Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
どうもあるです。過労死しそうです。
ということで詳細は後書きの方で。(流誠くんの新規イラストもあります)
それでは本編、どうぞ。
「ねえ流誠」
「......ん?」
机に突っ伏せながらぼーっと窓の外を眺めていると、沈みがちな声が耳を揺さぶった。辺りを見回そうと顔を上げると、その先にはひーちゃんとともちゃんが怪訝そうな面持ちで立っていた。
「どうしたんだよ2人とも、そんな顔して」
「最近、モカとどうなんだよ」
「どう────......って、え?待って待って、ほんとなんだよいきなり」
何かと思えば俺とモカの進展についてだった。突然の質問に少々困惑したが、こんな真剣な顔をしてまで知りたいとはよっぽど暇なのだなと心の中で勝手に結論付けた。
本人に聞かれたらまずいと思ったが、ちょうどいいことに教室にはモカの姿は見当たらなかった。それを確認したのち、俺は口を開いた。
「いやでも、どうって言われてもなぁ......まあ実を言うと、付き合う前とそんな変わってないんだよな。手繋いだことすらないし」
2人の暇つぶしにでもなるのならと俺も正直にモカとの現状を告白したが、それを聞いた2人の顔は未だに晴れないままだった。
「違うんだよ。そうじゃなくて......」
「え?違うのか」
「ホント変なところで鈍感なんだから......」
「は?」
やれやれと肩をすくめられたがこっちもこっちで意味がわからない。まわりくどい言動をするに痺れを切らした俺は、顔だけでなく体ごと2人に向き合わせた。
「何が言いたいんだよ」
「最近のモカ、おかしくないかって話だよ」
「あ、なんだそっちか......」
どうやら2人が俺に聞きたかったのはモカ個人についてのことらしい。早とちりした挙句いらない恋沙汰話を漏らした己を恥じらいながら、俺は口々にこの頃のモカの様子を整理し始めた。
「おかしいかどうか、か......確かに妙に気張りすぎてる気もするけど」
「でしょ!?」
考えてみればそうだった。今朝も見たがあの指の傷、少しずつだが着実に日に日に増えていっている。きっといずれ来るライブに向けて、俺達が見ていないところでも練習に励んでいるのだろう。
「でもそれってモカが頑張ってる何よりの証拠だろ。もちろん無理は禁物だけど」
「それはわかってる。問題は“何でそこまでするのか”ってことなんだよ」
「何でって、前のライブのことで気に病んでるからなんじゃないのか?ほら、アイツ変なところにこだわりがあるだろ」
「それは私達も同じだよ。でも、モカの場合それだけじゃないと思うんだよ......」
「ただの思い過ごしだって。何かあったら真っ先に俺に言うだろうし、それがないということはつまりはそういうことなんだろ」
俺だって腐ってもモカの彼氏だ。何かあったら一番近くにいる俺に相談してくるだろうし、今のところその気配は感じられない。
「でも────......」
「大丈夫だって、もしモカからなんか聞かされたらまたみんなに言うから。よいしょっと」
そう言い切ってからすくっと席を立ち上がる。そのまま教室の外へと向かおうとする俺の背中に、2人の声が刺さった。
「おい流!!」
「ちょっと......!」
「用事思い出したからちょっと行ってくる」
それだけ言い残して、2人の方には見向きもしないでそそくさと廊下へと出た。実を言うと用事という用事は大してない。押し問答に嫌気がさし、当てつけな理由を設けて逃げただけだ。なので、無責任にも罪悪感を多少なりは感じていた。
とはいえもう啖呵を切ってしまったわけだし、何かしらをして残りの休み時間を過ごさなければなるまい。そんな俺がふと思い浮かべたのは、朝日の様子見だった。
朝日がRASのオーディションへ行ってからかれこれ数日が経った。オーディションの結果は後日発表されるらしく、未だに知らされていないらしい。朝日もそれが待ち遠しくて今ごろそわそわしていることだろう。
1年の教室に行くのは久しぶりのことだった。俺が朝日に何か吹き込むのではないかと塁が目を光らせているがために近づき難かったからだ。まったく人聞きの悪いったらありゃしない。
しかし、その“吹き込み”とやらも今となっては終わったことだ。それは塁も朝日経由で知ったようで、こっそりRAS加入への手回しを裏で行なっていたという少々語弊のある事実については孤児院で散々言及された。それでも過ぎたことと見做してくれたのか、それからは学校での朝日との面会は大目に見てくれるようにはなった......のだろうか?よくわからない。
