Afterglow〜Episode of Another〜   作:ある@誠心誠意執筆中

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喉痛いィィィィィイイイ!!!!!!


第8話 各々

放課後の陸上の練習中、昼休み予想していた通り例の霧が濃くなっていくのを感じて、練習に集中できずに走行中腕と脚のコントロールが利きにくくなり、顧問の先生から指導を受けた。

 

「長門ー!もっとストライド意識して走れー!終盤スピード落ちてきよるぞー!あと腕伸びとる!」

 

 

「......はい!」

 

バンドの練習の時間割いてまでこうして部活こうしてやっている。なのにこんなものでは顔向けできない。今は集中しなければ。

 

俺は喘息の発作を抑えながら、自分で自分を鼓舞して『霧』を払い、再びスタートブロックへと向かった。

 

 

 

スターティングブロックに向かう途中、そこからグラウンド全体へと鳴り響くピストルの音が、やけに煩わしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はいつもよりも忙しく思えた。

いつもならみんなと屋上に集まっていたはずの昼休み中も仕事詰めだった私は、慣れない時間帯での作業に息をあげていた。そして今も生徒会の仕事にがむしゃらに取り組んでいる。

 

(なんだか体が重たい気がする......眠気も朝より酷くなっていく一方だし......)

 

身体をいつもより酷使し過ぎたせいか、身体への異常を感じ始めていた。限界が迫ってきている証拠だ。

 

「さて、資料の準備をしないと......」

 

一緒に仕事をしていた生徒会の先輩が次の仕事に移ろうとしていた。この先輩も、私と同じく昼間も働いている。ここは後輩として、同じ仕事を担っている先輩のお手伝いをしなければ。

 

そうやっめいつもなら仕事を引き受けているところなのだが、今の私はあまりの疲労感に押し黙ったままでいた。

 

 

その時。

 

 

『パァン!』

 

 

グラウンドの方から甲高い音が鳴り響いた。驚きのままに音の出所に見開いた目をやると、陸上部の短距離選手と思われる何人かがグラウンドを颯爽と走り抜けていくのが見えた。その背中から、さっき鳴った音の正体はスタートの際に使用するピストルによるものだったことに気がついた。

 

(陸上部......そうだ。流誠くんは今頃、陸上の練習を一生懸命に頑張ってるはず。流誠くんだけじゃない。蘭ちゃんたちだってそれぞれのやるべきことを精一杯やってる......)

 

陸上部の練習風景を見て、今は見えない所にいる幼馴染たちの頑張っている姿を連想し、思い浮かべた。すると今まで重いままだった身体が、何だか突然、枷が外れたように軽くなった。

 

疲労はやがて、やる気へと変わっていった。

 

(みんな頑張ってるんだ......だったら、私も頑張らないと!)

 

それから先輩に自分が仕事を代わりに引き受けるように言ったのはすぐ後のことだった。

 

「それ、私がやります!」

 

 

「ありがとう、助かるわ。でも羽沢さん。あなた大丈夫?昼間からそうだけど、なんだか疲れてるように見えるわよ?それにこの資料の量、結構多いし......」

 

 

「ご心配かけてすみません。でももう大丈夫です!頑張ります!」

 

 

「そう?じゃあ頼んだわね、羽沢さん」

 

 

「は、はいっ!」

 

どうやら先輩の目からは疲労感を誤魔化しきれていなかったみたいだが、なんとか言いくるめることができた。

 

 

 

何はともあれこれで仕事に専念できる。

 

 

みんなと同じく、頑張れる。

 

 

 

 

 

その時の込み上がるやる気に突き動かされてやっと動けていた私は、ただの付け焼き刃のようなもので......

 

 

少しずつ。だけど、着実に迫ってきていた限界をただ延滞していることに気付くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひまり〜!コート整備手伝ってー」

 

 

「まっかせてー!ひまりちゃんがいればあっという間よ!」

 

 

「もう、ひまりってホント調子いいんだから」

 

 

「ひまりー、頼んでた練習メニュー表、どうなってる?」

 

 

「げ...忘れてた」

 

今は、テニス部の練習が終わった後のコート整備などの作業を行なっている。

 

「ちょっと、ひまり......」

 

 

「ううう......」

 

 

「どうしてひまりはなんでも安請け合い

しちゃうかなあ......」

 

そして、軽々と色んな仕事を請け負ったツケも回ってきたところだ。

 

