戦姫絶唱シンフォギア フロウレスエナジー   作:魚介(改)貧弱卿

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第53話 二期8話

文化祭当日の朝

旋音はパンを咥えて走る……ような真似はせず、優雅に歩いていた

(故)フィーネ氏に教え込まれた仕草は気品ある良家の子女として不足なく

本人の昔からの気質は慎重かつ冷静であった

 

「おはようございます」

「おはようございます」

 

校庭にいた生徒へ笑顔での挨拶

お互いに制服でなければどこぞのお嬢様のお茶会のようで

看板やら骨組みパイプの仮設テントやらが目立つ校庭でさえなければ写真に切り取られても輝くような見事な立ち姿であった

 

「……はぁ……」

 

秋桜祭は文化祭というだけあって

『文化』を奉る催事、祭りの花でもある出店屋台やステージでの演劇や

リディアン最大の学科であるところの音楽を最大限に主張する一大イベント『勝ち抜き歌合戦』が体育館や講堂で開催される

 

その中でもやはり目を引くのは『勝ち抜き歌合戦』だろう

勝ち抜きというだけあってトーナメント形式である他に、飛び入り参加枠という意味不明な存在まで出張ってくる

統慈はそんなことは知らないのだが、『何故か』旋音がクラス代表という事になってしまったがためにこの歌合戦には強制参加となってしまっている

 

旋音の現実逃避はその憂鬱が原因であった

 

「はぁ……」

 

深いため息、相変わらず写りは良いが

その憂いは写らない

 

ため息ばかりついていても仕方がない

意識を切り替えた旋音は教室へと辿り着いて即座に荷物を下ろし

最終調整のために講堂へと向かう

 

「……いつ見てもこれは……」

 

旋音のために用意された『楽器』

パソコンのようなキーボードに鍵盤、さらにフットペダル多数

背部には大きなアンプスピーカーが配されるそれ

一見すれば座席付きのゲーミングPCだが、あくまでも楽器を自称するだけある

そのキーボードは効果音と弦楽器、フットペダルは打楽器、鍵盤はそのままオルガンに対応し、それぞれに合成音を奏でるシンセサイザー

 

いやどちらかと言うと

単身楽団(ワンマンオーケストラ)……」

 

神曲奏界ポリフォニカに親しんだ人ならば基礎的知識として押さえているであろうアイテム、『単独個人による楽団規模の演奏』という矛盾を実現するために楽士達が用いるそれである

 

「なんで私がこんなものを使う事になっているの……」

 

「アタシが頑張ったから!」

「お姉さまが、でしょ!」

 

クラスメイトAこと詠奈の姉が電子楽器関連を手がける人であったらしく

このリディアンの卒業生でもあったという

リディアン自体がお嬢様学校である点あるが、その他にも何人もの父兄や友人がゾッとするほどにたやすく投資してきたり、その道の方が手を貸してくれたりと調子よく進み、最初は普通の電子オルガンであったはずの使用楽器は見事なワープ進化を遂げていたのだった

 

「徐々に進化していくオルガンなんて見たくありませんでしたわ」

「そりゃ調整とか増築とかあるしねー

……まぁちょっとキモい配線とかあったけど」

 

座席に腰掛けてゆっくりと正面を向く

練習はしっかりと積んできた

今回は単なる最終確認に過ぎない

前日までで調整は完璧に済ませている

 

「行きます」

 

次の瞬間、旋音の両手両足が全く異なる動きを見せる

pc画面のキーボードを叩く左手、オルガン鍵盤上へと飛ぶ右手

ペダル8つの中の2つを即座に踏み込む両足

どう文章化されても意味のわからない絵にさらに歌が加わる

 

「生演奏にこだわる意味はなかったのでは……?」

「録音じゃアジがね……だからってこうなるとは思わなかったけど」

 

蜘蛛の足の如き異形の指でも持っているかのような長距離の正確な移動を容易く成し遂げ

高速で次々にキーを押していく

風刺画のショパンもかくやというような動きで五指を繰る旋音の演奏は短く終わり

単身楽団(シンセ)がスリープモードに戻る

 

「よし、準備良しです」

「おーし、じゃあこのまま本番だね」

「午前中は出店の方ですわ、私達も店員さんをやるのですから」

 

詩歌と詠奈の二人と一緒に校庭の方へと戻る

出店のテントは校門に程近く、校舎からもさほど離れていない良立地

本日の天候は快晴、冷えたジュースはテントのクーラーボックスに用意済み

 

そちらの最終確認を行なっているクラスメイト達と合流した後、皆は開会式へと向かった

 

「えー……本日は……」

 

うんたらかんたらと長い話を聞き流しながら、統慈の脳内に巡るのはフィーネと名乗ったマリアの事

 

(流石に単一戦力(シンフォギア)、それも時限式という爆弾を抱えたものが武装蜂起などできるだろうか?

