Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
バ!アニメ最終話、良かったですね......個人的に3バンド合同夢撃ちが心にグッと来ましたね。ああああああああああああ
ということで本編どうぞ。
「む」
「あっ、せいに......兄さん」
「塁か」
移動教室の道中、階段の踊り場に上がった先で塁とばったり出会った。その隣には朝日がいた。
「と、朝日。おはよう」
「おっ、おはようございます......」
「オイ、あんま圧かけてやるなよ」
朝日と挨拶を交わそうと思っただけなのに、その間に割り込むように塁が朝日を後ろへと庇った。まあ、昨日の今日なのでそうする気持ちもわからなくもないが。
「朝日から聞いたぞ、またバンドのこと勧めたんだってな」
「おーおー、そんな立派に彼氏ヅラしちゃって。お似合いだぞー塁」
「さらっと誤魔化してんじゃねぇ。......つか、そっちこそ彼女(青葉さん)はどうしたんだよ」
「モカか?アイツは────」
塁からの質問から脳裏にモカの姿を思い浮かべるも、その実体は不鮮明なものだった。実はモカは、今朝から教室を早足に出て行ってからずっと行方をくらましている最中なのだ。まだ抜け出してから1時間目しか経っていないが、これにはさすがに俺達幼なじみも不安にさせられた。
「......今日は休みだ」
わからないと言えば塁から「彼女のことも気にかけれないのか!」とどやされかねないので、その場しのぎで典型的な不在理由を述べる。すると塁も納得してくれたのか、腕を組みながら腑に落ちた表情をしてみせた。
「そうか。放課後になったらちゃんと見舞いに行ってやれよ」
「言われずとも。じゃ、俺はこれで」
そろそろ時間も時間なのでと、俺は二人の間をすり抜けるように助走をつけた。そんな俺の背中を塁が声を荒げて呼び止めた。
「せい兄!!」
「あ?なんだよ、こっちは急いでんだけど。つかやっとせい兄って言ってくれたな」
「あ......じゃなくて、それより今は朝日のこと!これ以上無理強いしてやるなよ!」
「な、長門くんっ......!それは......」
困り顔の朝日を見て困らせているのはお前の方だと塁に言ってやりたかったが、あの頑固者を“ねじ伏せる”にはまず第一条件として人目のつかない場所にいないといけないため、朝日が傍観者としてそばにいる以上、俺に勝ち目はなかった。
「あーいいんだいいんだ。俺が悪かったんだよ。悪いな朝日、次からは気をつけるよ」
「あっ、オイ!その言い方だと......」
「じゃあもう時間ないし行くわ。二年生はお前らと違って忙しいからなー!」
塁が呆気にとられている隙に科学室に続く渡り廊下に向かって一直線に走りだす。そのためにはまず3階まで上らなければならない。俺は軽々と1階から2階、3階へと階段を上り詰めていった。
その途中で、思いがけない人物と出会った。
「わっ、と......ってモカ!?」
「あ......せいくん」
3階に上りきった瞬間、
「朝から黙ってどこ行ってたんだよ!みんな心配してたんだぞ?」
「あ、あー。ちょっと気分悪くなったから保健室行ってただけだよー」
「は?それなら出席簿に書かれてるはずなんだけど......」
授業前になると、担当の先生が必ず出席をとる。その際に出席簿を確認するのだが、体調不良の生徒がいればそこにその詳細が書かれているはずなのだ。しかし1時間目の時、出席簿を確認した先生はモカの所在を保健委員に聞いていた。それら保健室に行く前には必ず保健委員に告げてから行く決まりになっているからだ。でないと出席簿にそのことを記すことができない。
もしかするとモカはそのことをてっきり忘れたまま保健室に行っていたのかもしれない。それほど体調が優れていなかったというのなら納得もいく。背に腹は変えられないからな。
......では、なぜモカは1階から上がってこなかったのだろうか。
なぜ屋上に続いている階段から、ここ3階に下りてきたというのだろうか。
「......なあ、モカ────」
モカのことを不審に思い、その名前を呼ぶ。
その直後、授業開始2分前を告げる音楽が鳴り始めた。
「おっと、もうこんな時間なのかー。それじゃあモカちゃんは、教室に道具取りに行ってくるよー」
「え......っておい、ちょっと!」
「せいくんは先に行ってていいからねー」
「もっ、モカ!!」
俺の止める声も届かず、モカは自分の教室のある1階へと颯爽と下りていった。先ほどまで保健室にいたはずのモカが去っていくその背中を俺は異様に感じざるを得ず、生ぬるい風の音と音楽の響く廊下の真ん中でしばらくのあいだ立ち竦んでいた。
