Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ということで皆さんどうも、あるです。
改めまして明けましておめでとうございます。今年も頑張っていきましょう!
それでは本編、どうぞ!
「大盛況、やったな!あの会場全部、アタシ達のモノって感じだったな!」
「今日の蘭ちゃん、すごかったよ!なんだか、私も演奏しながら感動しちゃったよ......!」
「ああ、つぐの言う通りだ。今日の蘭はここ最近で一番アツかったよ。そのおかげで、アタシらも最高の演奏ができた!」
「今日あの歌が歌えたのは、みんなのおかげだよ。......本当に、ありがとう」
全ての曲を演奏し終え、楽屋に戻ったあたし達は先のライブの感想を語り合っていた。
「ううっ、そんなこと言われたら
また泣けてきちゃうよぉ〜!」
「シャッターチャーンス」
「も、モカちゃん〜!!」
涙もろいひまりが泣き始めた。それをすかさずモカのカメラが捉えようとし、つぐみが止めにかかる。
この光景を見るのも何度目だろうか。そんな『いつも通り』に狼狽しながらも、それとは裏腹に求めている自分がいる。
その『いつも通り』も、本日をもって終わるかもしれないのだが。
「よう、みんなおつかれ」
すると背後から、聞き慣れた男子の声がドアを開く音とともに聞こえてきた。
流誠だ。
「せいくんじゃーん。そしてその後ろにいるのはー?」
「......蘭」
「......!」
そして当然ながら、先ほどまで流誠と同席していた父さんの姿もあった。
「父さん......」
「わあ〜、蘭のパパだあ。お久しぶりでーす」
「こんにちは、モカちゃん。みなさんも......いつも蘭がお世話になってます」
「お世話してまーす」
「お、おいっ......!」
空気の読めないモカを巴が叱責した。それから父さんの隣にいる流誠も便乗して声をあげた。
「モカ、こっからは大事な話だ。今だけは抑えててくれないか」
いつもの親しみのある流誠の姿はそこには無く、厚みのある声で発せられた言葉に、この場に立ち会っている全員が息を詰める。さすがのモカも半ば硬直状態に陥っていた。
そんな空気の中、意外にもあの父さんが、その場をなだめるかのように不気味にも笑い出した。
「ははは、いいんだよ。本当のことなんだろうから」
「......おじさんがそう言うんならいいけど」
「......」
そして流誠が父さんのことをおじさんと呼んでいるのを、あたしは聞き逃さなかった。
父さんのこと、思い出してくれたみたいでよかった。
「───皆さんの演奏、聴かせてもらいました」
驚きと安堵。相反する感情を抱いたのも束の間、父さんが今回のライブについて感想を述べはじめた。
審判の時だ。
「正直、高校生が趣味でやっているバンドなんて、たかが知れていると......そう思っていました」
あたしが本音を歌に乗せて応えたように、父さんもまた心の内を吐露する。
「しかし...非常に感動しましたよ。それもこれほどまでに心震わされたのは何年振りかと思うくらいに。......蘭」
「......」
名前を呼ばれた。いつもの威嚇的かつ否定的な声ではなく、温かく懐柔するような声で。
「お前の情熱や思いはしっかりと伝わった。これほどまで真剣に、バンドに打ち込んでいたのだな」
「───」
そうだ。あたし達はいつも、あたし達がいつも通りでいられるように努力してきた。衝突してきた。笑ったり、泣いたりした。ずっとこのままでいたいと、何度も思った。
「そして、一緒に作り上げてくれる仲間を大切にしなさい」
「......!それじゃあ......」
「──バンド活動を認めよう。お前は、いい仲間に恵まれたな」
「......っ!ありがとう、ございます......!」
肩の重荷が取れるとはこういうことを言うのだろうか。今の今まで感じていた重圧感が嘘のように消え、代わりに思わず飛び跳ねそうになるくらいの達成感が、あたしの心を満たしていった。
父さんに、バンド活動が認められた。手放し難くも半ば諦めかけていた現実に、ようやく手が届いた。
「蘭、よかったね......!」
「ああ、ほんとによかった......!今日は、最高の日だ......!」
「うっ......うっ......よかった......っ」
「蘭〜。これからも、がんばろーね」
「うん......うんっ......!」
喜びを分かち合おうと、みんながあたしに目掛けて駆け寄ってきた。
ひまりたちがぶつかった衝撃とは違う感触が頬を襲う。その時ようやく、あたしは涙を流していたことに気がついた。
「みんな、本当に......本当に、ありがとう......っ!」
涙ながらに、改めて感謝の気持ちを伝えた。そして心から、この5人と巡り会えて本当によかったと思った。
ここまで、短くも険しい道のりだった。苦しい思いも無理矢理心にしまい込もうとしたりもした。責任転嫁、現実逃避ばかりのどうしようもない自分を責めて、自暴自棄になりかけたこともあった。
そんな時、いつも側にいて支えてくれたのがモカ、ひまり、巴、つぐみ、そして流誠の5人だった。父さんの言っていた通り、あたしはあまりに恵まれすぎている。口で言えはしないが、この5人とはこれからもずっと一緒にいたいと思う。
それでも時は無慈悲にも、季節とともに目まぐるしく移ろいゆく。そうして歳をとるにつれて、死という逃れられぬ現実に直面することにもなるだろう。
それでも、足掻き続ける。これまでにできた数々の瘡蓋を背負いながら。今この一瞬を1フレームも逃さずに、大切にしながら───。
その1フレームの中に、何か足りないものがあることに気がついた。
(あれ......そういえば流誠は?)