そんな嫌な予感が脳裏を掠めていくのを感じながら階段を駆け下りていると、見慣れた顔ぶりと遭遇した。
「おっ、流誠じゃーん☆」
「っと、今井先輩。こんちは」
踊り場に下りる一歩手前のところで、下から上ってきた今井先輩と鉢合わせた。立ち止まった際に今井先輩から香ってき芳香剤か何かの良い香りが鼻につき、相変わらずだなと思った。
「久しぶりだねー、それこそ最後にいつ会ったのか忘れちゃうぐらい。前のライブ見にきてくれた時からだっけ?よく学校で会わなかったもんだよねー」
「ああそっすね。それじゃあ俺はこれで────」
何か話したそうにする今井先輩に対して俺はあまり乗り気ではなかったため、先を急いでいるからという雰囲気を醸し出しながら先輩の横を通り過ぎようとした。
が、先輩はそんな俺の目の前に素早く割り込んで立ちはだかってきた。
「ちょーっとー!適当な反応しちゃって、まったくつれない後輩だなぁ」
「うぐ......!ちょっとどいてくださいよ、急いでるんですから!」
「まあまあまあ。ここで会ったのも何かの縁だしさ、その前にちょっとお願いごと聞いてってよ」
「えぇ〜......」
先輩の突拍子のない要望からは怪しさが滲み出てならなかった。そうしてあからさまに眉をひそめる俺に対して、先輩は依然としてどうどうと手で宥める仕草をとっている。
「実は今日のバイトでのモカのシフトの埋め合わせで困っててさ、今日1日限りで良いから入ってくれる人いないかなーって探してたんだよね」
「ん?どうかしたんですか、モカのやつ」
「昨日の夜に用事があるので明日のバイト行けませんって突然言ってきたもんでね。ドタキャンとまではいかなかったけど、シフト入ってたのがアタシとモカしかいなかったから代わりになる人探すのに苦労してたんだよ」
初耳だった。今日はバンドでの練習がないため帰宅部のモカにはこれといった用事はないはずだが......あるとしても、さしずめやまぶきベーカリーのタイムセールだのなんだのといったとこなんだろうけど。
「でも、それなら別に俺じゃなくてもよかったんじゃないんですか」
「まあそうだね......いや、
「......?」
「ホントなら手伝ってくれる人なら誰でも良かったんだけど、急遽変更」
意味深な発言に訝しんでいると、今井先輩は階段を上りながら俺の耳元にこう囁いた。
「────ちょっと聞かせてもらわなきゃいけないこと、思い出したからね」
「......っ」
至近距離での会話をする俺と今井先輩の姿は、側から見れば如何わしいように見えるのだろうか。たとえそうであったとしても、少なくとも当事者である俺にはそうは感じられなかった。
これといった理由なんてないはず。むしろこういう状況に陥ったら、恥ずかしさの類の感情が芽生えるのが普通だ。
なのに、俺が抱いたのはもっと別の感情で......
「......ということで、今日の放課後コンビニ来てよ?あ、場所はわかるよね?」
「え......いや、あの!」
いつのまにか立場は逆転し、見下ろす側だった俺は上へと上った先輩に逆に見下ろされる側となっていた。
ちょっと待てと手を伸ばしかける。しかし、もう手遅れだった。
「じゃ!そういうことで!」
俺の無言の訴えもむなしく、今井先輩は颯爽と姿を消してしまった。ひとり取り残された俺はやれやれとため息をつくほかなかった。
にしても、先ほどの今井先輩が一瞬だけいつもと少し雰囲気が違っていたのは......あれは俺の気のせいだったのだろうか。
今井先輩から耳打ちされる瞬間、彼女の声色に重みが加えられたような気がした。恥じらいとはまた違った感情を抱いたのもそのせいだったのかもしれない。だとすれば、あの時俺が感じたのは恐怖とかそういった感情だろうか、今となってはそう振り返ることしかできないが。
でももし、そうなのだとしたら......
俺は一体、何に怯えて────。
「────お、せいくーん」
「......」
また馴染みのある声が下から聞こえてきた。違和感を拭いきれないまま今度は誰かと声が聞こえてきた方を見てみると、そこにはモカと蘭がいた。
「なんだ、お前らか」
「どうしたの?元気なさそうだけど」
「いやその......さっき、今井先輩から急にバイトの手伝いお願いされたからさ」
「あ〜、もしかしてモカちゃんの分〜?」
「そうだよ!第一お前が用事なんて作らなかったらこんなことに......」
ぶつくさと文句を垂れようとする寸前で、俺は一度思い留まった。
強制とはいえ、もはやこれは決定事項である。先輩からのお願いとなれば拒否なんてできるわけないし、であれば素直に今ある現実を受け止めた方が後々のことも考えると賢明な判断であることは間違いない。
それに......
