Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

26 / 53
どうもあるです。

皆さんは休日何されますか?僕はコーヒーすすりながら本読んだりしてます。ゆったりと時間が流れる気がして好きなんですよね。


それでは本編、どうぞ!






第4話 道導

「ふいぃ......」

 

 

 

 

 

浴槽に浸かり、体が少し軽くなるのを感じながら大きく息をする。すると、いつもよりも疲れがどっと落ちていく感覚に見舞われた。

 

 

 

 

それから今一度、公園で師匠に教わったことを思い出した。

 

 

 

 

 

「───『いずれわかる』、か」

 

 

 

 

 

小声で復唱し、ふと天井を仰いでみる。そこには先ほど見た星空が重なって見えたような気がした。

 

 

 

 

師匠はあの時、自分と同じように仲間と一緒にいればわからないままだったことも自ずとわかるようになると教えてくれた。日菜さんが言いそうな単純な受け売りだったが、師匠が言うからには間違いないだろう。冷静に考えてみても、たしかに話し合ったりお互いに補いあうことさえもしなければ解決に至ることもないのだろうし。

 

 

 

 

そう。大切なのは一緒にいることではない。一緒にいて、かつ何かしらの行動をしなければ何も始まらない。時が癒してくれるなど甘えていてはいけない。

 

口にこそしなかったが、師匠も日菜さんもおそらくそういう意味合いを含ませたうえでのあの発言だったに違いない。俺の自己解釈に過ぎないが。

 

 

 

 

ただ、いかんせんその行動とやらが思いつかないのだ。今更それを師匠に聞いてみてもああ啖呵切った後だし、そもそも師匠のとはワケが違う。

 

 

 

 

 

「......ん?」

 

 

 

 

 

腕を組み短く唸っていると、風呂場の扉のガラスの向こうに人影が映っているのに気がついた。

 

 

 

 

 

「誰だ」

 

 

 

 

 

 

「あ、せい兄。ちょっといいか」

 

 

 

 

 

人影から間もなく返事が返ってきた。声質的にその正体は塁だということがわかった。

 

 

 

 

 

「塁......お前受験生だろ。兄ちゃんの覗きなんかにうつつ抜かしてる場合じゃねーだろ」

 

 

 

 

 

「誰が覗くかよ!せい兄だっていずれわかるか、なんてカッコつけたこと言ってたくせによ」

 

 

 

 

 

「なんだ聞いてたのか。

ならお前は知りすぎた。死に晒せ」

 

 

 

 

 

「あーもうわかったから......ってうお!?いきなり出てくんなよ!」

 

 

 

 

 

口封じに向かおうと風呂戸を開けると、腰を引かせた長身が目の前に現れた。それを見てさらにむかっ腹が立った。

 

 

 

 

 

「チッ......悪気あんならとりあえずその身長よこせよ。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

「よこせねーし話すこともねーよ!てか何回やるんだよこのノリ!......はあ。それより、コレ」

 

 

 

 

 

いつどこで習得したかもわからない怒涛のツッコミの嵐の後に差し出されたのは、等間隔に震えている俺の携帯だった。

 

 

 

 

 

「なんだ、電話きてたのか。はは。疑って悪かったな」

 

 

 

 

 

「ホントだよまったく......じゃあオレ、洗濯モン仕掛けとくから」

 

 

 

 

 

「おっ、気が効くねえ。有能な弟を持って兄さんは幸せだぞー」

 

 

 

 

 

揶揄すると、洗濯物探しに行った塁の喚き声が遠巻きに聞こえてきた。さしずめ恥ずかしさを紛らわすための怒号だろう。まったく、かわいいヤツめ。

 

 

 

 

そんなことを想像し独り笑いを済ませた後、洗面台の淵に置いてあったメガネを掛け直して鮮明になった携帯の画面を見た。

 

 

 

 

 

 

......電話の主は、ともちゃんだった。

 

 

 

 

 

「───っ」

 

 

 

 

 

先ほどのこともあり、余計に緊張したせいか思わず息を詰まらせてしまった。

 

 

そんな若干の後ろめたさはあったもののいつまでも待たせるわけにもいかないので、躊躇する指を無理やり奮い立たせて緑の受話器のボタンを押した。

 

 

 

 

 

「......もしもし」

 

 

 

 

 

唾を飲み込み応答する。脳内に響いてきた自分の声は引きつっていた。その一方で、スピーカーから聞こえてきた声は相変わらず溌剌としていた。

 

 

 

 

 

『よっ、ちょっと話したいことがあってさ。時間空いてるか?』

 