「だってぇ〜、頼られるとうれしくって断れないじゃん〜!」

 

こういう性分なのだから許してくれと乞うも、他の部員達はやれやれと肩をすくめるばかりだった。

 

「あーーーん!もうどうすればいいのー!」

 

それらを今さら投げ出すことなんかできず、途方に暮れていた。

 

「よ、ひまり!......おいおい、どうしたんだよ。泣きそうな顔して」

 

すると、頼れる親友である巴がやって来た。

そしてそれを見つけた私は、すぐさま巴に向かって泣き寝入りしにいった。

 

「巴〜!助けてぇ〜!」

 

その時に自分の発した情け無い声が、意気揚々とテニスコートに木霊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今部活や委員会で頑張っているみんなとは違い、何にも所属していないあたしは、一人でCiRCLEに向かっていた。

 

(そういえば、蘭はどうしたんだろう。HR終わった後、A組覗きに行ったらすでに居なくなってたし......もしかしたらもうライブハウス来てるのかも)

 

同じく帰宅部である蘭の所在を予想していると、いつのまにかCiRCLEに着いていた。

 

カウンターに向かい、手続きを済ませた後、先程の予想の解答をスタッフさんに聞いた。

 

「そういえば、蘭ってもう来てますかー?」

 

 

「ああ、蘭ちゃんなら10分くらい前から練習してるよ」

 

的中。やはり、一人で来ていたようだ。

 

お礼をスタッフさんに言ってから練習スタジオのドアを開けてみると、そこには一人、元から険しい顔をさらに強張らせながら練習している蘭がいた。

 

「おーす。蘭、来るの早いねぇ」

 

 

「モカが遅いの」

 

何を言ってるんだか。

蘭が来るのが早すぎるというのに。

 

さしずめ早めに練習を始めようとした理由は、華道の悩みをどうにか紛らわせようと焦っていたからだろう。

 

 

......早く打ち明けてくれないだろうか。あたしはいてもたってもいられなくなってきていた。

 

「まーまー。ほら、笑って笑ってー。笑顔の蘭ちゃんが一番かわいーよ」

 

 

「うるさいなあ、もう」

 

気を和らげようと、割と冗談ではない冗談を言ってみると、軽くあしらわれて終わった。

 

と、蘭の目の前に置かれているスタンドに、一枚の譜面が置かれているのを見つけた。

 

「お、もしかしてその譜面は新曲かな〜?」

 

 

「これは......まだ全然できてないから見せられない」

 

 

「ふーん。もしかして、モカちゃんへのラブソングだったり〜?」

 

 

「はいはい、そうかもね。練習、始めるよ」

 

譜面の内容を聞き、また冗談を言って、また雑にあしらわれ、練習を開始しようとした。

 

 

『ブーッ、ブーッ』

 

 

が、蘭の鞄の中から鳴り響きだした携帯のバイブ音に邪魔をされてしまう。時間的に、他の4人は部活などで電話をかけてこれないだろうから、今電話をかけてきてるのは、おそらく蘭のお父さんだろう。

 

そしてその電話の受信者である蘭は、苦悶の表情を見せながら、ただ静かに立っていた。

 

「出なくていーの?」

 

この前とは違って、電話がかかってきた現場に直接居合わせたあたしは、蘭に判断を仰いだ。

 

「いい。父さんからだから」

 

蘭は、電話の主が父親だということはわざわざ携帯画面を確認しなくとも分かりきっている様子だった。

 

「......ん。そっか」

 

だからあたしは、端的に了解の意を述べるだけにし、それ以上何も言わなかった。

 

 

それはもちろん、あまり深入りしないようにもするためであった。

 

 

「練習、しよう」

 

 

それからしがらみを断ち切るような蘭の掛け声に続き、あたし達はようやく練習を始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の陸上の練習はいつもより質も量も多く、後片付けなどを終えた時には時刻はすでに19時を回っていた。

 

部室で着替えをし、監督に挨拶をした後、練習後の疲れ切った足に鞭を入れ、自転車を駆り出しCiRCLEへと向かう......

