Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

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お久しぶりです。あるです。

今回も番外編...ではなく、本編とまったく関係のないストーリー、いわゆるif世界線のストーリーを書かせていただきました。前回言いそびれたので急でなんですが、これを機にif世界線用の章も作りました。タイトルも少し違いますね。


はい。ということで新章スタートです。ご存知の通り筆者の気まぐれスキルのせいで物語の進行がバラけてしまいがちですが、どうかご了承くださいませ...



それでは本編、どうぞ!






特別章 If:World
世界線α 『さす四つ又』と『卓上の魅』①


朝目覚めると、俺はいつも背伸びをする。

 

 

 

 

背伸びをした後、洗面台に行く。

 

 

 

 

顔を洗い、歯磨きをし、鏡に映った自分に「おはよう」と呼びかける。

 

 

 

 

タオルで顔を拭き取る最中、ちょうど聞こえてくる先生の声に従ってキッチンへ向かう。

 

 

 

 

そんないつも通りの朝のルーティン。俺の一日はここから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして、そんないつも通りに違和感を見出すのに、俺はあまり時間を要さなかった。

 

 

 

 

 

「......あれ」

 

 

 

 

 

口元からマグカップのふちを遠ざけ、訝しげにその中身を覗く。そこにはもちろん朦々とした湯気とともに香り立つコーヒーが入っていた。

 

 

 

 

 

「先生」

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「今日のコーヒー、なんだか不思議な味ですね。というかまるで味がしないみたいで、いつもよりも匂いが引き立ってる感じがします」

 

 

 

 

 

先ほど喉に流し込んだコーヒー、奇妙なことに味が感じられなかった。本来コーヒーというものは香りを楽しむものである。なんていうどこかで聞いた受け売りの言葉を俺は信条にしていたため、あまり不快にこそ感じはしなかったが。

 

 

 

 

 

「新しいブレンドですか?」

 

 

 

 

 

「いえ?いつものモーニングショットと変わりないはずなんですけど」

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

きょとんとした先生に俺も目を丸くする。ただの気のせいだったのか確かめるためコーヒーをもう一度口に含んでみたが、やはり無味のままだった。

 

 

 

 

 

「あれ......?おかしいなぁ」

 

 

 

 

 

「少し疲れてるんじゃないんですか?最近、部活とバンドに家事で働き詰めだったでしょう」

 

 

 

 

 

「それはいつものことですよ」

 

 

 

 

この人は俺が毎日毎日家事に勤しんでいる......いや、勤しまされていることに気づいてないのだろうか。ただでさえ部活等他方面での活動で体は悲鳴をあげているというのに、先生はそこに鞭打つようにいつも家事の手伝いをせがんでくる。まあ家族の人数も人数だし、第一に俺もその一員なので快く引き受けてはいるが。

 

 

ともかく労働者の気苦労もろくに労われない雇用者はごめんだ。俺は嫌気がさしたので、すでに食卓の並べられているリビングへととぼとぼと向かった。テーブルの上にはやはり、いつも通りの和食の目立つ朝食が軒を連ねていた。

 

鮭のバターしょうゆ焼き、汁をたっぷり吸った麩とワカメの浮かぶ味噌汁、カボチャの煮付けとデザートに大好物のりんご......俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

先ほどは恩の“お”の字もない先生の薄情さに呆れてはいたが、これが先生の示し方というのならそれはそれで許してやろう。

 

 

 

 

 

「よいしょ」

 

 

 

 

 

イスを引いて着席する。さらに近くなった食器達に誘惑されるあまり箸に手を伸ばしかけたが、そこはぐっと気持ちを抑えて、食前の挨拶の構えをとった。

 

 

 

 

 

「......いただきます」

 

 

 

 

 

食材への感謝の表明も終わり、俺は食べる権利を得た。であれば、それを無駄にすることなどあってはならない。命をいただく以上全力でいただかなければ。

 

 