シンフォギアを出ずっぱりにするくらいは通常戦力でも出来るだろうし

米軍を動員されたら時間切れまで粘られて終わりになるだろうことは明らかだ

その事実をさらに上回るような切り札が、最低でもある

ネフィリムは戦力に数えていいだろうが、現状のネフィリムの制圧能力はそう高くは無い

まとめて捻り潰されて終わりだろう

まさか……)

 

「……予備戦力がある?」

 

「ん?どうした?」

 

ふと口をついた呟きに反応したのは隣にいたクラスメイト

旋音は軽く首を振って黙殺し

話に集中するフリに戻る

 

(予備戦力があるとすればそれはあの緑とピンクシンフォギアだけとは思えない

継戦能力の高い機械的武装最低1、完全に状況を傾けるほどの高い殲滅能力を持った武装

核爆弾……?

いや流石にそれは国家非常事態、アメリカの体裁にも関わる事になるだろう

では聖遺物か?

ネフィリムはコスパの悪い『聖遺物を喰う聖遺物』、欠片ならまだしも完全聖遺物級のそれを用意するほどならネフィリムを先にお払い箱にしているだろう)

 

統慈の思考は校長の余りにも長い話で生徒達が貧血を起こしてしまうまで続いた

 


 

「アイツらの『ギアペンダント』

それを奪う……!」

 

一方、その頃緑とピンクの二人組はこのリディアンで行なわれる祭事に潜入していた

 

「拠点を放棄したせいで私たちの用意していたエサはほとんど全滅してしまった

だから、ネフィリムのエサとなる聖遺物を確保しなきゃいけない」

「デース」

 

狙いはクリスと翼の持つギアペンダントだ

しかし、都合の悪い事に

このイベントは統慈にとって既知

なぜと問うならそれは業

そも暁切歌という少女は、統慈のかつての親友の『推し』であったのだ

『ほっそりとしたふとももに縞ニーソがよく映える』だの、『金髪片言ルー語で高音聖詠が耳に残る』だの、『肩アーマーと帽子のブラックマジシャン味が俺に効く』だのと殊に詳細に語ってくれたせいである

 

「貴方達、迷子かしら?」

 

以前のライブ事件で顔が割れている二人

旋音がそれに接触するのも当然と言えた

 

「え?イヤ全然大丈夫デスよ!」

「……切ちゃん慌てすぎ」

 

「そう、私はしばらく余裕があるから

誰かと一緒に回るのも良いと思っていたのだけれど、案外に見つからないものね

これ、私のクラスで出している出店のジュースなの、差し上げるわ」

 

旋音は二人に(出店で押しつけられた)ボトルジュースを押しつけようとするが、二人はそれを渋る

 

「デモ知らないヒトからお菓子を貰っちゃダメってマリアが……」

「そう言っていたの」

 

「……そう?でもお菓子じゃなくてジュースだから大丈夫よ、もし怒られたら私が謝ってあげるわ」

 

「どうしてそこまで?」

 

じっと見つめてくる調に対して

旋音は笑顔で返す

 

「だって貴方達、出店の方を見ているのに何か買おうとするそぶりがないのだもの

それではこの祭日を楽しめた、とは言えないのではないかしら?」

「……別にお金を使わなくても、お祭りを楽しむ事はできる」

 

「出来るわね、でもね、祭りの空気はただ見てるだけじゃ味わえない

形に残って初めてそれは思い出になる

私はそう考えているの、ジュースは飲んでしまえば残らないけれど

貴方達の中にはその記憶が強く残ると思うわ」

 

「……そう」

 

言葉少なく見つめてくる調と

調の後ろからこちらを窺う切歌

旋音の目に映る二人の表情は薄く、その意味はわからない

 

「まぁ言えば私の自己満足よ

私が気分良く過ごすための、ね」

「……偽善者」

 

「そう、私は偽善者よ?だって誰にも『善き』事の基準なんて示せないから

真のそれ無きままに己の善を行うというのなら、それら全ては偽善であり、そう呼ばれるべき」

 

「……」

 

「ミッションスクールの生徒は口喧嘩でそう簡単には負けないのよ、()()()

それじゃあさようなら」

 

むくれる切歌と黙り込んだ調にジュースを見事に押しつけた旋音はそのまま背を向けて立ち去った

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