「......行っちまった」
そんな放心状態もそこまで長くは続かず、俺はすぐさま現実世界へと引き戻された。モカの姿はすでに見えなくなっていた。
「......ってやべ!早く行かねーと!」
音楽は約2分で終わる仕様になっている。徐々にフェードアウトしていくヴァイオリンの音を聞いて、俺は今自分がすべきことを思い出した。科学室まではここから歩いておよそ1分。走って行けば間に合うだろう。
キュッと踵を返して渡り廊下へと抜ける。その際に茫然と立ち尽くしているモカを1階の窓越しに見下ろすことができたが、俺は気に留めず科学室へと駆け抜けていった。代わりに、朝日のRASへの差し向けについて考えていた。
▼
「......蘭ー」
「モカか。何」
窓から差し込む眩しい夕日の光に当てられながらシャーペン片手にノートと睨めっこしていると、モカがこちらににじり寄ってきた。用件を聞くと、どうやら休憩中の暇つぶしに来たらしい。
「何してるの〜?」
「歌詞書いてる。また新しい曲作ろうと思って」
「モカちゃんにも言ってくれたら喜んで手伝ってたのにー」
「紙の端っこにパンの落書きすることのどこが作詞なんだか」
「えぇ〜?失礼しちゃうなー」
あたしの記憶が正しければ以前モカにイタズラされたことが思い浮かばれる。あたしが必死に歌詞を思考しているあいだ、モカは呑気に鼻歌を歌いながらノートの端の方に落書きしていた。その時はお返しに頬をつねったが、今回は前払いでもしてやろうか。
「まあいいや。みんなは?」
「まだ練習するってさー。せいくんも付き合わされてるー」
「あはは......結構やる気だね。まあでもそれもそうか」
「うん、こないだのねー」
先日行われたライブを思い出す。あのバンド、RAISE A SUILENと言ったか。技術もそうだったが、観客の煽り方をよく心得ていたように思える。
今まで名前も知らずに未知数だった分、あれには豆鉄砲どころか大砲でも食らったかのような衝撃を心と体に浴びせられた。ステージ袖から見ていた身だったのでなおさらだ。みんなもおそらくそれに感化されて......
「......あ」
そう思考を巡らせている時、ふと重要なことを思い出した。
「んー?どしたの?」
「ライブといえばあの日からモカ、体調崩してばっかでしょ。本当に大丈夫なの......?」
「あー。うん、別に大丈夫だよ?」
「でも今日だって......」
今日も今日とて朝からみんなと駄弁っていた。その最中、遅れて登校してきたモカは教室に入ってくるや否や、そそくさとどこかへ姿を消していった。それからというものの、トイレにでも行ったのかと思いきや1時間目が始まっても戻ってこず、後から聞いた話によるとなんと保健室に行っていたらしい。理由はもちろん体調不良だった。
「心配ご無用〜。もうすっかり治ったから安心してくれたまえー。ていうか蘭もみんなも何度もそれ聞いてくるから、さすがのモカちゃんもそろそろ耳が痛いんだけどなー」
「......ごめん。でも、本当に無理な時はいつでも相談してよ」
「もっちのろんー」
そう言ってにんまり笑みを浮かべるモカだが、こういう奴ほど案外抱え込みやすいタイプであることをあたしもみんなも知っていた。しかし本人が大丈夫というのであればそれまでだ。無闇に詮索して逆に傷つけてもいけないし、単なる体調不良なのかもしれないのでここはそっとしておいた方がいいのかもしれない。
モカの用事はモカに任せたところで、あたしも気を取り直して机に向かう。その直後、ポケットの中の携帯がブルブル震えた。取り出してみると、父さんからのメッセージだった。メッセージには、『もうじき華道の作品展が開かれる。それに備えて一旦バンド活動を休止しなさい』と書いてあった。
「どうしたのー?」
「父さんからのメールでもうすぐ作品展があるってさ」
「作品展?華道のー?」
「そう。あたしも出なきゃいけない」
「それじゃあ────......」
「うん、またしばらく練習休まないといけなくなる」
口惜しくもありのままの事実を告げる。毎度のことだが、練習やライブができなくなるのはやはり悔しい。しかし、父さんに華道と向き合うように約束した身なのでいつも仕方がないと呑み込んでいる。
それでもだんだんと回数を重ねていくうちに完全にではないがまんざらでもなくなってきて、今ではあの毛嫌っていた華道に楽しささえ見出せているような気もする。これも成長している証拠なのだろうか、そう思うとなんだか嬉しい。
