Afterglow〜Episode of Another〜 作:ある@誠心誠意執筆中
メンバーからAfterglowの音楽性や方向性、そして各機材などの専門的な用語などについて説明してもらってから数日、俺はAfterglowの一員としての自覚を持ち、メンバーのサポートに明け暮れていた。
「......よし。今の曲、
いいカンジに仕上がってきたな」
「うんうん!私たちの幼馴染パワー最強って感じ!?我らAfterglowにコワイものなしっ!てね〜!」
「そうだな。けどひーちゃん?Aメロのとこ音外してたよね」
「うっ......」
「低音域担当だからってぬかってるんじゃダメだよ」
このように俺は、5人の演奏を黙聴し、どこを改善すべきか、継続していくかをメンバーに伝えている。もはやスタッフなんて下っ端ではなく、言わばAfterglowの監督だ。
「まあまあ。ひまりちゃん、ナイスベースだったよ!」
「ひまりちゃん、ナイスベース」
「もぉ〜!」
「ほらモカ。ほどほどにしとけよ?」
と、どうにか励まそうとつぐちゃんが、続いて多少の揶揄いを含めたモカが口を開き、最後にともちゃんが止めにかかる。しかしそうやって甘やかしすぎていても意味が無いのだが......
モカの「励まし」に関してはむし、大歓迎である。演奏力の向上にも繋がるし、何より、ひーちゃんの反応がおもしろい。
「蘭は今の演奏、どう思った?」
と、先ほどの場を制したともちゃんが蘭に感想を聞いた。
それに対して蘭は、
「......『いつも通り』だね」
満足げに微笑んだ。
『いつも通り』。
俺たちにとってのその言葉には、文字通りの本来の意味以外にも、「いつも100%の力を出せる。そしてそれが当たり前だ」という意味が込められている。
「でたっ、蘭の『いつも通り』!」
「おおー」
お褒めの言葉をリード役であるボーカルから言われて、他のメンバーも満足そうだった。
「ちょっと、変な風にいうのやめてよ。流誠は、どう感じた?」
「ひーちゃんが間違えたのが惜しかったが、俺も蘭と同意見だ。みんな前よりかは確実に上手くなってたし」
「ふふ......そうだね」
「確かに〜」
「も〜、話を掘り返さないでよ流誠〜!二人も賛同しないで〜!」
「次、頑張ればいいよ!ひまりちゃん!」
「うぐ、今はつぐの優しさが痛く感じるよ...」
ひまりのリアクションに笑みを禁じ得ず、みんながひとしきり笑いあった。
その後、モカが唐突にこう切り出した。
「ところでさー、スタジオにこもりっきりの練習も飽きてきたことないー?そろそろライブ、したいかもー」
ライブの開催を提案してきた。
「いいね〜!!
そろそろスタジオ飛び出して、
ライブやりたいかもっ!」
「いいね」
「アタシも同感。久しぶりにステージで派手にドラム叩きたいしな」
「うんっ!私もキーボード、がんばるよ!」
「ライブ、か......そういえば俺、Afterglowのライブ見たことなかったな」
ライブと聞いて思い浮かぶのは、せいぜいMCの掛け声や熱気滾る演奏に合わせて盛り上がるフロアぐらいだ。むしろそれが正答なのだろうか、いずれにせよライブという行事は俺にとって未知のものだった。
「ライブ、おもしろいよ〜?特にひーちゃんなんか、ライブするたび感動して泣いちゃうしねー。この前のライブも......」
「ええっ!?この間のはなんていうか、たまたまっていうか......もぉ、モカ!流誠にいらないこと教えないで〜!」
と、これまた、一笑。相変わらず、何度見てても飽きないな。幼馴染のやりとりっていうのは。
「ははは。ひまりはモカにはかなわないな。......っと、そろそろ終わりの時間か。」
ともちゃんの言う通り、時計を見てみればライブハウスで貸し切りにしているスタジオの制限時間が迫っていた。
俺たちAfterglowは、いつもここのCiRCLEというライブハウスにある練習部屋で練習している。と言っても俺は、ここに通い始めて数ヶ月程度しか経っていない。だからといって右往左往としているわけでもないのだが。俺がこの短期間でサポート等できるようになったのも、ここのスタッフの月島さんのご指導あってのことだし。ありがたいことだ。
「ほんとだ。あっという間だったな。みんな練習で疲れただろうし、帰りにどこか寄って行こうか」
「さんせーい。あたし山吹ベーカリー行きたーい」
「それじゃ、モカちゃんの好きなパン屋さん寄って帰ろっか?」
「わーい」
「と、なると...」
「まずは片付けだな」
「だな」
行き先は山吹ベーカリーに決定。ただお店側にも閉店時間という約束事があるので、行くなら早めに片付ける必要がある。
俺達は言わずもがな、手慣れた手つきで片付けし始めた。誰が何の片付けをするか、役割分担もいつも通り。
「じゃあ、スタジオ代は私が払ってくるから
みんな、お金、私にちょうだーい」
その間に、ひーちゃんがスタジオ代を払うこととなった。
「いくらだっけー?」
「いつも同じ金額でしょ〜!」
「そうだっけー?えーっとー......
