Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
さて、皆さんにお知らせしなければならないことがあります。
......2章本編、この話が最終話となっております。
ほんとに申し訳ございません。前々からお知らせしておくべきでしたがタイミングを逃してしまい、今の今まで引きずってました。割と重要なお知らせでしたのに、痛恨の極みです...改めまして、本当に申し訳ございませんでした。次回からは気をつけるようにします。
それでは本編、どうぞ。
「はぁっ......!はぁっ......!」
会場を出て行く観衆をみぎひだりに掻い潜っていく。時々肩と肩がぶつかることもあったがそのたびに立ち止まって謝り、そしてまた颯爽と駆け抜けて行く。
目的地はもちろん、みんなの待つ楽屋だ。
早く、一秒でも早く、この感動をみんなと共有したい。興奮が、鳴り止まない。
血走った目でうまく視界が捉えられない。それでも俺は残った感覚を頼りに、一目散に楽屋へと向かって行った。
しばらくすると楽屋が見えてきた。少し進んで到着したのと同時に、扉を開ける。
「みんな......ッ!」
横開きの扉と壁とが勢いよく接触し、けたたましい音が部屋に鳴り響く。そんな爆音など今日のうちで聴き慣れたのか、みんなあまり驚きはしなかった。
「おお、せいくん」
「流!おつかれ」
通行の邪魔にならないうちに楽屋に入る。扉を閉めればあとはみんなとの空間だ。
「みんな、ほんと最高だった。なんかこう、いつもとは違うグッとくるものがあって、本当に心の底から......」
今回のセトリは『Scarlet Sky』、『Y.O.L.O!!!!!』、そして新曲である『ツナグ、ソラモヨウ』だったのだが、考案者であるモカ曰くこれは移りゆく空をイメージして構成したとのことだった。俺はそれをライブを通して、改めて実感させられた。演奏中、みんなの背景に夕焼け、夜空、朝日と様々な色の空が映っているように見えたのだ。
明暗ともに移りゆく空。流れる雲は時に空を覆いつくし、降りしきる雨は悲しみを具現したようだった。それでも最後には何事もなかったかのように晴れ渡り、またいつも通りに戻った。全部、つながっていた。
その時味わった感動を、俺はどう表現すれば良いのかわからなかった。
「いつの間にか色んな空がみんなの後ろに流れだして、それで......ああもう!なんて言ったらいいんだ!?」
「わかるー!私もそんな感じがしたの!そしたらもう涙が......ううっ......」
「ひまり、また泣いてる」
「あぁ〜......なんか俺も泣けてきた......」
「りゅ、流誠くんまで!?」
それでも自然と涙が出るくらいには感動したのだろう。言葉にできずともそのくらい感動したのであれば、わざわざ口に出して言う必要などあるまい。
ひーちゃんからのもらい泣きに鼻を啜っていると、蘭から何枚か重ねられたティッシュペーパーをもらった。
「ほら二人とも。これで涙拭いて」
「うん......」
「ありがとう蘭......ずずっ」
ほのかに濡れた顔をティッシュで拭き取る。
「ひまりはわかるけど、なんで流誠まで泣く必要あんの」
「待ってよ蘭、せいくんは元から泣き虫だったじゃんー」
「もう昔の話だろ!」
俺が怒号をあげたのに対し、みんなはそれを他人事のように笑い飛ばすだけだった。
──突如として静寂が訪れたのは、そんななかだった。
「......ホント、良かった」
静寂を割った蘭の声は震えていた。そして、俺はその“良かった”という一言に様々な意味が込められている気がした。
「ライブもそうだけど、みんなとこうして幼馴染として出会って、一緒にいられたこと───そのおかげであのライブがあったんだと思う。......だから、ありがとう」
「──っ......!蘭......!らぁん〜!!」
「うわ、ちょ!?ひまり!!」
突如として自らに泣きついてきたひーちゃんを払い除けようとする蘭だったが、当の本人はお構いなしに泣きじゃくるばかりだった。
「私も......私も、みんなと幼馴染でホンっっっトに良かったよぉ〜!!」
「あ〜あ、蘭がひーちゃん泣かせたー」
「あっははは!いつも通りだな!」
「ふふ、そうだね」
「つぐみまで......ちょっと流誠!なんとかしてよ!!」
「なんか面白そうだし無理でーす」
数少ない増援を求める蘭には悪いが、俺はこの賑やかさをもう少し味わっていたかったので嬉々として首を振らせてもらった。
「あははは......なんか今度は笑えてきちゃった〜......」
「もう、ひまり!笑うか泣くかどっちかにしてよ......」
未だに腕にしがみついたままのひーちゃんに愚痴を垂れる蘭だったが、その顔にはもう邪魔くささに歪ませた表情は一切なかった。
