第18話 ジオフロント
今にして思えば階段から降りて改札に向かう人の流れを淀みなくすることで、人の思考を誘導していたのだろう。
だからこそ階段を降りて改札へ向かう右でなく、左後方に注意を向ける者はなく。その心理的死角に原理は分からないが人の姿を投射した入口を設置しておく。
後は人の流れから自然に外れその死角にいる人に呑まれることで、秘密の入口は開かれる。
俺は入り込んだ秘密の入口から続く薄暗い通路を歩いて行く。
人二人がやっと歩けるような広さ、そして天井自ら発光しているので何とかライトを付けなくても歩く分には不自由しない。
通路は急な坂道になっていて地下へ地下へ進んでいく。途中に踊り場とかの安全対策はなく転んで転がれば先が見えない下まで一気に転げ落ちてしまう。
否が応でも慎重にならざるえない。
一歩一歩踏み締めるように歩くため時間が掛かる上に精神的にも疲れる。だが今の俺はその疲れを上回る高揚感に包まれている。
これだけのものを一体誰が何のために作ったというんだ?
地下鉄の更に地下に向かって行く道、地底人でもいるというのか?
どのくらい歩いただろうか、体感だが100メートル以上は降りたと思う。だがやっと下まで降りたようだ。
目の前には鋼鉄の扉、扉には船の隔壁に見られるハンドルが付いている。
俺はワクワクしながら重いハンドルを回し、扉を開けた。
太陽の強烈な光を弱めたような白色の空が拡がり、真夏の日本人が忘れかけていた穏やかな日差しが降り注いでいた。
一体ここは何何だ?
穏やかな日差しに桃林に竹林が水墨画のように配置されている。
耳を澄ませば小川の潺に小鳥の囀り、そして微かに雅楽が聞こえてくる。
桃源郷に迷い込んだか?
それなら嬉しいんだがな。
よく見れば天井は果て無く拡がる空ではなく、ドーム状になっているのが分かる。
っといっても普通に見れば果てが無いとしか思えない出来映え。俺ほどの審美眼に優れた者がよくみてやっと分かる程度。
ドーム天井自体が発光しているのか?
それにしてもこの色合いは自然光に近い、もしかして地上の光をファイバーか何かで引き入れている?
ワクワクが止まらなくなる。
男は何時までも男の子、秘密の地下空間に胸が躍らない者は無い。
だがここで踊り出すほど迂闊でも無い。取り敢えず雅楽が響いてくる方に行けば人がいるだろうと、木々に隠れるように桃林の中を進んでいく。
その俺の目に平安京の絵物語から抜け出したような神官や巫女達の行列が目に入った。
行列の中心には御輿があり、その周りを神官と巫女が囲みそれぞれ鈴を鳴らし笛を吹き弦を鳴らし厳かな雰囲気を作り出して行進していく。
神々しさを感じる。
これが地上の由緒ある神社での光景だったらそう珍しくも無いが、ここは地下100メートルの空洞。
いいね~ワクワクが止まらない。
この行進の意味は中心にいる御輿に何があるかで分かる。
御輿の上に目を凝らせば、白装束を纏い決意の表情のナメアがいた。