 

 

 

 

 

「......ああ、大丈夫。何?」

 

 

 

 

 

水の滴る頭を拭きながら情けなくも穏便に済ませようと大人しく聞き手になる。するとこんなことを言われた。

 

 

 

 

 

『明日の放課後、屋上に来てくれないか?』

 

 

 

 

 

「......え?」

 

 

 

 

 

 

『話したいことがあってさ』

 

 

 

 

 

藪から棒な提案に、俺の頭が疑問符で埋め尽くされる。

 

 

だがそれもつかの間。俺はその疑問符を今までに起こった出来事と先ほどの提案の起因を結びつけ、無理矢理消し去ってひとつの結論へと変換した。

 

 

 

 

 

「......あ、いや。なんでもない。どうせ蘭のことだろ」

 

 

 

 

 

『え?ああ、そうだけど......』

 

 

 

 

 

なんでわかったんだ?

 

 

口にこそしなかったがそう言いたげな口振りをするともちゃんに一泡吹かせてやった。そもそも、ともちゃんがそう提案することなんて心の底ではわかりきっていたし。

 

 

 

 

 

「へへ。話が早くていいだろ」

 

 

 

 

 

『ははは......そうだな、助かるよ。それじゃあ、詳しいことはまた───』

 

 

 

 

 

「あっ、と、ともちゃんっ」

 

 

 

 

 

そそくさと電話を切ろうと別れの挨拶を告げるともちゃん。俺はそれを引き止めた。

 

 

 

後日と思っていたがこの際だ、どうしても言っておかなければならないことがある。

 

 

 

 

 

「今日のこと、本当に悪かった。抑えられなかったんだ。焦りに焦って、みんなも同じだったはずなのに俺だけ身勝手言って......」

 

 

 

 

 

『......流』

 

 

 

 

 

「あの時の俺、本当にどうかしてた。

デリカシーのデの字も無かったよな」

 

 

 

 

 

電話がともちゃんからのものだとわかった時から再び募り始めていた謝意を吐露する。愚かしさに満ち満ちた、ひとり懊悩する幼馴染すら思いやれないあの言動。その愚業に対する謝意を。

 

 

 

するとともちゃんは長いため息をついて、

 

 

 

 

 

『あのなぁ、流......そういうものは蘭本人に言うべきだぞ。アタシたちに謝ってそれで済ませるつもりか?』

 

 

 

 

 

「ち、違うよ!俺のせいで蘭を傷つけたのには違いない。だけど、みんなにも迷惑かけたのも事実だろ!?」

 

 

 

 

 

謝罪を素直に受け止めてくれないともちゃんに、浅ましくもまたもやいらつきを覚え始める。こんなの責任転嫁も甚だしいぐらいだ。

 

 

 

俺は蘭を傷つけ、その流れでギスギスした空気も生み出し、無罪であるはずのみんなも巻き込んでしまった。ただでさえ曲のことで張り詰め続けていた心をさらに追い詰めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして何よりも───......

 

 

 

 

 

 

 

「ともちゃんたちと別れた後、蘭とモカを探しに行ったのは知ってるだろ。あいつら、商店街の近くにある“あの公園”のベンチに座っててさ。......泣いてたんだよ、2人揃って」

 

 

 

 

 

 

 

 

『......!そう、だったのか......』

 

 

 

 

 

あの表現のしようがない2人の落涙を招いたのは他でもない自分だと。あの場ですぐ謝ったものの、そのことが今でもどうにも心につっかえたままでげに悪い。ましてや、あの2人以外にも裏では涙を流していたやつがいたなんて事態にでもなっていたらなおさらだ。

 

 

 

 

だから......

 

 

 

 

 

「だから、俺......」

 

 

 

 

 

『そうか。アタシ達のことも気遣って

くれてたんだな。ありがとう』

 

 

 

 

 

「そ、そんなこと......!」

 

 

 

 

 

謙遜のように聞こえるただの事実を述べる。するとともちゃんが俺の言葉を遮るように、「だけど」と続けてこう言った。

 

 

 

 

 

『アタシ達のことは気にするな。こっちだってビビってたせいですぐ追いかけてやることができなかった』

 

 

 

 

 

だから、気にするな。

 

 

不甲斐なさげにそう念押すともちゃんだったが、俺は何も言えずにいた。

 

 

 

 

 

「っ......ともちゃ───、」

 

 

 

 

 

『まあ続きは明日にでもってことで。

それじゃあ、今度こそ......ああそうだ。蘭とまた喧嘩すんなよ?クラス一緒で隣なんだろうけど』

 

