Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
ほんへ!!!!!!
昨日約束した通り、三人でつぐちゃんを見舞いに病院へ向かっていた。
「ねー、ほんとにパン買って行かなくてへーき?」
「いやいい。またみんなに渡し損ねて無駄にしたり、ひーちゃんに全部食べてもらうことになるのは御免だからな」
「そうなったらあたしが全部食べるのにー」
「そうならなくても全部食べる気だろお前」
「さすがにそれはないでしょ......でも、モカがパン食べたいだけなのは事実だと思うけど」
「違うよ〜。つぐのお見舞いに持って行くんだよぉ〜。あたしが食べたいなんて、まさかそんなー」
「はいはい。......ほら、面会の時間終わっちゃう。急ぐよ」
そう言って私欲丸出しのモカを二人で引っ張り、危うく止まりかけていた歩みを進める。
ゆっくりと流れる景色を流し目に見ていると、モカがこんなことを聞いてきた。
「トモちん達も来てるのかな?」
「どうだろうな。面会時間空いてるんだし来てるんじゃないのか?」
「いるといいねー」
「どう......だろう」
蘭の眉間に皺が寄る。昨日の今日だから無理もないだろう。それでも蘭は歩みを止めることは無かった。
「蘭、顔こわいよー?キンチョーしてんの〜?」
「べ、別にこれが普段の顔だし。緊張もしてない!......もし、巴達がいたら...ちゃんと謝って、それで...」
強がりな姿勢は相変わらずだった。
だが──。
「......バンド続けたいって、ちゃんと伝えるから」
一つの決意を宿した蘭の瞳は、いつも以上に紅く、静かに燃え上がっていた。
「うん」
「......そうか」
蘭を試すつもりでああ言ったのだが、今の蘭を見る限りそれは杞憂だったらしい。
「行こう。まずはつぐみに、会いに行かなくちゃ」
こいつはもう、迷わない。
そういった確信を胸に抱き、迷いの無い足取りの蘭の後に続いた。
▼
「「つぐ(〜)(ちゃん)」」
「モカちゃん!流誠くん!それに、蘭ちゃんも!」
受付で聞いたつぐちゃんの部屋番号のところまで行き、横開きの大きなドアを開けると、ベッドの上にパジャマ姿のつぐちゃん。
「蘭......」
「......巴」
そして、窓際に置かれた丸イスに座ったともちゃん、ひーちゃんがいた。
「なんかこうやって6人揃うのも久々だな」
「そ、そうだね」
何日ぶりかの光景に思わず言葉を漏らすと、ひーちゃんがいかにも気まずそうにそう頷いた。
そんなしみったれた空気もお構いなしに、あのモカジョークが炸裂した。
「いやあ〜、何年ぶりかなあ〜。ひーちゃんもトモちんも、こんなに大きくなっちゃって......」
「2日しか空いてないだろ」
ともちゃんの的確なツッコミが入る。つぐちゃんはそれを見て苦笑いし、俺達に来てくれたことへの感謝をしてきた。
確かに、実際では2日しか空いていない。俺だってそう感じている。
だが、蘭はどうだろうか。
この2日間以前からだいぶ悩んでたし、随分前から一人だけ違う時間を過ごしていたように感じていたのではないだろうか。
そんな蘭の心境を考えていると、ありきたりな表現になるが、胸を締め付けられるような感覚に襲われた。
「......せい......流誠?」
「......ん?どうした?」
「いや、ボーっとしてたから」
蘭の呼びかけに反応すると、自分がボーっとしていたことを知らされた。
「そうか?考え事してたからかな......」
「......そう」
お前のことで考え事をしていた、だなんて口が裂けても言えるわけがない。
余計な誤解を招くことは言わないこと。これはモカから実体験を通して間接的に教わったことだ。もし口を滑らそうものなら......内容によっては数日間誰からも相手にされなくなる可能性もある。それだけは否が応でも避けたい。
俺が咳払いをしたその直後、モカが寝台から最寄りの丸イスに「よいしょ」と腰掛けた。
「つぐ、元気になったー?」
「うん、もうだいぶよくなったよ。
ありがとう」
つぐちゃんの方は、すっかり元気になったらしい。
「そっか。よかったねえ。つぐのことが心配で、夜も眠れなかったんだよ〜」
「ふふっ。そんな、大げさだよ」
「おいモカ。夫婦漫才みたいなことするのはあとにして、今はアレやらなきゃダメだろ」
「あ、そうだったね〜。すっかり忘れてたよー」
モカジョーク過多によりモカワールドが展開する謎のビジョンが頭をよぎり、本題である仲直りができる状態にするように諭した。
「まああたしがやるんじゃないけどね〜。ねー蘭?仲直りのこと、忘れてないよね?」
「......分かってる」
なんやかんやモカの持ち前の切り替えの早さのおかげで、事なきを得ることができた。
「......」
が、問題の当事者は言葉に詰まっていた。
(おいおい。お前が黙りこくってどうすんだよ......)
