Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
では本編どうぞ!
「ここが、ガルジャムの会場......」
「思ってたより人多いんだな」
「つってもこんなもんだぞ?アタシが前に行った時なんかは、この倍はいたぐらいだしな」
「ううっ、緊張してきちゃった......」
ついに本番当日を迎えた俺達は、本番前にも関わらずガルジャムの会場の入り口前の人だかりを見ただけですでに圧倒されていた。
「まだ中にも入ってないじゃん〜。ほら〜、ツグってツグって〜」
「つ、ツグる......?えと、どういう意味......?」
「おいモカ。余計につぐちゃんを混乱させるな......って、蘭、どうした?まさかお前も......」
つぐちゃんの不安を煽るモカをたしなめていると、蘭が仏頂面をしているのに気がついた。
「べっ、別にしてないし!......入るよ!」
「同じ方の手足同時に出してる奴がなに言ってんだか」
「ガチガチじゃ〜ん」
「うるさいっ!」
「あっ、蘭っ!んもー。素直じゃないんだから」
蘭が勇み足で人混みの中へと姿を消す。まあ、あそこまで緊張するのも無理はない。なにせこの一大イベントを盛り上げる立役者のうちの一人に、自分も含まれているのだから。
入り口前からすでにかなりの人だかりができている時点で、それがどれほど重大なことなのかは誰でも理解できること。
だが、緊張の原因の大半はやはり私情......バンドの死活問題が関係しているのだろう。特に蘭は、審判者である自分の父親に啖呵を切った張本人なので、俺たちのよりも多くのプレッシャーを抱えているに違いない。
蘭の父親で思い出したのだが、俺は今日その本人と不本意ながら一緒に演奏を見守ることになっている。きっかけなんて無い。悲しくもそれは、勝手に決まっていたことだから。
「あっ、そういえばせいくんって、蘭のお父さんと一緒に見るんでしょ〜?」
「ああ......気まずいこと間違いなしだが」
モカからも同じことを言われ、突きつけられた現実を前に立ちすくむ。
嫌なことは嫌だ。でも、すでに決まったものなら仕方がない。
「行きたくないってのが本音だけど、約束したことは守らなきゃな」
「おう。親父さんのこと頼んだぞ。かなり手強いぞ〜?」
「不安になるからやめろよそういうの......じゃあ行くわ。楽屋は行けたら行く」
「え〜?絶対来てよ〜?“アレ”やらなきゃだしー」
「蘭の父さんから何かしら言われなかったらな」
俺は清々しいほど不服そうな顔をしてから他のメンバーに別れを告げ、待ち合わせ場所であるメインホールの出入り口へと足を運んだ。
「気抜いたら人混みに流されそうだ」
外の様子から大体察しはついていたものの、建物の内部のあまりの人口密度にさらなる驚きを隠せなかった。
小高い天井から吊り下げられた案内板を見上げ、メインホールがここであることを再度確認する。間違いない、やはりここで合っているようだ。
「これだと見つけるのも一苦労だな。どんな人か“なんとなく”わかるけど」
蘭から聞いた特徴を頼りに、蘭の父親らしき人物を探す。眼鏡をかけているのと、着物のような服を着ているのが特徴らしい。
......実は、その蘭の父親の特徴なのだが、俺は蘭から聞かされる前から薄々だが感づいていた。それが蘭の父親、そして華道の家元という先入観からなのか。
──あるいは、昔、深い関わりがあったからなのか。
「......」
なんとなく感づいていたというのも未だに奥底に眠ったままの記憶のせいなのかもしれない。今の段階では不確定要素だが、本人と出会えばその答えは自ずと出てくるだろう。
「......きみ」
「あ、はい?......って、あっ......」
すると後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。振り向くとそこには、先ほどまで脳裏に思い浮かべていた眼鏡をかけた和装の男性が立っていた。
蘭と同じ、紅い瞳。俺に声をかけたことから察するに、この人が蘭の父親だ。
「もしかして、蘭のお父さんですか?」
「“蘭のお父さん”、か......」
内心断定していたのだが、もしかしたらただの迷子の人かもしれないと思って仮定で踏み留めた発言をした。すると男性は、自らの呼び名を訝しむように復唱してみせた。
「合って、ますかね?」
「ああそうだ。私が蘭の父親だ。......ただ前より呼び方がだいぶよそよそしくなったなと思っただけでね」
「え?よそよそしく......?」
