戦姫絶唱シンフォギア フロウレスエナジー 作:魚介(改)貧弱卿
「お前、臭いな」
「え?」
一歩踏み出したその直後、出迎えに掛けられたのは明らかに不機嫌そうな言葉
「狂った時間の臭いがプンプンする
まったくゲロ以下だ」
「えぇっ?!」
慌てて服の襟を掴み上げる統慈
しかし残念ながらそれは無意味だ
「お前自身の体臭という意味ではなく、お前の時間がねじ曲がっているのが原因だ
こりゃ随分と酷くやられたな」
「……」
黒い長衣を纏った男は笑う
「だがまぁ、これは馴染みのある臭いだ
俺と同じ臭いだ……つまり、俺のグロウノスが使われているということだ」
話がまったく理解できない統慈は黙り込む
時を切り裂く鎌であるグロウノスは統慈のいた時間軸では確かにフィーネが使用しているので、クロノス神の予測は当たっているが、統慈がそれを知る由もない
「我ら亡き未来に於いて、我らの力が振るわれた……つまり、我らの遺産を奪い用いる者がいるというわけだ、墓守もいなくなるほどの凄惨な未来なのか、それともなんかの所以があったのかは知らんが、あまりにも忌まわしい」
「……」
「おっと、置いて行っちまってたな
悪い悪い、俺のクセなんだよ……
とりあえずお前は俺の力で元いた時空に返してやる、だがそりゃあ『一度切れた縄を結い直す』ようなものなんだ、つまり、どういうことかわかるか?」
「はい、形態や位置にズレが、もっというのなら戻る時代に変動があるという事ですね?」
統慈の答えに満足したのか、明るい表情になるクロノス神
「そう、その通りだ
俺がスッパリ切ってやったものならともかく、そんな悪趣味で適当な状態なものをキレイさっぱり元通りとはいかない
だから戻ると言っても完全に元の場所・時間とはならないが、それでも良いか?」
「はい、それでもです」
「よし、よく言った」
表情をさらに緩めたクロノス神が右手をかざす
その瞬間、右手の中に見覚えのある大鎌が現れた
「お前に縁のある場所と時を探す必要がある、お前が最初に気づいた場所に連れて行け」
「はい」
そうして統慈は都市を出て
外の草原へと向かった
「……」
星の満ちる空は天の彼方まで透明で
草原の視界を遮る物は何もない、故に
「……ほら、聞こえてきた」
彼方から聞こえる音色が届く
〈Gatrandis babel〉
〈ziggurat edenal〉
「まさか」
それは間違いなく、クリスの絶唱
月を穿つ光の槍を食い止めるため
人と世界を守るために歌われた詩
「さぁ、お前も歌え、それがお前の縁となる」
「わかりました……!」
満ちるフォニックゲインに導かれ
何者でもない者が歌い出す
〈Emustolronzen fine el baral zizzl〉
「Emustolronzen fine el baral zizzl」
僅かに逸れた音、しかし続く歌詞の間に同調を済ませて
〈「Gatrandis babel ziggurat edenal」〉
〈「Emustolronzen fineel zizzl」〉
完全にシンクロした絶唱が、時を超えて二人を繋いだ
「行くぞ!」
クロノス神が大きく鎌を振り被り
それと同時に振り下ろす
漆黒の刃は統慈を袈裟懸けに切り裂いて
それと同時に、統慈の姿は掻き消えた
「自分を殺して月への直撃を阻止したか……ハッ無駄な事を……」
どこか投げやりに、放り捨てるように放たれる言葉
それは確かに心に届いたのだろう
誰より優しい少女の逆鱗に
「見た夢も叶えられないとは…とんだグズだな」
そう思い込もうとするかのような言葉
自分に向けたその言葉は
なによりも鋭い刃となって響の心を切り刻み、その目覚めを触発した
「笑ったか……命を燃やして大切な物を守り抜く事を……お前は無駄とせせら笑ったか!!」
激情と共に刀を再び生成した翼が
フィーネに向けて言葉を投げる
それより僅かに早く
フィーネに向けて、響が飛び出していく
全身を漆黒に染めた暴走形態、その禍々しいカタチをとって、
もはやヒトの言葉など無用と言うかのように獣の唸りを上げ、フィーネを殺すために飛び出していく
「立花!」
「もはや人にあらず
それは人の形をした破壊衝動」
響は獣の如く四つん這いになって
牙を剥き出し、翼の静止に応じるそぶりもない
フィーネはASGARDを展開して防ごうとするが、鋭い一撃がバリアを突き破らんと刺さり、ヒビが走っていく
砕ける一瞬の隙にカウンターを入れたフィーネは、しかしその手応えに驚愕しながら退いた
「グロウノスの刃をも通さない
これが神殺兵装の力ということか」
「二課のシステムは完全に制圧されている
でも、二課のそれに同期しないオリジナルのスタンドアローン機なら話が違う
……この時空にも、きっと……あった」
物理的に回線を切り替えて
ブラックアウトしたコンソールを本来の役目から切り離し、違うモノへと繋ぐ
カタカタとキーボードを打つ音は止まり
続いて高らかに一つ鳴った
「メラム-ディンギル、起動」
聖遺物構造体であるカ・ディンギル
その力の根源であるデュランダルから供給されるエネルギーの注入先が変更され
全く違う場所へとエネルギーが急速に散逸する
もう撃たれてしまった一発目はともかく
二発目の発射には相応の時間を稼ぐことができる、そう確信して、その人影は席を立ち
続いて居住区画へと走り出した
「なぁ、手……貸してくれないか」
「わかりました、外に向かうんですね、一緒に上がりますよ」
「あぁ、頼んだ」
闇に閉ざされた地下深く、彼女はその手を取って
