戦姫絶唱シンフォギア フロウレスエナジー   作:魚介(改)貧弱卿

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第51話 二期6話

「……」

 

マリアの目線は遥か眼下、水面に集中していた

 

それでもなお、反射よりも早く攻撃が飛来する

時限式とはいえ正真正銘のシンフォギアの防御性能を、身体強化を上回るほどの勢いで

雷の如く金光を放ちながら飛来したそれは、獅子の幻影を崩しながら突撃してくる

 

「くっ!」

 

マリアはなんとかそれを槍で防ぐが、槍を大きく弾かれて姿勢を崩してしまう

そこに突き立てられる獣の牙

 

「おっと」

 

白衣の女が軽く戯ける様な声で

迫る牙(橙黄の両腕)を捥ぎ取り吹き飛ばした

 

「E nes hec ele!el-maria!」

 

炎で形成された牙が千の火の粉と化して散り

同時に再び飛来するそれ

今度は幻影ではなく実像だ

 

「甘いッ!」

 

マリアがギアの出力を強引に引き上げ、そのまま槍を振り払って統慈を打つ

しかし槍は確かに当たったにも関わらず、統慈は構いもせずに突撃

半身を大きく切り裂かれながらも

マリアの首に手を伸ばし、そのまま細く白い首を締める

 

「あっぐぅぁ……」

 

ミキミキという音と共に筋肉をしめあげ

喉の筋肉と首の血管を拘束することで歌を封じ、同時に呼吸と血流を阻害することで殺しにかかる統慈

 

「あーあー何やってんのさ」

 

一撃、ただそれだけ

統慈の肉体を吹き飛ばすにはそれだけで十分に事足りる

 

「ばーか」

 

パン、パン、パンと軽い音と共に銃弾が放たれ、海へと落下した統慈へ撃ち込まれる

左脇腹から腰元まで斜めに切り開かれた腹の傷に、さらに各所を貫く銃創

激しい出血・体温の低下・衝撃のダメージ

海水を媒介とした雑菌の感染

数え上げればキリがないほどの死因を抱えたまま、統慈は海へと落下する

 

「重りを抱えて溺死しな」

 

にやけた笑いを一度も崩さないまま

女はよろめくマリアと共に姿を消した

 


 

海の底へと沈む

意識は断絶し、記憶は欠落し

肉体は崩壊し、形象を喪失し

それでもなお在り方を変えず

 

「…………」

 

記憶の果て、千万の記憶の底

かつて見た星と夜空よりも暗く

それは深海の虚を覗いた

 

(来れ)

 

 

深海の遥か底、物理距離にして海面から8000メートル

海溝のうちに沈められた古き()()()()()

 

 

(握れ)

 

天空・冥界と並ぶ世界の秘境

宇宙すら見晴らす人類の到達できる限界を超えた深淵の極限環境の中に、それはあった

 

《振るえ》

 

三神のうち、最も影響力の低い神

人に近づかず、人に依らず

己の世界を支配する海の神

唯一無二の独立神格ポセイドンの神器、三叉の大矛《トライデント》

 

数千万の粒子にまで分解されて、完全に原型を喪失しながらも機能をそのままに保っていた矛は漂う手に握られた

 

 

 

投擲、瞬時に再構築された矛が放たれた

海水を支配するその矛が生み出した激流が海の底から水面を貫き、空中へと飛翔して

遥か空の彼方へと飛ぶ

 

 

「うぉっと!……やるじゃん」

 

ネタネタと笑いながら大きく片足を上げることで刺突の軌跡を回避した女は、白衣に穴を開けながらもその肉体に傷一つ残さず

逆にマリアは翻る白衣に遮られ、直前までその攻撃に気づくことなく

シンフォギアの防御を貫通した矛がその脇腹を貫通する

 

「あっ……まいっか」

 

昏倒したマリアを雑に拾い上げた女が

不平不満を吐きながら引きずってヘリの奥へ隠し、そのままヘリは透明になって消えた

 


 

「バカ野郎ッ!」

 

戦闘不能状態で落下していく統慈を追跡し

クリスが海へと飛び込む

響はマリア達の飛び去った跡を睨みつけながら棒立ちになっているため

自分がやるしかないと判断したからだ

 

シンフォギアの機能の一つには

装着者の身体保護が存在する

それは高山や低地といった一般環境だけではなく、湿地のぬめりやアイスバーンの滑り、砂漠の灼熱などといった特殊な環境からも使用者を保護する

無論、深海という特殊環境も

 

「クソッ!海にジャンプなんてしたら落ちるのが普通だろうがバカ!」

 

どれだけ怒鳴り散らしても、シンフォギアが解除されない限りに於いては

水圧も無酸素も問題はない

 

「あの野郎どこ行きやがった!」

 

必死に視界を確保しながら突き進み

統慈が沈んだと思われるエリアへと到着する

 

「おい起きろバカッ!」

 

海流に流されるというほどに時間が経ってはいないが、着水地点から大きく離れた場所で拾われた統慈

海面からの深度は約40メートル、耐圧装備も無しに潜るには深すぎる

 

しかし、統慈に傷は何一つなく

深深度の水圧に曝されたことによる影響も見られない、それどころかシンフォギアの機能による防御を受ける保護圏に入ったとたんに意識を取り戻した

 

「戦況はどうなってる?!」

「はぁ!?テメェ自分の状態くらい弁えやがれ!」

 

「そんな事に構わなくていい

俺よりもまずは敵を見ろッ!」

 

叱責するような声とともに水面への離脱を試みる統慈、しかし所有する擬似聖遺物のうち2つは水中という環境にまるで向いていない

 

空中機動ならまだしも、水中という抵抗の大きいフィールドにおいては

メビウスの腕輪は出した炎をすぐさまに消されて単なる飾りと化してしまう上、獅子の指輪は推進に関する機能を持ち合わせず、レーギャルンを解放しようにも至近距離にクリスがいるという状況では不可能

普通に泳ぐ他にない

 

「くっ!」

 

水圧の厳しい深深度からの急速浮上は圧力の急変動の影響を免れ得ず

人体には非常に危険な行動となる

見かねたクリスはシンフォギアの保護圏に統慈を入れたままゆっくりと浮上する

 

「もう連中は行っちまったよ、それよりお前の方が危ねえんだからもうじっとしとけ」

 

「……不甲斐ない」

 

回収後に多種多様な機械による精密検査を受けるものの、全く何一つとして異常と思われる数値は観測されず、直前に腕を捥がれた幻像の存在もあって結局見過ごされることとなったのだった




ゲスト聖遺物は遥か衛星軌道へと飛んで行きました
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