その後聞こえてきた意味深な発言に首を傾げる。厳かな蘭のお父さんの顔には、哀愁に似た感情が付与されていた。
......胸騒ぎがする。
「それって一体、どういう......」
脈がだんだんと早くなるのを感じる。それに呼応するように息も荒くなって。
「やはり、覚えてないのか。青藍......いや。今は流誠くん、だったか。蘭から話は聞いている。つい先日のことになるがね」
「───っ」
───俺は『青藍』という単語を知っているかどうかを、相手が自分の過去を少なからず知っているかどうかの判断材料として使っている。
故に記憶が喚起され、立ち眩みが起きた。
「──ぁぐっ......」
流れ入る記憶の濁流がだんだんと俺の頭の中で渦を巻く。それは次第に、不鮮明なモノクロから眩しいくらいの思い出となって。
戻って。
「おじ、さ......」
「......」
ああ、思い出した。あそこまで自分のこと、みんなのことを不器用ながら大切に見守ってくれていたおじさんのことを。
「......積もる話もある。蘭達の出番までまだ時間はあるし、外でゆっくり話そう」
喚起された記憶の量があまりに多かったのか立ち眩みどころか頭痛も襲ってきた。頭を抱え呻く俺の背中には、おじさんが優しく手を添えてくれていた。
触れられているのは肌身だけなのに、なぜか心までもが温められていく感じがした。
▼
「──とまあ、こんな感じだ。どうだ、思い出せたか?」
「うん......ありがとう、おじさん」
気を取り直したところで、おじさんから昔のことなどを話してもらった。
初めて思い出せたことがたくさんあった。ほとんど解せそうにないものばかりだったが、おじさんの話を聞くにつれて、それは俺の体に深く浸透していった。
そんな混沌にも似た記憶の中でも一際目立つものがある。それは......
「ああ......そういえばそうだったな。おじさんと父さんが同級生だったことも」
そう。実は俺の父親......父さんとおじさんは、高校生活を共にした級友だった。そしてその2人は、周囲も目を見張るほどの仲の良さだったらしい。
だが、大学生になってからおじさんと父さんは音信不通になってしまった。原因は互いの夢の相違だった。
華道の道を極めるべく、おじさんは専門学校へ、そして父さんは普通の進学校へと通うことになったのだ。
いくら仲が良くとも己の夢は曲げられない。そして互いの夢への障害になることを懸念した2人は、大学に入ってからの一切の交流を禁じた。
そこまでしなくても......なんて、俺も最初こそそう思ったが、あのおじさんのことだ。彼の生真面目さが不幸にもそうさせたのだろう。それを止められなかった父さんもおそらく、そんな人だったのかもしれない。
だがその数十年後、2人は不本意ながら再開を遂げた。その理由は、父さんの息子である俺とおじさんの娘である蘭が出会い、お互いの親の顔合わせをしたことにあった。
数十年ぶりの親友との思いもよらない邂逅に2人は唖然とした。それはまさに偶然としか言いようのないことだったからだ。そしてひとしきりの沈黙ののち、その再会に涙していたのを見て、俺と蘭が首を傾げていたことも思い出した。
それからのこと、共働きで両親から面倒を見られることの少なかった俺に対して、おじさんは手厚く世話をしてくれた。家に泊まらせてもらうこともしばしばあった。
父さんの仕事が休みの日なんかには、2人揃って酒に入り浸たれたりしてたっけ。まだ物心があまりついていなかった俺から見ても、2人の仲は本当に良かった。
......だからこそ悲しかったのだろう。父さんが交通事故で亡くなったことが、夢なら覚めてほしいと切に願ったほどに。
その事故のこと、そしてその事の顛末をおじさんは蘭には伝えなかったらしい。その理由は、同乗していた俺のことを蘭に心配させないためだった。
流石は父親と言ったところだ、娘のことは一番に把握している。蘭に交通事故の件を伝えたりすれば、自意識過剰かもしれないが、彼女はきっと、意識不明の重体の俺のことで頭がいっぱいになって苦しむことになっていたかもしれない。
だからおじさんは、1人で抱えきりだった。
1人で影に隠れ、嘆いていた。
血は、争えないな。
「......彼は寡黙で1人きりだった私に、手を差し伸べてくれた唯一の親友だった。今では亡くなってしまった彼を今になって嘆くつもりは毛頭ない......だが君を見ていると、彼のことを思い出さざるを得ないな」
そう言っておじさんは、はにかんでみせた。俺はそれをただ憂うことしかできなかった。
