪はあなたでしょ。

現に手出してるし」

 

 

 

「ぐっ......」

 

 

 

「あとお客さんだからってその態度はありえませんよね?お客様は神様だなんてバカな考えをお持ちであるなら別ですけど」

 

 

なんと流誠は鼻息を荒くする男を相手に、冷静沈着な対応で太刀打ちしていたのだった。

 

だが頭に血が上ったせいで聞き分けの効かなくなった男は、矛先を流誠へと変えて唾を散らしながら道理の無いことを言い出した。

 

 

「うるせぇ!この女が俺の大切なジーンズにシミを付けさえしなければこんなことにはならなかったんだよ!」

 

 

するとあと一歩の勇気が足りなかった他の客たちが、流誠の勇気ある行動に背中を押されたのか、彼に加勢をし始めた。

 

 

「それとこれとは話が別だろ!」

「そーだそーだ!」

「暴力が一番いかんでしょーが!」

「従業員さんはちゃんと謝ったんだから、あなたも謝ってやるのが道理じゃないの!」

 

 

先程までの去勢された様子はどこへやら、手のひら翻したような猛攻撃に男はたじたじとなり、駆け足で店を出て行った。その直前、謝罪の代わりなのか、乱暴な形ではあるがレジにお代を支払っていたのを見て本当はいい人なのかもしれないとありもしないようなことを思った。

 

 

(それより流誠!)

 

 

安心しきった意識に再び緊張感を抱かせて単騎突入した流誠の無事を確認すると、何食わぬ顔で辺りを見回しながら従業員や客から称賛の声を受けていた......いや、少し顔を赤らめている。ははは。きっと恥ずかしいのだろう。

 

 

(ホント変わってないね、流誠は。名前や性格は違うけど、今も昔も......)

 

 

そんな光景を見て、困っている人なら誰でもすぐに助けるという幼馴染の変わらぬ一面を感じ、思わず笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日もだいぶ沈み、夕焼け空が迫る中、あたし流観光ツアーの最終地点である町の一角にある見晴らしのいい高台で、カフェでの一件の反省会を開いていた。

 

 

「ごめんな、急にいなくなったりして。ああいうの見てるとじっとしてらんないんだよ」

 

 

 

「ホントだよ。突然消えたから最初どこ行ったのかと思った」

 

 

さらに言うと置いていかれたのかと思ったぐらいだったのだが、そんなことを流誠がするわけないので本音は言わなかった。それはきっと他の4人だって同じことだろう。

 

 

やれやれと高台の鉄柵に身体を預け、ため息を吐いた流れで空を見上げてみると、先ほどよりも色付き始めた夕焼け空が、世界を優しく包みこんでいた。

 

 

眩しい......夕陽の強いオレンジ色の輝きが雲を一直線に突き抜けて後光を差している。

 

 

「今日のは一段と綺麗だな」

 

 

流誠も同じく空を見上げていたらしく、感嘆の声を漏らしていた。

 

 

「そうだね」

 

 

あたしが肯定するや否や、次に流誠は藪から棒にこんなことを聞いてきた。

 

 

「俺以外の5人の中でさ、一番星見つけるのがすげぇ早い奴っていたっけ?」

 

 

 

「は?どうしたの急に?まあ、いるけど」

 

 

 

「誰なの?」

 

 

 

「つぐみ」

 

 

 

「つぐちゃん......ああ、そうか思い出した!いやあ、ずっと気になってたんだよ、記憶無くなってから」

 

 

 

「そうなんだ。思い出せて良かったね」

 

 

 

「ああ、ありがとな。案内もしてくれて」

 

 

一番星を早く見つけられるのが誰なのかずっと気になっていただけのようだった。だが、そんなことかと一蹴するわけにもいかない。こういう小さなことから記憶を呼び起こしていくこともまた、大切なことなのだから。

 

そしてその一環を手助けできることに、誇りと喜びを感じている。こうして親友に、なんらかの形で役に立てるということはやはり嬉しいのだ。

 

 

 

しかしそんな嬉しい反面、申し訳なさも感じていた。流誠にではなく、つぐみに。

 

 

(今日は天気も良くて星も見つけやすいだろうに。もったいないな)

 

 

夕焼け以外にも星を見ることに多少なり興味のあるつぐみとは、これから見られるだろう一面に広がる星の輝きを共有したかった。だが残念ながら、当の本人は実家の手伝いに手を焼いていることだろう。

 

だからせめてこの夕焼けの写真だけは送ってあげようと、携帯を鞄の中から取り出して手の中に握った。

 

 

 

ブーッブーッ。

 

 

 

 

その瞬間、着信を知らせるすっかりお馴染みとなったバイブの振動が、音と共にあたしの手を震わせた。

 

 

「......誰からだ?」

 

 

当たり前だが、隣にいた流誠には着信が来たことがすぐにバレた。

 

そんな彼が、誰から電話がかかってきたか目星が付いているように見えたのはあたしの思い違いだろうか。

 

 

「分かんない......」

 

 

そうは言ったものの、あたしも時間帯的に誰から電話がかかってきたかは大体察しが付いていた。

 

 

(父さんからだとして、流誠になんて言えば

良いんだろう......)

 

 

あたしがまた変な癇癪を起こしてしまったら、流誠に余計な心配をかけてしまう。そんな嫌な予感がしたあたしは、恐る恐る携帯画面を確認した。

 

 

だがそれは、ただの杞憂に終わったようだ。

 

 

「......巴からだ」

 

 

心許せる親友から電話がかかってきたことに安心感を抱いた。一方、流誠は目を丸くしていた。

 

 

「え、ともちゃん?なんだろ」

 

 

 

「わかんない。もしもし巴?」

 

 

 

『蘭か!?良かった、電話出てくれて......』

 

 

 

「どうしたの?そんなに慌てて......」

 

 

電話に出ると、落ち着きを無くした巴の声が聞こえてきた。どうみてもいつもとは様子の違う親友に消えたはずの嫌な予感を再び覚えた後、話の内容を聞いた。

 

 

『緊急事態なんだ。落ち着いて聞けよ?』

 

 

 

「うん......」

 

 

 

『実はつぐが......つぐが......!』

 

 

 

「──え」

 

 

 

 

......巴から聞かされた内容を理解するのに、どれほどかかっただろうか。はっきりとは覚えてはいないが、聞こえてきた言葉一つ一つを頭の中でじっくり咀嚼し味わって、初めて理解できるほどのことだったことは確かだった。

 

そしてその非現実的な覚えたての言葉を頭の中で反芻しながら、巴から聞いたことが本当に“これ”なのかを確認するため、復唱した。

 

 

 

 

「......つぐみが倒れた?」

 

 

 

 

電話越しの巴からは、肯定の返事だけが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

つぐみが倒れた......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つぐみが倒れた......?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つぐみが、たおれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぅ」

 

 

立ちくらみを起こし、流誠に肩を支えてもらった時にちらりと見えた空には、無数の鰯雲が悠々と泳いでいた。

 

 

 

 

その雲の大群の隙間からは、いくつもの星が顔を覗かせていた。

 

 

 

 

夕陽は、とうに沈みきっていた。




いかがだったでしょうか。前書きでは失礼いたしました...皆さんは手を冷やさないように十分心がけてくださいね。

さて、次回は12月16日の19時30分に投稿予定です。お楽しみに。



ではまた次回お会いしましょう。さいなら!
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