逸る気持ちを抑えながらも心の中でそんな愚痴をこぼしていると、つぐちゃんが何か言いたそうな顔をしながら「あの......」と呟いた。
だが、それもそのはず。つぐちゃんには今回揉めた事は、何一つ伝えられて......
「つぐ、“その話”はアタシからする」
「......え」
その話、というワードに俺は思わず声を漏らした。ともちゃんはあたかもつぐちゃんも理解しているような口ぶりで、横槍を挟んできたのだ。俺たちが見舞いに来るまでの間、代わりに説明してくれたのだろうか。だとしたらありがたい話だが。
「まず......蘭。この間は悪かった。蘭のことが心配だったとはいえ......言い過ぎた。その......ごめん」
「あ、あたしも......ご、めん......」
「これで仲直り〜......でいいのかな?」
「......ん」
「まあ、一件落着ってことで」
何はともあれ、互いに謝り合うことができたので、第一段階はクリアとなった。
次に行うのは、蘭の気持ちの表明になるが......
「......巴」
「ああ。それでさ」
ひーちゃんの声に応えるように、ともちゃんが蘭に語りかけ始めた。
「さっき、みんなで蘭のこと話してたんだ。最近の蘭、ずっとつらそうだって」
さっきというのは、やはり俺たちがまだ到着していなかった時のことだろう。ともちゃん達の3人はその間に蘭のことについて話し合っていたらしい。
その結果。つまり『これから蘭にどうさせるべきか』を、今現在述べているといったところか。
「もともとこのバンドは、みんなで一緒にいられるようにってはじめたものだろ?......なのに、そのバンドに参加してる時の蘭はすごく苦しそうに見えて」
「それは......!」
蘭が何か伝えようとした。だがともちゃんは止まらなかった。
「蘭はきっと今、家のことで大変なんだと思う。それは、アタシから見てもわかる。もし、バンドが蘭を家との板挟みで苦しめているのだとしたら......アタシらも、すごくつらい」
(確かにそれもそうだが......)
ともちゃんの口ぶりから、嫌な予感がした。言ってもいけないし聞いてもいけないような言葉が放たれるような予感がした。
「アタシらは、蘭を苦しめてまでバンドを
したいと思わない。だから......」
一瞬言葉を詰まらせたともちゃんは、どこか躊躇っているようにも見えた。そこに生じた少しの間が、俺には永遠のように感じた。
しかし“それ”は、ハッキリとした形を持って。
「しばらく...バンドを休止させないか」
ご丁寧にも予感していた通りに、ともちゃんの口から言い放たれた。
▼
「......!」
意外にも意外な言葉に、思わず息を呑んだ。
部外者からならまだしも、今までバンドを一緒に続けてきた幼馴染の口からそんなことを言われる日が来るとは思ってもいなかったからだ。
蘭もあれを聞いて、さぞ辛かっただろう。
「......っ」
ちらりと彼女の方を見やると、案の定筆舌しがたい顔になっていた。
ともちゃん達が蘭の為を思ってそれを提案したことはもちろん分かっている。だがその結果は蘭にとってあまりにも酷なものだった。
「蘭が落ち着いたらまた、活動再開させようよ。......ね?」
リーダーからも後押しされ、話がますます思わぬ方向へと進んでいく。
そんな中、無意識のうちに窓から見える空を見上げた。青々と晴れ渡る空には雲がぽつんぽつんと浮かんでいた。
そんな春らしい天気を見て、昨日屋上で3人で話したことを思い出した。
『......今思い出したんだけどさ、夕焼けの次の日って、晴れやすいんだって』
『なら、明日は晴れるだろうな』
『うん。だから明日はきっと、いいことあるよ。蘭』
『......うん』
晴れの日には良いことがあるという数ある迷信の中でも幼稚なそれを、易々と気休め程度に言い放った昨日の自分。
握った拳をわなわなと震わせている蘭は今、どんな思いでいるのだろうか。
昨日嘯いた自分のことを恨んでいるのだろうか。そんな余裕もないくらいに、ともちゃんの言葉から受けた衝撃の余韻に浸ったままでいるのだろうか。
どちらにせよ、蘭には悪いことをした。自らの周囲を取り巻く絶望のなかにいたずらに差し込ませた希望を抱かせておいて、その仕打ちがこれなのだから。
(ごめんね、蘭......)
