灰の降る世界   作:Humanity

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1 : 爺のパーティ

—Vault 76—

Vault tec社によるアメリカ再建計画に基づいた核シェルターで、核戦争—後の最終戦争—に向けたものである。核により破壊されたアメリカ再建の、最後の希望として。

 

2102年。

予定された年から6年が経過してしまったが、やることは変わらぬものだ。だが、これだけは忘れてはならない。

 

このシェルターの中の誰もが

その胸に刻みつける言葉。

 

—『人は、過ちを繰り返す。(“War never changes.”)』—

 

 

...

 

 

ある爺はVault内最老年と呼ばれているが彼自身は実に若々しい。

 

またその白髪オールバックの頭にあることは一つだけ。あの硬い扉の外のこと。

彼の生まれ故郷、懐かしきウェストヴァージニアの景色だけである。

 

—10月26日—

 

Vault 76解放前夜のシェルター内はお祭り騒ぎである。住民の多くは明日から始まるウェストヴァージニアの再建に向けて旅のバディを探すラストチャンスとしてまたさらに盛り上がりを見せる。件の爺もまた例に漏れない。否、彼は誘うのでなく誘われラッシュである。

 

 

「すいません!どうか私のパーティに参加いただけないでしょうか?」

 

「あぁ!アダム爺さん、バディはもう決まりましたか?いやきっと貴方ならすぐに決まってしまうでしょう...えぇっ?!まだ、ですか?それではどうかわたくしと...」

 

「爺さん、ウェストヴァージニア生まれなんだそうだな。よかったら俺らと...」

 

 

「ハッハッハッハ、いやはや人気者とは困ったもんだな。落ち着いてシャンパンも飲めないじゃないか...いや、この爺は少し待ってもらえないかな?あぁ、いやいやミス.クリプトン何も嫌というわけじゃなくだがな。ただちょっとあそこのクラッカーが食べにいきたいだけなんだ。だからみんな、どうかこの爺にクラッカーを食べさせてくれないか?」

 

 

あまりにも適当な理由づけをしつつ群衆から駆け足で逃げ出すこの老人こそがその爺である。

 

 

Vaultで過ごした長い時間のなかで早朝から起き、ランニングと称してvault内を徘徊して回っていたこの爺に、シェルター76の構造において勝る者などあの群衆には居ない。彼が探すバディとはまさに「vault 76の住民」だけなのである。

 

 

 

 

「ハッハッハッハ、まさかこれだけで一人も追手がいないとは。若いモンは詰めが甘いんじゃぁないか?ハッハー!」

 

 

 

 

この元気さはとても彼がこのシェルター内で最年長とは思えないであろう。駆け足ながら手に持つシャンパンは溢さず、クラッカーにヒビひとつ入れることのない細やかな姿勢制御と力の加減は年の功というべきか。

 

また、彼はただ逃げているようでそうではないというのも驚くべきことである。彼が目指すのはシェルター最深部の原子力発電施設...などではなく、パーティ会場である大広間のすぐ脇にある会議室兼講義室である。わざわざパーティ会場から出て曲がりくねりながらシェルター深部まで走り抜け、その上で人がまばらとなった大広間の端を足音一つ立てずに駆け、講義室に入ったのだ。

 

そこまでして講義室に入った理由、それは彼のバディにある。先程触れたように、彼の探すバディとは「vault 76の住民」でありあの群衆ではないのだ。

 

 

 

講義室に入った彼は感嘆の声を上げる。

 

「おぉ、きっと君たちならここだと思ったんだよ諸君...」

 

 

 

目の前にいるのは男性2人に女性1人と広間の群衆とは比べものにならない少なさであるが、彼らこそが爺の組みたい最高のパーティメンバーなのである。

 

 

「ミス.アリサカにスチュワート君にミスター.スズキ。君たちこそがおれの最高の仲間なんだ。どうか頼まれてくれないだろうか。」

 

「もちろんですよ、ミスター.ブラッドリー。私を受け入れてくれる方なんて貴方しかいないのです。こちらこそ宜しくお願いします。」

そう答えたのは車椅子に座った女性、25歳の有坂 奈々美である。

 

「えぇ、言われずともそうするつもりでしたよ。アダム先生。」

爺を先生と仰ぐこの青年はパーティ最年少24歳の鈴木 勇人。彼は親がなく、有坂が姉代わりだった。

 

「あぁ、あぁ!ありがとうなぁみんな。君は...来るだろう?スチュワート君。」

 

「なぜ俺はそういう台詞なしに確定事項扱いなんですかね。」

天然パーマに丸い形の頭、中年太りの否めない58歳。ウィディーム・スチュワート。

 

 

彼らの繋がりはvault内で爺—アダム・ブラッドリー—が開いていた講義にある。その名も...『寺子屋(TERAKOYA)』である。もちろんながら公式の講義ではない。しかし想定よりもあまりに幼年の入植者が多く、扉の開くまで教育の一つもないのは問題であるとしたアダムの提案により発足したシェルター内教育施設それが『寺子屋(TERAKOYA)』なのだ。

 

 

 

名付けは勿論この爺。日本好きなのだ。

 

 

 

彼らの関係はというとスチュワートはそんなアダムの講義アシスタントを務めた。有坂と鈴木は言わずもがな、その生徒であり先述した通り仮の姉と弟である。

 

 

「ハッハッハまぁまぁ、いいじゃないかスチュワート君。おれからはそれだけ信頼されているという事さ。」

 

 

 

よく笑うのはこの老人の特徴である。

 

 

 

「『おれからは』って...みんな信頼してたよなぁ?なぁ?」

 

「「えぇ、もちろんですスチュワートさん。良きアシスタントとして。」」

 

「あぁ、ハハ。そうさスチュワート君。」

 

「は、ハハ...ははは...ありがとう......あはははは」

 

ナニカを察し、ナニカを失ったスチュワートは1人笑う。

 

「まぁ何はともあれだよ諸君。明日から大変だ。今日はゆっくりと休もうじゃないか。荷物を纏めて本を読んでよく眠るのさ。あしたの解錠セレモニーでまた会おう。じゃあおやすみ!諸君!」

 

「「おやすみなさい。」また明日ですね先生。」

 

「あはは、はは、......おやすみ」

 

 

元気にそして半ば逃げるように去っていった爺をスチュワートは追わず、また声をも掛けない。ただため息をつくのみである。

 

 

「...寝ようか、姉さん。」

 

「えぇ...そうしましょう。スチュワートさんも早くお休みになってくださいね。また明日からよろしくお願いします。」

 

「...ッ! あっあぁそうだな。そうさせて貰おう。そうだねまた明日から頑張らないとならないね。おやすみなさい2人とも。」

 

車椅子を押しつつ振り返って微笑むハヤトと、また優しい微笑みをして手を振るアリサカ。そんな2人を見て何か心が洗われるスチュワートであった。

 

あしたの朝は早い。

 

 

 

 

 




今更ながらFallout 76です。
ベセスダさんには頑張って欲しいなぁという届かない想いを胸に、まったりと進んでゆきます。

誤字報告、感想などお待ちしてます。


—2019.11.17: 冒頭を加筆—
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