でもやっぱり、あたしにとっての一番の楽しみはみんなと一緒にバンド活動をすることだ。そこは譲れないし、元はといえば華道だってそれを存続させるために行っている。一緒に歌って弾いて......そんな『いつも通り』があたしの一番であることはいつまでも変わらないだろう。
とにもかくにも、まずみんなに報告しなければなるまい。あたしは席を立ち上がり、モカも一緒に行こうとモカの方へと視線を流した。モカは何を思ってか、ぼーっと窓の外の夕影を眺めていた。
「モカ」
「......ん?なーにー?」
「そろそろ練習戻ろ、みんなにも休むこと言わなくちゃいけないし」
「はーい」
モカの返事はどこか覚束ないものだった。そこからまた体調でも悪くなっているのではと思ったが、先ほどのモカとの会話を思い出し、ふとした疑問を心の内にしまい込んだ。
▼
「じゃあなモカ」
「うん、じゃあねー」
いつもの分かれ道で、いつも通りにモカと別れを告げる。時刻はすでに20時をまわっており、空には星がまばらに散りばめられていた。その輝きを見上げながら、俺は今日の出来事を思い返した。
今日もいつも通りだった。何かあったとすればモカが突然いなくなったことだが、本人曰く大した問題でもなさそうだったので特に心残りはない。
────“この件”以外には。
「......さて」
上げた顔を戻してポケットから取り出した携帯に目を向ける。するとすでにメッセージが届いていたことに気がついた。
「『もう着いたよー!』......って、早いなぁ」
見た感じ
しばらくしてから、公園の敷地の生垣が徐々に見え始めた。ブレーキを握りスピードを緩めて携帯を確認すると、待ち合わせ時刻である20時30分には間に合ったみたいで、俺はほっと胸を撫で下ろした。
地面がコンクリートから砂地へと変わり、チェーンの音に小石などが散らばる音が加わって辺りに響き渡る。それに気がついたのか、端の方に設置されたベンチから人影のシルエットが立ち上がったのが見えた。相変わらず頭に生えたツノが目立っている。
どこか適当な場所へ自転車を置きに行っていると、ヤツはすでに俺の方へと歩み寄って来ていた。
「長門くーん!」
「おう、今日は呼び出して悪かったな」
「いいよいいよ、私も久々に長門くんと会えて嬉しいし!それより......」
「ああ......頼みたいやつな」
俺からの謝罪に彼女は静かに頷くと、間髪入れずに今回の件についての説明を要求してきた。それに応えるべく、俺も伝えたいことを一言一句頭の中で整理し始めた。
今回コイツを呼び出したのは他でもない朝日のためである。アイツは今『バンドをやりたい気持ち』と『“好きなもの”を壊したくない気持ち』とで板挟みになって、もがき苦しんでいる。しかしそれは間違いなのだ。別にRASに入ってバンドをしたところで、朝日の好きなものは壊れはしない。
ではその根拠はどこから来たものなのか。
それはもう、コイツから確認済みである。
「朝日が今悩んでるのはもう話しただろ?アイツはもっと自分のやりたいことに正直になっていいことを知らないんだ。それを気づかせるために、今回『お前ら』に相談を持ちかけた────」
朝日の悩みの中枢にあるのは好きなもの......つまり、Poppin' Partyである。彼女はRASの攻撃的な面にPoppin' Party存亡の危機を見出した。だからRASのオーディションを拒んだのだ。
それから俺は、Poppin'Partyから直接エールをおくってやり、大丈夫だと伝えてやれば良いのではという考えに行き着いた。そうすることで朝日も安心して、RASでのバンド活動に専念することができるかもしれない。
だから俺は今、ここにいる。だからこうして、コイツを......
Poppin' Partyが筆頭の戸山を呼び出したのだ。
「戸山......頼む、朝日を笑顔にしてやってくれないか」
瞠目し頭を下げる。そんな俺の懇願を、戸山は「もちろん!」と嬉々として受け入れてくれた。
それからゆっくりと顔を上げると、その先に見えた戸山の目には、今空に浮かんでいる綺羅星のような輝きが灯っていた。
いかがだったでしょうか。次回は4月30日の20時30分に投稿予定です。お楽しみに!
あとお知らせで、ただいま流誠くんのビジュアルイラストを描かせてもらっています。完全次第こちらにあげるつもりなので、よければそちらも拝見してもらえると嬉しいです。
〜感謝の言葉〜
えー、最近になってようやく気がついたことなんですが、おかげさまでお気に入り登録者数が60人を突破いたしました。本当にありがとうございます。これからも精進していきますので、どうか見守っていてください。
それでは今回はここまで、また次回お会いしましょう。さいなら!