 

 

 

 

「わ、わかってるよそんくらい!」

 

 

 

 

 

『はは。それじゃあな』

 

 

 

 

 

「あっ、ちょっ......」

 

 

 

 

 

ようやく口を開きかけるも、またもや強引に遮られてしまった。そしていやに口早に流され、一方的に電話を切られる始末となった。

 

 

 

 

 

「......はあ」

 

 

 

 

 

またひとつため息を吐く。まったく、相も変わらず草舟な自分に心底腹が立つ。のも、今日で何度目だろうか。同じ事をこうも何度も繰り返していると、なんだか感覚が狂ってくる気がしてならない。

 

 

 

 

......気がしてならないといえば、もう一つそんなことがあるのを思い出した。

 

 

 

 

 

「ともちゃん、元気なかったな」

 

 

 

 

 

さきの電話。携帯から流れ出るともちゃんの声色からは、なぜか不甲斐なさのようなものも感じられた。ただ、それは内面的な話であって、表面上ではあのお馴染みの背中押されるような声だったのだ。

 

 

 

 

俺はその当てつけな声の違和感を、たまたま見抜けただけであって。

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

その声の理由を。真意を。

 

その時の俺が理解するには、まだ思考が安定していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ遅れた......ともちゃん、もう来てるかな」

 

 

 

 

 

 

 

えらく長引いていた終礼もようやく終わり、解放された俺は、すぐさま屋上への階段へと駆け足で向かっていた。

 

 

運良く今日は部活も無い。にもかかわらず、俺の心はあまり浮かない気持ちでいた。

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

階段を駆け上がりながら、今日の出来事を振り返る。昨日予想していた通り隣にいる蘭との気まずさが否めなかった。脳内で楔のように絡み付いて、とても印象に残っている。終礼が長引いていたのも、実はそこから生じた憂鬱さによる錯覚だったのかもしれない。授業も同様だった。

 

 

 

 

それもこれも全て、俺の自業自得なのだが。

 

 

 

 

 

「───ぁ」

 

 

 

 

 

神妙な面持ちで扉を開けると、燃えるような赤髪をたなびかせながら鉄柵に体を預ける人影が見えた。

 

 

 

 

 

「......ともちゃん。やっぱり先に来てたのか」

 

 

 

 

 

「おう。正確にはお前が遅いんだけどな」

 

 

 

 

 

「“終礼が長かった”んだよ、ごめん」

 

 

 

 

 

俺のここ最近で随分と手慣れてしまった言動に、ともちゃんからは微笑み返されるだけだった。

 

 

 

 

 

 

───静寂が、訪れる。

 

 

 

 

 

「「......」」

 

 

 

 

 

しばらくの間そのまどろむ波に身を委ねていると、突如として夏の熱気の残った生温い風が2人の間を縫うように吹き抜けていった。

 

 

 

 

 

それに急かされるかのように、ともちゃんが静寂を切り裂いて、こう叫んだ。

 

 

 

 

 

「ゴメン、流っ!!」

 

 

 

 

 

「うおっ。ビックリした......」

 

 

 

 

 

唐突の謝罪とがむしゃらな大声に思わず身を震わせる。だが驚いたのもつかの間、すぐにひとつの疑問へと変わっていった。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ、急に謝ったりなんかして」

 

 

 

 

 

謝るべきなのは俺であるのに。そんなニュアンスも含めて眉を下げたままのともちゃんに聞いてみた。

 

 

 

 

 

一呼吸置いたあと、こう答えられた。

 

 

 

 

 

「怖いんだ、アタシ......今のアタシ達は、同じ空が見れてるのかって。蘭も、みんなも、夕焼けが好きなのかって......」

 

 

 

 

 

「......!」

 

 

 

 

 

ともちゃんの口から放たれたのは、彼女自身のこの先のことへの懸念だった。

 

 

 

 

 

「このまま何もかも変わっちゃったら、って」

 

 

 

 

 

「ともちゃんっ......」

 

 

 

 

 

ついには涙ぐんでしまったともちゃんを落ち着かせようと手を差し出す。だが、感情の吐露はその勢いを増していくばかりだった。

 

 

 

 

 

「あの時だってそうだ。変わるのが怖い。そんなことで頭いっぱいになってたせいで蘭の後を追うことができなかったんだ。ホント自己中だよな。一番悩んで苦しんでるのは、アイツだってのに......だから......だから、ゴメンっ......」

 

 

 

 

 