共に光差す道へと進む
その頃、シェルターでその様子を見ていた弦十郎達は…
「どうしちゃったの響!元に戻って!」
「もう終わりだよ私たち……学院がメチャメチャになって……響もおかしくなって……」
板場が震えながら呟く
その言葉に反論するために、未来もまた口を開くが、
「終わりじゃない!響だって私達を守る為…」
「あれが私達を守る姿なの!?」
今の響は確かに、ただ暴れ狂う獣にしか見えない、そこに人類を守る戦士としての姿など見えるはずもないのだ……だが、それでも
「私は響を信じる」
未来は強く答えた
たとえ獣にしか見えなくても、誰よりも優しい少女のあり方を信じるが故に
だが
「私だって響を信じたいよ……
この状況を何とかなるって信じたい、でも……でも…でも……もう嫌だよ…!誰か何とかしてよ!怖いよ!死にたくないよ!助けてよ!響!」
希望の光を見失ったヒトの心は余りに脆い
フィーネを吹き飛ばした響はそのまま近くにいた翼に襲い掛かり
翼は咄嗟に防ぐものの刀を折られ
すぐさまに作り直した刃をも折り取られていく
しかし翼もさるもの
折られはしても砕かれはしない
根本から砕けてさえいなければ、アームドギアは何度でも作り直すことができる
翼は絶望的な状況で消耗戦を続けていく
「どうだ?立花響と刃を交えた感想は。お前の望みであったなぁ風鳴翼」
フィーネは翼に向けて馬鹿にした様に言い放った
そして奇妙な光と共に顔の傷が再生していく
「人の在り方すら捨て去ったか…!」
「私と1つになったネフシュタンの鎧の再生能力だ、面白かろう?」
完全に再生を終えたフィーネが笑い
それと同時にカ・ディンギルの二発目を指示する
翼が動き出したカ・ディンギルを見上げて
「そう驚くな、カ・ディンギルが最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品
必要がある限り何発でも撃ち放てる、その為にエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。
それは尽きる事の無い無限の心臓なのだ」
腕を上げるフィーネ
今まさしく撃ち放たれようとしている二本目の光の槍
しかし
「何故だ!?」
急速にカ・ディンギルの光が失われていく
「まさか、デュランダルが!しかし炉心に立ち入ることなど出来るはずがない!」
「立花!」
動転して狼狽えたフィーネの隙をついて響の元へと飛び込む翼
「立花、私はカ・ディンギルを止める
だから」
しかし、言葉はただ響を猛らせるのみ
翼に響の腕が突き刺さり
胸元から血が湧き溢れる
そして翼は響を抱きしめた
「これは、束ねて繋がる力の筈だろう……
奏から受け継いだ力を、こんな事に使わないでくれ……」
影縫い
非殺の刃が閃き、響の影を縫い止め
そして響の暴走は徐々に収まっていく
「待たせたな」
翼はフィーネを見つめ
「何処までも剣と行くか…」
フィーネは鞭を構える
「今日に折れて死んでも、明日に人として歌う為に、風鳴翼が歌うのは……戦場ばかりでないと知れッ!」
「人の世界が剣を受け入れる事などありはしない!」
翼の心からの言葉を、フィーネが否定した
それと同時に、翼は決意する
大恩ある櫻井了子はもはや亡く、ここにいるのは過去の亡霊であり
それを殺さねばならないと
フィーネの鞭を刀身で防ぎ
そのまま振り抜いての一撃
当たり前のように再生していくのを尻目に天ノ逆鱗を発動、巨大な両刃剣が生成され
「ぐぁぁぁっ!」
その質量で以って再生能力を上回らんとする
しかし、相手は完全聖遺物
所詮欠片にすぎないシンフォギアの力で真っ向から上回るなど夢のまた夢
それが、本当にただそれだけの行動であるのなら
「フッ!」
炎鳥極翔斬、両手に展開した剣をブースターに変え、翼はそのまま空へと飛び立つ
「狙いは最初からカ・ディンギルか!」
剣に潰されながらフィーネは翼に鞭を振るい、伸長した鞭が翼に追いつき、その肩を貫いた
「やはり、私では……」
走馬灯にも似た記憶が迸るなか
口をついた弱音
だが、
「私は……負けられない!
もう二度と!失いたくないからッ!」
炎は蒼く、なによりも熱く
失われた左翼剣などものともせずに
片翼のまま、再び飛んで見せた
「立花ァァァァッ!」
カ・ディンギルに溜め込まれていたエネルギーは丸ごと吸い尽くされて底を尽いており
爆発するのは翼の握った剣だけ
しかし事前にシャフトを削られ、大きく弱っていたカ・ディンギルはそのまま根本から折れ、倒壊するのだった
「翼さん…」
「ぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
積年の努力の結晶たる必勝の策
巨大な荷電粒子砲、カ・ディンギルが破られた、その事実に絶叫するフィーネ
「ええい!何処までも忌々しい!月の破壊は!バラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす、惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、そして聖遺物の力を振るう私の下へ帰順する筈だった!痛みだけが人の心を繋ぐ絆!たった一つの真実なのに!それを…それをお前らは!!」
だが、フィーネは怒りはすれど
絶望はしない
すでに過ぎ去った過去を書き換える力
時の大鎌を手にするが故に
「ぁぁああぁぁっ!」
時を斬る大鎌が、絶叫と共に振り抜かれた