流誠がいない。正確にはいるのだが。
他の4人とともにあたしのことを囲っているはずの流誠は、父さんと部屋に入ってきた時と同じ位置から、一歩も動いていなかった。
(......まあ、いっか)
あまりの人混みに人酔いしてしまったのかもしれない。流誠は壁に背中を預け腕を組み、床を睨みつけていた。もとより、あたしと同じ人見知りなのだから人酔いしてしまうのも無理はないだろう。さすがのあたしもそこまでには至らなかったが。
苦しむ様子の病者に一緒に喜びを分かち合おう。なんて自己満足な言葉をかけるほど、あたしも鬼畜ではない。なので今は彼のことをそっとしておいてあげることにした。
▼
「みんな、荷物持ったか?」
「忘れ物はー、と......ああ、大丈夫そうだ」
「よし。それじゃあ行くか」
退出の時間が迫ってきていたので楽屋を出る前に忘れ物が無いか確認し、スタッフさんにお礼を言ってから退出した。
「......」
ガルジャムの会場を出てしばらくしてから、夕焼けに染まりかけている空を仰ぎおじさんから言われた『とあること』を思い出した。
それは約一時間前、バンド活動継続の許しを得たすぐ後のことだった。
『なあ、流誠くん』
『ん?』
『さっき話した通り、君の両親は亡くなってしまった。だが今は、孤児院に引き取られてるそうじゃないか』
『それも蘭から聞いたのか?んで、それがどうかしたの?』
吉報を他のメンバーよりいち早く聞いて上機嫌だった俺に、おじさんが突然ひょんなことを言い出した。そんな藪から棒な発言に対して、俺も質問してみた。
のだが......
『今まで苦しかっただろうな。知らないところに引き取られて、知らない環境で育てられ、知らない面々と一つ屋根の下で生活してきたのだから』
『────は』
発言の理由を聞いて、俺は唖然とした。その理由というのが、俺の現環境のことを懸念していたことだったからだ。
そして俺の唖然とした表情は、次第に怒りの込められた表情へと変わっていった。
だからなんだ。
誰が心配してくれと言った。
誰が先生たちとの暮らしが不幸だと言った。
誰が、誰が。
誰が勝手に他人の人生を推し量れと言った。
『流誠くん?』
『あ、ああ。なんでもないよ、ごめん』
自覚の無い元凶から声をかけられ、骨が軋むほどに握りしめた拳を解放し、我に返った。
そうだ。おじさんはあくまでも、俺のことを心配してくれただけ。何も悪くない。仕方ないことだ。他人を思いやる気持ちが空回りすることなんて、結構あるんだから。
そうやって自分に言い聞かせて、溢れでる怒気に気付かれてしまう前に、体の奥にしまい込んだ。そして当たり前のようだが、気分は優れないままだった───。
そしてその状態は、今でも続いている。
(だからって、あん時一人だけ感じ悪そうにしてたのは反省点かな......)
