Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

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どもども、あるです。


さあ三連休最終日!明日から学校という人もいらっしゃると思います。ちなみに僕もそうです...共に頑張りましょう。



では本編、どうぞ!






第2話 偏狭

あれから数日経った。しかしAfterglowは今も尚、例の新曲作りに難航の一途をたどっている。それは、蘭が歌詞を手直ししているため歌詞の無い状態での音作りを他のメンバーが強いられているからであった。

 

そうやって苦悩する日々も度重なり、メンバーの顔もそれにつれてだんだんと暗くなりつつあるようにも見えてきた。

 

 

 

 

それはアシスタントである俺も例外ではなかった。

 

 

 

 

 

「......はぁ」

 

 

 

 

 

今日は珍しくみんなと昼食を食べなかった。それは俺個人の意思ではなく、作曲に集中さしたいというみんなの思いゆえのことだった。

 

 

食堂で弁当も済ませて、昼休みに何もすることがなくなった。気分転換にでも屋上に行こうと階段を上っている途中、ため息が響いた。それが自分のものだと気づくのに数秒かかった。

 

 

 

そのくらい、最近になってから自然とため息が出るようになっていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ......」

 

 

 

 

 

またため息がひとつ、踊り場にこぼれた。上る気力すら失いかけそうになったので、一旦手すりに体を預けて休むことにした。

 

 

 

 

 

天井を仰ぎ見る。そこにできた大きな黒いシミが、こちらを監視する目障りな瞳のように見えた。

 

 

 

 

 

(アイツもこの前まで、『こんな』だったのかな)

 

 

 

 

 

目の前の天井。背中合わせの壁。

 

 

それらを見て、触り、閉鎖感を感じた俺は当時の蘭をふと思い浮かべた。

 

 

 

 

 

彼女も自分の家の事情、そしてそれを俺達に悟られないようにするための気配りという名の障害......いわばストレスで構成された小さく狭苦しい『部屋』に蘭も閉じ込められていたのかと。

 

 

 

 

 

しかし、蘭はそれを最終的に打ち破ってみせた。

 

そして解放された今、閉鎖感の原因でもあった華道などとも向き合い、新たな『いつも通り』も手にしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......そんな前向きな蘭の姿を思い浮かべていると、自身を取り巻いていた倦怠感や不安はいつのまにか消え去っていた。

 

 

 

 

俺も負けていられない。

 

 

 

 

 

「───......行くか」

 

 

 

 

 

深呼吸をしてから手すりに傾けていた体を起こし、屋上への一歩をまた踏み出し始めた。

 

 

 

 

階段を活き活きと上っていく。すると間も無く屋上への扉が俺の視界に映り込んだ。

 

相変わらず冷たいドアノブを握り、少々錆びついた扉を開ける。

 

 

 

 

 

そうするや否や、声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「『幾千の時を超えても』......いや、違うかな」

 

 

 

 

 

 

「......?」

 

 

 

 

 

使い込まれたやすりのように掠れ、それでいてどこか暖かみのある声。間違いない、蘭だ。

 

聞こえてきた方角からしておそらく扉を出てからすぐ突き当たりにいる。どうやらこちらには気づいていないようだ。

 

 

 

せっかくなので、こっそり耳を傾けてみた。だが、そうして聞こえてきたのはこの前試聴した歌詞のような堅苦しい言葉のみだった。

 

 

 

 

そんな俺達らしくない『いつも通り』に感じられない言葉......それを蘭が口にしたことに、霧散したはずの不安がまた疼き始めた。

 

 

 

 

 

今ならこの角から飛び出して蘭の手助けをしてやれるかもしれない。驚かして、歌詞の作成の難解さに強張っているであろう顔を和ませてやることができるかもしれない。

 

 

 

 

 

そんな先ほどまで抱いていたはずの勇気が、徐々に不安へと染め上げられていく。

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

 

俺は黙って傍聴することにした。脳内の蘭との会話のシュミレーションにはノイズがはしり、手がつけられなくなっていた。

 