箸を右手に取り、食器を左手に持つ。掴んだ具材を口へと運ぶ。そして舌の上の感触を味わいながら、ゆっくりと咀嚼し......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───訪れるはずの美味の不在に、そのあまりの不自然さに吐き気を催した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせみんな」

 

 

 

 

 

「あ、蘭ちゃん!」

 

 

 

 

 

屋上の扉を開くと、いつも通りの光景があたしを出迎えた。急いで階段を上ってきたので体は疲弊しきっていた。

 

 

 

 

 

「遅かったな、呼び出しくらってたとか?」

 

 

 

 

 

「またなんかやらかしたのー?」

 

 

 

 

 

「はいはい、トイレに行ってただけですよ」

 

 

 

 

 

人聞きの悪い推測をつっぱねながら地面に座り、カバンの中から弁当箱を取り出す。早速中身を見てみると、タコの形をしたウィンナーが入っていた。

 

 

 

 

 

「お、タコさんウィンナーじゃーん」

 

 

 

 

 

「タコといえば、蘭!だよね!」

 

 

 

 

 

「ちょっ......もうそんな前の話引っ張り出さなくていいから!」

 

 

 

 

 

ひまりの発言を毛嫌ったのは、中学校の頃にみんなと行った井ノ島での出来事を思い出したからだった。

 

水族館のお土産ショップで何を買おうか悩んでいたのでモカとひまりに助けを求めた結果、オススメされたのはタコのフードタオルだった。つぐみはイルカ、巴はサメと他のみんなはちゃんとそれぞれのイメージに合った動物がモチーフのグッズだったのに、あたしのはどうしても腑に落ちなかった。後でモカからそのチョイスの理由を聞いてみると「メッシュの色が赤色だから」と、これまた意味不明な理由だった。

 

 

以来、あたしはタコに対してそこはかとない嫌悪感を抱いている。

 

 

 

 

 

「井ノ島のやつか!懐かしいな」

 

 

 

 

 

「巴も話の裾広げなくていいから......!」

 

 

 

 

 

「ゴメンゴメン......あ、そういやさ」

 

 

 

 

 

言い逃れでも試みているのか、巴が突然何か閃いたような口振りをした。

 

 

 

 

 

「前に井ノ島行った時は流誠いなかっただろ?だから、今度は六人で行きたいなーって思ったんだけど」

 

 

 

 

 

言われてみれば確かにそうだった。そんな巴からの提案に、あたし達はもちろん同意した。

 

 

 

 

 

「おぉ〜、いいねー」

 

 

 

 

 

「巴、ナイスアイデア!一度行った私達なら案内もできるし、ピッタリじゃん!」

 

 

 

 

 

あたしも静かに頷く。確かに井ノ島プチ旅行は楽しかったが、流誠がいなかったせいかちょっとだけもの寂しい感じもしていたのもまた事実だった。今度は流誠も入れたみんなで、思い出を上書きしたい。

 

 

 

 

 

「私も賛成!でも、いつにする?」

 

 

 

 

 

「そうだな......やっぱり前と同じ連休とか?てかまず本人に確認しとかないと──」

 

 

 

 

 

巴が流誠はどこかと視界を巡らせる。しかし、求めていた彼の姿はどこにも見受けられなかった。

 

 

 

 

 

「あれ?そういえば流誠は?」

 

 

 

 

 

同じクラスメイトだからなのかひまりがあたしに問いかけてきた。

 

 

 

 

 

「わかんない。言い忘れてたけど、アイツ朝から気分悪いのか保健室行ってたから。でも今はどこにいるのか......」

 

 

 

 

 

「え〜?それを早く言ってよー」

 

 

 

 

 

「大事なことじゃん!」

 

 

 

 

 

「今更いないことに気がついたヤツに言われたくないんだけど」

 

 

 

 

 

あたしの的確なツッコミにモカとひまりは申し訳なさそうに頭を掻いた。まあ流誠自体影が薄いので、一概にモカ達が悪いとは言い切ることはできないが。

 

 

 