100円だっけ?」
「ちーがーうー!」
まーたモカがひーちゃんいじめ始めたか...
「こらモカ。ひーちゃんをいじりたい
気持ちも分かるが、」
「分からないでよー!」という声がドアの閉まる音とともにスタジオに鳴り響く。
「 今は話が別だぞ?なにせ、やまぶきベーカリーに行けなくなるかもしれないんだからな」
「えー!それだけは絶対やだー!」
「なら黙って片付けできるでしょ、モカ?」
「はーい...」
蘭と俺は阿吽の呼吸からか、モカにとってあってはならない事態を双方から言い放った。それを聞いたモカは、のそのそと片付けを再開した。
「ふふっ、ほんと流誠くんとモカちゃんと蘭ちゃんの三人って、私たち幼馴染の中でも特に仲が良いよね!」
つぐちゃんの言う通り、再会した時に知ったことなんだが、俺と蘭とモカの三人は他の三人と比べて特に仲が良かった。俺はあまりそのことを覚えてないが、モカのボケには自然とツッコミを入れたり、蘭とは何かと気が合うので、揺るぎない事実なのだろう。
そんなことを考えていると、蘭の携帯から甲高い着信音がスタジオに鳴り響いた。
「......」
電話の発信主を確認した蘭は、変わることがあまり多くない表情を曇らせていた。
「「蘭?」」
そんな蘭を見て変に思った俺とモカは同じタイミングで、どこか様子のおかしい親友の名前を呼んでいた。
が、当の蘭は支払いから帰ってきたひーちゃんと入れ替わりで、「ごめん、席外す」とだけ断ってからスタジオの外へとそそくさと出ていってしまった。
「お待たせー!支払いと次の予約、終わったよ!」
「こっちも片付け終わったよ」
「ナイスタイミンーグ!それじゃあ帰りますか〜」
つぐちゃんの言葉を聞いて、モカの世話などに手間がかかったせいで片付けをした覚えのあまりなかった俺は、思わず後ろを振り返った。そこには先ほどのシールドなどでごちゃごちゃとした室内とは似ても似つかない殺風景と、綺麗に仕舞われた楽器が壁に立てかけられていた。これを主につぐちゃんとともちゃんの女の子二人でほとんど片付けたというのだから、驚きを隠せない。
が、俺と同罪であるはずのモカはそんなことに悪びれもせず、未だに戻ってこない蘭のことを心配していた。
「......ねー、蘭はー?」
「ああ......まだ電話から戻ってきてないだみたいだが、──あっ」
俺も話題を蘭へと向けた直後、蘭が帰ってきた。
「......ごめん。ちょっと電話してた」
「「......」」
依然俺とモカは、見逃さずにいた蘭のあの表情を忘れずにいた。
「蘭、大丈夫か?そんな疲れた顔して......」
ともちゃんがすかさず蘭の方へと歩み寄る。そんな心配そうなともちゃんに蘭は目を丸くさせると、すぐさま目を泳がせて首をふるふると横に振った。
「なんでもない......早く行こ。じゃないとモカの好きなパン屋、閉まっちゃうよ」
「っ!ほんとだー、もうこんな時間!モカちゃんの命の源でもあるパンが食べられないなんて、モカちゃんショックで死んじゃうよー」
「だろうね」
蘭の言動はまるで、モカを盾にして自分の何かを悟られないようにするかのようだった。かくいうモカも、蘭の思惑にわざと引っかかってあげてるように見えたのは気のせいだろうか。とりあえずモカのいつもの言動についてはいつも通り適当にいなしておこう。
「はいはい、パンは命ですねーモカさん」
「先、行くよ」
「へいへい。らしいから、行こう、みんな」
蘭は出発の合図を俺を中継して、みんなに伝えた。
「ははっ、これも『いつも通り』ってやつだな」
「あははっ、ほんとだね」
「どんな時も『いつも通り』であること...アタシは嫌いじゃないけどな」
「そうだね」
「巴ー!つぐー!早く早くー!」
「はいはい。それじゃ、アタシ達も行こうか」
「うん!」
そんな何気なく『いつも通り』に過ごす俺たちは、これから起こる試練の気配に、気づくことは無かった。
......いや、それはどうやら俺だけのようだ。
「ああっ!」
孤児院の門限を、優に越していたのだった......
いかがだったでしょうか?次回は都合により11月24日の19時30に投稿いたします。その都合についても24日にお知らせしますので、どうぞお楽しみに!
ではまた!