この期に及んで勇気が出ず、嫌の一言すら言えない自分を戒めながら、心のうちでそう呟くと、
「......やだ」
蘭が細々とそう言った。
「蘭?」
「いやだ!!!あたしはバンド、やめたくない!」
今一番心の中から叫びたい一言を、蘭が代わって伝えてくれた。
「蘭......」
「......」
いきなり大声をあげた蘭に、ひーちゃん達は困惑の表情を浮かべている。
「......やめたく、ない......っ」
一方蘭はというと、元々震えていた手をさらに震わせながらそう呟いて。
「......っ」
部屋のドアへと駆けて行った。
「蘭......っ!」
「蘭......」
突きつけられた現実から逃げようと踵を返す蘭。気づいた時には、蘭はすでに横開きのドアの取っ手をぐっと掴んでいた。きっとこのまま外へと逃げていくのだろう。
ドアが勢いよく開かれる。ガシャンというけたたましくも虚しい音が、部屋だけではなく廊下にも響き渡る。
また止められなかった。部屋を飛び出して行く蘭の手を掴むことができなかった......
いや、まだ飛び出してはいなかった。
それは蘭の意思ではなく、蘭を食い止める『制止力』があったからで。
「──蘭!」
あたしは知らぬ間に、蘭の手を掴んでいた。しかしそこには、もうひとつの手が添えられていた。
「蘭!待てって」
他の手の正体はせいくんのものだった。あたしの手の上から包み込むように、しかしながらがっちりと蘭の左腕を一緒に掴んでいた。
その時、あたしの脳裏にはあのリサさんとの会話が想起されていた。
『蘭のことが本当に大切なら、
隣にいるだけじゃダメ』
......ああ、そうだ。隣にいるだけじゃダメ。だから......
(あたしが......蘭が間違った方向に行かないように止めるんだ!)
新たな決意と握る手を、さらに固めた。
「蘭......!!!」
「離してよ、二人とも......っ!」
「やだ」
「離さない」
蘭が唸る。でも、怯んではいけない。ここで離してしまっては、同じことの繰り返しになってしまうから。
絡みつく枷を外そうと、蘭が自分の腕を勢いよく無造作に振り回す。あたしとせいくんはそれに振り解かれないようにするべく、固く手を握り直そうとした。
その時だった。
「いい加減に......してよっ!!」
迂闊にも隙を突かれ、力を抜いた瞬間に手を振り払われてしまった。その勢いで、蘭は脱兎の如く病室を出て行った。
さっきまで掴んでいたはずの腕が一瞬で消えて、あたしとせいくんの2人はあまりの呆気なさに、あっと声を漏らすことしかできなかった。
「......どこか行っちゃったみたいだね」
「蘭......」
ともちゃんは心配そうに、既に見えなくなった蘭を遠い目で見送っていた。
結局、止められなかった。邪魔することしかできなかった。
強く握りすぎたせいか、手のひらに突然痛みが襲ってきた。
「うっ......」
空いたもうひとつの手で震えるほうを握ってその場に座り込む。そんな苦痛はむなしくも、報われることは無かったが。
己の無力さに腹わたが煮えくりかえりながらも悔しさに打ちひしがって、例えようのない感情が生まれた。
次第に、このままどうにでもなってしまえばいい。そう思うほど、あたしは混沌に飲み込まれ始めていた。
一緒に手を掴んでくれたせいくんも、同じような心境なのだろうか。振り払われてから依然立ち尽くし続けているせいくんの方へとおもむろに顔を向ける。
それと同時に彼は腰に手を置いて、体をのびのびと伸ばし、今から走りに行くのかと思える動きをとって────。
「じゃ、追いかけますかね」
やれやれと笑ってみせた。
そう。彼は疲れたから屈伸などをしたのではなく、本当に走るつもりで準備運動をしたのだった。そんなこの現状でいえば奇異とも言える行動に、あたしは目を丸くした。
「え?でも......」
蘭は“止められなかった”。それをわざわざ追いかけてどうするつもりなのだろうか。
この前の練習の時とは勝手が違うはず。今度こそ自分の思いを真っ向から否定されたような事態となった。なのに、一体何をするつもりでおいかけようなどという発想に至ったのだろうか。
「なんだモカ。追いかけてどうすんだって顔してるけど」
心を読まれてドキッとした。
「図星か」
「え、えへへ〜。バレたかー」
「わかんないなら教えてやるよ。......いや、これはお前も、お前以外も知ってるはずなんだけどな」
強がってるのも見透かしてるかのような顔つきでせいくんは、追いかけた後は何をするのか教えてくれた。
「無理矢理に手を引いてでも連れ戻す、だ」
「......え」
それは至極単純なもので、且つ自分も密かに考えていたものだった。
でもそれこそ傷心者の蘭の傷をさらにえぐってしまう行為になるのではないのかと、懸念していたのだ。だからあたしも心の隅に、その愚策をしまいこんでいた。
せいくんに質問してみた。
「でもそんなことしたら、また蘭が......」
悲しんじゃうかもしれないのに、どうして?