話題は井ノ島から流誠の体調不良のことへと様変わりし、旅行への膨らむ期待も連なるように心配へと変わっていった。

 

どうしたものかと一同頭を抱え込む。そんな重苦しい空気の中、ぎい、と扉が開かれる音がした。

 

 

 

 

 

「あれ?誰だろ......って」

 

 

 

 

 

「みんな......」

 

 

 

 

 

扉から出てきたのは、あの流誠だった。

 

 

 

 

 

「流誠!!」

 

 

 

 

 

「噂をすればなんとやらー」

 

 

 

 

 

「流、聞いたぞ!?もう大丈夫なのか?」

 

 

 

 

 

「うんまあ......ごめんな、心配かけたみたいで」

 

 

 

 

 

そう言って向けられた流誠の笑顔は、誰がどう見ても偽物とわかるような無理やりなものだった。もちろんあたし達はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

「顔色悪いままじゃん、嘘つかないでよ」

 

 

 

 

 

「とりあえず座ろ!ね?」

 

 

 

 

 

「ほら、肩貸すよ」

 

 

 

 

 

巴とひまりに介抱されながら流誠が腰を下ろす。鉄柵に背中をもたれかけたところで、流誠の表情が少し和らいだ。

 

 

 

 

 

「ありがとう二人とも。......ふぅ」

 

 

 

 

 

「にしてもどうしたのー?健康第一のせいくんが珍しく体調崩すなんてさー」

 

 

 

 

 

「別に......」

 

 

 

 

 

流誠のモカへの曖昧な回答に、あたしは眉を潜めた。

 

 

 

 

 

「流誠、なんか隠し事してない?」

 

 

 

 

 

「隠すつもりなんて最初からねぇよ。ただ......」

 

 

 

 

 

変に渋る流誠に、あたしも「ただ?」と聞き返す。すると流誠は自分の唇をそっとなぞりながらこう答えた。

 

 

 

 

 

「───味が、しないんだ」

 

 

 

 

 

「味がしない......?」

 

 

 

 

 

「どういうこと〜?」

 

 

 

 

 

まさか食べ物の味がしないとでもいうのだろうか。だとすれば相当な重症だが......

 

 

 

 

 

「まんまの意味で食べたもの全てから味が感じられないんだ。それがすごく気持ち悪くて......そのせいで体調も崩れたんだと思う」

 

 

 

 

 

「そんな......」

 

 

 

 

 

どんぴしゃだった。では一体何がここまで流誠を陥れたというのだろうか。問題が明らかになったところで、論点は原因究明へと変わった。

 

 

 

 

 

「でも、なんで急に味覚がなくなったんだろうな」

 

 

 

 

 

「ストレスとかー?」

 

 

 

 

 

「生活習慣とかは特に変わったことないし、それはないと思うんだ」

 

 

 

 

 

「そっか......」

 

 

 

 

 

ストレスで一時的な味覚障害を引き起こすことは耳にしたことがあるが、それでもないなら一体何なのだろうか。念のために本格的な病気に罹っているのではないかと確認をとったものの、「それこそ絶対にない」とキッパリと言い切られた。

 

 

と、モカがここで何かに気がついた。

 

 

 

 

 

「ん?待てよ......それじゃあせいくんって朝から何も食べてないのー?」

 

 

 

 

 

「まあ、味見程度の一口目だけだけど──ってわあっ!?」

 

 

 

 

 

流誠が空元気な大声をあげる。その視線の先にはずいずいと流誠に迫るつぐみがいた。

 

 

 

 

 

「ダメだよ!ちゃんと朝ごはん食べないと、それこそストレスの原因になるんだよ!?」

 

 

 

 

 

「ちょっ、つぐちゃん落ち着いて......!なあ!みんなも何か言ってくれよ!」

 

 

 

 

 

流誠が傍観するあたし達に向けて助けを請うてきたが、そっと成り行きを見守ることにした。それは、つぐみがなぜこれほどまでに敏感になっているのか──その理由を知っていたからだった。

 