歯噛むともちゃんに対して、俺は何も言うことができなかった。意を決して己の弱さを曝け出してくれたともちゃんに対して、言葉の意味とは裏腹にさらに傷口を抉り取ってしまうやもしれない慰言など、とても言えなかった。

 

 

 

そうやって俺もともちゃんと同じように下を俯いていると、ともちゃんのほうから先に顔を上げ、夕日を向いてこう言った。

 

 

 

 

 

「そういやまだお前には話してなかったな。......Afterglowがどうやって結成されたのか」

 

 

 

 

 

「......ぇ?」

 

 

 

 

 

辛うじて声を出すことができた。しかし予想外、そして唐突の発言に、反射的に発せたに過ぎなかった。言わば、喘ぎに似たようなものか。

 

 

 

喘ぎを尻目に、ともちゃんはこう続けた。

 

 

 

 

 

「Afterglowがアタシたちがまだ中2の頃に結成されたのはこの前話したよな?」

 

 

 

 

 

質問に対して俺は記憶を確かめた後、静かに頷いた。思い出したのは屋上でみんなと再会した時のことだった。

 

 

 

 

 

「でもどうして急にそんなこと......」

 

 

 

 

 

そんな純粋な疑問にともちゃんは無理もないと言わんばかりに、自らの頭を掻いた。

 

 

 

 

 

「......実はな、その理由の中に流も関係してる部分があるんだよ」

 

 

 

 

 

 

「え......なんで、俺が────」

 

 

 

 

 

ともちゃんから告げられた事実に、俺はまた疑問を抱きかけた。だがこれもまた、瞬時に行われた記憶の連想により、彼方へと消え去っていった。

 

 

 

ようやく理解できた。こんな簡単なこと、今まで気づけなかったのが不思議なほどだ。

 

 

 

 

 

「まさか......っ」

 

 

 

 

 

「始まりはつぐの一言だったのも知ってるだろ?でもそれはクラスも自分だけ別々になって、流のことでまだ落ち込んでたのにさらに気落ちした蘭のことを励まそうと、バンドをやろうって言ったことだったんだ───」

 

 

 

 

 

「......それが俺の、俺たちの居場所の誕生秘話だったってワケか」

 

 

 

 

 

「そうだ。いつまでも、どこにいても、いつも通りで居られるように、ってな」

 

 

 

 

 

いつも通り。

 

 

そう語るともちゃんの目は、ここではない、遠い彼方を見据えていたような気がした。

 

 

 

 

 

「そしてある日お前が帰ってきた。断然男らしくなって、背も大きくなって。......ホントお前、変わり果てたよ」

 

 

 

 

 

「ともちゃん......?」

 

 

 

 

 

「ああ、変わってたんだ......アタシとは違って心が強く、変化を恐れないお前は、立派になってた。よく泣きベソかいてた昔とは大違いだ」

 

 

 

 

 

懐かしむともちゃんの姿からは、成長していく我が子を見守る母親のような温かなものが見受けられた。

 

 

 

 

だがそんな喜びとは裏腹に、移り変わる我が子の姿......そこから成る未知への恐れも同時に存在していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

でも......───ああ、そうか。

 

 

 

 

 

“だからあんなに”、怯えてたんだ。

 

 

 

 

 

「────......」

 

 

 

 

 

しばらくして、ともちゃんがまた何かを言いかける。

 

 

 

 

 

「なあ、流。お前は────」

 

 

 

 

 

 

「......ってない」

 

 

 

 

 

「え......?」

 

 

 

 

 

だから、今度はこちらからともちゃんの発言を遮ってやった。

 

 

 

ともちゃんからどう言われるか、何を聞かれるか、どれほど心配されているかなんてとうに知れていたから。

 

 

 

 

 

「変わってないよ、俺は。今も昔も」

 

 

 

 

 

「......!」

 

 

 

 

 

「ともちゃんの言う通り、性格も顔つきもほとんど変わっちゃったよ。みんなと一緒に成長できなかったよ。......身長は伸び悩んでるけどな」

 

 

 

 

 

冗談を交えながら、言葉を続ける。思いの丈を述べる。

 

 

 

 

 

「でも夕焼けは好きだ。大好きだ。大切だ。たとえ時がどれだけ流れようと、ちっちゃいころからそこは変わんないよ」

 

 

 

 

 

俺がまだ『僕』だったころ。みんなと見たあの夕焼け、交わした約束、繋いだ手───。それらがあったから、ずっと心に大切にしまっていたから、過去と現在の渦中に閉じ込められていた俺の心の支えとなり、それを乗り越えることができたから、今の俺がいる。