(もしもみんなと再会できてなかったら、俺もこんな風になってたのかな)
まるで、他人事のようにしか思えなかった。
「そういえば眼鏡、かけるようになったんだな」
「ああ。事故の後遺症で、視力が落ちてさ」
「外してみてくれないか?」
「え?......まあ、いいけど」
急な頼みごとに何事かと思いつつも、言う通りに外してみせた。するとおじさんは、俺の顔をじっと見つめてきた。
「ああ、ますます......」
「おじさん?」
眼鏡を外したせいか視界がぼやけてしまい、焦点がうまく合わなかった。
「ますます......あいつに、似てきて......っ」
「......ぁ」
それでも少し昂ぶった涙声を出し、空を仰ぐおじさんの横顔がどんな表情だったのかは、はっきり見えずとも容易に想像することができた。
▼
「蘭パパの差し入れのドーナツ、おいしかったな〜」
「モカちゃん、口にドーナツ付いてるよ」
「あ、ホントだー。ありがとーつぐー」
「モカの食べっぷりは相変わらずだったな。
でもひまりの分も食べちゃうのはさすがにダメだろ」
「えー?だって差し入れもらったとき、ひーちゃんいなかったんだもーん。ほらー。ドーナツは鮮度が大事だしー?」
「うわ〜ん!ヒドいよモカぁ〜!」
「......」
和やかな空気の中、他バンドの演奏も順々に進んでいき、ついに私たちの順番の近くまで回ってきた。次第に増していく緊張感が嫌というほど身体を蝕んでいく。
少し広めの楽屋を見渡す。でもそこに流誠の姿はなく、他の4人が各々ライブへの準備を進めている姿しか見えなかった。父さんとの話が長引いているのだろうか。
『コンコン』
「ん?誰かな?どうぞー!」
部屋にドアをノックする音が響く。
ドアをあけてみると、ガルジャムのスタッフの人だった。
「失礼します......Afterglowのみなさん。そろそろ出番なので、各自衣装等の準備をしておいてください」
「もうやってまーす」
「ならOKです。それでは出番までごゆっくり......」
どうやら本番前の呼びかけをわざわざしに来てくれたらしい。そして自らの役割を終えたスタッフさんは、愛想良い笑顔を見せながら部屋を出ていった。
と、次の瞬間。
「あ、すみません!もうひとつ要件が!みなさんとどうしてもお話がしたいという方が......」
先ほど部屋を出ていったばかりの同じスタッフの人が再び戻ってきた。どうやら私達に用がある人がいたらしい。状況的に、ドアを開けた目の前にでもいたのだろうか。
それよりもこのタイミングでの来客。まさかとは思うが、噂をすればなんとやらか。
「えっ誰だれ!?はっ!もしかして、ファンだったりして......!」
「ひゅーひゅー。ひーちゃんモテモテ〜」
「こら落ち着けひまり!モカも担ぐな!」
「......名前聞いてもらってもいいですか?」
巴がはしゃぐ2人を制止したのを見計らって淡い期待を抱きながら、来客の名前を聞いてもらうように頼んだ。
「ああ!名前の方ならもう伺ってます。先に言うべきでしたね。すみません......」
どうやら確認済みだったらしい。
「ああいえ。で、名前は?」
「えっと確か......長門 流誠さんという方でしたね」
そして、スタッフさんの口からは予想通りの名前が言い放たれた。
「呼びました?」
それに応えるかのように、当の本人が少し開けたドアの外から背伸びをしながら顔を覗かせてきた。
そんな彼を見て、みんなが一斉にもう一度名前を呼んだ。
「流誠......!」
少し遅れたが、私もその一員だった。
▼
俺とみんなとで板挟みだったスタッフさんに礼を言って解放したところで、改めてみんなの方へ向き直った。
「ようやくのご登場ですか〜」
「もう来ないのかと思ってたぞ?」
「ごめんごめん」
待ちくたびれていたのだろうか。みんなの口からは文句ばかりが垂れ流れてきた。まあそのほとんどはモカの便乗節だったが。
「ちょーっと話が長引いちゃってな......」
遅れた原因の元凶である蘭に視線を集中させた。元はと言えばこいつがおじさんの付き添い人なんていう役を、俺にこじつけてきたのが悪いのだから。
その対価としておじさんのことを思い出せたのだけれども。
「......何?」
「自覚が足りないことがお前の悪いところだぞ。それより本番もうすぐだし、“アレ”、やっとこう」
わざと意味深な言葉を添えた俺に向かって怪訝そうな顔をする蘭は置いて、会場の入り口近くで話していた“アレ”をするようにみんなに促した。これは前日提案された、ひーちゃん考案の願掛けのようなものである。えいえいおーではない。
