Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
ついにこの日が来た。いや、来てしまった。
羽丘高校入学式当日、いつものように神社にお参りに行った昨日から緊張して一睡もできなかった俺は、絶賛お寝ぼけ中だ。
孤児院にある洗面所に映った自分の顔を見て、本当にこれが自分なのかと疑ったほどに。
「ご飯できましたよ〜!流誠、みんなを起こして来て〜!」
洗顔や歯磨きをしているうちに、先生は食堂の方から俺に向かってそう叫んだ。先生が毎日、朝早くから作ってくれている丹精の込められた朝食ができあがったのだ。
先生は相も変わらず元気が良い。
「はーい。今行きまーす」
俺は軽く返事をした後、他の孤児院の子供たちを起こすべく、二階の就寝室まで駆け上がっていった。
就寝室は和を連想させる畳やガラスの代わりに窓に張られた障子、そして敷布団が敷かれている、特に余分な物は無いこじんまりとして、なおかつ趣がある印象深い部屋だ。まさに“和”。
記憶を失って多少の知識が抜けてしまっていた俺でも、こんなとこに住むことになっては嫌でも和というものを理解させられる。
こじんまりとはいうものの、自然と和の知識が身についてしまうほどに印象深い部屋。それがここ就寝室だ。
「さあみんな起きろー。もう朝だぞー?」
そして、そこで悠々と寝ている彼らを起こすことは、至難の技だった。孤児院の子供の中でも年長である俺より彼らのことを知っている、あの先生が手こずるくらい。
(はあ...“アレ”使うか...)
だから俺と先生は、立ち退きを許さない彼らをどうにかするべく、とある手段を考えた。
「すぅぅぅぅぅぅぅ...」
それは、大きく息を吸ってから...
「お"お"お"お"き"い"い"い"い"ろ"お"お"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"!!!」
近くの工具用品店に売ってあるようなメガホンを使って、やつらを爆音で叩き起こす。ということだった。
だが、甘かった。
「......って、あれ?」
やつらは音を防ぐ対抗手段として、孤児院にあるティッシュペーパーを耳に詰め、耳栓がわりにしていたのだ。さらには、そのティッシュペーパーが取れないようにしようとしたのか、何重にも結ばれた輪ゴムが掛けられていた。
「なんて小賢しい子どもたち...!つっても、何回もやられちゃあ何かしら対策は打つよなぁ...ていうかもう疲れちゃったし、あとは
先生に任せようかな」
と、孤児院にあるマンガから引用したセリフと降伏の意と欠伸を漏らした俺は、大人しく尻尾を巻いて1階の食堂に降りていった。
帰ったら先生とまた対策を練らないとな。
「先生。あいつら起きそうにもないんであとは頼みました。」
「えぇ?!あの大音量を聞いて起きなかったの?!」
当然の反応だ、無理もない。実際、声を出している自分でさえも耳を塞ぎたいほどの声量を出しているのだから。
「ティッシュペーパーを耳に詰めて輪ゴムでガチガチに固定してました」
「そうですか...なら仕方がないですね。じゃあ流誠は学校の支度をしていてください。あとは私にお任せを」
「じゃ、お言葉に甘えて」
そう一言添えて、俺は自分の部屋(使いそうも無かった階段下の倉庫を俺が勝手に部屋と呼んで使っている)に戻り、部屋の奥の段ボールに丁寧に畳まれ、敷き詰められていた制服をとりだした。
見た感じかなり派手そうだったそれは、一瞬だけ着るのを躊躇わせた。
「いやでも着てみれば案外似合うかも...どっちにしろ制服着なきゃ学校行けないんだけどな」
と、渋々寝巻きを脱ぎ、真新しい制服に身を通してみた。
するとどうだろう。予想通り案外似合っていたのだった。
「そして着心地も悪くない、と。先生に感謝しなくちゃな」
今更当たり前のことを言うのもあれだが、俺の学費や制服に金を払っているのは他でもない「今の俺」の親である先生だ。
その金はどこから湧いてくるのかというと、実のところ俺も知らない。実際、彼女に直接聞いたこともあるが、答えてくれなかった。
もしその金の出所が、裏の世界と関係していたとしたら...
「流誠さ〜ん?そろそろ出ないと初日から学校遅れちゃいますよ〜?」
「っあぁ?!わ、分かってますよ!」
「...? ならいいんですよ〜。」
なんて事を考えていたら、当の本人からいきなり声をかけられた。思わず返事がつっかえてしまった。感付かれていなければいいのだが...