 

 

 

代わりに、自分の耳に入り込んでくる言葉に込められた思い、そして蘭の『いつも通り』を感じ取ることに専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

「────......」

 

 

 

 

 

何度聞いても、考えても、理解に及ぶことはなかった。

 

 

 

 

わからない。気づけない。頼りになれない。いつまで経っても、己の無力さを突きつけられるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか、蘭。お前はそこまで......お前は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わっていってしまったんだな。

 

 

 

 

 

そう。『変わって』、『行ってしまった』んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁーっくそッ!まとまんねぇな......」

 

 

 

 

 

 

「まあまあともちゃん。落ち着けって」

 

 

 

 

 

放課後のバンド練習、今日は蘭が予定が空いていたということで今では珍しいメンバー全員揃ってでの練習にすることができた。

 

 

にもかかわらず、1、2回持ち曲を合わせたっきり、蘭だけがまた歌詞の手直しに向かっていた。持ち主にあまり触れられずに壁に立てかけられたまま放置された紅のレスポールからは、その見事な光沢からでさえも寂寥感を感じさせられる。

 

 

 

 

 

「ひーちゃん。さっきのフレーズ変えてくんない?合ってない気がするー」

 

 

 

 

 

 

「ちょうどあたしもそう思ってたんだよー!巴〜!もう一回合わせてくれるー?」

 

 

 

 

 

 

「おういいぞー。むしろこっちがお願いしたいよ」

 

 

 

 

 

 

「私もいいかな?気になるところがあって。流誠君にも試しに聞いてほしいんだけど」

 

 

 

 

 

何やらまた音作りをするらしく、俺にも救援を求められたので快く引き受けた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、もっかいさっきのところからな」

 

 

 

 

 

メンバーに指示を出す。Aメロはこの前の練習でなんとかイメージを掴めたので、今日の練習ではその次のBメロの音を合わせることにしている。

 

 

 

俺の指示に静かに頷き、ともちゃんがスティック同士を叩いて音頭を取った。それに続いてモカ達も自らの楽器を弾き鳴らす。

 

歌詞の無い音だけの曲がその力強さとは裏腹な微かな虚しさを乗せ、スタジオに響く。

 

 

 

蘭は......

 

依然、シャーペン片手にノートとにらめっこをしている。

 

 

 

 

 

「......待った」

 

 

 

 

 

と、サビに差し掛かる直前で違和感を覚えたので声の聞こえにくいメンバー達にもわかるようにスッと手を挙げて演奏を中断させた。

 

 

 

 

 

「またかー......あそこって『主音』が無いと合わせにくいんだよな」

 

 

 

 

 

そうともちゃんはため息を吐いて、両手に持ったスティックで物憂げに肩を叩いた。

 

主音。それは蘭の歌声のことだった。そして先ほどからつまづいているのが、ここのフレーズである。

 

 

 

それが何を意味しているのか。

 

 

 

 

 

「......やっぱり歌詞が無いと難しいね」

 

 

 

 

 

 

「ひーちゃん」

 

 

 

 

 

口を滑らしたひーちゃんを睨み、戒める。そうして己の罪に気づいたひーちゃんは「あ、ごめん......」と拠り所が無さそうに呟いた......

 

 

 

だけかと思いきや、ひーちゃんは「でも、」と焦ったそうに続けた。

 

 

 

 

 

「やっぱり歌詞が無いと......ううん。蘭の歌が無いと私達、演奏できないよ。ねえ蘭。一緒に歌詞考えようよ。ね?その方が気持ちも楽になるよ」

 

 

 

 

 

口早な提案だったが、俺は一言一句聞き逃すことはなかった。

 

なるほどその手があったか、と。

 

 

 

 

 

「ああ、たしかにそうだな......その方がきっと俺たちでも納得いくような歌詞が────」

 

 

 

 

 

出来上がるはず。

 

俺はひーちゃんを戒めた理由の1つであるデリカシーの無さを指摘した本人でありながらも、その真髄に触れるようなことを言いかけた。

 