全員で輪になり、肩を組んだまま前かがみの姿勢を作る......そう、円陣だ。
計画通りにフォーメーションを組む。次に、それぞれ一言ずつ述べていく。まずはつぐちゃんから。
「今すごく緊張してドキドキしてるんだ......でもみんなとなら、ガルジャムだって成功できると思う!だから頑張ろ!絶対、成功させよう!」
続いてともちゃん。
「待ちに待ったガルジャムだ。夢の大舞台......とまでは言えないかもだけど、大舞台なのは違いない。練習の時よりも、さらに派手にキメてやろうぜ!以上!」
そしてひーちゃん。
「あたしもつぐと一緒で、心臓が張り裂けそうだよ〜......だからって、弱音ばかり吐いてられないよねっ!あたしもあたしなりに頑張ってみる!」
モカ。
「つぐはともかく、ひーちゃんもツグってる
とはね〜。こりゃあ、モカちゃんも負けてられないなー。よーし、モカちゃんもツグっちゃうぞ〜。はい次ー」
蘭。
「流誠が戻ってきたり、ガルジャムにでることになったり、いろいろあってもめたりもしたけど......今ではこうしていつも通りみんな集まることができてる。そんな今の私達なら、“本当のAfterglow”ならどんなことだって乗り越えていける......大丈夫。いつも通りやるだけだよ。気張っていこう」
そして最後に、アシスタントである俺に順が回ってきた。
「俺はみんなと違ってステージに立たない。代わりに客席側にしか立てないけど、いつもみんなのことを見守ってることをどうか忘れないでくれ」
各々がそれぞれの決意を表明し、団結力の高まりを覚える。
その流れに乗って足を踏み出して......
「練習の成果、見せてやれ。この会場を、もっともっと沸かせてやれ!いくぞ!!」
「「「「「おーーーー!!!!!」」」」」
俺の掛け声に応えるように、昂ぶる気持ちのままに皆一斉に声を張り上げる。鼓膜がビリビリと震えるのを感じる。するとちょうどスタッフさんが、出番を知らせに楽屋の扉を開け放ってきた。
「Afterglowさん!次、お願いします!」
「きたか......じゃあ、おじさんとこ戻るわ。改めて言うけど、みんな頑張れよ」
「ああ。アタシ達の本気、蘭の親父さんとしっかり見ててくれよ?」
「わかってるって。もちろんだ」
「寝ないでよ〜?」
「誰が寝るかよ、こんな音の嵐の中で......」
モカを軽くあしらったのと同時に、MCの威勢の良いトークが終わる。
いよいよ、本当の本当に出番が回ってきた。
「うう、緊張してきた......」
「ホントにそろそろ戻らないとヤバいんじゃないの!?」
「だな。じゃあ今度こそまた後で。えーっと、あれだ。まあ、頑張れ!」
「おう!じゃあなー、流ー!」
急かされたせいで締まらない別れ方だったが、これはこれで彼女らの緊張の糸も多少は緩むことだろう。なんていう独断を信じ込みながら、俺は観客席で待つおじさんの元へと駆け出した。
「遅かったな」
「ははは......円陣とかいろいろしててさ」
席に着くと、おじさんは先ほどの5人と同じく待ちくたびれた様子をしていた。
「おわぁ......」
思わず、間抜けた息をついた。
決まり悪くなったので助け舟を探そうと辺りを見回したところ、その視線の先にあるのは入り口などで見たものとは比にならないほどの人の群れだったからだ。
その会場から溢れんばかりの人群から成される熱気は、さきほどまでの演奏も相まって最絶頂に達するであろうところまできていた。
「......きたか」
すると次の瞬間、ただでさえ暑苦しい熱狂の渦が、さらにどっと湧き上がった。
Afterglow......蘭達がステージ袖から出てきた。
(歓声すげえ......鼓膜、ビリビリする)
数多の音の荒々しい波紋を全身で感じながら横にいるおじさんの方をちらりと見やる。表情こそ依然厳格そのものだったが、その体は感動に震えているように思えた。
「みなさん、こんにちは」
「「「「Afterglowです!!!」」」」
熱気の第二波がメンバーの声とともに押し寄せてきた。
いいぞ。会場の主導権をうまく握れている。
「......今、この瞬間から、会場の熱をすべてあたしたちのモノにする。見逃さないでついてきて!いくよ!」
こうしてガールズバンドジャム最終演奏バンドグループ、Afterglowの熱演が始まった。
▼
あれから蘭たちはぶっ通しで、複数曲を演奏してきた。故にメンバー全員、疲弊しきった様子を見せている。そんなことはお構い無しに、観客のAfterglowに対する期待度と熱量は上がっていくばかりだ。
......蘭が一呼吸ついた。