「......いや、やっぱいいわ」
「およ?やけに素直だねぇ」
「ふふっ、まあそれが流誠らしいっちゃ流誠らしいんじゃない?」
「せいくん優しいもんねー」
なんだか上手く言いくるめられてる感が否めないが、俺はそれを渋々聞き流すほかなかった。そんな中、蘭が思い出したようにパチっとまばたきをしてこう言った。
「あっ......ていうかモカ、あたし達おつかい頼まれてるんだから早く戻んないと」
「......それってもしかして、ともちゃん達に頼まれたとか?」
「ぴんぽーん、大正解〜」
やはりそうだった。休み時間に入って蘭とモカが突然いなくなったのは知っていたが、その理由まではよくわからなかった。でも、今考えてみると納得がいった。
なぜあのタイミングでモカと蘭がおつかいを頼まれたのか、ともちゃんとひーちゃんが“あのこと”を話題に持ちかけてきたのか......
どうやら俺は、だいぶ気を遣われているらしい。
「......あっ、そ」
「ん?......まあいいや。早く行こ、モカ」
「は〜い」
ひとり納得した様子の俺を置いて、2人が階段を上り始める。俺はその後ろ姿を少し下の目線から見送った。
......いや、違うな。
ずんずんと前へ進む蘭と、その少し後ろを行くモカ。
見送ったというのは、それらの背中が消えゆくまでの間、俺が身動きがとれないでいただけだ。
なぜか、そこから目を離してはいけない気がしたのだ。
▼
「......以上で467円になります」
「レシートはいらないから」
「わかりました。......こちら、お返しの33円です。ありがとうございました」
お釣りを手渡し、入り口に向かうお客さんを目で追う。自動ドアから外に出ていくのを確認してから、俺は思いきりため息をついた。
「あぁ〜......なんだってこんな日に限って人が多いんだよ」
時計を見てみると、短針は8の数字を指していた。バイトしに来たのが何時だったのか忘れたが、時間単位でぶっ通しで仕事をこなしていたことだけは覚えている。
しかし本当に疲れた。下手したら陸上の練習メニューの中でも最難関である1時間インターバルよりもキツいかもしれない。しかし考えてみれば、ただただ走り続けるより相手のご機嫌を伺いながら作業を行うこっちの方が厳しいのは当然のことか。
腰に手を当てて大きく反りを返すと、ポキポキと小気味よくなる骨の音に紛れて溌剌とした声が舞い込んできた。
「流誠おつ〜☆初めてにしては様になってるみたいでよかったよ〜」
「先輩......」
ちょうど陳列棚の配列を終えたのか、空っぽのカゴを持った今井先輩が俺に向けて労いの言葉をかけてきた。生憎、ただの煽りにしか聞こえない。ウザい。
「仕分け、随分と長かったですね。おかげでお客さんがこっちに集中しまくりでしたよ」
「こらこら、目が怖いぞ〜?ほら、接客する時はどういう態度でいるんだったっけ?」
「先輩は同業者なんでなんの問題もないですね」
とは言ってもこれでも相手は学校でも
そんな俺の頬に、突如として鋭い痛みがはしった。
「あっ、づぁッ!?」
当てつけな笑顔がために目を瞑っていた最中の不可視からの衝撃に、思わず肩を跳ねさせる。何事かと思って元いた場所より数歩ほど離れた場所から辺りを確認すると、今井先輩がしたり顔でこちらを見つめていた。片手には大きな顔の目立つキャラクターがマスコットのキャンディアイスが2つぶら下がっていた。痛みかと思った謎の感覚の正体はあのアイスの冷気によるものだったらしい。
「まあまあ、これでも食べて休憩しよ?」
「人を物でつりやがって......それはそうと勝手に食べていいんですか?」
「店長の奢りで取り置きされてたやつだから大丈夫。助っ人呼んだアタシの分と、その助っ人本人である流誠の分!さあ入った入ったー!」
「うおっ」
今井先輩は俺の背中を押してそのまま休憩室へと連れて行った。休憩室に放り込まれるや否や、今井先輩はソファに座って自分の隣へと俺を案内した。
「ここ座りなよ」
まるで我が家のように振る舞う今井先輩に眉を潜めながら、どこか逃れる場所はないかと他のイスを目で探した。が、結局見当たらなかったがために大人しく彼女の隣に座ることにした。
「失礼します」
「あっははは、流誠ってホント礼儀イイね」
先輩はそう言いながら俺にアイスを手渡してきた。俺も二重の意味で「ありがとうございます」と述べてからアイスを受け取り、余分な水分を拭き取ってから勢いよくパッケージを割いた。
「モカから流誠の話聞くんだけど、そんなかでも流誠の人当たりの良さとか聞いたりしてたから、今改めて納得できたよ」
「買い被りすぎですよ」
「あはは、確かにそうかも。さっきだって先輩のアタシに向かって生意気言ってたし」
「メリハリってやつです」