 

 

 

その一言は、蘭の勢いよくノートを閉じる音に遮られた。

 

 

 

 

 

「『納得いくような歌詞』......?何?今のあたしじゃ、あんたたちを満足させるような歌詞は書けないって言うの?」

 

 

 

 

 

 

「え?あ、いや。そういうことじゃ......」

 

 

 

 

 

敵対心剥き出しの蘭に言葉を詰まらせる。半分事実な気がしてならなかったからだ。

 

 

 

たしかにあの歌詞では俺達は満足できない。だが、日常的によく聞く『満足』とは少し......いや、だいぶ意味がかけ離れている。

 

 

 

俺たち同士でしか理解できない『満足』を、蘭以外まだできていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っていうことは、そうか......

 

 

 

 

やっぱり、そういうことなんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はあ。蘭、やっぱお前変わったな」

 

 

 

 

 

 

「変わった......?」

 

 

 

 

 

ずっと心の内に忍ばせていたことをいっそのこと開き直り、とうとう口にした。蘭は首を傾げこそしなかったものの、疑問を抱いているような言動をとった。

 

 

 

 

その時の蘭の態度が、ああ、なぜか。なぜかわからないが、いや、多分必然的なのだろうか。それでいて挑発的に、そして感傷的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の心に、無責任という名の火種をくべた。

 

 

 

 

 

「ああ、変わった......変わったんだよ。それも俺たちを置いて!1人だけ先走って、後ろなんか振り向かずに!」

 

 

 

 

 

ただでさえ思い悩んでいるであろう蘭に、容赦なく噛み付いた。牙を立て、血肉を貪り、あわよくばその内側に潜む悩みすら喰らいつくそうとした。

 

 

 

 

 

吐露される思いの数々。油を得たように焚きつける火炎のようなそれは、しかしどれもただの詭弁に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

「......はぁ?置いてって何?まるで自分たちは悪く無いみたいな言い方して」

 

 

 

 

 

 

「......あ」

 

 

 

 

 

そんな俺の咬撃に蘭は目もくれず、夏にたかる小蝿でも振り払うかのようにそう告げた。そんな的を射た言葉に、俺はふと我に帰った。

 

 

 

 

 

「お、オイ!やめろって2人とも!」

 

 

 

 

 

 

「そうだよ!それだと流誠も人のこと言えてないよ!」

 

 

 

 

 

 

「そういう巴やひまりだって、流誠と同じでしょ?」

 

 

 

 

 

 

「「......!」」

 

 

 

 

 

ともちゃんとひーちゃんがその場を制そうと困惑気味に真一文字に結んだままだった口を開くも、それすらも蘭は1人で太刀打ち、その場の険悪さに拍車がかかる結果となった。

 

 

 

名指しこそしなかったが、おそらく蘭は、喧騒に加わっていないモカやつぐちゃんにも同じようなことを言っている。それに気づいているのか、はたまたやめてほしいと思っているだけなのか、その2人も困惑の表情を見せていた。

 

 

 

 

 

 

だが、蘭の言う通りだ。蘭が置いて行ったのではなく、俺たちが付いて行かなかっただけなのだから。

 

 

 

 

本当に変わることを恐れていたのは蘭ではなく、他でもない俺たちだったのだから。

 

 

 

 

そんな反省も、今一番言ってほしくなかったであろうことを言われ怒りを露わにした蘭の前では、何のメリットも持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

「あんたの言うようにあたしは変わった。父さんとも華道とも向き合って、みんなとの事が変わらないように、変わったんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

「......っ」

 

 

 

 

 

結果はわかりきっていたが止めようとした。

そして案の定蘭の勢いに押し流された。

 

 

 

 

 

「変わらない方がよかった!?昔みたいに、家から逃げるためにバンドやってた頃のあたしが書いた方が歌詞もわかるだろうし、よかったでしょ!?」

 

 

 

 

 