 

 

 

前に、差し入れに何か買って行こうかと思いやまぶきベーカリーへ立ち寄った。

 

 

パンを選びトレイをレジへ持っていくと、レジ番をしていたやまぶきベーカリーの看板娘である、山吹から声をかけられた。彼女とは差し入れのパンを買いに行くたびに嫌でも会うため、それと同学年ということもあってか自然と会話を交わす仲になっていた。

 

「また差し入れ?」

 

 

「ああ。陸上の練習後のついでに、みんなに買ってってやろうかと思って」

 

 

「流石、気が効くね。でも、モカに全部食べられないように気をつけなきゃ。そうなったら本末転倒でしょ?」

 

 

「はは。確かに」

 

山吹は、俺と同じくここの常連であるモカのことをよく知っている。人付き合いがとても苦手な俺と、山吹がこうして仲良くなれたのは、モカも大なり小なり関係している。そもそものきっかけが、アイツに無理矢理連れられてパンを買いにきたことだし。

 

 

だが一番の理由は、山吹自身の人の良さなのだと俺は思う。

 

人当たりが良く聞き上手な彼女だからこそ、俺は心が開けたのかもしれない。そう思ったからだ。

 

「でも大丈夫。もしそんなことがあったとしても本人に全額弁償してもらうだけだから」

 

 

「あはは、容赦無いね......あ、お会計648円になります」

 

バーコードを読み取る音をBGMに会話を弾ませた後、指定された金額分の代金を払った。

 

ここのパンは場合によるがそのほとんどが税抜き100円均一で、とても買い求めやすい。それはパンの質の良さに次ぐここの人気の理由の内の一つだった。

 

 

レジ袋を手に取り山吹に別れを告げた俺は、再び自転車をCiRCLEに向けて駆り出した。

 

 

 

 

 

 

CiRCLEに到着し、手続きをしようとカウンターに向かう俺を見かけて、スタッフさんが駆け寄ってきた。そして今日は蘭とモカしか来ておらず、その二人はついさっき帰ってしまったことを告げられた。

 

 

思えば、今日は蘭とモカ以外のメンバーはそれぞれ別の用事があるため練習に遅れて来るか、もしくは来れないと昼休みに伝えられたような。かくいう自分も、その内の一人だった。

 

(すっかり頭から抜けてたな。にしてもどうすっかな、このパン......)

 

束の間の忘却により生まれた勘違いから買ってしまった、行き場の失ったパン達が入ったレジ袋をしばらく眺めた後、スタッフさんにお礼と挨拶を済ませてから帰ることにした。

 

 

入り口の扉を開けると、月明かりが目に入り込んできた。見上げてみると、そこには満天の星空が広がっていた。

 

ここ近辺ではCiRCLE以外に電気のついた建物があまり無いので、普通のところよりも多くの星が見える。

 

 

山間部などから見るものほどではないが何度見ても見慣れないその星空の雄大さに、何度吐いたかも分からない感嘆の息を、無意識に漏らしていた。

 

 

すると、聞き覚えのある声がどこからか聞こえてきた。

 

「流誠?」

 

それに導かれるように上空に向けていた視線を元に戻す。すると目の前には、すでに帰ったはずの蘭が立っていた。

 

「おお、蘭。帰ったんじゃなかったのか?」

 

 

「忘れ物したから取りに来ただけ」

 

聞くとどうやらCiRCLEに忘れ物をしてきてしまったらしく、今からそれを取りに行くところだったようだ。

 

「そっちは?なんか手にぶらさげてるけど」

 

と、今度は蘭から、俺の右手にかけられているレジ袋について質問された。

 

「ああこれ、みんなに差し入れでも

しようと思って買ったパンなんだけど......」

 

 

「今日は私とモカしか練習来ない事になってたはずだけど」

 

 

「それを今さっき思い出したんだよ......」

 

勘違いしていたせいで今この情け無い現状に至っていることを蘭に伝えると、やれやれと肩をすくめられた。

 

「はぁ......何やってんだか。まあいいや。お腹空いたし、一つちょうだい」

 

 

「一つどころか二つでもいいんだけどな。チョココロネでいいか?」

 

 

「ん、ありがと」

 

蘭はビターなものが好きだとこの前モカから教えてもらったので、あらかじめ買っておいたチョココロネを手渡すと、蘭は嬉しそうにそれを口へと頬張った。喜んでくれたようで何よりだ。

 

 

 

 

蘭がチョココロネを食べ終わった後、CiRCLEへと忘れ物を取りに行った蘭とそのあとについていった俺は、電灯のほのかな明かりの灯った住宅街の暗がりの中、それぞれの家への分岐点である交差点に着くまで、色々と話しながら歩いていた。

 

そしてその話題は、俺の過去の話へと移り変わっていた。

 