皆が喜びに打ちひしがれているなかでの自分の態度を思い返し、自戒した。あの時の俺はずっと、床の枠線を目で綴るように睨みつけ、八つ当たりをかましていた。結局のところ怒りは収まらず、床の代わりに空を恨めしそうに見上げる今に至るのだが。
(ダメだな、俺。身内のことになるとすぐムキになって、へそ曲げちまうもんな。短気なガキじゃあるまいし)
ふう、と一つ息を吐いて気を落ち着かせ、視線を水平に戻す。するとモカと蘭が道端で立ち止まって、手に持った何かをじっと見つめていた。
「どうしたんだよ。2人して立ち止まって」
「いやー、この前から行方不明だった
ひーちゃんのお守りが見つかってさ〜」
「パーカーのポケットの中に入ってたって」
そう言って蘭が指をさした方へ目をやると、モカの手のひらの中から顔を覗かせている追い剥ぎの呪術道具が────......
...失礼。ひーちゃんのお守りがあった。まったく、『あんなもの』を平気で無くすとは。モカはよっぽど呪われたい────......
っと、これまた失礼。
「いつの間に無くしてたんだよお前......」
「んー、ツグり事件の時くらいかな〜」
「ツグり事件......?ああ、あれか」
聞くと、つぐちゃんが倒れたあの日らへんからお守りを紛失してしまっていたらしい。
「見つかってよかったな」
「うんうん、ほんとほんと〜。でも、なんでいきなり失くなったりしたんだろー?」
「ちゃんと管理してなかったからでしょ」
「えー?蘭、ヒドイよ〜」
「......」
蘭の言うことにも一理......いや、二理三理あるが、今回に関しては違うのかもしれない。
このお守りはもしかすると、陰ながら俺達の『今』を守っていてくれたのかもしれない。
でなきゃ、お守りじゃないし。
「せいくんはどう思う〜?」
「え?あ、ああ。さあな、よくわからん」
「んー?へんなのー」
俺みたいなやつがそんな夢のような話を語れば、間違いなくモカの餌食になる。だから口にはしなかった。
「へんなのはモカの方じゃん。自覚症状も無いのに」
「聞き捨てなりませんなー......?」
「3人共ー!行くよー!」
蘭とモカの言い争いが開幕するかと思われたその時、数メートル先を行くひーちゃんの呼び声が聞こえた。にもかかわらず、二人は依然、構えを解こうとはしなかった。
「ほら。行くぞお前ら」
そんな2人の肩を叩き、俺は一足早くひーちゃん達のもとへ、軽い足取りで駆け寄っていった。さっきまで俺の心に鉤爪をかけて取り憑いていた『悪魔』は、もういなかった。
「あっ、この公園......なつかしいね」
3人のもとへ駆け寄ってから数秒後、つぐちゃんが感慨深そうにそう呟いた。
「ここは......」
「なつかしーっ!小さいころ、よくここで遊んでたっけ」
それは、この前蘭に町を案内してもらった時に寄った、あの公園だった。
「......っ」
すると突然、軽い頭痛が起きて記憶が喚起されるのを感じた。それから間もなく、記憶の中で見た風景が、映像として頭の中で流れ始めた。
そこには六人の子供達が手を繋いで、はるかな夕日を眺めている姿があって───。
『これからも、ずっと一緒だよ』
ふと、そんな声が聞こえてきた。
( ───思い出した)
ここは、俺と蘭とモカ......3人が出会ったという“だけ”の思い出の場所じゃなかった。
『あの約束』を交わした場所もここだったことを、今更思い出した。
「──......ゅう。おい流!」
「うおっ!?」
確かになった記憶の断片を愛でていると、ともちゃんに無理やり現実へと引き戻された。
「ビックリしたー......どうした?」
「ここ、寄って行こうかと思ってさ」
そう言ってともちゃんは、後ろにある公園を親指で指し示した。
「何か思い出したみたいだし。な?」
「別にいいけど......ていうかバレてたのか」
ついでに言うと、記憶のことも見透かされていたみたいだった。そこまでわかりやすい顔をしている自覚は無いのだが、今何を考えているか悟ることなんて、ともちゃんたちからすれば案外お手の物なのかもしれない。
「へへっ。まあ、早く行こうぜ!」
自慢気な笑顔を見せた後、ともちゃんが身を翻して公園へと走って行った。それに続いてひーちゃんが「待ってよ巴〜」と背中を追って行った。
「ほんと、よかった......」
