Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
皆さん、ドリフェスの結果はいかがだったでしょうか。俺ですか?まあ、お察しの通りです。ははは。
......それでは本編、どうぞ。
陳列棚には大小色形様々な楽器が吊るされている。その圧巻たる光景を横目にギターコーナーへと向かう。今日は擦り減ってきた弦を買い替えに来た。
ここ数日でギターの腕もだいぶ上達した。いつかみんなを驚かせたいがために家族以外には秘密裏、つまりは素人特有の有り合わせな練習を続けてきたが、自分で言うのもなんだが人並み以上には弾けるようになった気がする。これも度重ねてきた練習の成果なのか、はたまたAfterglowのサポートをしていくうちに身についた(気がする)音楽センスのおかげなのか。まあ、弦が擦り減ったことを考えたら前者である可能性の方が高いか。
「えー......と、あったあった」
くるくると回る四角柱の商品ラックを回し、お目当ての物を手に取る。師匠におすすめの弦を聞いて以来、ずっとこれを選び続けている。といっても、買いに来たのはその長寿命のおかげで二、三回程度しかないのだが。
......ああ、そういえばピックもくたびれてきてたんだった。
主原料が金属質の弦とは違ってプラスチックやナイロンなど安価な素材で作られているピックもまた種類が豊富で、細かな動きのしやすい“なみだ型”、ストロークのしやすい“おにぎり型”、中には滑り止め付きのものまである。
ただ原料が原料、かつ音を奏でる際に一番ダイレクトに使う道具なので弦以上に消耗が激しい。しかし寿命は弦以上に人それぞれで、アタックの強弱次第でその伸び縮みに差ができるのだが、俺の場合激しめに弾くので気づけばピックの死体の山が積み重なっていることもしばしばある。
ただ弦と比べればピックはとてもチープなものだ。今目の前で品定めしているピックの大半だって、どれもやけにオシャレな見た目をしているにもかかわらず100円ちょっとするかしないかぐらいである。これを理由に、ピックコレクターなる楽器を弾くこともないのにただただピックを収集する輩もちらほら表れているくらいだ。俺も違う意味でピックをコレクトしているが。それも死体を。
......なんて冗談に決まってる、ちゃんとゴミは捨てるさ。この後だって明日のプラスチックゴミの日に備えてゴミ出ししに行かなければならない。そのためにはまず家に帰らねばなるまい。
ピックを一枚取って、用事も済んだところでレジへと向かう。その途中、うっかり人とぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「うおっ、と」
疲れているのか、この頃になってよく何かにぶつかることが多くなったりと、よくないことばかり身に起きている。もう少ししっかりしなければ、あるいは......
とにかくまずはぶつかった相手に謝らなければならない。俺は謝罪の言葉とともに手を差し伸べた。
「すみません!ケガとかないですか?立てます?」
「いえいえ大丈夫です!こちらこそうっかりして、どうもすみませんでした」
相手は女性だった。俺の手を取った女性の少し冷たい肌は、春の陽気に冬を思い出させるようだった。
「......あっ!ごめんなさい、私ったらつい......」
と、女性が何か思い出したかのように慌てて自らの手を背後に隠した。恐らく異性である俺の手に迷いなく触れたことへの恥ずかしさを覚えたのだろう、声的にもタメか年下ぐらいでそういうお年頃だそうだからまあ無理もない。かくいう俺はいつものことだったので、そこまで恥じらいはなかったが。
女子の表情がふと気になったので、身なりを整えてから面と面向き合った。そうして、その少し赤らんだ顔に見覚えがあることに気がついた。
「あれ?君ってもしかして、羽丘の一年生の────」
肩にシュシュでまとめられたおさげを垂らしている女子に対する見覚えの確認をしようとした直後、その対象である女子が驚いた表情で「あっ!」と俺の声を遮ってきた。
「もしかして、Afterglowの皆さんと一緒にいる......えーと......?」
「あはは......先越されたな。俺は長門 流誠」
「長門......先輩、ですよね?」
うんと頷いてやると、女子はぱあっと顔を明るくさせて喜びを噛み締めるように言葉を続けた。
「わあ......!光栄です!えと、初めて話したのがこんな形なのはちょっと申し訳ないんですけどっ」
「まあまあ落ち着いて。でもよく俺がみんなといるってわかったな。俺やみんなが上級生で、しかも学校も始まってまだ一ヶ月ちょいしか経ってないってのに」
「そりゃあもう、見させてもらってますから!」
「......え?」
見させてもらってる......?何をだ?