 

 

 

 

 

「流......!」

 

 

 

 

 

「当たり前だろそんなこと。心配しなくても、俺たちはいつまでもいつも通りのままいられるんだよ」

 

 

 

 

 

そうして一歩、心に張り付いた氷を溶かすべくともちゃんのほうへとそっと歩み寄る。

 

 

 

 

 

「───『変わらない』ために、『変わる』んだよ。んでもって、俺たちは『変われる』んだよ」

 

 

 

 

 

「────っ」

 

 

 

 

 

ただまっすぐにともちゃんを見据え、真実を指し示す。心の濁りを吐き出させる。

 

 

 

 

 

 

 

今度は俺が、みんなを導いてやる。

 

 

 

 

 

「......なんて、抽象的にも程があるよな。思ってたのと違ってたらごめ───」

 

 

 

 

 

いかにもな根性論だったが、やはりあまり論理性が感じられず我ながら少し説得力に欠けていたので、予防線を張ろうとした。

 

 

 

その最後の『ん』の言葉は、『ンッ!?』という嗚咽へとすり替わった。

 

 

 

 

 

「ゲッホッ、ゴホッ......」

 

 

 

 

 

突然の衝撃に思わずむせかえる。。そうして激しく躍動する俺の背中には、ともちゃんの手が添えられていた。

 

どうやら俺は、背中を叩かれたらしい。

 

 

 

 

 

「ともちゃ......っいきなり何すん───」

 

 

 

 

 

恨めしげにその違和感の先を睨む。そこにいた手の主は痛がる俺などいざ知らず、俯いたまま静かに微笑んでいた。

 

 

 

 

その微笑みを崩さないまま、ともちゃんは俺のほうを見てこう言った。

 

 

 

 

 

「やっぱそうだよな......“ソレ”しか無いよな。ありがとな、流。おかげでスッキリした」

 

 

 

 

 

唐突の礼に俺は困惑を隠せなかった。

 

 

 

 

 

「いまいちわかんなかったんだな、アタシ。変わらないために変わるってなんだって。でも、これではっきりした」

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

目の前に映るともちゃんの笑顔は、ほんの数日の間だったのにすごく久しぶりに見たような気がした。

 

 

 

 

 

「わかんなくてもやってみなくちゃな。それがアタシたちのためだっていうなら!」

 

 

 

 

 

「......うん」

 

 

 

 

 

でもよかった。新たな決意を表明したともちゃんを見て、俺は安堵した。こうして友を救えたことに対して。そして、友の道しるべとなれたことに対して。

 

 

 

 

......だが、これで終わりではない。

 

 

 

 

 

まだ、終われない。

 

 

 

 

 

「そうと決まれば、みんなを呼ばないと......」

 

 

 

 

 

「あ、ああ......そのことなんだけどさ......」

 

 

 

 

 

妙に渋るともちゃん。そこで俺はあからさまに眉をしかめてみせた。

 

 

それをまあまあと制するかのように、ともちゃんがスカートのポケットから携帯を取り出して、こちらに差し出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

「携帯が何だって───って、これ......!」

 

 

 

 

 

最初こそその意味がわからなかった。だが、そんな疑念にもそこに映し出された『見慣れた光景』を見れば、自ずと察しがついた。

 

 

 

 

 

───いや、確信づいた。

 

 

 

 

 

「......こりゃ、余計な心配だったか」

 

 

 

 

 

「へへっ、『話が早くていいだろ?』」

 

 

 

 

 

それから数秒後だった。

 

 

 

 

 

重い扉の音とともに随分と聞き慣れた喧騒が雪崩れ込んできたのは。

 

 

 

 

 

「よっ、遅かったな。───みんな」

 

 

 

 

 

自分が知り得ていた未来がたった今目の前で起きたともちゃんはどこか満足げに、携帯を持ったままの腕を少々混乱気味の乱入者達に向けて掲げてみせた。

 

 

そこには『緊急事態!みんな屋上に集合!』というメッセージとそれに対する返信が表示されていて......

 

 

 

 

 

 

 

 

「───巴!連絡、見たよ。どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

ともちゃんの言う、“みんな”。そのうちの1人にはもちろん、蘭も含まれていたのだった。




いかがだったでしょうか。次回は1月22日の20時30分に投稿予定です。お楽しみに。

明日からまた平日です。憂鬱だとは思いますが、ともに一週間乗り切っていきましょう!


ではまた次回お会いしましょう。さいなら!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。