......いや、これもある意味『歪み』の一種なのだろうが。
「ホントにもう、みんな最悪だよ!」
満面の笑みで俺達を酷評する蘭。その悪意のない発言と表情に、俺達もまた、つられて大きな笑い声をあげたのだった。
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「──じゃあまたね、みんな!」
「んー、おつかれー」
「暗いから気をつけて帰れよ」
いつもの交差点でみんなと別れを告げる。あとに残ったのはもちろん、途中まで帰りが一緒のモカだった。
「にしても打ち上げ楽しかったねー」
「お前食いすぎなんだよ......なんだよ、ポテトLサイズ二つとビッグバーガー三つって」
「えー?あたしいつもあれぐらい食べてるでしょー?」
「あれ......?そうだっけか」
話題は自然と先ほどファストフード店で行ったライブの打ち上げ会での出来事についてとなった。
「というかせいくん家に泊まった時から思ってたんだけど、せいくんも意外と大食いなんだねー。ありゃモカちゃんとタメ張れてたよー?」
「俺も食べ盛りなんだよ。あと、お前と同じくらいっていくらなんでも話盛りすぎだからな」
「ちぇ〜、せっかく話盛ってまで褒めてあげたのにー」
「いらねぇよそんな称賛!」
和気藹々と駄弁り合いながら歩を進める。その一歩一歩が今日に限ってやけに惜しく感じられる気がするのは、ライブの余韻がまだ残っているからなのだろうか。
「......せ、せいくん!」
「ん?どうした、モカ──」
横にいたはずのモカがいつの間にか後ろに行っていたことに気づいたのは、モカから声をかけられ、その聞こえてきた方向に違和感を覚えてからだった。
「ってあれ、なんでそんな後ろに?」
「───るこ......」
「え?なんて?」
やけに離れた距離のせいか声が聞き取りづらい。俺はモカにもう一度何を言ったのかを教えてもらうように、耳に手を当てた。
「も、もうちょっと......ゆっくり歩こ?」
「......っ」
今度こそ耳孔にモカの声が吹き抜けてきた。しかしその声は普段聞くものとは似つかわしくなく、見えるはずもないのにまるで妖艶な雰囲気さえ漂わせているかのような輪郭さえも感じられた。
「え、と......まぁ、別にいいけど」
「あ......うん、ありがとう」
恐々とした俺の返事にモカもぎこちなく頷いたが、彼女からこちらに来ようとする気配はそれとしてなかった。この距離すら惜しいとでもいうのだろうか。
モカの心中を勝手に想像したところで、俺はどこかよそ見をしながらモカのもとまで自転車とともに歩調を合わせにいった。
両者の肩が再び並ぶ。しかし、その周囲を包み込む雰囲気は先ほどまでとはまた一味二味違った印象を孕んでいた。
「......」
「......なんだよ、急にゆっくり歩こうなんて」
夜のとばりも相まっての妙な静けさに嫌気がさしたので、隣で沈黙を貫き続けるモカに向けてこうして牛歩したいと思った理由を聞いてみた。
「いやー、なんとなくというかー?」
「お前なんかヘンだぞ?態度も辿々しいし」
「えー?そ、そんなことないよー」
ちょくちょく言葉を詰まらせていることから考えるに、何かを隠しているのは事実だろう。
モカは自らの逃げ場を探すようにおもむろに夜空を見上げると、こんなことを呟いた。
「今日は月がキレイだなーと思って」
「あー、言われてみれば確かに」
モカに倣って俺も夜空に目を向けてみると、そこには彼女が言った通りの綺麗な細長い弧を描く三日月が、西の空にぽっかりと浮かんでいた。
「低緯度にあるせいか結構大きいな。今にも手が届きそうなくらいだ」
「────え」
「ん?どうした、モカ」
モカが今度はあからさまな驚いた表情でこちらを一心に見つめてきた。その瞳にはいつも見るようないたずらごころではなく、ただただ純粋な期待のような感情が宿っていた。
と、急にモカの歩みが止まった。
「おいおい、歩いたり止まったりしてどうしたんだよ」
「────......」
「モカ......?」
よく見るとモカは俺に向けていた目を伏せてぶつぶつ何かを呟いていた。
気分でも悪くしていてもいけないので、再び離れた距離を詰め、俯くモカに優しく語りかける。
「おい大丈夫か、体調悪いのか?」
「......ねえ、せいくん」
「なんだ?てかやっぱりお前顔色悪いじゃねえか」
こちらに向けられたモカの表情はどことなく優れているようには見えなかった。熱でもあるのか、いつにも増してとろけた面持ちだった。
症状が悪化しても困るのでここは早々に手を打つべきだと判断した俺は、まず確認のためにモカの額に手を当てた。しかしその体温は大して熱くなかった。