おそらくつぐみは自らが過去にストレスによって倒れたがために、流誠をその二の舞にさせないようにするべく躍起になっているのだろう。流誠は自分のことは自分が一番よくわかってると言いたげだったが、それはつぐみも同じだった。今のつぐみには流誠と過去の自分が照らし合わさって見えているのだ。

 

 

 

つぐみは手に持った弁当のふりかけご飯を箸で大振りにつまむと、それを流誠の口元へと本人の否応なく寄せていった。

 

 

 

 

 

「ほら食べて。味がしなくても栄養はちゃんとあるんだから、食べないままだと元気にならないよ!?」

 

 

 

 

 

「いっ、いーやーだぁ......!」

 

 

 

 

 

「食べなさい!!」

 

 

 

 

 

「んぐぐぐ!!!」

 

 

 

 

 

つぐみと流誠の攻防はさながら母子の喧嘩だった。いつもなら逆の立場で手の焼く弟妹達に同じように振る舞っているはずの流誠が、こうも一方的に防戦を強いられるとは。

 

 

 

 

 

「「「「......」」」」

 

 

 

 

 

つぐみの底力の強大さと流誠の意外なひ弱な一面を、あたし達は肩をすくめながら側から見守り続けた。

 

にしても微笑ましいものだ。母子の小競り合いとは言ったが、なんだか子犬同士の戯れのようにも見えてきた。

 

 

 

晴れやかな屋上に平和な時間が流れる。今日もいつも通りで何よりだ。そんな陽だまりのなか、あたしは小さな喧騒に耳を傾けながら再び箸を進め始めた。

 

 

 

 

が、その直後、あたしの手から箸が落ちた。

 

 

 

 

 

「あれ──」

 

 

 

 

 

最初はカランコロンという音を耳にして、そこから「ああ、箸を落としたのだな」と直感した。

 

そうこうしているうちに菌が付着してもいけないので、慌てて地面に目を向ける。が、いくら目を凝らしてもあたしの近辺に箸らしきものは見つからなかった。

 

それもそのはず。あたしの手にはなんと落としたはずの箸が握られていたのだ。どうやらあたしはタイミングもタイミングで早とちりをしていたようだ。

 

 

 

ではあの音はなんだったのか。その答えは案外すぐに見つかった。

 

 

 

 

 

──衝撃的な光景とともに。

 

 

 

 

 

「ちょっ......!」

 

 

 

 

 

音の出所を探していると、奥の方でつぐみが仰向けに倒れているのが見えた。でもそれはただの転倒ではなかった。

 

 

 

......子犬はいつしか大人になり、野生であれば立派な野犬となる。野を駆け獲物を狩るその姿は、まさしく野生そのものだ。

 

 

しかし、あたしが目にしたのはそれよりもっと恐ろしいものだった。そのあまりの非現実さに言葉を失う。第三者であるはずなのに、あたしはまるで直接睨まれているような錯覚に陥った。

 

 

口を小刻みに震わせ、その隙間からは獣のような犬歯がこれ見よがしにその容貌を覗かせている。逆立った髪の毛には殺気のような歪なオーラが漂っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

──狼だ。

 

 

食に飢えた、真の意味での野生。

 

 

 

 

 

「なに、してんの」

 

 

 

 

 

言葉を投げかける。しかし、己が欲求を満たさんとする獣に、人間の言葉など通じるはずもなく────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────流誠......?」

 

 

 

 

 

血走った眼で押し倒したつぐみを捉える雄狼に、あたしはその名前を呼びかけることしかできなかった。




いかがだったでしょうか。次回は3月8日(最近日にち跨いでばっかで申し訳ない)の20時30分に本編を投稿予定です。お楽しみに。


はい。読んでもらってる最中に気づいた方もいるかもしれませんが、今回は「ケーキバース」という創作設定を基に執筆しました。詳しくはGoogle先生に聞いてみてください。刺さる人には刺さります、コレ。



それではまた次回お会いしましょう。さいなら!
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