その一言を告げる直前になって、せいくんの言葉に遮られた。
「わかってるよ。そのくらい覚悟の上だからな。でもな、モカ。だからこそなんだと思うんだよ」
強まっていく語気に、思わず身震いした。
「だからこそ、連れ戻してやらなきゃ。蘭が間違った方向に行ってしまう前に、俺たちが。何度も迷惑がられようともな」
「......!」
それを聞いた瞬間、胸の中の栓が抜かれ、淀みが抜け切っていくのを感じた。
結果がどうであれ、関係ない。エゴ上等。
当たって砕けて無理やり笑わせろ。
そう、せいくんは言いたいのだろう。
「..................ふふっ」
しばらく黙りこんだ後、吹き出した。
「な、なんだよ」
「いやーごめんごめん。どこまでも考えることは一緒なんだなーって思って、ついねー」
「あっははは。流らしいな」
笑いの余韻の残ったあたしの発言、そしてずっと黙りこくっていたともちゃんの笑いに、せいくんは首を傾げた。
過ごした時間や経験してきたことは違えど、根本的な部分は変わらない。他の幼馴染のことをすごく思いやる気持ちとそれを行動に移す勇気は、結局変わらないのだ。
そして、大切なことを思い出させてくれたせいくんに、絶大な安心感と信頼感を抱いた。
リサさんも言っていた。隣にいるだけではダメだと。お互いを使役し合って、問題を解決しろと。
なら今こそみんなと協力して、何かしら行動を起こさなければ。
「でも、追いかけるって言っても蘭が出て行ってから時間経ってるよ?」
「......」
ひーちゃんが怪訝そうに問いかける。
「たしかにそれもそうだねー。あたしでも捕まえられないかもー」
追いかけるにしても蘭が飛び出してから数分かは経っているこの状況。蘭が運動音痴だからといっても、かなりの距離を離されているはずだ。
それに追いつくには、当然足の速い人がいなければいけない。
「んっんー......」
思考を集中させているとせいくんが咳払いをし始めた。
「どうした流?喘息の発作か?」
「ああ違う違う。わざわざ心配してくれてありがとう、ともちゃん。」
「喉になんか詰まっちゃったとかー?」
「あーっと、そうだな......ごめん。なんか気づかない?」
何か異常があったのか聞いてみても、質問は質問で返ってきた。これ以上何に気づけというのだろうか。
「俺が準備運動してた理由とか」
全員が首を傾げたのを見て、しびれを切らしたようにせいくんがそう答えた。
「え、まさかせいくんが追いかけるのー?大して足速くないのにー」
「「「うーん......」」」
少しの距離ですらろくに走ることもままならないあのせいくんが、とうに距離の離れている蘭を追いかけようなど笑止千万。あたしたちは再び首を傾げた。
自分で言うのもなんだが、それならあたし自ら追いかけた方がまだ勝算はある。部活こそ入ってはいないが、これでも足には自信がある。とはいえ体力は無いし、相手が陸上部の短距離選手ともなれば流石に敵わないが......
......あれ?陸上部の、短距離選手......?
「「「「......あっ!」」」」
思い出した。すぐ近くにいるではないか。最高の適任者が。
「俺が陸上部、それも短距離種目なの、みんな知ってると思ってたんだけどなあ」
▼
「はぁ......はぁ......また勢いで飛び出しちゃった」
息を切らしながら、階段を上る。憩いの場である学校の屋上へと続く階段を。
行ったところで、何もかも放ったらかして逃げてきたことに対する罪悪感は消せないだろうけど。
「ならなんであんなことしたんだろ......私のばか......」
皆の前では素直になれず、自分は正しいと弁解する自分を戒めながら、相変わらず錆びついているドアをこじ開ける。
そこには、昨日見たような夕日が───。
「──はあああ......やっと来たか」
「......っ!?」
そして、鉄柵に背中を預けて肩で息をしながらへたり込んでいる流誠がいた。
いかがだったでしょうか。次回は12月22日の19時30分に投稿予定です。お楽しみに。
さて。今回は皆様に、とあることについてのお礼を申し上げたく存じます。
なんかお気に入り数めっちゃ増えてた!!ありがとうございます!!!
...はい。ということです。お気に入り数とか感想とかこない限りそういうのはあまり見ない性格なのですが、チラッと気晴らしに見てみたらもう多いのなんのって。本当に励みになります。ありがてぇ...!です。
この先も、駄文駄編など様々なお見苦しい点があるかもしれません。ですがどうか僕の成長を、この作品とともにこれからもずっと見守っていてください。これからも頑張りますので!
ではまた次回お会いしましょう。さいなら!