上手い具合に評判を上げてから落としてくる今井先輩にモカの姿が照らし合わさって仕方がなかった。アイツのからかい癖もこの人由来のものなのだろうか、だとすれば先輩はモカの師匠とも言えることとなるが......そう考えると、なんだか先輩のことが恐ろしく感じてきた。
不吉な予感を覚え、たちまち思考を覆す。代わりにとある関心が生まれた。
「ていうかまさかとは思いますけど、アイツっていつも俺のことばっか話してるんですか」
「そうだよ?しつこいくらいにね」
「......っすか」
薄々感づいてはいたがやはりそうだった。どうしてこうも俺の周りには余計なことばかり言い漏らす奴ばかりいるのだろうか。中には天然さ故に仕方がないと割り切れる奴もいるが、モカに至っては故意に違いないのでもはや目も当てられずにいる。
でも、今回のはなんだか違った。いつもなら人を出汁に話の裾を広げるモカでも、影では人の良さを認めていたのだ。そういう奴なのは前々から知ってはいたが、まさかここまでとは思いもしなかった。実際俺も......少しだけだが嬉しかった。
そんなこんなで談笑していると、いつのまにかアイスも食べきってしまう寸前にまで達していた。
残り少ない水色の氷菓を口に頬張る。シャリシャリとした食感を味わってから溶けきって液体となったそれを、俺は喉へと流し込んだ。
「......ふぅ。ごちそう様でした」
パンっと手を合わせて食後の挨拶をする。先輩はというと、最後の一口をまだ食べきれずにいた。
「先輩?あとちょっと食べないんですか」
俺と同じくらいまで食べ進めていた先輩の口が急に止まったがために、その光景に俺も違和感を覚えずにはいられなかった。そんな俺に向けて、先輩はこう呟いた。
「流誠、覚えてる?アタシが学校で言ったこと」
「え......」
藪から棒な質問に、俺は目を白黒させた。それも束の間、質問に答えるべく曲がりなりに思考を巡らせた。
確か先輩は......
「────......あっ」
「......思い出したみたいだね」
「はい......“聞かせてもらわなきゃいけないこと”────ですよね?」
聞き返すと、先輩は俺が学校で耳打ちされた時と同じような雰囲気でうんと頷いた。それならすでに終えただろうと思い込んでいたが、どちらかといえばあれはあくまでも先輩からの話題責めだった。故にそれではまだ目的が果たされていない。
先輩が聞かせてもらわなきゃいけないことは......
俺が言わなきゃいけないことは、まだ知らされていないままだ。
「......何が聞きたいんですか」
なんて、言ってみた。それでも心のどこかでは何なのか、薄々予想できていたのかもしれない。じゃないと、この状況でここまで苛立ちを覚えることなんてないから。
「うん、じゃあ単刀直入に聞くけど......」
「......」
先輩の手に握られた棒から、アイスがとろとろと溶けていく。まるで俺の怒りの熱に呼応しているかのようだった。やがてそれは先輩の手へと伝っていった。それでも先輩は、俺から目を離すことはなかった。
だから俺も淡々と、続く言葉を待ち望んだ。済ませるなら早くしてくれ、そんな嫌悪にも似た望みだった。
人間というのはこう何度も同じことを聞かされると苛立ちを覚えることの多い生き物である。例えばそれは親からの宿題のことへの言及だったりだとか、ありふれた日常の中でもそのような人間の傾向が見られる。
夏の日差しのようにしつこいくらいに照りつける現実。
それはもちろん、家庭内での戯事に留まらず......
「────モカのこと、どうするつもりなの?」
立ちはだかる現実に、差し迫る現実に、どこまでも追いかけてくる現実に。
────紛れもない『現実』に、俺は苛立ちを覚えずにはいられなかった。
いかがだったでしょうか。次回は不定期更新を予定しております。お楽しみに。
......はい、そういうことです。本編終わったすぐにこんなことを言うのもなんですけど、ここ数日で勉強量の多さに驚いた次第であるのです。正直このまま1、2週間間隔で仕上げるのは厳しいかと...今回の話もたまたま話の流れが掴めたってだけで、かなり行き詰まってしまったのが本音です。
なのでこれからは本格的に学業を優先、執筆活動はこれまでよりもさらに二、三の次にさせていただけたらなと思います。前回遅くても2週間以内には投稿すると言ったばかりなのに、身勝手の連続で大変申し訳ありません。それでも、こんな作者でも良いのであればこれからも応援のほど、よろしくお願いいたします。
お詫びと言ってはなんですが、下記に流誠くんの新規ビジュアル画を載せておきます。身長を伸ばすために牛乳を飲んでいます。ご査収くださいませ。
ビジュアル画 3
【挿絵表示】
それでは今回はここまで。また次回お会いできたらお会いしましょう。さいなら!