そこまで今の自分を卑下することはないじゃないか。なんて、そうさせた本人が言ったところで何も起こらないし変われもしないが。

 

 

 

 

 

「みんなと一緒にいたいだけなのに......あたしはただ、それだけで......」

 

 

 

 

 

 

「......ごめん」

 

 

 

 

 

やっとの思いで謝った。しばらくの間、その安っぽさに満ちた言葉が脳内で反芻していた。

 

 

 

 

 

「......っ」

 

 

 

 

 

すると蘭は手に持ったままだったシャーペンとノートを放り捨て、それ以外の荷物も置いて勢いよくスタジオを飛び出していった。

 

 

 

 

 

「蘭......!」

 

 

 

 

 

ずっと黙り込んでいたモカもまた、飛び出した蘭の行方を探しにスタジオを抜けた。

 

残りは下を俯いていた。

 

 

 

一方で蘭の背中を物理的に追いかけることさえできなくなった俺は、蘭が床に落とした拍子に開いたノートをおもむろに拾い上げ、そのページを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはただ一言だけ。

 

 

 

 

 

 

 

『わからない』、という自体の整った文字だけが完全に消しきれていないおびただしい消し跡の上に書かれていた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───じゃあ、この辺で」

 

 

 

 

 

 

「うん......蘭とモカのこと頼んだよ?」

 

 

 

 

 

 

「ただ、言い方には気をつけろ」

 

 

 

 

 

 

「......わかってるよ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、また明日」

 

 

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

駅前まで3人を見送り、みんなから散々釘を刺された後にまた明日と別れを告げた。一方俺は責任問題として、この両肩に担がれているギターと鞄をあの2人に届けなくてはならなくなった。

 

というより、あの3人はそれぞれ用事があるみたいだし、その上自転車である俺は小回りが利くし、どのみちそうなる運命だったのだろうが。

 

 

 

ペダルを立ち漕ごうと上半身を浮き上がらせる。その時感じた、両肩にのしかかるギターの重みが、自らが犯した罪の重さのようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車を駆り出し、颯爽と風を切りながら2人を捜索する。その最中に、先ほど駅までの道中3人で話したことを思い出した。

 

 

やはりみんな同じだった。蘭の背中を押していたはずだったのが、それはただの押し付けで、醜いエゴの塊でしかなかったことが。

 

 

苦しい思いをしていたのは蘭だけで、それを俺たちは見ていただけ。揃いに揃って、蘭だけ変われればそれでいいなんていう利己的で甘い考えをしていた。

 

 

 

 

大事なのは1人だけじゃなくみんなで変わっていくことなのに、それに気づいていたはずなのに、怖気付いて、心の奥底にこっそりしまいこんでいた。それを今になって引っ張り出してくるもんだから、そんな己の都合の良さに自分でもつくづく腹が立つ。

 

 

 

 

 

だが、そうやって自分を咎めているだけでは現状は打破できない。話し合いの末にそう判断した俺達は、変わらなければいけないことから逃げないこと。当たり前のようなことを大げさに言って阿呆らしくも感じるが、これを第1目標として掲げることにした。

 

 

 

 

でも、どうやって変わっていけばいいのか?

 

目標を高々と掲げてから早々に、そんな新たな壁に直面した。まずはそこからだということを、無情にも気づかされた。

 

 

 

 

 

(どうやって変わるか、か)

 

 

 

 

 

単純に見えて難解であるその言葉の意味を熟考していると、周りの風景はいつの間にか、都市部の喧騒から外れたあの見慣れた住宅街へと移り変わっていた。

 

 

 

 

そのことを認知したのと同時に、どこからか声がすることにも気がついた。それは進行方向の先にある、公園からのものだった。

 

 

何事かと気になり、足を地に付けて自転車をゆっくりと押し、歩み寄っていく。そうして距離を縮めていくうちに不鮮明だった声がはっきりと聞こえてきはじめた。

 

 

 

 

 

声は2つあった。

 

 

 

 

「ぁ......」

 

 

 

 

