私は白装束を纏い、御輿に乗せられ運ばれていく。
これは私の結婚行列。
荘厳な曲に送られ粛々と結婚行列は進む。
これは私の葬送曲。
今日私は人として神に捧げられ、神と婚姻を結ぶ。
覚悟は出来ている。
逃げ出すわけには行かない。
逃げ出せば友達が恩師が優しくしてくれた人達が不幸に呑まれる。
元々いつ神の妻と選ばれてもいいように巫女として修行をさせられ、神との婚姻する意義について教育されていた。
でもそれ以外、恋愛以外は自由に普通に好きにさせて貰っていた。
小学校、中学校、高校と普通に授業を受けて普通に部活をして友達を作って笑っていた。
あの日長老に私が選ばれたと告げられたとき、絶望しなかったと言ったら嘘になる。
でも逃げだそうとは思わなかった。
長年に渡ってしみ込まされた教育があったからか、思った以上にストンと心に落ちた。
でも、それだけで覚悟が決まったわけじゃない。
逃げようと思えば、親しい人達の顔が脳裏に浮かぶ。
これが狙いで長老達は普通の生活をさせて私に情の枷を施したのかも知れない。
でも私にその枷を外すことは出来ない。
私が逃げれば親しい人達全てが失われる。
それは自分が失われるのと等価。
等価なら私は私自身を選ぶ。
思いを馳せている内に御輿は神殿の前に着いたようで一旦動きが止まった。
目を開けて前を見れば神と婚姻を結ぶ天上の舞台まで繋がっている坂がグンと迫り上がって行くのが見える。
前触れとして結婚行列の先にいた人達は先に坂に登っていき、左右に別れ鳥居ごとに並んで控えていく。
全てのは準備が済めば再び私を乗せた御輿は動き出す。
一歩一歩坂道を登っていくのに合わせてシャンシャンと鈴が鳴り、歩む振動が私に伝わる。
この一歩一歩揺すられ鈴鳴に清められ度に私は人としての思いを振り落としていき、神の妻として相応しい乙女に生まれ変わっていかなければならない。
シャン、シャン。
シャン、シャン。
世界が清らかに染められていく。
やがて振動が止まった。
私が捧げられる舞台の門の前に到着したのだ。
御輿は降ろされた。
最後の清めの儀式。
ここからは私の足で意思で神の元へと踏み出さなければならない。
立ち上がる。
自らの意思で神の妻となる。
一歩踏み出せば私は完全に人と決別する。
その第一歩。
その第一歩が踏み出せない。
あれだけ神聖な儀式をしても人としての心を棄てきれない。
怖い。
足が震えて動かない。
反転して逃げ出したい。
誰か助けて。
でも、この一歩を踏み出さなければ全てが失われてしまう。
みんな。
目を瞑り好きな人達の顔を思い浮かべれば心が暖かくなる。
怖いけど踏み出す力が湧いてくる。
私は神の妻となる一歩を人の衣を脱ぎ捨て一歩踏み出した。