「『昔の俺』って、どんなだったの?」

 

 

「屋上で再開した時話さなかったっけ」

 

 

「いや、もっと詳しく知りたいと思ってさ」

 

俺はこうして蘭たちと再開できたものの、昔の記憶の全容が丸々戻ったわけではなかった。

 

 

記憶を失った直後にお世話になっていたカウンセラーの先生曰く、記憶喪失をしたとしても、過去と色濃く関係しているものと接触すれば、次第に記憶が元に戻っていく可能性が十分あるらしい。

 

けれどもやはり個人差というものがあるらしく、俺の場合は事故によって受けた反動があまりにも大きかった為、記憶を取り戻すのに通常よりも時間がかかるのだそうだ。

 

 

別に過去の自分に戻りたいだなんて思ってはいない。だが目を背けているだけではなく、ちゃんと向き合って、嬉しかった事も悲しかった事も全部ひっくるめて認めて、初めて今の俺が出来上がるんじゃないのかと、最近思い始めていた。

 

だからこうして、過去の自分のことを一番知っているであろう親友にそれについて聞いているのだ。

 

「......」

 

そんな俺の質問にしばらく思案顔をした後、こう告げた。

 

 

 

 

「女の子っぽかった」

 

 

 

 

「──は?」

 

衝撃的なその発言内容に、思わず気の抜けた声を出してしまった。

 

 

女の子っぽい????なんだそれ????

 

 

そんな心の中の疑問を、今度は口に出して聞いてみた。

 

「えーっと......具体的に言ってくれません?」

 

 

「仕草ひとつひとつが女子のソレだったり。顔つきとか体格もそんなだった気がする」

 

 

「他は?」

 

 

「他は特に......あっ」

 

 

「どした?」

 

 

「一緒にお──......や、違う。やっぱ忘れて」

 

 

「いや待て、すげぇ気になるじゃねえか。言え、言っちまえよほら」

 

 

「知らなくていいことだってあるからっ!」

 

 

「言い出しっぺお前だからな?」

 

後味の悪い締め方をされたが、何はともあれ昔の自分を少しでも知れたような気がする。それもハズレの方を。

 

「まあ、ありがとな。おかげで思い出したくもない自分を思い出せたような気がするよ」

 

 

「うん。でもなんかごめん、あまり力になれなかったみたいで」

 

 

「全然いいよ。逆に、さらに興味湧いてきたし」

 

 

「そう......なら、よかった」

 

蘭からさっき教えてもらったのが嫌な記憶だったのは事実なのだが、そんな感想とは裏腹にもっと昔のことを知ってみたいという知識欲の高まりを感じたのもまた事実だ。

 

 

前までの俺は閉ざされた記憶の詰まった箱を開けるのを恐れ、わざと知らないフリをし、ソレから逃げ続けるばかりだった。

 

だがそれは大切な親友たちとのあったはずの思い出もろとも否定することになる。だから勇気を出して、禁忌として避けてきたパンドラの箱に手を出した──。

 

 

 

だが、蓋を開けてみればどうだ。

 

嫌な気持ちは幾分かしたものの、思い出は思い出。過ぎた過去がどんなものであっても、よく考えてみてみればこれが意外と笑えるものなのだ。

 

そして、そんな過去と向き合うための前向きな姿勢を俺に与えてくれたのは、他でもないあの5人なのだ。

 

彼女たちが昔ではなく今の俺を受け入れて、そして支えてくれているからこそ、俺は俺のままでいられて、記憶も少しずつだが取り戻せている。

 

 

 

 

だから、今度は俺の番。

 

今度は俺がAfterglowのサポーターとしてみんなを支えていきたい。そしてその過程で、また五人との思い出を作り直していきたい。

 

それから蘭の華道のことも、いずれは白黒はっきりさせたい。

 

“蘭の為になる方法”を、尊重してやりたい。

 

「.....せい......流誠?」

 

 

「あーごめん。考え事してた」

 

 

「そ。じゃあ、私はこれで。また明日」

 

 

「ん、また明日」

 

時が経つのはあっというまだ。物思いに耽っていると、俺達はいつのまにか交差点のあるところまで歩いてきていた。

 

最近、「いつのまにか」を体験することが多くなってきたのは気のせいだろうか。逆に言えば、それほど楽しいと思える時間が増えてきたということなのだろう。はたまた、多忙すぎて時間がどれだけあっても足りないくらいなだけなのか。