唐突な予想外の発言に困惑を隠しきれずにいた俺に、女子はすかさずフォローを仕掛けてきた。
「あっ、すみません、言葉足らずでした......ライブです!Afterglowさんのことは最近になって知ったんですけど、みなさんの演奏を見るたびに、曲やみなさんの仲の良さも伝わってきて、それで......」
「あーそういう。いつも見に来てくれてるの?」
「はい!というよりライブハウスのスタッフなので、必然的に見ることになるんですけど」
「ライブハウス......あぁー、Galaxyか」
女子の言葉に合点がいった。それはこの女子への既視感と俺達のこの頃のライブ活動が一致したからだった。
Afterglowはここ最近、新たな刺激を求めてリニューアルオープンしたばかりのライブハウスでのライブイベントにも参加したりもしている。それが先ほど俺が口にしたGalaxyというところだ。そこの音響設備もキャパもあまりCiRCLEと変わらない、つまりは「悪くない」ことをライブを重ねていくうちに認識していった。あの堅物である蘭も口々にそう言っている。
そんなライブハウスでスタッフを務めているのがこの女子。俺がこの子に抱いていた異様な既視感も、きっとそのせいに違いない。
「そうか......なんか見覚えあると思ってたけど、確かにいつもアンプとか準備してくれてたよな。いつもお務めご苦労さま」
「そそそんな、滅相もない!スタッフとして当然のことをしたまでです!長門先輩こそ、Afterglowのみなさんと一緒に手伝ってくれたりして、本当に助かってます!」
「そりゃどうも。そう言ってもらえると、こっちも手伝い甲斐があるってもんだ」
感謝されるのは気分が良いが、こちらもこちらで「もっと音響機器とかについて調べたい」というみんなの勉強の場として利用させてもらっている。もしかするとこの子はその際の俺とみんなのやりとりを通して、俺達の仲の良さを見知ったのかもしれない。ライブ中は俺は観客席にいるわけだし。
にしても、“この子”だの“女子”だの周りくどいな。
「そういやそっちの名前、まだ聞いてなかったな」
「あ、そういえば。ごめんなさい......長門先輩の名前は聞いて私だけ名乗らずに......」
「いや気にしないで。それで名前は?」
「はい!朝日 六花といいます!」
「朝日 六花か......はは、いい名前だな」
「あっ、ありがとうございます......!」
蘭と同じく花の入った名前の華やかさに微笑むと、朝日は再び照れ臭そうに顔を赤らめた。
「朝日って呼んだんでいいか?」
「そこらへんは長門先輩にお任せします!ところで、これ......」
「ん?......あっ、それって──」
朝日の差し出してきた右手を見てみると、その上には俺が先ほど選んだ弦とピックが持たれていた。
「ぶつかった時に落としちゃったのか、全然気づかなかったよ。わざわざ拾ってくれてありがとうな」
「いえいえ、お構いなく。先輩もエリクシーなんですね」
「“も”、ってことはもしかして朝日も?」
「はい!いつも買ってるのがこれなんですよ。長持ちしてくれるので気に入ってるんです」
「おぉ!やっぱいるもんだな。俺も同じだ。音の違い比べたらやっぱ他の弦も選ぶけど、それでも長く使えた方が全然いいし────」
初めは弦についてが起点となって、そこからギターの種類やアンプ、エフェクターなど、各々の好みの音作りの環境などに話の裾が広まっていった。
当然そんなことをしていれば、陽が傾くまで時が経つことなどあっという間なことだった。
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「───それではまた!」
「おう。今日はありがとな」
「こちらこそ!」