やれやれと2人の背中を目で追っていると、隣に並んでいるつぐちゃんがこれまた感慨深そうに言葉をこぼした。その姿はさながら、老後になってから世界を憐れむように見守る老人のようだった。
「何がよかったのかな?」
「......あっ!わわ、私、今、ヘンなこと......」
からかうようにつぐちゃんを横目に見ると、予想通りの反応をみせてくれた。かわいい。
と、ここでも立ち往生してひーちゃんからまたどやされるのも面倒なので、急いで公園で待つ二人のもとへと向かった。
「なつかしいね......私達が遊んでた頃と、あんまり変わってない」
「ほんとだね!こうして変わらないままあるのってうれしいなあ」
なんだかんだで六人揃ってから、一緒に公園の遊具を見て回った。
雨や子供たちの手汗にさらされ、すっかり錆びついたジャングルジム。
ひしゃげたままのタイヤがクッション代わりのシーソー。
ループ、ストレートなどの様々なすべり台。
風に煽られひとりでに寂しく動くブランコ。
「よく見たら、ほんと“変わってない”な」
「変わらない......か。あたしは、変わらない、変えたくないものが多すぎて、いつの間にか、『変わる』ことが怖くなってた」
一通り散策し終え、近くにあったベンチにおもむろに座ってから記憶の中の風景と公園を照らし合わせていると、蘭が語り始めた。
「だから、将来のことからも、みんなとぶつかることからも逃げていた。何もかも今のままでいたい。そう思ってた」
淡々と語られる蘭の言葉に、俺たちも傾聴する。
「でもケンカして、ぶつかって......あれがあったからこそ、本当の意味でみんなのことを信頼できるようになったんだと思う」
「今日の演奏は、いつも以上にみんなとの一体感を感じた。あと流が見守ってくれてたおかげか、いつもより安心して演奏もできた」
次は蘭の言葉に割って入るように、ともちゃんが口を開いた。
「私も!いつもよりももっと、音からみんなのことを感じれて......すごく、すごく楽しかった!」
つぐちゃんが共感の意を述べる。それを聞いて俺もまた、共感に共感した。
彼女の言う通りだ。俺にとって初のライブだったガルジャムは、最高という言葉がふさわしいくらいの高揚感を感じさせてくれた。バンドという集団から奏でられる音楽の真髄を味わわせてくれた。
「あたしは......あたし達は『変われた』。今日、新しいAfterglowが生まれた」
「新生Afterglow、ようやくたんじょー!だね!」
(新生Afterglow......か)
頭の中で反芻する。皆と再開したあの日にも聞いたその言葉には、八割の誇りと、二割の不安があった。
不安というのは、蘭が抱いていたものと同じ『変わること』への不安だ。それが今になってその姿を顕現させた。
それでも蘭は、その不安をも自らの糧とし、前へと進もうとしている。
そんな蘭からかけられた言葉とは──。
「Afterglowは、あたし達が変わらないことの証であり、変われることの証。これからも......大切にしていこう」
「......!」
俺の中でからまりかけた小さな『毛玉』を、そっとほどいてくれた。
ただ変わることだけが全てじゃない。大切なのは、変わらないために変わること。自己解釈に過ぎないが、蘭の言葉からは、そんな意図が読み取れた気がした。
まったく。彼女から学ぶことは本当に多い。
「な、なんかむずかしいけどがんばるよ!」
「ははっ、ま、これからもよろしくってことだな」
「うん!これからも、ずっとずっと、よろしく!」
「うん」
そして他のメンバーもその言葉に対して、それぞれの反応を見せた。蘭はそれらを、たった一言だけ呟いて受け止めた。
風がそよぎ、公園内に植えられた樹木達が、その身から伸びる枝いっぱいに付けた葉をこれでもかと揺らす。
「──さて、新生Afterglow......これからどうするよ?」
突然訪れた静寂。俺はそれがどうも決まり悪くもどかしくてしょうがなかったので、誤魔化し程度に話題を掘り起こした。
「目標とか、決めてみるか!」
数秒経ってから、ともちゃんが食いついた。
「目標、かあ......新曲を作るぞー!とか?」
「もっとエモいのがいいよー。例えばー......んー、思いつかないけど」
「目標......なんだろう」
新生Afterglow。まずは目標を決めることになったのだが、案外思いつかないものでみんな揃いに揃って頭を悩ませていた。
その時。
「あ、あのっ......!」
