天のいとを紡いで   作:コトナガレ ガク

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第20話 選択

 林の中に見張りがいることもなく林が途切れる所まで近寄ることが出来た。

 神殿まで50メートルくらいか。

 隠れている木から慎重に顔を出し神殿を真横から観察する。遠くから見ていた時と違い構造の細部がよく分かる。

 古代出雲神社本殿と似たような造りで30メートル近く登っていく階段状の坂になっていて、朱塗りの鳥居が一定間隔ごとに並べられている。流石に大木が無かったのか長い柱を並べて支えている訳で無く短い柱をトラス状に組み上げて積み上げている。

 そしてその坂になっている階段を登り切った先の入口には神殿というか微細な装飾を施された門、そこを抜けた広間の中央には祈祷を捧げる台、更に進んだ先端には一際大きな鳥居がある。

 鉄骨を使わず木を組み合わせて30メートル近くの高さまで積み上げた建造物は見上げる者にまず畏怖を与え、畏怖を持って見ている人間にやがて巨大でいて細部の装飾まで手抜きの無い微によってなる美によって神々しさを感じさせる。

 美しい。

 建造物単体でも美しいが、神殿の土台となる骨組みのから向こう側に流れる川が見える。

 わざわざ川を流す意味なんて、この神殿の美に華を添える以外にどんな意味がある?

 ここを設計した者は山水画が好きなのか?

 神殿の片方に桃林、片方にゆったりと川が流れる。桃源郷を意識しているとしか思えない配置。これに山があり谷に流れる滝があれば完璧だが、流石にジオフロントにそれは無いか。

 この設計者のことだ上まで登って見下ろす景色はさぞや美しいんだろうな。

 ここを気が済むまで堪能できたらどんなにいいことか。

 わざわざ地下鉄の更に地下深く100メートル以上穴を掘り、そこから30メートル近くわざわざ木を組み上げて上に上げる。

 合理からはほど遠い無駄の極み。

 だがその無駄の極みをする意味はなんだろうな。

 設計者はいい趣味をしているし好感が持てる。

 だが道楽でできることじゃない。金も掛かるが、地下にこれだけのものを作るんだ国が関与していると見て間違いないだろう。

 観光客から金を取るわけでも無いのに国が関与して行われる大規模な祭事。そしてその中心にいる白装束に身を包んだ少女。

 これが観光の祭りなら美の祭典に心の底から歓喜が湧いてくるのだが、湧き上がるのは嫌な予感。

 この嫌な予感に対処するためにも、ここにいたままじゃどうしようも無い。傍観者以上には成れない。

 神殿へ登っていく階段の前には野球の内野ほどの広場があり、槍や刀を持ち鎧に身を固めた古事記から抜け出してきたような兵士が整列している。

 だが誰がこんな人知れずある地下にある神殿に襲撃をする? 

 林に見張りがいないことからもこれは警護の為というより儀典的意味合いでいるだけだろう。

 だがだからといって堂々と正面突破を試みるのは愚かというもの。あの中に竜乃宮クラスの奴が二人いたら俺ではどうしようも無い。

 そうなると30メートルほど迫り上がっていく階段状の坂を支える木の骨組みをよじ登って行くしか上に行く方法は無い。

 落ちたら清水の舞台から飛び降りほどの恐怖を味わえるのはいいとして、本心を言えばこの美しい神殿で行われる美しい神事を傍観者として堪能したい。なのに舞台の下からよじ登っていたら見ることが出来ない。

 美しい神事を見る傍観者か本当に当たるか分からない嫌な予感に備える者のどちらかしか選べない。

 ・

 ・

 ・

「ちっ」

 目を瞑って考えればあの御輿に乗ったナメアの表情が脳裏から離れない。

 杞憂で終わったら愚かな自分を笑ってキャバクラでも行って飲み明かせばいい。

 やるぞ。

 見張りがいないとはいえ、出来るだけ見つかる可能性を無くすために神殿の真下まで行ってから登り始めた方がいいだろう。

 そう思って林の中を通って神殿の方に向かって行く。

 そして嫌な予感を更に深めるものを目にしてしまう。

 気付かなかったが神殿の階段状の坂の逆側には大地が裂けたように巨大な亀裂が走っていた。

 少し覗き込んだだけじゃ底は見ない。そして川はこの亀裂に流れ込み滝を形成している。

 はっは、あるじゃないか谷に滝が、山水画として完璧だな。

 川は一旦亀裂の段になっているところに墜ちてそこから亀裂側と逆にある洞窟の中に流れ込んで行っている。

 確か飯田橋付近には大地震を起こす活断層があるとかないとか騒がれていたな。

 白装束に身を纏った少女、厳かな神事、深い亀裂。

 この繋がる三連ワードから最悪の予想が連想されてしまう。

 いよいよもって登るしか無くなる。

 俺は柱に手を掛け命懸けのクライミングを始めるのであった。

 

 

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