こちらを微笑みかけながら遠のいていく朝日に手を振り終えたところで、俺も自転車とともに前に向き直った。
あれから結局話は盛り上がりに盛り上がってしまい、携帯を確認してみると時刻はすでに18時をまわっていた。ゴミ捨てのことを放ったらかしにし、若干やってしまったという後ろめたさはあったものの、ギターについてまた学べたという点を鑑みればちっぽけなもののように思えてきた。
にしても朝日もギタリストだったとは。学校ですれ違った時やライブハウスでの地味な身なりを見た限りだと、あの眼鏡っ子がギターをかき鳴らす姿など想像するには値しなかった。世の中わかったもんじゃない、人で見かけで判断するなとはよく言ったものだ。
ともかくこれでギタリスト仲間が増えた。学年的には後輩で、ギター歴でいえば先輩という複雑なものだが。それでも俺は心置きなく話のできる仲間が増えたという事実に心を躍らせていた。
そんな時、妙な光景を見かけた。
「......?」
あれはなんだろうか......何やらとんがった耳が頭に生えた少女がライブハウス前で、その入り口から出てくる人達に睨みを利かせている。さらに注意深く少女の様相に目を凝らしてみると、耳に生えていると思っていたものがヘッドホンだということに気がついた。
にしても目立つ。ムスッとした顔をライブハウスから出てくる人達に対してなり振り構わず振りまいている点でも、その小さな身なりには不釣り合いなヘッドホンを身につけている点でも、少なくともこの近辺で彼女に勝る派手さを兼ね備えた者はいないだろうと言わしめれるほどだった。
とはいえこのままだと周りの迷惑になりかねん。彼女の顔から見て今にも獲物に喰いかかっていきそうな感じだし、現にその眼光に捉えられた人達も体を丸めて怯えだしている。
......恥ずかしいが仕方ない。ここは一発かましてやらねば、何より傍観者のままで見過ごしたくもない。
「おいキミ!」
「......?」
少女の方へ近づいていくと、その視線の矛先は間もなく俺一点に当てられた。その隙にお客さんが走り去っていくのを見届けたのち、俺はさらに少女との距離を詰めながらこう言い放った。
「ダメだろ、そんなとこで立ち往生して。周りの人に迷惑かかるだろ?」
「たちおう、じ......?What?」
「は?ワット......?」
少女の言った言葉......それはまさしく、英語の『What』そのものだった。顔つきからしてあまり外国人っぽくもないが、完全にそうでないかと聞かれたら肯定しかねない。この子はおそらくハーフで、外国出身である片親の影響で英語を口にしたのだろう。
「Well......Can you speak Japanese?」
「Ah,no problem.日本語くらい話せるわ」
「あ、あぁ......そうか。ならよかった」
今、“日本語くらい”と言ったか?若干海外なまりが否めない感があるが、確かに彼女の日本語はちゃんと発音もできていたしそれなりに流暢でもあった。日本語は数ある言語の中でも屈指の習得難易度を持っているはずなのだが、この子の前では虚実のように思えてくる。
と、少女が日本語を話せるということを確認したところで、こちらも容赦なく英語から日本語へと使用言語を完全に切り替えた。
「立ち往生。わかるか?今キミ邪魔になってるんだよ。ほら、そんなとこ突っ立ってたら入り口から出てくる人が困るだろ?」
「それもそうね......Sorry,気がつかなかったわ」
「わかればいいんだよ」
素直にその場から立ち退く少女にうんうんと頷く。
ともかくこれで事件解決だ。元凶である少女も立ち去ったことにより、ライブハウスから出てくる人達もほら────......
......あれ?おかしいな、まるで顔つきが変わっていない気がするのだが......