「おっ、どうしたつぐちゃん?」
つぐちゃんが何かひらめいたように、突然声をあげた。その声をすかさず拾い上げて、回答を待つ。
「『目指せ、武道館!』とかどうかな?」
「......は?」
それを聞いて、俺は間の抜けた声を出してから、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。それは他の4人も同じだった。
「つぐ、今、目標の話してる?」
さぞ驚いたのだろう。あのモカが混じりっ気無しで、俺たちに釣られて唖然としたままのつぐちゃんにそう聞いたのだ。
「ええっ!?う、うん......そうだよ。あ、あれ!?私また、なんかヘンな事言っちゃったかな!?やっぱり、バンドっていったら武道館っていうか、そんなイメージが......」
「ぷっ......なんだそれ」
「「「「あはははっ!」」」」
俺たちの反応に若干どころかだいぶ困惑気味だったが、つぐちゃん本人に至ってはどうやら本気らしい。それでも今の自分たちには見合いそうにもない目標とのギャップに、俺を始めに皆思わず腹を抱えて笑った。
「あははははは!つぐ、スケール大きすぎ......!でも、いいんじゃない?」
気を抜くとまた込み上げてきそうな笑いを必死に抑えていると、ひーちゃんが息継ぎ混じりにそう答えた。
「武道館、か......。ははっ、いいんじゃないか?」
「うん、エモいね〜」
「ああ、悪くねえかもな」
ともちゃんやモカに便乗して俺もそんな感じで表面上では真っ当に賛同した。にしても最初こそは小馬鹿にしたように笑ったものの、よく考えてみれば無くはない話でもある。
(武道館か......)
テレビ越しからでしか聞いたり見たことのないその建造物で、Afterglowが演奏する姿を思い浮かべた。
先ほど見たばかりのガルジャムのものよりもはるかに規模の大きい会場で行われるライブは、俺達にとっても一生忘れられない思い出にも、有意義な経験にもなるだろう。
まあやるにしてもやらないにしても、どうせ俺は相変わらず客席側なのだろうけど。
「しかしつぐちゃんは頑張り屋なせいか、目標まで立派なもんだな」
「あ、あはは......そうかな?」
「......こういう類の言い出しっぺって、だいたいはつぐみだよね」
「こういう類?」
少し疎外感を感じたのではらいせにつぐちゃんを褒めるように皮肉ると、蘭が何やら面白いことを言い出した。
「何かのはじまりのこと。バンドやろうって言い出したのも、つぐみだったんだ」
「ああ。つまりつぐがいなかったら、今のアタシらがいなかったかもしれないってことでもある」
「とっ、巴ちゃん!そんな大げさだよ......」
「へえ〜、初耳だな。すげえなつぐちゃん」
「流誠くんまで〜!」
どうやらそういうことらしく、つぐちゃんの意外そうでそうでもなさそうな一面を垣間見て感嘆の声をあげると、つぐちゃんは困った顔であたふたし始めた。そんな彼女を見ていると、くつくつと笑いが込み上げてくる。
「あっははは......はあ〜。......あーあ!なんか笑い過ぎたら、元気出てきたぞー!」
ひーちゃんも同じだったらしく、笑いが治まったところで大きな背伸びをした。
「Afterglowはこれからも永久不滅だよ!みんな!これからもよろしくーっ!」
「......くるぞ」
「だよねー」
異様なテンションで続いた言葉に、ある予感を抱いた。そして───。
「ということで、がんばるぞーっ!えいっ、えいっ、おー!」
例の掛け声が黄昏色の空に高らかに響き、再び静寂が訪れる。そんないつもの俺たちの反応に、ひーちゃんは相変わらず不服そうに頬を膨らませた。その後、今日で何度体験したかもわからない笑いの渦が巻き起こったのは、言うまでも無いだろう。
「......ふぅ」
笑いのせいか痛み始めた胸に手を置き、一呼吸ついてから空を見上げた。
地平線に沈んでいっているであろう夕日は、そこらじゅうに乱立する住宅のせいで見えなかったが、雲にオレンジの影を落とす夕焼けは鮮明に映っていた。
“あの約束”は、数年経った今でも続いていた。
いかがだったでしょうか。次回の1月7日の19時30分に投稿する分から2章が始まります。それに先駆けて、番外編も本格的に載せていこうと思います。中には2章に繋がる話も含まれているので、お見逃しなく。(番外編は1章の欄に投稿していきます)
ではまた次回お会いしましょう。さいなら!