間の悪さを呪いながら、俺はいつもの温かな食卓を召し上がった。うん。「いつも通り」の味だ。
...いつも通り
そういえば、幼馴染たちもよく「いつも通りだね」なんて言っていたような気がする。
このように、ふとした瞬間に記憶の欠片を拾う事がある。
「...真剣な顔してますね。何か悩んでるんですか?」
「ちょっ、いきなり顔寄せてこないでくださいよ...別に、悩み事なんて...」
「幼馴染のこと、とかですか?」
「...え?」
そんな記憶の欠片を眺めていた俺は、先生の急接近した顔面の近さに驚いたのも束の間、心を読まれ、例えようのないなんともいえない気持ちに、先ほどの衝撃が上書きされた。
「いえいえ、そんな顔していたように見えたものですから。──新しい高校で見つかるといいですね、その幼馴染たち」
「...はい」
全てを見透かされた俺はただうなずくことしかできなかった。
本当は、先生の言っていたことが紛れも無い正論だったからなのだが。
こんな気まずい思いをするなら、先生に幼馴染のこと秘密にしておいたのに。
そのことも見透かされることを危惧した俺はとっさに考えるのをやめ、黙々と食事を進めることにした。
先生は相変わらず元気が良く、笑顔だ。そして、その笑顔のまま、俺の顔を、俺が食事を終えるまで見続けていた。
溢れんばかりの慈愛を、その黄金色の瞳に宿しながら......
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食卓とともに苦虫を噛み潰す状況の中、俺はやっと朝食を食べ終えることができた。
先生もいつの間にか食事をとり始めていたらしく、俺と同時に食べ終わっていた。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。と...さて!それでは流誠、元気にいってらっしゃい」
「はい。いってきます」
制服を着た際に部屋から鞄も持ってきた俺は、そのまま孤児院の無駄に広い玄関に直行した。
「大きくなりましたね、流誠...」
と、先生が孤児院の年少のやつらの靴と俺の靴を見比べて一言。先生はいつも藪から棒に、これと似たようなことを言う。
だが全然慣れない。慣れてくれない。
「な、なんですか急に...靴紐結ぶのに集中するんで、お願いですから黙っていてください。」
「幼馴染以外にも大切なお友達、
たくさん作りなさいね?」
「人の話聞いてましたか?!...はあ、そのくらい分かってますよ」
そうして靴紐を結び終わった俺は玄関の段差から立ち上がり、先生に向き直った。
「では、いってきます。」
「ええ。いってらっしゃい。お友達、ちゃんと作りなさいね?」
「何回言うんですか!流石に今日は初日だし、できるとしても明日からだと思います」
まったく...あの人はどれほど心配すれば気がすむのだろうか...
一連の挨拶を済ませ、先生が見えなくなってから俺は、心を読まれることに気をかけることもなくなったのでそんなことを考えた。
事故に遭った日から俺は、先生や孤児院の仲間、幼馴染以外の人間に興味を持たず、小中学校で過ごした9年間、友達というものを作らずに孤立していた。だが、歳を重ねていくうちに、道徳の時間などて習った「友達の大切さ」なるものに気付き、次第にその友達というものを作りたいという気持ちが芽生えた気がしていた。
そしてその気持ちは今朝、先生の発言により明確な願望へと変わったのであった。
思えば、先生には救われてばっかりだな。
今必死にこいでいるこの自転車の乗り方も、俺が孤児院に入ってから間もないころ、先生が徹底指導で教えてくれた。
それ以外にも、先生には数え切れない借りがある。
「孤児院に帰ったら、何かお礼でもするか」
我ながらいい事を思いついたと、羽丘までの道のりが記された地図を確認しながら自画自賛していたら、いつのまにか羽丘高校の校門に到着していた。所要時間は自転車で10分程度。案外近かったことに驚いた。興奮のあまり激チャしたせいかもしれないが。
「こんな近かったのかよ...まあいいや。じゃあ、行きますかね...!」
そして俺は、これから3年間世話になる高校に、「よろしくお願いします」と小声で挨拶し、期待(3割)と不安(7割)を胸に秘め、勇み足で雲梯のようなアーチのある校門をくぐったのであった。
......で、自転車置き場ってどこなんだ?
プロローグを経て1話目、いかがだったでしょうか。楽しんでもらえたなら何よりです。良ければ評価等付けてもらえると幸いです!喜んで舞います!!
次の投稿は11月17日(日)の午後19時30分です。ではまた次回お会いしましょう!