まさかと思いつつ周囲を見渡すと、不幸にも予感は的中した。
「ってちょっと!なんでまだいるんだよ!」
なんと家路を辿っていったと思われた少女は、実は少し離れた場所に行っただけで、再び先ほどのような仁王立ちをして鋭い眼光を宿していたのだった。
「迷惑だからのけって言っただろ」
「ええ言ったわ?だから移動したじゃない」
「うーん、そういう意味じゃなくてだな......」
とんち臭く反論する少女は、まるで自分の罪を自覚していないみたいだった。言葉足らずだった俺にも分があるが、最低でもあの睨み付けはやめてもらわなければならない。
とは言えただ単に圧をかけただけでは言うことも聞いてもらえないだろうから、俺はあえて下手に出ることにした。
「つか、どうしてそこまで睨む必要があるんだ。どうしてもしなきゃいけない理由があるとでも?」
「Of course!私は今“Check”をしているのよ」
Check、か......選別といったところか。
「へぇ。一体なんの?」
「SpecialでInvincibleなGuitaristを探しているの。けれどもどいつもこいつも凡人ばっか!どうなってんのよ!!」
「俺に言うな」
ともかくこれで少女の目的が発覚した。彼女が言うには、どうやら『SpecialでInvincibleなGuitarist』を探しているらしい。理由はなんであれ、そこは持ち前の英単語力で理解することができた。
「───あれ?そこにいるのって......」
「ん?」
少しピリついた空気の中に、場違いな気の抜けた声が舞い込んできた。声量的に俺に当てられたものらしかったので何かとその声の方を向いてみると、そこにはこちらに興味津々な眼差しを向けている花園がいた。なぜか黒のエプロンに身を包んでいる。
「花園か......なんだよその格好」
「私、ここのスタッフ」
お得意の端的な発言だったが、なんとなく察することができた。背後のライブハウスを指し示していることから察するに、コイツはこのライブハウスでスタッフのバイトをしていて、エプロンはさしづめその制服だろう。
「そうだったのか。休憩中か?」
「うん、でもそれはまた後で」
俺の質問にそう答えると、花園は例の少女めがけて一直線にスタスタと歩いて行った。かと思いきや、その体を「よいしょっ」と意気味良く担ぎ上げた。
「What!?ちょっと、何すんのよっ!!」
「お客さんからあなたの事は聞いてるよ。他人に迷惑かけたらダメだからね」
「でも......!」
「わがまま言わない」
少女の訴えを一蹴すると、花園は少女を担いだまま路地裏へと消え去っていった。その様子はさながら誘拐事件の現場のようだった。
フェードアウトしていく少女の声を聞きながら、やれやれと肩を竦める。その一方で、俺の心中にはたある好奇心が芽生え始めていた。
ギタリストを探しているというあの少女......一見一聴するにただの生意気なマセガキだと思っていたが、それはとんだお門違いだった。
交渉という名の会話を重ねていくうちに気づいた、あの真剣な眼差し────音楽に関わってきて1年と少ししかない俺が言うのもなんだが、間違いない。あれは音楽に全てを賭けた者の目だった。
ライブハウスでギタリストを探していることから、きっとバンドメンバーでも探しているのだろう。あのただならぬ存在感を放つ少女が組もうとしているバンドとは、一体どのようなものなのだろうか。どんな音楽を奏で、どんな世界を見せてくれるのか......俺はそれが気になってしょうがなかった。
しかし生憎、俺にはあの子のバンドのギタリストが務まる腕前を持っていない。それ以前に、彼女が募集しているのはきっと女子だろうから男である俺が加入できるわけもない。
......だから。
「────紹介してみるか」
俺は何かの変化になるかと────俺ではない“誰か”が俺のかわりを務めてくれるかと思い、その“誰か”をさっそく模索し始めた。
そして、その結果はすぐに出た。
俺の脳裏に浮かんだ人物。
それは────......
いかがだったでしょうか。次回は3月28日の20時30分に番外編を投稿予定です。お楽しみに。
さて。出てきましたね、ロック。残りのメンバーも後々登場させていきますので、どうぞお楽しみに。え?チュチュもいるじゃないかって?名前挙がってないのでまだ確定ではありませんよ()
あとチュチュの特徴でもあるルー語......じゃなくて英語混じりの喋り方なんですが、その部分をわかりやすくするために英語で文字を打ってます。漫画版などと表記が異なる場合があるかもしれませんが、そこは当作品のオリジナル要素として捉えていただければと思います。
最後に、分かる人にはわかると思いますが、流誠くんとロックの会話の中で弦のことを『エリクシー』と呼んでいますが、これは現実で実在する弦の製造元の名前をもじったものです。俺も愛用させてもらってます。いいですよね、アレ。
では今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。さいなら!