戦姫絶唱シンフォギア フロウレスエナジー 作:魚介(改)貧弱卿
「……緊張した……」
死にそうな声と共に息を大きく吐いて、そっと目蓋を押さえる旋音は
そのまま控室の方へと戻るのではなく
後ろに続くクリスを見守ることにした。
すっとひとつ、息を吸って
クリスへと目を向ける
じっと見据えたその先で、制服姿のクリスが歌い始めた。
「……………」
無言で見つめるその姿、彼女の揺れる髪と背中
その彼方に見えるのはかつての記憶、闘いあったあの日からの彼女の新しい記憶。
「…………」
『私の帰る場所』とはよく言ったものだ。
「彼女にとって、ここが帰るべき住処、と言うことね」
深呼吸して、湧き出す涙を押さえ込み
帰ってきたクリスを迎える。
「お疲れ様でした」
「おう、ちゃんと聴いたか?」
「はい、もちろんです」
言葉はそれだけ、それだけを言って
旋音とクリスは共にステージ裏へと帰る
そしてそれをラストにイベントは終了した。
「正直勝てるかどうか自信がないデス」
「大丈夫、すぐわかるから」
切歌も観客席でボヤくように、今年の歌合戦参加者は全体的にハイレベル
切歌と調のデュエットも例年ならば優勝を狙えたかもしれないが
今年に限っては分が悪い。
「この勝負、結局勝てるだろうか?」
「そりゃあ……結果は人それぞれだろうし、なぁ」
一方勝負を受けた側の翼とクリスの二人は泰然としている、単純な人数で言えば2対3以上、出場枠も向こうが2人一枠に対して二人で分けている以上は勝率も単純に高い、
そもそもに於いてプロフェッショナルである翼がそう簡単に負けるとは考えられない。
それにギアペンダントだけを持っていかれたとしても実戦レベルで適合する使用者などそういない、
イチイバル・ギアに至っては70億人の人類の中で使用可能な適合者がクリス以外にいないことがフィーネによって明らかになっている
つまり逆利用される可能性はゼロに等しいと言うことだ。
ここでギアペンダントを失ってもシンフォギア2つという損失は大きいが
あくまでシンフォギアのペンダント2つを渡すだけであり、それらも敵が何ぞする前に奪い返せば良いと言うだけである以上、実質的にこの賭けで失うものはないと言っても過言ではない。
「それでは、優勝者を発表します!」
歌合戦最終戦の決着、順位発表
そこで選ばれたのは。
「雪音クリスさんでーす!」
「あ、アタシ?!」
ドン!という派手な音とともに優勝者が発表される
それはまぁ予見されていた通りに旋音の隣にいたクリスその人で
それと同時に調と切歌はそそくさと逃げ去っていく、おそらく自分たちのギアペンダントを取られないようにするためであろう。
「さぁ、どうぞ表彰台へ」
「お……おう」
旋音の言葉に背を押されてようやくステージへと出るクリスに、金箔のメッキされたメダルが掛けられる
その光景を尻目に、旋音は静かに会場を離れて……。
「負けちゃったデース……」
「あら?貴女達……さっきの歌合戦に出ていたわよね?」
全く無関係な人物を装って二人に接触する
強引な手ではあるが同時に有効な引き留めでもある。
「あ……」
二人は同時にこちらに顔を向けて、切歌は間抜け面を晒し
それとは対照的に調はキッとこちらを睨み付けてくる。
「偽善者……!」
「人呼んで偽善のお姉さんとは私のこと」
「お姉さんなんて呼ばないデス」
お嬢様らしく少しだけ上体を反らして胸を張りながら片手を胸上に当てるポーズでウィンク、格好をつけながら微笑む旋音
なおあまり格好は付いていない。
「さて、なにかお悩みのことでもあるかしら?
随分と思い詰めた顔をしていたけれど」
「あなたに話す事なんてない
……行こう、切ちゃん」
引き留めを試みた旋音だが、調がさっさと切歌を引っ張っていってしまう
流石に実力行使で止めるわけにもいかず、それ以上に興味を引くことができないと判断した旋音は諦めて位置情報をエージェントに流すにとどめる事にした。
「クリスちゃーん!!」
ようやくみんなから解放されたクリスが疲れた顔で人混みから抜け出して来た
ところに突撃してきた響(鬼)が襲いかかる。
「てめぇ何しに来やがった」
「お祝いッ!」
「諦めろ……」
こうなった時の響の突進力は異常である
翼はそれを既に悟っていた。
「ついに本国の追手に捕捉されてしまった……」
ナスターシャの呟きは重い
もとより帰るべき場所などないといえど、FISは米国組織
その面子にかけて追手は差し向けられる
今回はウェルとオーダーの働きによって撃退したが、次もそうなるとは限らない
そもそも重要な頭脳である二人を矢面に立たせるのは憚られる事だ。
「マム!ただいまデース!」
「……」
それよりも
「二人とも、どこにいっていたのですか」
どうやらまずはお叱りの時間のようだ。