......2つに合わさった泣き声が、夕焼けの空虚な公園に響いていた。

 

 

 

 

 

 

その声の主は、肩を震わせながらベンチに座っている蘭とモカだった。

 

 

 

 

 

「......っ!」

 

 

 

 

 

入り口まで来てそのことにやっと気がついた俺は、泣きじゃくる2人の元に少しでも早く行こうと自転車を乱暴に放棄し、肩の荷物も振り落とされそうなくらい腕を振って、全速力で駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

「蘭っ!!モカっ!!」

 

 

 

 

 

 

「......せいくん?」

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

名前を呼ぶや否や、2人は俯いたままだった顔をすぐにあげて反応してくれた。

 

 

 

 

そして、そのどちらともが涙に濡れていた。

 

 

 

 

 

「あーあー、こんなにしやがって......2人とも、ちょっと目瞑ってろ」

 

 

 

 

 

びしょびしょになった顔を元に戻そうとポケットをまさぐってティッシュを取り出し、2人の顔を丁寧に拭いてやった。

 

 

 

 

 

「あははー、せいくんお母さんみたい」

 

 

 

 

 

 

「......どうしてこんなになってんだよ」

 

 

 

 

泣き止んだものの、その目にはまだ潤いを保たせている2人に郗泣のワケを聞いた。

 

 

 

 

 

「いやー?目にゴミが入っちゃってさー。ねー、蘭?」

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

わざとらしく頭をかく仕草をするモカ。それを肯定も否定もせずに沈黙を押し通し続ける蘭に、シラを切る気かと苛立ちを覚えた。

 

 

 

 

 

 

でも......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────......そう、か」

 

 

 

 

 

互いのすぐ隣ではなくベンチの両端に座り合う2人の距離感を見ていると、先ほどの自分の質問がどれほど野暮だったかを逆に思い知らされた。

 

 

 

 

 

「......ゴミなら、仕方ないよな」

 

 

 

 

 

だからモカの言う通り、“大きなゴミ”のせいにすることにした。

 

 

 

 

 

「そーそー。わかってくれて何より〜」

 

 

 

 

 

 

「ま、俺も『目にゴミが入る』のは嫌だし、その気持ちわかるからな」

 

 

 

 

 

そうやって俺とモカはおあつらえ向きに笑い合った。

 

 

 

 

互いに、己を殺して。

 

 

 

 

 

「......ああそうだ。2人とも、はいコレ」

 

 

 

 

 

しかしさすがに気まずくなってきたので、目的だった荷物の配達を口実に、そのしがらみから抜け出そうとした。

 

 

 

何事もなかったかのようにギターケースと学校の鞄を肩から下ろし、2人に差し出す。それをまずはモカが手に取り、それに続くように蘭も、己の荷物におぼろげに手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「ごめんな、蘭」

 

 

 

 

 

そうして荷物を手元へ寄せ終わるのを伺ってから、改めて謝罪をした。

 

 

 

 

 

すると蘭は、か細くこう呟いた。

 

 

 

 

 

「......今日はもう聞き飽きたよ、それ」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

加害者にしては失礼だが、まだスタジオで一度しかしていない謝罪を聞き飽きたなんて蘭もおかしなことを言うもんだなと、俺は首を傾げた。

 

 

 

 

その際にふらっと泳いだ視線の端に、とあるものが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気まずそうに下を俯いている蘭とは正反対に、曇りがかった秋の夕暮れをぼんやりと物憂げに見上げているモカだった。




いかがだったでしょうか。次回は1月16日の19時30分に投稿予定です。お楽しみに!


最後に一点、お知らせがあります。一応番外編投稿してるんですけど気づいてない方もいるかもしれないので、次からはわかりやすいように同時投稿はやめておくことにしました。本編か番外編どちらを投稿するかはその都度お知らせいたしますので、どうかご了承くださいませ。

ちなみに次回は本編を予定しております!(日程よろしくあくまで予定ですので、急遽変更があるやもしれません)



それではまた次回お会いしましょう。さいなら!
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