「あれ?熱はないみたいだ────」
とりあえずこれで一安心と手を離す。その際にもう一度モカの顔色を伺った。
すると、どうだろう。
「────......な」
とろけた表情はそのままに、モカは夢見心地のように柔らかく目を瞑っていた。よく見ると頬も少し赤くなっている気がした。やはり熱があるのではと疑ったものの、それが思い過ごしであったことは先ほど額に手を当てた際に実証済みである。
では一体なぜ、モカはこれほどまでにぼーっとしているのだろうか。熱もないのに頬をほんのりと赤らめているのだろうか。
──どうしてこうも胸が高鳴るのだろうか。
「モカ──」
「せいくん」
「────っ」
名前を呼んだはずなのにすぐさま呼び返され、その悠然たる声色に思わず身を固くする。
モカと向き合う余裕などない。なんだかこっちが熱くなってきた。ドキドキと心音が高まっていくのを感じる。
それでも俺がモカから目を逸らそうとしなかったのは、そうする前にもう身動きがとれなくなったからなのか、はたまた訳もわからず火照らせる自分への謎の恥じらいに対する強がりなだけなのか、それとも────。
その想いを────『言葉』を受け止めようとしたからなのか。
「あたし、みんなとずっと一緒に過ごしてる時が一番
固唾を飲む。そのわずかな音すら聞こえそうなくらいに、モカは俺の近くまで歩み寄っていた。
「でもそこにせいくんが戻ってきてくれた。しょうじ初めはもう二度と戻ってこないって諦めかけてた。だから、とても嬉しかった」
モカは止まった俺の横を通り過ぎると少し先まで歩いていったような気がした。“気がした”のはもちろん、呼吸を整えるのに必死で振り返ることもままならなかったからだ。
「そしてまた『いつも通り』が始まった。笑ったり泣いたり、時にはぶつかったりもして、本当にでこぼこな道だった......そんな時だった」
徐々に声が遠のいていく。それがけたたましい鼓動の音のせいなのか、はたまたモカが離れていっているせいなのかはわからなかった。
だが、その答えはすぐに出た。
“両方”だったのだ。
「......っ!」
遠巻きになっていくはずのモカの声はいつしか、俺の耳元にまで及んでいた。
なんとモカは、俺の背中に抱きついてきたのだ。
「せいくんの優しさに触れた。せいくんは陰ながらみんなをサポートして、ダメだと思ったところはちゃんと言ってくれて、励ましもしてくれた」
「も、もか......」
「そして何より、あたしのことを助けてくれた......一緒に“あの背中”を追いかけようって手を伸ばしてくれた」
モカの抱擁が強まる。そこから生まれたのは息苦しさではなく、ましてや嫌悪感でもない、形容しがたいナニカだった。
今までに経験したことのない感情が湧き上がってくる。不思議なことに、それが馴染むまでにあまり時間は要さなかった。
「ねえせいくん。なんであたしがもう少しゆっくり歩こうって言ったのか、わかる?なんでこうやって抱きついてるのか、わかる?」
「お、俺は......」
「ずっと苦しかったんだ。蘭のこととは別のことで、ずっと、ずーっと......でも、この前せいくんに慰めてもらって、そして今日のライブを通して、やっとわかったの」
踏ん切りがついたのかモカの力強い抱擁が一気に解き放たれた。その余韻を上半身に感じていると、後ろにいたモカは今度は打って変わって俺の目の前に繰り出してきた。
モカは秋の涼しい夜風に髪をたなびかせている。薄暗い月の下、モカはらしくもなく照れ臭そうに頬を掻いていた。
それからしばらくしてだった。
「あたし......あたし、せいくんのことが好き」
モカが俺に告白したのは。
「だからその......あたしと、付き合って......ください......っ」
俺がこの胸の高鳴りの正体を見破ることができたのは。
いかがだったでしょうか。次回は番外編で、3月13日に投稿予定です。お楽しみに。
さて、時間も余りましたのでここでひとつ余談を挟ませていただきます。
皆さんの中に夏目漱石の「月が綺麗ですね」の話をご存知の方も少なからずいらっしゃると思います。「月が綺麗ですね」というのは「あなたのことを愛しています」と伝える際の比喩表現とされていますが、実はこれ、夏目漱石がI love you.を「月が綺麗ですね」と訳したからなんですよね。
しかしこれはあくまでも告白する側の台詞。ちゃんとそれに対する返しも用意されてあるんです。その代表例として挙げられるのが「死んでもいいわ」、「あなたと見る月だからでしょうね」、そして「今なら手を伸ばせば届くかも」、なんですよね。
......もうおわかりいただけましたでしょうか。そんな具合で今回はここまでにさせていただきます。
それではまた次回お会いしましょう。さいなら!