───次がラストの曲になる。
「......次で最後です」
「......」
先ほどまでの狂乱が嘘のように会場がしんと静まり返った。そんな静寂の中、蘭は淡々と言葉を連ねる。
「あたしが、道に迷った時......そばにはいつだってみんながいてくれた。今、ここに立っていられるのも、そのおかげだと思ってる」
「......」
胸に熱いものが込み上げてくるのを感じる。蘭の変化に自分も関われたことへの誇りだ。
「......あたしは、もう迷わない。どんなに迷っても、もう逃げたりしない」
ふと思えば、見違えるほど、そしてどこか昔の面影を残したままのみんなと再会してまだ一カ月ほどしか経っていない。
共に過ごしてきた時間の差は程遠く、その隔たりを埋めることはできない。“知らない”ことだってまだたくさんある。
だが俺達の間には、切っても切れない確かな絆があった。だからこうしてまた巡り会い、
互いにぶつかって、認め合うことができた。最高の瞬間を迎えようとすることができた。
「......だから、その気持ちを歌にして、届けたい──!」
「......ああ」
だから、これからはずっとお前らを支えてやりたい。そう、心の底から思えたんだよ。
「聞いてください。『True coler』!」
期待のざわめきが静まり返ったところで、蘭のレスポールギターが鳴り響く。
そこにモカ、ひーちゃん、ともちゃん、つぐちゃん、それぞれの音が重なって───。
気づけばそこには、いつか見た綺麗な夕焼け空が広がっていた。
淀み一つ無い、“本当の色”の空だった。
▼
「ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました!」」」」
演奏を終え、締めの挨拶が済んだのと同時に耳をつんざくほどの歓声が湧き上がる。その歓声に背を向け蘭たちは袖へと戻っていった。
「終わったか......」
余韻がまだ残っている。そこから蘭の決意の表明を改めて噛みしめた。演奏中もそうしていたのだが、それはとても力強くもあり、ありのままの弱さを曝け出したものでもあった。
気づけば、脳裏に浮かんでいた夕焼けはすでに消えていた。
「......」
「おじさん......」
夕焼けの残像を見送っていると、おじさんが目を閉じて何か物思いに耽っていた。
そうだ。このガルジャムでの出来は俺たちのバンド活動の死活問題でもある。そしてその審判を下すのは、紛れも無い彼なのだ。
「流誠くん」
「......うん」
おじさんが目を開け、視線をこちらに向けてきた。
緊張が走る。
「蘭のバンド、Afterglowと言ったな。意味は夕焼けだったか」
「そうだけど......」
「君にとって、“夕焼け”とはなんだ?」
「......」
一瞬、躊躇した。試されているからだ。今、俺が何を言うのか。そこにAfterglowのこれからが懸かっている。
俺たちの居場所が懸かっている。
なんて言えば良い?何が正解なのか?逡巡しているうちに、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
──いや、違う。いくら綺麗事を取り繕ったところで、それは嘘偽りのものだ。
大切なのは、本当の声......
本音だ。
夕焼けは俺にとって、俺達にとって誰にも奪われたく無い居場所だ。いつでも、どこにいても、みんな揃って笑っていられる大切な......
だから。
「俺だけじゃない、俺たちの居場所だよ。そんで俺は、みんなはそれが大切なんだよ。ただ、それだけ」
端的にそう答えた。本当に『ただそれだけ』だったから。
「そうか」
「うん」
おじさんが再び目を閉じた。対して俺は目を伏せた。
言いたいことはちゃんと伝えた。後は結果を待つだけだ。
「......流誠くん」
しばらく経ち、目を開けたおじさんから再び名前を呼ばれた。そして────。
「迷惑かもしれないが、これからもみんなと蘭のことを支えてやってくれ」
「えっ?てことは......」
含みのある言い方にもう一度聞き返す。それに対して、おじさんは溢れんばかりの慈愛をその笑顔に乗せて、こう言った。
「──認めよう。もとより、きみが無事戻ってきてくれたのだからなおさらだ」
いかがだったでしょうか。次回は1月4日の19時30分に投稿予定です。お楽しみに!
今年も色々なことがありました。そして来年も、また元気に執筆していきたいと思います!皆さん、今年はありがとうございました。来年もよろしくお願いします!
ではまた次回お会いしましょう。さいなら!