 

 

とにかく今日のところはこれでさよならだ。

 

挨拶をし合って、押してきた自転車にまたがり、孤児院を目指しペダルをこぎ始めた。

 

「......あ、あの!待って流誠!」

 

が、数メートル先進んだところで蘭に大声で呼び止められた。まだ何か話でもあるのだろうか。

 

「どした?」

 

 

「あ......えっと、その......」

 

随分とかしこまっている様子だが......具合でも悪いのだろうか。

 

「気持ち悪いか?だったら家まで自転車に乗っけて送ってってやるけど」

 

 

「別に、そんなんじゃ......!」

 

 

「じゃあ何すか」

 

 

「......流誠って、今週の日曜日、予定とか空いてる?」

 

どうやら二日後の日曜日の予定の有無について聞きたかったらしい。それと恥ずかしがることがどう関係しているのかまではどうにも分からないが。

 

俺はいつも鞄の中に入れて持ち歩いているスケジュール表を開き、日曜の予定が無いことを確認した。

 

「うん。特に用事無いし、空いてる」

 

 

「そっか......じゃあ、さ。流誠ってここ周辺のことまだあまり知らない......というか覚えてないだろうし、だからその......その日曜日に、私が案内してあげてもいいけど?」

 

 

「......え?マジ?」

 

 

「マジだけど」

 

耳を疑った。あの恥ずかしがり屋の蘭が、自らお出掛け(?)しようだなんて誘ってくるとは思いもしなかったからだ。それも、ただのお出掛けではない。まだこの町に来たばかりで右も左も掌握しきれてない俺の為の案内役を引き受けてやると言うのだ。

 

 

 

未だに自分の事を圧迫し続けているであろう私情なんかさて置いて。

 

 

 

そう考えると、蘭の自己犠牲をしてまで親友を思いやれるまでの底知れぬ優しさが、しみじみと伝わってきた。

 

「あーもう......まったく、俺はいい親友を持ったよ......」

 

 

「ちょ、急にバカなこと言わないでいいから......それよりほら。行くの行かないの、どっち?」

 

 

「ごめんごめん。じゃあお言葉に甘えて、蘭にガイドしてもらおうかな」

 

 

「ふふっ、しょうがないな。じゃあやってあげるよ」

 

 

「おう、ありがとな」

 

こうして俺は、相変わらず素直じゃない蘭と共に町巡りを行うこととなった。一体どんな発見が待っているのだろうか、これから楽しみで仕方がない。

 

しかし、何故蘭一人だけで俺のガイドをしようだなんて考えたのだろうか。気になったので、それについても聞いてみた。

 

「でも、それだったら他のみんなも呼んだらいいのに」

 

 

「......ガイドぐらい、私一人でできるし」

 

 

(あー、ね)

 

考えてもみれば、彼女の負けず嫌いな性格を考慮すれば、一人でガイドをしようとするのも自然と頷ける。

 

つまり蘭は、案内役ぐらい一人でこなせる、というところを俺に見せたいのだろう。

 

「そっか。ま、改めてよろしくな」

 

当然そんなことを本人の前で言うわけもなく、謝意だけ伝えることだけに留めておいた。

 

すると蘭がホッとした様子で「うん。じゃあ今度こそ、また明日」と言った後、背中を向けて去って行った。

 

そんな蘭の後ろ姿をしばらく見送った後、吹いてきた心地よい夜風を感じながら、再び自転車をこぎだした。右側のハンドルでは、まだパンが5個入ったレジ袋が自転車の振動で無作為に揺れていた。

 

「しゃーない......今日の分は子供達にやって、明日にでもまた5人に買ってってやるかね」

 

そうしてパンの行く末と来る末を考えてから、もう一度星空を見上げてみた。そして孤児院のあの落ち着いた環境を目指し、ペダルに一層強く足を踏み込んだ。

 

その時の俺はきっと、希望に満ちた満面の笑みを浮かべていたに違いない。

 

 

 

 

 

愚かにも、いずれ来るかもしれない最悪の事態を案ずることすら忘れてしまうほどに。




いかがだったでしょうか。次回は12月9日の20時ちょうどに投稿予定です。お楽しみに!


さて、すっかり冷え込んできましたね。風邪にも気をつけてほしいところですが、日が落ちるのも早くなっているので、事件などに巻き込まれないようそちらも十分お気をつけください。



ではまた次回お会いしましょう。さいなら!
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